訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その4

パートスタッフにとって居心地の良い職場づくり

 

前回の続きです。

 

パートスタッフは報酬の高さよりも居心地の良さを優先します。

 

【居心地の良い職場の指標】

4 自身の生活(子育てや家族)やライフスタイルとうまくマッチングしている

 

 パートスタッフは基本的に地元の人が殆どであり、地域の働きやすい職場で、長く定着して働くことを望んでいます。

 共働きの主婦など、子育てや家庭のことなど自分のライフスタイルにマッチした働き方が地域でできることが重要なのです。

 そのことを前提に、事業所運営をしなければなりません。

 

 なお、このことは正社員についてもある程度言えることです。また、パートから正社員に登用される道(主婦の場合は子育てが終わったらケアマネージャーとして働きたいなどのニーズがあります)があるとさらに良いと思います。

 

 介護事業所は、地域の職場として安定した就労環境を提供する義務があると考えてください。

 大企業などは都心に事務所を持ち、郊外から通勤する労働者により事業運営をしていますが、それはビジネス機会や給与などの面でそれだけのメリットがあるからです。

 また、若い労働者にとっては都会の華やかなオフィスで仕事をすることに憧れや、喜びを持っているかもしれません。

 しかし、介護事業はそもそもが地域密着の事業であり、都会に事業所を集中できるような性質のものではありません。あくまで、地域の人たちの手によって地域の人たちにサービスを提供する形態が事業の基本になります。

 

 ライフスタイルにマッチした職場(=居心地の良い職場)としての条件は以下のようなことがあげられます。

 

① 小さい子供を育てる主婦の場合、急な子供の病気に対応する必要があり、そのような場合、仕事を急に休むことができる。

② 保育園の送り迎えなどの時間が取れる(短時間勤務が可能)

③ 労働日や時間がある程度自由に選べる

④ 土日祝日は確実に休める(子育てをしている人にとって休日は子供の相手をしなければなりません)

⑤ 産休育休や病気休暇等の後でも復帰しやすい(そういうことが気軽に相談できる)

⑥ 旅行などに行きたい場合、長期休暇を取りやすい(リタイアした高齢者などには働きやすい)

 

 

仕事が人に合わせる職場づくり

 

 基本的には、労働者が家庭や趣味、そうした人生の中で優先したい事を優先しながら仕事ができる環境が望ましいと言えます。

 

 人生100年時代が来ると言われ始めました。そうすると人は80歳ぐらいまで働かなければならないと言われ始めています。

 これからは、今までのように、65歳までは仕事の人生、65歳からは余生というような分け方はできなくなるでしょう。

 おそらく、人が仕事に合わせるのでなく、仕事が人に合わせる必要が出てくると考えます。

 

 地域の職場としての介護事業所はそのように、仕事が人にあわせるような働き方ができる職場として、機能させることができると考えます。

 主婦や高齢の労働者にとってはそのような職場が望まれていると考えます。

 

 さて、仕事が人に合わせられるような職場づくりをするには正社員が活躍しなければなりません。パートスタッフがフレキシブルに働くためにはその穴を正社員で埋めるしか無いのです。

 

 つまり子供の急な病気で休まなくてはならないパートママの穴を、正社員でカバーできる体制作りが必要になります。

 そのため、先の「世話不足の悪循環」でも述べた通り、サービス提供責任者や管理者は現場にあまり出ず、そうした急なトラブルのカバーに回る必要があり、それが普通であるような職場作りが求められます。

 正社員がパートのカバーを柔軟にでき、お互いに助け合うような雰囲気が職場にできると、大変居心地の良い職場になると考えます。

 

 

5 肉体的・精神的な負担が少ない

 

 つまり、ストレスの少ない職場ですが、そのためには、個々の職員の職能や技術にマッチした仕事ができることが重要です。

 また、日頃から職員の健康管理について会社が支援する体制も重要になってきます。

 

 介護は肉体的にきつい部分がある仕事です。腰痛などにより離職を余儀なくされる場合もあり、体力のない人にとっては継続が難しい場合もあります。

 

 身体介護(移乗・入浴・排せつ介助など)は女性や高齢のスタッフにとっては肉体的な負担となります。パートスタッフにとって働きやすい職場にするためには、そうした肉体的な負担について、「できる・できない」を気軽に訴えることができる職場が居心地の良い職場でしょう。

 

 「○○さんの入浴介助は私には少し負担が大きい」と気軽に言えることが大切なのです。もし、頼まれた仕事が肉体的にきついのに、それを訴えられない雰囲気がある場合、そのスタッフはやがて辞めてしまうでしょう。

 まじめな人であればなんとか克服して、仕事を全うしようとするかもしれませんが、実際に腰を痛めるなどして仕事ができなくなれば結果は一緒です。

 

 精神的な負担は「世話不足の悪循環」でも述べた通りです。仕事の悩みはすぐに解消されるよう、気軽に相談できる体制が必要になります。

 

 健康管理については体力づくりや怪我の予防も含めて、本人任せにせず会社が支援することが重要になりますが、健康診断以外にどのような支援があるでしょうか?

