地域の医療介護連携を加速するIT技術の導入について

 

IT導入補助金によりケア業務のIT化が加速する予感

 

 国はIT技術の導入による生産性の向上を目指した、IT導入補助金を始めました。

 https://www.it-hojo.jp/

 これにはもちろん医療介護事業も含まれており、この補助金を利用することにより情報共有化などの業務効率化を図る介護事業所も増えるのではないでしょうか。

 

 格安スマホやSIMの登場により月々1,000円程度の通信費でスタッフ全員がモバイルツールを持てるようになっています。

 いよいよ、ケア業務のIT化が加速しそうな気配がしてきました。

 

 

重度の方の在宅ケア推進にはIT技術の導入が不可欠

 

 筆者は訪問介護や看護などの在宅ケアの収益性向上のためには、レベルの高い医療的ケアの実施も含め、医療介護連携が不可欠だと考えています。

 

 重度の障害者や医療ニーズの高い高齢者などの、在宅療養生活を実現するためには、医療介護連携が重要であることは、介護保険制度が始まった頃より継続して訴えられてきたことです。

 

 施設や病院で生活している方でも、連携体制が整えば、実は在宅生活が可能な方が多くおられます。その意味で潜在的な在宅療養ニーズは非常に高いのです。

 

 しかしこの連携体制の充実は様々な理由によりなかなか進まない状況でした。

 特に施設や病院が充実している都市圏では、連携を進める主体がはっきりせず、行政や医師会などの利害が交錯し、思うような連携体制が構築できていないように感じます。

 

 

在宅療養は医師の負担が大きい

 

 在宅療養を支えるには、まず訪問診療が重要な役割を担います。

 

 しかし、365日24時間のケア体制を整えるには訪問診療医への負担が非常に大きく、これまでは、医師の地域医療に対する使命感だけで支えられてきた部分が多いと言われます。

 

 このことは未だに解消されておらず、休みもなく24時間体制で働いている訪問診療医は多く、そのためになり手も少ないという課題を抱えています。

 

 

IT化による情報共有で在宅療養は進展する

 

 そこでIT技術を導入し、訪問診療医チームによるカルテの共有などにより、医師の当番制対応を可能にし、一人の医師に負担がかからないようにするモデルが少しずつですが進んでいます。

 

 この方法が全国に広がれば、在宅療養は大きく進展するのではと考えます。

 

 今のところ、これらは一部法人の独自の取り組みであり、公的支援(一部自治体を除く)がない状況で行われています。

 

 今回の補助金の導入により訪問診療のIT化が加速することを望みたいと思います。

 

 

IT化により医療介護連携体制が強化

 

 上流の訪問診療がIT化すれば、下流の訪問看護や介護などの居宅サービスもIT化が進んでいくと考えます。

 

 現状でも、スマホなどにより現場で報告書を入力し、業務効率化は可能ですが、こうした情報が医師から介護まで共有できるようになることは、連携体制の構築には不可欠なことです。

 

 つまり、業務のIT化が上流からやってくるイメージです。

 

 

 

IT化に対応できない事業所は在宅療養ケアには参加できないかも

 

 逆に言えば、IT化に対応できない介護事業所は医療介護の連携体制からは除外される可能性があります。

 

 在宅医療のITフォーマットに合わせた業務ができなければそのチームには加われないということです。

 

 医療から介護までの統一されたシステム環境が整備されるまには、まだ数年はかかるとは思いますが、今のうちから業務のIT化には取り組んでおくべきかと考えます。

 

 特に、スタッフが現場でスマホやタブレットを使いこなせるようにしておくことは、早ければ早いほど良いと思います。

 

 

 

課題は個人情報保護のためのセキュリティー体制の確保

 

 情報の共有化には個人情報の保護の問題が付きまといます。

 

 事業所ごとに個別に利用者情報を管理している場合は、管理責任は事業所にありますので、責任の所在ははっきりしているのですが、クラウドなどにより多数の事業所が情報を共有する場合は、その情報の管理責任が誰にあるのかが不明確です。

 

 民間のIT事業者のシステムを多数の事業所で利用し情報を共有する場合、システムの脆弱性による個人情報の漏えいなどは、システム側の問題になるかもしれません。

 

 しかし、多数の事業所が情報を入出力する場合、どのようなトラブルが発生し、それぞれの事業所の責任がどこまでなのかはっきりしない部分があります。

 

 クラウドシステムにおける個人情報の管理の方法について、明確なガイドラインが必要でしょう。

 

 

 

介護ソフト業者も本腰を入れて売り込みを開始

 

