なぜ都会にはタワマンばかりできて福祉施設ができないのか?

 前回、23区内の要介護者や障害者が在宅スタッフの不足で、郊外に引っ越さなければならないという現実を書きました。

 こうした引っ越しを余儀なくされる人たちは多くが重度の人や、一人暮らしが難しい方々ですが、それならば都会にグループホームや特養がもっとあれば問題は無いと考えるでしょう。

 しかし、ご存知のように、都会にはそうした施設はなかなか建設できません。自治体の説明は「土地が無いので」という理由ですが、本当にそうなのでしょうか?

 

 なぜなら、都会では更地があるとだいたいマンションかアパートになっているように思われます。グループホームや小規模特養が建設可能な空き地でも、一般向けの集合住宅ができることが多いようです。

 昨今は都会でも空き家が増え、そうした空き家の土地の再開発に積極的なデベロッパーの動きも目立ちます。

 広い開発用地がある場合は、タワーマンションは乱立しますが、福祉施設は行政が介入しなければほとんど建設できないように思われます。

 

銀行や不動産事業者は福祉施設を作りたがらない

 

 土地を持っている人がその活用を相談するのは、まず、不動産事業者や銀行になるでしょう。実はこの時点で特養などの福祉施設の可能性は無くなります。

 その理由は以下の通りです。

 

  • 銀行は建設補助金が出ると困る

 福祉施設の建設には行政から補助金が出される場合があります。しかし、銀行は建築費の融資利息で稼ぎたいわけですから、行政から補助金を貰って建物を建ててもらっては困るのです。稼ぎが無くなります。

 また、土地を担保に建築費を融資できるお客さんは非常に優良なお客さんであり、取りっぱぐれが無いわけですから、下にも置かないもてなしで、囲い込もうとします。

 

  • 不動産業者は手数料の取れない物件は建てない

 不動産業者の儲けは、建築費や仲介、販売手数料などです。

 入居系の福祉施設の場合、そうした手数料を取ることはできません。有料老人ホームについては儲けがあるので、一部の事業者が参入していますが、都会の場合、高級な住宅型有料老人ホームになりますので、お金持ちしか入居できません。

 これでは高級マンションを建てるのと変わらないでしょう。

 

銀行と不動産会社のマンション包囲網

 

 土地オーナーが銀行や不動産事業者に相談に行けば、土地活用チームが稼働し、瞬く間に包囲網が作られ、自分たちに都合の良い利用方向で話が進んでしまうのが現状です。オーナー自信に社会福祉への貢献という意思が強く無ければどうしようもないことです。

 

 介護福祉業界の人なら、特養などの特定の施設を建設する場合、補助金が出る上に、相続税などの面でメリットがあることは誰でも知っています。

 マンションを建てても補助金は貰えませんし、逆に建設費は借金となり入居費から返済していかなければなりません。税金面でもメリットはありません。にもかかわらずマンションが建つのはこのように強力なビジネス包囲網があるからです。

 

抵当権の問題

 

 介護福祉制度にも問題があります。

 例えば、ある介護福祉関係の企業が、自己資金プラス銀行からお金を借りて土地を手に入れて(土地は担保)、そこに福祉施設を建てようとしても建設補助金はもらえません。

 この場合、土地が担保になってしまい、抵当権が設定されるからです。

 制度上、抵当権の付いた土地に補助金を使った施設は作れないことになっています。

 確かに入居者の住居を保証する意味で、人手に渡ってしまう恐れがある土地に施設建設は問題があります。しかし、この規定があるために、資金力の無い介護福祉事業者にとって大きな事業障壁になっていることは確かです。

 こうした規定は、古い考えを引きずっている部分です。福祉事業が裕福な篤志家によって担われていた時代の名残であり、もっと現実的な制度にするべきでしょう。

 

解決策はありそうだが国や自治体の腰は重い

 

 こうした問題を解決するには例えば以下のような方策がありえます。

  • 行政に土地オーナーの相談窓口を作り、大々的にキャンペーンをする

 東京では都が主導で上記のような政策を積極的に打つべきでしょう。

  • 大規模なマンション等の開発には福祉施設の併設を義務付ける。もしくは補助金を出す

 これは関係業界団体の抵抗に会うでしょう。現政権下では難しそうです。

  • 政策金融公庫などで社会福祉施設向けの土地購入のための融資をしやすくする

 当然抵当権設定は無し。少額なら現状でも行けますが、23区内で建築可能な土地ですと、高額になるため、貸付限度を超えてしまうようです。

 

政治的な動きが無ければ解決できない

 

 介護人材不足の現在、施設を作っても働き手がいない状況であり、人材面、施設面の両方からの対策が必要でしょう。

 しかし、政治的な力学上、要介護者や障害者は弱い立場です。選挙で票になるのは元気な高齢者やこれから老後を迎える人たち。要介護者や障害者の声はなかなか届かないようです。

 思い切って全面オートメーション化した最先端の施設を都心で開発しても良いかもしれません。先端的な研究開発の場として特区などを利用し、企業の参入を呼び込めばタワマン包囲網も崩せる可能性があります。

 

 

 

 

都心の介護人材不足は危機的

23区内の介護職の求人倍率

 

このところ、東京都の有効求人倍率は2倍前後で推移しています。
 しかし、介護サービスに限って言えば、現在は7倍前後まで跳ね上がっています。さらに、23区に限って言えば、これが10倍まで上がってしまう状況です。つまり、事業所等からの10名の求人に対して1名しか応募が無いということです。これは正社員の倍率ですが、パートに至っては16倍に近い数字です。

 この統計は、東京のハローワークの数字です。実は、多くの事業者ではあまりパート求人をハローワークに出していません(出しても無駄と考えている)。
 従ってパートの倍率は氷山の一角であり、実態はもっと多くの求人があります。

令和元年11月 東京都の介護サービスの求人状況
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/kakushu_jouhou/chingin_toukei/tesuto/_121515.html

求人種

有効求人数

有効求職者数 求人倍率
23区 多摩 23区 多摩 23区 多摩 都全体

全国

正社員

10,883 1,896 1,107 740 9.8 2.5倍 6.9倍 4.24倍

パート

10,445 2,484 658 491 15.8 5.0倍 11.25倍

 

 

 23区の介護事業にとって危機的な状況かもしれません。
 介護サービスを受けたくても人手不足によりサービスを受けられない高齢者や障害者が多数発生している状況だと考えます。
 サービス低下の負担は家族や、家族がいない場合は本人が我慢することによって凌ぐしかないと思われます。

