パブコメから次期介護保険改正の全容(居宅基準)が明らかに その1

 

 

 

 来年4月より施行される改正介護保険法の各種基準に関するパブリックコメント募集が始まりました。

「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(仮称)案等に係るパブリックコメントの開始について」2017/12/4

 

 この内容が介護保険事業(居宅サービス)の各種基準の改正点と言ってよいでしょう。

 報酬関係についてはまだ全貌はわかりませんが、基準面の変更点はこのパブリックコメントが全容になると考えます。

 

 今回はこの改正内容のトピックをご取り上げたいと思います。

 

 

居宅介護支援事業所の管理者は2021年から主任CMへ

 

 経過措置を設けて2021年に居宅の管理者は主任ケアマネージャーでなくてはできなくなります。

 

 経過措置の内容はわかりませんが、現在、居宅支援事業所の管理者で、主任CMではない人は、この経過期間中に研修を受け、主任CMにならなくてはいけないという措置になるのではないかと予想されます。

 

 

主任CMの争奪戦も

 

 すべてのCM管理者が研修を受けられるよう、区市町村が配慮してくれることは考えますが、現任CMが研修を受けられない場合、主任CMを新たに雇用しなければなりません。

 そのため、2021年に向けて主任CMの争奪戦が起こるかもしれません。

 

 居宅介護支援事業者は、2021年に向けて、主任CMの確保に努力する必要があります。そのためには、現任管理者の継続的な雇用のための処遇面や任用面での優遇を図る必要があるかもしれません。

 

 CMとしての能力が劣る場合や、CM業務をあまり行っていな管理者は、主任CMの研修が受けられない場合も考えられます。

 今のうちから2021年以降の業務継続に向けて、業務能力のあるCM管理者の確保を進めていくべきでしょう。

 

 

訪問介護に新たな義務規定

 

 以下の基準が加わるようです。

「訪問介護の現場での利用者の口腔に関する問題や服薬状況等に係る気付きをサービス提供責任者から居宅介護支援事業者等のサービス関係者に情報共有することについて、サービス提供責任者の責務として明確化する。」

 

 上記の運営基準が加わると何が変わるでしょうか?

 

 まず、運営規定にこのサービスの提供を明示しなければならないでしょう。また、アセスメントにおいて口腔や服薬に関する項目を必ず入れる必要があります。

 さらに実地指導などで、この情報提供の事実があるかどうかの確認がされると考えなければなりません。

 ケアマネへの情報提供や連絡時に少し意識してこの情報を伝えるようにする必要があります。

 

 

訪問介護員への研修が必要

 

 口腔に関する問題や服薬をしている利用者は大勢いますので、多くに利用者にこの観点での観察が必要になります。

 訪問介護員が服薬状況に関して日々注意しながらサービス提供をしていく姿勢が必要になりますので、研修などで意識付けをしていくことが重要でしょう。

 

 口腔に関してはアセスメント時に特に問題が無くても、気が付けば硬いものが食べられなくなっていたり、嚥下状態が悪化していたりすることは十分に考えられます。

 サービス提供の中での継続的な観察が必要になると思います。

 

 昨今、要介護度を上げるフレイル(虚弱)やサルコペニア(筋肉減少)の原因の一つとして、高齢者の栄養問題が大きく取り上げられています。

 口腔の問題だけでなく、利用者の食生活全体に意識を向けるようにしていくことが、今後さらに重要になると考えます。

 

 

 共生型サービスの新設

 

 今改正の目玉の一つでしょう。

「共生型通所介護については、障害福祉制度における生活介護、自立訓練、児童発達支援又は放課後等デイサービスの指定を受けた事業所であれば、基本的に共生型通所介護の指定を受けられるものとして、基準を設定する。(居宅基準及び地域密着型基準(新設))」

 

 これは介護保険法の改正ですから、障害サービスからの参入基準の緩和が示されていますが、同様の改正が障害者総合支援法の方でもなされた場合、介護事業から障害サービスへの参入基準緩和となります。

 

 逆読みすれば、通所介護と生活介護、自立訓練、児童発達支援又は放課後等デイサービスの共生型通所介護が可能になるということです。

 具体的な指定基準がわかれば指定を受けるか検討してみる価値はあると思います。

 