 IT導入補助金はIT業界を騒がせています。

 

 介護ソフト業者もあちこちで自社のシステムの売り込みを開始しており、大手のカイポケもIT導入補助金の利用を呼び掛け、18か月無料お試しのキャンペーンを実施しています。

 

 すでに使っている介護ソフトはあるとは思いますが、もしモバイルシステムを試してみる機会があれば、この際ぜひ試用してみることをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

サ付き高齢者住宅の囲い込み問題─関係居宅はケアプランチェックの準備を

 

サ付きの介護費が特養を超える

 

 サービス付き高齢者住宅(特定の指定なし)に入居している要介護3以上の利用者の介護費が、特別養護老人ホームの要介護3以上の入居者の介護費よりも高いという調査結果が大阪府で出されました。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shakaihoshoukaikaku/wg_dai23/shiryo1-1.pdf

「大阪府における介護施策の現状と課題、対応の方向性について」P11参照

 

 これに対して国は「囲い込み」の問題があるとして、次回の報酬改定で対策を講じたいという意向を示していますが、どのような対策を講じるのかは不明です。

 

 この問題のポイントは、サービス付き高齢者住宅は居宅サービスであり、在宅と同様、訪問介護や看護を利用しながらケアを受けるのだから、在宅介護並みの介護費に収まらなければおかしいということです。

 

 それが大阪府では在宅介護費はおろか施設介護費よりも高くなっているということです。これでは本末転倒でしょう。

 

 

この結果、何か引っ掛かる

 

 しかしこの調査、簡単にそのまま受け取れないものがあります。

 

 たとえば、平成28年の要介護5の居宅サービス利用者の平均介護給付額は25万円程度で30万円には届きません。

 

 特養は30万円前後ですから単純に比べれば、居宅サービスを利用したほうが断然、安上がりだという理屈になります。

 

 しかし、例えば独居の要介護5の利用者が、サービス付き高齢者住宅に入居し、毎日午前と午後に1時間ずつ訪問介護(身体)を利用し、さらに、訪問看護や訪問入浴を利用すると介護費は30万円を超えて、限度額近くまで行ってしまいそうです。

 

 通常のケアプランでは特養並みにお金がかかるのは避けられないような気がします。

 

 何か変です。

 

 

カラクリは家族介護コスト

 

 サービス付き高齢者住宅の入居者の多くは独居の高齢者(もしくは老夫婦)であり、家族の援助がなかなか受けられないということを考えなければなりません。

 

 一人暮らしの重度要介護者の、居宅サービス費の平均利用額のデータが無いので、明確な比較はできませんが、先に挙げた約25万円という居宅サービスの平均額には家族の助けが含まれています。家族同居の要介護5の場合、毎日の訪問介護は必要ない場合もあるでしょう。その分、居宅サービスの平均額は低く抑えられているのでしょう。

 

 

一部、過剰なサービスはある

 

 確かに、夜間の訪問介護が必要の無い人に夜間の割り増しサービスがプランニングされていたり、家事援助が身体介護で算定されていたり、一部、不適切なサービス提供があるとは考えられます。

 24時間のサービス体制は入居者にとっては安心ですが、夜間の身体介護がどこまで必要かは議論があると思います。宿直スタッフが配置されている場合、あまり必要の無い夜間の訪問介護を提供している例は多いかもしれません。

 

 とはいえ、介護給付費の算定構造上、独居の高齢者、特に要介護3以上の重度利用者の給付費は、特養並みになるのは避けられないのではないでしょうか。

 

 つまり、独居の利用者の介護給付費は居宅も施設も変わらない。ということです。

 

 そのように算定構造を作っているのは国自身であり、それを改善するとなると、居宅介護費を減算するしかないような気がします。しかし、実際それは無理でしょう。

 

 

自治体によるケアプランチェックが先

 

 いきなり算定構造を云々するよりも、まず、サービス付き高齢者住宅に入居する利用者のケアプランチェックを、自治体がしっかりやることが重要でしょう。

 

 それを実施しないで給付費のマイナス改定は行えないと考えます。もし行ったら乱暴すぎますし、まじめにサービスを提供している事業所にとっては大打撃です。

 

 次期改定で何か対策をするにしても、まずケアプランチェックを実施してからであり、従って、筆者は近いうちに、都道府県や区市町村に対してその種の通達や指示が出されると考えます。

 

 

サ付きの居宅介護事業所は準備を

 

 サービス付き高齢者住宅の利用者のケアプランを作成している、居宅介護事業所はその点を考慮して、ケアプランの自己点検をしっかりしておく方が良いでしょう。不要なサービスを提供していないか自治体のチェックが入ります。

