副業から始める介護福祉事業 ─ 退職後の起業を働きながら目指す

 

1 はじめに

 人生100年時代を迎え、主にシニアの働き方についての提案として、介護福祉起業をおすすめします。

 高齢からの介護福祉の仕事は体力的にちょっとと感じる方でも、起業であれば経験を生かしたマネジメント力で70歳になってもそれなりの収入で働けます。
また、起業は無理でもケアマネージャーや施設の管理者等であれば、70代でも年収400万円以上の社員として働けるのがこの業界です。

 しかも、定年退職してから一から起業するのではなく、現役中に副業・兼業の制度を利用し、退職後にスムーズな起業が可能です。

 

■ 訪問介護事業所を起業した場合の年商及び経営者報酬(ザックリ例)
─── 訪問介護と障害福祉の居宅介護・重度訪問介護を併設した事業所(※1)
 
【売上】
利用者40名(※2) × 月額報酬 50,000円 

= 200万円(×12月) = 2400万円
 
【経費】
 人件費     1500万円(社員2名・パート数名)(※3)
 諸経費      200万円(※4)
 経営者報酬    700万円(※5)

※1 高齢者の訪問介護と障害者の居宅介護は併設することが可能です。
※2 一人のサービス提供責任者は40名の利用者(高齢者)を受け持つことが可能です(障害者は制限なし)。開業後2~3年で可能な数字です(ただし、スタッフの確保ができた場合です)。
※3 人件費は正社員が増えると高くなります、パートが増えると低減します。
※4 諸経費は事務所家賃・光熱水費・通信費等で、事務所を自前で手配すればかなり経費は抑えられます。
※5 経営者は管理者・サービス提供責任者としてサービス・マネジメント中心の業務及び緊急時の現場対応。

 

 

2 介護福祉の業界の現況
─ ニーズは増えるが参入者は増えない

 周知のとおり日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は、2022年10月1日時点で28.9%です。
 これは、OECD加盟国トップです。
 また、障害福祉サービスのニーズも増え続けます。
「これからの障害者福祉サービスの動向」https://carebizsup.com/?p=1501

 一方で、「介護職員 2040年度に57万人不足」と厚労省が推計しており、現状でもサービスが足りていない状況です。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240714/k10014510871000.html

 特に在宅サービスの要である訪問介護が不足しており、対策が急務になっています。
 実際、2024年の介護事業者の倒産が、過去最多の172件(前年比40.9%増)となり過去最高に達しました。うち「訪問介護」が過去最多の81件に及びました。

 主な原因は人手不足ですが、事業が黒字でも倒産してしまいます。小規模な訪問介護事業者の場合、責任者が高齢化などにより辞めてしまうケースが多く、そうすると新たな成り手を探すのが困難なため、事業所を廃止するしかありません。

 現状、日本の労働環境は非常に逼迫しており、人手不足のため給与面などで不利な介護福祉職は、担い手不足が深刻であり、都市部ではその傾向が顕著になっています。

 

 

3 国が「副業・兼業」を促進する理由

 令和4年、厚生労働省は「働き方改革」の一環として「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表しました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

 これには2つのねらいがあると考えられます。

(1)人生100年時代を迎え、退職後も多様な働き方ができるよう、就業中から副業・兼業を企業が認めることで、シニア層の就労環境を拡大し、社会保障費などの負担をできるだけ減らす。

(2)労働力の流動性を高め、大企業などで停滞する生産性の低いシニア層を活用し、人手不足の業種への労働力転化を図る。

 近年、大企業を中心に構造改革が加速し、シニア層の早期退職制度が加速しています。また、再任用などにより給与や勤務日数が減らされる傾向も顕著です。

 シニア層の労働者は自分の人生設計を見つめなおし、老後の生活資金を確保するための自衛努力が必要になっています。しかし、現実には60歳定年後、安い給与で5年間再任用され、その後はアルバイト程度しか仕事が無いような方が多く見受けられます。
 
 現役中に身に付けた知識・スキルや人脈等を活用して、60歳以降も安定した収入を得続けられる人はそう多くはありませんし、現役中にその準備をするのも難しいという声も聴きます。

 

 

4 「副業・兼業」で老後の仕事を確保する

 退職後も安定した仕事を得ていくためには、早めにリスキリングすることが重要であると言われています。

 リスキリングとは時代に適応した新しい技術能力を獲得し、新たな仕事を得ていくことです。例えば資格の取得などがあります。
 ただ、税理士や弁護士などであれば別ですが、資格を取っただけではすぐに収入になるわけではありません。また難易度の高い資格取得にはたくさんの勉強が必要で、働きながらであれば一層困難です。

 しかし、現役中の勉強はそれほど必要ではなく、副業や兼業がそのまま資格取得に繋がるとしたらどうでしょう?
 その秘密は、実務経験を重視する資格です。

 勉強による知識の取得よりも、現場で働いた実務経験が必要な資格が介護福祉の世界には多くあります。

 

 【介護福祉の資格と就労可能な業務及び平均年収】

資格名  実務経験年数 従事日数 代表的な職務  平均年収
介護福祉士 介護の実務経験3年以上 従事日数540日以上(年平均週3日程度、1日1時間でもOK) サービス提供責任者(訪問介護) 400万円以上
ケアマネージャー 介護福祉士を取得して5年以上の実務経験 従事日数900日以上(年平均週3日程度、1日1時間でもOK) ケアマネージャー 400万円以上
サービス管理責任者  障害者支援の実務経験8年 年平均週3日程度、1日1時間でもOK 障害者施設の管理者等 460万円以上

 

 これらの資格は、最終的な取得に試験や研修が必要ですが、難易度は士業などに比べれば低く、実務経験がそのまま勉強になる試験内容ですから、あまり心配はいらないでしょう。

 介護福祉士の場合、最短での実務経験取得のためには週3日以上(1日1時間でも可)の勤務が必要になりますが、実務経験期間を2年延ばせば(介護福祉士の場合5年)、勤務は週2日程度でOKです。

 もし、勤務先の会社に「副業・兼業」制度があればこうした資格を取得するチャンスになります。

 

 

5 定年退職後の起業の傾向と対策

 典型的な起業例としては、現役時代のスキルや人脈、貯めてきた資産など「自己資源」を利用した起業でしょう。

 しかし、スキルも人脈も資産もない人はどうすればよいのでしょう?

https://biz.moneyforward.com/establish/basic/56740/#i-9
「60歳、65歳のシニア起業が増えている?メリットや成功のコツを解説」(マネーフォワード クラウド会社設立サービス)

 対策としては現役時代に働きながら資格(できれば現役時代の仕事に近接した)を取得し、退職後に士業等(起業ではありませんが)で独立して働く方法が考えられます。
 しかし、働きながらの勉強は困難を伴います。たとえ短時間勤務などで時間が確保できたとしても、その分給与が減ってしまいます。

 また、調査ではシニアの退職後の起業の目的として「社会貢献」が高い傾向があります。つまり金儲けだけではなく、SDG的な活動を望んでいる人が多いということでしょう。

 

 

6 介護福祉の起業が最適解

 上記のことから、利用できそうな自己資源が無い方が、退職後、スムーズに起業を目指すのであれば、介護福祉事業が最適解の一つであるといえます。

 この仕事は資格の勉強よりも実務経験が重視される点が重要です。その実務でも給与を貰えますので、収入の低下が抑えられます。

 週2日、1日1時間程度でも、訪問介護の仕事はあります。

 例えばデイサービスのドライバーであれば、朝と夕方だけ働けます。

 しかも、会社の近くや、住居の近くなど、働く場所は自由に選択できます。

 お勤めの会社の副業・兼業制度に合わせた形で、働き方を選ぶことができるのです。

 また、事業者にとって週2日でも継続的に働いてくれる人材は有難いものです。

 さらに、シニアは人生経験も豊富でコミュニケーション能力も高く、ケアワーカーが向いているといわれます。

 

 

7 起業までのシミュレーション

① 60歳定年制の会社に勤務(60歳以降再任用はあるが給与が大幅に減らされてしまう)
② 55歳より副業を開始(勤務時間は週4日に減り、給与も減額される)
※副業従事日数は今の仕事の給与額と介護福祉で稼げる給与額との関係で調整すると良いでしょう。
③ 訪問介護で週2日、1日数時間勤務(稼ぎたい場合は重度訪問介護の夜勤などが高収入です)
※(例)週8時間の訪問介護サービス提供で、(額面)月10万円程度の収入になります。

 

(1)介護職員初任者研修資格の取得

 訪問介護員の仕事をするにはこの資格が必要になります。出席すれば取得できる研修の受講です。
 資格の取得には自治体から補助金が出る場合が多いです。東京都の場合は無料です。
 https://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html#sokushin( 東京都福祉人材センター)
 地元の自治体にお問い合わせください。
 
 資格取得は休日利用で最短45日、平均90日程度で取得できます。

 

