訪問介護職の賃金アップ術2-「在宅型サ責」の働き方

1 現場中心の働き方─事業所への出勤は原則無し

 

① 事業所に出勤するのは、月数日程度

 ◎自宅から訪問先に直行直帰の就業形態が基本です。月に数回、事業所の研修やカンファレンス、事例検討会などのために、事業所に出勤します(特定事業所加算の要件になります)。

 研修はリモートでも可能ですが、できれば月に1回ぐらいはスタッフが顔を合わせて直接フリーな意見交換の場を設けた方が、仕事のガス抜きにもなり健全であると考えます。

 ◎できれば資格は介護福祉士以上、訪問介護実務経験3年以上

 

② 業務管理・情報共有はIT機器を活用

 ◎アセスメント・訪問介護計画書・サービス提供記録等は電子化(保存管理も)。

 ◎自宅に業務用PC(ファックス受信ソフトインストール)とプリンタ(スキャナ機能のあるもの)を支給設置(自宅に事業所機能の一部を整備)

 ◎訪問にはタブレット(通信SIM付)を携行。利用者のサインはタブレット入力でもOK。

 ◎訪問介護の提供記録ソフトにはGPS機能により、訪問実績が記録できるものを利用。

 ◎紙の使用は利用者交付するもの以外、最低限に抑える。

 

③ 営業・利用者獲得は自ら行う

 ◎ケアマネージャーからの業務依頼を直接受けられるようにする。事業所には事後報告(システム入力による)。

 ◎訪問日調整も自己完結で行う。

 ◎研修を徹底する。(就職後6か月間は同行スタートアップ研修。その後毎月1回)

 ◎事業所はサービス品質の評価を行う。利用者への満足度調査をネット経由で行えるように工夫する。認知症など判断が難しい利用者に対しては、3か月に1度、事業所の別の担当者がモニタリング訪問を行う。

 ◎担当サ責が急病や休暇などにより、訪問ができない場合は、事業所がフォローアップする(他の在宅型サ責に仕事を回したり、事業所管理者や他のヘルパーが対応できるようにする)。

 

④ その他移動手段など

 ◎訪問先への移動手段は、車・自転車・徒歩など選択自由。ただし、事業所の加入する損害保険でカバーできるようにする。駐車料金などは各事業所規定で決める。

 ◎折り畳み電動キックボードの活用

 都会や半径5キロ以内程度の比較的近距離の移動に向いている。

 訪問先で折り畳んで玄関などに置かせてもらえれば、駐車・駐輪禁止の場所でも利用が可能。駐輪場がいらない。電車に持ち込み可能。機動力は電動自転車並み

 

2 在宅型サ責の給与概算

 

 ≪東京都の場合≫

 給付:身体介護1時間:5,000円

 稼働時間:1日5時間程度訪問

 稼働日数:月20日稼働

 

  5,000円×5h×20日=500,000円

 

  • 事業所の取り分:20%=100,000円
  • 在宅サ責の収入:400,000円(年収:4,400,000円)

  ※年収440万円は日本人の平均年収。特定処遇改善加算の対象者。

 

 これはあくまで、週休2日で残業が無い労働状況です。

 サ責本人が働きたければ、土日や夜間の訪問を増やすことで、さらなる収入アップが図れます。つまり、稼ぎたい人は自ら仕事を増やすことが可能になります。逆に子育てなどで仕事を少なくしたい人はライフワークバランスを図れます。

 

3 事業所の役割

 事業所はマネージャー(管理者)として在宅サ責の仕事のマネジメントが仕事になります。

たとえば、見境なく利用者を獲得して無理な長時間労働をしているサ責がいればブレーキをかけなければなりません。

 

 また、就職当初は、担当利用者はいないですから、収入を保証する必要があります。

 例えば、就職後、半年程度は固定給にし、事業所付きのサ責として、フォローアップ要員として動いてもらうのも良いでしょう。

 その際に同行スタートアップ研修を徹底し、サービス品質を保証する必要があります。

 

 残業無し、週休2日で年収440万円を保証できれば、一般企業の賃金に十分対抗できます。また、男性で稼ぎたい人にも対応できますので、人材確保がしやすいでしょう。

 

★この就労システムの肝は事業所のマネジメント力です。

 いかにIT技術を駆使して業務管理、サービス保証ができるかがポイントになります。

 

 なお、この事業モデルはケアマネ事業所にも応用できます。

 但し、ケアマネの場合、担当利用者に上限があるのと、障害福祉は担当できないので給付を伸ばせません。訪問介護ほどダイナミックに給与を上げることは難しいかもしれないですが、給与は増やせなくても余裕のある就労環境を提供できますから、人材確保には大変メリットがあると思います。

 

4 2023年以降もさらなる人材不足が

 

 欧米諸国の金利上昇、それに伴う円安、輸入価格の上昇により、日本の物価は今後も高くなる予想です。これに対し、各企業は労働者の賃金を加速させています。

 この労働市場環境は介護・福祉業界にとって非常にキツイ状況です。

 ただでさえ、一般企業との賃金格差が大きく、人手不足が恒常化している状況に、他企業のさらなる賃上げによって、労働者は介護職に集まらなくなっています。

 特に賃金の高い都市部において深刻です。介護が受けられない介護難民がさらに増加することが懸念されます。

 

 現状では大幅な給付の上昇は見込めません。介護・福祉事業者はIT技術の活用と就労環境の改善でこれに対抗するしか術はないでしょう。

 

訪問介護職の賃金アップ術1

1 人手不足にもがく日本の介護─厚労省の企みは

 厚生労働省は通所介護と訪問介護を一体化した介護サービスを創設する方針を示しました。これは介護の人手不足で、特に訪問介護のサービスが提供できない事態が多く起こっていることに対応するものでしょう。

「訪問+通所」の新介護サービスは地域を救うか 最大の課題は訪問の人材確保=結城康博

 要介護1・2のサービスを区市町村に移管するにあたって、通所介護と訪問介護を柔軟に一体的なサービスとして提供できるようにするためでもあるかもしれません。

 

 国は、区市町村の保険者としての責任と能力の強化を目指しています。

 これは区市町村が保険利用者へのサービスを、いかに効率的に提供できるようにするかを前提にしており、そのための創意工夫がやりやすいようにしているのだと考えます。

 しかし、通所介護の人員が余っているわけではありませんので、人手不足が解消しない限り、サービスが提供できない状況はあまり大きく改善しないと考えます。

 

 2022年、介護事業所の倒産件数が最高を示したのは、コロナを原因とするだけでなく、人手不足が大きな要因です。

 サービス提供責任者などの役付きの職員が退職してしまえば、介護事業は継続できません。今後は、物価と賃金の上昇により、事業所の賃料や人件費が上がり、さらに経営は困難になることが予想されます。

 

2 障害福祉分野は特に深刻

 一方、障害者福祉の分野では、障害者権利条約の批准内容に対して国連から複数の勧告を受け、日本の障害者福祉行政には問題があり、障害福祉の後進国であるということが明らかになりました。

https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/474044.html「障害者権利条約  国連勧告で問われる障害者施策」

 国家予算の半部が社会保障費である日本では、国連が目指すような障害者福祉は、お金がなくて到底は無理というのが筆者の考えですが、それに関しては以下のブログで書いていますので、参照ください。

https://carebizsup.com/?p=1501「これからの障害者福祉サービスの動向」

 