 

 合理的なケアプランにより、給付費が居宅サービス費の平均額を超えていてもそれは仕方がありません。

 

 おそらくその利用者は独居であり、家族介護の助けを得られず、外部サービスに頼らざるを得ないわけですから。

 

 

現状、特養のコストより少しでも低ければ可ではないか

 

 今後、全国調査でどのような結果が出るかわかりませんが、特養のコストよりも少しでも低ければそれで可としなければならないような気がします。

 

 独居の高齢者は、今後さらに増えることになります。家族の援助は低減し、居宅サービス費の平均額も上がってくるでしょう。特に都市ではその傾向が強く表れます。

 

 独居の重度要介護者の給付費は特養も居宅も同じ、という考え方で、居宅の介護報酬に手を付けないことを祈ります。

 

 そもそも、サービス付き高齢者住宅は建設設備費や用地確保の面で、特養よりも税負担のコストメリットが大きいはずです。その点を加味して全体的な政策を考えてほしいと考えます。

 

 

 

介護職の外国人技能実習制度で人材不足は解消するか

 

 今回は、今年中に導入される予定の、外国人による介護職技能実習制度について考えてみたいと思います。

 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147660.html

「外国人技能実習制度への介護職種の追加について」

 

 

 外国人技能実習制度とは

 

 この制度は平成5年に創設されました。

 簡単に説明すると、国際協力事業であり、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としていす。

 これまで、農業・漁業・建設業・各種製造業などで受け入れが行われてきました。

 最長5年間の在留が可能ですが、その後は帰国して自国の産業に貢献することが求められています。

 昨今、一部悪質な受け入れ企業により、賃金の未払いなどの人権侵害行為があり、今年度から実習生保護強化などの面で制度の見直しが行われました。

 ここに介護事業が加わることになります。

 

 

 国内の人材不足対策ではない

 

 国は、この制度が、決して日本国内の労働力不足を外国人で補充して解消することを目的としたものでないことを明言しています。

 制度上、在留期間も最長5年であり、その後は帰国しなければなりません。実習終了後の継続在留許可は認められていないのです。

 

 しかし、今回、介護職に関わる議論を見てみると、将来、はっきりとした介護人材供給の制度にしたいという意思が見え隠れします。

 

 それがはっきりしたのが、別に発表された介護福祉士資格を取得した留学生に対する在留資格の付与です。

 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150881.html

「介護福祉士資格を取得した留学生に対する在留資格「介護」の創設について」

 

 これは、外国人が介護福祉士の試験に合格し、継続的に介護職として働いている間は在留許可が下りるという制度です。

 

 今のところは、介護福祉士の専門学校等に通う必要があり、外国人実習生には適用されないようですが、将来、実習生が介護福祉士試験に合格した場合も認められるのではないかと考えられます。

 

 つまり5年間実習生として働いている間に勉強し、介護福祉士試験に合格した外国人を、継続的に介護人材として確保するという狙いです。

 

 

実習生の受け入れをするにはどうすればいいのか

 

 外国人実習生を受け入れるには、監理団体を通して行います。監理団体は商工会や公益法人、協同組合などで、営利目的の団体ではありません。

 「介護 外国人実習生 監理団体」で検索するといくつかの団体がヒットしますので探してみてください。

 

 実習生の受け入れには先の人権侵害問題もあり、いろいろな取り決めがあります。また、入管などの手続きもありますので大変複雑な業務が必要になります。監理団体はそうした業務を受け入れ企業と実習生の間に入って取り扱います。また、受け入れ組織に対する指導チェックも行いますので、当然、料金がかかります。

 

 つまり、手続きには結構な時間がかかるようです。また、実習生は現地で日本語教育を1年ぐらい受ける必要があります。介護職についてはまだ制度は始まっていませんので、受け入れたくてもすぐに受け入れることはできません。関心のある方は各監理団体に問い合わせてください。

 

 

実習生のコミュニケーション能力はどれくらい?

