介護保険制度改正 訪問介護を中心に(その1)

 

 

 来年4月、改正介護保険法と介護報酬改定の施行が予定されています。

 コロナによる影響を勘案した報酬の改正も順次届いていますが、全体としてはどのような改正になるのでしょう。

 今回は訪問介護事業を中心に注目すべきポイントについて解説します。

 

「重度化防止」と「効率化」が明確に

 

 さて、これまで社会福祉審議会介護保険部会でどのような議論されてきたのでしょうか。

 同会は令和元年12月27日に「介護保険制度の見直しに関する意見 (案) 」を発表しています。

 

 先に大きな方向性を述べてしまうと、

  • 介護予防と総合事業を推進させ、重度化を防ぎたい(社会保障費の抑制)。
  • その際、主役は保険者である区市町村であり、医療連携も含めて、保険者強化を進めていきたい。
  • 人材不足にはできれば効率化で対抗したい(単純な人員増加は難しい予測)。

 

 このような意向が強く出ているように思われます。

 

 しかし、そうした方向性のコンセンサスはあるにしても、現状の実施体制では未熟な部分が多く、ケアプランの有料化や要介護1・2の総合事業への移行などは見送られています。

 また、各保険者に対しては、国や都道府県が支援をしながら理想の方向に向かっていきたいという意向でしょう。

 そのため、今改正は、基本的にはこれまでの流れを踏襲しつつ、経過的な改定内容となっています。おそらくは、コロナ禍において大きな改定は、現場や自治体の負担が大きいことも配慮されているかもしれません。

 

 ただし、今回の議論の内容が今後の介護保険制度の方向性を示していますから、介護事業者にとって内容をチェックしておくことは大変重要です。特に訪問介護事業者にとって要支援のサービスがどうなるのかは注目しなければなりません。

 収益性の低さから、現状で総合事業から撤退している事業者もあります。現状の自治体やボランティア任せの介護予防ではとても持ちません。

 ビジネスとして介護予防をどう成り立たせるかが、今後の大きな課題であることが、浮かび上がっていると言って良いでしょう。

 

 

今回は保険者の機能強化がメインか

 

 そうした状況を踏まえて議論の内容を見ていきましょう。

 

 まず、初めに「地域共生社会の実現」というテーマが議論されています。

 「地域共生社会」とは、高齢者介護、障害福祉、児童福祉 、生活困窮者支援などの制度・分野の枠や、「支える側」、「支えられる側」という従来の関係を超えて、人と人、人と社会がつながり、助け合いながら暮らしていくことのできる社会です。介護保険制度の前提となる日本の福祉社会の方向性になります。

 

 社会保障審議会 介護保険部会(第90回)令和2年2月21日「<参考:介護保険制度改正の全体像> (検討結果をまとめた全体のイメージ)

 

 続いて、「介護保険制度の見直しに関する意見 (案)」の目次から見いだされる大きな項目は以下の通りになります。

 

Ⅰ 介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)

Ⅱ 保険者機能の強化

Ⅲ 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)

Ⅳ 認知症施策の総合的な推進

Ⅴ 持続可能な制度の構築・介護現場の革新

Ⅵ その他の課題

 

 それぞれについてポイントをピックアップしてみます。

 

Ⅰ 介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)

 

「通いの場」についいて集中的に議論されています。

◎住民主体の通いの場の一層推進

◎通いの場に医療等専門職の関与(生活習慣病の重症化予防)

◎参加しない高齢者の把握と支援

 

 デイサービスとは異なり、地域の高齢者が日々積極的に集う場を地域の中に作り、運動や生きがいづくり、健康管理を行う取り組みですが、各保険者の創意工夫が求められます。

 