(2)勤務する訪問介護事業所を探す

 働きたい地域で求人サイトなどを見ればいくらでも見つかりますが、実は小さな事業所の場合、求人にお金をかけるのを諦めてしまい、求人を出していない事業所も多いのです。
 お住いの近所で元気なヘルパーさんが出入りしているような事業所があれば覗いてみましょう。求人の張り紙があるかもしれません。張り紙が無くても、電話をしてみれば殆どの事業所が募集している可能性が高いです。
 電話番号は地域名と事業所名をネット検索すれば出てきます。

 何件か問い合わせてみて、希望条件に合うところを選びましょう。
 東京都では資格取得前に訪問介護で働ける制度もあります。詳しくは上記のサイトをご覧ください。

【シニア男性の方に注意点】

 介護事業所は女性職員が多く、責任者が女性である場合も多いです。

 長く男性社会で働いてきた方の場合、女性の上司、しかも自分より若い女性の下で働くことに違和感がある方もいるかもしれません。

 また、介護関係で働く女性は体育会系の人も多く、上下関係が厳しかったり、芸事の世界と同じく、年齢よりも先にこの業界に入った人の方が先輩であったりする場合がほとんどです。
 あなたが企業でどんなキャリアを積んできたかを尊重してくれることは無いと思ってください。

 入職に際しては、その点で注意が必要です。

 しっかり将来の目標を見据えて、新しい世界で生きていく覚悟が必要でしょう。

 最初の3ヶ月が一つの目標です。3ヶ月経つと、職場の人間関係や仕事の勘所が見えてきます。それまでは、あまり無理をせず、言われたことを無心にこなすことを心がけてください。

 

(3)開業資金を準備する

 何もない状態から訪問介護事業所を開業するには、500万円程度の資金準備が必要です。
 ほとんどが、人件費です。
  
【内訳】 

 会社設立・指定申請等費用     50万円
 事務所契約・家賃(半年分)   100万円
 社員給与(半年分)       300万円
 諸経費(半年分)         50万円

 介護福祉事業の報酬支払はサービス提供2か月後で、タイムラグがあります。
 開業当初は、ご本人と正社員一人ぐらいで稼働し、利用者10名程度確保できれば、黒字化は可能です(ご本人の報酬はあまり高くできませんが)。
 正社員が多と人件費がかさみます。アルバイトを上手に使うことで、黒字幅は大きくなります。

 

(4)開業スタッフを確保する
  
 訪問介護の場合、有資格者がご本人プラス1.5人分必要です。
 ご本人が介護福祉士であれば、残りは初任者研修以上でOKです。
 1. 5人分を正社員+アルバイトにするか、すべてアルバイトにするかなどは、自由です。
 スタッフは開業の指定申請前に確保する必要があります。雇用契約は開業からで構いません。

【開業スタッフの確保の方法】

①  介護実務経験期間中に人脈を広げ、スカウトする。
※アルバイト・スタッフの場合、他の事業所との兼務が可能です。
② 家族や友人など無資格の人を誘い、開業までに資格を取ってもらう。
※前述のように初任者研修は無料で取得できます。
③ 早めに法人を設立し、求人広告を出す。
※一般求人は現状厳しい状況にあります。開業前の求人はさらに厳しい状況です。

 この事業はコアな常勤スタッフが確保できると、事業の成長スピードが速くなります。アルバイトだけですと、ご本人の負担が大きくなり、成長力が鈍化します。

 

(5)開業の裏技 ─ 家族で起業する

 開業に際の経費節減方法として、夫婦や親子など家計を共にする家族で起業する方法があります。
 コンビニエンス・ストアや小規模なフランチャイズ事業などで推奨される形態ですが、介護事業でも同様のメリットがあります。

 訪問介護は就労時間を比較的コントロールしやすいため、管理者兼サービス提供責任者がしっかり常駐(営業時間中いつでも連絡が取れる状態)していれば、他の職員は訪問の無い時間を自由に使えます。
 家事などの仕事をやりながらの就労もやりやすく、家族で休みを交代で取るなど、柔軟な勤務体制が可能になります。

 

(6)利用者の獲得

① 営業活動
 指定申請書が受理され、開業が決まったら、地域包括センター・ケマネ事務所・自治体の障害福祉課・相談支援センターなどにチラシや名刺をくばり、営業をかけます。ケアマネや相談支援員など直接利用者の担当をしている人たちは忙しく、なかなかお話ができないかもしれませんが、まずは開業の情報提供をしましょう。

② HP(ホームページ)の作成
 開業前に事業所のHPの作成をしておきましょう。HPの目的は利用者に向けだけでなく、ケアマネや行政など、新規に事業所の情報を把握したい人たちに向けて作ります。事業所の基本情報と、サ責やスタッフの経歴などの紹介し、顔の見えるHPにすると良いでしょう。
https://carebizsup.com/?p=1710「小規模事業所のための人材確保術─ホームページとSNSの活用」

③ 開業予定地域で実務経験を積む
 起業を予定している場合は、予定地域で実務経験を積んでいると、すでに顔見知りのケアマネや包括スタッフへのアプローチがしやすいでしょう。地理感や地域の利用者像、足りないサービスなどが把握できたりしていますから、スムーズな利用者獲得が可能かもしれません。

 

 

8 老後は介護福祉事業で地域に根を下ろす

 高齢者の孤独は社会問題として世界的に認識されています。イギリスでは孤独問題担当大臣が設置されました。

 高齢者層の孤独は地域社会との断絶が原因の一つだと言われています。地域との繋がりが孤独を解消する手段になります。

 介護福祉事業は地域密着事業です。地域の利用者にサービス提供するのが基本であり、地域に根を下ろした仕事です。
 そのため、この仕事を始めると、地域に繋がりができます。街を歩けばご利用者の家族に会ったり、スタッフもご近所付き合いをする仲だったりします。
   
 また自治体によっては、開業すると町内会への参加が必要になる場合があります。地域のお祭りやイベントに参加し、これが利用者確保にもつながりますので大事です。

 さらに、商工会へ加盟すると、地域の中小企業経営者とのネットワークができます。もしかしたら、前職の知識や人脈がここで生きるかもしれません。

 公的なサービスなので、公私混同することは良くありませんが、節度を守って地域の人たちとの関係を深めることで、地域に根差した老後の暮らしが可能になるでしょう。

 

 

9 企業の皆様へ

 企業様向け資料介護福祉事業の副業・兼業プログラム(企業向け説明資料)

 

 令和和3年4月、改正高年齢者雇用安定法が施行され、「70歳までの就業確保」が努力義務化されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html

 企業にとっては競争力の維持のために、定年制は継続したいところです。
 そのためには、社員の退職後の仕事の確保が急務になってきています。

 これまで述べてきた通り、副業・兼業制度を利用し、5年程度の準備期間で、退職後の職員の第二の仕事を安定的に確保することができます。
   
 退職間際になってから、就労マッチングをするよりも、安定的です。起業以外にも収入を確保できる選択肢があり、個人のワーク・ライフ・バランスに柔軟に適応する転職プログラムであると考えます。

 また、社会課題に対応した労働力転化が実現でき、企業の社会的責任を果たす上でもメリットが大きいでしょう。

 介護福祉業界は社会貢献意識の高いシニア人材の進出を歓迎します。

 退職後の介護福祉事業への転職・起業などに関するご相談・説明会などを受け賜ります。

 本ホームページよりお問い合わせください。

 

 【コンサルタント・プロフィール】
杉浦 太亮(スギウラ タイスケ) 東京都足立区出身 立教大学 社会学部社会学科卒

<業務内容>
介護・福祉事業コンサルタント・開業支援・実地指導支援・コンプライアンス支援・経営支援 他
<経歴>
東京都庁17年勤務(税務・広報・人事・教育行政に従事)
ケアマネージャー 介護福祉士
在宅介護総合事業会社(居宅介護支援・訪問介護・福祉用具・通所介護・訪問看護・小規模多機能居宅介護・介護初任者実務者研修などを経営)にて経営企画、人材確保、在宅介護事業コンサルタント、研修事業などに従事後独立
介護福祉事業開業相談・サポート件数多数
 

 

 

小規模事業所のための人材確保術─ホームページとSNSの活用 その2

 

 

7 SNSの活用

 

 ここまで述べてきた事業所のホームページを魅力的にするための具体的な方法として、SNSを活用することをお薦めします。
 事業所のホームページのトップにリンクを張っておき、更新すると反映するようにします。

(SNSについての一般的な説明)https://www.xserver.ne.jp/blog/about-sns/

 使いやすいSNSは以下の通りです。

 

≪X(旧:ツイッター)≫ 

https://x.com/?lang=ja
 10代、20代の利用が多く、テキスト中心ですが、画像や動画も発信可能できます。リポスト(リツイート)機能があるため、魅力的なコンテンツは拡散されやすく、バズると多くの人に拡散され広告宣伝効果は絶大です。
 日常的な情報の発信に向いていますので、日々事業所内外で起きたちょっとした出来事を発信すると良いでしょう。

 

