訪問介護で特定事業所加算を算定している場合、実地指導チェックされる書類について

特定事業所加算の根拠となる書類・記録について

 

【根拠となる記録・書類】

(1)体制要件

①「年間研修計画」「個別研修計画」「研修報告書・出欠簿(研修参加を確認できるもの)」「補講実施報告書」等、職場内研修の実態が分かる書類

  • 注意点:

事業所の研修体制及び、訪問介護員(非常勤を含むすべての訪問介護員)ごとの研修計画、当該研修計画に基づく研修の実施状況(又は実施予定)が確認できる書類です。例えば以下のような計画書が必要です。

例:個別研修計画

訪問介護員ごとの研修計画は、当該訪問介護員と管理者やサービス提供責任者が共通認識を持って作成すると良いでしょう。その人の具体的な課題を克服するような内容で計画にします。例のように、社内研修を月に1回、定期的に開催し、個別の研修計画と連携させます。例では個別の目標に対して年間計画で、本人が該当する研修の担当となり、自ら知識を深め、技術を磨くようになっています。なお、その際、勤務の都合等で出席できなかった職員の補講状況についても確認できることが必要です。

 

②ケアカンファレンス=ケース検討会議の「会議日程表」「会議次第」「会議議事録」「利用者に関する情報を伝達した文書(会議資料等)」「会議出席者名簿」等会議の実態が分かる書類

  • 注意点:

利用者に関する情報若しくはサービス提供に当たっての留意事項の伝達、又は当該訪問介護事業所における訪問介護員等の技術指導を目的とした会議が定期的に開催されていることが、確認できる書類になります。

毎月の研修の際に同時に開催すると良いと考えます。具体的には毎月ケアプランの更新者を中心に心身状況の確認、目標達成状況、サービス内容の変更などの確認を行うと良いでしょう。また、その際にヒヤリハット報告や困難事例検討会なども併せて開催し、その資料や記録を保管しておきます。

朝礼、夕礼で情報伝達などを行っている場合は、その内容を簡潔にノートなどに記録しておくと良いでしょう。

 

③「サービス手順書(指示書)」「サービス提供記録」「業務報告(日報)」など

  • 注意点:

サービス提供責任者が、当該利用者を担当する訪問介護員等に対し、当該利用者に関する情報やサービス提供に当たっての留意事項を、文書等の確実な方法により伝達してから開始するとともに、サービス提供終了後、担当する訪問介護員等から適宜報告を受けていることを、確認できる書類です。

サービス提供責任者が作成したサービス手順書には担当する訪問介護員の確認サインや押印があると良いでしょう。業務報告(日報)はサービス提供責任者ごとにノートにしても良いですし、メールでも構いませんが、サービス提供責任者ごと又は利用者ごとに印刷し、ファイルしておくことが大切です。

訪問介護員にその日の業務内容について記載してもらう際、以下の事項について変化があった場合は必ず記載するように留意してもらいます(「前回のサービス提供時の状況」を除く)。こうした報告は複数回訪問する場合でも、1日1回取りまとめて記録して構いません。

☆利用者のADLや意欲

☆利用者の主な訴えやサービス提供時の特段の要望

☆家族を含む環境

☆前回のサービス提供時の状況

☆その他サービス提供に当たって必要な事項

いずれにしても、ご利用者の変化など、職員同士が情報伝達を行う場合は、必ず文書(fax・メール可)により行い、それらをサービス提供責任者が確認した旨の記録(サインなど)をした上で、保存整理しておく必要があります。

※ご利用者に変化があった場合の報告文書例

担当訪問介護員 → 担当サービス提供責任者

報告事例_01

 

④非常勤を含む全ての訪問介護員が「健康診断を実施したことがわかる書類・記録」(予定の場合は計画書等)

  • 注意点:

具体的には受診医療機関から発行される健康診断受診者の名簿や受診表(所属するすべての訪問介護員が受診していることを確認できる内容であること)と医療機関への受診料を当該事業者が支払ったことが認められる領収書などです。年一回するたびに毎年保管します。