 これでは高齢者や障害者は都心に住めずに、郊外に引っ越した方が良いという結果になるでしょう。

 

都心の介護は崩壊する

 

 ちなみに別の統計(厚生労働省「職業安定業務統計」)ですが、2019年の全国の介護分野の求人倍率:4.24倍に対し、東京都:7.27倍、神奈川県:4.47倍、千葉県:4.89倍、埼玉県:5.1倍、です。
 東京都は多摩地区が含まれていますので23区は15倍程度でしょう。
 ここで注目してほしいのは、周辺県が比較的求人倍率が低く、人材が確保しやすいという状況です。

 介護事業所を開業する場合、この状況はよく頭に入れておかなければなりません。つまり郊外に開業すれば、23区内より人材確保が容易であるということです。

 都心では既に、要介護者や障害者が重度になりサービス量が増えると、在宅生活が維持できず、郊外に引っ越さなければならない状況になっています。
 多いパターンとしては郊外の住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などに、引っ越したり、認知症の方は遠くの特養に入所している様子が見受けられます。
 住所地特例があるので地方財政への負担問題は関係ないだろうと言いますが、問題はお金のことだけではありません。

 

自治体は見て見ぬ振りか

 東京都はダイバーシティー「誰もがいきいきと生活できる、活躍できる都市・東京」を唱っていますが、実態が伴っていません。
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/actionplan-for-2020/portal/diversity/

 また、国が推進する地域包括ケアの理念とも、地域共生社会の理念にも反しています。
 国や都、区がこうした問題に真剣に取り組み必要がありますが、自治体の動きを見ているとあまり深刻さを感じません。

 実は、実利的に考えた場合、地方自治体にとっては健康で良く働く若い人が増え、コストがかかる要介護者や障害者が自治体外に出ていくことは歓迎すべきことなのです。都についてもそれは同様のことが言えます。

 

都市への富の集中と地方の疲弊

 実はこの問題は日本だけの問題ではないようです。世界中の都市には働く若年層が集まってきます。その結果、富が都市に集中し、地方は貧困化します。背後では、東京のように高齢者や障害者が追い出されているに違いありません。
 都市側の自治体に改善するモチベーションを求めるのは難しいかもしれませんので、国はこのアンバランスを解消する政策を打つべきだと筆者は考えます。

 

どのような対策があるか

 このような状況に対してどのような対策が考えられるでしょう。いずれにしても都市に富が集積するのであれば、その富を再分配し、高齢者や障害者を支援する仕組みがベースになるはずです。

1 都心部の介護給付地域区分を改善

家賃や人件費などのコストは23区でも都心部が最も大きな負担になっています。
足立・葛飾・江戸川などの周辺区は比較的コストが低く事業が継続しやすいですが、山手線内部はかなり厳しい状況と言えましょう。
介護給付の地域区分が23区一律ではアンバランスが生まれています。地域区分は区別に設定する方が良いと考えます。

2 都心の介護福祉事業者の運営コスト低減

 税金の軽減や固定費削減の方法などがありますが、現状の指定基準などを鑑みると、事業所の賃料コストを減らすために何らかの工夫ができるように思います。
 都心で介護事業所を運営する場合、事業所の賃貸料が過度の負担になります。 
 例えば、都心にオフィスを構える、大企業などが介護事業所にスペースを貸すことを奨励する、助成や税制優遇も考えられます。
 特にデイサービスは固定費が大きく、企業の協力を仰ぎたいとろころです。
 また、筆者が既に提言した独立系訪問介護などの仕組みを特区制度などを利用して導入することも有効かもしれません。

独立訪問介護士の可能性 その1

 

3 生活支援へのボランティア休暇制度などの活用

 訪問介護の家事援助については給付も安いため、多くの介護事業者が対応できない状況になっています。
 一方、近年の大企業を中心に、ボランティアのために休んだ場合は有休扱いになる、ボランティア休暇の導入が進んでいます。
 今のところ、災害復旧やオリンピックなどの運営ボランティアがイメージされているようですが、この制度をうまく活用し介護。福祉支援の枠組みを作ることは有効かもしれません。少しでも支援人材の手が増えることを考えなければなりません。

 

 

混合介護はなぜ導入されるのか

 

 

 東京都豊島区は、介護保険と保険外サービスを組み合わせる「混合介護」のモデル事業を来年度から始めると発表しました。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDE08H02_Y7A200C1PP8000/

 これは、国家戦略特区の制度を活用し実施するもので、介護保険サービスと保険外サービスを一体的に提供する取り組みです。

 

 現在でも訪問介護や訪問看護では自費サービスと保険サービスを組み合わせて提供することができます。混合介護はこれと何がどのように変わるのでしょうか?

 

 今でも、身体介護を30分利用した後に、本来はできない庭の掃除を15分だけしてもらうとか、家族の食事も準備してもらうなどの自費サービスの組み合わせは可能です。

 筆者の経験したケースでは、介入時、ごみ屋敷状態で、その片づけを自費でしたりする場合もありました。

 

 ただ、多くが一時的なサービス提供で、継続的なものは少ないといえるでしょう。

 確かにお金持ちのご利用者の場合は、継続して自費サービスを利用するケースはあります。しかし多くの方が、保険外サービスは最低限の利用というイメージがあります。

 

 行政等の指導では、自費サービスの契約を別途結んで、料金等を明確に説明し同意を受けてサービスを提供するよう指示されています。確かに別に契約を結ぶなどの手間がありますので、このあたりの事務が一体化されてくれると効率化はされるでしょう。

 

 

なぜ豊島区が取り組むのか

 

 混合介護はもともと公正取引委員会が、介護サービス事業にもっと競争性を持たせるべきだという提言から検討が始まりました。

 医療分野ではすでに混合医療が進んでいます。

 その背景には利用者の利便性の向上や、事業者の収入機会の増加、介護職員の処遇改善につながるという見方があるからです。

 

 また、前述の豊島区のような都心の自治体では介護職不足が、地方に比べ深刻です。そうした人材確保の目論見もあるのではないでしょうか。

 なにしろ都心はアルバイトでも他の地区と比べ賃金が高いため、介護職の賃金レベルではあまり魅力がなく、担い手が集まらないという問題があります。

 

 これは、そもそも介護報酬の算定そのものが都心に不利に働いているからです。同じ23区なのにもかかわらず、例えば足立区や葛飾区といった周辺区と単価が変わりません。

 さらに都心は不動産物件の賃料も高く、収益性を考えた場合、介護事業経営には不利です。

 

 

背景には介護サービスの不足危機があるかもしれない

 