 介護にしても障害福祉にしても結局は税収・予算が少なく、人件費を上げられないのがすべての原因ですが、国民は税金を上げることには消極的です。

 おそらく、EUのように消費税15%にするぐらいの勇気が無ければ、理想的な社会保障サービスは実現しないでしょう。

 

 筆者は自治体などの行政対応の実感から、国が高齢者介護よりも障害者福祉にお金をかけたくないのだなという志向を感じています。

 具体的には、障害者事業への参入障壁が、高齢者介護よりも高く、例えば、高齢者の介護事業の指定申請は簡便になってきているのに対し、障害福祉の指定申請の手続きが厳しく、煩雑になってきている実態があります。

 

 さらに政治的には高齢者介護に比べ、障害者福祉は票になりにくいという実態があります。参院選の比例区のような選挙システムを使って、当事者がもっと声を挙げなければ、日本はますます、障害者に冷たい国になってしまいます。

 

3 人手を増やさずサービス量を増やす必要

 さて、とはいえ、適切なサービスが受けられない高齢者や障害者が増えていくことは悲しいことです。

 国は「互助」「自助」の強化を謳っていますが、ボランティアなどのインフォーマルなサービスによる互助は、日本ではあまり期待できません。

https://carebizsup.com/?p=1551

「日本人のチャリティー参加は世界最低基準──日本の「互助」は機能しない」

 

 従って、現状の枠組みで、サービス量を増やす工夫を考えてみたいと思います。特に訪問介護(障害居宅介護)の分野で考えてみましょう。

 一つの方法として、独立訪問介護士という考え方がありますが、これは以下のブログでまとめています。

https://carebizsup.com/?p=1493「独立訪問介護士の可能性」

 しかし、これを実現するためには大幅な法改正が必要なので、現状制度でできることを考えます。

 

4 「在宅型サービス提供責任者」という就労システム

 現状、サービス提供責任者(サ責)は訪問介護と障害居宅に共通の職務であり兼務も可能です。高齢者では担当は40人程度という制限がありますが、障害居宅では特に制限はありません。

 資格としては実務者研修修了以上であり、利用者のアセスメント、訪問介護計画書の作成、ケアマネージャーとの調整が主な任務です。1事業所に最低、一人の常勤者が必要です。

 

 在宅型サービス提供責任者は、常勤のサ責が一人以上いることを前提に、主に在宅から現場に直行直帰で勤務するサ責です。

 

 通常のサ責は担当の利用者に対するサービスに関して責任を負います。具体的には実際に訪問するヘルパーの業務管理が主な仕事になります。

 人手不足の事業所の場合、ヘルパーの人数が足りず、サ責自らサービス提供に訪問しているケースも多いでしょう。しかし、理想としては、実際に訪問するのはとう登録ヘルパーなどで、サ責は事業所に居て、各ヘルパーの業務を管理するマネージャー的役割が求められていました。

 

 「在宅型サ責」は、従来のサ責業務と違い、サービスそのものもサ責が行う業務方法です。もちろんヘルパーを管理する業務を行っても良いのですが、できればサービスと提供責任を自己完結的に集約するやり方の方がメリットは大きいと考えます。

 

 次回は「在宅型サ責」の具体的な働き方を説明します。

介護保険制度改正 訪問介護を中心に(その2)

Ⅲ 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)

 

こちらでは、「現状・基本的な視点」として以下のような状況を踏まえています。

①    都市部の介護ニーズ増大、地方部は高齢化のピークを越え、高齢者人口が減少に転じる地域もある。

②    高齢者向け住まい(有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅)が都市部を中心に多様な介護ニーズの受け皿となっている。

 

 地域包括ケアシステムについては以下の点に留意して推進することが検討されています。

◎居住系サービス、訪問介護等の在宅サービス連携を強化

◎「介護離職ゼロ」の実現に向けて、介護施設の整備を進めるとともに、在宅サービスの限界点を高めていく

◎住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の質を確保、事業者に係る情報公表の取組を充実「外部の目」を入れる取組

◎看取り期にある者に対応する在宅の限界点を高めていく

◎介護老人保健施設について、在宅復帰・在宅療養支援の機能を更に推進

◎在宅医療・介護連携推進事業について、医師会等関係機関や医師等専門職と緊密に連携、ICT やデータ利活用

 

 これまで通り、施設介護ではなく在宅介護を中心に、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を積極的に活用するイメージでしょう。

 

 

Ⅳ 認知症施策の総合的な推進

 

 65 歳以上高齢者の約5人に1人が認知症になると見込まれていることを前提に、これまで通り、重点的な施策として推進する予定です。

 基本的なポイントはこれまでの施策の拡充となります。

 

◎認知症施策推進大綱に沿って、認知症バリアフリー・予防・早期発見対応・介護者(家族)支援

◎認知症の人が、尊厳と希望を持って認知症とともに生きるまた、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる「共生」の実現

◎認知症になった方が働き続けられる環境整備

◎住み慣れた地域で普通に暮らし続ける

◎「通いの場」をはじめ、高齢者の身近な場における認知症予防、「通いの場」でスクリーニング

◎かかりつけ医、地域包括支援センター、認知症初期集中支援チーム、認知症疾患医療センター等の体制の質の向上、 連携強化

◎介護者(家族)への支援、認知症カフェ、家族教室や家族同士のピア活動、職場における相談機能の充実

◎認知症高齢者グループホームのユニット数や運営規模の弾力化

 

 

Ⅴ 持続可能な制度の構築・介護現場の革新

 

 2025年度末までに、年間6万人程度の介護人材確保が必要なことを前提に、人材確保と業務効率化による持続可能な事業としての体制整備が中心ですが、人員確保は改善が難しい状況が見えるようです。

 

 一方、今改正の目玉の一つとして、「非営利連携法人制度」の創設があります。

 これは、社会福祉法人を中核として、地域の介護事業者が連携し、ロボット・ICT 等の共同購入、人材確保・育成、事務処理の共同化・プラットフォーム化を進めるものです。

 国としては介護の経営を大規模化させ、人材や資源を有効に活用し、効率化と介護職の処遇改善を進めたい意向があるのでしょう。

 しかし、この動きは、民間事業者など多様な参加者という介護保険制度の理念とは逆行します。確かに、介護福祉も電力や交通などと同じように大規模な公共事業体として組織化ができれば、職員の身分は安定し、いろいろな問題が解決するかもしれません。しかし、一方で大組織病のような非効率な部分が沢山出てきてしまうでしょう。少し虫がよい話かもしれません。

 

 その他の施策は次のようになります。

 

◎人手不足の中でも介護サービスの質の維持・向上を実現するマネジメントモデルの構築、業界のイメージ改善

◎業務の洗い出し・切り分けを行った上で、ロボット・センサー・ICTの活用と元気高齢者の活躍を促し

◎中学生、高校生等が進路を考えるにあたって、介護職の魅力を認識し、仕事として選択をしてもらえるよう、学校や進路指導の教員などへの働きかけ

◎「富士山型」の賃金構造を目指し、制度の整備を進める

◎潜在介護福祉士現場に戻ってもらうための取組

◎離職防止・定着促進の相談支援、小規模事業者への取組支援

◎介護現場を地域全体で応援する仕掛けづくり

◎外国人 介護人材の受入れを着実に推進

(アジア各国の急速な高齢化のため、外国からの介護人材の受け入れ拡大が安定的な人材確保策とならないとの意見あり)