 

⑤「緊急時等における対応方法」が明示された書類

こちらは通常、重要事項説明書に明記されていると考えます。

 

(2)人材要件

①「職員の履歴書」「労働契約書又は労働条件通知書」「賃金台帳」「出勤簿」「労働者(職員)台帳」等職員の実態が把握できる書類

  • 注意点:

非常勤を含むすべての訪問介護員についてそろえておくことが必要です。これらは会社役員の場合でもサービス提供を行っている人の分はそろえる必要があります。社長でも管理者などを兼務する場合は、最低、出勤記録は必要です。

 

②すべての訪問介護員の「取得資格証(写)」

  • 注意点:

職員が上位資格を取得した場合は速やかに実物の資格証等で確認し、写しを保管します。写しには管理者等原本を確認した人のサインや印と日付を記入しておくとなお良いです。

 

③「サービス提供責任者の実務経歴書」等

  • 注意点:

当該事業所での実務経歴は資格証や労働契約書等の日付などにより確認できますが、他事業所からの転職者は実務経歴証明書を前職場から発行してもらう必要があります。

 

(3)重度要介護者等対応要件

①全利用者の「介護保険証(写)」(算定期間を通じて)

 介護保険証の写しには原本を確認した日付と確認者のサイン等があると良いでしょう。

 

②「認知症該当利用者の主治医意見書(写)」

 日常生活自立度のランクを確認します。ケアマネから頂く必要があるかもしれません。

 

③「利用者名簿と要介護度分布のわかる集計表」(月毎)

 月毎に整備しておく必要があります。基準を下回る月があった場合は、算定できません。また、届け出が必要になります。

 

④たんの吸引等の業務を行うための登録証(該当事業所のみ)

 

【特定事業所加算(Ⅰ)の場合】

上記書類のすべてを整備しておく必要があります。

【特定事業所加算(Ⅱ)の場合】

上記書類の(1)(2)を整備しておく必要があります。

【特定事業所加算(Ⅲ)の場合】

上記書類の(1)(3)を整備しておく必要があります。

 

【本加算の意義】

 特定事業所加算は質の高いサービスを提供していることにより、クオリティーの高い事業所を差別化するための加算と考えて良いでしょう。しかしながら利用者の負担も高くなりますから、この加算を取ったとしても利用者増につながらない場合があるのが玉に傷です。算定している場合実地指導では必ずチェックされます。

 

 

実地指導でチェックされる訪問介護の加算について

今回は訪問介護の実地指導などでチェックされる各種加算について、整備しておきたい書類などを中心にご説明したいと思います。

 

必要な書類は事項ごと、利用者ごとにファイルし、日頃から整理しておくと良いでしょう。

介護報酬の加算は算定していても実地指導等で認められなければ、介護報酬の返還になる場合もあります。つまり、加算申請を受理されたからといって、その実態に即した客観的な記録が無ければ、加算は認められないということです。

 

まず訪問介護事業所、整備すべき必須書類・記録は以下の通りです。これらは原則としてかならずチェックされます(必須書類)。

①訪問介護計画書

②介護給付費請求書

③介護給付費明細書

④サービス提供票、別表

⑤サービス提供証明書(発行している場合)

 

続いてQ&A形式で加算ごとに必要な書類についてご説明します。書類の名称については主に一般的な名称を使用しています。

 

Q1:初回加算の根拠となる書類・記録について

A1:

【根拠となる記録・書類】

①「ケアプラン」(当該「訪問介護計画書」にかかわる)

留意点:ケアプランに基づきサービス提供責任者により訪問介護計画書が適切に作成されている必要があります。初回加算を算定している場合は必ず新しい訪問介護計画書が作成されなければなりません。不適切な場合は初回加算が認められないことも考えられます。

②「サービス提供の記録」

留意点:サービス提供責任者が訪問した日時とアセスメント等、状況の把握を行った記録になります。訪問日時や時間は訪問介護サービスの提供時間と同じである必要はありません。