≪Instagram≫

https://www.instagram.com/
 写真や動画がメインのSNSで20・30代の利用が多いです。職場の雰囲気や同僚社員の様子をよりリアルに伝えることが可能です。
 Xと同じように日々のちょっとした写真などをコメントを添えてアップします。写真は何でもよく、あまり考えすぎると続かなくなります。
 (写真の例:今日の私服、昼食やお弁当、おやつ、協力してくれる利用者さんの様子、スタッフの飼い犬などの写真、など)。

 

≪Facebook≫ 

https://www.facebook.com/?locale=ja_JP
 ビジネスでよく利用されています。30代以降の層が多く、他SNSよりややフォーマルな内容です。ケアマネージャーなどプロフェッショナルな層の採用に向いています。
 同じ職業の人たちが情報を交換する際に役立ちますので、専門的な投稿ができる場合は活用できます(例:ケーススタディーの紹介・デイサービスのレク・認知症介護のテクニックなど)。

 

≪TikTok≫ 

https://www.tiktok.com/ja-JP/
 若い人材を集めたい場合はTikTokがおすすめです。
 TikTokは短い動画を投稿するSNSで、簡単に面白い動画が作れるので人気です。拡散力も高く、人気になると大きな宣伝効果があります。
 ほかのSNSを利用しながら時々、TikTokをアップするのも有効です。職場の楽しい雰囲気を演出できます。

 

≪YouTube≫ 

https://www.youtube.com/
製作に企画立案や準備が必要で、映像の知識やテクニックが無いと魅力的なコンテンツにはしにくいです。得意なスタッフがいる場合や余裕があれば利用しましょう。
 企画例:研修動画・サービス提供風景・会社のイベント風景(BBQや旅行など)など
 編集やナレーション・字幕入れなどは、外部委託できます。https://coconala.com

 以上のほか、続々新しいSNS系アプリが登場しますので、色々試してみるのも良いでしょう。

 

8 SNSを利用する場合の注意点

 

≪できるだけ楽しんで発信する≫

 担当者以外は義務ではなく、やりたい人だけで楽しみながら取り組みましょう。顔出しOKのスタッフだけで、やりたくない人は強要しない方が良いです。
 TikTokなどはふざけているようにも見えますので、不謹慎だと思う職員もいるでしょう。
 しかし、職場の楽しい雰囲気が伝わることで、特に若い人には訴求しますのでめげずに取り組みましょう。

 

≪定期的な投稿を心がける≫

 ある程度スケジューリングして、定期的な投稿を心がけましょう。
 定期的な投稿をすることで、テクニックも向上しコンテンツが磨かれ、受けが良くなります。結果フォロアーが増え、SNSそのものが盛り上がり、初めて訪れた求職者にも好印象を与えます。
 受けのよかったコンテンツをホームページのトップにアップして、ファーストインプレッションを良くします。

 

≪内容は思いつきで良い≫

 マンパワーが無い小規模事業所では、頑張って構えて取り組んでも、費用対効果が良くありません。あまり時間をかけず、昼休みにサクッとやってみる程度で良いでしょう。
 できれば、求職者目線に立ったコンテンツをYouTubeなどで上げられると良いですが、それがつらい仕事になってしまう場合は無理しない方が良いでしょう。

 

≪新入職員を巻き込んでゆく≫

 ホームページやSNSに反応して応募してきた人は、その雰囲気にひかれてきた人たちですから、SNSでの発信に協力してくれるはずです。新入スタッフをどんどん巻き込んで継続的に発信をしましょう。

 

 

9 活用事例

≪さんしゃいんケアサービス≫ 

https://sunshine-cs.com/

 社長や管理者を中心に、積極的に事業所の情報を発信しています。SNSそのものを楽しみながら、ホームページのコンテンツに盛り込んでいます。結果、若い応募者が画期的に増加し、子育て主婦層のパートヘルパーが口コミで応募してくるなど、人材確保に大きな実績を上げています。

 

≪ホートンケアサービス≫ 

https://www.horton-care.jp/

 障害福祉の在宅サービスを中心に事業を展開している会社です。YouTubeを中心に定期的にネット・ラジオ形式で情報発信をしています。
 テーマは福祉や介護に関係することで、初心者にもわかりやすい内容で優しさが伝わってくるようなコンテンツになっています。
 新しい職員を確保し、23区から多摩地区へとサービス提供地域を広げています。

 

10 最後に

人材確保の方策においては、新しく人を雇うことに努力するよりも、せっかく雇用した職員が辞めない就労環境作りに努力することが先決です。

https://carebizsup.com/?p=827 訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術

 

小規模事業所のための人材確保術─ホームページとSNSの活用 その1

 

 小規模な福祉介護事業所では人材が確保できないと廃止の危機になってしまいます。
 かといってお金をかけて求人広告を出しても、応募が無くお金の無駄だと考え、結局人材を確保できないまま、時間だけが過ぎてゆく状況になりやすいでしょう。

 本HPの「事業を成長させるためには─在宅介護事業の成長戦略」
 https://carebizsup.com/?page_id=304でもご案内した通り、事業成長させたいなら、人材確保は必須です。

 そこで、本記事は小規模な事業所でもできる効果的な人材確保の方法についてご案内します。

 

1 求人のための年間予算を明確にする─人への投資は成長投資

 事業を発展させるために人材を確保することは費用投資です。
 製造業が設備投資をして事業を発展させるように、福祉介護業は「人に投資」して事業を発展させる業種です。

 人材投資としては「賃金」・「研修費」・「福利厚生費」など以外に「求人経費」も含まれます。予算額は経営判断になりますが、少なくとも毎年度、事業計画の中で予算額は明確にしておくことが重要でしょう。

 中小企業の年間採用経費の平均は、売上の5%~10%、またはパートを含めた従業員数×5万円程度だと言われますが、経営者として事業の成長スピードを上げたければ、多めに計上するべきでしょう。

 「採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査報告書」令和3年度厚生労働省委託調査では以下のようなデータが出ています。
●1件あたりの平均採用コスト
≪求人情報媒体利用≫
正社員:11.3万円
非正社員:7.7万円
≪民間職業紹介事業者(紹介会社)利用≫
正社員:平均85.1万円、
非正社員:平均19.2万円

 

 

2 基本的に年間を通じて継続的に求人広告を出すこと

 求人というものは漁業に似ています。

 お金をかけて大きな網で漁をした方が沢山の魚を獲ることができます。
 人材紹介や求人会社も同じで、テレビなどで沢山宣伝を流している会社に、多くの求職者が集まります。

 従って、求人媒体を選ぶ場合、マスコミへの露出が高い媒体(自己判断で良いです)を選びましょう。基本は成功報酬型の、無料で求人が出せる媒体に継続的に情報を出し続けましょう。
 ハローワークの情報も他の求人サイトにリンクされますので、必ず登録し、3ヶ月に1度程度更新してください。これらの求人は正社員・パート両方です。

 有料媒体の場合、掲載料金は時期により波があるようですので、キャンペーンなどで安い時期を利用するのも良いでしょう。

 

 

3 ホームページの充実が求人の勝敗を分ける

 求職者にとって知らない会社に応募するのは不安です。今は売り手市場、そうした「不安」が応募に繋がらない大きな原因となっています。

 例えば、高校生がアルバイトをしようと考えた場合、たとえ賃金が安くてもファーストフードやコンビニなどのチェーン店を選びやすいものです。
 理由は、客として利用した経験から、職場の雰囲気をあらかじめ把握でき、安心感があるからでしょう。さらに、友達が働いていれば、一層応募のハードルは低くなるでしょう。

 福祉・介護職は経験者であっても、個別の職場の雰囲気は把握しづらいものです。未経験者であればなおさらのことです。

 この際、事業所のホームページは強力な情報把握手段となります。これはすべての企業にとって同様ですが、小規模な会社にとっては最も重要な手段となります。

 小規模な福祉・介護事業所のホームページは、ほぼ求人目的のために作成しなければなりません(利用者やケアマネ向けの情報は10%程度です)。
 そして、福祉・介護事業への求人応募者はほぼ100%、事業所のホームページを確認すると思います。

≪求職者の行動シミュレーション≫
求職者像:子育てしながらパートで働きたい主婦(無資格)

① 「足立区で介護のパートでもしようかな」 ⇒ 

②ネットで「足立区 介護 パート求人」を検索 ⇒ 

③求人サイトが沢山出てくる ⇒ 

④家から近く希望が合いそうな事業所が3つ程度見つかる ⇒ 

⑤それぞれの事業所のホームページを検索してみる ⇒ 

⑥HPを見て働いてみたい事業所を検討

 もしも、ホームページが無ければ、⑤の時点で敬遠されてしまいます。
 そして、処遇や就労環境が変わらなければ、事業所のホームページから受ける「印象」や「好み」が応募の決め手になります。

 

 

4 ホームページのトップで職場の雰囲気を伝える(ファースト・インプレッションが重要)

 ホームページで伝えるのは働きたくなるような職場の雰囲気です。
 いくらお金をかけても、実際に働く職場の雰囲気が伝わらなければ、応募には繋がりません。この職場で働きたいと思ってもらえるよう、良い雰囲気を伝えて、応募する不安を払拭しましょう。

