高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 その3

◆無届・無登録の高齢者ハウス

 

前回述べた、「社会福祉各法に法的位置付けのない施設」は「無登録の高齢者ハウス」という問題として表面化しています。この問題は平成21年に起きた群馬県の無届老人ホーム「静養ホームたまゆら」の火災で10人の方がなくなった事件により、世間に知られるようになりました。

http://www.wam.go.jp/wamappl/bb11GS20.nsf/0/66c44ff467bec177492575e10007762d/$FILE/20090626_3shiryou4.pdf

 

しかし、最近になり増えてきたのはいわゆる包括介護サービスを提供する老人ホーム型の無届施設ではなく、訪問介護など外部の公的介護サービスを利用するタイプです。その仕組みについて説明しましょう。

 

通常サービス付き高齢者住宅や老人ホームは都道府県への届け出が必要です。こうした届け出をせず要介護や要支援の高齢者を入居させ、訪問介護などの介護サービスを提供するのが無届け介護ハウスもしくは無認可の高齢者ハウスと呼ばれるものです。

呼び方はいろいろのようですが「グループハウス」や「高齢者シェアハウス」昔は「託老所」などと呼ばれてもいました。昨年、NHKクローズアップ現代でその問題が放送されました。

http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3602/1.html

 

こうした無届ハウスの筆者が考える問題点をまとめると以下の通りです。

 

1 住宅としての質が悪い場合がある(雑魚寝の状況など)

2 費用の妥当性(生活保護費を全額徴収され、金額が不当に高い場合がある)

3 食事などの生活サービスが劣悪な場合がある

4 介護保険サービスの契約の自由が担保されない(業者を選べない。こうしたハウスの多くがケアマネや訪問介護が付帯しており、そこを利用しなければならない)

5 訪問介護サービスなどは住所地特例が適用されない(老人ホームやサ高住は他地区から引っ越してきた場合、前の住所地の自治体が介護費を負担する)そのため、家賃の安い地方に無届ハウスが増えると、その自治体の財政がひっ迫する。

6 ハウス内に感染症が蔓延しやすい(通常のマンションなどと違い、同じ介護スタッフが各居室を巡回してサービス提供するため、介護スタッフが感染を媒介したり、共用スペースがある場合、感染者の出入りを誰も管理しないため、入居者間で簡単に感染が広がってしまう)

7 区市町村の生活保護課はこうしたハウスを頼みの綱としており、特養に入れない生活保護の要介護高齢者の住みかとして利用されている(行政の中でねじれ現象)

8 病院の退院支援担当(MSWなど)も同様に頼りにしている

9 地域包括センターさえ頼りにしている場合がある

10 介護保険サービス事業所と同程度のマニュアルを整備する義務が無い(災害時対応・緊急時対応・苦情処理対応など)

11 火災報知機やスプリンクラーなどの防災設備がない場合がある

 

などなどです。

前回紹介した高級な高齢者向けマンションなどは、入居者に不利益が無いよう、ある程度質の高い設備やサービスを提供しています。

問題は低所得者向けの無届ハウスです。

 

介護現場で見る風景としては、介護が必要になった高齢の親のために、お金を払って良い施設に入ってもらおうという子供は相当のお金持ちか、その親が資産を持っている場合のみです(あとで帰ってくる)。

今の世の中、「老後に必要なお金は親自身のお金で賄う」というのが一般的な考え方であると思います。

従って、生活保護の親の世話にお金を出してまで面倒見る子供は少なく、住宅を探す場合でも、親の持っている財力で入居できるところを探すことになります。

 

もともと、古いアパートや住宅に住んでいた親が、介護が必要になり引っ越す先として、豪華な老人ホームでなくても良いのではないかという考えもあるでしょう。特養に入れないならば、家賃の安い高齢者シェアハウスのような施設でも大して変わらないのではないか?子供としては、そのように考えるのも仕方がないことだと思います。

 

もとも日本人は慎み深い国民です。体が不自由になった高齢者が、ともあれ「不安」なく生活できれば、多少環境が悪くても(低所得の高齢者であれば、場合によっては元々住んでいた自宅よりはマシだったりする)多くを望まず耐え忍ぶことができてしまいます。そうした忍耐力の強さに行政や業者も甘んじてきた部分もあるのではないかと思います。

 

 