③「利用者の支援経過などサービス導入経緯に関する記録」(同一利用者に初回加算を複数回算定した場合)

留意点:本利用者が新規の利用、過去2か月に当該訪問介護事業所から訪問介護サービスを提供されていないこと、又は、要支援からの要介護への変更など、初回加算の要件を満たしていることが確認できる記録です。再利用の場合、例えば「○月○日~△月△日まで入院によりサービス停止」など、支援経過が記入されていることが必要です。

なお、過去2か月とは月体位の計算であり、例えば、4月20日に訪問介護を開始した場合、同年の2月1日以降に当該事業所からサービス提供を受けていない必要があります。

【本加算の意義】

新しいご利用者に「訪問介護計画書」を作成するための、業務負担に対して支払われる報酬と考えて良いでしょう。なお、前提として料金表や重要事項説明書により加算の説明がされている必要があります。これは他の加算についても同様です。また、初回加算は算定することができる場合は公平性の観点から必ず加算するようにしなければなりません。

 

Q2:処遇改善加算の根拠となる書類・記録について

A2:

処遇改善加算については新たなⅠが設定され、訪問介護では8.6%という高い加算が設定されるようになりました。これは介護における訪問介護の重要性を鑑みての設定であると思います。以下はこの処遇改善Ⅰを算定する場合のケースです。

【根拠となる記録・書類】

以下は算定期間を通じて整備しておく必要があります。

①「介護職員処遇改善計画書」および「職員への周知方法」がわかるもの

職員向けの通知文書や職場での掲示状況がわかるものなどです。

②「賃金台帳」「給与明細等」原則全職員分

賃金の改善状況が分かる書類です。

③その他以下の書類をチェックされる場合もあります。

「介護職員の処遇改善に関する実績報告書」

「労働保険料等納付証明書(原本)」

「就業規則」

「賃金規定」及びそれらの職員への周知の方法が確認できるもの

「介護職員の資質の向上の支援に関する計画の実施状況がわかるもの(研修計画の実施状況)」

「キャリアパス関係書類」などです。

賃金規定では昇給昇格の仕組みがしっかり規定されている必要があります。

賃金規定で規定されていても実態として職員に周知されていなかったり、実際にそのように運用されていない場合は、加算の返還を命じられる場合もあります。

処遇改善加算の必要書類は通常、計画提出時に揃えて提出していますので、後からそろえるという種類のものではありません。ただし、研修だけは実施状況をチェックされますので、研修の出席簿、研修教材、その他研修の実施状況がわかる書類を整えておく必要があります。

 

【本加算の意義】

介護職員の賃金改善のための加算ですが、併せて職員の育成体制などを整備することを求めています。広い意味で介護職員の社会的地位の向上を目指していますので、国としても職員への周知を徹底し、より意識を高めてもらいたいのでしょう。

 

Q3:早朝・夜間・深夜加算の根拠となる書類・記録について

A3:

【根拠となる記録・書類】

①ケアプラン及び必須書類

留意点:当然ながらケアプランに時間設定が無ければ算定できません(緊急時訪問を除く)。

深夜から早朝にかけての訪問では少しでも深夜の時間帯にサービスを開始していれば、深夜加算を算定できますが、そうした時間設定でのサービスが必要な理由、利用者・ケアマネージャーとの合意事項についてはサ担録などで明確に文書化しておき、写しを貰っておく必要があります。

また、加算の対象となる時間のサービス提供時間が全体のサー ビス時間に占める割合がごくわずかな場合においては、この加算は算定できません。

よく問題になるのが、下線部のごくわずかな時間とはどの程度の時間かということです。1時間のサービス時間の中で30分が加算対象時間であればOKなのでしょうか?