 ポイントは以下の通りです。

 

≪スタッフの顔が見える≫
 

 一緒に働く人たちの顔が見えるホームページにします。スタッフ紹介や仕事風景、職場環境、ご利用者とのふれあいなどを紹介します。

 

≪ビジュアルと動きのあるコンテンツ≫

 

 顔の見えるホームページにするためにはビジュアルを充実させる必要があります。写真や動画を活用し、職場の雰囲気が活き活きと、イメージとして伝わるようにします。

 

≪詳しい求人情報は別のページでじっくりと≫

 トップページで良い印象を持った求職者は、求人情報のページをチェックします。
 求人情報のページには、詳しい処遇内容・各種特典・資格の無料取得・入職時の研修情報・パートや社員の紹介手当などの情報を詳しく掲載します。

 

≪地域の働く場所として発信することを意識する≫

 福祉・介護の事業所は地域に密着した職場です。近隣に住んでいる職員は辞めにくい傾向があります。コンテンツに地域性を盛り込むことで親近感がわきます。

例:地域のお祭りやイベント情報。
  地域の他の施設や活動(学校やスポーツ)との関係情報。
  近隣観光地の情報。
 

 大企業の場合、お店のある地域限定で求人情報を掲載することが難しいため、この点で小規模事業所に優位性があります。

 

 

次回、その2でホームページの印象を決める「SNS」の活用についてご説明します。

 

訪問介護職の賃金アップ術2-「在宅型サ責」の働き方

1 現場中心の働き方─事業所への出勤は原則無し

 

① 事業所に出勤するのは、月数日程度

 ◎自宅から訪問先に直行直帰の就業形態が基本です。月に数回、事業所の研修やカンファレンス、事例検討会などのために、事業所に出勤します(特定事業所加算の要件になります)。

 研修はリモートでも可能ですが、できれば月に1回ぐらいはスタッフが顔を合わせて直接フリーな意見交換の場を設けた方が、仕事のガス抜きにもなり健全であると考えます。

 ◎できれば資格は介護福祉士以上、訪問介護実務経験3年以上

 

② 業務管理・情報共有はIT機器を活用

 ◎アセスメント・訪問介護計画書・サービス提供記録等は電子化(保存管理も)。

 ◎自宅に業務用PC(ファックス受信ソフトインストール)とプリンタ(スキャナ機能のあるもの)を支給設置(自宅に事業所機能の一部を整備)

 ◎訪問にはタブレット(通信SIM付)を携行。利用者のサインはタブレット入力でもOK。

 ◎訪問介護の提供記録ソフトにはGPS機能により、訪問実績が記録できるものを利用。

 ◎紙の使用は利用者交付するもの以外、最低限に抑える。

 

③ 営業・利用者獲得は自ら行う

 ◎ケアマネージャーからの業務依頼を直接受けられるようにする。事業所には事後報告(システム入力による)。

 ◎訪問日調整も自己完結で行う。

 ◎研修を徹底する。(就職後6か月間は同行スタートアップ研修。その後毎月1回)

 ◎事業所はサービス品質の評価を行う。利用者への満足度調査をネット経由で行えるように工夫する。認知症など判断が難しい利用者に対しては、3か月に1度、事業所の別の担当者がモニタリング訪問を行う。

 ◎担当サ責が急病や休暇などにより、訪問ができない場合は、事業所がフォローアップする(他の在宅型サ責に仕事を回したり、事業所管理者や他のヘルパーが対応できるようにする)。

 

④ その他移動手段など

 ◎訪問先への移動手段は、車・自転車・徒歩など選択自由。ただし、事業所の加入する損害保険でカバーできるようにする。駐車料金などは各事業所規定で決める。

 ◎折り畳み電動キックボードの活用

 都会や半径5キロ以内程度の比較的近距離の移動に向いている。

 訪問先で折り畳んで玄関などに置かせてもらえれば、駐車・駐輪禁止の場所でも利用が可能。駐輪場がいらない。電車に持ち込み可能。機動力は電動自転車並み

 

2 在宅型サ責の給与概算

 

 ≪東京都の場合≫

 給付:身体介護1時間:5,000円

 稼働時間:1日5時間程度訪問

 稼働日数:月20日稼働

 

  5,000円×5h×20日=500,000円

 

  • 事業所の取り分:20%=100,000円
  • 在宅サ責の収入:400,000円(年収:4,400,000円)

  ※年収440万円は日本人の平均年収。特定処遇改善加算の対象者。

 

 これはあくまで、週休2日で残業が無い労働状況です。

 サ責本人が働きたければ、土日や夜間の訪問を増やすことで、さらなる収入アップが図れます。つまり、稼ぎたい人は自ら仕事を増やすことが可能になります。逆に子育てなどで仕事を少なくしたい人はライフワークバランスを図れます。

 

3 事業所の役割

 事業所はマネージャー(管理者)として在宅サ責の仕事のマネジメントが仕事になります。

たとえば、見境なく利用者を獲得して無理な長時間労働をしているサ責がいればブレーキをかけなければなりません。

 

 また、就職当初は、担当利用者はいないですから、収入を保証する必要があります。

 例えば、就職後、半年程度は固定給にし、事業所付きのサ責として、フォローアップ要員として動いてもらうのも良いでしょう。

 その際に同行スタートアップ研修を徹底し、サービス品質を保証する必要があります。

 

 残業無し、週休2日で年収440万円を保証できれば、一般企業の賃金に十分対抗できます。また、男性で稼ぎたい人にも対応できますので、人材確保がしやすいでしょう。

 

★この就労システムの肝は事業所のマネジメント力です。

 いかにIT技術を駆使して業務管理、サービス保証ができるかがポイントになります。

 

 なお、この事業モデルはケアマネ事業所にも応用できます。

 但し、ケアマネの場合、担当利用者に上限があるのと、障害福祉は担当できないので給付を伸ばせません。訪問介護ほどダイナミックに給与を上げることは難しいかもしれないですが、給与は増やせなくても余裕のある就労環境を提供できますから、人材確保には大変メリットがあると思います。

 

4 2023年以降もさらなる人材不足が

 

 欧米諸国の金利上昇、それに伴う円安、輸入価格の上昇により、日本の物価は今後も高くなる予想です。これに対し、各企業は労働者の賃金を加速させています。

 この労働市場環境は介護・福祉業界にとって非常にキツイ状況です。

 ただでさえ、一般企業との賃金格差が大きく、人手不足が恒常化している状況に、他企業のさらなる賃上げによって、労働者は介護職に集まらなくなっています。

 特に賃金の高い都市部において深刻です。介護が受けられない介護難民がさらに増加することが懸念されます。

 

 現状では大幅な給付の上昇は見込めません。介護・福祉事業者はIT技術の活用と就労環境の改善でこれに対抗するしか術はないでしょう。

 

訪問介護職の賃金アップ術1

1 人手不足にもがく日本の介護─厚労省の企みは

 厚生労働省は通所介護と訪問介護を一体化した介護サービスを創設する方針を示しました。これは介護の人手不足で、特に訪問介護のサービスが提供できない事態が多く起こっていることに対応するものでしょう。

「訪問+通所」の新介護サービスは地域を救うか 最大の課題は訪問の人材確保=結城康博

 要介護1・2のサービスを区市町村に移管するにあたって、通所介護と訪問介護を柔軟に一体的なサービスとして提供できるようにするためでもあるかもしれません。

 

 国は、区市町村の保険者としての責任と能力の強化を目指しています。

 これは区市町村が保険利用者へのサービスを、いかに効率的に提供できるようにするかを前提にしており、そのための創意工夫がやりやすいようにしているのだと考えます。

 しかし、通所介護の人員が余っているわけではありませんので、人手不足が解消しない限り、サービスが提供できない状況はあまり大きく改善しないと考えます。

 

 2022年、介護事業所の倒産件数が最高を示したのは、コロナを原因とするだけでなく、人手不足が大きな要因です。

 サービス提供責任者などの役付きの職員が退職してしまえば、介護事業は継続できません。今後は、物価と賃金の上昇により、事業所の賃料や人件費が上がり、さらに経営は困難になることが予想されます。

 

2 障害福祉分野は特に深刻

 一方、障害者福祉の分野では、障害者権利条約の批准内容に対して国連から複数の勧告を受け、日本の障害者福祉行政には問題があり、障害福祉の後進国であるということが明らかになりました。

https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/474044.html「障害者権利条約  国連勧告で問われる障害者施策」

 国家予算の半部が社会保障費である日本では、国連が目指すような障害者福祉は、お金がなくて到底は無理というのが筆者の考えですが、それに関しては以下のブログで書いていますので、参照ください。

https://carebizsup.com/?p=1501「これからの障害者福祉サービスの動向」

 

 介護にしても障害福祉にしても結局は税収・予算が少なく、人件費を上げられないのがすべての原因ですが、国民は税金を上げることには消極的です。

 おそらく、EUのように消費税15%にするぐらいの勇気が無ければ、理想的な社会保障サービスは実現しないでしょう。

 