 都心では介護サービス不足が進んでいくと考えられます。

 豊島区でも秩父市と提携して特別養護老人ホームの設置を進めています。用地確保が難しい都心区では区外特養の整備は普通になってくるかもしれません。

 また、地代が高いため有料老人ホームやデイサービスも足りなくなる可能性があります。

 

 人材は集まらない、施設などのサービスも足りなくなるという危機感はあるでしょう。

 都心区の自治体は2025年以降を見据えて、介護人材と介護サービスの確保に早急に取り組まなければいけない現状があると思います。

 その対策の一環として、収益性の高い混合介護モデルを導入しようとしているのでしょうか。

 

 

富裕層向けサービスとしての可能性

 

 都心区の区外特養は低所得者向けの対策ではないでしょうか。

 一方で住民税を沢山払ってくれる富裕層高齢者の都心区への転入を促す方策は十分考えられます。

 

 富裕層と言っても大企業年金を夫婦でもらい、資産収入もそこそこあり、老後資金に余裕があるような高齢者のイメージです。

 団塊の世代の多くが、23区外のいわゆるベットタウンに居住していることが多いかと思います。なにしろこの世代の人たちが多く家を購入した1980年代の場合、都心に住むことは難しかったと思いますから。

 その中で老後のお金に余裕がある人は都心のマンションなどへの移住を考えている人も多いと聞きます。

 

 子供が別居になって広い家に夫婦で二人暮らしのようなケースの場合、家は築40年近くになりますから、住み替え時期と考えても良いでしょう。

 だとすると、「都心の便利な場所に2LDKぐらいのコンパクトなマンションを購入し暮らす方が良いのではないか」と、考えている人は多いかもしれません。

 また、埼玉や千葉では医師不足・病院不足が深刻な地域も多く、老後のケア体制に不安もあるようです。

 先日、東京都荒川区で埼玉県越谷市の救急車がサイレンを鳴らしって走っているのを見て、少しゾッとしました。

 

 サービス付き高齢者住宅でなくても、ある程度バリアフリー化したマンションであれば、一軒家よりも老後の生活は楽でしょう。

 こうした富裕層高齢者に向けた生活支援サービスとしての混合介護は十分考えられるかもしれません。

 

 

月ぎめ包括料金の混合介護はできないか

 

 実際の豊島区モデルがどのようになるかわかりませんが、もし可能なら月ぎめの包括料金化できると経営サイドとしても非常に有効だと考えます。

 

 一つの例として、小規模多機能居宅介護があります。

 月額料金なので、はっきり言ってしまえば、庭の掃除をしても運営基準上はそれほどガミガミ言われない部分もあります。実際には認知症のご利用者と一緒に掃除するなどのケアにはなると思いますが、包括料金であればあまり細かいことを気にせずにサービスを提供できる実態があります。

 

 ケアプランで週何時間、月何時間という枠組みを決めて、その時間内であれば多様なサービス提供が可能であるような仕組みです。

 もちろん、現在の報酬よりも収益が高くなるような報酬設定をしてもらわなければ意味がありませんが、月額制にした場合、給付管理などは大幅に効率化できます。

 もしかしたら、月ぎめの契約では自己負担分を多めに徴収できる仕組みでも良いかもしれません。

 そうすればより、柔軟で緻密なサービス提供が可能になるでしょう。

 

 

 

 

サ付き高齢者住宅の囲い込み問題─関係居宅はケアプランチェックの準備を

 

サ付きの介護費が特養を超える

 

 サービス付き高齢者住宅(特定の指定なし)に入居している要介護3以上の利用者の介護費が、特別養護老人ホームの要介護3以上の入居者の介護費よりも高いという調査結果が大阪府で出されました。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shakaihoshoukaikaku/wg_dai23/shiryo1-1.pdf

「大阪府における介護施策の現状と課題、対応の方向性について」P11参照

 

 これに対して国は「囲い込み」の問題があるとして、次回の報酬改定で対策を講じたいという意向を示していますが、どのような対策を講じるのかは不明です。

 

 この問題のポイントは、サービス付き高齢者住宅は居宅サービスであり、在宅と同様、訪問介護や看護を利用しながらケアを受けるのだから、在宅介護並みの介護費に収まらなければおかしいということです。

 

 それが大阪府では在宅介護費はおろか施設介護費よりも高くなっているということです。これでは本末転倒でしょう。

 

 

この結果、何か引っ掛かる

 

 しかしこの調査、簡単にそのまま受け取れないものがあります。

 

 たとえば、平成28年の要介護5の居宅サービス利用者の平均介護給付額は25万円程度で30万円には届きません。

 

 特養は30万円前後ですから単純に比べれば、居宅サービスを利用したほうが断然、安上がりだという理屈になります。

 

 しかし、例えば独居の要介護5の利用者が、サービス付き高齢者住宅に入居し、毎日午前と午後に1時間ずつ訪問介護(身体)を利用し、さらに、訪問看護や訪問入浴を利用すると介護費は30万円を超えて、限度額近くまで行ってしまいそうです。

 

 通常のケアプランでは特養並みにお金がかかるのは避けられないような気がします。

 

 何か変です。

 

 

カラクリは家族介護コスト

 

 サービス付き高齢者住宅の入居者の多くは独居の高齢者(もしくは老夫婦)であり、家族の援助がなかなか受けられないということを考えなければなりません。

 

 一人暮らしの重度要介護者の、居宅サービス費の平均利用額のデータが無いので、明確な比較はできませんが、先に挙げた約25万円という居宅サービスの平均額には家族の助けが含まれています。家族同居の要介護5の場合、毎日の訪問介護は必要ない場合もあるでしょう。その分、居宅サービスの平均額は低く抑えられているのでしょう。

 

 

一部、過剰なサービスはある

 

 確かに、夜間の訪問介護が必要の無い人に夜間の割り増しサービスがプランニングされていたり、家事援助が身体介護で算定されていたり、一部、不適切なサービス提供があるとは考えられます。

 24時間のサービス体制は入居者にとっては安心ですが、夜間の身体介護がどこまで必要かは議論があると思います。宿直スタッフが配置されている場合、あまり必要の無い夜間の訪問介護を提供している例は多いかもしれません。

 

 とはいえ、介護給付費の算定構造上、独居の高齢者、特に要介護3以上の重度利用者の給付費は、特養並みになるのは避けられないのではないでしょうか。

 

 つまり、独居の利用者の介護給付費は居宅も施設も変わらない。ということです。

 

 そのように算定構造を作っているのは国自身であり、それを改善するとなると、居宅介護費を減算するしかないような気がします。しかし、実際それは無理でしょう。

 

 