◆高齢者は何はともあれ、「不安」を解消してくれるサービスに頼る

 

グループハウスのような高齢者が集まって助け合いながら共同で生活するという発想は昔からあり、そもそも江戸時代の長屋などは助け合いと相互監視の発想から形成された住宅方式であり、共同住宅の形式としてなんら非難されることでは無いと考えます。

 

体が不自由になり、もう自宅では生活ができないとなった時、自分の収入で得られるとりあえずの「安心」として無届ハウスは非常に手ごろであり、逆に言えば他に選択肢が無いというのが現実でしょう。

 

しかし、その人が無届施設に支払うお金と同程度のお金を払えば、低額なサービス付き高齢者住宅や軽費老人ホームに入居できる場合があります。

さらに言えば、筆者などは、たとえば病気で入院し退院する際、「もう自宅で生活できない」という人でも、住宅改修や福祉用具、訪問介護や看護を利用すれば、ほとんどの人が元居た自宅で生活できると考えています。多くの在宅介護のケアマネージャーもそう考えるでしょう。

 

なのになぜそのような無届施設を利用するのか?ポイントはその「不安」を解消できる能力が我が国の社会保障制度に備わっていないということです。

次回はその理由を具体的に考察したいと思います。

 

 

高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 その2

◆元気なうちから抵抗なく入居できて介護の「不安」が無い住宅とは

 

最近になり、新しいコンセプトのアクティブシニア向け分譲マンションが出始めています。筆者の挙げた条件では、キッチン以外の条件はほぼ満たしています。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1103W_R10C14A4EE8000/

分譲マンションですからキッチンの改造も可能でしょう。

 

リンク先は主に夫婦向けにコンセプトされたマンションのようで、イメージとしては今まで一軒家など広い家に住んでいたが、子供も成長し、これから2人で余生を過ごすにあたり、シンプルで不安の無い生活をしたい方向け、といった感じです。前の家を売った資金で買ってくださいということでしょうか。

 

しかし、老後になって、誰でもこの値段の分譲マンションを買えるとは限りません。

例えば夫がサラリーマンをしていた70歳前後のご夫婦の場合、自宅のローンがやっと支払い終わり、後は貯金を切り崩しながらの年金暮らしとなるのが一般的なパターンです。

その時、古い自宅を売却しても、このマンションの購入資金が作れるほどの値段が付くか疑問です。

 

70歳前後で引っ越し、あと20年程度住むのであれば、賃貸の方が得のような気もしますが、リフォームなどを考えると悩むところです。ご夫婦の場合であれば、どちらかが先だった後も住宅の不安が無いという意味では分譲のほうが良いかもしれません。

 

とはいえ、多くの人は老後の資金に不安があり、分譲マンションにはなかなか手が出ないのが現実ではないでしょうか。また分譲は相続税の問題もあります。結局、若いころに購入した住宅に、死ぬまで住み続けた方が、面倒が少ないという判断になりがちです。リフォームによるバリアフリー化ができれば良いですが、できなければ老後の不安は増長してゆきます。

 

20年後、東京の高齢者世帯の44%が一人暮らしと言われています。一人暮らしの高齢者が安心して生活ができる住宅の在り方をもう少ししっかり考えていかなければならないと思います。

 

 

 ◆東京シニア円滑入居賃貸住宅

 

https://www.tokyo-machidukuri.or.jp/sumai/senior.html

国土交通省が主導する高齢者向けの優良賃貸住宅制度です。一般のアパートなどをバリアフリー化し通常は借りにくい高齢者でも賃貸が可能な制度になっています。

こちらは住宅だけですので、介護が必要になった場合は、公的介護サービスを別途依頼する必要があります。

 

こうした優良住宅の多くはアパートやワンルームマンションをバリアフリー化したものが多いようです。家賃は一般的な賃貸アパートの相場よりも、少し高く設定されているような感じがあります。前述のサ高住よりも高いイメージがあるのは、事業者に補助金などの公的支援制度が無いからかもしれません。また、バリアフリー化のリフォームコストも乗っかっているからでしょう。

 

23区内の相場は8万円以上のようです(一部6万円前後もあり)。厚生年金だけで生活する一人暮らしの高齢者にとっては、生活を維持するに、ぎりぎりの値段設定ではないでしょうか。生活保護による家賃補助を受けている高齢者にとっては、区市町村の判断もありますが入居は難しい金額かもしれません。23区内の住宅扶助費は5万円台であり、その程度で入居できる住宅はほんの一部です。