 筆者は自治体などの行政対応の実感から、国が高齢者介護よりも障害者福祉にお金をかけたくないのだなという志向を感じています。

 具体的には、障害者事業への参入障壁が、高齢者介護よりも高く、例えば、高齢者の介護事業の指定申請は簡便になってきているのに対し、障害福祉の指定申請の手続きが厳しく、煩雑になってきている実態があります。

 

 さらに政治的には高齢者介護に比べ、障害者福祉は票になりにくいという実態があります。参院選の比例区のような選挙システムを使って、当事者がもっと声を挙げなければ、日本はますます、障害者に冷たい国になってしまいます。

 

3 人手を増やさずサービス量を増やす必要

 さて、とはいえ、適切なサービスが受けられない高齢者や障害者が増えていくことは悲しいことです。

 国は「互助」「自助」の強化を謳っていますが、ボランティアなどのインフォーマルなサービスによる互助は、日本ではあまり期待できません。

https://carebizsup.com/?p=1551

「日本人のチャリティー参加は世界最低基準──日本の「互助」は機能しない」

 

 従って、現状の枠組みで、サービス量を増やす工夫を考えてみたいと思います。特に訪問介護(障害居宅介護)の分野で考えてみましょう。

 一つの方法として、独立訪問介護士という考え方がありますが、これは以下のブログでまとめています。

https://carebizsup.com/?p=1493「独立訪問介護士の可能性」

 しかし、これを実現するためには大幅な法改正が必要なので、現状制度でできることを考えます。

 

4 「在宅型サービス提供責任者」という就労システム

 現状、サービス提供責任者(サ責)は訪問介護と障害居宅に共通の職務であり兼務も可能です。高齢者では担当は40人程度という制限がありますが、障害居宅では特に制限はありません。

 資格としては実務者研修修了以上であり、利用者のアセスメント、訪問介護計画書の作成、ケアマネージャーとの調整が主な任務です。1事業所に最低、一人の常勤者が必要です。

 

 在宅型サービス提供責任者は、常勤のサ責が一人以上いることを前提に、主に在宅から現場に直行直帰で勤務するサ責です。

 

 通常のサ責は担当の利用者に対するサービスに関して責任を負います。具体的には実際に訪問するヘルパーの業務管理が主な仕事になります。

 人手不足の事業所の場合、ヘルパーの人数が足りず、サ責自らサービス提供に訪問しているケースも多いでしょう。しかし、理想としては、実際に訪問するのはとう登録ヘルパーなどで、サ責は事業所に居て、各ヘルパーの業務を管理するマネージャー的役割が求められていました。

 

 「在宅型サ責」は、従来のサ責業務と違い、サービスそのものもサ責が行う業務方法です。もちろんヘルパーを管理する業務を行っても良いのですが、できればサービスと提供責任を自己完結的に集約するやり方の方がメリットは大きいと考えます。

 

 次回は「在宅型サ責」の具体的な働き方を説明します。

介護保険制度改正 訪問介護を中心に(その2)

Ⅲ 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)

 

こちらでは、「現状・基本的な視点」として以下のような状況を踏まえています。

①    都市部の介護ニーズ増大、地方部は高齢化のピークを越え、高齢者人口が減少に転じる地域もある。

②    高齢者向け住まい(有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅)が都市部を中心に多様な介護ニーズの受け皿となっている。

 

 地域包括ケアシステムについては以下の点に留意して推進することが検討されています。

◎居住系サービス、訪問介護等の在宅サービス連携を強化

◎「介護離職ゼロ」の実現に向けて、介護施設の整備を進めるとともに、在宅サービスの限界点を高めていく

◎住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の質を確保、事業者に係る情報公表の取組を充実「外部の目」を入れる取組

◎看取り期にある者に対応する在宅の限界点を高めていく

◎介護老人保健施設について、在宅復帰・在宅療養支援の機能を更に推進

◎在宅医療・介護連携推進事業について、医師会等関係機関や医師等専門職と緊密に連携、ICT やデータ利活用

 

 これまで通り、施設介護ではなく在宅介護を中心に、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を積極的に活用するイメージでしょう。

 

 

Ⅳ 認知症施策の総合的な推進

 

 65 歳以上高齢者の約5人に1人が認知症になると見込まれていることを前提に、これまで通り、重点的な施策として推進する予定です。

 基本的なポイントはこれまでの施策の拡充となります。

 

◎認知症施策推進大綱に沿って、認知症バリアフリー・予防・早期発見対応・介護者(家族)支援

◎認知症の人が、尊厳と希望を持って認知症とともに生きるまた、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる「共生」の実現

◎認知症になった方が働き続けられる環境整備

◎住み慣れた地域で普通に暮らし続ける

◎「通いの場」をはじめ、高齢者の身近な場における認知症予防、「通いの場」でスクリーニング

◎かかりつけ医、地域包括支援センター、認知症初期集中支援チーム、認知症疾患医療センター等の体制の質の向上、 連携強化

◎介護者(家族)への支援、認知症カフェ、家族教室や家族同士のピア活動、職場における相談機能の充実

◎認知症高齢者グループホームのユニット数や運営規模の弾力化

 

 

Ⅴ 持続可能な制度の構築・介護現場の革新

 

 2025年度末までに、年間6万人程度の介護人材確保が必要なことを前提に、人材確保と業務効率化による持続可能な事業としての体制整備が中心ですが、人員確保は改善が難しい状況が見えるようです。

 

 一方、今改正の目玉の一つとして、「非営利連携法人制度」の創設があります。

 これは、社会福祉法人を中核として、地域の介護事業者が連携し、ロボット・ICT 等の共同購入、人材確保・育成、事務処理の共同化・プラットフォーム化を進めるものです。

 国としては介護の経営を大規模化させ、人材や資源を有効に活用し、効率化と介護職の処遇改善を進めたい意向があるのでしょう。

 しかし、この動きは、民間事業者など多様な参加者という介護保険制度の理念とは逆行します。確かに、介護福祉も電力や交通などと同じように大規模な公共事業体として組織化ができれば、職員の身分は安定し、いろいろな問題が解決するかもしれません。しかし、一方で大組織病のような非効率な部分が沢山出てきてしまうでしょう。少し虫がよい話かもしれません。

 

 その他の施策は次のようになります。

 

◎人手不足の中でも介護サービスの質の維持・向上を実現するマネジメントモデルの構築、業界のイメージ改善

◎業務の洗い出し・切り分けを行った上で、ロボット・センサー・ICTの活用と元気高齢者の活躍を促し

◎中学生、高校生等が進路を考えるにあたって、介護職の魅力を認識し、仕事として選択をしてもらえるよう、学校や進路指導の教員などへの働きかけ

◎「富士山型」の賃金構造を目指し、制度の整備を進める

◎潜在介護福祉士現場に戻ってもらうための取組

◎離職防止・定着促進の相談支援、小規模事業者への取組支援

◎介護現場を地域全体で応援する仕掛けづくり

◎外国人 介護人材の受入れを着実に推進

(アジア各国の急速な高齢化のため、外国からの介護人材の受け入れ拡大が安定的な人材確保策とならないとの意見あり)

◎介護分野の文書の削減・標準化等を進め、現場の事務作業量を削減

(個々の申請様式・添付 書類や手続きに関する簡素化、自治体のローカルルール解消、ICT 活用)

 

 以上、これまでにも散々取り組んできた内容ですが、一向に効果が見えない感じがあります。日本全体がコロナ以前の人材不足状況に戻るとすれば、いよいよ担い手不足は深刻になるでしょう。

 

 

🔳今回議論されたが見送られた施策

 

 ケアマネジメントに関する給付の見直し=有料化・利用者負担

 

 社会保険料の負担増により中小企業や現役世代の負担は限界に達しており、制度の持続可能性を確保するため、能力のある人には負担していただくことを検討していましたが、以下のような意見もあり、今回は見送られています。

◎有料だとサービス利用をやめてしまう人が出てしまう

◎ケアマネジャーは保険者の代理人、市町村の代わりを担う立場であり利用者負担を求めることになじまない

◎有料化によりセルフケアプランが増加すると自立につながらないケアプランが増える

◎障害者総合支援法における計画相談支援との整合性

 

軽度者に対する給付の見直し(要介護1・2サービスの地域支援事業への移行)

 要支援1~要介護2の利用者への生活支援の在り方を考えた場合、強度の違いはあれ、予防の視点は欠かせないため、一体的なサービス提供を図りたい旨の意向が保険者などから上がっており、移行が検討されてきました。

社会保障審議会 介護保険部会(第90回)令和2年2月21日<介護保険制度の見直しに関する参考資料>より

 

 上記調査から、総合事業では制度改正前の介護予防サービスと同じ基準で提供されるサービスの割合が大きく、市町村の実施状況を見ても、住民主体のサービスなどの多様なサービスが実施されている市町村数は6~7割にとどまっています。