自治体によるケアプランチェックが先

 

 いきなり算定構造を云々するよりも、まず、サービス付き高齢者住宅に入居する利用者のケアプランチェックを、自治体がしっかりやることが重要でしょう。

 

 それを実施しないで給付費のマイナス改定は行えないと考えます。もし行ったら乱暴すぎますし、まじめにサービスを提供している事業所にとっては大打撃です。

 

 次期改定で何か対策をするにしても、まずケアプランチェックを実施してからであり、従って、筆者は近いうちに、都道府県や区市町村に対してその種の通達や指示が出されると考えます。

 

 

サ付きの居宅介護事業所は準備を

 

 サービス付き高齢者住宅の利用者のケアプランを作成している、居宅介護事業所はその点を考慮して、ケアプランの自己点検をしっかりしておく方が良いでしょう。不要なサービスを提供していないか自治体のチェックが入ります。

 

 合理的なケアプランにより、給付費が居宅サービス費の平均額を超えていてもそれは仕方がありません。

 

 おそらくその利用者は独居であり、家族介護の助けを得られず、外部サービスに頼らざるを得ないわけですから。

 

 

現状、特養のコストより少しでも低ければ可ではないか

 

 今後、全国調査でどのような結果が出るかわかりませんが、特養のコストよりも少しでも低ければそれで可としなければならないような気がします。

 

 独居の高齢者は、今後さらに増えることになります。家族の援助は低減し、居宅サービス費の平均額も上がってくるでしょう。特に都市ではその傾向が強く表れます。

 

 独居の重度要介護者の給付費は特養も居宅も同じ、という考え方で、居宅の介護報酬に手を付けないことを祈ります。

 

 そもそも、サービス付き高齢者住宅は建設設備費や用地確保の面で、特養よりも税負担のコストメリットが大きいはずです。その点を加味して全体的な政策を考えてほしいと考えます。

 

 

 

高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 最終回

◆空き家対策と高齢者住宅

 

http://www.sankei.com/politics/news/160307/plt1603070007-n1.html

今年に入って、国土交通省は増え続ける空き家を利用した低所得者向け住宅の整備に補助金の検討を始めました。

空き家の一軒家をリフォームしてバリアフリー化すれば、低所得の高齢者向け住宅として活用できるのでしょうか?

それは無届介護ハウスとどのような違いがあるのでしょうか?

 

前述の高齢者向け優良住宅は古くなったアパートなどをリフォームして高齢者向けの住宅にしていますが、都内では補助金なしで8万円程度です。8万円では多くの生活保護の人は入居できませんので、この政策により供給される住宅の家賃は生活保護で利用できる5万円程度でなければなりません。

 

すると単純計算で、最低でも一月3万円の補助金が必要になるのですが、古くなったアパートのリフォームとは違い、一軒家に複数の高齢者を入居させるようなリフォームにかかるコストは、はるかに高いのではないかと思えます。

 

だとしたら、一軒家を平地の戻しバリアフリーのアパートを建てた方が耐用年数などからの面で有効でしょう。そこに補助金を出してあげれば、不動産事業として十分に成り立つと思いますが、なかなかそうもいきません。

 

◆都市部の高齢者は介護が必要になると郊外へ転出しなければならない

 

都心部では軽費老人ホームや安価なサービス付き高齢者住宅が足りません。

これは、空き家などの土地の再利用システムが全く働いていないことが大きな原因です。空き家は沢山あるのに虫食い的にあるために、必要な社会資源に転用できないのです。

 

そのため、都市部の高齢者は、介護が必要になり、高齢者向けの住宅に住み替えたくても、地域に手ごろな住宅を見つけることができません。家賃の安い郊外や地方の住宅に引っ越しをせざるを得ない状況です。

これでは住み慣れた地域で介護を受ける、地域包括ケアが機能しないことになります。

 

総務省の調査では高齢者が東京都から家賃の安い郊外へ移転する状況が見て取れます。

http://www.stat.go.jp/data/topics/topi972.htm

ただでさえ団塊の世代がドーナッツ化しているのに、大都市の周りに高齢者のドーナッツ化が進行します。これでは、医療費や介護費の面で地域間に大きな不均衡が生じるでしょう。

 

しかし、都市部には億ションやホテルが立つのになぜ高齢者向けの住宅はできないのでしょう。答えは簡単で、収益率が低いからです。要は儲からないから。

免税や補助金によるバックアップはあっても、そろばん勘定の段階で高齢者住宅のプランは弾かれてしまっているようです。

収支が立つのは土地代の安い郊外のみのようです。このままでは東京は高齢者が住めない場所になりそうです。

 

◆都心部の虫食い的な未利用地の福祉事業への利用には法的措置が必要

 

都心部で一軒の空き家を平地に戻しただけでは、優良な高齢向けの共同住宅はとても狭くて建てられないでしょう。何件かをまとめて平地にする必要があります。現在、その際の地権者との交渉や調整は事業者がやらなくてはなりません。

 

行政のサポートがあれば事業者もやる気を出すかもしれませんが、何もサポートが無く事業者がメリットを感じなければ誰も手を出しません。

 

「空家等対策の推進に関する特別措置法」http://www.mlit.go.jp/common/001080534.pdfなどの運用により、事業者が地権者間の調整が容易にできるような、法的な後ろ盾をすることができないかと思います。

 

◆都心部で静にスラム化する声なき低所得高齢者

 

都心部の生活保護の独居高齢者は、ほとんどが老朽化した賃貸アパートなどで生活をしています。持ち家がある人でも介護が必要な人にとっては、劣悪な住宅環境で生活している人も少なくありません。

 

住み慣れた家で老後を過ごすことが理想とされていますが、転倒リスクが高かったり家事などの生活手段が成り立たない住宅では、介護保険法制度が理想とする自立した生活を営むことは不可能でしょう。

 

「社会保障と税の一体改革」の中で高齢者の生活保護制度が年金に一本化できるのは相当先のようです。

http://www.nikkei.com/article/DGXLZO03051550R00C16A6EA1000/

静かに進むスラムが、我慢強く声を上げない日本の高齢者に甘んじているわが国の恥部にならないようにしたいものです。

 

そして、その人たちに向けたサービスを提供している介護職がもっとも多くそれを目撃しているはずです。

だからこそ、介護に携わる人間が、無届の介護ハウスをやらざるを得なくなるのです。

 

現在、都内で国民年金などの自費でグループホームに入れない低年金高齢者はおそらく6割から7割程度に達するのではないでしょうか。誰かが、こうした低所得高齢者向けに安心して生活できる場所を提供しなければなりません。

