独立訪問介護士の可能性 その1

 

 筆者は今般、一般財団法人ニューメディア開発協会から委嘱を受け「在宅医療・訪問介護向けスマート端末検討会」の委員として参加することになりました。
http://www2.nmda.or.jp/archives/2571/

 ここでの議論とは少し異なりますが(というよりずっと未来の話になりますが)、介護福祉サービスのIT化が進んだ場合、独立訪問介護士という新しいサービス形態が可能ではないかと思い当たり、少し考えたいと思います。

 

独立訪問介護士とは

 現在、訪問介護サービスを提供するためには、法人を設立し、事務所を借りて確保し、介護福祉士などのサービス提供責任者を雇用しなければ、都道府県の指定を受けることはできません。

 これは公的なサービスを提供するにあたり、責任のある運営主体を確保するためです。
 登記された法人が事業所を開設してサービスを提供することで、責任の所在を明確にし、利用者の不利益にならないようにする目的があると思います。

 しかし、経験と実績を積んだ優秀な介護福祉士などが個人で訪問介護サービスを提供する事業ができないか。それを可能にするのが、独立訪問介護士です。
 例えば医師免許を持つ医師は個人で医業を営むことができます。ただし今のところ診療所を持たないと開業はできないようです。筆者は、訪問診療医は診療所を持たなくても、開業できるようにするべきだと考えますが、古い制度を引きずったままで変わる気配はありません。

 この先、IT技術が進歩し、各種専門業務の適切な管理が可能になり、法人設立や事業所が無くても、責任を担保した形で仕事ができるようになれば、事業所などが無くてもPCとタブレットだけで仕事が完了できる時代が来ていると考えます。

 つまり、独立訪問介護士は自宅から利用者の家を訪問しサービスを提供しますが、それらサービス情報のすべてがIT環境で処理され、例えばケアマネや自治体、ご家族が正確にそのサービス提供状況を把握でき、介護士の仕事を管理できることで可能になるものです。
 もちろん、介護だけでなく訪問診療医や訪問看護師も同様に事業所を持たない形での営業が可能になると考えます。

 

独立訪問介護士のメリット

1 訪問介護職の収入増加

 例えば東京の訪問介護の場合、9時から18時の勤務時間で、1日5件(各1時間程度)のサービス提供が一般的です。
 サービス給付を見ると、1時間で4,000円から5,000円程度ですから、1日に20,000円から25,000円の給付になります。月20日稼働で40万円から50万円の給付になります。
 独立訪問介護士の場合これらの給付がダイレクトに収入になります。年収にして500万円以上が期待できるでしょう。
 法人に勤務する訪問介護士の場合、事務所の家賃や管理費にコストがかかりますので、頑張っても正社員で30万円程度の給与しか貰えません。しかし独立であれば、かなり安定した収入になります。

2 優秀な訪問介護士の増加

 現在、訪問介護の仕事は少しレベルの高いパート仕事として認識されていると思われます。しかし、安定的な収入が得られるとすれば、それなりの人材が流入してくることが考えられます。
 後で述べますがそもそも、独立訪問介護士になるにはそれなりの知識とスキルが無ければ務まりません。介護職の地位の向上にも貢献するでしょう。

3 地域の在宅介護力のレベルアップ

優秀な人材が増えれば、当然のこと介護の仕事そのもののレベルアップになるのは当然です。

4 社会コストの低減

 現在の介護事業開業のためには法人設立や事業所賃貸費・管理費など無駄なコストが多くかかります。そうしたコストを、介護職の収入にできるようにするのが独立介護士の意義でしょう。
 この制度は国の給付額を上げずに、つまり税金を使わずに介護職の処遇を改善する非常に有効な手段となりえます。また、施設介護から在宅介護への流れを強化することにもなり、在宅医療の拡大にもつながると考えます。

 

独立訪問介護士を可能にするには

 こうした介護士を可能にするためには、IT技術の進展が必要ですがそれ以外にも制度の整備を必要とします。
 まずはこの特別な資格を得るための個人としての能力要件が必要でしょう。優秀な介護士でなければなることはできないと考えます。

独立訪問介護士の人的要件

1 訪問介護のサービス提供責任者としての実績(例えば5年以上など)
2 ITスキル(実地研修などの裏付けが必要)
3 区市町村による能力評価と登録

 次に、こうした介護士が働けるITを中心とした環境が区市町村に整備や国による制度化が図られなくてはなりません。

環境要件

1 区市町村が医療・介護連携システムなどを導入し、サービス提供の情報管理および従事者の業務管理が適切にできる体制にある。
2 国として資格や任用要件を制度化する。
3 その他ITによる医療・介護・福祉人材の地域ネットワークの構築

次回はこれらの要件をもう少し詳しく説明します。