 その他、以下のような論点が示されています。

◎ボランティアのポイント付与、有償ボランティアの推進、企業との連携

◎家族や現役世代が予防的な意識を持てるような周知広報の強化

◎総合事業の対象者が介護保険の給付が受けられることを前提としつつ、弾力化を行う

◎国がサービス価格の上限を定める仕組みについて、市町村が創意工夫を発揮できるようにするため、弾力化を行う。

◎高齢者が何らかの支援が必要な状態になったとしても就労的活動に参加

◎ケアプランにインフォーマルサービス推進

◎ケアマネジャーの処遇の改善と質の確保

◎ケアマネジャーの事務負担軽減

◎地域包括支援センターの積極的な体制強化等を行う市町村について、保険者機能強化推進交付金等によりその取組を後押し。

 

 これらの施策は基本的には保険者の努力や工夫が必要な分野です。その意味で、保険者の機能強化が重要ということになります。

 

 

Ⅱ 保険者機能の強化

 

 先に述べました通り、介護予防を保険者の責任として実施していく意味で、その強化が大きな課題です。

 また、保険者同士を競争させ、成績の良い自治体には予算を増額し、ベストプラクティス(良い取り組み)を全国に広めていくことを目論んでいます。

 

 ポイントは以下の通りです。

◎保険者機能強化推進交付金において取組評価

◎保険者機能強化推進交付金予算増額

◎評価指標、判断基準を明確化。

◎取組が遅れている市町村にペナルティーを与えるのではなく、都道府県による適切な支援。

◎要介護認定率などのアウトカム評価の方法確立

◎保険者の取組の達成状況の「見える化」推進

◎関連のデータ収集と事業者等負担軽減

 

次回に続く

 

なぜ都会にはタワマンばかりできて福祉施設ができないのか?

 前回、23区内の要介護者や障害者が在宅スタッフの不足で、郊外に引っ越さなければならないという現実を書きました。

 こうした引っ越しを余儀なくされる人たちは多くが重度の人や、一人暮らしが難しい方々ですが、それならば都会にグループホームや特養がもっとあれば問題は無いと考えるでしょう。

 しかし、ご存知のように、都会にはそうした施設はなかなか建設できません。自治体の説明は「土地が無いので」という理由ですが、本当にそうなのでしょうか?

 

 なぜなら、都会では更地があるとだいたいマンションかアパートになっているように思われます。グループホームや小規模特養が建設可能な空き地でも、一般向けの集合住宅ができることが多いようです。

 昨今は都会でも空き家が増え、そうした空き家の土地の再開発に積極的なデベロッパーの動きも目立ちます。

 広い開発用地がある場合は、タワーマンションは乱立しますが、福祉施設は行政が介入しなければほとんど建設できないように思われます。

 

銀行や不動産事業者は福祉施設を作りたがらない

 

 土地を持っている人がその活用を相談するのは、まず、不動産事業者や銀行になるでしょう。実はこの時点で特養などの福祉施設の可能性は無くなります。

 その理由は以下の通りです。

 

  • 銀行は建設補助金が出ると困る

 福祉施設の建設には行政から補助金が出される場合があります。しかし、銀行は建築費の融資利息で稼ぎたいわけですから、行政から補助金を貰って建物を建ててもらっては困るのです。稼ぎが無くなります。

 また、土地を担保に建築費を融資できるお客さんは非常に優良なお客さんであり、取りっぱぐれが無いわけですから、下にも置かないもてなしで、囲い込もうとします。

 

  • 不動産業者は手数料の取れない物件は建てない

 不動産業者の儲けは、建築費や仲介、販売手数料などです。

 入居系の福祉施設の場合、そうした手数料を取ることはできません。有料老人ホームについては儲けがあるので、一部の事業者が参入していますが、都会の場合、高級な住宅型有料老人ホームになりますので、お金持ちしか入居できません。

 これでは高級マンションを建てるのと変わらないでしょう。

 

銀行と不動産会社のマンション包囲網

 

 土地オーナーが銀行や不動産事業者に相談に行けば、土地活用チームが稼働し、瞬く間に包囲網が作られ、自分たちに都合の良い利用方向で話が進んでしまうのが現状です。オーナー自信に社会福祉への貢献という意思が強く無ければどうしようもないことです。

 