◎介護分野の文書の削減・標準化等を進め、現場の事務作業量を削減

(個々の申請様式・添付 書類や手続きに関する簡素化、自治体のローカルルール解消、ICT 活用)

 

 以上、これまでにも散々取り組んできた内容ですが、一向に効果が見えない感じがあります。日本全体がコロナ以前の人材不足状況に戻るとすれば、いよいよ担い手不足は深刻になるでしょう。

 

 

🔳今回議論されたが見送られた施策

 

 ケアマネジメントに関する給付の見直し=有料化・利用者負担

 

 社会保険料の負担増により中小企業や現役世代の負担は限界に達しており、制度の持続可能性を確保するため、能力のある人には負担していただくことを検討していましたが、以下のような意見もあり、今回は見送られています。

◎有料だとサービス利用をやめてしまう人が出てしまう

◎ケアマネジャーは保険者の代理人、市町村の代わりを担う立場であり利用者負担を求めることになじまない

◎有料化によりセルフケアプランが増加すると自立につながらないケアプランが増える

◎障害者総合支援法における計画相談支援との整合性

 

軽度者に対する給付の見直し(要介護1・2サービスの地域支援事業への移行)

 要支援1~要介護2の利用者への生活支援の在り方を考えた場合、強度の違いはあれ、予防の視点は欠かせないため、一体的なサービス提供を図りたい旨の意向が保険者などから上がっており、移行が検討されてきました。

社会保障審議会 介護保険部会(第90回)令和2年2月21日<介護保険制度の見直しに関する参考資料>より

 

 上記調査から、総合事業では制度改正前の介護予防サービスと同じ基準で提供されるサービスの割合が大きく、市町村の実施状況を見ても、住民主体のサービスなどの多様なサービスが実施されている市町村数は6~7割にとどまっています。

 総合事業から撤退する訪問介護事業所も多い中、そもそも、住民主体のサービスなどを介護事業に組み込むことは無理があるのかもしれません。サービスの母体となる介護事業所が回避しているためサービスが伸びないと考えます。

 

 国の意向としては、要介護2までの生活援助は身体介護から切り離し、安価で柔軟な住民主体のサービス(ボランティアや民間の家事援助サービスなど)にしたいという意向が見えます。

 最近は多様で比較的安価な民間家事サービスも増えています。例えば、区市町村がこうしたサービスを利用できるクーポン券などを発行し、家事援助を提供することも考えられます。

 しかし、ここで重要なのは「生活援助=家事援助」と定義していないことです。

 介護は広い意味で生活援助であり、その中には身体介護も家事援助も含まれています。生活援助から家事援助を切り離す方法が確立していない以上、要介護2までの総合事業への移行は難しいかもしれません。

 もし強引に導入しても、上述のような家事援助サービスを適切に提供できる体制ができていない場合は、現場がかなり混乱すると思います。

 

 この点について、審議会では以下のような意見が出されています。

◎見直しは、将来的には検討が必要であるが、総合事業の住民主体のサービスが十分ではなく、地域ごとにばらつきもある。まずは現行の総合事業における多様なサービスの提供体制の構築等を最優先に検討すべき

◎総合事業の課題である実施主体の担い手不足が解消される見込みもない中では市町村も対応できず、現段階での判断は現実的でない

◎要介護1・2の方は認知症の方も多く、それに対する体制が不十分

◎訪問介護における生活援助サービスは身体介護と一体的。切り離した場合の状態悪化が懸念

◎利用者の負担増となることを懸念。要介護1・2の方は重度化防止のために専門職の介護が必要

 

以上

 

 

介護保険制度改正 訪問介護を中心に(その1)

 

 

 来年4月、改正介護保険法と介護報酬改定の施行が予定されています。

 コロナによる影響を勘案した報酬の改正も順次届いていますが、全体としてはどのような改正になるのでしょう。

 今回は訪問介護事業を中心に注目すべきポイントについて解説します。

 

「重度化防止」と「効率化」が明確に

 

 さて、これまで社会福祉審議会介護保険部会でどのような議論されてきたのでしょうか。

 同会は令和元年12月27日に「介護保険制度の見直しに関する意見 (案) 」を発表しています。

 

 先に大きな方向性を述べてしまうと、

  • 介護予防と総合事業を推進させ、重度化を防ぎたい(社会保障費の抑制)。
  • その際、主役は保険者である区市町村であり、医療連携も含めて、保険者強化を進めていきたい。
  • 人材不足にはできれば効率化で対抗したい(単純な人員増加は難しい予測)。

 

 このような意向が強く出ているように思われます。

 

 しかし、そうした方向性のコンセンサスはあるにしても、現状の実施体制では未熟な部分が多く、ケアプランの有料化や要介護1・2の総合事業への移行などは見送られています。

 また、各保険者に対しては、国や都道府県が支援をしながら理想の方向に向かっていきたいという意向でしょう。

 そのため、今改正は、基本的にはこれまでの流れを踏襲しつつ、経過的な改定内容となっています。おそらくは、コロナ禍において大きな改定は、現場や自治体の負担が大きいことも配慮されているかもしれません。

 

 ただし、今回の議論の内容が今後の介護保険制度の方向性を示していますから、介護事業者にとって内容をチェックしておくことは大変重要です。特に訪問介護事業者にとって要支援のサービスがどうなるのかは注目しなければなりません。

 収益性の低さから、現状で総合事業から撤退している事業者もあります。現状の自治体やボランティア任せの介護予防ではとても持ちません。

 ビジネスとして介護予防をどう成り立たせるかが、今後の大きな課題であることが、浮かび上がっていると言って良いでしょう。

 

 

今回は保険者の機能強化がメインか

 

 そうした状況を踏まえて議論の内容を見ていきましょう。

 

 まず、初めに「地域共生社会の実現」というテーマが議論されています。

 「地域共生社会」とは、高齢者介護、障害福祉、児童福祉 、生活困窮者支援などの制度・分野の枠や、「支える側」、「支えられる側」という従来の関係を超えて、人と人、人と社会がつながり、助け合いながら暮らしていくことのできる社会です。介護保険制度の前提となる日本の福祉社会の方向性になります。

 

 社会保障審議会 介護保険部会(第90回)令和2年2月21日「<参考:介護保険制度改正の全体像> (検討結果をまとめた全体のイメージ)

 

 続いて、「介護保険制度の見直しに関する意見 (案)」の目次から見いだされる大きな項目は以下の通りになります。

 

Ⅰ 介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)

Ⅱ 保険者機能の強化

Ⅲ 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)

Ⅳ 認知症施策の総合的な推進

Ⅴ 持続可能な制度の構築・介護現場の革新

Ⅵ その他の課題

 

 それぞれについてポイントをピックアップしてみます。

 

Ⅰ 介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)

 

「通いの場」についいて集中的に議論されています。

◎住民主体の通いの場の一層推進

◎通いの場に医療等専門職の関与(生活習慣病の重症化予防)

◎参加しない高齢者の把握と支援

 

 デイサービスとは異なり、地域の高齢者が日々積極的に集う場を地域の中に作り、運動や生きがいづくり、健康管理を行う取り組みですが、各保険者の創意工夫が求められます。

 

