訪問介護職の賃金アップ術2-「在宅型サ責」の働き方

1 現場中心の働き方─事業所への出勤は原則無し

 

① 事業所に出勤するのは、月数日程度

 ◎自宅から訪問先に直行直帰の就業形態が基本です。月に数回、事業所の研修やカンファレンス、事例検討会などのために、事業所に出勤します(特定事業所加算の要件になります)。

 研修はリモートでも可能ですが、できれば月に1回ぐらいはスタッフが顔を合わせて直接フリーな意見交換の場を設けた方が、仕事のガス抜きにもなり健全であると考えます。

 ◎できれば資格は介護福祉士以上、訪問介護実務経験3年以上

 

② 業務管理・情報共有はIT機器を活用

 ◎アセスメント・訪問介護計画書・サービス提供記録等は電子化(保存管理も)。

 ◎自宅に業務用PC(ファックス受信ソフトインストール)とプリンタ(スキャナ機能のあるもの)を支給設置(自宅に事業所機能の一部を整備)

 ◎訪問にはタブレット(通信SIM付)を携行。利用者のサインはタブレット入力でもOK。

 ◎訪問介護の提供記録ソフトにはGPS機能により、訪問実績が記録できるものを利用。

 ◎紙の使用は利用者交付するもの以外、最低限に抑える。

 

③ 営業・利用者獲得は自ら行う

 ◎ケアマネージャーからの業務依頼を直接受けられるようにする。事業所には事後報告(システム入力による)。

 ◎訪問日調整も自己完結で行う。

 ◎研修を徹底する。(就職後6か月間は同行スタートアップ研修。その後毎月1回)

 ◎事業所はサービス品質の評価を行う。利用者への満足度調査をネット経由で行えるように工夫する。認知症など判断が難しい利用者に対しては、3か月に1度、事業所の別の担当者がモニタリング訪問を行う。

 ◎担当サ責が急病や休暇などにより、訪問ができない場合は、事業所がフォローアップする(他の在宅型サ責に仕事を回したり、事業所管理者や他のヘルパーが対応できるようにする)。

 

④ その他移動手段など

 ◎訪問先への移動手段は、車・自転車・徒歩など選択自由。ただし、事業所の加入する損害保険でカバーできるようにする。駐車料金などは各事業所規定で決める。

 ◎折り畳み電動キックボードの活用

 都会や半径5キロ以内程度の比較的近距離の移動に向いている。

 訪問先で折り畳んで玄関などに置かせてもらえれば、駐車・駐輪禁止の場所でも利用が可能。駐輪場がいらない。電車に持ち込み可能。機動力は電動自転車並み

 

2 在宅型サ責の給与概算

 

 ≪東京都の場合≫

 給付:身体介護1時間:5,000円

 稼働時間:1日5時間程度訪問

 稼働日数:月20日稼働

 

  5,000円×5h×20日=500,000円

 

  • 事業所の取り分:20%=100,000円
  • 在宅サ責の収入:400,000円(年収:4,400,000円)

  ※年収440万円は日本人の平均年収。特定処遇改善加算の対象者。

 

 これはあくまで、週休2日で残業が無い労働状況です。

 サ責本人が働きたければ、土日や夜間の訪問を増やすことで、さらなる収入アップが図れます。つまり、稼ぎたい人は自ら仕事を増やすことが可能になります。逆に子育てなどで仕事を少なくしたい人はライフワークバランスを図れます。

 

3 事業所の役割

 事業所はマネージャー(管理者)として在宅サ責の仕事のマネジメントが仕事になります。

たとえば、見境なく利用者を獲得して無理な長時間労働をしているサ責がいればブレーキをかけなければなりません。

 

 また、就職当初は、担当利用者はいないですから、収入を保証する必要があります。

 例えば、就職後、半年程度は固定給にし、事業所付きのサ責として、フォローアップ要員として動いてもらうのも良いでしょう。

 その際に同行スタートアップ研修を徹底し、サービス品質を保証する必要があります。

 

 残業無し、週休2日で年収440万円を保証できれば、一般企業の賃金に十分対抗できます。また、男性で稼ぎたい人にも対応できますので、人材確保がしやすいでしょう。

 

★この就労システムの肝は事業所のマネジメント力です。

 いかにIT技術を駆使して業務管理、サービス保証ができるかがポイントになります。

 

 なお、この事業モデルはケアマネ事業所にも応用できます。

 但し、ケアマネの場合、担当利用者に上限があるのと、障害福祉は担当できないので給付を伸ばせません。訪問介護ほどダイナミックに給与を上げることは難しいかもしれないですが、給与は増やせなくても余裕のある就労環境を提供できますから、人材確保には大変メリットがあると思います。

 

4 2023年以降もさらなる人材不足が

 

 欧米諸国の金利上昇、それに伴う円安、輸入価格の上昇により、日本の物価は今後も高くなる予想です。これに対し、各企業は労働者の賃金を加速させています。

 この労働市場環境は介護・福祉業界にとって非常にキツイ状況です。

 ただでさえ、一般企業との賃金格差が大きく、人手不足が恒常化している状況に、他企業のさらなる賃上げによって、労働者は介護職に集まらなくなっています。

 特に賃金の高い都市部において深刻です。介護が受けられない介護難民がさらに増加することが懸念されます。

 

 現状では大幅な給付の上昇は見込めません。介護・福祉事業者はIT技術の活用と就労環境の改善でこれに対抗するしか術はないでしょう。

 

虐待・身体拘束の実態について その3(虐待防止になる記録のとり方)

 

 

 今回は現場で身体拘束や虐待が起こらないようにするためにどのような取り組みが必要なのかを考えてみたいと思います。

 

記録は防衛手段

 

 前回、介護が事故や訴訟のリスクを抱えた仕事であることを述べました。

 まず、経営者や管理者がそのことを踏まえたうえで行動していくことが大事だと筆者は考えます。

 

 認知症の利用者が動き回るからと言って、身体拘束して事態を収拾しようとするよりも、動き回る状態でいかに介護するかを考えなければいけません。それにより転倒事故が起こったとしてもその事態を受け入れて、対応する方が事業へのダメージは少ないのです。

 

 しかし、それには条件があります。

 それは記録を適切に残しておくことです。

 適切な記録がなく事故が起こった場合、その事故の原因を行政や国保連などの第三者機関が客観的に把握することができません。結果としては事業者の責任が重くなってしまう場合もあります。

 

 裁判になった場合、記録による証拠が不確かであると、事業者にとっては不利になります。

 日頃から客観的な事実を記録に残し、第三者が見てすぐ理解できるようにしておけば、その事業所の記録は証拠としての信頼性が増します。結果、事業者にとって有利に働くことになります。

 

困難ケース記録が虐待を防止する

 

