訪問看護事業者はもちろんですが、訪問介護事業者も今後、積極的医療的ケアに取り組んでいくべきだと考えます。
収益性面でのメリットだけでなく、在宅で生活する医療的ケアの必要な人たちが特にお子さんを中心にニーズは高まるばかりだからです。
もちろん、人材不足のおり、医療的ケアまで手が回らないという、訪問介護・障害者居宅サービス事業所も多いでしょう。
しかし、医療的ケアに特化した訪問介護事業所では高い収益性をあげている事業所もあり、将来そうしたサービスに取り組む視野を持っておいた方が良いと考えています。
子供のケアニーズの高まり
在宅での医療的ケアニーズは、特に未就学のお子さんのニーズが高まっています。
こうした未就学の医療的ケア児の人数や生活実態を、厚生労働省は「不明」としています。
地域では病児と扱われて障害児施設にも入れず、医療的ケアに対応できないため保育園にも入れない状況が多いといわれます。
結果、ほとんどの場合、母親などの家族が在宅で世話をしている状況であり、仕事や将来設計に大きな影響を与えている状況です。
世田谷区の調査では医療的ケアの必要なお子さんを持つ、主たる介護・看護者(ご家族等)の1日の平均睡眠時間はおよそ9割が6時間未満、かつ睡眠が断続的であるという結果が出ています。
在宅でご家族がケアをしている未就学の医療的ケアの必要な子供の潜在ニーズはどのぐらいなのか、国自体も把握していない状況です。
全国医療的ケア児者支援協議会(http://iryou-care.jp/)によれば、文部科学省の全国調査で医療的ケアが必要な児童数(特別支援学校などの就学児)が平成23年で19,303名でしたが、2年後の平成25年5月では、25,175名とおよそ6,000名も増えています。
これは、近年の新生児医療の発達により、もたらされたものだそうです。
また、同協議会の推計では、東京都には未就学の重症心身障害児が約1600人存在しているとのことです。
こうした子供たちの在宅生活を支える社会的資源として介護職の医療的ケアが存在している部分も大きいと言えます。
ちなみに、保育士も同様に医療的ケアが可能になりましたが、医療的ケアの必要な子供を受け入れてくれる保育園等はほとんど増えていないようです。
国が介護福祉士と保育士の融合を検討しているのもこうした背景があるかもしれません。
障害者福祉サービスは不十分
わが国では、お子さんだけでなく、障害者に対するサービスの供給はまだまだ不十分であり、社会保障給付の額でもヨーロッパなどの福祉先進国からはかなり後れを取っている状況です。
また、社会全体としても必ずしも関心が高いとは言えないでしょう。
日本では、長い間、障害者支援の主体は家族や行政が中心であり、民間などの外部サービスを利用した広い支援体制がなかなか整わない状況が続いていました。
欧米ではノーマライゼーションの考え方が浸透しており、障害により障害者が不利益を被ることは、社会システムに問題があり、障害者は外部サービスを積極的に活用して、自立した生活をする権利があるとされています。
日本は2014年に「障害者の権利に関する条約」を批准し、制度面でやっと国際標準に到達したといえる状況です。
今後、障害福祉サービスのさらなる充実を図ることが国策となっていると考えます。
障害者サービス利用はどんどん伸びている
国民保健団体連合会のデータから、ここ4年のサービスの伸びを見てみましょう。
平成24年から平成28年にかけて、障害福祉サービスの利用者数が24%伸びていますが、障害児だけに限定すると、その伸びは136%です。
こうした伸びは障害者総合支援法が施行され、今まで障害者ではなかった新たな障害者が増加したり、病院や施設から在宅生活へのシフト、また、今まで外部サービスを利用してこなかった障害者が積極的にサービスを利用し始めたことが要因だと考えます。
特に障害児を持つ家庭では、家族が直接支援していた状況から、一気に外部サービスを使い始めたということでしょう。それだけ障害児に対するサービスニーズは高く、その傾向は今後も変わらないといえるでしょう。
なお、福祉先進国ではそもそもの障害認定の方法が異なり、日本では障害児とみなされない病児も多くが障害者としてサービスを受けられる環境があります。
わが国が福祉先進国を目指すのであれば、日本でも新たなサービスの利用はさらに増えると考えます。
まず医療サービスの充実が必要
実は医療的エアの必要な子供たちのケアを外部から提供するには、まず、訪問診療などの医療サービスの充実が課題となっています。
この点で我が国では訪問診療医が不足しており、その原因として医師への負担が大きすぎるということが挙げられています。
こうした児童に対応する訪問診療医は24時間365日、電話での対応ができることが必要であり、とても一人の医師だけでは対応できず、組織的な対応ができるようにしなければなりません。
電子カルテの共有などにより、複数の医師による訪問診療の地域的な運用が必要ですが、まだまだ道途上となっています。
しかし、こうした医療環境の整備は、今後充実してくると筆者は考えますし期待します。そうなれば今以上に介護職の提供する医療的ケアニーズも高まって行くでしょう。
現在、訪問介護事業所が喀痰吸引や経管栄養を行うためには、介護職員が研修を受けて、都道府県に事業者登録する必要があります。
介護職がレベルの高いサービスを提供できるようになることは、そのまま処遇の改善に直結します。
将来を見据えて少しずつでも取り組まれることをお勧めします。