 介護福祉業界の人なら、特養などの特定の施設を建設する場合、補助金が出る上に、相続税などの面でメリットがあることは誰でも知っています。

 マンションを建てても補助金は貰えませんし、逆に建設費は借金となり入居費から返済していかなければなりません。税金面でもメリットはありません。にもかかわらずマンションが建つのはこのように強力なビジネス包囲網があるからです。

 

抵当権の問題

 

 介護福祉制度にも問題があります。

 例えば、ある介護福祉関係の企業が、自己資金プラス銀行からお金を借りて土地を手に入れて(土地は担保)、そこに福祉施設を建てようとしても建設補助金はもらえません。

 この場合、土地が担保になってしまい、抵当権が設定されるからです。

 制度上、抵当権の付いた土地に補助金を使った施設は作れないことになっています。

 確かに入居者の住居を保証する意味で、人手に渡ってしまう恐れがある土地に施設建設は問題があります。しかし、この規定があるために、資金力の無い介護福祉事業者にとって大きな事業障壁になっていることは確かです。

 こうした規定は、古い考えを引きずっている部分です。福祉事業が裕福な篤志家によって担われていた時代の名残であり、もっと現実的な制度にするべきでしょう。

 

解決策はありそうだが国や自治体の腰は重い

 

 こうした問題を解決するには例えば以下のような方策がありえます。

  • 行政に土地オーナーの相談窓口を作り、大々的にキャンペーンをする

 東京では都が主導で上記のような政策を積極的に打つべきでしょう。

  • 大規模なマンション等の開発には福祉施設の併設を義務付ける。もしくは補助金を出す

 これは関係業界団体の抵抗に会うでしょう。現政権下では難しそうです。

  • 政策金融公庫などで社会福祉施設向けの土地購入のための融資をしやすくする

 当然抵当権設定は無し。少額なら現状でも行けますが、23区内で建築可能な土地ですと、高額になるため、貸付限度を超えてしまうようです。

 

政治的な動きが無ければ解決できない

 

 介護人材不足の現在、施設を作っても働き手がいない状況であり、人材面、施設面の両方からの対策が必要でしょう。

 しかし、政治的な力学上、要介護者や障害者は弱い立場です。選挙で票になるのは元気な高齢者やこれから老後を迎える人たち。要介護者や障害者の声はなかなか届かないようです。

 思い切って全面オートメーション化した最先端の施設を都心で開発しても良いかもしれません。先端的な研究開発の場として特区などを利用し、企業の参入を呼び込めばタワマン包囲網も崩せる可能性があります。

 

 

 

 

介護保険制度改正 訪問介護を中心に(その2)

 

続きです。

 

Ⅲ 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)

 こちらでは、「現状・基本的な視点」として以下のような状況を踏まえています。

  • 都市部の介護ニーズ増大、地方部は高齢化のピークを越え、高齢者人口が減少に転じる地域もある。
  • 高齢者向け住まい(有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅)が都市部を中心に多様な介護ニーズの受け皿となっている。

 

 地域包括ケアシステムについては以下の点に留意して推進することが検討されています。

◎居住系サービス、訪問介護等の在宅サービス連携を強化

◎「介護離職ゼロ」の実現に向けて、介護施設の整備を進めるとともに、在宅サービスの限界点を高めていく

◎住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の質を確保、事業者に係る情報公表の取組を充実「外部の目」を入れる取組

◎看取り期にある者に対応する在宅の限界点を高めていく

◎介護老人保健施設について、在宅復帰・在宅療養支援の機能を更に推進

◎在宅医療・介護連携推進事業について、医師会等関係機関や医師等専門職と緊密に連携、ICT やデータ利活用

 

 これまで通り、施設介護ではなく在宅介護を中心に、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を積極的に活用するイメージでしょう。

 

 

Ⅳ 認知症施策の総合的な推進

 

 65 歳以上高齢者の約5人に1人が認知症になると見込まれていることを前提に、これまで通り、重点的な施策として推進する予定です。

 基本的なポイントはこれまでの施策の拡充となります。

 