 共生型通所介護の内、老人デイサービスと放課後等デイサービスは施設設備の有効利用という観点から、事業として有望であると考えます。

 平日日中のサービス提供が中心の老人デイサービスに、夕方から夜、休日が中心の放課後等デイサービスを合体させることができます。

 賃料や車両費など固定費の無駄を省けますので、経営上非常に有望でしょう。

 共生型通所介護の具体的な説明は以下の記事をお読みください。

 https://carebizsup.com/?p=951

 

 なお、この共生型サービスは短期入所生活介護でも実施される予定です。

 

 次回は続きをご説明します。

 

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その3

 

 

 前回の続きです、さらに様々なサービス事業についてご紹介します。

 

 

居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)

 

 在宅のケアマネジメント・サービスを提供する事業所です。

 現状の介護給付費ではこの事業所だけで儲けを出すことは難しいのですが、他の事業所と合わせて経営することで、お客様の獲得という営業的な機能を発揮します。

 

 例えば、訪問介護事業所にケアマネ事務所を併設することで、訪問介護サービスの利用者を獲得しやすくなります。

 

 また、実際にケア・サービスを提供していく上で、ケアマネと訪問介護スタッフが同じ事務所に所属していると、情報の共有が容易になり、きめ細かいサービス提供をしやすくなります。

 

 従って、訪問介護事業所ではこのケアマネ事務所を併設しているところが多いでしょう。

 

 専門的な話になりますが、一つのケアマネ事務所が訪問介護の依頼を、併設の訪問介護事業所に集中させる場合、介護給付費が減らされるというルールがあります(集中減算)。

 

 しかし、実際には併設の訪問介護事業所だけでサービスを独占することは難しく、それほど心配することはありません。

 

 なお、集中減算は国の審議会でも問題視されている部分があり、今後、一定の条件下で緩和される可能性も示唆されています。

 

 ケアマネージャーは介護サービスの営業職的な側面があります。また、一方で、地域行政や各種介護関係組織・医療機関と密接に連携して、地域の介護サービスを推進させていく公的な役割も期待されています。

 

 在宅介護のケアマネージャーは、一つの地域にじっくり腰を据えて、良い仕事をしていくことで、地域での存在感が増し、所属する会社自体も地域から信頼を得ることができます。

 

 居宅介護支援事業所はケアマネージャーが一人いれば開設できます。他のサービスと併設する場合は、そのサービスの管理者も兼務できます。

 

 もし、この事業所を開設しようとする場合、最初に雇用する管理者となるケアマネージャーは、上記のような趣旨に照らして、人格のしっかりした、力のある人をじっくり選んで雇用するべきであると考えます。

 

 

福祉用具貸与・販売

 

 在宅介護で利用する福祉用具の貸与・販売をする事業所です。

 訪問介護事業所で介護福祉士が複数いる場合、この事業所の福祉用具専門相談員と兼務ができますので、兼業している事業所も多いですが、最近では訪問介護業務が忙しく、福祉用具まで手が回らないという状態の事業所が多くなっています。

 

 パナソニックなど大企業が参入していることもあり、福祉用具だけで儲けを出していくことはなかなか難しいといえます。

 

 ただ、ある程度の規模で、多様な在宅サービスを提供している会社であれば、この事業を行うことはメリットがあるかもしれません。

 たとえば、通所介護の送迎車は朝と夕方以外稼働していない場合があります。この送迎車を福祉用具用の運搬車に兼用することはメリットがあるでしょう。

 

 福祉用具は大きな倉庫設備を持つ、仲卸の業者から、用具を借りてまた貸しするような仕組みになっています。この仲卸業者から用具を運搬して設置する業務を、自社で行うことで、収益を上乗せできます。

 

 この仲卸業者は概ね商社などの巨大資本をバックに持つ会社が運営しています。配送をやらせてくれるかどうかは、業者により扱いが異なりますので、開業する前に確認が必要です。

 

 なお、福祉用具専門相談員の資格は50時間の比較的安価な研修を受講すると取得できます。

 

 

訪問入浴

 

 訪問入浴は車に浴槽とお湯を沸かすボイラーを積んで、在宅入浴を提供するサービスです。

 

 改造車などの設備投資が必要になります。また、大きな折り畳みの浴槽を運搬しますので(公営団地では5階まで)、ある程度体力のあるスタッフが必要になります。

 