実地指導では自治体によって判断が分かれる部分もあるようです。少なくとも全体の時間の1/2以上が加算の時間になっていれば大丈夫だと思いますが、不安な場合は保険者の自治体に確認する方が良いでしょう。

【本加算の意義】

早朝・夜間・深夜労働に対する割増賃金の意義を持ちます。

 

次回は、特定事業所加算についてご説明します。

介護福祉の創業に使える融資・補助金に関するまとめ

介護・福祉事業を行う際の融資や補助金について少し調べてみました。

以下は、2016年7月現在の情報です。

 

 

1 日本政策金融公庫の融資

 世界的な金融緩和状態、日本でもマイナス金利の状況になり、現在、融資がかつてないほど受けやすい状況になっています。

政府としても、起業や新規設備投資にお金を回し経済を活性化させ成長に導きたい意向が強く、日本政策金融公庫でもそうした融資に力を入れているようです。

 

政策金融公庫では介護や福祉などのソーシャルビジネスに対する融資枠を特別に設けていて、新規に介護福祉事業を始める場合、通常年利1.45%の低金利で資金調達できます。

https://www.jfc.go.jp/n/finance/social/yushi.html

https://www.jfc.go.jp/n/rate/riritsu_1ran_m.html (利率一覧:担保を付けるとさらに利率が安くなります)

 

事業経営を自己資金のみで経営される方も多いですが、企業の場合、融資を受けることで事業運営にメリットがあるといわれています。

以下は政策金融公庫で融資を受けた方々のアンケートです。融資を受けて良かったことを回答しています。

kouko

会社経営経験の無い方が起業する場合、どうしてもシビアな資金管理ができず、自己資金が潤沢な場合は奔放な経営になってしまう場合も多いようです。融資を受けることで収支に関してシビアになり、金融機関からの事業チェックも受けますので、引き締まった経営ができるとも言われています。

 介護福祉事業の場合、融資を受けるには管轄自治体からの事業指定が下りる必要があります。政策金融公庫の創業融資の場合、事業指定が下りれば基本的(過去に返済トラブルなどが無いことが前提です)には融資審査に通るようです。

 また、融資を受けるためには創業計画を提出する必要がありますが、指定申請時に作成する収支予算書と経営計画書を利用できますので、比較的簡単です。

 

2 区市町村の創業融資

  区市町村の創業融資は自治体によりさまざまですが、利子を自治体が負担してくれる場合もあります。また、自治体の融資には信用保証料というものが必要ですが、これについても補助制度があります。

区市町村の創業融資を利用する場合は、事業地の区市町村に早めに尋ねてみることをお勧めします。各自治体によって制度が様々で、会社設立のための登録免許税を軽減する制度もあります。会社設立前、起業を検討している段階で相談に行った方が良いでしょう。

 

以下いくつか事例をご紹介します。ただし、これらは28年度の融資制度です。自治体の融資制度は年度により変わりますので、最新のものをご確認ください。

 

台東区(利子を区が全額負担)

http://www.city.taito.lg.jp/index/kurashi/shigoto/kinyukeieishien/yushiseido/tokushuseido/201510_kai.files/kai.pdf

 

中野区(商店街で開業すると利子を全額負担)

http://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/162000/d014367.html

 

品川区(区の特定創業支援事業に認定されると3年間無利子)

http://www.city.shinagawa.tokyo.jp/hp/menu000025000/hpg000024959.htm

 

特定創業支援事業者に認定されると会社設立の登録免許税が軽減される自治体は多いです。研修受講などの要件がありますから、起業を検討する段階から開業する地域の自治体に相談に行きましょう。

 

足立区(2.5%までは利子を補給)

https://www.city.adachi.tokyo.jp/chusho/shigoto/chushokigyo/documents/h28sougyou.pdf

 

葛飾区(利子負担0.3% 保証料30万まで補助)

http://www.city.katsushika.lg.jp/business/1000071/1005377.html

 

 

区市町村の融資は実際に事業を開始していないと受けられないものもあります。政策金融公庫と自治体の融資は併用できます。どちらから先に借りるかは、各自治体の融資制度によりますが、設立資金を公庫、運転資金(主に人件費)を自治体と分けても良いかもしれません。

 

3 創業に使える補助金

次にご紹介するのは融資ではなく創業補助金の情報です。

新たなニースを創り出す創業に対して、中小企業庁が補助金を用意しています。

 