 

 

 ◆高齢者の50%が生活保護なのにその人たちの住宅政策は混沌とした状況

 

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG01H33_R00C16A6CR0000/(生活保護、高齢者が初めて50%超す 厚労省調査)

東京都の生活保護の高齢者は15万人程度いらっしゃるようです。

一方、都では都市型軽費老人ホームという生活保護の人でも入居できる老人ホームの制度を推進しています。現在こうした軽費老人ホームの定員は約4,000人。また、低価格のサ高住や住宅型有料老人ホームに入居している生活保護の高齢者は26年5,140人となっています。ちなみに特養の定員は4万人程度です。

 

すると都では10万人程度の生活保護の高齢者が自宅や賃貸住宅に住んでいることになります。その住環境に関する調査は見つかりませんでした。しかし、あまり良好な住環境でないことは想像できます。全国では単純計算で100万人以上になるでしょうか。

 

厚生労働省は主に生活保護受給者が入所している「無料低額宿泊施設」および「社会福祉各法に法的位置付けのない施設」について、施設数と入所者数を公表しました。

「無料低額宿泊施設」とは、無料または低額な料金で宿泊や食事などができる施設で、都道府県知事への届出により開設できる簡易宿泊所のような施設です。いわゆる、ドヤ街などにある寝床だけしかないような狭隘な宿泊施設が殆どと考えて良いでしょう。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B0%A1%E6%98%93%E5%AE%BF%E6%89%80

 

 

「無料低額宿泊施設」は現在全国に537あり、入所者15,600人中、生活保護受給者数は14,143人。東京都は161施設で、生活保護受給者は3,779人です。

また、「社会福祉各法に法的位置付けのない施設」とは、いわゆる高齢者などを対象にした無届の入所施設です。全国に1,236施設あり、入所する生活保護受給者等の数は16,578人です。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000134572.html

 

そもそも、生活保護の高齢者が増えてしまったのは、日本の年金制度の失敗であり、若いころからまじめに働いて、政府の指示どおりに年金積立してきた人でも、老後に自力で生活できる額の年金がもらえない制度設計自体に問題があると言わざるを得ません。

そもそも、国民の生活を生涯にわたって支える社会保障制度は個人年金の積み立では維持できないことはわかっていたはずです。その歪が高齢者の半数が生活保護という形で表面化しています。

 

よく、生活保護の人を「税金泥棒」扱いする意見を見聞きしますが、まじめに国民年金に加入して働いてきたのに、「税金泥棒」扱いされるのは本当に気の毒だと思います。

さらに言えば、たとえ大企業年金の人でも老後の生活レベルを維持するには額が足りないと言われています。

国民の老後保障は税金を投入しなければ維持できません。そのための消費税増税も先送りになりました。この国の政治は「臭いものには蓋をして」先送りする政治をずっとやってきました。いまだにその姿勢は変わらないような気がします。

 

若者達はまじめに普通に働いていても老後の生活が暗い可能性があることを、感覚的に感じ取っています。将来、年をとってもバリアフリー化したユニバーサルデザインの住宅で安心して生活できることが保障される社会にしなければなりませんが、公共住宅の仕組みは混沌とするばかりです。

 

 

次回は今後の低所得者向け住宅の在り方や、介護ビジネスについて考えます。

 

 

高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 その1

◆特別養護老人ホームの待機者が減り始めた

http://mainichi.jp/articles/20160701/k00/00m/040/092000c(毎日新聞)

 

2015年の介護保険制度の見直しにより入居条件が要介護3以上になるとともに、1割負担から2割負担になる人の利用料金が上がることなどが影響し、特別養護老人ホームの待機者が減り始めているようです。

 

政府は国民の介護負担の軽減を目指し、親の介護などが理由による退職者(介護離職)が出ないようにしようとしていますが、現実的には逆方向の結果がでているかもしれません。

そもそも、待機者はその時点で在宅や他の施設で生活しているわけですが、そうした現状での生活に不安があるから特養に申し込んでいるわけです。

 

これは我が国の介護を必要とする多くの高齢者(とその家族)が不安を抱えながら生活をしているということであり、待機者が減ったからと言ってそれが改善されたわけではありません。

 

