小規模デイサービスの営業マニュアル その2

 

7 ケアマネ営業のノウハウ

 保険者である区市町村の介護予防のインセンティブ制度(国が区市町村ごとの介護予防の成果を評価する制度)が始まると、おのずと、ケアマネジャーも利用者の目標達成など、仕事の成果が求められるようになって行きます。
 成果にコミットしてくれる事業所は、益々ケアマネからの紹介が多くなっていくでしょう。具体的には、要介護度を悪化させない効果的なサービスを提供してくれる事業所になりますが、そのためにも事業所の専門的な能力が問われるようになります。また、臨機応変な対応が柔軟にできる事業所も信頼を獲得できるでしょう。

 ケアマネージャーの対応のポイントを上げます。

⦿「人と人」のつながりを大切に

 各ケアマネさんにはそれぞれ特徴や傾向があります。自分の事業所にマッチしたケアマネさんは何人も利用者を送ってくれます。
顔の見える営業で「人と人」のつながりを作れると良いでしょう。

⦿最初の機会を大切にする

 初めてご利用者をお願いされた場合は、全力でサービスを提供できるよう努力します。最初のケースが成功すると二人目の紹介に繋がります。

⦿困難事例が来ても誠実に対応する

 開業当初はスタッフにも余裕があるので対応が可能である場合があります。困難事例に対応すると信頼がグッと増します。

⦿通所介護計画書を必ず渡すこと

 計画書の内容に自信が無い場合はケアマネとよく相談しましょう。

⦿月1回は情報提供を

 ご利用者の情報は月に1度簡潔にまとめて報告します(A4一枚)。その際、ケアマネが必要な情報を適切に報告できるように、ケアマネとのコミュニケ―ションを密にし、しっかりニーズを把握しておく必要があります。
 基本的にはケアプランの目標に対して、利用者様がどうだったかを報告します。その際、サービス提供上どのような工夫や努力を行ったか、どのような変化があったかを必ず書きます。
 ケアマネは毎月のモニタリング業務で利用者の変化を確認する義務がありますから、こうした情報が非常に重要になります。特に認知症のご利用者等、自身で状態を表現できないご利用者の場合は、事業者からの情報は大変重要です。

⦿その他のポイント

① ケアマネが悩んでいることに、自分のデイサービスがどのような解決策を提供できるかを考える。
② 営業ノートを作成し、相談した相手先、相談された内容などをメモしておく。これにより地域のニーズの傾向が見えてくる。
③ 地域のニーズに対応できるデイサービスにカスタマイズしてゆく。

 

8 その他各種営業手法

① 訪問営業

 どうしてもお話がしたいケアマネがいる場合は事前にアポイントを取りましょう。それ以外は飛び込みでチラシや名刺などを配布する方法で良いでしょう。
介護業界は「いい噂」も「悪い噂」も伝播しやすいことを念頭に置き、誠実に営業を行っていきましょう。

② 内覧会・見学会

 新規事業所の場合は開業前に内覧会を実施します。ケアマネが仕事の合間にちょこっと寄れるように平日1週間ぐらいの期間があると良いでしょう。また、地域とのイベントや家族会などでも見学できるようにしましょう。
その他、利用者との同伴見学は何時でも受けられるようにしなければなりません。

③ FAX営業

 同報FAXによる営業は、満員であったが、空きができたときは有効です。小規模な事業所は少しでも空きを埋めなければなりませんので、空きが出たら地域の営業先に同法FAXで「空き情報」を送ります。

④ ブログやSNSを活用した営業

 可能であれば、日々の活動をSNSやブログで配信します。これはケアマネへの営業としてだけでなく、ご利用者様のご家族様への安心感を醸成することにつながります。
毎日でなくても週に1度など、事業所の様子が分かるトピック的な記事でかまいません。