 その他、以下のような論点が示されています。

◎ボランティアのポイント付与、有償ボランティアの推進、企業との連携

◎家族や現役世代が予防的な意識を持てるような周知広報の強化

◎総合事業の対象者が介護保険の給付が受けられることを前提としつつ、弾力化を行う

◎国がサービス価格の上限を定める仕組みについて、市町村が創意工夫を発揮できるようにするため、弾力化を行う。

◎高齢者が何らかの支援が必要な状態になったとしても就労的活動に参加

◎ケアプランにインフォーマルサービス推進

◎ケアマネジャーの処遇の改善と質の確保

◎ケアマネジャーの事務負担軽減

◎地域包括支援センターの積極的な体制強化等を行う市町村について、保険者機能強化推進交付金等によりその取組を後押し。

 

 これらの施策は基本的には保険者の努力や工夫が必要な分野です。その意味で、保険者の機能強化が重要ということになります。

 

 

Ⅱ 保険者機能の強化

 

 先に述べました通り、介護予防を保険者の責任として実施していく意味で、その強化が大きな課題です。

 また、保険者同士を競争させ、成績の良い自治体には予算を増額し、ベストプラクティス(良い取り組み)を全国に広めていくことを目論んでいます。

 

 ポイントは以下の通りです。

◎保険者機能強化推進交付金において取組評価

◎保険者機能強化推進交付金予算増額

◎評価指標、判断基準を明確化。

◎取組が遅れている市町村にペナルティーを与えるのではなく、都道府県による適切な支援。

◎要介護認定率などのアウトカム評価の方法確立

◎保険者の取組の達成状況の「見える化」推進

◎関連のデータ収集と事業者等負担軽減

 

次回に続く

 

介護保険制度改正 訪問介護を中心に(その2)

 

続きです。

 

Ⅲ 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)

 こちらでは、「現状・基本的な視点」として以下のような状況を踏まえています。

  • 都市部の介護ニーズ増大、地方部は高齢化のピークを越え、高齢者人口が減少に転じる地域もある。
  • 高齢者向け住まい(有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅)が都市部を中心に多様な介護ニーズの受け皿となっている。

 

 地域包括ケアシステムについては以下の点に留意して推進することが検討されています。

◎居住系サービス、訪問介護等の在宅サービス連携を強化

◎「介護離職ゼロ」の実現に向けて、介護施設の整備を進めるとともに、在宅サービスの限界点を高めていく

◎住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の質を確保、事業者に係る情報公表の取組を充実「外部の目」を入れる取組

◎看取り期にある者に対応する在宅の限界点を高めていく

◎介護老人保健施設について、在宅復帰・在宅療養支援の機能を更に推進

◎在宅医療・介護連携推進事業について、医師会等関係機関や医師等専門職と緊密に連携、ICT やデータ利活用

 

 これまで通り、施設介護ではなく在宅介護を中心に、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を積極的に活用するイメージでしょう。

 

 

Ⅳ 認知症施策の総合的な推進

 

 65 歳以上高齢者の約5人に1人が認知症になると見込まれていることを前提に、これまで通り、重点的な施策として推進する予定です。

 基本的なポイントはこれまでの施策の拡充となります。

 

◎認知症施策推進大綱に沿って、認知症バリアフリー・予防・早期発見対応・介護者(家族)支援

◎認知症の人が、尊厳と希望を持って認知症とともに生きるまた、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる「共生」の実現

◎認知症になった方が働き続けられる環境整備

◎住み慣れた地域で普通に暮らし続ける

◎「通いの場」をはじめ、高齢者の身近な場における認知症予防、「通いの場」でスクリーニング

◎かかりつけ医、地域包括支援センター、認知症初期集中支援チーム、認知症疾患医療センター等の体制の質の向上、 連携強化

◎介護者(家族)への支援、認知症カフェ、家族教室や家族同士のピア活動、職場における相談機能の充実

◎認知症高齢者グループホームのユニット数や運営規模の弾力化

 

 

Ⅴ 持続可能な制度の構築・介護現場の革新

 

 2025年度末までに、年間6万人程度の介護人材確保が必要なことを前提に、人材確保と業務効率化による持続可能な事業としての体制整備が中心ですが、人員確保は改善が難しい状況が見えるようです。

 

 一方、今改正の目玉の一つとして、「非営利連携法人制度」の創設があります。

 これは、社会福祉法人を中核として、地域の介護事業者が連携し、ロボット・ICT 等の共同購入、人材確保・育成、事務処理の共同化・プラットフォーム化を進めるものです。

 国としては介護の経営を大規模化させ、人材や資源を有効に活用し、効率化と介護職の処遇改善を進めたい意向があるのでしょう。

 しかし、この動きは、民間事業者など多様な参加者という介護保険制度の理念とは逆行します。確かに、介護福祉も電力や交通などと同じように大規模な公共事業体として組織化ができれば、職員の身分は安定し、いろいろな問題が解決するかもしれません。しかし、一方で大組織病のような非効率な部分が沢山出てきてしまうでしょう。少し虫がよい話かもしれません。

 

 その他の施策は次のようになります。

 

◎人手不足の中でも介護サービスの質の維持・向上を実現するマネジメントモデルの構築、業界のイメージ改善

◎業務の洗い出し・切り分けを行った上で、ロボット・センサー・ICTの活用と元気高齢者の活躍を促し

◎中学生、高校生等が進路を考えるにあたって、介護職の魅力を認識し、仕事として選択をしてもらえるよう、学校や進路指導の教員などへの働きかけ

◎「富士山型」の賃金構造を目指し、制度の整備を進める

◎潜在介護福祉士現場に戻ってもらうための取組

◎離職防止・定着促進の相談支援、小規模事業者への取組支援

◎介護現場を地域全体で応援する仕掛けづくり

◎外国人 介護人材の受入れを着実に推進

(アジア各国の急速な高齢化のため、外国からの介護人材の受け入れ拡大が安定的な人材確保策とならないとの意見あり)

◎介護分野の文書の削減・標準化等を進め、現場の事務作業量を削減

(個々の申請様式・添付 書類や手続きに関する簡素化、自治体のローカルルール解消、ICT 活用)

 

 以上、これまでにも散々取り組んできた内容ですが、一向に効果が見えない感じがあります。日本全体がコロナ以前の人材不足状況に戻るとすれば、いよいよ担い手不足は深刻になるでしょう。

 

 

今回議論されたが見送られた施策

 

 ケアマネジメントに関する給付の見直し=有料化・利用者負担

 社会保険料の負担増により中小企業や現役世代の負担は限界に達しており、制度の持続可能性を確保するため、能力のある人には負担していただくことを検討していましたが、以下のような意見もあり、今回は見送られています。

◎有料だとサービス利用をやめてしまう人が出てしまう

◎ケアマネジャーは保険者の代理人、市町村の代わりを担う立場であり利用者負担を求めることになじまない

◎有料化によりセルフケアプランが増加すると自立につながらないケアプランが増える

◎障害者総合支援法における計画相談支援との整合性

 

 軽度者に対する給付の見直し(要介護1・2サービスの地域支援事業への移行)

 要支援1~要介護2の利用者への生活支援の在り方を考えた場合、強度の違いはあれ、予防の視点は欠かせないため、一体的なサービス提供を図りたい旨の意向が保険者などから上がっており、移行が検討されてきました。


