今回説明するのは介護保険法の施設サービスです。
介護事業を開業する場合、株式会社ではこのサービスに参入することはできません。
介護保険法の施設サービスは社会福祉法人などの公益法人でないと事業を行うことはできないので、中小企業でも土地など豊かな資産をもっており、公益法人を設立できる財力がある企業でなければ、参入は難しいといえます。
しかし、居宅サービスを営む場合でも、これらのサービスがどのようなサービスなのかを知っておく必要はあります。
施設サービスはある意味、居宅サービスにとってのライバルであるので、相手に負けないサービスを目指す意味でも知っておくことは重要でしょう。
今回は、そうした観点からの説明です。
居宅サービスと施設サービスの違い
介護保険法の施設サービスは、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・介護老人保健施設(老健)・介護療養型医療施設の3つだけです。
その他の介護サービスは基本、居宅サービスに分類されます。
有料老人ホームは提供するサービスは特養と似ていますが、居宅サービスに分類されます。
また、地域密着型サービスの中に、地域密着型介護老人福祉施設があります。
こちらは小規模な特別養護老人ホームですが、居宅サービスに分類されるとともに、中小企業でも公募による参入が可能です。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
多くの方が、公設の老人ホームというイメージを持っているかもしれません。
一度入所すると、亡くなるまでそこで暮らすイメージでしょう。しかし、規定上は自宅に戻ることを「念頭」に置いたサービス提供が求められており、終の棲家としての施設を前提としていません。
しかし、入居基準が要介護3以上と変わったことで、実態としては、ほぼホスピス(終末期ケア)サービスを提供する施設になっていると言えるでしょう。
利用者は、在宅生活が困難になった、低所得層の高齢者が中心です。さらに、医療的ケアが必要な方は入居できない場合があります。比較的認知症末期の方が多いかもしれません。
しかし、BPSD(≒問題行動)などが強いと入居ができない場合があります。そういう方は、精神科のある病院に入院される方も多くいらっしゃいます。
認知症でも比較的穏やかな状態で、かつ下肢筋力が低下して歩行が困難になったような方が典型的な利用者でしょう。
特別養護老人ホームは万能の介護施設のイメージがあるかもしれませんが、上述のように入居できる方はかなり制限されている部分があります。
都会では特養待機者が沢山いるという報道がありますが、その待機者の中には在宅生活が可能な方や入居基準を満たしていない方(申し込んではいるが実際には入れない)も多くいらっしゃるようです。
最近では、地方などで、空きが多く出始めている施設も増えており、入居基準を見直して、幅広い状態の方を受け入れていく必要もあるようです。
介護老人保健施設
業界では「老健」と呼ばれる施設で、リハビリを中心として医療的ケアを行う施設です。
典型的な利用者のイメージとしては、脳血管性の疾患などにより、身体機能に障害があり、在宅での日常生活が困難な方が、在宅復帰を目指して、医療的管理の下でリハビリを行うという感じでしょう。
脳梗塞発症後の半身まひの方などが典型的な利用者です。
あくまで在宅復帰を目指した施設ですが、実際には長期にわたり入所している方が沢山いらっしゃいます。
その意味では特別養護老人ホームとあまり変わらないような状態になっている施設もあります。
一般的には概ね6か月程度で自宅に戻る想定ですが、独居の高齢者などでは、在宅復帰への不安が大きい場合も多く、別の施設に移る方も多いようです。
介護老人保健施設は医師が常勤している必要があるため、病院などに併設されていることがよくあります。
これはあくまで筆者の主観ですが、介護老人保健施設を併設している病院に入院すると、そちらの施設を利用させられることが多いような気がします。
在宅復帰の判断はあくまで医師がすることなので、経営上そのあたりのコントロールがされている感じがします。
介護療養型医療施設
昔は、老人病院などと呼ばれていたこともあります。
介護保険制度前の話ですが、筆者の母親は脳梗塞半身まひで筋力低下のため寝たきりでしたが、心臓弁膜症手術(弁置換)の既往があり、さらに褥瘡があったために(特養を含め)老人ホームに入居できず、死ぬまで病院で暮らしていました。
在宅生活が困難な、医療的ケアの必要度が高い利用者を対象とした施設ですが、単体施設としての介護療養型医療施設は今年度末に廃止される予定です。
今後は、先に説明した老人保健施設や病院の中の療養病床などでケアを行っていくことになるようです。
施設により違いはありますが、やはり介護施設というより、病院のイメージが強く、たとえば食事はベッド上で摂らなければならなかったり、利用者のQOLを考えた場合、問題がある施設もあるようです。
廃止になるのもその辺が理由かもしれません。
この項おわり