⑤ サービス提供票の配布時に毎月の報告

 毎月の報告は提供票と一緒に送るようにすると効率的です。余裕が無いときはファックスでも良いですが、最初は足を運んで配布する方がベターです。

⑥ カジュアルな勉強会をする

 介護に関する気軽な勉強会を開催して、新たなケアマネとつながります。例えば、外部から専門の講師を招き自デイサービスとかかわりの深い勉強会を実施します。
 例:ユマニチュード・音楽療法・コグニサイズ・要介護者の筋トレなど

 

9 加算の取得

 処遇改善加算や個別機能訓練加算などの各種加算は積極的に取得すべきです。
 利用者の自己負担額が高くなるために、遠慮してしまう事業者も多いようですが、前述通り、今後はケアプランの目標管理が厳しくなってきます。そうした時、ケアマネとしては少しでも成果が上げられる事業を使わざるを得ません。
 「成果が上げられる事業所=質の高いサービスを提供できる事業所」ですから、その意味で加算は一つの指標になります。
 事業所ごとのサービスの特徴に合った加算は必ず取得するように努力しましょう。

 

 

財務省は小規模な介護サービス事業者を失くしたいのか?

 

 4月11日、財務省の財政制度等審議会分科会は「介護事業所・施設の経営の効率化について」として、以下の提言を行いました。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia300411.html

 

【改⾰の⽅向性】(案)

○ 介護サービス事業者の経営の効率化・安定化と、今後も担い⼿が減少していく中、⼈材の確保・有効活⽤やキャリアパスの形成によるサービスの質の向上などの観点から、介護サービスの経営主体の統合・再編等を促すための施策を講じていくべき。

 

 分科会はこの提言の根拠として、介護サービス事業者の現況について以下のような見解を示しています

 

【論点】

〇 介護サービス事業者の事業所別の規模と経営状況との関係を⾒ると、規模が⼤きいほど経費の効率化余地などが⾼いことから経営状況も良好なことが伺える。

 ⼀部の営利企業においては経営主体の合併等により規模拡⼤は図られている。営利企業とその他の経営主体では同列ではない部分もあるが、介護サービス事業全体で⾒た場合、介護サービスの経営主体は⼩規模な法⼈が多いことが伺える。

 

 さらに、分科会ではこうした論拠の裏付けとして以下のようなデータを示しています。

 

①わが国の介護サービス事業所の7割が100人未満の法人による経営である。

②通所介護と訪問介護では利用者数を多く抱える事業所の方が収益率が良い。

③民間16社(説明はないがおそらく大規模法人と思われる)利益率は5.9%であり、介護事業者全体は3.3%となっている。

 

 

自治体に事業者の経営改善をさせる

 

 分科会は大規模化の参考例やメリットとして以下のような例を挙げています。

 

○介護サービス等の事業を⾏う複数の法⼈が、⼈材育成・採⽤などの本部機能を統合・法⼈化することで、ケアの品質の底上げや研修・ 採⽤活動のコスト減を図るなどの取組も存在。

○介護サービスの経営主体の⼤規模化については、

①こうした介護サービス事業の⼈事や経営管理の統合・連携事業を⾃治体が⽬標を定 めるなどして進めることのほか、

②⼀定の経営規模を有する経営主体の経営状況を介護報酬などの施策の決定にあたって勘案することで経営主体⾃体の合併・再編を促す、といった施策が考えられる。また、

③経営主体について⼀定の経営規模を有することや、⼩規模法⼈については⼈事や経営管理等の統合・連携事業への参加を指定・更新の要件とする、といったことも考えられる。

 

 確かに、介護事業を公営事業と考えれば、昔の国鉄や電電公社、郵便事業が民営化したようように大規模民営も考えられます。

 例えば東日本介護サービスのように地域ごとに大規模法人化し、統括的な経営管理の下に事業を行えば、経営のコントロールもやりやすいし、働く人たちの処遇も改善されることが想定できます。

 JRNTTが一流企業であるように、介護事業で働く人たちは一流企業の社員として安定的な収入を得ることも可能かもしれません。

 

