なぜ都会にはタワマンばかりできて福祉施設ができないのか?

 前回、23区内の要介護者や障害者が在宅スタッフの不足で、郊外に引っ越さなければならないという現実を書きました。

 こうした引っ越しを余儀なくされる人たちは多くが重度の人や、一人暮らしが難しい方々ですが、それならば都会にグループホームや特養がもっとあれば問題は無いと考えるでしょう。

 しかし、ご存知のように、都会にはそうした施設はなかなか建設できません。自治体の説明は「土地が無いので」という理由ですが、本当にそうなのでしょうか?

 

 なぜなら、都会では更地があるとだいたいマンションかアパートになっているように思われます。グループホームや小規模特養が建設可能な空き地でも、一般向けの集合住宅ができることが多いようです。

 昨今は都会でも空き家が増え、そうした空き家の土地の再開発に積極的なデベロッパーの動きも目立ちます。

 広い開発用地がある場合は、タワーマンションは乱立しますが、福祉施設は行政が介入しなければほとんど建設できないように思われます。

 

銀行や不動産事業者は福祉施設を作りたがらない

 

 土地を持っている人がその活用を相談するのは、まず、不動産事業者や銀行になるでしょう。実はこの時点で特養などの福祉施設の可能性は無くなります。

 その理由は以下の通りです。

 

  • 銀行は建設補助金が出ると困る

 福祉施設の建設には行政から補助金が出される場合があります。しかし、銀行は建築費の融資利息で稼ぎたいわけですから、行政から補助金を貰って建物を建ててもらっては困るのです。稼ぎが無くなります。

 また、土地を担保に建築費を融資できるお客さんは非常に優良なお客さんであり、取りっぱぐれが無いわけですから、下にも置かないもてなしで、囲い込もうとします。

 

  • 不動産業者は手数料の取れない物件は建てない

 不動産業者の儲けは、建築費や仲介、販売手数料などです。

 入居系の福祉施設の場合、そうした手数料を取ることはできません。有料老人ホームについては儲けがあるので、一部の事業者が参入していますが、都会の場合、高級な住宅型有料老人ホームになりますので、お金持ちしか入居できません。

 これでは高級マンションを建てるのと変わらないでしょう。

 

銀行と不動産会社のマンション包囲網

 

 土地オーナーが銀行や不動産事業者に相談に行けば、土地活用チームが稼働し、瞬く間に包囲網が作られ、自分たちに都合の良い利用方向で話が進んでしまうのが現状です。オーナー自信に社会福祉への貢献という意思が強く無ければどうしようもないことです。

 

 介護福祉業界の人なら、特養などの特定の施設を建設する場合、補助金が出る上に、相続税などの面でメリットがあることは誰でも知っています。

 マンションを建てても補助金は貰えませんし、逆に建設費は借金となり入居費から返済していかなければなりません。税金面でもメリットはありません。にもかかわらずマンションが建つのはこのように強力なビジネス包囲網があるからです。

 

抵当権の問題

 

 介護福祉制度にも問題があります。

 例えば、ある介護福祉関係の企業が、自己資金プラス銀行からお金を借りて土地を手に入れて(土地は担保)、そこに福祉施設を建てようとしても建設補助金はもらえません。

 この場合、土地が担保になってしまい、抵当権が設定されるからです。

 制度上、抵当権の付いた土地に補助金を使った施設は作れないことになっています。

 確かに入居者の住居を保証する意味で、人手に渡ってしまう恐れがある土地に施設建設は問題があります。しかし、この規定があるために、資金力の無い介護福祉事業者にとって大きな事業障壁になっていることは確かです。

 こうした規定は、古い考えを引きずっている部分です。福祉事業が裕福な篤志家によって担われていた時代の名残であり、もっと現実的な制度にするべきでしょう。

 

解決策はありそうだが国や自治体の腰は重い

 

 こうした問題を解決するには例えば以下のような方策がありえます。

  • 行政に土地オーナーの相談窓口を作り、大々的にキャンペーンをする

 東京では都が主導で上記のような政策を積極的に打つべきでしょう。

  • 大規模なマンション等の開発には福祉施設の併設を義務付ける。もしくは補助金を出す

 これは関係業界団体の抵抗に会うでしょう。現政権下では難しそうです。

  • 政策金融公庫などで社会福祉施設向けの土地購入のための融資をしやすくする

 当然抵当権設定は無し。少額なら現状でも行けますが、23区内で建築可能な土地ですと、高額になるため、貸付限度を超えてしまうようです。

 

政治的な動きが無ければ解決できない

 

 介護人材不足の現在、施設を作っても働き手がいない状況であり、人材面、施設面の両方からの対策が必要でしょう。

 しかし、政治的な力学上、要介護者や障害者は弱い立場です。選挙で票になるのは元気な高齢者やこれから老後を迎える人たち。要介護者や障害者の声はなかなか届かないようです。

 思い切って全面オートメーション化した最先端の施設を都心で開発しても良いかもしれません。先端的な研究開発の場として特区などを利用し、企業の参入を呼び込めばタワマン包囲網も崩せる可能性があります。

 

 

 

 