◎認知症施策推進大綱に沿って、認知症バリアフリー・予防・早期発見対応・介護者(家族)支援

◎認知症の人が、尊厳と希望を持って認知症とともに生きるまた、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる「共生」の実現

◎認知症になった方が働き続けられる環境整備

◎住み慣れた地域で普通に暮らし続ける

◎「通いの場」をはじめ、高齢者の身近な場における認知症予防、「通いの場」でスクリーニング

◎かかりつけ医、地域包括支援センター、認知症初期集中支援チーム、認知症疾患医療センター等の体制の質の向上、 連携強化

◎介護者(家族)への支援、認知症カフェ、家族教室や家族同士のピア活動、職場における相談機能の充実

◎認知症高齢者グループホームのユニット数や運営規模の弾力化

 

 

Ⅴ 持続可能な制度の構築・介護現場の革新

 

 2025年度末までに、年間6万人程度の介護人材確保が必要なことを前提に、人材確保と業務効率化による持続可能な事業としての体制整備が中心ですが、人員確保は改善が難しい状況が見えるようです。

 

 一方、今改正の目玉の一つとして、「非営利連携法人制度」の創設があります。

 これは、社会福祉法人を中核として、地域の介護事業者が連携し、ロボット・ICT 等の共同購入、人材確保・育成、事務処理の共同化・プラットフォーム化を進めるものです。

 国としては介護の経営を大規模化させ、人材や資源を有効に活用し、効率化と介護職の処遇改善を進めたい意向があるのでしょう。

 しかし、この動きは、民間事業者など多様な参加者という介護保険制度の理念とは逆行します。確かに、介護福祉も電力や交通などと同じように大規模な公共事業体として組織化ができれば、職員の身分は安定し、いろいろな問題が解決するかもしれません。しかし、一方で大組織病のような非効率な部分が沢山出てきてしまうでしょう。少し虫がよい話かもしれません。

 

 その他の施策は次のようになります。

 

◎人手不足の中でも介護サービスの質の維持・向上を実現するマネジメントモデルの構築、業界のイメージ改善

◎業務の洗い出し・切り分けを行った上で、ロボット・センサー・ICTの活用と元気高齢者の活躍を促し

◎中学生、高校生等が進路を考えるにあたって、介護職の魅力を認識し、仕事として選択をしてもらえるよう、学校や進路指導の教員などへの働きかけ

◎「富士山型」の賃金構造を目指し、制度の整備を進める

◎潜在介護福祉士現場に戻ってもらうための取組

◎離職防止・定着促進の相談支援、小規模事業者への取組支援

◎介護現場を地域全体で応援する仕掛けづくり

◎外国人 介護人材の受入れを着実に推進

(アジア各国の急速な高齢化のため、外国からの介護人材の受け入れ拡大が安定的な人材確保策とならないとの意見あり)

◎介護分野の文書の削減・標準化等を進め、現場の事務作業量を削減

(個々の申請様式・添付 書類や手続きに関する簡素化、自治体のローカルルール解消、ICT 活用)

 

 以上、これまでにも散々取り組んできた内容ですが、一向に効果が見えない感じがあります。日本全体がコロナ以前の人材不足状況に戻るとすれば、いよいよ担い手不足は深刻になるでしょう。

 

 

今回議論されたが見送られた施策

 

 ケアマネジメントに関する給付の見直し=有料化・利用者負担

 社会保険料の負担増により中小企業や現役世代の負担は限界に達しており、制度の持続可能性を確保するため、能力のある人には負担していただくことを検討していましたが、以下のような意見もあり、今回は見送られています。

◎有料だとサービス利用をやめてしまう人が出てしまう

◎ケアマネジャーは保険者の代理人、市町村の代わりを担う立場であり利用者負担を求めることになじまない

◎有料化によりセルフケアプランが増加すると自立につながらないケアプランが増える

◎障害者総合支援法における計画相談支援との整合性

 

 軽度者に対する給付の見直し(要介護1・2サービスの地域支援事業への移行)