 しかし、現状の介護保険制度では保険者が区市町村である以上、このような統合は不可能であり(できても区市町村内の統合)、行政改革の流れからもバカげたことであるとみなされ、現実的ではありません。

 

 分科会でも都道府県、区市町村内の事業所の統合や業務の連携を想定しており、全国規模の統合という視点はありません。

 ただし、統合や業務連携などによる経営効率化に対するインセンティブ(動機付け)は考えており、地域内法人の経営改善目標を設定するなどして自治体に対するインセンティブを想定しています。

 

 

小規模法人すべてが経営状況が悪いわけでは無い

 

 そもそも、分科会で上げている、「小規模法人は収益率が悪い」という論拠は正当なのでしょうか?

 上にあげたデータだけでは論拠としては弱いような気がします。少なくともすべての小規模事業所に当てはまるわけでは無く、「小規模法人の中には経営状況が悪い法人もある」と言えるだけでしょう。

 

 結局、財務省が目指しているのは、介護事業所の経営状況を良くして、収益率が上がった分の介護報酬を減らしたいだけです。しかし、筆者としては収益率が上がった分は、従業員に対する処遇改善に回すべきであり、財政負担の改善に利用するべきでないと考えます。

 

 筆者としては、今回の提言の本質的なゴールは経営状況の良くない小規模法人の経営改善であると考えます。

 つまり中小企業対策であり、厚労省の課題というよりも、通産省の課題でしょう。

 日本の企業の9割が中小企業であると言われます。特別な技術や商品を持っている企業は買収されますが、収益率の悪い企業でも統合されることはなく、廃業するか細々と経営を続けているだけです。

 

 介護事業だけ国策として事業を統合しようとするのは少し横暴な気がします。そして、統合や業務連携という発想だけでは経営改善にはならないでしょう。

 

 しかし、都道府県などに地域内の小規模介護事業法人の経営改善対策をさせることは必要でしょう。

 製造業などとは別のスキームで介護医療法人向けの特別なプログラムを考えていくことは良いことだと考えます。

 例えば指定更新時、決算書を提出させ、経営状況の悪い法人は中小企業診断士などの経営指導を受けなければ、指定更新ができないなどのプログラムは考えられます。

 

 小規模事業者の中には経営に疎く、ボランティア的に事業を営んでいる方も多いため、財務省としてもこのような提言が必要なのでしょう。

 もちろんCareBizSupもそのような事業者を支援するために、サービスを提供しているわけですが。

 

 

 

 

 

デイサービスの収益アップ作戦

 

 

 前回の改正の影響で通所介護の収益性が落ちてきています。

今回は、加算の取得や運営方法の改善ではなく、土日や夜間に利用していない遊休設備の活用によって、収益をアップする方法についてご紹介します。

 通常の事業にプラスの収益が期待できます。

 

 

カルチャー教室や会議室などとして貸出し

 

 デイサービスの食堂フロアは、ちょっとしたカルチャー教室の授業スペースや、地域の人たちが集まる場所や会議室として活用できます。

 キッチンがある場合でしたら、料理教室などにも使えるでしょう。電子ピアノなどがあればコーラスの練習場にも使えます。

 また、ホワイトボードやテレビなどがある場合が多いので、通常の会議室としても十分利用価値があります。

 

 会社などの空いているスペースをシェアする仕組みがネットで進んでいます。

 基本的な情報や利用可能な日時などを公開して、利用者同士が直接スペースをシェアする仕組みです。

 「スペースマーケットhttps://spacemarket.com/

 固定客がついた場合、継続的な収益源になりえますので検討しても面白いと思います。

 

 問題は利用者が来た場合、鍵の受け渡しなどにマンパワーが必要になる部分かもしれません。

 もし、デイサービスに訪問介護事業所など土日に営業している事業所が併設していれば、そこのスタッフに手伝ってもらうことは可能かもしれません。

 また、あらかじめ平日など営業時間中にスペアキーの受け渡しをしておくなど、工夫すれば休日にスタッフが出勤してこなくても貸し出しは可能でしょう。

 