介護離職をする人も親の介護の不安に押しつぶされるような形で離職をしているケースが多く、我が国の介護保険制度自体が国民のニーズに応えきれていないということを明示しているものだと思います。

 

経済の面で見れば、こうした老後の生活不安が、消費意欲を低下させ、経済成長を阻んでいることは明らかです。それゆえに国は消費増税による社会保障の改革を目指していたのですが、現政府は現状に甘んじているような気がします。

このままなし崩し的に、団塊の世代が後期高齢者へと突入していくのでしょうか?これでは国民の老後生活不安は一向に払しょくできないでしょう。

 

 

◆老後の住宅探しは結構、難題

 

筆者が年を取り体が不自由になり始め、余生を過ごす住宅を探さなければならなくなったら、どのようにするだろうかと想像してみました。すると、意外と悩んでしまうことに気が付きました。

 

現在、古い1軒家に住んでいますが、後10年程度で限界が来るのではないかと思います。するとその後に住む住宅は終の棲家になることを考えて、どのようなものが良いか、条件をシミュレーションしてみました。

ちなみに筆者は現在、独り身の男性で、今の家は整理することにして、後腐れが無いよう死後の資産が残らない前提での住宅探しとなります。

その際のキーワードは「不安の無い余生です」。

 

≪条件シミュレーション≫

1 基本的に住み慣れた地域での生活の方が不安はないだろう

2 例えば脳梗塞の発症などにより要介護になった場合でも、自宅で生活が続けられること

3 あまり広い住居ではなく、できるだけシンプルな生活をしたい

4 できれば老人ホームなどのサービス付きの施設ではなく、介護が必要になったら在宅サービスを利用して余生を過ごしたい

5 住宅内はバリアフリーであり介助を受けながら車いすでの生活も可能、一人で外出もできる

6 元気なうちは地域で趣味やスポーツ、ボランティア的な活動をするなど社会とのつながりを作りたい

7 できるだけ食事は自分で準備したいので体力低下しても買い物代行などが利用でき、台所も使える工夫がほしい(椅子に座って作業できるキッチンや手すり設置、電磁調理器など)http://www.lixil.co.jp/products/kitchen/welllife/index.html

8 その他基本的な住宅設備については通常のワンルームマンションなどと同様

 

とりあえず以上のような条件で、実際にネットなどで賃貸住宅を探してみました。しかし、現状では自分のイメージな合う住宅を探すのは相当困難であるという実感を持ちました。そもそ良い物件が見つかっても高齢者には貸してくれない場合もあります。これでは老後に安心して生活できる住宅探しなんてできるのだろうかと思います。

 

 

◆サービス付き高齢者専用住宅はどうだろう

 

筆者のイメージする老後の住宅として、一番イメージに近いのはサービス付き高齢者専用住宅(サ高住)になるかもしれません。

 

サ高住は今住んでいる地域に沢山ありますし、家賃も手ごろです。住宅内はバリアフリー化されており、外出も自由で、部屋も普通のワンルームマンションと変わりはありません。

 

しかし、実際に元気なうちに入居と考えると、少し考えてしまいます。

現状のサ高住は住宅型老人ホームとほとんど変わりません。介護サービスを外部の在宅サービスを利用するだけで、実際は前述の特別養護老人ホームや有料老人ホームに入居できない方の入居施設となっている感があります。

まだ、元気なうちからそうした住宅を選ぶことには抵抗があります。いわゆるアクティブシニア向けの住宅にはなっていないのが現実ではないでしょうか。

 

また、介護が必要になったときケアマネジャーを自分で選び、ケアプランンを自分なりにアレンジすることがやりにくそうな感じがします。

多くのサ高住では在宅介護サービスが委託契約などにより付随しており、他の事業所を選択することは可能なのですが、付随するサービス事業所を断るには少し抵抗があります。また、元気なうちには必要のないサービスが付随している場合もあり、余計なコストになっている気もします。

 

◆国は老後の住み替えモデルをもっと提示して環境整備を進めるべき

年を取ればいつ要介護になるかはわかりません。要介護になってから別の住宅に引っ越すことは環境変化に弱い高齢者にとっては不安があるところです。

引っ越しによる環境変化を楽しめる程度に体力が残っている時期に入居するのがベストのタイミングなのですが、周りの入居者の多くがすでに要介護者であったりすると、「元気なうちからわねぇ・・・」という抵抗感が沸いてきます。