 介護記録は日々の仕事としてルーチン化しており、バイタルや食事・活動記録などは日ごろから記入することが習慣化していることと思います。

 これがまず前提となります。

 そうした日頃の記録の積み重ねが、事業所の記録の信頼性を高めますから、これらのルーチンワークを怠ってはいけません。

 その上で、事故の可能性がある利用者(例えば転倒の危険性があるのに勝手に動き回る利用者など)困難ケースの記録を取って行くことが大切で、これが虐待を防止する結果にもなります。

 

困難ケース記録のとり方

 

 安全の確保が難しい、又はなんらかの事故が予想される利用者に対してサービス提供をせざるを得なくなった場合、管理者などの判断により、日頃の記録とは別に、困難ケース記録を記入するようにします。

 

 様式は特にありません。白い紙や専用のノート(「困難ケース記録ノート」等)に記入しても良いでしょう。

 記録に必要な事項は以下のようになります。

 

 ①利用者氏名

 ②困難ケース記録を開始した経緯  

  ※なぜこの記録を取るようにしたのか。安全の確保できない、またはなんらかの事故が予想されることを具体的に書く。

 ③問題が発生した日時

 ④問題が発生した場所

 ⑤どのような問題が発生したのか

 ⑥対応方法

 ⑦対応者

 ⑧記録者

 ⑨事後の対応・経過(必要に応じて)

 ⑩写真などの証拠物件の存在(必要に応じて)

 

 この記録は当然ながら、外部に見せることを前提に書かなければなりません。行政やご家族が見ても信用してもらえるように、具体的に客観的に書く必要があります。

 介護者の主観や苦情じみた書き方は客観的な記録では無いので、第三者に対しては信頼性を損なう結果になります。

 

記録は正直に書かなければならない

 

 さらに、利用者の問題行動に対して職員が不適切な対応をしてしまった場合は、それも隠さず記録する必要があります。

 職員のミスは職員のミスとして別に対処すればよく、別に業務日報などにその事実を記載し、改めてその職員の指導を行うようにします。

 

 困難なケースですからすべての職員が適切に対応することは難しいことです。ミスが起こる可能性も高くなります。それを前提にサービス提供する腹積もりが必要なのです。

 

 最終的に、事業所がこの困難ケースに対して何とか対処しようとしている様子がこれらの記録から読み取れれば、記録は成功と言えます。

 

組織的な対応の重要性

 

 基本として虐待や身体拘束の誘惑にかられるようなケースが発生した場合は、まず事業所全体で対応するようにします。

 管理者や責任者はスタッフからのそのような情報発信に敏感でなければなりません。

 

「誰それ(利用者さん)がなかなか言うこと聞かなくて・・・」などというちょっとしたボヤキ発信を敏感にキャッチできるようにならなければならないのです。

 たとえば利用者の自室で一対一でサービス提供するような施設や訪問介護などの場合、そのスタッフが密室で何をしているのか分かりませんから、スタッフがケアに困難性を感じていたり、苦労している場合は早急に救援の手を差し伸べてあげる必要があります。

 それを放置しておくことで、虐待や身体拘束は発生します。

 

 困難ケースの記録を取ることで、介護職員の資質の向上に役立つことは言うまでもありませんし、事業所で話し合いながら対応することで、事業所のサービス能力も上がります。

 

 難しいご利用者はみんなで対応して、記録を取る。

 

 それにより安易な身体拘束や虐待は減らしていけると考えます。

 

 

 

 

虐待・身体拘束の実態について その2

 

 

スタッフが虐待や拘束だと思っていない問題

 

 身体拘束は、介護保険の指定基準上、

「当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するための緊急やむを得ない場合」

 のみ認められています。

 いわゆる「切迫性」「非代替性」「一時性」の三つの要件を満たし、かつ、それらの要件の確認等の手続きが極めて慎重に実施されているケースに限られています。

 

<三つの要件を今一度確認>

◆切 迫 性

利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと

◆非代替性

身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと

◆一 時 性

身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること

 

 さらに「身体拘束廃止委員会」等のチームで検討、確認し記録しておくことが必要になります。

 多くの介護従事者は、こうした原則を研修などで教えられています。それにもかかわらず、グレーゾーンの拘束や不適切なケアが行われてしまうのは、それらの行為を拘束や虐待だとと認識できないからでしょう。

 

 

自分がされたら嫌なことをしないという感覚

 

 グレーゾーンや不適切なケアは、例えば、人であれば「自分がされれば嫌なこと」であるという、素朴な感覚が欠如しているところから生まれていると思います。

 この「嫌なことはしない」という感覚は、「介護する上で仕方がない」という感覚により覆い隠されてしまいます。また「安全のために」であるとか「人手が足りない」という感覚が優先してしまいます。

 介護や医療の現場では「身体拘束は、安全確保のためにやむを得ない行為である」という根強い考え方があります。

 

 利用者が勝手に動いて行方不明や転倒事故を起こすと困るので、車いすに座らせておく、あるいは自分で立ち上がれない低い椅子に座らせておく。利用者が立ち上がろうとしても、無言で肩を押さえ込むなどは、その施設の介護のあり方そのものが問われるべき行為でしょう。

 

 

家族が虐待を要請する

 

 一方で、家族が虐待的な行為を要求をする場合もあります。

 そうした家族との対応に疲弊した職員は、本来は利用者のために行うべき介護を、家族からの苦情がない介護に切り替えてしまいます。

 その結果、本人の安全確保という名目による身体拘束が横行することになります。

 

 デイサービスで、認知症の利用者の家族に「危ないので立たせないようにしてください」とお願いされたとします。

 認知症介護の知識が浅い介護者の場合、その要請を守ってサービス中に立たせないように努力してしまいます。

 

 また、身体拘束を許容する理由に、「本人もしくは家族の同意を得ている」ことをあげる施設が多くあります。しかし、家族の同意があることが拘束をしていい理由にはなりません。

 転倒や骨折、点滴やカテーテルを抜いてしまうことを心配し、また、職員に気兼ねをして家族自ら身体拘束を申し出るケースもあります。

 その場合も、施設は家族の希望を理由に身体拘束はできません。

 

 先ほどのデイサービスの例でいえば。「本人の意に反して椅子に座らせたまま、立たせないようにすることは、身体拘束にあたり虐待になります」と家族にきちんと説明する必要があります。

 その上で、身体拘束の三原則を説明し、介護職の責務であると理解してもらわなければなりません。

 

 

 

安全確保には限界がある

 

 それでも家族に

 「立って歩いて転倒して骨折したらどうするんですか?」と食い下がられた場合、

 「転倒しないようにケアします」「私たちは介護のプロなので転倒はさせません」ときっぱり言いましょう。

 また、そう言えるほどのプロ意識を持たなければなりません。

 それでも、転倒して骨折した場合は、素直にお詫びをして保険などで誠意のある対処をする覚悟が必要でしょう。

 

 椅子に座った利用者が立ち上がり、転倒して骨折した場合、どの程度、施設に管理責任を問われると考えますでしょうか?