 要支援1~要介護2の利用者への生活支援の在り方を考えた場合、強度の違いはあれ、予防の視点は欠かせないため、一体的なサービス提供を図りたい旨の意向が保険者などから上がっており、移行が検討されてきました。


 社会保障審議会 介護保険部会(第90回)令和2年2月21日<介護保険制度の見直しに関する参考資料>より

 

 上記調査から、総合事業では制度改正前の介護予防サービスと同じ基準で提供されるサービスの割合が大きく、市町村の実施状況を見ても、住民主体のサービスなどの多様なサービスが実施されている市町村数は6~7割にとどまっています。

 総合事業から撤退する訪問介護事業所も多い中、そもそも、住民主体のサービスなどを介護事業に組み込むことは無理があるのかもしれません。サービスの母体となる介護事業所が回避しているためサービスが伸びないと考えます。

 

 国の意向としては、要介護2までの生活援助は身体介護から切り離し、安価で柔軟な住民主体のサービス(ボランティアや民間の家事援助サービスなど)にしたいという意向が見えます。

 最近は多様で比較的安価な民間家事サービスも増えています。例えば、区市町村がこうしたサービスを利用できるクーポン券などを発行し、家事援助を提供することも考えられます。

 しかし、ここで重要なのは「生活援助=家事援助」と定義していないことです。

 介護は広い意味で生活援助であり、その中には身体介護も家事援助も含まれています。生活援助から家事援助を切り離す方法が確立していない以上、要介護2までの総合事業への移行は難しいかもしれません。

 もし強引に導入しても、上述のような家事援助サービスを適切に提供できる体制ができていない場合は、現場がかなり混乱すると思います。

 

 この点について、審議会では以下のような意見が出されています。

◎見直しは、将来的には検討が必要であるが、総合事業の住民主体のサービスが十分ではなく、地域ごとにばらつきもある。まずは現行の総合事業における多様なサービスの提供体制の構築等を最優先に検討すべき

◎総合事業の課題である実施主体の担い手不足が解消される見込みもない中では市町村も対応できず、現段階での判断は現実的でない

◎要介護1・2の方は認知症の方も多く、それに対する体制が不十分

◎訪問介護における生活援助サービスは身体介護と一体的。切り離した場合の状態悪化が懸念

◎利用者の負担増となることを懸念。要介護1・2の方は重度化防止のために専門職の介護が必要

 

 

都心の介護人材不足は危機的

23区内の介護職の求人倍率

 

このところ、東京都の有効求人倍率は2倍前後で推移しています。
 しかし、介護サービスに限って言えば、現在は7倍前後まで跳ね上がっています。さらに、23区に限って言えば、これが10倍まで上がってしまう状況です。つまり、事業所等からの10名の求人に対して1名しか応募が無いということです。これは正社員の倍率ですが、パートに至っては16倍に近い数字です。

 この統計は、東京のハローワークの数字です。実は、多くの事業者ではあまりパート求人をハローワークに出していません(出しても無駄と考えている)。
 従ってパートの倍率は氷山の一角であり、実態はもっと多くの求人があります。

令和元年11月 東京都の介護サービスの求人状況
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/kakushu_jouhou/chingin_toukei/tesuto/_121515.html

求人種

有効求人数

有効求職者数 求人倍率
23区 多摩 23区 多摩 23区 多摩 都全体

全国

正社員

10,883 1,896 1,107 740 9.8 2.5倍 6.9倍 4.24倍

パート

10,445 2,484 658 491 15.8 5.0倍 11.25倍

 

 

 23区の介護事業にとって危機的な状況かもしれません。
 介護サービスを受けたくても人手不足によりサービスを受けられない高齢者や障害者が多数発生している状況だと考えます。
 サービス低下の負担は家族や、家族がいない場合は本人が我慢することによって凌ぐしかないと思われます。

 これでは高齢者や障害者は都心に住めずに、郊外に引っ越した方が良いという結果になるでしょう。

 

都心の介護は崩壊する

 