 

カラオケ喫茶や飲食店として貸出

 

 カラオケ機材が充実していれば、休日にカラオケ喫茶として利用することはどうでしょう。また、休日だけの飲食店としても使えるかもしれません。

 自ら行うのではなく、喫茶店マスターなど、店主として休日活用してくれる人を募集して、貸し出すことも可能です。継続的に営業できるようでしたら、安定した収益になるかもしれません。

 

 

一般向けのトレーニングジムとしての営業

 

 こちらは事業者自身が事業として実施します。

 トレーニングマシンなどの機器が充実しているデイサービスでしたら可能かもしれません。

 デイサービスを開業する時点で、そのような営業計画を持っていれば、設備機器の導入も配慮でき、一般向けにも使いやすい施設になるでしょう。

 

 問題はトレーナーなどを雇わなければならないことですが、インストラクター無しでも営業は可能だと思います。

 設備の使い方だけを説明して、利用者が自由にトレーニングできるようにすれば、管理人は学生のアルバイトでも可能でしょう。

 

 専門的なトレーニングをしたい人には物足りないかもしれませんが、介護予防の観点から、元気な高齢者をターゲットにすれば、機能訓練指導員を週何日か配置して、質の高いサービスになるかもしれません。

 さらに、新総合事業における予防サービスとして自治体に認めてもらえる可能性もあります。そうすれば、予防サービスの利用者も対象になるでしょう。

 

 

個人間カーシェアリングで送迎車の貸出

 

 個人間のカーシェアリングもネット上で広がりを見せています。スペースシェアと同じように、個人間で貸し借りする方法です。

 https://anyca.net/

 http://cafore.jp/

 一般のレンタカーには車いすが載せられるものはほとんどないでしょう。

 その意味で、ニッチなニーズがあるかもしれません。休日に車いすの家族と一泊旅行に行くなど、必要性はあると思います。

 車のボディーにデイサービスの名前などが入っているので、その分少し抵抗があるかもしれませんが、マグネットシートでカバーできれば少しは良いかもしれません。

 

 

コンプライアンスについて

 

 事業指定(運営基準等)上、営業時間外にデイサービスの施設を何に利用しようが、ご利用者へのサービスに支障が出なければ、特に問題はありません。

 ただし、夜間については、利用延長を希望されるご利用者がいる場合、対応が必要になりますので、注意が必要でしょう。

 

 また、賃貸物件の場合、会議室などデイサービス以外の目的の貸出しは、家主の許可が必要になるでしょう。さらに、貸出した場合の責任や保険などの契約事項を明確にしておく必要があります。

 特に長期にわたって同じ相手に貸出すような場合は、貸出ではなく自事業化した方がメリットはあるかもしれません。

 なお、宿泊場所としての利用は当然ながら別途民泊などの許可が必要になります

 

 

次期改正の共生型サービスで収益向上の可能性

 

 次期改正で、高齢者向け通所介護と障害児向けの放課後等デイサービスが兼業できるようになりそうです。

 この場合、営業時間を分ける必要がありそうです。高齢者の場合、メインニーズは平日の昼間です。放課後等デイサービスは、放課後等ですから、平日午後や、場合によっては休日が営業時間のメインになると考えます。

 通所介護の設備基準で放課後等デイサービスの施設面はクリアできそうです。送迎車両は兼用可能でしょう。

 

 ただし、障害児の受け入れのための設備の在り方と、高齢者の受け入れの設備の在り方は若干異なるかもしれません。

 たとえば、高齢者はイスとテーブルが必要ですが、障害児はクッション性の良い床材を敷き詰めた動き回れる広めのフロアが必要であるなど、毎日の模様替えなど、運営方法の工夫が必要になると考えます。