 私の知る限り、人員基準や設備基準をきちんと満たし、不適切なケアを行っていないのであれば、民事や刑事で業務上の責任が問われたという話は聞いたことがありません。

 

 

リスクを内包した仕事であると腹をくくる

 

 介護や保育・医療では事故はつきものです。

 そのために保険に加入して仕事をしています。

 医師の10%が診断や治療ミスなどに関する訴訟を起こされた経験があるという調査があります。

http://economic.jp/?p=31020

 医師とはそうした訴訟リスクを内包した仕事なのです。

 医療ほどで無いにしても、介護もそのリスクを踏まえて仕事をする必要があります。

 

 原則は、利用者の尊厳は、身体拘束に優先するということです。

 「されたら嫌なこと」は利用者の尊厳を傷つけていますので、グレーゾーンの身体拘束も行ってはいけません。

 

 さらに、経営上のダメージを考えた場合、

 介護事故よりも虐待の発覚の方がはるかにダメージは大きいと言えます。事業を継続できなくなる場合も多いでしょう。

 

 そして、グレーゾーンの身体介護や不適切なケアを日常的に行っている事業所は、虐待に対する感受性が鈍くなっていますので、いずれ重大な事件を起こす可能性を孕んでいると考えるべきです。

 

 次回は身体拘束をしないための記録の在り方について考えます。

 

 

 

 

虐待・身体拘束の実態について その1

 

 相変わらず介護現場における虐待や殺人などのニュースが相次ぎます。

 

 施設などの虐待・身体拘束の実態について、平成29年 3 月、特定非営利活動法人地域ケア政策ネットワーク介護相談・地域づくり連絡会より「身体拘束及び高齢者虐待の未然防止に向けた介護相談員の活用に関する調査研究事業報告書」が発表されました。

http://kaigosodan.com/web/wp-content/uploads/2017/04/3178381c5e8a416f86389cb92a65da74.pdf

 

 こちらは平成27年に全国の現在活動中の介護相談員 4,680 名を対象とした調査の結果です。施設介護現場における身体拘束や虐待の状況が赤裸々に報告されています。

 

 こちらで報告されている虐待や身体拘束の実態は、施設等の運営面で非常に参考になると思いますので、ピックアップしてご紹介します。

 職員研修などで活用いただければと思います。

 

 

虐待・身体拘束のグレーゾーン

 

 この報告書には、相談員たちが見聞きした身体拘束や虐待の中で、いわゆるグレーゾーンと考えられる、完全には虐待・身体拘束とは言えないが、場合によってはそれになりうるという状況の報告が多くあります。

 

 こうしたグレーゾーンの多くは、あまり意図的では無く、通常の介護業務として施設の中で日常化している部分があります。

 職員はそれが好ましくない行為だとわかっていない場合が多いようです。現場でこのような行為が見られる場合は是正するべきだと考えます。

 

 例を挙げると以下のような行為です。

 

  • 車椅子のタイヤの空気抜き。一杯入っていると走りすぎて危険であるので。
  • 体調不良の利用者の掛け布団の端を洗濯ばさみではさみ、鈴を付けている。
  • 動きが分かるように利用者(くつ・腕・椅子・掛け布団の足元)に鈴を付けている
  • すぐ立ち上がろうとする入所者の椅子にブーブークッションと椅子の背の足元に鈴とタンバリンがつけてあった。
  • 車イスの背もたれに、センサーが付けてある。立ち上がろうとするとセンサーが鳴り、職員が走って来て、座るようにうながしていた。
  • 転倒防止のセンサーが車イスについている。コール音もひんぱんに鳴り、人によりちがうメロディーの音量も高い
  • 利用者の居室外側のドアの取手がとりはずされている。
  • 出入口(玄関近く)に鍵をかけている。
  • 利用者のフロアーのドアに施錠がされており、開閉には暗証番号が必要であり、職員しか操作できない。
  • 認知棟の居室に他の利用者が入れないように、ベルトでドアをしばっていた。
  • ベッドから落ちたがナースコールの設備が無く、巡回も無かったため、朝まで床に転がっていた。
  • 夜間排せつの回数が多いと怒られ今は紙おむつを使用している。
  • いつもは個浴なのに文句を云う、うるさいからとの理由で2ヶ所ベルトの機械浴で入浴。

 

 

不適切な介護

 

 続いて、同じように虐待・身体拘束につながる可能性のある「不適切なケア」の実態について以下のように報告しています。

 

  • 動き出しそうな人には、低いソファに座わられる事によって自力では動けない体勢にしておく。
  • 毛布にカウベルのような、大きな鈴が毛布に付けてあった。夜中、用事があるときに音をならす。
  • 階段の入口に 2 重にソファを置いて使用しにくくしていた
  • 個室のドアに「のぞき窓」がついている。
  • 事務室から利用者の動きがわかるようにフロアーに監視カメラが設置されていた。
  • 目の前でどんぶりにハサミを入れうどんを切る
  • 認知症の方が、口を開けないからと、鼻をつまみ食事介助した。
  • 食事の介助をする際に言葉かけをせずに複数の利用者の口に順番に自動的にスプーンで食物を入れている。
  • 注射器のような物で、無理やり食事を口に入れる。
  • 食事の際、ごはんに薬を混ぜている。
  • 入浴後バスタオル1枚かけたまま廊下を移動。肌が、露出したまま。
  • 浴室前の脱衣室のドアを開けたままで着替えさせている。
  • 入浴時、裸の状態で順番を待っている。
  • 尿意はあるが、紙おむつをつけている利用者が「おしっこ出た」と訴えても「時間じゃないから…」と交換してくれない。
  • 「おしっこ」と職員にうったえるも「おむつをしているのだからそこにして下さい」と返答した。
  • 他の利用者が居るホールのベッドでのおむつ交換
  • トイレの願望がある入居者の方に「次は何時です」と言ってすぐにトイレに連れて行かない
  • トイレ介助の時、ドアを開けたままで、長時間、利用者を放置している。
  • 「夜は紙オムツを3枚もはかされて動けない。飲食は夕方6時から朝まで取れないからお腹は空くし喉は乾くし大変だ」との訴えがあった。
  • 利用者さんが職員に声をかけているが聞こえてないのか無視して何度も素通りしていた。
  • 足の爪が伸びて隣の指にくい込んでいた。利用者が痛いと訴えるまで放置。
  • 「ちょっとまっててね」といったまま対応しない。
  • 車イスを押すスピードが速い。
  • 車椅子歩行の人が多く、車椅子から椅子への移乗はほとんどしない。
  • 食後の口腔清拭入れ歯を出し乱暴にいきなりゴム手にガーゼをまき、清拭した。
  • 男女が同室。
  • 廊下の手すりにエプロンを干してあり、利用者さんが手すりを安心して使えない。
  • トイレの介助時新人指導の為と4人程で介助。
  • 早朝トイレ誘導の為4時前に起こされる。
  • 車椅子(2台)を一緒に両手で移動して、部屋から食堂に移している。
  • ショートステイの人で、家では自立歩行でトイレに行けるが、施設では車椅子が基本で、これでは歩けなくなる、と訴えがあった。