創業・第二創業補助金 https://sogyo-hojo-28.jp/

 

この補助金は、前述の「認定特定創業支援事業を受ける者の事業」のみを対象としていますから、自治体で認定を取ってからの応募となります。

採択されるかどうかは、いかに新奇性と成長性があるかにかかっていますが、Care Biz Supportでは本補助金の応募支援も行っていますのでぜひご相談ください。

各種公募・補助金事業への応募サポート

 

介護保険のみを収入源とする介護事業のみでは採択の見込みは少ないですが、新たな取り組みを合わせてニーズを創造するような事業であれば、採択の可能性はあります。

 

この補助金を利用するにはコツがあります。応募期間があり、起業のタイミングをそれにうまく合わせなければなりません。

平成28年度の場合、応募期間が4月中です。また、4月1日以降に起業する場合に限りますので、すでに開業している場合は応募できません。

平成29年度も同じようなスケジュールと予想できます。この補助金を利用したい方は、4月ぐらいに会社設立予定で起業をスケジューリングした方が良いでしょう。

 

補助率は2/3ですから事業費の1/3は自己負担する必要があります。また、補助金交付後も事業報告など事業運営を管理されますので、しっかりした実現性のある事業計画でなければなりません。単なる机上のアイディアではだめだということです。

 

以下 平成28年度東京都の介護関係で採択された事例です。(全134件中)

 

◎介護保険法に基づく訪問介護事業と一般旅客自動車運送事業(福祉限定)の移送サービスを融合させた生活総合支援事業の展開

◎障害のある子どもたちに対する関係機関等と連携した療育事業の実施

◎介護家族と介護士を繋ぐC to Cマッチングサービスの構築

◎障害者、高齢者の移動手段(自動車、電動車椅子)の開発と製造、販売

 

この他、高齢者向けのフィットネスビジネスもちらほら見えますので、そうしたものとの介護事業を組み合わせられればチャンスはあります。

 

4 介護資格取得の支援事業

自治体が介護関係の資格を取得する支援を行っています。ここでは東京都の支援事業をご紹介します。この他、区市町村や道府県でも支援事業がありますので、各自治体にお問い合わせください。

 

東京都社会福祉協議会(東京都福祉人材センター)の各種事業

 ◎介護職員初任者研修資格取得支援事業

http://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html#shikaku

 介護職場の体験をして介護初任者研修修了資格を無料で取得できる事業です。起業予定の方でも参加可能です。

 

◎トライアル雇用事業

http://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html#trial

 介護事業所で働きながら介護職員初任者研修の資格を取得できる事業です。期間は最大6か月でその間は契約社員として介護現場で働きます(当然給料も出ます)。介護経験の無い方で介護起業を考えている方も参加できます。ただし、事業参加するためには他の仕事に就いていないことが前提となります。

 

◎介護福祉士等修学資金貸付事業

http://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kashitsuke.html

 こちらは介護現場で働いている方向けの事業です。介護福祉士の国家試験を受けるために受講必須となっている、介護職員実務者研修の受講費用の貸付制度です。

 ただし、介護福祉士合格後、介護事業に5年以上勤務した場合は、返還が免除されます。

 

 

 

 

訪問看護の実地指導・検査対策 最終回

最終回は、行政の実地指導でよく指摘される事項や実際の実地指導が来た場合の対応方法、その他まとめとして特に留意してほしい事項を説明いたします。

 

ます、行政などが発表している、実地指導報告書より、訪問看護事業所の実地指導で指導された事例を、その原因や対応法について説明したいと思います。これまでの説明と重複する部分もありますが、ここで上げている事項は特に重要ですので、復習の意味で再掲していきます。

 

(1)よく指摘される事項(人員・運営関係)

① 保健師、看護師又は准看護師を2.5以上確保していない

この指摘は、規模の小さな事業所では特に注意したほうがよろしいでしょう。悪質な場合は指定取り消しになります。特に訪問の稼働(訪問)時間が常勤換算で2.5を超えていない場合は、稼働していない間、訪問看護師が何をしているか(基本待機)明確にしておきましょう。