 

 問題は人員基準です。人員の一つの、児童発達支援管理責任者は高齢者介護の実務経験だけでは任用できません。また、別途「サービス管理責任者及び児童発達支援管理責任者研修」の受講が必要です。研修は都道府県などが開催しています。

 

 

 

混合介護はなぜ導入されるのか

 

 

 東京都豊島区は、介護保険と保険外サービスを組み合わせる「混合介護」のモデル事業を来年度から始めると発表しました。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDE08H02_Y7A200C1PP8000/

 これは、国家戦略特区の制度を活用し実施するもので、介護保険サービスと保険外サービスを一体的に提供する取り組みです。

 

 現在でも訪問介護や訪問看護では自費サービスと保険サービスを組み合わせて提供することができます。混合介護はこれと何がどのように変わるのでしょうか?

 

 今でも、身体介護を30分利用した後に、本来はできない庭の掃除を15分だけしてもらうとか、家族の食事も準備してもらうなどの自費サービスの組み合わせは可能です。

 筆者の経験したケースでは、介入時、ごみ屋敷状態で、その片づけを自費でしたりする場合もありました。

 

 ただ、多くが一時的なサービス提供で、継続的なものは少ないといえるでしょう。

 確かにお金持ちのご利用者の場合は、継続して自費サービスを利用するケースはあります。しかし多くの方が、保険外サービスは最低限の利用というイメージがあります。

 

 行政等の指導では、自費サービスの契約を別途結んで、料金等を明確に説明し同意を受けてサービスを提供するよう指示されています。確かに別に契約を結ぶなどの手間がありますので、このあたりの事務が一体化されてくれると効率化はされるでしょう。

 

 

なぜ豊島区が取り組むのか

 

 混合介護はもともと公正取引委員会が、介護サービス事業にもっと競争性を持たせるべきだという提言から検討が始まりました。

 医療分野ではすでに混合医療が進んでいます。

 その背景には利用者の利便性の向上や、事業者の収入機会の増加、介護職員の処遇改善につながるという見方があるからです。

 

 また、前述の豊島区のような都心の自治体では介護職不足が、地方に比べ深刻です。そうした人材確保の目論見もあるのではないでしょうか。

 なにしろ都心はアルバイトでも他の地区と比べ賃金が高いため、介護職の賃金レベルではあまり魅力がなく、担い手が集まらないという問題があります。

 

 これは、そもそも介護報酬の算定そのものが都心に不利に働いているからです。同じ23区なのにもかかわらず、例えば足立区や葛飾区といった周辺区と単価が変わりません。

 さらに都心は不動産物件の賃料も高く、収益性を考えた場合、介護事業経営には不利です。

 

 

背景には介護サービスの不足危機があるかもしれない

 

 都心では介護サービス不足が進んでいくと考えられます。

 豊島区でも秩父市と提携して特別養護老人ホームの設置を進めています。用地確保が難しい都心区では区外特養の整備は普通になってくるかもしれません。

 また、地代が高いため有料老人ホームやデイサービスも足りなくなる可能性があります。

 

 人材は集まらない、施設などのサービスも足りなくなるという危機感はあるでしょう。

 都心区の自治体は2025年以降を見据えて、介護人材と介護サービスの確保に早急に取り組まなければいけない現状があると思います。

 その対策の一環として、収益性の高い混合介護モデルを導入しようとしているのでしょうか。

 

 

富裕層向けサービスとしての可能性

 

 都心区の区外特養は低所得者向けの対策ではないでしょうか。

 一方で住民税を沢山払ってくれる富裕層高齢者の都心区への転入を促す方策は十分考えられます。

 

 富裕層と言っても大企業年金を夫婦でもらい、資産収入もそこそこあり、老後資金に余裕があるような高齢者のイメージです。

 団塊の世代の多くが、23区外のいわゆるベットタウンに居住していることが多いかと思います。なにしろこの世代の人たちが多く家を購入した1980年代の場合、都心に住むことは難しかったと思いますから。