 ちなみに別の統計(厚生労働省「職業安定業務統計」)ですが、2019年の全国の介護分野の求人倍率:4.24倍に対し、東京都:7.27倍、神奈川県:4.47倍、千葉県:4.89倍、埼玉県:5.1倍、です。
 東京都は多摩地区が含まれていますので23区は15倍程度でしょう。
 ここで注目してほしいのは、周辺県が比較的求人倍率が低く、人材が確保しやすいという状況です。

 介護事業所を開業する場合、この状況はよく頭に入れておかなければなりません。つまり郊外に開業すれば、23区内より人材確保が容易であるということです。

 都心では既に、要介護者や障害者が重度になりサービス量が増えると、在宅生活が維持できず、郊外に引っ越さなければならない状況になっています。
 多いパターンとしては郊外の住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などに、引っ越したり、認知症の方は遠くの特養に入所している様子が見受けられます。
 住所地特例があるので地方財政への負担問題は関係ないだろうと言いますが、問題はお金のことだけではありません。

 

自治体は見て見ぬ振りか

 東京都はダイバーシティー「誰もがいきいきと生活できる、活躍できる都市・東京」を唱っていますが、実態が伴っていません。
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/actionplan-for-2020/portal/diversity/

 また、国が推進する地域包括ケアの理念とも、地域共生社会の理念にも反しています。
 国や都、区がこうした問題に真剣に取り組み必要がありますが、自治体の動きを見ているとあまり深刻さを感じません。

 実は、実利的に考えた場合、地方自治体にとっては健康で良く働く若い人が増え、コストがかかる要介護者や障害者が自治体外に出ていくことは歓迎すべきことなのです。都についてもそれは同様のことが言えます。

 

都市への富の集中と地方の疲弊

 実はこの問題は日本だけの問題ではないようです。世界中の都市には働く若年層が集まってきます。その結果、富が都市に集中し、地方は貧困化します。背後では、東京のように高齢者や障害者が追い出されているに違いありません。
 都市側の自治体に改善するモチベーションを求めるのは難しいかもしれませんので、国はこのアンバランスを解消する政策を打つべきだと筆者は考えます。

 

どのような対策があるか

 このような状況に対してどのような対策が考えられるでしょう。いずれにしても都市に富が集積するのであれば、その富を再分配し、高齢者や障害者を支援する仕組みがベースになるはずです。

1 都心部の介護給付地域区分を改善

家賃や人件費などのコストは23区でも都心部が最も大きな負担になっています。
足立・葛飾・江戸川などの周辺区は比較的コストが低く事業が継続しやすいですが、山手線内部はかなり厳しい状況と言えましょう。
介護給付の地域区分が23区一律ではアンバランスが生まれています。地域区分は区別に設定する方が良いと考えます。

2 都心の介護福祉事業者の運営コスト低減

 税金の軽減や固定費削減の方法などがありますが、現状の指定基準などを鑑みると、事業所の賃料コストを減らすために何らかの工夫ができるように思います。
 都心で介護事業所を運営する場合、事業所の賃貸料が過度の負担になります。 
 例えば、都心にオフィスを構える、大企業などが介護事業所にスペースを貸すことを奨励する、助成や税制優遇も考えられます。
 特にデイサービスは固定費が大きく、企業の協力を仰ぎたいとろころです。
 また、筆者が既に提言した独立系訪問介護などの仕組みを特区制度などを利用して導入することも有効かもしれません。

独立訪問介護士の可能性 その1

 

3 生活支援へのボランティア休暇制度などの活用

 訪問介護の家事援助については給付も安いため、多くの介護事業者が対応できない状況になっています。
 一方、近年の大企業を中心に、ボランティアのために休んだ場合は有休扱いになる、ボランティア休暇の導入が進んでいます。
 今のところ、災害復旧やオリンピックなどの運営ボランティアがイメージされているようですが、この制度をうまく活用し介護。福祉支援の枠組みを作ることは有効かもしれません。少しでも支援人材の手が増えることを考えなければなりません。