 社会保障審議会 介護保険部会(第90回)令和2年2月21日<介護保険制度の見直しに関する参考資料>より

 

 上記調査から、総合事業では制度改正前の介護予防サービスと同じ基準で提供されるサービスの割合が大きく、市町村の実施状況を見ても、住民主体のサービスなどの多様なサービスが実施されている市町村数は6~7割にとどまっています。

 総合事業から撤退する訪問介護事業所も多い中、そもそも、住民主体のサービスなどを介護事業に組み込むことは無理があるのかもしれません。サービスの母体となる介護事業所が回避しているためサービスが伸びないと考えます。

 

 国の意向としては、要介護2までの生活援助は身体介護から切り離し、安価で柔軟な住民主体のサービス(ボランティアや民間の家事援助サービスなど)にしたいという意向が見えます。

 最近は多様で比較的安価な民間家事サービスも増えています。例えば、区市町村がこうしたサービスを利用できるクーポン券などを発行し、家事援助を提供することも考えられます。

 しかし、ここで重要なのは「生活援助=家事援助」と定義していないことです。

 介護は広い意味で生活援助であり、その中には身体介護も家事援助も含まれています。生活援助から家事援助を切り離す方法が確立していない以上、要介護2までの総合事業への移行は難しいかもしれません。

 もし強引に導入しても、上述のような家事援助サービスを適切に提供できる体制ができていない場合は、現場がかなり混乱すると思います。

 

 この点について、審議会では以下のような意見が出されています。

◎見直しは、将来的には検討が必要であるが、総合事業の住民主体のサービスが十分ではなく、地域ごとにばらつきもある。まずは現行の総合事業における多様なサービスの提供体制の構築等を最優先に検討すべき

◎総合事業の課題である実施主体の担い手不足が解消される見込みもない中では市町村も対応できず、現段階での判断は現実的でない

◎要介護1・2の方は認知症の方も多く、それに対する体制が不十分

◎訪問介護における生活援助サービスは身体介護と一体的。切り離した場合の状態悪化が懸念

◎利用者の負担増となることを懸念。要介護1・2の方は重度化防止のために専門職の介護が必要

 

 

介護福祉業の人材確保対策 その2

 

 今回は、前回の就労環境を整えても、どのように求人でアピールすればよいのかを考えたいと思います。

 その前に、前回の説明の補足として以下のテキストもご参照ください。

「訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術」

 上述のような努力を事業所が実践するということが前提の求人の在り方です。

 

4 子育てママにアピールする求人広告の在り方

 求人広告としては前述の求人対策の内容をアピールします。

 若い主婦向けにはやはりネットの求人サイトを利用する方が良いでしょう。

 主婦専用の求人サイトでなくとも、若者が集まりやすい求人サイトに子育てママが働きやすい環境であることを具体的にアピールします。

 また、パート求人広告は地域密着ですから、それぞれの地域の子育て事情を考慮した広告の出し方が必要だと考えます。

 具体的なコピーとしては以下のようなものです。

 ⦿ 保活ママサポート。4月入園に向けた働き方を相談します。

(12月ぐらいに出すと良いでしょう)

 ⦿ 家族の都合で急な休みでも大丈夫

 (管理者やサービス提供責任者が柔軟に対応します)

 ⦿ 未経験無資格の方歓迎。面倒見の良い担当者が一から不安なく働けるように指導します。

 無資格の方に資格を無料で取得してもらえるようにするのは必須です。

 自治体によって補助金や資格取得支援事業がありますので必ず活用しましょう。

 

5 自事業所ホームページの充実

 子育てママ向けの求人だけでなく、すべての求人活動で必要なのが、自事業所のホームページの充実です。

 介護福祉事業所のホームページは中々充実させる暇やお金が無いという方も多いかもしれません。

 自事業所のホームページはご利用者やそのご家族、ケアマネージャーさん向けに作っているかもしれませんが、そうではなく、仕事を探している人向けに作ることが重要です。

 ケアマネや利用者向けに作っても費用対効果から言ってあまり意味はありません。それよりも求人者向けに充実させる方が、人材確保の大きな助けになります。

 ホームページのコンテンツは、サービス内容や事業所の一次情報(住所や電話など)を乗せただけの、一般的で凡庸なホームページでは求人者にはアピールしません。

 求人情報があっても、給与や処遇など一般的な情報しか掲載していなければ、ほとんど引っ掛かってこないでしょう。

 ポイントは「ここで働きたい!」と思わせるホームページ作りです。

 

 筆者は魚釣りが好きです。

 多少語弊があることを覚悟して言いますが、中小企業の人材募集は魚釣りに似ていると思います。

 特に疑似餌を使うルアーフィッシングは、いかに魚(応募者)に餌(職場)をアピールするかが重要であり、凡庸なルアーには見向きもしませんし、同じルアーを使い続けると、見切られてしまい、ほとんど食いつかなくなります。

 つまり、魚にいかにルアーを魅力的に見せるかが釣果に繋がるのです。

 求人も同じで、処遇や職場の雰囲気など応募者にいかにアピールするかが成果に繋がります。

 そもそもあまり事業所ごとに職場の差別化が測りにくいのが、介護福祉事業の宿命です。

 職種にしても給与にしても、あまり変わり映えの無い餌が大量に世の中に漂っており、求人者としてはどれに食いつけばよいのか判断ができない状態なのです。

 ちなみに、人材紹介会社などは、大きな巻き網漁船のようなもので、巨大な網を使って大量に人材を確保しようとします。そのために、広告費に膨大な経費を使い、少しでも多くに人の目に留まるようにします。

 アルバイトなどの求人情報会社が頻繁にテレビCMを流しているのはそのためです。顧客である人材募集企業に少しでも多くの求人応募者を集めるためには、相当の広告が必要になります。

 しかし、中小企業ではそんなに広告費を使うことはできません。

 しかも、募集の対象者は事業所の周辺地域に住む人達だけです。大きな網は必要ありません。少ないターゲットに的確に届く求人が必要ですが、狭い地域といえどもターゲットはどこにいるか分かりませんので、ネット上手に活用して、アクセスしてくれるのを待つしかないのです。

 

6 どのように自社サイトに誘導するのか

 介護業界で長く働いている人であれば、給与や休日など処遇関係の情報を見て、実体験から職場の良し悪しをある程度判断できるかもしれません。特に正社員で働きたい人は、ハローワークなどの詳細な求人情報を見て検討するでしょう。

 しかし、介護業務の経験の無い、ましてや無資格の人にとってどのような事業所が自分に合っているかなど分かる由もありません。

 特にパートの若いママさんなどの場合、フィーリングやライフスタイルに合っているかが重要になりますので、文字による情報よりもビジュアルや動画などの情報が重要になります。

 最近、膨大なCM展開をしているindeedという求人検索サイトがあります。

 こちらは今までの求人サイトと違い、例えば「足立区 介護 パート」などと検索すると、足立区周辺の介護のパート求人を検索して出してくれます。

 Googleに検索ワードを入力すれば、該当する求人情報をIndeedが表示してくれるわけです。仕事を探している人はその検索画面から、各求人サイトに行き、求人内容をチェックします。