我が国の年金制度と高齢者住宅制度の失敗が、無届介護ハウスという形になっていることは明らかです。

 

 

◆一生住み続けられる住宅が欲しい

 

ユニバーサルデザイン住宅という発想があります。高齢者向けとか障害者向け住宅というカテゴライズではなく、どのような人でも必要に応じてカスタマイズして、死ぬまで住み続けられるような住宅デザインのことを言います。

http://sumai.panasonic.jp/sumai_create/setsubi/200502/

 

その際、手すりの設置などのカスタマイズは安価にできなければなりません。高額なリフォーム費用が必要なものはユニバーサルデザインとは言えません。

 

介護の必要になった高齢者は住宅事情などにより地域社会から退場しなければならないのが、都市部での現状です。

しかし、すべての住宅が最初からユニバーサルデザインにより簡単にバリアフリー化できるような設計になっていれば、アパートの一人暮らしでも死ぬまで地域に住み続けることが可能になるでしょう。

 

介護が必要になっても一生住み続けられるマンションやアパートを販売するという発想は今のところあまり見受けられません。一部、三世代住宅など高級注文住宅にはユニバーサルデザインが採用され始めています。しかし、都市部の低所得者向けの住宅ではまったくそんな発想はないでしょう。

 

多様な人々が共住できる都市はユニバーサルデザインでなければならないという学術的な思想は昔からありますが、そのような発想の民間の共同住宅は今のところ商品価値がないのでしょうか?

筆者はそうは思いません。

 

OECDは2050年までに人類の70%が都市部に住むと予想しています。

https://www.oecd.org/env/indicators-modelling-outlooks/49884270.pdf

このままでは東京は、「下流老人のスラム化」が進み、多様性のないストレスフルな都市になってしまいそうです。

 

 

 

 

 

高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 その4

 

なぜ無届の介護施設を利用するのでしょうか?以下のような理由があるのではないかと考えています。

 

◆理由1 在宅生活を勧めてくれる総合的相談窓口ない

 例えば、生活保護の高齢者が脳梗塞で入院し退院する時、本人が自宅に戻って生活ができないと判断した場合、どんな住宅に入居するか相談する人が誰かによりその先が変わってしまいます。

(1)区市町村の保護課のケースワーカーである場合

 担当するケースワーカーが、無届ハウスを紹介してしまう場合がある。

(2)病院の退院支援担当も上記と同じケースが考えられる

(3)ケアマネージャーに相談する場合は、サ高住か無届ハウスしか選択肢がない

 

そもそも、本人が「自宅で生活できないという」判断をし、医師がそれを認めれば、それを覆すことはできません。病院は無届ハウスだろうがサ高住だろうが退院させればそれで良いのです。同様にケースワーカーも保護給付額に見合うことだけが重要で、安ければ安いほど歓迎します。

 

問題は本人が入院中に「自宅で生活できないとい」と判断してしまった場合、その不安をしっかり受け止めて、在宅介護の知識がある相談者が「そんなことは無いですよ、こうこうこうすれば自宅で前と同じように生活できますよ」と説明できる機会が無いことです。自宅に戻らないと本人が判断した瞬間に、在宅ケアの専門家であるケアマネージャーは排除されてしまう現実があります。

 

ケアマネージャーはサ高住や無届ハウスなどに入居が決まった後登場してきます。本人の不安を受け止め、心身の状況や財力を総合的に勘案して、退院後に住む場所を一緒に考える人が必要です。

 

◆理由2 低額なサービス付き高齢者住宅や軽費老人ホームが一杯で入れない

特に地代の高い都心部はほとんど需要に応えられる状況ではありません。少し離れたた郊外の他自治体であれば空きがありますが、住み慣れた地域を離れることへの抵抗があるかもしれません。

 

また、生活保護の人の他地区への引っ越しにはいろいろと制限があり、高齢者にとっては非常に面倒な手続きもこなさなければなりません。さらに、引っ越し費用などの金銭面でのトラブルも起こりやすくなります(地方の無届ハウスの中にはこうした手続きを代行してくれる業者もいるようです)。

 

地域の低額な高齢者施設に空が無ければ、ケースワーカーはとりあえず住める場所を探すしかありません。結果、無届だろうが受け入れてくれる施設を選択するしかないでしょう。このようなことはMSWでも同じだと思います。

 

 

◆地域包括支援センターが機能していない

 

下流老人http://ironna.jp/theme/388という本が昨年出版され流行語にもなっています。下流老人の定義は以下のようです。

1(高齢期の)収入が著しく少ない

2 十分な貯蓄がない

3 周囲に頼れる人間がいない(社会的孤立)

このうち社会的孤立が無届ハウスなどに繋がる大きな原因です。

 

生活保護の高齢者は多くが周りに助けてくれる親族がいません。お金の切れ目が縁の切れ目ということが、下流老人には現実に起こります。

さらに高齢者や障害者は自力での社会適応能力が低下します。だから支援が必要なのですが、その支援がうまく届いているかというと、はなはだ疑問です。

 

地域包括センターにはソーシャルワーカー(社会福祉士)とケアマネージャーがいて協働しています。本来は地域包括センターが高齢者の地域での生活を支え社会的に孤立しないようにするはずですが、実態は地域包括センター自体が無届ハウスを紹介している状況です。

 

無届ハウスすべてが問題であるとは言えませんが、なぜ在宅介護の要である地域包括センターが安易に無届ハウスを紹介してしまうのでしょう。

 

この課題は少々複雑です。一つのケースを紹介します。

 

認知症の親の介護負担が重く同居家族が悲鳴を上げており、親の年金ではグループホームに入れない。生活保護を受給してグループホームに入居することは家族の収入から無理。要介護2なので特養も無理。低価格のサ高住を探したが、認知症のレベルがひどいので入居不可(高額な物件はあり)、軽費老人ホームや老健も同様で不可。こうしたケースの場合、担当するケアマネージャーは家族に対して在宅介護を継続するよう説得することができるでしょうか。

 

小規模多機能の宿泊サービスなどを利用しながら、在宅介護は可能だと思いますが、それも拒否された場合、あとは病院に入院するか、無届でも受け入れてくれる業者を探すしかないでしょう。

 

ケアマネージャーが地域包括と相談しながら、区市町村の保護課と交渉してなんとか生活保護を認めてもらうようお願いしても、区市町村の下請け組織である地域包括に援護を期待するのは難しいでしょう。

 