 

 次回はスタッフの健康管理について解説します。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その3

前回の続きです。

 

パートスタッフは報酬よりも居心地の良さを優先する

 

 パートスタッフにとっての居心地の良さとは以下のような指標に集約されると考えます。

1 仕事への不安が無い、もしくはすぐに解消される

2 仕事に自信が持てる、適切に評価されていると感じる

3 良好な人間関係

4 自身の生活(子育てや家族)やライフスタイルとうまくマッチングしている

5 肉体的・精神的な負担が少ない

 

※この指標はあくまでパートスタッフの定着を意識したものです。正社員の場合はまた別の指標になるかと考えます。

 

 各指標について詳しく説明します。

 

1 仕事への不安が無い、もしくはすぐに解消される

 すでに述べたように、仕事に不安があると、スタッフは定着しません。特にその仕事が初めての新人の時期は不安でいっぱいです。パートスタッフの場合、自分がその職業に適しているかどうか不安に感じると、すぐに別の職業に移ってしまいますので、新人の世話はスタッフ定着への第一の要諦となります。

 

 不安解消に仕組みとしては以下のように整理できると考えます。

(1)何でもすぐに相談できる体制(詳しくは前回の記事参照)

(2)月1回のスタッフ会議、研修会の開催で疑問や不安の解消

※訪問介護の場合これにより特定事業所加算も算定できるようになります

(3)充実した利用者情報のファイリング(当然スタッフで共有)

 

2 仕事に自信が持てる、適切に評価されていると感じる

 仕事に自信が持てると継続してその職業に就いていくモチベーションとなります。これにキャリアアップの仕組みが組み合わされれば、一生この業界で仕事をしていく人材となるでしょう。

 幸い介護業界はキャリアアップの仕組みを充実させようと取り組んでいる最中です。介護給付的にキャリアが反映できるようになってくれば(例えば医療的ケアには別給付が出るなど)、パートスタッフのモチベーションも高まると考えます。

この指標を実現するためには、上述の不安解消の仕組みとともに、以下のような取り組みが必要になります。

(1)職業能力評価の導入

  厚生労働省では介護事業別の職業能力評価シートを作成しています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000093927.html

 簡単に説明しますと、年1回スタッフが自分の技術や能力について自己評価し、それに対して管理者などが評価する形式です。

 パートスタッフ用には少し細かすぎるので、評価項目を簡略化しても良いかもしれません。

 仕事の評価は、スタッフと管理者が個人面談により行うので、仕事に対する不安や疑問などを話し合う場にもなります。その際に、管理者はスタッフに自信を持たせ、目標に向かって仕事に取り組むように動機付けを行います。

 訪問看護についてはまだ国は評価シートを示していませんが、東京都が「訪問看護OJTマニュアル」の中で評価シートを示していますのでご利用ください。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kourei/hoken/houkan/ojtmanyual.html

 

 評価制度が導入できない場合でも、年1回、管理者とスタッフが個人面談をして、仕事の振り返りなどを行うことはとても有効です。

 

(2)仕事に対する興味を引き出し養成する仕組み

 新しい知識の獲得やキャリアアップの取り組みを支援する仕組みを作っていくと、自発的な自己研鑽につながります。

 具体的には、「資格取得費用の支給」「外部研修の受講」「参考図書やソフト、DVDの購入」などに対する金銭的な支援です。

 

 なお、評価制度の導入や資格取得・研修費用などについては補助金を利用できる場合があります。以下は厚生労働省の補助金です。社労士さんに相談すると申し込めます。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html

 介護実務者研修や介護福祉士の受験費用については、各自治体で補助金を出している場合がありますので問い合わせてみてください。

 

3 良好な人間関係

 職場での人間関係は退職理由の上位に来る指標です。

 筆者が東京都で人事の仕事をしている時、新入職員などの研修で以下のようなガイダンスをしていました。

 

 【入職時の心得】(3か月は無理をしない原則)

(1)入職後3か月は無理して仕事をしようとはせず、上司や先輩に言われたことを淡々とこなすこと。

 職場では入職したばかりの新人スタッフの仕事にほとんど何も期待していません。使い物になるようになるまでは1年程度必要だと考えています。従って周りの期待に応えようとして無理をして仕事をする必要は無いのです。