 ネット上のパート求人情報を地域限定で探している人は、多くの人がこの方法で、情報を探しているかもしれません。わざわざマイナビバイトなどのサイトから地域を限定して探している人は、どんどん少なくなっているでしょう。

 仕事を探している人はそこから、気になった求人情報のサイトにアクセスするわけですが、問題はここからです。

 応募者は求人情報サイトの情報だけで応募することはありません。

 多くの人たちがそのサイトにリンクが貼ってある(もしくは会社名などを検索して)事業所のホームページアクセスするはずです。どんな事業所か知りたいからです。

 この時、開いた事業所のサイトが凡庸なもので、どのような事業所か伝わってこなければ、もう応募することは無いでしょう。

 ここで「この職場で働いてみたい」と思わせることが大変重要なのです。

 お金を沢山出せば、有料求人情報サイトに写真や動画を沢山掲載し、雰囲気を伝えることができますが、いかんせんお金がかかります。

 できるだけ、自社サイトに誘導して雰囲気を伝えるようにすることが重要になります。

 そこで「この職場で働いてみたい」と思われれば応募に繋がります。

 

7 どのようなホームページが採用につながるのか

 では「ここで働きたい」と思わせるホームページとはどのようなものでしょうか?

 いくつかサンプルのリンクを貼っておきます。

 「楽しそう」「若い人が多い」「子育て中でもやっていけそう」などと思ってもらえる工夫が必要です。

 そのために、まず職場の雰囲気が伝わる写真や動画をふんだんに盛り込みましょう。

サンプル

①私が昔働いていた会社です。ペッパー君などを使い職場の楽しい雰囲気が伝わるよう工夫しています。これにより、若い人の応募が増えました。

http://www.best-kaigo.com/

②上と同じ会社ですが訪問看護でママさんナースを募集しています。子育て支援をアピールし小さなお子さんを持つナースが増えました。

http://www.best-kaigo.com/job/nurse-info.html

③こちらは筆者がコンサルをさせて頂いている、訪問介護事業所です。若い人中心のイメージと、子育て支援、障害者ヘルパーの具体的な仕事内容を掲載しています。

先日、未経験の子育てママさんパート二人応募があり大きな戦力になっているようです。

http://sunshine-cs.com/recruit/

 最後に、求人情報サイトはできるだけ切れ目なく利用することをお勧めします。

 できるだけ低価格で長い期間掲載できるサイトが良いでしょう。また、自社ホームページにリンクが貼れるサイトが良いのですが、リンクを貼らせてくれないサイトもありますので注意しましょう。

 Indeedはハローワークのインターネット情報も検索しますので、ハローワークについても3カ月おきに情報を更新し、絶えず求人情報が生きている状態にすることが大切です(3か月以上古い情報は後の方に行ってしまい検索がかかりにくい)。

この章終わり。

 

働きやすい地域職場としての介護・福祉事業所の在り方

 

地域の潜在的介護人材は子育て主婦や退職後の高齢者

 

 厚労省の受託事業として日本総合研究所は「介護人材の働き方の実態及び働き方の意向等に関する調査研究事業 報告書」公表しました。
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20180410_1_fukuda.pdf

 報告書では、介護人材確保の方策が様々に調査研究されていますが、興味深い調査として、潜在的介護人材(資格は持っているが介護現場で働いていない人)の属性調査があります。
 以下はその調査のポイントです。

【分析結果の概要】
◎ 潜在人材の現在の職業
「専業主婦(主夫)」が58.7%。次いでパート、アルバイトが多い。60 代以上は無職が多い。
◎潜在人材のうち、全体の 4 割前後は現在就業していない。女性や年齢が高い方が多い。また、今後の就業意向
全体の 4 割超は介護業界で働きたいという意向。
◎再就職の条件として希望していることとしては、
①「賃金水準を相場や業務負荷などからみて納得感のあるものとする」
②「子育ての場合でも安心して働ける環境(保育費補助や事業所内保 育所の設置等)を整備している」が上位。
◎特に30代女性では、
「子育ての場合でも 安心して働ける環境(保育費補助や事業所内保育所の設置等)を整備している」(52.5%)
「時短勤務な ど、職員の勤務時間帯や時間数等の求職者の希望を反映できる制度を導入する」(43.2%)が大きくなっている。
 一方で、法人内での配置転換等についてはあまり効果があるとは考えていない傾向がみられる。

 この調査の結果を見れば、地域に多くの潜在的な介護人材が存在することがわかります。
 その多くが専業主婦や高齢者であり、おそらくは正社員での就業を望んでいる人ではなく、自分の家庭や生活を優先し、余った時間で働ければ良いなと考えている人たちであるということが言えるでしょう。
 こうした潜在的な人材を掘り起こしていくことが、人材確保の上でも非常に重要な戦略になると考えます。

 

潜在的介護人材をパートスタッフに

 介護事業所を経営するには、パートスタッフの活用が非常に重要になります。
 やはり、正社員だけで人員を確保するにはコストがかかりますし、社員のキャリアパスなどを考慮した場合、沢山の正社員を抱えることはあまりメリットがありません。
 特に訪問介護の場合は、パートスタッフを増やせば増やすほど、収益が向上する仕組みになっており、管理者やサ責以外はパートスタッフで運用するのが最も効率的な経営となります。

 上述の調査では、専業主婦の多くが子育てのための離職を余儀なくされている状況が見えます。子育てと仕事を両立できればそれを望んでいることもうかがえます。
 しかし、日本の保育システムでは子供に病気などの異常が出た場合は、家庭がフォローすることが求められ、急に仕事を休まなくてはならない状況に追い込まれやすくなっています。そのため子育てのある主婦の場合、恒常的な仕事に就きにくく、地域の労働力として活用できなくなっているのです。

 

潜在的な介護人材が働きやすい職場づくり

 こうした子育て主婦が働きやすい職場とは、急な休みにも嫌な顔せず対応していくれる職場であると考えます。
 介護事業所はある程度余裕のあるスタッフ体制を敷けば、このような対応が可能です。
 訪問介護でもサ責なりが通常事業所に待機している状態であれば、急に穴が開いても対応は可能です。こうした受け皿をしっかり整備するかしないかで、働きやすさが全然違ってきます。
 パートスタッフを充実させるためにも経営者はそうした体制作りを心掛けるべきでしょう。また、パート求人を出す場合はそうしたフォロー体制の整備と子育て主婦にとって働きやすい職場環境であることを積極的にアピールすることが重要です。

 高齢者の場合は、介護の仕事に対するなじみのなさや、大変なのではないかという先入観が就業の壁になっているかもしれません。
 自分の親の介護経験がある方などは意外とすんなりと介護現場で働いているように感じます。東京都でも職場体験と資格取得をセットにした無料の人材確保事業を行っていますが、そうした職場体験の仕組みがもうすこし身近にあると良いと感じます。
 高齢者のパートスタッフ求人する場合は「高齢者歓迎」や「気軽に職場体験できます」などのメッセージを強調しましょう。

 専業主婦や退職後の高齢者は、自分の生活を優先できる働きやすい職場を地域に求ています。特に子育て主婦は子供の手が離れれば正社員として長く働きたいという希望を持っている方も多いでしょう。介護事業所はそうした地域の人たちの職場として機能する意識で事業所経営をしなければなりません。

関連記事:「訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術」

 

 

訪問介護事業 起業の手引き 5

 