 

また、要支援の時期はまだまだ自宅で生活できると思っていても、ある日突然それができなくなる時が来たりもします。もちろん要介護5でも自宅で生活することは可能です。しかし、住宅の状況や障害の状況によってはそれができない場合もあります。身体が不自由になってから、どこか知らない場所の施設や高齢者住宅に入り余生を送ることは、悲しいことのような気がします。

 

ところが周りの高齢者の人たちを見ていると、身体が不自由になり今まで住んでいた住宅に住み続けられなくなって初めて、サ高住などに引っ越すという状況になっているようです。つまり、抵抗なく元気なうちから入居ができて、介護の不安もないという住宅があまり見当たらないというのが、今の正直な感想です。

国は「在宅介護、在宅介護」と金科玉条のごとく叫んでいますが、「在宅介護」を継続できる老後の住み替えモデルをもっと提示し、不動産業界と介護業界に働きかけて環境整備を進めるべきでしょう。老後の住宅不安が解消することは、老後の不安の多くの部分を占めると考えます。

 

次回は、元気なうちから抵抗なく入居できて介護「不安」が無い住宅や低所得者向けの住宅について考えます。

 

 

介護人材不足はいつまで続くのか その2(将来の予想)

◆外国人労働者受け入れは人手不足の救いになるか

 

厚生労働省、は経済連携協定(EPA)による東南アジア3カ国の介護福祉士に、訪問介護を解禁することを決めました。2017年4月からの実施を目指すそうです。

http://www.jiji.com/jc/article?k=2016080500036&g=eco

 

移民の受け入れは人手不足と経済成長の奥の手と言われています。

移民による人口増加を経済発展に繋げてきた国と言えばアメリカ合衆国がその代表でしょう。ヨーロッパ諸国(EU)も同じような移民政策を展開してきましたが、今、このやり方は過渡期を迎えています。ご存知のとおり、イギリスのEU離脱です。イギリス国民は移民の受け入れを拒否しEUからの離脱を決めました。

 

日本は移民についてはかなり厳しく制限してきた経緯があります。歴史的に多民族が交わって社会を作っていく構造にはなっていませんので、アメリカのような移民政策を国民が簡単に許容することは考にくいと思います。

 

私個人としては、多様な民族が交じり合うことは、地球上に住む人間という種族にとってはごく自然なことであり、風土の保全としっかりした語学教育が可能であれば拒むことではないと考えています。

 

しかし、現在、在留外国人の就労制限は厳しく、仕事のために在留を認められているのは通訳など一部の職業のみです。当然、EPA以外の介護福祉の仕事で在留許可を得ることはできません。留学生がアルバイト(時間制限あり)で介護福祉の仕事に就くことは可能ですが、語学留学できている外国人ではコミュニケーションのレベルが問題になります。

日本語の習得は外国人労働者にとっては大きな壁でしょう。ヨーロッパでも移民の語学レベルが大きな問題となっており、質の高い労働力に繋がっていないという指摘があります。

 

日本人と結婚していたり、家族がいる人は就労が可能です。現状でもこうした許可により多くの外国人が介護施設等で働いていますが、この方法でも人手不足の解消につながるほど多くの労働者を確保できるとは思えません。EPAによる介護職の受け入れも2016年までで2,000人程度です。ほとんど意味を成す数字ではないでしょう。

 

 

◆人手不足はいつまで続くだろうか 予想してみる

ここまでの考察を踏まえて、今後の動向を整理したいと思います。

 

1 今後、急激な円高などによる企業会計の悪化は考えにくい

 現在、日本とアメリカの経済格差は広がりつつあります。現状、1ドル100円程度が今後、米国の利上げなどにより長い目で見ると円安に進むと考えられています。しかし一方で、日本は人口減少によりデフレが緩やかに進んでいくという考え方もあり、デフレの場合は円高になりますので、ドル円が急激に大きく変動することは考えにくい状況です。

 ドル円が安定的であれば、日本企業は緩やかに収益拡大をしてくと予想されます。

 

2 日本の労働人口の低下により労働者需要はさらに増加

 1億総活躍と政府が言わなければならないのは、まさに日本人が減ってしまうことが原因です。労働需給はさらにひっ迫することが予想されます。

 