こうした場合、地域包括は無届介護ハウスのリストを持っており、ケアマネージャーに紹介してくれます。本当ならば家族が年金では足りないグループホームの費用を出して、正規の介護サービスに繋げるのが筋なのですが、家族にとってグループホームと無届介護ハウスの違いが判らなかったり、少しでも安く済ませたいと訴えられると、ケアマネージャーも地域包括もなかなか強要はできません。

 

 

◆低年金の高齢者の住宅政策は相当の改善が必要

 

前述のケースでは、国は家族に頼らず、自分の年金でグループホームに入れるように生活保護制度を改善するべきでしょう。それが福祉先進国のスタンダードです。

 

国が本当に介護離職(家族の介護負担による退職)を減らしたいならば、一人の高齢者が死ぬまで金銭的に自立して生きてゆけるようにしなければ、家族の介護負担はいつまでたっても軽減しません。

 

低年金の生活保護高齢者に引っ越しの自由が無く、住居選択の自由が奪われることは社会保障制度自体が人権侵害をしていることにもなります。

 

「税金で生きているのだから当たり前だろう」というのは、福祉後進国の人の発想です。この国に生まれ、まじめに働いて税金と国民年金を納めていた人は、死ぬまで金銭的に自立して生活できる社会保障制度にしなければなりません。いまだ、この国にはそれができません。

 

これでは多くの人が老後の不安を抱えて生きなければならないのは当然のことでしょう。

 

次回は、介護福祉の視点から今後の高齢者住宅のビジネスについて考察します。

 

 

高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 その3

◆無届・無登録の高齢者ハウス

 

前回述べた、「社会福祉各法に法的位置付けのない施設」は「無登録の高齢者ハウス」という問題として表面化しています。この問題は平成21年に起きた群馬県の無届老人ホーム「静養ホームたまゆら」の火災で10人の方がなくなった事件により、世間に知られるようになりました。

http://www.wam.go.jp/wamappl/bb11GS20.nsf/0/66c44ff467bec177492575e10007762d/$FILE/20090626_3shiryou4.pdf

 

しかし、最近になり増えてきたのはいわゆる包括介護サービスを提供する老人ホーム型の無届施設ではなく、訪問介護など外部の公的介護サービスを利用するタイプです。その仕組みについて説明しましょう。

 

通常サービス付き高齢者住宅や老人ホームは都道府県への届け出が必要です。こうした届け出をせず要介護や要支援の高齢者を入居させ、訪問介護などの介護サービスを提供するのが無届け介護ハウスもしくは無認可の高齢者ハウスと呼ばれるものです。

呼び方はいろいろのようですが「グループハウス」や「高齢者シェアハウス」昔は「託老所」などと呼ばれてもいました。昨年、NHKクローズアップ現代でその問題が放送されました。

http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3602/1.html

 

こうした無届ハウスの筆者が考える問題点をまとめると以下の通りです。

 

1 住宅としての質が悪い場合がある(雑魚寝の状況など)

2 費用の妥当性(生活保護費を全額徴収され、金額が不当に高い場合がある)

3 食事などの生活サービスが劣悪な場合がある

4 介護保険サービスの契約の自由が担保されない(業者を選べない。こうしたハウスの多くがケアマネや訪問介護が付帯しており、そこを利用しなければならない)

5 訪問介護サービスなどは住所地特例が適用されない(老人ホームやサ高住は他地区から引っ越してきた場合、前の住所地の自治体が介護費を負担する)そのため、家賃の安い地方に無届ハウスが増えると、その自治体の財政がひっ迫する。

6 ハウス内に感染症が蔓延しやすい(通常のマンションなどと違い、同じ介護スタッフが各居室を巡回してサービス提供するため、介護スタッフが感染を媒介したり、共用スペースがある場合、感染者の出入りを誰も管理しないため、入居者間で簡単に感染が広がってしまう)

7 区市町村の生活保護課はこうしたハウスを頼みの綱としており、特養に入れない生活保護の要介護高齢者の住みかとして利用されている(行政の中でねじれ現象)

8 病院の退院支援担当(MSWなど)も同様に頼りにしている

9 地域包括センターさえ頼りにしている場合がある

10 介護保険サービス事業所と同程度のマニュアルを整備する義務が無い(災害時対応・緊急時対応・苦情処理対応など)

11 火災報知機やスプリンクラーなどの防災設備がない場合がある

 

などなどです。

前回紹介した高級な高齢者向けマンションなどは、入居者に不利益が無いよう、ある程度質の高い設備やサービスを提供しています。

問題は低所得者向けの無届ハウスです。

 

介護現場で見る風景としては、介護が必要になった高齢の親のために、お金を払って良い施設に入ってもらおうという子供は相当のお金持ちか、その親が資産を持っている場合のみです(あとで帰ってくる)。

今の世の中、「老後に必要なお金は親自身のお金で賄う」というのが一般的な考え方であると思います。

従って、生活保護の親の世話にお金を出してまで面倒見る子供は少なく、住宅を探す場合でも、親の持っている財力で入居できるところを探すことになります。

 

もともと、古いアパートや住宅に住んでいた親が、介護が必要になり引っ越す先として、豪華な老人ホームでなくても良いのではないかという考えもあるでしょう。特養に入れないならば、家賃の安い高齢者シェアハウスのような施設でも大して変わらないのではないか?子供としては、そのように考えるのも仕方がないことだと思います。

 

もとも日本人は慎み深い国民です。体が不自由になった高齢者が、ともあれ「不安」なく生活できれば、多少環境が悪くても(低所得の高齢者であれば、場合によっては元々住んでいた自宅よりはマシだったりする)多くを望まず耐え忍ぶことができてしまいます。そうした忍耐力の強さに行政や業者も甘んじてきた部分もあるのではないかと思います。

 

 

◆高齢者は何はともあれ、「不安」を解消してくれるサービスに頼る

 

グループハウスのような高齢者が集まって助け合いながら共同で生活するという発想は昔からあり、そもそも江戸時代の長屋などは助け合いと相互監視の発想から形成された住宅方式であり、共同住宅の形式としてなんら非難されることでは無いと考えます。

 

体が不自由になり、もう自宅では生活ができないとなった時、自分の収入で得られるとりあえずの「安心」として無届ハウスは非常に手ごろであり、逆に言えば他に選択肢が無いというのが現実でしょう。

 

しかし、その人が無届施設に支払うお金と同程度のお金を払えば、低額なサービス付き高齢者住宅や軽費老人ホームに入居できる場合があります。

さらに言えば、筆者などは、たとえば病気で入院し退院する際、「もう自宅で生活できない」という人でも、住宅改修や福祉用具、訪問介護や看護を利用すれば、ほとんどの人が元居た自宅で生活できると考えています。多くの在宅介護のケアマネージャーもそう考えるでしょう。