 

 介護職にはある程度の日本語の能力が求められます。

 国は入国時、日本語能力試験のN4レベルを求めていますが、実際に業務をするにはN3レベルが必要と言われています。

 

 N4は「基本的な日本語を理解することができる」レベルです。

 【読む能力】

・基本的な語彙や漢字を使かって書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる。

 【聞く能力】

・日常的な場面で、ややゆっくりと話なされる会話であれば、内容がほぼ理解できる。

   

 N3レベルとは「日常的な場面で使つかわれる日本語をある程度理解することができる」レベルです。

 【読む能力】

・日常的な話題について書かれた具体的な内容を表す文章を、読んで理解することができる。

・新聞の見出しなどから情報の概要をつかむことができる。

・日常的な場面で目にする範囲の難易度がやや高い文章は、言い換え表現が与えられれば、要旨を理解することができる。

 【聞く能力】

・日常的な場面で、やや自然に近いスピードのまとまりのある会話を聞いて、話しの具体的な内容を登場人物の関係などとあわせてほぼ理解できる。

 

 

 実習生はN4レベルで入国できますが、1年程度でN3に受からなければなりません。

 基本的には、現地でN4レベルまでの日本語能力を身につけてから日本に来ますが、日本に来てからも日本語の勉強を継続しなければなりません。

 

 もし、介護福祉士試験を受験するにはその上のN2レベル以上(新聞など難しい文章を読んで理解できるレベル)の日本語が必要になるでしょう。

 

 

訪問系事業は今のところ受け入れ不可

 

 訪問介護事業所等の受け入れは今のところ認められていません。これはコミュニケーション能力の問題や、日本文化や生活の理解が進まないと、サービスがうまく提供できないであろうということと、一人で訪問するわけですから実習生に対する不利益が起きる可能性が懸念されるからです。

 

 国がイメージしている受け入れ先は、施設系のチームで働くような職場でしょう。実習生が戸惑ってもすぐに指導者がフォローできるような体制が必要だからだと考えます。

 

 

受け入れ法人の条件は?

 

 経営が一定程度安定している機関として、原則として設立後3年を経過している機関に限定しています。その他以下の条件があります。

・ 受入れ人数の上限として、小規模な受入機関(常勤職員数 30 人以下)の場合、常勤職員総数の 10%までとする。つまり、常勤職員が10人であれば受け入れ人数は1人までです。

・ 受入れ人数枠の算定基準として、「常勤職員」の範囲を「主たる業務が介護等の業務である者」に限定する。

・ 技能実習指導員の要件として、介護職として5年以上の経験を有する介護福祉士等を求める。

 

 なお、給与に対する補助金はありませんが、厚生労働省関係の助成金が利用できる可能性があります。監理団体に問い合わせると良いでしょう。

 

 

小規模事業者にはあまりメリットは無い?

 

 結局、介護職の常勤職員が10名程度の小さな企業の場合、1人の実習生しか受け入れができません。そのために、先に述べた煩雑な業務を行い、さらに監理団体に費用を払うことはあまりメリットは無いかもしれません。

 

 大規模な企業や社会福祉法人がある程度の規模で実習生を受け入れることはメリットがあるでしょう。

 

 小規模事業者にとってメリットが出てくるのは、こうした実習生達が介護福祉士に合格し、継続的に介護職として働けるようになってからだと思います。おそらくそうなれば訪問介護などでも働けるでしょう。

 

 つまり5年先にこの制度によって、外国人介護職がどれだけ増えているかがキーになると思います。

 

 

 

介護事業所の人事評価の在り方について その2

 

今回は人事評価の評価基準についてです。

 

客観的な評価基準を設定するのは難しい

 

 一般的なサラリーマンの人事評価では、評価基準は以外に漠然としたものになっているようです。

 例えば、コミュニケーション能力や企画力、リーダーシップなどが売上などの業績評価と合わせて評価され、処遇に反映される仕組みが多いでしょう。

 

 一言でいうと、「組織に対する貢献度」が評価されると言って良いかと思います。

 しかし、貢献度と言われても客観的な基準を作ることはとても難しいのも事実です。ですから、人事評価は深いものなのです。

 

 

売上だけを評価基準にはできない

 

 たとえば学校の試験など、正解が明確であれば評価もしやすいでしょう。しかし、仕事では何が正解かということが、はっきりしない場合があり、売り上げ一つとっても本人の能力や努力とは別に、結果が出てしまう場合があります。

 

 たとえば、ファミリーレストランチェーンの店ごとの売り上げを評価して、売り上げの高いお店の店長のボーナスを沢山出したとしましょう。

 しかし、レストランの場合、立地条件や業務規模などの環境により、集客力は店長の力量とは別に決まってしまう場合があります。

 

 集客の厳しい支店を任されている店長がどんなに頑張っても、前述の売り上げの高い支店には負けてしまうこともあるでしょう。

 

 人事評価において後者の店長を低く評価し、前者の店長を高くしたら、どうなるでしょう。頑張っても売り上げの伸びないお店を任されている店長は、不満を持つに違いありません。

 