3 外国人労働者の受け入れ拡大(移民の受け入れ)は相当の時間がかかる

 国内で移民の議論ができるようになるまで相当の時間が必要と考えます。今はどの政党も触れたくないようです。

 しかし、労働者不足は待ってくれませんので、将来、介護サービスが受けられない介護難民が大きな社会問題となるようであれば、議論が始まるかもしれません。

 現状のEPAの枠組みを超えて、日常会話レベルの日本語能力を持つ外国人介護労働者を大量に受け入れられるようになるのは、かなり先のことでしょう。

 

4 賃金上昇による効果は限定的

 政策的な賃上げによる効果はある程度期待できます。しかし、介護福祉業界だけではなく他の業種も相対的に上がるので、全体として人手不足の解消に繋がるか疑問があります。処遇改善加算をどこまで上げることができるか。消費増税、医療や年金など他の社会保障コストの関係により、介護福祉の方にどれだけお金を回せるかによると考えます。

 このままでは介護難民が深刻になることを、介護福祉業界全体でアピールしていくことが重要でしょう。

 

5 人型ロボットが介護士の代わりをしてくれるのは難しい

 ロボットの活用では、いわゆる人型ロボットより、先進的なリフトなどの開発により、移乗や移動を利用者自身がコントロールできるシステムや、排せつを自動化できるベッドなど、介護職員に頼らない福祉用具の開発の方が、人手不足には有効だと思います。

 ベッドからお風呂まで利用者や家族がリモコンを操作して、オートーメーションで移動できたり、ベッドがそのままお風呂になってしまう構造であったりと、介護労働を軽減する福祉用具は今後さらに開発が進むでしょう。

 

6 多様な業界で人を必要としないサービス提供の仕組が開発され発展する。

 介護だけでなく、無人運転車(タクシー・宅配便など)の実現。ICタグや自動決済システムの利用拡大により、巨大な自動販売機と化すコンビニやスーパー。店員のいないファミリーレストランやファストフード。人型ロボットのショップ店員。などなど、ろいろなサービスを自動で提供できるシステムが今後、開発され普及するでしょう。

 こうした自動化は日本人が非常に得意とする分野です。回転ずしなどはその先駆けと言えます。

 こうした自動化により介護以外の業界で人手不足が解消すれば、それが介護福祉業界の人手不足解消の決定打となるかもしれません。

 

◆今後なくなってしまう仕事

人手不足解消の決定打は、多様な業界でサービスの自動化が進み、人手を使わなくてもサービスが提供できるようになること。それにより、日本全体の人材不足が解消され、介護業界にも人が流れてくることでしょう。

多くの企業で、企業収益を上げるための自動化の取り組みは、今後一層の盛り上がりを見せるでしょう。政府も強力にバックアップするはずです。特にパート労働者を活用してきた分野では進展が激しいのではないかと考えます。

 

 米国で発表された、今後、機械や人工知能が奪う職業ランキングの上位15位を見てみます。

1 小売店販売員

2 会計士

3 一般事務員

4 セールスマン

5 一般秘書

6 飲食カウンター接客係

7 商店レジ打ち係や切符販売員

8 箱詰め積み降ろしなどの作業員

9 帳簿係などの金融取引記録保全員

10 大型トラック・ローリー車の運転手

11 コールセンター案内係

12 乗用車・タクシー・バンの運転手

13 中央官庁職員など上級公務員

14 調理人(料理人の下で働く人)

15 ビル管理人

 

こうした仕事がなくなる一方、介護などの直接的な対人援助の仕事は残るといわれています。コミュニケーション技術や身体接触も含めた援助技法により、一人ひとり個別に支援するサービスはなかなか自動化できない分野です。前述の福祉用具の進歩による自動化は、コストがかかり、一部の施設やお金持ち以外利用できません。通常の在宅介護や認知症介護では今まで通り、人手が無ければ難しい状況は続くと考えます。

 

◆仕事の自動化が進めば今度は失業者が増加

自動化により人々が職を奪われる状況が、今後10年程度で明らかになるかもしれません。

有効求人場率は低下し、労働市場は買い手市場に転化するでしょう。失業率が上がり人々が職を求め始める時代が来ると、介護福祉分野の人手不足も解消することが予想されます。

しかし、あと5年程度は今の状況が続きそうです。その間に我が国の介護福祉サービスが人手不足で破綻しないことを祈ります。