 

なのになぜそのような無届施設を利用するのか?ポイントはその「不安」を解消できる能力が我が国の社会保障制度に備わっていないということです。

次回はその理由を具体的に考察したいと思います。

 

 

高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 その2

◆元気なうちから抵抗なく入居できて介護の「不安」が無い住宅とは

 

最近になり、新しいコンセプトのアクティブシニア向け分譲マンションが出始めています。筆者の挙げた条件では、キッチン以外の条件はほぼ満たしています。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1103W_R10C14A4EE8000/

分譲マンションですからキッチンの改造も可能でしょう。

 

リンク先は主に夫婦向けにコンセプトされたマンションのようで、イメージとしては今まで一軒家など広い家に住んでいたが、子供も成長し、これから2人で余生を過ごすにあたり、シンプルで不安の無い生活をしたい方向け、といった感じです。前の家を売った資金で買ってくださいということでしょうか。

 

しかし、老後になって、誰でもこの値段の分譲マンションを買えるとは限りません。

例えば夫がサラリーマンをしていた70歳前後のご夫婦の場合、自宅のローンがやっと支払い終わり、後は貯金を切り崩しながらの年金暮らしとなるのが一般的なパターンです。

その時、古い自宅を売却しても、このマンションの購入資金が作れるほどの値段が付くか疑問です。

 

70歳前後で引っ越し、あと20年程度住むのであれば、賃貸の方が得のような気もしますが、リフォームなどを考えると悩むところです。ご夫婦の場合であれば、どちらかが先だった後も住宅の不安が無いという意味では分譲のほうが良いかもしれません。

 

とはいえ、多くの人は老後の資金に不安があり、分譲マンションにはなかなか手が出ないのが現実ではないでしょうか。また分譲は相続税の問題もあります。結局、若いころに購入した住宅に、死ぬまで住み続けた方が、面倒が少ないという判断になりがちです。リフォームによるバリアフリー化ができれば良いですが、できなければ老後の不安は増長してゆきます。

 

20年後、東京の高齢者世帯の44%が一人暮らしと言われています。一人暮らしの高齢者が安心して生活ができる住宅の在り方をもう少ししっかり考えていかなければならないと思います。

 

 

 ◆東京シニア円滑入居賃貸住宅

 

https://www.tokyo-machidukuri.or.jp/sumai/senior.html

国土交通省が主導する高齢者向けの優良賃貸住宅制度です。一般のアパートなどをバリアフリー化し通常は借りにくい高齢者でも賃貸が可能な制度になっています。

こちらは住宅だけですので、介護が必要になった場合は、公的介護サービスを別途依頼する必要があります。

 

こうした優良住宅の多くはアパートやワンルームマンションをバリアフリー化したものが多いようです。家賃は一般的な賃貸アパートの相場よりも、少し高く設定されているような感じがあります。前述のサ高住よりも高いイメージがあるのは、事業者に補助金などの公的支援制度が無いからかもしれません。また、バリアフリー化のリフォームコストも乗っかっているからでしょう。

 

23区内の相場は8万円以上のようです(一部6万円前後もあり)。厚生年金だけで生活する一人暮らしの高齢者にとっては、生活を維持するに、ぎりぎりの値段設定ではないでしょうか。生活保護による家賃補助を受けている高齢者にとっては、区市町村の判断もありますが入居は難しい金額かもしれません。23区内の住宅扶助費は5万円台であり、その程度で入居できる住宅はほんの一部です。

 

 

 ◆高齢者の50%が生活保護なのにその人たちの住宅政策は混沌とした状況

 

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG01H33_R00C16A6CR0000/(生活保護、高齢者が初めて50%超す 厚労省調査)

東京都の生活保護の高齢者は15万人程度いらっしゃるようです。

一方、都では都市型軽費老人ホームという生活保護の人でも入居できる老人ホームの制度を推進しています。現在こうした軽費老人ホームの定員は約4,000人。また、低価格のサ高住や住宅型有料老人ホームに入居している生活保護の高齢者は26年5,140人となっています。ちなみに特養の定員は4万人程度です。

 

すると都では10万人程度の生活保護の高齢者が自宅や賃貸住宅に住んでいることになります。その住環境に関する調査は見つかりませんでした。しかし、あまり良好な住環境でないことは想像できます。全国では単純計算で100万人以上になるでしょうか。

 

厚生労働省は主に生活保護受給者が入所している「無料低額宿泊施設」および「社会福祉各法に法的位置付けのない施設」について、施設数と入所者数を公表しました。

「無料低額宿泊施設」とは、無料または低額な料金で宿泊や食事などができる施設で、都道府県知事への届出により開設できる簡易宿泊所のような施設です。いわゆる、ドヤ街などにある寝床だけしかないような狭隘な宿泊施設が殆どと考えて良いでしょう。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B0%A1%E6%98%93%E5%AE%BF%E6%89%80

 

 

「無料低額宿泊施設」は現在全国に537あり、入所者15,600人中、生活保護受給者数は14,143人。東京都は161施設で、生活保護受給者は3,779人です。

また、「社会福祉各法に法的位置付けのない施設」とは、いわゆる高齢者などを対象にした無届の入所施設です。全国に1,236施設あり、入所する生活保護受給者等の数は16,578人です。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000134572.html

 

そもそも、生活保護の高齢者が増えてしまったのは、日本の年金制度の失敗であり、若いころからまじめに働いて、政府の指示どおりに年金積立してきた人でも、老後に自力で生活できる額の年金がもらえない制度設計自体に問題があると言わざるを得ません。

そもそも、国民の生活を生涯にわたって支える社会保障制度は個人年金の積み立では維持できないことはわかっていたはずです。その歪が高齢者の半数が生活保護という形で表面化しています。

 

よく、生活保護の人を「税金泥棒」扱いする意見を見聞きしますが、まじめに国民年金に加入して働いてきたのに、「税金泥棒」扱いされるのは本当に気の毒だと思います。

さらに言えば、たとえ大企業年金の人でも老後の生活レベルを維持するには額が足りないと言われています。

国民の老後保障は税金を投入しなければ維持できません。そのための消費税増税も先送りになりました。この国の政治は「臭いものには蓋をして」先送りする政治をずっとやってきました。いまだにその姿勢は変わらないような気がします。

 

若者達はまじめに普通に働いていても老後の生活が暗い可能性があることを、感覚的に感じ取っています。将来、年をとってもバリアフリー化したユニバーサルデザインの住宅で安心して生活できることが保障される社会にしなければなりませんが、公共住宅の仕組みは混沌とするばかりです。