 大手出版社では儲からない純文学を漫画の売り上げが支えていると言われています。しかし、社員の給与は漫画も純文学も変わらないそうです。漫画の編集者ばかりが高給だったら、誰も純文学の編集者をやりたがりません。すると、日本の文学が衰退してしまうということにもなりかねないのです。

 

公務員は人事評価によるボーナス査定は無い

 

 一般的な公務員には業績評価によりボーナスに差がつくことはありません。期末手当や勤勉手当などと呼び、一律同じ月数(大体5か月分ぐらい)の金額が支給されます。

 従って人事評価によってボーナスが変わるということは無く、一般の会社員とは性質が少し異なります。

 

 介護事業の場合も、管理職以外は人事評価によりボーナスを変化させることはあまり好ましくないと筆者は考えます。

 人事評価はあくまで毎年の昇給や昇格(職級を上げるかどうか)の判断に用いられるべきであり、ボーナスの額に反映させない方が良いでしょう。

 

 現実には年の売上げ高によってボーナスの額は変わりますので、なかなか人事評価で増やしたり減らしたりすることも難しいと思いますので、大丈夫だとは思いますが、一般職の処遇については、ある程度一定であった方が、不満は出ないと考えます。

 

介護の一般職員の評価基準

 

 評価基準や評価項目に悩むときりがありません。

 できるだけシンプルに人事評価を導入して、組織の能力を向上させるには、基準も外部のものを活用していけばよいと思います。

 

 幸い、厚生労働省が在宅介護職の評価基準を作成しています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000093927.html

「職業能力評価シート(在宅介護業)」

 

 今のところ訪問・通所・訪問入浴しかありませんが、今後、他の業種の評価基準が追加されることを願います。

 

 使い方は「職業能力評価シート(在宅介護業)」に含まれていますので、参考にしてください。

 なお、評価項目によっては、その職員が実際に行っていない項目も含まれています。その場合はその項目の評価はできませんので、無理して評価する必要はありません。評価指標としては○や×を付けず、-などにして評価の合算には加えない方が良いでしょう。

 

 

管理職が普段、部下の仕事ぶりを見てい無い場合は?

 

 管理職が評価する場合、実際にはその職員の仕事ぶりを日常的に見ていない場合があります。その場合は、自己評価のあと、実際に仕事ぶりを知っている直属の上司(リーダーや主任など)に当たる職員に評価をしてもらい、その上司とよく意見交換し評価を決定すると良いでしょう。

 

 人事評価で管理職でない職員が部下を評価する仕組みは形式的にあまり好ましくありません。

 人事評価はその管理職が管理する組織の評価に最終的につながってきますので、管理職が責任をもって行わなければなりません。

 

 また、普段はあまり一緒に仕事をしない管理職が、一般職員と年に1回仕事のことを話し合うことで、普段身近に居る直属の上司には言いにくいことも言える場合があります。

 その上司に対する不満もその一つです。それにより管理職は組織の問題点や弱点を発見することになりますし、職員にとっては不満の解消にもなります。

 

 

人事評価を実施するシンプルな目的

 

 人事評価を実施する目的をまとめてみましょう。

 先に述べたように組織の生産能力を向上させるための人事評価は、考えれば考えるほどきりがなく難しくなります。中小企業が取り組むにはハードルが高すぎます。

 従って、以下のような目的で実施するのだと、できるだけ簡単に考えて、導入することがポイントになります。あまり難しく考えないことです。

 

【中小企業が人事評価を導入するシンプルな目的】

 

① 年に1度管理職と職員が仕事のことについて話し合う場として実施する

② 毎年の昇給が適当かどうかを判断するために実施する

③ 昇格ができるかどうかを判断するために実施する

 

 以上の3つの目的で実施することにしてください。それ以上のことを考えると難しくなります。

 

 

評価者に対する講習は要らないのか

 

 「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」では評価者は講習を受け「アセッサー」という資格を取得しなければ、評価ができません。

 このアセッサーは評価を公正適切に行うために設定されていますが、人事評価を実施するために、評価者がこのアセッサーの講習を受ける必要はありません。

 

 職場の人事評価制度は上のような目的のために実施します。一方、「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」は介護職員の資質の向上を目的に実施されるもので、趣旨が異なります。

 「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」は言わば職場研修(OJT)が主眼です。アセッサーは仕事上、職員に何が足りないかを正確に見抜き、さらにはそれを教えてゆく能力が必要となります。

 

 一方、人事評価の目的は上記の目的ですので、組織や職員が納得して進められればそれで良いのです。

 

 

 この項終わり。