 総合事業から撤退する訪問介護事業所も多い中、そもそも、住民主体のサービスなどを介護事業に組み込むことは無理があるのかもしれません。サービスの母体となる介護事業所が回避しているためサービスが伸びないと考えます。

 

 国の意向としては、要介護2までの生活援助は身体介護から切り離し、安価で柔軟な住民主体のサービス(ボランティアや民間の家事援助サービスなど)にしたいという意向が見えます。

 最近は多様で比較的安価な民間家事サービスも増えています。例えば、区市町村がこうしたサービスを利用できるクーポン券などを発行し、家事援助を提供することも考えられます。

 しかし、ここで重要なのは「生活援助=家事援助」と定義していないことです。

 介護は広い意味で生活援助であり、その中には身体介護も家事援助も含まれています。生活援助から家事援助を切り離す方法が確立していない以上、要介護2までの総合事業への移行は難しいかもしれません。

 もし強引に導入しても、上述のような家事援助サービスを適切に提供できる体制ができていない場合は、現場がかなり混乱すると思います。

 

 この点について、審議会では以下のような意見が出されています。

◎見直しは、将来的には検討が必要であるが、総合事業の住民主体のサービスが十分ではなく、地域ごとにばらつきもある。まずは現行の総合事業における多様なサービスの提供体制の構築等を最優先に検討すべき

◎総合事業の課題である実施主体の担い手不足が解消される見込みもない中では市町村も対応できず、現段階での判断は現実的でない

◎要介護1・2の方は認知症の方も多く、それに対する体制が不十分

◎訪問介護における生活援助サービスは身体介護と一体的。切り離した場合の状態悪化が懸念

◎利用者の負担増となることを懸念。要介護1・2の方は重度化防止のために専門職の介護が必要

 

以上

 

 

介護保険制度改正 訪問介護を中心に(その1)

 

 

 来年4月、改正介護保険法と介護報酬改定の施行が予定されています。

 コロナによる影響を勘案した報酬の改正も順次届いていますが、全体としてはどのような改正になるのでしょう。

 今回は訪問介護事業を中心に注目すべきポイントについて解説します。

 

「重度化防止」と「効率化」が明確に

 

 さて、これまで社会福祉審議会介護保険部会でどのような議論されてきたのでしょうか。

 同会は令和元年12月27日に「介護保険制度の見直しに関する意見 (案) 」を発表しています。

 

 先に大きな方向性を述べてしまうと、

  • 介護予防と総合事業を推進させ、重度化を防ぎたい(社会保障費の抑制)。
  • その際、主役は保険者である区市町村であり、医療連携も含めて、保険者強化を進めていきたい。
  • 人材不足にはできれば効率化で対抗したい(単純な人員増加は難しい予測)。

 

 このような意向が強く出ているように思われます。

 

 しかし、そうした方向性のコンセンサスはあるにしても、現状の実施体制では未熟な部分が多く、ケアプランの有料化や要介護1・2の総合事業への移行などは見送られています。

 また、各保険者に対しては、国や都道府県が支援をしながら理想の方向に向かっていきたいという意向でしょう。

 そのため、今改正は、基本的にはこれまでの流れを踏襲しつつ、経過的な改定内容となっています。おそらくは、コロナ禍において大きな改定は、現場や自治体の負担が大きいことも配慮されているかもしれません。

 

 ただし、今回の議論の内容が今後の介護保険制度の方向性を示していますから、介護事業者にとって内容をチェックしておくことは大変重要です。特に訪問介護事業者にとって要支援のサービスがどうなるのかは注目しなければなりません。

 収益性の低さから、現状で総合事業から撤退している事業者もあります。現状の自治体やボランティア任せの介護予防ではとても持ちません。

 ビジネスとして介護予防をどう成り立たせるかが、今後の大きな課題であることが、浮かび上がっていると言って良いでしょう。

 

 

今回は保険者の機能強化がメインか

 

 そうした状況を踏まえて議論の内容を見ていきましょう。

 

 まず、初めに「地域共生社会の実現」というテーマが議論されています。

 「地域共生社会」とは、高齢者介護、障害福祉、児童福祉 、生活困窮者支援などの制度・分野の枠や、「支える側」、「支えられる側」という従来の関係を超えて、人と人、人と社会がつながり、助け合いながら暮らしていくことのできる社会です。介護保険制度の前提となる日本の福祉社会の方向性になります。

 

 社会保障審議会 介護保険部会(第90回)令和2年2月21日「<参考:介護保険制度改正の全体像> (検討結果をまとめた全体のイメージ)

 

 続いて、「介護保険制度の見直しに関する意見 (案)」の目次から見いだされる大きな項目は以下の通りになります。

 

Ⅰ 介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)

Ⅱ 保険者機能の強化

Ⅲ 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)

Ⅳ 認知症施策の総合的な推進

Ⅴ 持続可能な制度の構築・介護現場の革新

Ⅵ その他の課題

 

 それぞれについてポイントをピックアップしてみます。

 

Ⅰ 介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)

 

「通いの場」についいて集中的に議論されています。

◎住民主体の通いの場の一層推進

◎通いの場に医療等専門職の関与(生活習慣病の重症化予防)

◎参加しない高齢者の把握と支援

 

 デイサービスとは異なり、地域の高齢者が日々積極的に集う場を地域の中に作り、運動や生きがいづくり、健康管理を行う取り組みですが、各保険者の創意工夫が求められます。

 

 その他、以下のような論点が示されています。

◎ボランティアのポイント付与、有償ボランティアの推進、企業との連携

◎家族や現役世代が予防的な意識を持てるような周知広報の強化

◎総合事業の対象者が介護保険の給付が受けられることを前提としつつ、弾力化を行う

◎国がサービス価格の上限を定める仕組みについて、市町村が創意工夫を発揮できるようにするため、弾力化を行う。

◎高齢者が何らかの支援が必要な状態になったとしても就労的活動に参加

◎ケアプランにインフォーマルサービス推進

◎ケアマネジャーの処遇の改善と質の確保

◎ケアマネジャーの事務負担軽減

◎地域包括支援センターの積極的な体制強化等を行う市町村について、保険者機能強化推進交付金等によりその取組を後押し。

 

 これらの施策は基本的には保険者の努力や工夫が必要な分野です。その意味で、保険者の機能強化が重要ということになります。

 

 

Ⅱ 保険者機能の強化

 

 先に述べました通り、介護予防を保険者の責任として実施していく意味で、その強化が大きな課題です。

 また、保険者同士を競争させ、成績の良い自治体には予算を増額し、ベストプラクティス(良い取り組み)を全国に広めていくことを目論んでいます。

 

 ポイントは以下の通りです。

◎保険者機能強化推進交付金において取組評価

◎保険者機能強化推進交付金予算増額

◎評価指標、判断基準を明確化。

◎取組が遅れている市町村にペナルティーを与えるのではなく、都道府県による適切な支援。

◎要介護認定率などのアウトカム評価の方法確立

◎保険者の取組の達成状況の「見える化」推進

◎関連のデータ収集と事業者等負担軽減

 

次回に続く

 

介護保険制度改正 訪問介護を中心に(その2)

 

続きです。

 

Ⅲ 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)

 こちらでは、「現状・基本的な視点」として以下のような状況を踏まえています。

  • 都市部の介護ニーズ増大、地方部は高齢化のピークを越え、高齢者人口が減少に転じる地域もある。
  • 高齢者向け住まい(有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅)が都市部を中心に多様な介護ニーズの受け皿となっている。

 

 地域包括ケアシステムについては以下の点に留意して推進することが検討されています。

◎居住系サービス、訪問介護等の在宅サービス連携を強化

◎「介護離職ゼロ」の実現に向けて、介護施設の整備を進めるとともに、在宅サービスの限界点を高めていく

◎住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の質を確保、事業者に係る情報公表の取組を充実「外部の目」を入れる取組

◎看取り期にある者に対応する在宅の限界点を高めていく

◎介護老人保健施設について、在宅復帰・在宅療養支援の機能を更に推進

◎在宅医療・介護連携推進事業について、医師会等関係機関や医師等専門職と緊密に連携、ICT やデータ利活用

 

 これまで通り、施設介護ではなく在宅介護を中心に、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を積極的に活用するイメージでしょう。

 

 

Ⅳ 認知症施策の総合的な推進

 

 65 歳以上高齢者の約5人に1人が認知症になると見込まれていることを前提に、これまで通り、重点的な施策として推進する予定です。

 基本的なポイントはこれまでの施策の拡充となります。

 

◎認知症施策推進大綱に沿って、認知症バリアフリー・予防・早期発見対応・介護者(家族)支援

◎認知症の人が、尊厳と希望を持って認知症とともに生きるまた、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる「共生」の実現

◎認知症になった方が働き続けられる環境整備

◎住み慣れた地域で普通に暮らし続ける

◎「通いの場」をはじめ、高齢者の身近な場における認知症予防、「通いの場」でスクリーニング

◎かかりつけ医、地域包括支援センター、認知症初期集中支援チーム、認知症疾患医療センター等の体制の質の向上、 連携強化

◎介護者(家族)への支援、認知症カフェ、家族教室や家族同士のピア活動、職場における相談機能の充実

◎認知症高齢者グループホームのユニット数や運営規模の弾力化

 

