今回は現場で身体拘束や虐待が起こらないようにするためにどのような取り組みが必要なのかを考えてみたいと思います。
記録は防衛手段
前回、介護が事故や訴訟のリスクを抱えた仕事であることを述べました。
まず、経営者や管理者がそのことを踏まえたうえで行動していくことが大事だと筆者は考えます。
認知症の利用者が動き回るからと言って、身体拘束して事態を収拾しようとするよりも、動き回る状態でいかに介護するかを考えなければいけません。それにより転倒事故が起こったとしてもその事態を受け入れて、対応する方が事業へのダメージは少ないのです。
しかし、それには条件があります。
それは記録を適切に残しておくことです。
適切な記録がなく事故が起こった場合、その事故の原因を行政や国保連などの第三者機関が客観的に把握することができません。結果としては事業者の責任が重くなってしまう場合もあります。
裁判になった場合、記録による証拠が不確かであると、事業者にとっては不利になります。
日頃から客観的な事実を記録に残し、第三者が見てすぐ理解できるようにしておけば、その事業所の記録は証拠としての信頼性が増します。結果、事業者にとって有利に働くことになります。
困難ケース記録が虐待を防止する
介護記録は日々の仕事としてルーチン化しており、バイタルや食事・活動記録などは日ごろから記入することが習慣化していることと思います。
これがまず前提となります。
そうした日頃の記録の積み重ねが、事業所の記録の信頼性を高めますから、これらのルーチンワークを怠ってはいけません。
その上で、事故の可能性がある利用者(例えば転倒の危険性があるのに勝手に動き回る利用者など)困難ケースの記録を取って行くことが大切で、これが虐待を防止する結果にもなります。
困難ケース記録のとり方
安全の確保が難しい、又はなんらかの事故が予想される利用者に対してサービス提供をせざるを得なくなった場合、管理者などの判断により、日頃の記録とは別に、困難ケース記録を記入するようにします。
様式は特にありません。白い紙や専用のノート(「困難ケース記録ノート」等)に記入しても良いでしょう。
記録に必要な事項は以下のようになります。
①利用者氏名
②困難ケース記録を開始した経緯
※なぜこの記録を取るようにしたのか。安全の確保できない、またはなんらかの事故が予想されることを具体的に書く。
③問題が発生した日時
④問題が発生した場所
⑤どのような問題が発生したのか
⑥対応方法
⑦対応者
⑧記録者
⑨事後の対応・経過(必要に応じて)
⑩写真などの証拠物件の存在(必要に応じて)
この記録は当然ながら、外部に見せることを前提に書かなければなりません。行政やご家族が見ても信用してもらえるように、具体的に客観的に書く必要があります。
介護者の主観や苦情じみた書き方は客観的な記録では無いので、第三者に対しては信頼性を損なう結果になります。
記録は正直に書かなければならない
さらに、利用者の問題行動に対して職員が不適切な対応をしてしまった場合は、それも隠さず記録する必要があります。
職員のミスは職員のミスとして別に対処すればよく、別に業務日報などにその事実を記載し、改めてその職員の指導を行うようにします。
困難なケースですからすべての職員が適切に対応することは難しいことです。ミスが起こる可能性も高くなります。それを前提にサービス提供する腹積もりが必要なのです。
最終的に、事業所がこの困難ケースに対して何とか対処しようとしている様子がこれらの記録から読み取れれば、記録は成功と言えます。
組織的な対応の重要性
基本として虐待や身体拘束の誘惑にかられるようなケースが発生した場合は、まず事業所全体で対応するようにします。
管理者や責任者はスタッフからのそのような情報発信に敏感でなければなりません。
「誰それ(利用者さん)がなかなか言うこと聞かなくて・・・」などというちょっとしたボヤキ発信を敏感にキャッチできるようにならなければならないのです。
たとえば利用者の自室で一対一でサービス提供するような施設や訪問介護などの場合、そのスタッフが密室で何をしているのか分かりませんから、スタッフがケアに困難性を感じていたり、苦労している場合は早急に救援の手を差し伸べてあげる必要があります。
それを放置しておくことで、虐待や身体拘束は発生します。
困難ケースの記録を取ることで、介護職員の資質の向上に役立つことは言うまでもありませんし、事業所で話し合いながら対応することで、事業所のサービス能力も上がります。
難しいご利用者はみんなで対応して、記録を取る。
それにより安易な身体拘束や虐待は減らしていけると考えます。