 

 職員は、利用者の安全を考えてであったり、家族から同意を受けてこのような行為を行っている場合が多いようです。しかし、いくら家族から同意を受けているとはいえ、このような行為は利用者の尊厳を傷つけていると考えなければなりません。

 

 次回はもう少し詳しくこの問題について考えます。

 

 

 

初の認定介護福祉士が誕生

 

 4月21日、認定介護福祉士認証・認定機構は、初の認定看護師が11名誕生したことを発表しました。

http://www.nintei-kaishi.or.jp/home/

「認定介護福祉士認証・認定機構 HP」

 

 

現場実践力を評価される認定介護福祉士

 

 筆者は介護福祉士の給与は、夜勤などをせずとも、現行のケアマネージャーレベルになるべきだと考えています。そうでなければ、将来にわたって日本の介護福祉は維持できないと思います。

 

 これまでの介護業界のキャリアアップの仕組みは、介護福祉士を経験した後、ケアマネージャーになることが、一つの道でした。

 しかし、直接現場で接する介護職のレベルが上がらなければ、利用者ニーズに的確に応えられないという現状があり、現場実践力のある介護福祉士の必要性が従来から訴えられていたところです。

 

 認定会福祉士ができたことで、現場実践力が評価され、キャリアアップの道筋が一つ増えたと考えたいのですが、今後この資格がどのように機能し、処遇などの面でどのように評価されていくか、注目されるところです。

 

 

認定介護福祉士とは

 

 認定介護福祉士は、能力の高い介護福祉士を認定し、その現場実践力を通して、介護課題の解決やスタッフの指導・連携、地域の介護力アップの仕事に当たれるようにしようとするものです。具体的には以下のような能力が必要とされています。

 

 

Ⅰ 十分な介護実践力

 

①リハビリテーション等の知識を応用した介護を計画・提供でき、利用者の生活機能を維持・向上させることができる。

 

②認知症のBPSDを軽減させることができる。

 

③障害特性に応じた介護が提供できる。

 

④心理的ケア、終末期ケアを実践できる。

 

 

Ⅱ 介護職の小チーム(5~10名)のリーダーへの教育・指導、介護サービスのマネジメントを行う力

 

①介護職の管理・運用を行い、介護サービスマネジメントや人材育成に責任をもち、上司等にも働きかける。

 

②介護計画に利用者や家族のニーズが反映されるようアドバイスをするとともに組織的に介護サービスが提供できるように取り組む。

 

③介護の根拠を説明し、指導するとともに内省を習慣づける。

 

④記録様式などサービス管理に必要なツールを改善・開発できる。

 

⑤介護職チームの意識改革、サービスの提供方法や提供体制の改善、研修プログラムの編成等を行い、新しい知識・技術・実践をチームに浸透させることができる。

 

 

Ⅲ 他職種やそのチームと連携・協働する力

 

①他職種からの情報や助言を適切に理解し、介護職チーム内で共有し、適切な介護に結び付ける。

 

②利用者の日ごろの生活状況と、それを踏まえた介護の実践内容を、論理立てて他職種に伝える。

 

③利用者の状態像の変化に気づき、その状況を適切に他職種に伝え、連携を図ることで、利用者の状態像の悪化を最小限に止めることに寄与する。

 

 

Ⅳ 地域とかかわる力

 

①家族に対して、生活環境の整備、相談援助等ができることで、家族の不安を軽減し、適切なかかわりを支援する。

 

②地域におけるボランティア、家族介護者、介護福祉士等への介護に関する助言・支援ができる。

 

③施設・事業所の介護力を地域の人々のために活用できる。

 

④介護に関する地域ニーズを把握・分析することができる。

 

 

ケアマネージャーとの役割分担は?

 

 こうした能力を見てみると、ケアマネージャーの役割と被る部分が多く見受けられます。役割分担はどうなるのだろうという疑問が湧いてきます。

 

 機構の説明にはありませんが、筆者としてはトロイカ体制を目指すべきではないかと考えます。

 

 トロイカ体制とは複数の指導者により組織を運営していくことで、ロシアの3頭立て橇に見立てた言葉です。

 

 簡単に言うと、今まで下に見られていた、介護現場職が、医療職やケアマネージャーと同等の地位に立ち、チームケアを実践していくことです。

 

 特別養護老人ホームで例えれば、各ユニットの介護リーダーに対する指導的役割を果たすということですから、その施設の介護部長のような役割を担うのだと考えます。

 

 そうすると、ホームの医療職やケアマネージャーと同等以上の役割を求められている感じがします。

 

 

認定介護福祉士になるには

  

 認定を受けるためには、介護福祉士としての実務経験5年プラス、600時間の研修を受ける必要があります。詳しくは以下をご覧ください。

http://www.nintei-kaishi.or.jp/certification/curriculum.php

「認定介護福祉士になるには」

 

 研修にはⅠ類とⅡ類があり、Ⅱ類はⅠ類の研修を受けたうえで、施設のユニットリーダーやサービス提供責任者等の現場実務を経験しながら、研修を受けることが求められます。

 

 つまり、実際の現場での経験を通じた実践力の獲得が求められています。

 

 ただ、医療的ケアの実践力などが評価されていないようですので、認定介護福祉士なのに喀痰吸引ができないのは如何なものかという疑問もあります。

 

 

今後、加算要件になるのかが重要

 

 例えばサービス提供責任者などの介護現場のマネージャーが、認定介護福祉士である事業所に対する加算などがどのように設定されていくかが注目されます。

 

 認定介護福祉士がいる事業所といない事業所とで給付に差が出なければ、認定介護福祉士の認定者は増えないと考えます。

 

 その加算を原資にして、介護職の処遇がさらに向上することを期待します。

 

 

 

 

 

 

 

介護事業所の人事評価の在り方について その2

 

今回は人事評価の評価基準についてです。

 

客観的な評価基準を設定するのは難しい

 

 一般的なサラリーマンの人事評価では、評価基準は以外に漠然としたものになっているようです。

 例えば、コミュニケーション能力や企画力、リーダーシップなどが売上などの業績評価と合わせて評価され、処遇に反映される仕組みが多いでしょう。

 

 一言でいうと、「組織に対する貢献度」が評価されると言って良いかと思います。

 しかし、貢献度と言われても客観的な基準を作ることはとても難しいのも事実です。ですから、人事評価は深いものなのです。

 

 

売上だけを評価基準にはできない

 

 たとえば学校の試験など、正解が明確であれば評価もしやすいでしょう。しかし、仕事では何が正解かということが、はっきりしない場合があり、売り上げ一つとっても本人の能力や努力とは別に、結果が出てしまう場合があります。

 

 たとえば、ファミリーレストランチェーンの店ごとの売り上げを評価して、売り上げの高いお店の店長のボーナスを沢山出したとしましょう。

 しかし、レストランの場合、立地条件や業務規模などの環境により、集客力は店長の力量とは別に決まってしまう場合があります。

 