15 処遇改善加算の算定

 処遇改善加算は開業当初から取得することができます。
 会社を設立すると同時に、就業規則と賃金規定などのキャリアパス要件を整備すれば、処遇改善加算Ⅰを取得することが可能です。
 申請のためのマニュアル本も出ていますので、参考にすると良いでしょう。
https://www.amazon.co.jp//dp/4539725424/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1518746828&sr=1-1」

 簡単に加算を取得するためのポイントを説明します。

①就業規則を作成する
 就業規則は自分でも作成できますし、社労士に頼めば作ってくれます。
 常勤職員の少ない当初は労基法に則った標準的なもので良いでしょう。
 厚生労働省でもモデル就業規則を提供していますので。これをそのまま使っても良いでしょう。
www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

 ただし、従業員が10名以上になると就業規則を労働基準監督署へ提出しなければなりません。その際は社労士に相談してください。

②キャリアパス要件に則した賃金規定を作成する
 詳しくはマニュアルなどで確認していただきたいのですが、簡単に言うと、勤務年数や資格の取得により、出世し給料が上がる仕組みを作ることです。
 パート職員でも、資格により手当を付けたり、勤務年数により時給が上がる仕組みを作る必要があります。
 そうした、昇格・昇給のルールを整備した賃金規定と昇格の基準=一般的には「職務評価の基準」を整備しなければなりません。

③資質の向上の計画
 簡単に言うと研修計画プラス評価の仕組みです。
 職員一人一人に職務に関する目標を設定し、その目標を達成するための研修計画を立てることが必要になります。
 たとえば、ある職員に「移動移乗の介助が不安なく安全にできるようになる」という目標を立てたとします。
 するとそれを達成するための具体的な研修計画を作成します。研修については社内研修でも構いません。そして、研修終了後に、管理者などが目標を達成できたかを評価します。
 この一連の流れが分かる書類が必要になります。
 具体的には、各職員A4一枚で目標と研修計画、評価が記入できるシートを作ります。

 なお、処遇改善加算の算定要件を整備するための助成金がありますので社労士にご相談ください。

 

16 特定事業所加算の算定

 特定事業所加算は開業後3か月程度で要件が揃えば算定できます。
 上述の処遇改善加算と要件がかぶる部分がありますので、両方取得することをお勧めします。
 特定事業所加算Ⅰは重度のご利用者が多くいなければ取得できないので、なかなか難しいのですが、Ⅱであれば介護福祉士が一定の割合在籍することで要件が満たせます。

 また、毎月、スタッフ会議を開かなければならないのですが、これは処遇改善加算の社内研修と組み合わせることで、効率的に実施できます。

 特定事業所加算を取得し、しっかりとその要件を維持していくことは、スタッフの定着に繋がります。
 スタッフ(特にパートスタッフ)にとっては毎月ミーティングがあり、研修がしっかりしている事業所の方が安心して働けるのです。
 もちろん、会議手当や研修手当を支給する必要がありますが、求人費にお金をかけるよりも、スタッフの定着にお金をかけた方が賢明です。
 スタッフの定着率の高い事業所は地域からも信頼され、差別化が難しい介護事業であっても差別化が可能になり、事業の拡大がしやすいでしょう。

 

17営業について

 指定申請の書類を受理されれば、もう営業を開始して良いと思います。
 指定番号が無いので若干やりにくい部分もあるのですが、手作りで良いので簡単なチラシやパンフレットを作り、新事業所のオープンを地域にアナウンスしましょう。

 営業先としては以下のとおりです。
 ①地域包括支援センター
 ②居宅介護支援事業所
 ③障害者相談支援事業所
 ④病院(メディカルソーシャルワーカーへ案内)
 ⑤その他社会福祉協議会や障害者支援センターなど

 また、区市町村の所管セクションへ出向き挨拶するとともに、地域の介護事業所の集まる会や組織などがあれば事務局を紹介してもらいましょう。
 こうした横のつながりを持つことは重要です。場合によっては人手不足で利用者の対応が困難になっている事業所から、ご利用者を消化してもらえる場合があります。

 障害者の居宅サービスなどではサービス供給が追い付いていない場合がありますので、かならず区市町村などの所管セクションへ出向いて状況を聞く必要があります。

 利用者獲得は上質なサービス提供と、ケアマネ等へのきめ細かい連絡調整しかありませんので、サービス提供責任者の力量が試される部分でもあります。

 そのためにも、サービス提供責任者は開業当初からあまりサービスに出ない体制を作りたいものです。サ責が出ずっぱりで連絡が取れないような状況は好ましくありません。
 収益的にも訪問サービスはパート職員に任せて、サ責はスタッフ指導と各方面への連絡調整に傾注することがよいと言えます。

 

続く

訪問介護事業 起業の手引き 4

 

11 現場経験はあった方が良いか

 

 たとえ、会社経営の経験があったとしても介護福祉現場を知らない方がこの事業に参入する場合、特にスタッフの扱い方で苦労することが多いようです。

 介護福祉で働く職員はがむしゃらに働くようなモーレツ型の人は少なく、職住接近で比較的安定志向の労働者が多いようです。

 簡単に言えば、社会福祉の従事する労働者は準公務員的なイメージが強く、出世よりも安定性やワークライフバランスを重視する傾向にあると思います。

 

 そうした特性を持つ職員に対してイケイケの体育会系の管理をするとすぐに辞めてしまうことになります。その分高額な給与が支払えればまだ良いですが、開業時からそれを行うことは避けた方が良いでしょう。

 

 この業界で開業を目指すならば介護福祉現場で最低でも半年程度働いて、介護福祉業界の人や仕事の雰囲気を把握しておく方がベターだとは思います。

 しかし、それが不可能であるならば、サービス提供責任者に現場経験の長い社員を雇用し、スタッフの指導育成はその人に任せた方が最初のうちはうまく行くとおもいます。

 

 また、経営者に現場経験が無くても、介護職員初任者研修を取得することをお勧めします。

 自治体から補助金が出ている場合、無料で取得できることもあります。

 東京都介護職員初任者研修資格取得支援事業

 https://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html 

 

 現場未経験でもこれによりある程度介護の知識は身につきます。また、訪問介護員の資格が取れますから人員基準を見たしやすくなります。

 

 

12 融資について

 

 先にも述べましたが、500万円の自己資金があれば、途中でお金が足りなくなっても、融資を受けて経営を続けることが可能です。

 

 融資元としては主に2種類ありどちらも無担保・低利率で借りられます。

 

①政策金融公庫「ソーシャルビジネス支援資金」

https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/socialbusiness.html

 

 先に述べた通り、介護事業の指定が下りれば間違いなく融資が可能です。

 

②地元自治体の起業支援などの融資

www.adachiseiwa.co.jp/houjin/yushi/sougyou/(足立区の例)

 

 区市町村には小規模事業者向けの無担保・低利子融資の制度が必ずあります。信用保証協会を利用した融資ですが、産業振興セクションにチラシなどがあると思います。

 また、地元の信用組合や信用金庫で扱っていますので、お店に行けば情報がもらえるでしょう。

 

 この二つの融資はどっちが得かと言えば、区市町村の制度により変わります。上記足立区のように最長5年利子が無料になる場合は、こちらがお得でしょう。

 

 このあたりの情報も地元の金融機関が相談に乗ってくれるかもしれません。

 