 無理をすると失敗します。失敗すると自信を失います。自信を失うと仕事が楽しくなくなり、職場に行くのが苦痛になるという悪循環に陥ります。

 

(2)入職後3か月は無理に人間関係を密にしようとしない

 人間関係は自然に形成されるものです。職場になじもうとして無理に周りと仲良くする必要はありません。少々、さみしいかもしれませんが、周りにいる人たちがどのような人なのか分からない時点では、無理に仲良くしようとすると逆に関係をこじらせたり、傷ついたりする場合があります。

 入職後3か月は、周りの人間関係をじっくり観察するようにしてください。どの人がどのような性格で、誰と誰が仲が悪いとか、誰が嫌な奴だとか、そうしたことが見えてくると、自然と人間関係は形成されていきます。

 この先輩はなんで自分をいじめるのだろうという人がいたとします。そういう場合は悩んだりせず、右から左に流すようにします。3カ月もするとその人は他の人からも嫌われていることが分かったりします。

 

 新入社員の多くが3か月以内に辞めてしまうというデータがあります。

 新人はすでに形成されている複雑な人間関係の中に一人で放り込まれるわけですから、その環境に慣れるにはそれなりの時間がかかるのです。

 そのことをしっかり認識して、3か月は人間関係のことは考えず、ただ傍観するようにするのが、うまく環境になれるコツです。

 

(3)入職後3か月は分からないことは何でも聞く勇気を持つ

 馬鹿にされたくないとか、恥ずかしいとかいう気持ちは、新人は持ってはいけません。

 何でも聞けるのは新人のうちだけです。明るく元気に何でも聞く勇気をもって過ごしてください。

 

 以上、これは新入社員向けのガイダンスですが、パートスタッフにも当てはまることです。採用時に上記のようなガイダンスをしてあげることで、入職の際のストレスはだいぶ軽減されるでしょう。通常3か月勤務できれば、その後も継続的に勤務できると考えます。

 

 【トラブルメーカーへの対応】

 正社員などで、パートスタッフをいじめてしまい、辞職に追いやるようなタイプの人がいます。これには対策が必要です。

 訪問系のサービスの場合パートスタッフが定着することが収益につながることを、しっかり理解させましょう。

 さらに、正社員の仕事はパートスタッフに安心して仕事をしてもらえるように世話をすることだということを理解させなければなりません。

 訪問系の事業ではパートスタッフの世話ができない正社員は評価が下がることをきちんと説明することが大切です。

 

 

 次回はこの続きです。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その2

スタッフ世話不足悪循環

 

 サ責や管理者が現場に出ずっぱりの事業所の場合、訪問スタッフが現場で対応に困った時、すぐに携帯電話で相談したくてもサ責や管理者が携帯電話に出られない状況がよくあります。

 

 自分一人で対応できない場合、適切な相談と指導が受けられず、スタッフは途方に暮れてしまうかもしれません。新人スタッフであればそれが原因で職場を辞めてしまうこともあると考えます。

 

 現状では、人手不足で、サ責や管理者がサービスに出なければ、とてもご利用者の対応ができないという事業者が多いのではないかと考えます。

 深刻な介護人材不足がそのような状況を作り上げているのですが、場合によっては収益率を上げるために、責任者が現場に出なければならないという事情もあるかもしれません。

 

 しかし、これがスタッフが定着しない悪循環を作り出します。

 筆者はこれを「スタッフ世話不足悪循環」と呼んでいます。

 

【スタッフ世話不足悪循環】

人手不足(又は収益増圧力)→責任者が現場に出ずっぱり→スタッフの世話ができない→スタッフの不安増幅→スタッフが辞めてしまう→スタッフが定着しない→人手不足

 

 

 

訪問系スタッフが安心して働けるようにするためには相談指導体制の構築が重要

 

 まずは、なんとかして【スタッフ世話不足悪循環】から抜け出さなければなりません。

 そのためにはサ責や管理者の訪問回数を減らすのですが、それなりの覚悟が必要になると考えます。

 

 新規利用者のアセスメントやサービス担当者会議などで、まったく外に出ないことは不可能ですが、朝や夕方などサービス利用の多い時間帯、新人スタッフが単独で業務に入っている時や、困難ケースなどでトラブルの発生が予想される場合など、連絡が入ってくる可能性がある時間帯だけでも、できるだけ電話に出られるように工夫することが必要です。

 もしも、サービス提供責任者が複数在籍していたり、サービス提供責任者でなくても利用者情報に詳しいベテランのスタッフなどがいる場合は、シフトを工夫して、相談を受けられる誰かが必ず事務所で待機できるように体制を整備すると良いと思います。