 集客の厳しい支店を任されている店長がどんなに頑張っても、前述の売り上げの高い支店には負けてしまうこともあるでしょう。

 

 人事評価において後者の店長を低く評価し、前者の店長を高くしたら、どうなるでしょう。頑張っても売り上げの伸びないお店を任されている店長は、不満を持つに違いありません。

 

 大手出版社では儲からない純文学を漫画の売り上げが支えていると言われています。しかし、社員の給与は漫画も純文学も変わらないそうです。漫画の編集者ばかりが高給だったら、誰も純文学の編集者をやりたがりません。すると、日本の文学が衰退してしまうということにもなりかねないのです。

 

公務員は人事評価によるボーナス査定は無い

 

 一般的な公務員には業績評価によりボーナスに差がつくことはありません。期末手当や勤勉手当などと呼び、一律同じ月数(大体5か月分ぐらい)の金額が支給されます。

 従って人事評価によってボーナスが変わるということは無く、一般の会社員とは性質が少し異なります。

 

 介護事業の場合も、管理職以外は人事評価によりボーナスを変化させることはあまり好ましくないと筆者は考えます。

 人事評価はあくまで毎年の昇給や昇格(職級を上げるかどうか)の判断に用いられるべきであり、ボーナスの額に反映させない方が良いでしょう。

 

 現実には年の売上げ高によってボーナスの額は変わりますので、なかなか人事評価で増やしたり減らしたりすることも難しいと思いますので、大丈夫だとは思いますが、一般職の処遇については、ある程度一定であった方が、不満は出ないと考えます。

 

介護の一般職員の評価基準

 

 評価基準や評価項目に悩むときりがありません。

 できるだけシンプルに人事評価を導入して、組織の能力を向上させるには、基準も外部のものを活用していけばよいと思います。

 

 幸い、厚生労働省が在宅介護職の評価基準を作成しています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000093927.html

「職業能力評価シート(在宅介護業)」

 

 今のところ訪問・通所・訪問入浴しかありませんが、今後、他の業種の評価基準が追加されることを願います。

 

 使い方は「職業能力評価シート(在宅介護業)」に含まれていますので、参考にしてください。

 なお、評価項目によっては、その職員が実際に行っていない項目も含まれています。その場合はその項目の評価はできませんので、無理して評価する必要はありません。評価指標としては○や×を付けず、-などにして評価の合算には加えない方が良いでしょう。

 

 

管理職が普段、部下の仕事ぶりを見てい無い場合は?

 

 管理職が評価する場合、実際にはその職員の仕事ぶりを日常的に見ていない場合があります。その場合は、自己評価のあと、実際に仕事ぶりを知っている直属の上司(リーダーや主任など)に当たる職員に評価をしてもらい、その上司とよく意見交換し評価を決定すると良いでしょう。

 

 人事評価で管理職でない職員が部下を評価する仕組みは形式的にあまり好ましくありません。

 人事評価はその管理職が管理する組織の評価に最終的につながってきますので、管理職が責任をもって行わなければなりません。

 

 また、普段はあまり一緒に仕事をしない管理職が、一般職員と年に1回仕事のことを話し合うことで、普段身近に居る直属の上司には言いにくいことも言える場合があります。

 その上司に対する不満もその一つです。それにより管理職は組織の問題点や弱点を発見することになりますし、職員にとっては不満の解消にもなります。

 

 

人事評価を実施するシンプルな目的

 

 人事評価を実施する目的をまとめてみましょう。

 先に述べたように組織の生産能力を向上させるための人事評価は、考えれば考えるほどきりがなく難しくなります。中小企業が取り組むにはハードルが高すぎます。

 従って、以下のような目的で実施するのだと、できるだけ簡単に考えて、導入することがポイントになります。あまり難しく考えないことです。

 

【中小企業が人事評価を導入するシンプルな目的】

 

① 年に1度管理職と職員が仕事のことについて話し合う場として実施する

② 毎年の昇給が適当かどうかを判断するために実施する

③ 昇格ができるかどうかを判断するために実施する

 

 以上の3つの目的で実施することにしてください。それ以上のことを考えると難しくなります。

 

 

評価者に対する講習は要らないのか

 

 「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」では評価者は講習を受け「アセッサー」という資格を取得しなければ、評価ができません。

 このアセッサーは評価を公正適切に行うために設定されていますが、人事評価を実施するために、評価者がこのアセッサーの講習を受ける必要はありません。

 

 職場の人事評価制度は上のような目的のために実施します。一方、「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」は介護職員の資質の向上を目的に実施されるもので、趣旨が異なります。

 「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」は言わば職場研修(OJT)が主眼です。アセッサーは仕事上、職員に何が足りないかを正確に見抜き、さらにはそれを教えてゆく能力が必要となります。

 

 一方、人事評価の目的は上記の目的ですので、組織や職員が納得して進められればそれで良いのです。

 

 

 この項終わり。

 

 

 

平成29年度処遇改善加算 新Ⅰのキャリアパス要件について その2

 

キャリアパス要件Ⅱについて

 

 この要件はスタッフ研修に関する要件です。

 

 加算を算定するにはスタッフの研修をしっかりやらなければなりません。

 

 

次のイ及びロの全てに適合すること。

 

介護職員の職務内容等を踏まえ、介護職員と意見を交換しながら、資質向上の目標及び一又は二に掲げる具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施又は研修の機会を確保していること。

 

 

 「介護職員の職務内容等を踏まえ」ということは、訪問介護や通所介護、そのスタッフが働いている事業所の仕事の内容を踏まえてということですが、実際には、介護福祉士試験の科目に対応した研修を実施すればOKであると思います。

 

【介護福祉士試験の科目】

 

1 領域:人間と社会

   人間の尊厳と自立

   人間関係とコミュニケーション

   社会の理解

2 領域:介護

   介護の基本

   コミュニケーション技術

   生活支援技術

   介護過程

3 領域:こころとからだのしくみ

   発達と老化の理解

   認知症の理解

   障害の理解

   こころとからだのしくみ

3 領域:医療的ケア

   医療的ケア

4 総合問題

   (ケーススタディー・事例検討)

5 実技試験

   (各種介護技術)

 

 詳しくは以下を参照ください。

http://www.sssc.or.jp/kaigo/kijun/attachment.html

 

 特にパートスタッフが多い事業所では毎年繰り返し上記の内容を研修することが良いでしょう。それがサービスの質の向上につながります。

 

 事業所の研修としては月に1回この科目を中心に研修会を実施するのがベストです。

 その研修会を中心に、たとえば、管理者やサービス提供責任者、生活相談員、機能訓練の担当者などは、職務に対応した「専門的な研修」を受けると良いと思います。

 

 「専門的な研修」は、事業所内で実施するのは難しいですから、外部の研修、例えば区市町村や社会福祉協議会が実施する研修、民間で実施している研修に参加すると良いと思います。

 専門の研修は、年1回でもOKです。

 