 その中で老後のお金に余裕がある人は都心のマンションなどへの移住を考えている人も多いと聞きます。

 

 子供が別居になって広い家に夫婦で二人暮らしのようなケースの場合、家は築40年近くになりますから、住み替え時期と考えても良いでしょう。

 だとすると、「都心の便利な場所に2LDKぐらいのコンパクトなマンションを購入し暮らす方が良いのではないか」と、考えている人は多いかもしれません。

 また、埼玉や千葉では医師不足・病院不足が深刻な地域も多く、老後のケア体制に不安もあるようです。

 先日、東京都荒川区で埼玉県越谷市の救急車がサイレンを鳴らしって走っているのを見て、少しゾッとしました。

 

 サービス付き高齢者住宅でなくても、ある程度バリアフリー化したマンションであれば、一軒家よりも老後の生活は楽でしょう。

 こうした富裕層高齢者に向けた生活支援サービスとしての混合介護は十分考えられるかもしれません。

 

 

月ぎめ包括料金の混合介護はできないか

 

 実際の豊島区モデルがどのようになるかわかりませんが、もし可能なら月ぎめの包括料金化できると経営サイドとしても非常に有効だと考えます。

 

 一つの例として、小規模多機能居宅介護があります。

 月額料金なので、はっきり言ってしまえば、庭の掃除をしても運営基準上はそれほどガミガミ言われない部分もあります。実際には認知症のご利用者と一緒に掃除するなどのケアにはなると思いますが、包括料金であればあまり細かいことを気にせずにサービスを提供できる実態があります。

 

 ケアプランで週何時間、月何時間という枠組みを決めて、その時間内であれば多様なサービス提供が可能であるような仕組みです。

 もちろん、現在の報酬よりも収益が高くなるような報酬設定をしてもらわなければ意味がありませんが、月額制にした場合、給付管理などは大幅に効率化できます。

 もしかしたら、月ぎめの契約では自己負担分を多めに徴収できる仕組みでも良いかもしれません。

 そうすればより、柔軟で緻密なサービス提供が可能になるでしょう。

 

 

 

 

「共生型サービス」とはどのようなものか

改正の目玉「共生型サービス」

 

 次期の介護保険制度改正で始まる「共生型サービス」とはどのようなものでしょう。

 

 この新しいサービス形態について、厚生労働省はガイドライン(案)を3月に発表しました。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000117428.pdf

 

 国の説明では、「高齢者と障害(児)者が同一の事業所でサービスを受けやすくするため、 介護保険と障害福祉、両方の制度に新たに共生型サービスを位置付ける。(注)具体的な指定基準等の在り方は、平成30年度介護報酬改定及び障害福祉サービス等報酬改定にあわせて検討。」と説明しています。

 

 ただし、上記のガイドライン(案)には障害者以外に保育も視野に入れており、児童福祉法も改正対象になると思われます。

 

 

介護サービスと障害サービスの兼業

 

 これは、訪問介護と同様に、介護保険サービスと障害者福祉サービスを同時に提供できる制度を、他の事業にも広げることであると考えます。

 また、保育事業も視野に入れていますので、地域の実情に応じて、たとえば、通所介護事業と保育事業を同じ施設で実施できるということでしょう。

 

 ただし、要介護高齢者と障害(児)者が同時にサービスを受ける風景をイメージするのはどうやら違うようです。

 全体として、まだはっきりとした基準は示されていませんが、ガイドラインには「同じ場所において、サービスを時間によって高齢者、障害者、児童等に分けて提供する場合は、各サービスの提供時間において、各制度の人員・設備基準等を満たしていれば、同じ施設を時間帯によって異なる福祉サービスとして使用することは可能である。」と明記していますので、営業時間を変えなければ兼業は不可ということでしょう。

 

 

通所介護事業所で他のサービスを提供する

 