 

 

次回は今後の低所得者向け住宅の在り方や、介護ビジネスについて考えます。

 

 

高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 その1

◆特別養護老人ホームの待機者が減り始めた

http://mainichi.jp/articles/20160701/k00/00m/040/092000c(毎日新聞)

 

2015年の介護保険制度の見直しにより入居条件が要介護3以上になるとともに、1割負担から2割負担になる人の利用料金が上がることなどが影響し、特別養護老人ホームの待機者が減り始めているようです。

 

政府は国民の介護負担の軽減を目指し、親の介護などが理由による退職者(介護離職)が出ないようにしようとしていますが、現実的には逆方向の結果がでているかもしれません。

そもそも、待機者はその時点で在宅や他の施設で生活しているわけですが、そうした現状での生活に不安があるから特養に申し込んでいるわけです。

 

これは我が国の介護を必要とする多くの高齢者(とその家族)が不安を抱えながら生活をしているということであり、待機者が減ったからと言ってそれが改善されたわけではありません。

 

介護離職をする人も親の介護の不安に押しつぶされるような形で離職をしているケースが多く、我が国の介護保険制度自体が国民のニーズに応えきれていないということを明示しているものだと思います。

 

経済の面で見れば、こうした老後の生活不安が、消費意欲を低下させ、経済成長を阻んでいることは明らかです。それゆえに国は消費増税による社会保障の改革を目指していたのですが、現政府は現状に甘んじているような気がします。

このままなし崩し的に、団塊の世代が後期高齢者へと突入していくのでしょうか?これでは国民の老後生活不安は一向に払しょくできないでしょう。

 

 

◆老後の住宅探しは結構、難題

 

筆者が年を取り体が不自由になり始め、余生を過ごす住宅を探さなければならなくなったら、どのようにするだろうかと想像してみました。すると、意外と悩んでしまうことに気が付きました。

 

現在、古い1軒家に住んでいますが、後10年程度で限界が来るのではないかと思います。するとその後に住む住宅は終の棲家になることを考えて、どのようなものが良いか、条件をシミュレーションしてみました。

ちなみに筆者は現在、独り身の男性で、今の家は整理することにして、後腐れが無いよう死後の資産が残らない前提での住宅探しとなります。

その際のキーワードは「不安の無い余生です」。

 

≪条件シミュレーション≫

1 基本的に住み慣れた地域での生活の方が不安はないだろう

2 例えば脳梗塞の発症などにより要介護になった場合でも、自宅で生活が続けられること

3 あまり広い住居ではなく、できるだけシンプルな生活をしたい

4 できれば老人ホームなどのサービス付きの施設ではなく、介護が必要になったら在宅サービスを利用して余生を過ごしたい

5 住宅内はバリアフリーであり介助を受けながら車いすでの生活も可能、一人で外出もできる

6 元気なうちは地域で趣味やスポーツ、ボランティア的な活動をするなど社会とのつながりを作りたい

7 できるだけ食事は自分で準備したいので体力低下しても買い物代行などが利用でき、台所も使える工夫がほしい(椅子に座って作業できるキッチンや手すり設置、電磁調理器など)http://www.lixil.co.jp/products/kitchen/welllife/index.html

8 その他基本的な住宅設備については通常のワンルームマンションなどと同様

 

とりあえず以上のような条件で、実際にネットなどで賃貸住宅を探してみました。しかし、現状では自分のイメージな合う住宅を探すのは相当困難であるという実感を持ちました。そもそ良い物件が見つかっても高齢者には貸してくれない場合もあります。これでは老後に安心して生活できる住宅探しなんてできるのだろうかと思います。

 

 

◆サービス付き高齢者専用住宅はどうだろう

 

筆者のイメージする老後の住宅として、一番イメージに近いのはサービス付き高齢者専用住宅(サ高住)になるかもしれません。

 

サ高住は今住んでいる地域に沢山ありますし、家賃も手ごろです。住宅内はバリアフリー化されており、外出も自由で、部屋も普通のワンルームマンションと変わりはありません。

 

しかし、実際に元気なうちに入居と考えると、少し考えてしまいます。

現状のサ高住は住宅型老人ホームとほとんど変わりません。介護サービスを外部の在宅サービスを利用するだけで、実際は前述の特別養護老人ホームや有料老人ホームに入居できない方の入居施設となっている感があります。

まだ、元気なうちからそうした住宅を選ぶことには抵抗があります。いわゆるアクティブシニア向けの住宅にはなっていないのが現実ではないでしょうか。

 

また、介護が必要になったときケアマネジャーを自分で選び、ケアプランンを自分なりにアレンジすることがやりにくそうな感じがします。

多くのサ高住では在宅介護サービスが委託契約などにより付随しており、他の事業所を選択することは可能なのですが、付随するサービス事業所を断るには少し抵抗があります。また、元気なうちには必要のないサービスが付随している場合もあり、余計なコストになっている気もします。

 

◆国は老後の住み替えモデルをもっと提示して環境整備を進めるべき

年を取ればいつ要介護になるかはわかりません。要介護になってから別の住宅に引っ越すことは環境変化に弱い高齢者にとっては不安があるところです。

引っ越しによる環境変化を楽しめる程度に体力が残っている時期に入居するのがベストのタイミングなのですが、周りの入居者の多くがすでに要介護者であったりすると、「元気なうちからわねぇ・・・」という抵抗感が沸いてきます。

 

また、要支援の時期はまだまだ自宅で生活できると思っていても、ある日突然それができなくなる時が来たりもします。もちろん要介護5でも自宅で生活することは可能です。しかし、住宅の状況や障害の状況によってはそれができない場合もあります。身体が不自由になってから、どこか知らない場所の施設や高齢者住宅に入り余生を送ることは、悲しいことのような気がします。

 

ところが周りの高齢者の人たちを見ていると、身体が不自由になり今まで住んでいた住宅に住み続けられなくなって初めて、サ高住などに引っ越すという状況になっているようです。つまり、抵抗なく元気なうちから入居ができて、介護の不安もないという住宅があまり見当たらないというのが、今の正直な感想です。

国は「在宅介護、在宅介護」と金科玉条のごとく叫んでいますが、「在宅介護」を継続できる老後の住み替えモデルをもっと提示し、不動産業界と介護業界に働きかけて環境整備を進めるべきでしょう。老後の住宅不安が解消することは、老後の不安の多くの部分を占めると考えます。

 

次回は、元気なうちから抵抗なく入居できて介護「不安」が無い住宅や低所得者向けの住宅について考えます。