 実は月1回研修会を実施すると、特定事業所加算など他の加算が算定できるようになります。この点の説明は以下をご参照ください。

 https://carebizsup.com/?p=811

 

 この研修会は「介護職員と意見を交換しながら」となっていますが、基本的には

 

「利用者のニーズに応じた良質なサービスを提供するために、介護技術、コミュニケーション能力、協調性、問題解決能力、マネジメント能力等の向上に努める。」

 

 といった一般的な内容でOKです。もちろんスタッフからのリクエストに応えた研修内容にしても構いません。

 さらに認知症のご利用者が多いグループホームや小規模多機能居宅介護であれば、ユマニチュードなどの特別な認知症の研修を実施しても良いでしょう。

 つまり、スタッフが自分たちの介護サービスの向上につながる研修を自分たちで実施していく姿勢が必要になります。

 

 そしてその際、スタッフ一人一人が、自分に今足りない技術・知識の獲得するための目標を設定することが大切です。

「資質向上の目標及び一又は二に掲げる具体的な計画を策定し」というのは、その目標と研修計画を(基本毎年)作成し、実施していくことです。

 

 具体的な「資質の向上の計画(目標を含む)」例を以下に紹介しますので、参考にしてください。

https://carebizsup.com/wp-content/uploads/2017/01/f45ce2a97fb957ab75f2512496ffcfea.pdf

 

 なお、毎月の研修を実施する場合は以下の点に留意することが重要です。

 

「毎月の研修を実施する場合の留意点」

 ① 時間外に実施する場合は、正社員には残業手当、パート職員には研修手当などの金銭的補助を実施する。「研修の機会を確保」

 ② 必ず、出欠表と研修資料を保管しておく(実地指導でチェックされます)。

 ③ 欠席者には補講を実施する。もしくは事業所ごとなど数班に分けて必ず全員が受講する体制を確保し、補講の実施記録を保管しておく(実地指導でチェックされます)。

 

 

資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供又は技術指導等を実施(OJT、OFF-JT 等)するとともに、介護職員の能力評価を行うこと。

 

 ここでのポイントは「介護職員の能力評価」です。

 

 「介護職員の能力評価」は様々な方法があり、また、キャリアパス要件Ⅲに出てくる「実技試験」「人事評価」とも被ってきますので、この研修の要件の部分では、研修と連携している形態で実施するのが良いと思います。

 

 例えば、キャリア段位制度などを利用することも可能ですが、パートスタッフまでは無理ですし、人事評価もしかりです。

 パートスタッフまで含めた能力評価を実施するには、先に例示した「資質の向上の計画(目標を含む)」のように、年間の研修計画に付随して、スタッフ個別の目標を設定し、その目標が達成されているかどうかを管理者などが評価する方法が良いと思います。

 

 

資格取得のための支援(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用(交通費、受講料等)の援助等)を実施すること。

 

 ここでは先に挙げた、「毎月の研修を実施する場合の留意点」を実施するとともに、外部の「専門的な研修」に参加するための費用負担や休暇(有給休暇)の付与を実施することになります。

 

 また、実務者研修の受講のための費用を会社が負担することや、介護福祉士の試験対策のための費用負担もこれに該当します。

 

 最近では、実務者研修の費用を地域行政が補助してくれる制度もあります。この補助制度を利用することも、この要件に該当するでしょう。

 

 

イについて、全ての介護職員に周知していること。

 

 この要件があるのは、つまりパートスタッフも含めて、全員に実施しなさいということです。

 ただし、この全員というのは介護職員だけで事務職や看護職・ケアマネージャーなどは該当しませんのでご注意ください。

 

 厳密に言えば、研修を実施することを全員に周知していれば良く、参加しないスタッフがいても構わないように感じます。

 

 例えばパートスタッフが研修に参加できないという事態は現実に起こりえます。

 この際、そのスタッフが全体研修に参加しなければならないということを認識しており、それでもなんらかの事情で参加できないということであれば、実地指導などであまりお咎めが無いということも言えます。

 

 まず、正社員については確実に研修を実施するようにしましょう。

 これは職務命令であり、資質の向上を怠る社員は罰しなければなりません。

 

 パートスタッフにもできるだけ参加してもらえるよう、継続的に働きかけることが大切でしょう。少しずつでも参加してくれれば、次第にそれが社風となり、必ず良い方向に向かっていくと思います。

 

 そのためにも研修手当の補助は非常に重要だと考えます。

 

 次回は、新たに設定されたキャリアパスⅢについてご説明します。

 

 

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その6

スタッフの運動器系トラブル対策

 

 前回の続きです。

 

6 リフトやスライドボードなどの福祉用具の活用を図る

 

 昨今、老人ホームでは腰痛による退職防止策として、リフトの導入が進んでいます。

 訪問介護ではなかなか、そういうわけにはいきませんが、福祉用具相談員とよく話し合い、それぞれの利用者に適した福祉用具を導入してもらうように検討しましょう。

 体重の重い利用者など福祉用具の活用が有効なご利用者の場合、ケアマネージャーやご本人によく説明をし、適切な機器の利用を進めるべきでしょう。

 そのような我儘は言いにくく、我慢した結果、スタッフが腰を痛めてしまい、サービス提供が継続できなくなった例などが見られます。

 スタッフの腰痛予防のための福祉用具の導入は我儘でなく、サービス提供を継続するための適切な方策であると考えるべきです。

 

7 腰痛対策商品を活用する

 

 最近は腰痛予防の様々な商品が開発されています。

https://innophys.jp/musclesuits(マッスルスーツ)

http://www.morita119.com/rakunie/(腰部サポートウェア)

 コストの問題もありますので、導入するかは検討が必要かもしれませんが、いざというときに事業所に一つあると心強いかもしれません。

 例えば、おんぶして階段を上がらなければならないようなサービスの時は重宝するかもしれません。

 なお、腰痛ベルトなどを日常的に着用することは、筋肉量低下の原因になるため、推奨されません。現場で負荷の高い作業する時だけ着用するのがポイントです。

 

8 人により業務の内容を調整する

 

 老人ホームではスタッフ全員がある程度一律の業務を実施する必要がありますが、訪問系のサービスの場合スタッフの能力により業務を調整することが可能です。

 非力なスタッフには、負荷の軽い業務を回し、負荷の重い業務は体力のあるスタッフに回すことができます。

 スタッフの定着のためには、この辺の調整をシフトで行う気遣いが重要になると考えます。また、先にも述べた通り、スタッフが「自分にはこの業務はきつい」と気軽に言える雰囲気が職場にあることが重要でしょう。

 業務を適材適所で行っていくためには、女性や男性、若者や高齢者など、バラエティーに富んだスタッフが所属していることが理想ですが、そのためにも、スタッフが職場に定着することが大切になります。

 

 

メンタルヘルス ─ 「世話不足の悪循環」の違い

 