② 医師の指示書が無い

病院や医師が変わった場合はブランクができてしまう場合があります。医師の指示が無い期間は訪問しても報酬を算定できません。

③ 従業員の秘密保持体制が不完全 

一番多いのは、業務上知りえた利用者等の情報を漏らしてはいけないことを、看護師等の採用時に誓約書等で誓約させていないケースです。誓約書には秘密は退職後も保持しなければならない旨の記載が必要です。できれば、プライバシーポリシー(個人情報保護方針)を作成し、従業員や利用者に提示していると良いと思います。

④ 利用者と家族の個人情報を使用同意を得ていない

重要事項説明書の修正が行われていない事業所があるようです。

⑤ 訪問看護計画書が未作成

医師やケアマネとの関係がなれ合いになり、サービス内容が変わっているのに計画書がずっと昔のままということがあるようです。

⑥  訪問看護計画書の作成に当たって、利用者の同意を得ていない

訪問看護計画書に利用者の署名捺印を忘れないようにします。もらっていない計画書がある場合は速やかに同意を得ましょう。

⑦ 訪問看護計画書の作成者、説明者が不明確

計画書は保健師、看護師(准看護師を除く)が作成しなければなりません。計画書を作成した担当者、利用者へ説明した担当者が一目で分かる よう「作成者」欄、「説明者」欄を設けるようにします(※注意:厚労省のこの欄がありません)。

⑧ 訪問看護計画書の内容と居宅サービス計画(ケアプラン)の内容が合っていない

ケアプランに無いサービスは提供できません。

⑨  看護師等の清潔の保持及び健康状態について、必要な管理が行われていない

以下のポイントを押さえておきます。

 ◎感染症予防・食中毒マニュアルなどが完備されている

 ◎手袋など必要な衛生用品が完備されている

 ◎看護師等の健康診断が実施されその内容を把握している(サービス提供強化加算を算定している場合は必ず)

⑩  毎月、勤務表(従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表)が作成されていない

作成する勤務表には、「職務の内容(訪問か事務かなど)」、「勤務時間」、「常勤・非常勤の別」、「兼務関係」が必要です

⑪ 料金表等に准看護師が訪問する場合の単位数が明記されていない

准看護師が訪問した場合は、所定単 位数が 90/100 となる旨の記載をします。

 

(2)よく指摘される事項(算定関係)

①  初回加算

以下の点がよく指摘されています。 

 ◎新規に訪問看護計画書を作成せずに加算を算定してい る。

 ◎初回加算について、過去ニ月間において医療保険の訪問看護を提供した利用者に加算をしている。

 ◎初回加算の算定要件を満たしている場合であっても、算定していない事例があった。(初回加算は利用料負担公平化の観点から、算定要件 を満たす場合は必ず加算)

②  緊急時訪問看護加算

早朝・夜間、深夜の時間帯に緊急訪問した場合に、早朝・夜間、深夜の加算を算定している。

③ ターミナルケア加算に必要な記録が不十分

ターミナルケア加算を算定する場合は記録書に以下の内容を必ず盛り込まなければなりませんので、注意しましょう。

 ◎利用者及びその家族に対して説明を行い、同意を得ていること。

 ◎利用者の身辺状況の変化等の記録

 ア) 終末期の身体状況の変化及びこれに対する看護についての記録

 イ) 療養や死別に関する利用者及び家族の精神的な状態の変化及びこれに対するケアの経過についての記録

 ウ) 看取りを含めたターミナルケアの各プロセスにおいて利用者及び家族の意向 を把握し、それに基づくアセスメント及び対応の経過の記録

④ 医療保険の給付の対象となる場合に、訪問看護費を算定している

末期の悪性腫瘍や厚生労働大臣が定める疾病等の患者については、医療保険が優先されます。

 