 

 また、特に新人スタッフに対しては仕事に自信が持てるように、仕事の不安を払しょくできるような相談指導体制を作ることが重要かと考えます。

 事業所の中堅以上の職員はそのことを強く意識しながら新人スタッフに当たるように事業所内のコンセンサスとして確立したいものです。

 

 

気軽に相談できる雰囲気作り

 

 新人スタッフの世話では、管理者やサービス提供責任者だけでは目が行き届かない部分もあります。そのため、在籍するスタッフが全員、新人の相談に積極的に乗れる組織作りができると良いと思います。

 

 単独で仕事をしている訪問系サービスの場合、どうしても他人の仕事に無関心になりがちです。気軽に誰にでも相談できる雰囲気作りをするために、スタッフが溜まりやすい休憩場所や事務仕事を共同でできるような事務室を作るのも良いでしょう。

 

 

相談指導体制の整備には情報共有体制の整備から

 

 訪問介護の特定事業所加算ではスタッフが利用者情報を共有することが求められていますが、訪問系サービスでは、この情報共有体制の構築が相談指導体制を充実させるための要件となってきます。

 

 もしも、現場のスタッフからSOSの連絡があり、事務所に他のスタッフがいて、そのスタッフが実際にその利用者に直接サービスを提供したことが無くても、利用者について少しでも情報があれば、完璧でないとしてもなんとか対応が取れる可能性があります。

 

 事務所にいるスタッフが利用者ファイルの介護経過やアセスメントなどにより状況を把握し、スタッフ同士で話ができることは、現場スタッフにとって非常に心強いことでしょう。一人で現場で悩むよりもずっと安心感があります。

 

 

情報共有体制に必要な利用者ファイル作り

 

 スタッフが悩んだ時、利用者ファイルを見ればヒントが見つかるようなファイル作りが必要です。

 そのために、利用者ファイルにはあらゆる情報ファイリングしておくことが大切になるでしょう。

 サービス提供責任者は現場からの利用者情報を逐一吸い上げ、ファイリングすることが重要です。サ責の第一の仕事は詳細な利用者情報のファイリングと言っても良いほどです。

 そのため、個人ファイルの最初になんでも書き込める用紙をファイリングしておくと良いと思います。記事とともに日付と記入者を必ず書いておきます。

 

 

現状ではネットやクラウドなどでは詳細な情報蓄積は難しい

 

 ネットを使って利用者情報を現場でもスマホなどで見られるようにすることは情報共有のための方法として有効でしょう。

 しかし、紙のファイルとネット上の情報が二つある場合は、情報が分散し、現場で必要な情報が手に入らない場合がありますので注意が必要です。

 

 現状では、スタッフ間でネットで情報伝達をしたとしても、最終的には紙のファイルに一元集約し管理したほうが効率的に情報管理ができるのではないかと考えます。

 

 ネットでの一元管理するためには、利用申込書からアセスメント、診断書や保険証、薬剤情報などもすべてデジタル化してネットにアップする必要があります。作業が煩雑ですしデジタルスキルに秀でた人でないとなかなか管理ができません。

 

 利用者に関する情報はメモも含めてすべてファイリングするやり方が、今のところもっともすぐれた情報共有方法だと考えます。

 

 

効率的なスタッフ会議の開き方

情報共有及びケアカンファレンスとしてのスタッフ会議はスタッフ間の連携を密にする意味でとても有効です。開き方については前回の記事をご覧ください。

 →訪問介護「特定事業所加算」で必要なスタッフ会議の進め方

 

 

次回はパートスタッフの定着術についてもう少し詳しく説明します。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その1

 

 

現状では訪問系サービスの収益アップにはパートの活用が肝

 

 訪問介護や訪問看護事業では、正社員によりサービス提供するよりも、登録のパートスタッフにできるだけ仕事をしてもらった方が事業収益上プラスになります。

 

 地域や加算により違いますが、例えば身体2(1時間以内)で約4,000円の給付がある場合、パートスタッフであれば人件費が時給換算で1,500円から1,800円といったところでしょう。

 

 しかし、社員の場合、1日、5時間程度訪問サービスができるとして、単純計算で

 一月100時間×4,000円=400,000円の収益になりますが、社会保険や賞与、必要経費を考慮すると人件費としては300,000円程度が必要になると思いますので、収益率はパートスタッフより少なくなります。

 

 これは訪問看護でも同様のことが言えます。

 つまり、訪問系の介護サービスの場合、現状ではパートスタッフが増えた分だけ、収益率が増すビジネス構造となっています。

 

 

しかし労働環境の流れはパート→正社員化?