 職員のメンタルヘルスは介護事業に限らず、企業が取り組まなければならないこととして、近年クローズアップされています。

 しかし、前述したスタッフに対する気遣いが不足していることによる「世話不足の悪循環」をメンタルヘルス対策で解決することはできません。

 新人スタッフが仕事のことで悩んでいるのは、厳密に言えばここでいうメンタルヘルスの対象では無いと考えます。

 それはスタッフの指導育成体制の問題であり、社内に「職場の悩み相談担当」を設置しても解決しないでしょう。

 職場のメンタルヘルスを考える場合、まず、新人スタッフがすぐに辞めない指導育成体制ができている前提で考える必要があります。

 

 

精神疾患の職員に対する対応

 

 病気と言えないまでも精神的な負担は退職に直結します。

 気分が落ち込むような仕事や職場では継続しようがありませんが、それが仕事や職場によるものかは人によって様々です。

 スタッフにとって居心地の良い職場であれば、精神的な負担も最低限なものになるでしょう。しかし、精神疾患はそれだけでは防ぐことはできません。家庭や恋愛など職場とは違う場所に原因がある場合も多いのです。

 

 うつ病や他の精神疾患の状態にあるのに、本人がそれに気づかず(もしくは認めず)医者にかからないために、欠勤や遅刻などを繰り返す場合があります。

 このような場合は、適切なメンタルケアが必要になりますが、中小企業の内部だけでは適切な対処はできないでしょう。専門家に任せる必要があります。

 費用を負担してあげれば、業務命令として(仕事として)適切な医師の診断を仰ぐことができますので、医師に任せるのがもっともよい方法方です。

 本人にどのように説明するかなどは社労士さんと相談すると良いでしょう。

 

 東京都では職場のメンタルヘルスを支援するサイトを開設していますのでご活用ください。

 http://www.kenkou-hataraku.metro.tokyo.jp/mental/

 

 

年に1回のメンタルヘルスチェックからの業務環境改善

 

 定期健康診断と同様に、年1回スタッフ全員のメンタルヘルスチェックを実施することをお勧めします。チェック表は以下をご活用ください。

http://www.kenkou-hataraku.metro.tokyo.jp/mental/self_care/check.html

 

 ただ単にチェックするだけでなく、結果を業務環境の改善につなげることが重要です。

 それがスタッフ定着に繋がります。

 また、本人の自覚を促すきっかけにもなります。本当は疲れているのに頑張ってしまっている人や、本人にも気づかない精神の状態をあぶりだしてくれます。

 

 そのため、チェックを人事考課や能力評価と一緒に行うと良いでしょう。

 チェック結果について上司と話し合うような仕組みにすることで、より業務環境の改善に繋げることができると考えます。

 

 次回はワークライフバランスについてご説明します。

 

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その5

 

スタッフの健康管理は事業者の責務

 

 労働安全衛生法では、事業者は常時雇用する職員に会社負担で定期健康診断を受診させる義務があります。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf

 

 常時雇用する職員とは概ね週30時間以上働く、契約期間の定めのない労働者で、パートスタッフも含みます。

 

 訪問系のパートスタッフの場合、週30時間以上の労働実態が無いため(1日の訪問時間が6時間以上ないと週30時間を超えることができない)、事業者によっては健康診断を実施していない場合もあるようです。

 しかし、訪問介護の場合は週30時間以下のパートスタッフも含めて会社負担で健康診断を受診しないと、特定事業所加算を算定できないことはご存知でしょう。

 

 訪問看護でもサービス提供体制強化加算を算定するためには同様に事業者負担で定期健康診断を実施する必要があります。

 

 いずれにしても、介護事業においてはスタッフの健康管理は事業者の負担で、事業者の責任で進めていく必要があると考えます。

 

 ただ、パートスタッフは扶養者の保険で定期健康診断を受診したり、40歳以上の人の場合区市町村の特定検診を受診している場合があります。

 

 この場合は事業者の実施する健康診断を受診せずに、それぞれのスタッフが受診する健康診断の自己負担部分の費用を事業者が負担してあげればOKです。

 

 なお、労働安全衛生法では、健康診断の結果(健康診断票のコピー)を、保存しておかなくてはなりません。

 

 

スタッフの定着には腰痛など運動器系トラブル予防が大切

 

 定期健康診断は主に内蔵系の生活習慣病などの検査が中心になります。

 

 しかし、介護スタッフには腰痛や関節炎、肉離れなどの運動器系トラブルに見舞われることが多く、これは辞職の原因に直結します。

 

 腰痛などの運動器系トラブルはその人の身体的な特徴によるものが多く、また、年齢による違いも大きいでしょう。

 

 中年女性や高齢者にパートスタッフとして大いに働いてもらわなければならない介護事業では、スタッフの運動器系トラブルをできるだけ減らすことが、スタッフ定着のための重要な方策になります。

 

 しかし、腰痛などの原因は複雑であり、様々な原因があるため人それぞれ対策が異なる場合があります。

 厚生労働省では社会福祉施設の介護従事者の腰痛予防対策を冊子にしています。内容はかなり専門的で複雑ですが、腰痛予防のストレッチなどは参考になるでしょう。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000092614.pdf

 

 ただ、これはあくまで老人ホームなどの一定の環境での対策です。訪問系の現場ではそのまま導入することは難しいでしょう。

 そこで、スタッフの腰痛などの運動器系トラブルに対する簡単な対策を以下にまとめてみました。これだけで、全てのスタッフの腰痛や運動器系トラブル予防ができるわけではありませんが、少しは辞職の防止につながるとは思います。

 

【スタッフの運動器系トラブル対策】

 

1 負荷の高いサービス提供前にストレッチなどの準備体操を義務付ける

2 ボディメカニクス研修などを定期的に実施する

3 スタッフの運動習慣を支援する仕組みを整える

4 体組成計などにより個人の筋肉量を計測する

5 研修等で個人の栄養管理の啓発を行う(特にタンパク質)

6 リフトやスライドボードなどの福祉用具の活用を図る

7 腰痛対策商品を活用する

8 人により業務の内容を調整する

 

1 始業前に腰痛体操などの準備体操を実施する

 

 訪問先で、移乗などの筋肉に負担がかかるサービスの前には、必ずストレッチなどの準備体操を実施することを、業務の手順の中に加え義務付けます。

 筋肉系のトラブルの場合、筋肉が温まっていない状態での急な負荷が原因になることが多く、負荷の高い介護をする前には、必ず実施するようスタッフに指導します。

 準備体操は、できれば訪問先の家の中に入る前に実施すると良いでしょう。ご利用者の前で行うと、ご利用者がつらい気持ちになってしまうかもしれません。

 

2 ボディメカニクス研修などを定期的に実施する

 

 年に1回は集合研修で行い、同行訪問などの時も現場でしっかりボディメカニクスの原則を確認すると良いでしょう。

 

3 スタッフの運動習慣を支援する仕組みを整える

 