 ただし、自己資金500万円で、これまで述べてきたような節約企業を行い、しっかりとご利用者を確保できれば、無借金経営も十分可能です。

融資は事業拡大のための投資用に残しておいても良いでしょう。

 

 

13 金融機関について

 

 金融機関ですが、ネットバンキングを使う場合は郵便局やメガバンクが使いやすいいと思います。しかし、融資などの相談は地元の信用金庫や組合に限ります。

 

 また、給与の支払いなどは、ネット専門の銀行の方が、手数料が安く済む傾向があります。

 資本金や運営資金を入れ、国保連からの収入と各種支払いをするメイン口座を、通帳のある大手の銀行にしておき、給与の支払いはネット専門銀行。融資の受け入れは地元の信用金庫等にするパターンが考えられます。

 しかし、社員が少ない場合は、ネット専用銀行は後で検討すればよいと思います。

 「ネットバンキング振込手数料の比較」

 www.netbank-navi.com/perfect-comparison.html

 

 

14 税理士・社労士について

 

 介護事業会社を設立した場合、税理士と社労士と契約をしなければなりません。

 先に、社労士を探します。

 なぜなら、処遇改善加算を算定するためにはパートを含め社員を雇わなければならず、社員を雇った場合は、10日以内に「労働保険の保険関係成立届」という書類を、所轄の労働基準監督署へ提出しなければなりません。

www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/hoken/dl/040330-2b.pdf

 この手続きや保険料の計算などは社労士さんに依頼します。

 

 また、税務関係の届け出も必要です。自分で行うこともできますが、税理士に頼んだ方が無難でしょう。どちらにしても毎年の決算作業は税理士に依頼しなければなりませんので、税理士さんとも契約が必要です。

 

 税理士や社労士の探し方ですが、地元に税理士会や社労士会があればそこで紹介してくれるかもしれません。

 事業所の近くで開業している士業の中から、ホームページなどを参考にしながら、直接面談して、信頼できる方かを確かめる必要があります。

 

 会社が小さいうちは、税理士や社労士の能力が問われることはあまりないのですが、会社が大きくなるにつれて、税金対策や労務対策でこれらの士業の能力が問われる場面が出てきます。

 その際、物足りなさを感じたら、変更することも可能です。

 

 起業当初は、毎月の訪問による相談などはあまり必要ではありません。

 書類のやり取りをネットで行うなど、顧問料を安く対応してくれる事務所の方がベターであると考えます。

 多くのスタッフを抱えた大規模な事務所の場合は、格安なサービス設定があったりしますが、担当者によってフットワークにむらがあるようです。

 

続く

 

 

訪問介護事業 起業の手引き 3

 

 

8 収支シミュレーション

 

 高齢者介護ではサービス提供責任者一人で利用者40人程度まで扱えます。

 東京でしたらご利用者一人当たりの介護報酬が月4万円程度見込めるでしょう。

 すると、1か月の売り上げは200万円程度になります。

 開業したら、まずここが目標になります。

 少しでも早く利用者数40名を目指しましょう。

 

 障害居宅を一緒に行う場合は、障害の人数を足し合わせて40名でOKです。

 障害サービスは利用者の状態によって一人当たりの利用料金が大きく変わりますが、概ね4万円程度でシミュレーションして良いと思います。

 なお、サ責の扱える40名は高齢者だけです。障害は合計されてカウントされませんので、現実には40名以上の利用者を扱えますが、対応できなくなる可能性もありますから、40名を超えたらサ責を増やした方が良いでしょう。 

 

 40名の利用者に訪問を行う場合、パートさんをそれなりの人数、雇わなければならないでしょう。

 パートさんの給料は介護報酬の概ね半額として計算します。

 すると、すべての訪問をパートさんで賄えば、売り上げ200万円であれば、100万円の粗利益になります。

 そこから、事務所の家賃や必要経費を引いて、7080万円が経営者夫婦の収入になります。

 

 夫婦二人で70万円であれば、年収は840万円となり、大企業並みの給料と言えます。

 もちろん、訪問をご夫婦でやればその分のパートさんの人件費は浮きますが、サービス提供責任者や管理者はできるだけ事務所に居た方が良いので、訪問はできるだけパートさんに行ってもらう方が良いのです。

 この点は後ほど人材確保のところで説明します。

 

9 創業時の固定費(事業所家賃等)は最小限に 

 

 都心部で訪問介護の手が足りないという声を時々聞きます。

 これは都心部では他業種の給与に比べ介護職の給与が低いということもありますが、そもそも事業所家賃が高いということがあります。

 

 都心部の不動産価格の高騰は目に余るものがあります。にもかかわらず、給付額は周辺区と同じであり逆格差ともいうべき差が発生してしまっています。

 

 これは事業所家賃が介護事業経営の経費として非常に大きなウェートを占めていることを意味しています。特に創業時はその負担は大きくなります。

 たとえば訪問介護を開業する場合、家賃はできれば10万円程度に収めたいものです。さらに同じ事務所で居宅介護支援事業所も兼業するなど、できるだけ事業コストを抑える工夫も必要です。

 

 ただし、あまりみすぼらしい事業所ですとパートさんが集まりにくいという傾向があるようです。

 なにも駅前などである必要はありませんが、働く人が通いやすく、居心地が良い事業所の方が人材確保の面で有利だと思います。

 

10 人材確保の重要性 

 

 安定的な人材の確保はこの事業を経営していく上で最重要・最優先の課題です。

 現場を知っている方ならすぐに人が辞めてしまう状況は見知っていると思いますが、介護福祉の分野だけでなく中小企業の職場はどこも離職率は高いのです。

 

 しかし、医療福祉分野の特徴として、資格があれば日本全国どこでも仕事ができることや、給与水準がどこでもあまり変わらないなど、ちょっとした理由で職場を変えやすいという傾向がこの業界にはあります。

 

 まずはパートさんの確保と定着から取り組みましょう。

 正社員は固定費が高く、介護報酬に対して人件費が8割前後になります。それに対してパートさんは5割です。正社員は事業を拡大する場合に吟味して雇うようにしましょう。

 

 最初はパートさんの確保が優先です。

 パートさんは家の近所に働きやすい職場を求めています。

 働きやすい職場とはズバリ現場の責任者の「面倒見がいいこと」です。

 介護や福祉の仕事は専門知識がある程度必要ですし、介護技術もマスターしていなければなりません。現場に不安があれば責任者に色々と相談したいのは当たり前です。

 

 そうした相談がすぐできる職場の体制や雰囲気がとても重要です。

 特に訪問系の仕事は一人で現場に入りますから、相談や情報共有体制をしっかり整備することは必須でしょう。

 

 具体的にはサ責や管理者が忙しくてパートさんが相談したくても捕まらないという状況は無いようにしましょう。仕事の不安をすぐに払しょくすることが大切です。

 そのことがパートさんの定着に繋がります。

 

 例えば、子育て中の主婦パートの場合、子供の急な病気などで、仕事を休まなければならない場合があります。

 その時、快くサ責や管理者が穴を埋められるような体制を作っておかなければなりません。

 

 地域に住む主婦のパートさんは居心地が良いと長く勤めてくれます。

 また、子育てが終われば、常勤として働いてくれ、事業の拡大に貢献してくれる場合もあります。

 

 続く