 例えば高齢者の通所介護の場合、現実的にどのような兼業体制が可能なのか考えてみます。

 

 この場合、人員基準や設備基準はひとまず脇に置いておきます。各サービスの設置基準はガイドライン(案)に出ていますのでご参照ください。

 

 ここでは、実際に共生型サービスが経営的にどの程度有効なのかをシミュレーションしてみたいと思います。

 

 

通所介護と放課後等デイサービスの兼業

 

 ポイントとなるのは、営業時間でしょう。

 高齢者の場合、ニーズは平日の昼間です。

 放課後等デイサービスは、放課後等ですから、平日午後や、場合によっては休日が営業時間のメインになると考えます。

 

 放課後等デイサービスは、最近ではチェーン展開をする法人もあり、ここのところニュービジネスとして注目されています。地域によっては過当競争になっているという話もあります。

 

 高齢者デイサービスと放課後等デイサービスの兼業体制が可能であれば、この動きにさらに拍車がかかる可能性があります。

 

 高齢者デイサービスの収益性が低下している現状で、放課後等デイサービスが同じ施設で兼業できれば、生産性の向上が期待できるかもしれません。

 

 

既にある通所介護の兼業モデル

 

 実は、機能訓練型のデイサービスでは、平日昼間はデイサービス、夜や休日は簡易的なトレーニングジムとして一般の利用者に有料で開放しているビジネスモデルは既にあります。

 

 開設当初から、機能訓練型デイサービスとスポーツジムを兼業する形で設備を導入する方法は今後も有効なビジネスモデルであると思います。

 

 

放課後等デイサービスと営業時間を分ける

 

 では高齢者デイと放課後等デイサービスではどうでしょう。

 

 一般的に放課後等デイサービスの営業時間は、平日であれば午後3時前後から夕方まで、休日は午前中から夕方までというパターンが多いようです。

 具体的にはこちらをご参照ください。

https://h-navi.jp/column/article/35025515

 

 つまり、高齢者デイを3時まで営業し、それから夕方までと休日を放課後等デイサービスで営業することは可能です。

 

 

設備や送迎車両は兼用可能

 

 ただし、設備に関しては、障害児の受け入れのための設備の在り方と高齢者の受け入れの設備の在り方はは若干異なると考えます。

 

 たとえば、高齢者はイスとテーブルが必要ですが、障害児はクッション性の良い床材を敷き詰め、動き回って遊べるフロアが必要になります。兼業するには、毎日の模様替えなど、運営方法の工夫が必要になると考えます。

 

 

人員基準は緩和が必要か

 

 放課後等デイサービスの乱立により、サービスの質が問題化しており、国はこの事態を受けて、人員基準を厳しくしました。

 

 人員要件の一つに、「児童発達支援管理責任者」がありますが、この任用基準が厳しくなりました。

 かつてのように高齢者介護の実務経験だけでは任用できなくなり、そのため通所介護の生活相談員がそのまま兼務することが難しくなっています。

 30年の改正でどうなるかはわかりませんが、共生型サービスを推進するためにはこのあたりの基準緩和が必要そうです。

 

 また、別途研修受講が必要です。研修については以下をご覧ください。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shinsho/shienhoukanrenkensyu/sabikann.html

 

 

放課後等デイサービスのニーズは地域で大きく違う

 

 都の教育委員会で仕事をしていた時、東京の特別支援教育の予算は他府県に比べ、非常に手厚く、障害児を育てる親御さんが、都立の特別支援学校に入学するために、わざわざ引っ越してくるという類の話を良く聞きました。

 

 一方、その分、都内の区市町村の通常学級での障害児受け入れがあまり進んでないという状況もあります。

 

 また、障害児の放課後の受け入れを自治体がカバーしているケースもあります。障害児向けサービスの体制は、地域により大きく事情が異なります。

開業する場合は、地域の状況を良く調査したうえで、ニーズを把握することが重要です。