 スタッフの腰痛予防や運動器系トラブルに対する研修の中で、日常的な運動の奨励をする一方、スタッフが気軽に参加できるトレッキング会や街歩き会などを社内で開催したり、スタッフが地域スポーツに参加するための補助金を出すなど、スタッフの運動習慣獲得に対する支援を進めることも良いことでしょう。

 介護予防の観点からも40歳ぐらいからの運動習慣は重要視されています。中年以上のスタッフには特に意識してもらうことが重要でしょう。

 

4 体組成計などにより個人の筋肉量を計測する

 

 ご存知のように高齢になれば筋肉量は減っていきます。筋肉量の減少が運動器系のトラブルに直結することは明らかですから、スタッフが筋肉量を計測し、自分の筋肉量が平均より少ないのか多いのかを知ることは、運動器系トラブルを予防する第1歩になります。

 

5 研修等で個人の栄養管理の啓発を行う(特にタンパク質)

 

 筋トレなどの運動をしなくても、必要なタンパク質量を適切に摂取すれば、筋肉は増えます(その代わり体脂肪が減ります)。ですから、日々の食事でタンパク質をどのくらい摂取すべきかをスタッフ研修などで意識付けさせます。

 なお、運動で身体を動かす習慣がある方は、1日に

自分の体重×1.2~1.3g (例:体重70kg×1.3=1日に必要な目安91g)

 摂取しなければなりません。

 ちなみに、91g摂取するには、赤身の牛ステーキ500g、牛乳なら3リットル程度必要です。

 

 昨今の研究でどうやら、若い人は炭水化物を摂取しても筋肉に変える能力がああるが、年を取ると、タンパク質を直接摂取しないと体脂肪ばかり増えて筋肉量が減っていく傾向があるようです。

(サルコぺニアの原因 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/sarcopenia/about.html

 中年以上のスタッフには特にこの点を意識付けする必要があるでしょう。

 

次回はこの続きとメンタルヘルスについて説明します。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その4

パートスタッフにとって居心地の良い職場づくり

 

前回の続きです。

 

パートスタッフは報酬の高さよりも居心地の良さを優先します。

 

【居心地の良い職場の指標】

4 自身の生活(子育てや家族)やライフスタイルとうまくマッチングしている

 

 パートスタッフは基本的に地元の人が殆どであり、地域の働きやすい職場で、長く定着して働くことを望んでいます。

 共働きの主婦など、子育てや家庭のことなど自分のライフスタイルにマッチした働き方が地域でできることが重要なのです。

 そのことを前提に、事業所運営をしなければなりません。

 

 なお、このことは正社員についてもある程度言えることです。また、パートから正社員に登用される道(主婦の場合は子育てが終わったらケアマネージャーとして働きたいなどのニーズがあります)があるとさらに良いと思います。

 

 介護事業所は、地域の職場として安定した就労環境を提供する義務があると考えてください。

 大企業などは都心に事務所を持ち、郊外から通勤する労働者により事業運営をしていますが、それはビジネス機会や給与などの面でそれだけのメリットがあるからです。

 また、若い労働者にとっては都会の華やかなオフィスで仕事をすることに憧れや、喜びを持っているかもしれません。

 しかし、介護事業はそもそもが地域密着の事業であり、都会に事業所を集中できるような性質のものではありません。あくまで、地域の人たちの手によって地域の人たちにサービスを提供する形態が事業の基本になります。

 

 ライフスタイルにマッチした職場(=居心地の良い職場)としての条件は以下のようなことがあげられます。

 

① 小さい子供を育てる主婦の場合、急な子供の病気に対応する必要があり、そのような場合、仕事を急に休むことができる。

② 保育園の送り迎えなどの時間が取れる(短時間勤務が可能)

③ 労働日や時間がある程度自由に選べる

④ 土日祝日は確実に休める(子育てをしている人にとって休日は子供の相手をしなければなりません)

⑤ 産休育休や病気休暇等の後でも復帰しやすい(そういうことが気軽に相談できる)

⑥ 旅行などに行きたい場合、長期休暇を取りやすい(リタイアした高齢者などには働きやすい)

 

 

仕事が人に合わせる職場づくり

 

 基本的には、労働者が家庭や趣味、そうした人生の中で優先したい事を優先しながら仕事ができる環境が望ましいと言えます。

 

 人生100年時代が来ると言われ始めました。そうすると人は80歳ぐらいまで働かなければならないと言われ始めています。

 これからは、今までのように、65歳までは仕事の人生、65歳からは余生というような分け方はできなくなるでしょう。

 おそらく、人が仕事に合わせるのでなく、仕事が人に合わせる必要が出てくると考えます。

 

 地域の職場としての介護事業所はそのように、仕事が人にあわせるような働き方ができる職場として、機能させることができると考えます。

 主婦や高齢の労働者にとってはそのような職場が望まれていると考えます。

 

 さて、仕事が人に合わせられるような職場づくりをするには正社員が活躍しなければなりません。パートスタッフがフレキシブルに働くためにはその穴を正社員で埋めるしか無いのです。

 

 つまり子供の急な病気で休まなくてはならないパートママの穴を、正社員でカバーできる体制作りが必要になります。

 そのため、先の「世話不足の悪循環」でも述べた通り、サービス提供責任者や管理者は現場にあまり出ず、そうした急なトラブルのカバーに回る必要があり、それが普通であるような職場作りが求められます。

 正社員がパートのカバーを柔軟にでき、お互いに助け合うような雰囲気が職場にできると、大変居心地の良い職場になると考えます。

 

 

5 肉体的・精神的な負担が少ない

 

 つまり、ストレスの少ない職場ですが、そのためには、個々の職員の職能や技術にマッチした仕事ができることが重要です。

 また、日頃から職員の健康管理について会社が支援する体制も重要になってきます。

 

 介護は肉体的にきつい部分がある仕事です。腰痛などにより離職を余儀なくされる場合もあり、体力のない人にとっては継続が難しい場合もあります。

 

 身体介護(移乗・入浴・排せつ介助など)は女性や高齢のスタッフにとっては肉体的な負担となります。パートスタッフにとって働きやすい職場にするためには、そうした肉体的な負担について、「できる・できない」を気軽に訴えることができる職場が居心地の良い職場でしょう。

 

 「○○さんの入浴介助は私には少し負担が大きい」と気軽に言えることが大切なのです。もし、頼まれた仕事が肉体的にきついのに、それを訴えられない雰囲気がある場合、そのスタッフはやがて辞めてしまうでしょう。

 まじめな人であればなんとか克服して、仕事を全うしようとするかもしれませんが、実際に腰を痛めるなどして仕事ができなくなれば結果は一緒です。

 

 精神的な負担は「世話不足の悪循環」でも述べた通りです。仕事の悩みはすぐに解消されるよう、気軽に相談できる体制が必要になります。

 

 健康管理については体力づくりや怪我の予防も含めて、本人任せにせず会社が支援することが重要になりますが、健康診断以外にどのような支援があるでしょうか?

 

 次回はスタッフの健康管理について解説します。