 

 もちろん、パートスタッフが増えることはサービスの質の低下につながる場合もありますので、きちんとした研修や指導が必要です。そうした質の低下をさせずに、パートスタッフを獲得し定着させることが、今のところ訪問系事業所経営の要諦となっています。

 

 しかし、国は非常勤や契約労働者の正社員化を目指して労働政策を進めている傾向があります。一方で、主婦や高齢な労働者の中には正社員よりもパート労働者として働きたいというニーズもいまだ強く今後の労働環境の方向性は不透明です。

 

 主婦の場合、夫の扶養範囲や所得税控除、社会保険加入の関係でパート労働の方がメリットが大きかったりしますので、年収100万円程度に収入を押さえたいというニーズも強くあります。

 

 とはいえ、人口減少社会の中で、国は年収制限を撤廃して労働力を確保したい方向です。これに対し、主婦やパート労働者に頼っている業界などのからの反対は強く、綱引きが続いている状況です。

 ファミレスやスーパーコンビニなどの業界では、パートスタッフがいなくなれば根本的にビジネスモデルを変えなければなりません。この点は訪問系介護サービス業界も同様のことが言えるでしょう。

 

 パート労働者の扱いがどうなるか注視していく必要があります。

 

 

今後は柔軟な就労環境の構築が重要

 

 筆者は、いずれパート年収上限の撤廃がありえると考えています。

 しかし、もしも、パート年収上限を撤廃し、仮にすべての訪問介護員を正社員化するのであれば、訪問介護給付は今より20パーセント程度増加させなければならないと考えます。

 そうしなければ、事業者の撤退が相次ぐでしょう。介護保険制度の訪問介護サービスは継続できず、日本の在宅介護は崩壊します。

 

 日本のパート労働者を正社員化するためには、日本の労働者全体の賃金の上昇を前提としなければならないと考えます。

 

 20パーセントというのは、具体的には身体2(1時間以内)であれば5,000円程度の給付です。そうすれば、訪問介護員の給与は今のケアマネージャー程度になり、共働きの既婚女性などが働きやすい職業になると考えます。

 

 蛇足ですが、そもそも、ケアマネージャーよりも訪問介護員の方が給与が安いという考え方はそろそろ変えた方が良いのではないかと考えています。

 家事援助が別のサービスに移行し、訪問介護員は身体介護や医療的ケアなど高度なサービスに特化すれば、20パーセントの賃金上昇は吸収できるのではないでしょうか。

 

 訪問介護のサービス内容の高度化と給付上昇を同時に行えば、訪問回数が減りますので、スタッフ不足も解消するかもしれません。正社員化しても日本の訪問介護サービスがとん挫することは避けられるでしょう。

 

 とはいえ、現状のビジネスモデルとしてはパートスタッフを活用するべきですし、訪問系の事業者としてはパートさんを確保し定着させる方策に取り組まなければならないと思います。

 

 また、パートさん獲得定着の取り組みは、正社員の獲得定着の取り組みにも繋がります。今後は、週休3日制や短時間正社員などの制度が整備され、多様な働き方ができる社会になってくると考えていますので、労働者のライフスタイルに応じた柔軟な就労環境の構築がスタッフ獲得の肝となってきます。

 

 

 

訪問系スタッフは不安を感じやすい

 

 それでは現状でのスタッフの獲得定着について、何が重要なのでしょうか。

 

 通所介護や施設サービスと異なり、訪問スタッフは概ね一人で利用者を訪問し、サービス提供をしなければなりません。

 サービス提供責任者や管理者が同行訪問し指導をしますが、最初の方だけです。

 一方、ご利用者の状態は日々変化するものであり、その変化に対応した適切なサービスを提供することが求められますので、訪問介護員や訪問看護師はそれなりの知識と技術が必要となります。

 

 しかし、知識や技術がしっかりしていても一人では対応に悩むことは当然あります。施設など複数でサービス提供している現場であれば、その場で他のスタッフに相談し、対応することができますが、一人ではそうもいきません。当然、仕事に対する不安を抱えることになります。

 

 一人前の訪問スタッフとしてご利用者宅で不安を抱えずに仕事ができるようになるためには、場数が必要ですし、育成にはきめ細かい指導が必要になってきます。そうでなければ、スタッフはずっと不安を抱えたまま働くことになり、職場の定着率は低くなります。

 

 スタッフの定着にはこの不安をいかに解消し、安心して働けるようにするかが重要となります。

 

 次回は訪問系スタッフが安心して働ける職場づくりについて紹介します。