 

Ⅴ 持続可能な制度の構築・介護現場の革新

 

 2025年度末までに、年間6万人程度の介護人材確保が必要なことを前提に、人材確保と業務効率化による持続可能な事業としての体制整備が中心ですが、人員確保は改善が難しい状況が見えるようです。

 

 一方、今改正の目玉の一つとして、「非営利連携法人制度」の創設があります。

 これは、社会福祉法人を中核として、地域の介護事業者が連携し、ロボット・ICT 等の共同購入、人材確保・育成、事務処理の共同化・プラットフォーム化を進めるものです。

 国としては介護の経営を大規模化させ、人材や資源を有効に活用し、効率化と介護職の処遇改善を進めたい意向があるのでしょう。

 しかし、この動きは、民間事業者など多様な参加者という介護保険制度の理念とは逆行します。確かに、介護福祉も電力や交通などと同じように大規模な公共事業体として組織化ができれば、職員の身分は安定し、いろいろな問題が解決するかもしれません。しかし、一方で大組織病のような非効率な部分が沢山出てきてしまうでしょう。少し虫がよい話かもしれません。

 

 その他の施策は次のようになります。

 

◎人手不足の中でも介護サービスの質の維持・向上を実現するマネジメントモデルの構築、業界のイメージ改善

◎業務の洗い出し・切り分けを行った上で、ロボット・センサー・ICTの活用と元気高齢者の活躍を促し

◎中学生、高校生等が進路を考えるにあたって、介護職の魅力を認識し、仕事として選択をしてもらえるよう、学校や進路指導の教員などへの働きかけ

◎「富士山型」の賃金構造を目指し、制度の整備を進める

◎潜在介護福祉士現場に戻ってもらうための取組

◎離職防止・定着促進の相談支援、小規模事業者への取組支援

◎介護現場を地域全体で応援する仕掛けづくり

◎外国人 介護人材の受入れを着実に推進

(アジア各国の急速な高齢化のため、外国からの介護人材の受け入れ拡大が安定的な人材確保策とならないとの意見あり)

◎介護分野の文書の削減・標準化等を進め、現場の事務作業量を削減

(個々の申請様式・添付 書類や手続きに関する簡素化、自治体のローカルルール解消、ICT 活用)

 

 以上、これまでにも散々取り組んできた内容ですが、一向に効果が見えない感じがあります。日本全体がコロナ以前の人材不足状況に戻るとすれば、いよいよ担い手不足は深刻になるでしょう。

 

 

今回議論されたが見送られた施策

 

 ケアマネジメントに関する給付の見直し=有料化・利用者負担

 社会保険料の負担増により中小企業や現役世代の負担は限界に達しており、制度の持続可能性を確保するため、能力のある人には負担していただくことを検討していましたが、以下のような意見もあり、今回は見送られています。

◎有料だとサービス利用をやめてしまう人が出てしまう

◎ケアマネジャーは保険者の代理人、市町村の代わりを担う立場であり利用者負担を求めることになじまない

◎有料化によりセルフケアプランが増加すると自立につながらないケアプランが増える

◎障害者総合支援法における計画相談支援との整合性

 

 軽度者に対する給付の見直し(要介護1・2サービスの地域支援事業への移行)

 要支援1~要介護2の利用者への生活支援の在り方を考えた場合、強度の違いはあれ、予防の視点は欠かせないため、一体的なサービス提供を図りたい旨の意向が保険者などから上がっており、移行が検討されてきました。


 社会保障審議会 介護保険部会(第90回)令和2年2月21日<介護保険制度の見直しに関する参考資料>より

 

 上記調査から、総合事業では制度改正前の介護予防サービスと同じ基準で提供されるサービスの割合が大きく、市町村の実施状況を見ても、住民主体のサービスなどの多様なサービスが実施されている市町村数は6~7割にとどまっています。

 総合事業から撤退する訪問介護事業所も多い中、そもそも、住民主体のサービスなどを介護事業に組み込むことは無理があるのかもしれません。サービスの母体となる介護事業所が回避しているためサービスが伸びないと考えます。

 

 国の意向としては、要介護2までの生活援助は身体介護から切り離し、安価で柔軟な住民主体のサービス(ボランティアや民間の家事援助サービスなど)にしたいという意向が見えます。

 最近は多様で比較的安価な民間家事サービスも増えています。例えば、区市町村がこうしたサービスを利用できるクーポン券などを発行し、家事援助を提供することも考えられます。

 しかし、ここで重要なのは「生活援助=家事援助」と定義していないことです。

 介護は広い意味で生活援助であり、その中には身体介護も家事援助も含まれています。生活援助から家事援助を切り離す方法が確立していない以上、要介護2までの総合事業への移行は難しいかもしれません。

 もし強引に導入しても、上述のような家事援助サービスを適切に提供できる体制ができていない場合は、現場がかなり混乱すると思います。

 

 この点について、審議会では以下のような意見が出されています。

◎見直しは、将来的には検討が必要であるが、総合事業の住民主体のサービスが十分ではなく、地域ごとにばらつきもある。まずは現行の総合事業における多様なサービスの提供体制の構築等を最優先に検討すべき

◎総合事業の課題である実施主体の担い手不足が解消される見込みもない中では市町村も対応できず、現段階での判断は現実的でない

◎要介護1・2の方は認知症の方も多く、それに対する体制が不十分

◎訪問介護における生活援助サービスは身体介護と一体的。切り離した場合の状態悪化が懸念

◎利用者の負担増となることを懸念。要介護1・2の方は重度化防止のために専門職の介護が必要

 

 

介護福祉業の人材確保対策 その2

 

 今回は、前回の就労環境を整えても、どのように求人でアピールすればよいのかを考えたいと思います。

 その前に、前回の説明の補足として以下のテキストもご参照ください。

「訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術」

 上述のような努力を事業所が実践するということが前提の求人の在り方です。

 

4 子育てママにアピールする求人広告の在り方

 求人広告としては前述の求人対策の内容をアピールします。

 若い主婦向けにはやはりネットの求人サイトを利用する方が良いでしょう。

 主婦専用の求人サイトでなくとも、若者が集まりやすい求人サイトに子育てママが働きやすい環境であることを具体的にアピールします。

 また、パート求人広告は地域密着ですから、それぞれの地域の子育て事情を考慮した広告の出し方が必要だと考えます。

 具体的なコピーとしては以下のようなものです。

 ⦿ 保活ママサポート。4月入園に向けた働き方を相談します。

(12月ぐらいに出すと良いでしょう)

 ⦿ 家族の都合で急な休みでも大丈夫

 (管理者やサービス提供責任者が柔軟に対応します)

 ⦿ 未経験無資格の方歓迎。面倒見の良い担当者が一から不安なく働けるように指導します。

 無資格の方に資格を無料で取得してもらえるようにするのは必須です。

 自治体によって補助金や資格取得支援事業がありますので必ず活用しましょう。

 

5 自事業所ホームページの充実

 子育てママ向けの求人だけでなく、すべての求人活動で必要なのが、自事業所のホームページの充実です。

 介護福祉事業所のホームページは中々充実させる暇やお金が無いという方も多いかもしれません。

 自事業所のホームページはご利用者やそのご家族、ケアマネージャーさん向けに作っているかもしれませんが、そうではなく、仕事を探している人向けに作ることが重要です。

 ケアマネや利用者向けに作っても費用対効果から言ってあまり意味はありません。それよりも求人者向けに充実させる方が、人材確保の大きな助けになります。

 ホームページのコンテンツは、サービス内容や事業所の一次情報(住所や電話など)を乗せただけの、一般的で凡庸なホームページでは求人者にはアピールしません。

 求人情報があっても、給与や処遇など一般的な情報しか掲載していなければ、ほとんど引っ掛かってこないでしょう。

 ポイントは「ここで働きたい!」と思わせるホームページ作りです。

 

 筆者は魚釣りが好きです。

 多少語弊があることを覚悟して言いますが、中小企業の人材募集は魚釣りに似ていると思います。

 特に疑似餌を使うルアーフィッシングは、いかに魚(応募者)に餌(職場)をアピールするかが重要であり、凡庸なルアーには見向きもしませんし、同じルアーを使い続けると、見切られてしまい、ほとんど食いつかなくなります。

 つまり、魚にいかにルアーを魅力的に見せるかが釣果に繋がるのです。

 求人も同じで、処遇や職場の雰囲気など応募者にいかにアピールするかが成果に繋がります。

 そもそもあまり事業所ごとに職場の差別化が測りにくいのが、介護福祉事業の宿命です。

 職種にしても給与にしても、あまり変わり映えの無い餌が大量に世の中に漂っており、求人者としてはどれに食いつけばよいのか判断ができない状態なのです。

 ちなみに、人材紹介会社などは、大きな巻き網漁船のようなもので、巨大な網を使って大量に人材を確保しようとします。そのために、広告費に膨大な経費を使い、少しでも多くに人の目に留まるようにします。