サ付き高齢者住宅の囲い込み問題─関係居宅はケアプランチェックの準備を

 

サ付きの介護費が特養を超える

 

 サービス付き高齢者住宅(特定の指定なし)に入居している要介護3以上の利用者の介護費が、特別養護老人ホームの要介護3以上の入居者の介護費よりも高いという調査結果が大阪府で出されました。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shakaihoshoukaikaku/wg_dai23/shiryo1-1.pdf

「大阪府における介護施策の現状と課題、対応の方向性について」P11参照

 

 これに対して国は「囲い込み」の問題があるとして、次回の報酬改定で対策を講じたいという意向を示していますが、どのような対策を講じるのかは不明です。

 

 この問題のポイントは、サービス付き高齢者住宅は居宅サービスであり、在宅と同様、訪問介護や看護を利用しながらケアを受けるのだから、在宅介護並みの介護費に収まらなければおかしいということです。

 

 それが大阪府では在宅介護費はおろか施設介護費よりも高くなっているということです。これでは本末転倒でしょう。

 

 

この結果、何か引っ掛かる

 

 しかしこの調査、簡単にそのまま受け取れないものがあります。

 

 たとえば、平成28年の要介護5の居宅サービス利用者の平均介護給付額は25万円程度で30万円には届きません。

 

 特養は30万円前後ですから単純に比べれば、居宅サービスを利用したほうが断然、安上がりだという理屈になります。

 

 しかし、例えば独居の要介護5の利用者が、サービス付き高齢者住宅に入居し、毎日午前と午後に1時間ずつ訪問介護(身体)を利用し、さらに、訪問看護や訪問入浴を利用すると介護費は30万円を超えて、限度額近くまで行ってしまいそうです。

 

 通常のケアプランでは特養並みにお金がかかるのは避けられないような気がします。

 

 何か変です。

 

 

カラクリは家族介護コスト

 

 サービス付き高齢者住宅の入居者の多くは独居の高齢者(もしくは老夫婦)であり、家族の援助がなかなか受けられないということを考えなければなりません。

 

 一人暮らしの重度要介護者の、居宅サービス費の平均利用額のデータが無いので、明確な比較はできませんが、先に挙げた約25万円という居宅サービスの平均額には家族の助けが含まれています。家族同居の要介護5の場合、毎日の訪問介護は必要ない場合もあるでしょう。その分、居宅サービスの平均額は低く抑えられているのでしょう。

 

 

一部、過剰なサービスはある

 

 確かに、夜間の訪問介護が必要の無い人に夜間の割り増しサービスがプランニングされていたり、家事援助が身体介護で算定されていたり、一部、不適切なサービス提供があるとは考えられます。

 24時間のサービス体制は入居者にとっては安心ですが、夜間の身体介護がどこまで必要かは議論があると思います。宿直スタッフが配置されている場合、あまり必要の無い夜間の訪問介護を提供している例は多いかもしれません。

 

 とはいえ、介護給付費の算定構造上、独居の高齢者、特に要介護3以上の重度利用者の給付費は、特養並みになるのは避けられないのではないでしょうか。

 

 つまり、独居の利用者の介護給付費は居宅も施設も変わらない。ということです。

 

 そのように算定構造を作っているのは国自身であり、それを改善するとなると、居宅介護費を減算するしかないような気がします。しかし、実際それは無理でしょう。

 

 

自治体によるケアプランチェックが先

 

 いきなり算定構造を云々するよりも、まず、サービス付き高齢者住宅に入居する利用者のケアプランチェックを、自治体がしっかりやることが重要でしょう。

 

 それを実施しないで給付費のマイナス改定は行えないと考えます。もし行ったら乱暴すぎますし、まじめにサービスを提供している事業所にとっては大打撃です。

 

 次期改定で何か対策をするにしても、まずケアプランチェックを実施してからであり、従って、筆者は近いうちに、都道府県や区市町村に対してその種の通達や指示が出されると考えます。

 

 

サ付きの居宅介護事業所は準備を

 

 サービス付き高齢者住宅の利用者のケアプランを作成している、居宅介護事業所はその点を考慮して、ケアプランの自己点検をしっかりしておく方が良いでしょう。不要なサービスを提供していないか自治体のチェックが入ります。

 

 合理的なケアプランにより、給付費が居宅サービス費の平均額を超えていてもそれは仕方がありません。

 

 おそらくその利用者は独居であり、家族介護の助けを得られず、外部サービスに頼らざるを得ないわけですから。

 

 

現状、特養のコストより少しでも低ければ可ではないか

 

 今後、全国調査でどのような結果が出るかわかりませんが、特養のコストよりも少しでも低ければそれで可としなければならないような気がします。

 

 独居の高齢者は、今後さらに増えることになります。家族の援助は低減し、居宅サービス費の平均額も上がってくるでしょう。特に都市ではその傾向が強く表れます。

 

 独居の重度要介護者の給付費は特養も居宅も同じ、という考え方で、居宅の介護報酬に手を付けないことを祈ります。

 

 そもそも、サービス付き高齢者住宅は建設設備費や用地確保の面で、特養よりも税負担のコストメリットが大きいはずです。その点を加味して全体的な政策を考えてほしいと考えます。