(3)東京都の訪問看護実地指導・検査の状況 - 約85%で指摘事項あり、うち80%が報酬算定の誤り

平成26年度、東京都では 訪問看護事業者1,491事業所に対し131の事業所で実地検査が行われました。このうち何らかの文書指摘を受けた事業所は111事業所で約80%以上が指摘を受けている状況です。最も多いのが「介護報酬の算定等に誤りがあるの で、是正すること」(86事業)という指摘です。

この結果、平成26年度東京都では、訪問看護において合計 827,674円(1事業所当たり6,318円)の返還が発生しています。訪問介護は 310,819円ですので、事業所数を考えると訪問看護は返還額が高い傾向にあります。ちなみに通所介護事業 は 8,318,595円です。

介護報酬の算定はできるだけ注意深く行う必要があるでしょう。

 

(4)実地指導の流れと実施方法(通常の場合)

① 指導通知は1月前程度に来る

監査や虐待など不当行為の事実を把握した場合の緊急立ち入りなどを除いて、通常は1月前ぐらいに通知が来ます。かならず事前提出書類があります。この事前提出書類が、検査のガイドラインになっていますから、書類の準備が対策になります。この書類準備をなおざりにすると、当日、指摘を沢山されますのでしっかり準備しましょう。

② 指導には一般指導と合同指導がある

◎一般指導=都道府県が単独で実地指導を行う。

◎合同指導=都が厚生労働省や区市町村等と合同で実地指導を行う。

③ 一般指導は通常2名体制

都道府県の単独指導の場合は2名体制ですが、合同指導の場合は、共に入る役所により、それ以上の人数になります。

④ 実地指導の時間は原則9:00~18:00以内

基本的には営業時間内での検査になります。問題が見つかった場合延長することはありえます。

⑤ 併設する複数の事業所を同時に検査する場合あり

併設する他の事業所も同時に検査する場合があります。その場合、1事業所の検査時間が短くなる場合もあります。

⑥ 医療保険関係に不正の疑いがある場合、保険医療指導の担当者が一緒に来る場合もある

例は少ないようです。

⑦ 検査員にはお茶などの接客行為は不要

場合にもよりますが、役人への便宜供与になりますので、先方から必要ない旨言われることも多いようです。お茶を出さなかったからといって検査員の心証が悪くなるようなことはありません。

⑧ 必ず介護と介護予防の両方をチェックする 

利用者ファイルなどかならず両方見ます。どの利用者ファイルを見るかは事前の提出資料などから判断しているようです。

⑨ 指摘事項が見つかった場合は後日文書で正式な通知が来る

この通知と同時に改善報告書の提出通知が一緒に来ます。おおむね30日以内にどのように改善したかを報告しなければなりません。

⑩ 報酬に誤りがあった場合は保険者に連絡が行き過誤修正が指示されます。

都道府県の検査の場合でも検査内容は区市町村に渡ります。都道府県の検査の後に、すぐに区市町村が実地指導に入ってくるパターンも良くあることのようです。

 

なお、実地指導に入る事業所の選定基準は東京都の場合、以下の通りです。

(ア)過去の指導検査において、指摘事項の改善が図られていない事業所で、継続的に指導を必要とする事業所

(イ)利用者、保険者等から苦情等情報提供が多く寄せられている事業所

(ウ)休止、移転等で指導が必要な事業所

(エ)新規指定後指導未実施の事業所

(オ)集団指導不参加の事業所

(カ)相当の期間にわたって、指導検査を実施していない事業所

※集団指導に参加しないと実地指導の可能性が高くなりますので、都道府県の開催する集団指導には必ず参加するようにしましょう。

 

(5)最後にコンプライアンス(法令順守)の優先順位

最後に介護事業を運営する上で認識しておかなければならない、法律の基本的な知識として、コンプライアンス=法令順守における優先順位のお話をさせていただきます。

ご存知のように日本国は法治国家です。法律により政府や国民の活動は制約を受けており、政府や個人が好き勝手に活動することはできません。

介護事業は国の厚生事業であり通常よりも多くの法律により活動の仕方に制限を受けます。

介護事業を営む人たちは当然その制限やルールを意識しながら事業を運営する必要があります。この業界で働くほとんどの人がそのことは理解していると思います。

しかし、この法律には重要度において優先順位があり、それを意識して働いている人は少ないのではないでしょうか。

現場からの声で、規定などが沢山ありすぎて、混乱するという話を聞きます。その結果よく見受けられるのが、あまり重要でないルールにこだわって、もっと重要なルールをおろそかにしてしまうというケースです。