 アルバイトなどの求人情報会社が頻繁にテレビCMを流しているのはそのためです。顧客である人材募集企業に少しでも多くの求人応募者を集めるためには、相当の広告が必要になります。

 しかし、中小企業ではそんなに広告費を使うことはできません。

 しかも、募集の対象者は事業所の周辺地域に住む人達だけです。大きな網は必要ありません。少ないターゲットに的確に届く求人が必要ですが、狭い地域といえどもターゲットはどこにいるか分かりませんので、ネット上手に活用して、アクセスしてくれるのを待つしかないのです。

 

6 どのように自社サイトに誘導するのか

 介護業界で長く働いている人であれば、給与や休日など処遇関係の情報を見て、実体験から職場の良し悪しをある程度判断できるかもしれません。特に正社員で働きたい人は、ハローワークなどの詳細な求人情報を見て検討するでしょう。

 しかし、介護業務の経験の無い、ましてや無資格の人にとってどのような事業所が自分に合っているかなど分かる由もありません。

 特にパートの若いママさんなどの場合、フィーリングやライフスタイルに合っているかが重要になりますので、文字による情報よりもビジュアルや動画などの情報が重要になります。

 最近、膨大なCM展開をしているindeedという求人検索サイトがあります。

 こちらは今までの求人サイトと違い、例えば「足立区 介護 パート」などと検索すると、足立区周辺の介護のパート求人を検索して出してくれます。

 Googleに検索ワードを入力すれば、該当する求人情報をIndeedが表示してくれるわけです。仕事を探している人はその検索画面から、各求人サイトに行き、求人内容をチェックします。

 ネット上のパート求人情報を地域限定で探している人は、多くの人がこの方法で、情報を探しているかもしれません。わざわざマイナビバイトなどのサイトから地域を限定して探している人は、どんどん少なくなっているでしょう。

 仕事を探している人はそこから、気になった求人情報のサイトにアクセスするわけですが、問題はここからです。

 応募者は求人情報サイトの情報だけで応募することはありません。

 多くの人たちがそのサイトにリンクが貼ってある(もしくは会社名などを検索して)事業所のホームページアクセスするはずです。どんな事業所か知りたいからです。

 この時、開いた事業所のサイトが凡庸なもので、どのような事業所か伝わってこなければ、もう応募することは無いでしょう。

 ここで「この職場で働いてみたい」と思わせることが大変重要なのです。

 お金を沢山出せば、有料求人情報サイトに写真や動画を沢山掲載し、雰囲気を伝えることができますが、いかんせんお金がかかります。

 できるだけ、自社サイトに誘導して雰囲気を伝えるようにすることが重要になります。

 そこで「この職場で働いてみたい」と思われれば応募に繋がります。

 

7 どのようなホームページが採用につながるのか

 では「ここで働きたい」と思わせるホームページとはどのようなものでしょうか?

 いくつかサンプルのリンクを貼っておきます。

 「楽しそう」「若い人が多い」「子育て中でもやっていけそう」などと思ってもらえる工夫が必要です。

 そのために、まず職場の雰囲気が伝わる写真や動画をふんだんに盛り込みましょう。

サンプル

①私が昔働いていた会社です。ペッパー君などを使い職場の楽しい雰囲気が伝わるよう工夫しています。これにより、若い人の応募が増えました。

http://www.best-kaigo.com/

②上と同じ会社ですが訪問看護でママさんナースを募集しています。子育て支援をアピールし小さなお子さんを持つナースが増えました。

http://www.best-kaigo.com/job/nurse-info.html

③こちらは筆者がコンサルをさせて頂いている、訪問介護事業所です。若い人中心のイメージと、子育て支援、障害者ヘルパーの具体的な仕事内容を掲載しています。

先日、未経験の子育てママさんパート二人応募があり大きな戦力になっているようです。

http://sunshine-cs.com/recruit/

 最後に、求人情報サイトはできるだけ切れ目なく利用することをお勧めします。

 できるだけ低価格で長い期間掲載できるサイトが良いでしょう。また、自社ホームページにリンクが貼れるサイトが良いのですが、リンクを貼らせてくれないサイトもありますので注意しましょう。

 Indeedはハローワークのインターネット情報も検索しますので、ハローワークについても3カ月おきに情報を更新し、絶えず求人情報が生きている状態にすることが大切です(3か月以上古い情報は後の方に行ってしまい検索がかかりにくい)。

この章終わり。

 

働きやすい地域職場としての介護・福祉事業所の在り方

 

地域の潜在的介護人材は子育て主婦や退職後の高齢者

 

 厚労省の受託事業として日本総合研究所は「介護人材の働き方の実態及び働き方の意向等に関する調査研究事業 報告書」公表しました。
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20180410_1_fukuda.pdf

 報告書では、介護人材確保の方策が様々に調査研究されていますが、興味深い調査として、潜在的介護人材(資格は持っているが介護現場で働いていない人)の属性調査があります。
 以下はその調査のポイントです。

【分析結果の概要】
◎ 潜在人材の現在の職業
「専業主婦(主夫)」が58.7%。次いでパート、アルバイトが多い。60 代以上は無職が多い。
◎潜在人材のうち、全体の 4 割前後は現在就業していない。女性や年齢が高い方が多い。また、今後の就業意向
全体の 4 割超は介護業界で働きたいという意向。
◎再就職の条件として希望していることとしては、
①「賃金水準を相場や業務負荷などからみて納得感のあるものとする」
②「子育ての場合でも安心して働ける環境(保育費補助や事業所内保 育所の設置等)を整備している」が上位。
◎特に30代女性では、
「子育ての場合でも 安心して働ける環境(保育費補助や事業所内保育所の設置等)を整備している」(52.5%)
「時短勤務な ど、職員の勤務時間帯や時間数等の求職者の希望を反映できる制度を導入する」(43.2%)が大きくなっている。
 一方で、法人内での配置転換等についてはあまり効果があるとは考えていない傾向がみられる。

 この調査の結果を見れば、地域に多くの潜在的な介護人材が存在することがわかります。
 その多くが専業主婦や高齢者であり、おそらくは正社員での就業を望んでいる人ではなく、自分の家庭や生活を優先し、余った時間で働ければ良いなと考えている人たちであるということが言えるでしょう。
 こうした潜在的な人材を掘り起こしていくことが、人材確保の上でも非常に重要な戦略になると考えます。

 

潜在的介護人材をパートスタッフに

 介護事業所を経営するには、パートスタッフの活用が非常に重要になります。
 やはり、正社員だけで人員を確保するにはコストがかかりますし、社員のキャリアパスなどを考慮した場合、沢山の正社員を抱えることはあまりメリットがありません。
 特に訪問介護の場合は、パートスタッフを増やせば増やすほど、収益が向上する仕組みになっており、管理者やサ責以外はパートスタッフで運用するのが最も効率的な経営となります。

 上述の調査では、専業主婦の多くが子育てのための離職を余儀なくされている状況が見えます。子育てと仕事を両立できればそれを望んでいることもうかがえます。
 しかし、日本の保育システムでは子供に病気などの異常が出た場合は、家庭がフォローすることが求められ、急に仕事を休まなくてはならない状況に追い込まれやすくなっています。そのため子育てのある主婦の場合、恒常的な仕事に就きにくく、地域の労働力として活用できなくなっているのです。

 

潜在的な介護人材が働きやすい職場づくり

 こうした子育て主婦が働きやすい職場とは、急な休みにも嫌な顔せず対応していくれる職場であると考えます。
 介護事業所はある程度余裕のあるスタッフ体制を敷けば、このような対応が可能です。
 訪問介護でもサ責なりが通常事業所に待機している状態であれば、急に穴が開いても対応は可能です。こうした受け皿をしっかり整備するかしないかで、働きやすさが全然違ってきます。
 パートスタッフを充実させるためにも経営者はそうした体制作りを心掛けるべきでしょう。また、パート求人を出す場合はそうしたフォロー体制の整備と子育て主婦にとって働きやすい職場環境であることを積極的にアピールすることが重要です。

 高齢者の場合は、介護の仕事に対するなじみのなさや、大変なのではないかという先入観が就業の壁になっているかもしれません。
 自分の親の介護経験がある方などは意外とすんなりと介護現場で働いているように感じます。東京都でも職場体験と資格取得をセットにした無料の人材確保事業を行っていますが、そうした職場体験の仕組みがもうすこし身近にあると良いと感じます。
 高齢者のパートスタッフ求人する場合は「高齢者歓迎」や「気軽に職場体験できます」などのメッセージを強調しましょう。

 専業主婦や退職後の高齢者は、自分の生活を優先できる働きやすい職場を地域に求ています。特に子育て主婦は子供の手が離れれば正社員として長く働きたいという希望を持っている方も多いでしょう。介護事業所はそうした地域の人たちの職場として機能する意識で事業所経営をしなければなりません。

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