仕事の進め方程度のルールと、日本国民として絶対に守らなければいけないルールを同じレベルで認識してしまっているケースさえあるのです(犯罪になります)。

介護事業にかかわる日本の法体系は大雑把に以下のような優先順位で構築されています。

① 憲法

② 国の法令(介護保険法)

③ 地方自治体の条例=各種基準(人員・運営・算定基準など) 

④ 各種解釈通知など

 

それぞれの法律の詳しい説明は省きますが、以下はそのレベルの法律に背くような行為をした場合のペナルティーの例を上げています。

 

① 憲法 → 逮捕・刑事罰(基本的人権の尊重など、実際の刑罰は法令によります)

② 国の法令(介護保険法など) → 逮捕・刑事罰・指定取り消し

③ 地方自治体の条例=各種基準(人員・運営・算定基準など) → 指定取り消し・報酬返還・介護給付の過誤調整・是正報告の提出

④ 各種解釈通知など → 介護給付の過誤調整・是正報告の提出

これはあくまで、一つの例ですが、優先順位の高い法律ほど背いた場合の罰は重くなります。

認知症の利用者をケアマネと訪問介護員が自宅に外から鍵を閉めて監禁してしまったケースでは、このケアマネと訪問介護員が逮捕されました。具体的には刑法の監禁罪にあたるのでしょうが、その基にある法律は憲法の基本的人権の尊重でしょう。

逆に、解釈通知程度のルールを守れないからといって逮捕されることはありません。

介護や医療・福祉事業に従事する方はまずこと法律のプライオリティー(優先順位)を意識することが大変重要です。

医師でさえも、基本的な人権を蹂躙する行為を、運営や処置上必要なこととして手を下してしまう場合があります。

「ならぬことはならぬのです」というレベルをまず知ることが、この業界で仕事をする上では大変重要でしょう。

 

実地指導の通知が来た時も、その対応としてこのレベルは意識されなければなりません。

まず優先順位が高い①~③について適切にできているかを確認するべきです。

憲法や介護保険法に具体的に当たって検証する必要はありませんが、常識として良くないことだと思えること(例えば不正請求や水増し請求など)が行われていないかどうかを、まずは意識すべきでしょう。

うっかりミスの過誤請求は返還で済みますが、やってもいないサービスを故意に請求する行為は、重大な罪になります。

事業所内でそうした不正行為に対して麻痺してしまっているケースが良くあります。「昔からそうしているから」などと重大な不正行為を見過ごしてしまっているケースも多いのです(三菱自動車やフォルクスワーゲンの不正はそれに当たるでしょう)。

このようなルールの優先順位の麻痺は重大な不正につながります。

④解釈通知などは運営の適正化というレベルです。実地指導で指摘されても、それはあくまで適切な事業所運営を目指した指導と受け止めるべきでしょう。

検査員は何も不正を摘発するためだけに来るのではありません。運営の適正化を通して、我が国の介護事業の質の向上をはかるために、毎日、事業所を巡っているのです。

日ごろ利用者さんに向き合いながら一生懸命に仕事に励むあまり、きちんと記録ができていなかったり、請求事務にミスがあったりするのはどうしようもないことだと思います。そうしたプライオリティーの低いルールは実際に指導を受けて適正化すれば良いのです。淡々と検査員の説明を聞いて修正すればそれで何も問題はないと考えましょう。

 

以上で訪問看護における実地指導・検査対策の説明を終わります。

実地指導・検査はプライオリティーの高い法律をしっかり守っていればあまり恐れることはありません。まずは人員基準などの各種基準についてしっかり確認することが重要でしょう。