 介護スタッフ2名プラス看護師が規定人員になりますが、看護業務としては比較的簡単な業務なので、現場を離れて看護の仕事に自信がない看護師さんでも比較的就業しやすい業務でしょう。

 

 訪問入浴の介護職は夜勤が無い仕事の中でも、最も稼げる仕事になっています。従って収入の欲しい、体力のある男性が応募してきます。

 こうした男性職員は向上心がある方も多く、将来、会社のコアスタッフとして活躍する場合もあるようです。

 

 開業する場合は、資金が必要なうえに、地域によってはサービスが飽和状態である場合もありますので、しっかりマーケティングする必要があります。

 

 

通所リハビリテーション(デイケア)

 

 一般の方には、リハビリデイサービス(リハビリ特化型通所介護)と区別がつかないかもしれません。

 

 リハビリデイサービスはあくまで通所介護事業所で、特徴を表すために、リハビリデイサービスと宣伝表示しているだけです。

 

 通所リハビリテーションは通所介護とは異なり、医師と理学療法士などが在籍する、医学的リハビリサービスを提供する事業所です。

 通常、整形外科などに併設されている場合が多いでしょう。

 

 母体が医師のいる医療関係であれば開設のメリットはありますが、そうでなければ開業は避けた方が良いと思います。

 

 

 

 次回は、地域密着型のサービスについてご紹介します。

 

 

ケアプランAIでケアマネは不要になるか?

 

 ケアプランAI(人工知能)の開発がスタートしました。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF14H0Q_U7A410C1EA4000/

 

 このシステムが稼働すればケアマネージャーは要らなくなるのではないかという声もあります。

 実際のところはどうでしょう?少し検証したいと思います。

 

 

ケアプランAIの仕組みを考える

 

 ではケアプランAIは具体的にどのようにケアプランを作成するのでしょう。

 居宅介護において、簡単にイメージ想定すると、以下のような流れになるのではないかと考えます。

 

①利用者の心身の状況の他あらゆる情報を収集し入力する(スクリーニング)

②利用者情報はクラウド上のデータベースに照会され、その人の状態が評価される(AIによるアセスメント)

③アセスメントによりAIはその人に必要なサービスを選択する

④選択されたサービスによりAIケアプランが作成される

⑤AIケアプランを本人や家族の意向に合わせて修正する

⑥修正されたAIケアプランに合わせてサービス提供事業者を選択し入力

⑦ケアプラン原案(暫定ケアプラン)の完成

⑧サービス担当者会議開催(議事録等の入力)

⑨ケアプラン完成→サービス提供票・週間サービス計画表に反映

⑩AIがモニタリングすべき項目を作成→人による確認修正

⑪モニタリング情報の入力

⑫長期・短期目標についてのAI評価→人による確認

⑬AIが再アセスメントに必要な、収集すべき情報を提示

⑭情報の再収集・追加入力

 

 最初からここまでの作業が整備できるとは思えませんが、実際に使えるAIケアプラン・システムになるにはこの程度の業務能力が必要ではないかと考えます。

 

 

医療分野ではAI診断がすでに始まっている

 

 近い将来、身近なクリニックなどでもAI診断が実現すると考えられています。

https://cs.sonylife.co.jp/lpv/pcms/sca/ct/special/topic/index1704.html?lpk=

 

 とは言っても治療判断を行う医者が必要なくなるわけでは無いでしょう。

 しかし、1次診断などのスクリーニングでは活用されるのではないでしょうか。

 カルテ情報共有と連携して地域医療改革の推進に役立つことが期待されます

 

 医学の歴史は人体と病気の情報化の歴史でもあります。血液やDNAなど人体のあらゆる状況を情報化し、病気を治すことに利用してきた歴史です。

 

 病気に関わる人体の情報が膨大化している現代ではAIを活用することは避けられないことだと思います。

 

 

AIシステムには膨大な情報データベースが必要

 

 AIの能力としての真骨頂は、膨大な情報を処理しディープラーニング(深層学習)と言われる仕組みを通して、AIそのものが成長するところにあります。

 https://www.nttcom.co.jp/research/keyword/dl/(ディープラーニング説明)

 

 人工知能というものは自ら学習し成長し、能力を向上させていくことが売りであり、そのためには膨大な情報が蓄積されなければなりません。医学ではその情報がすでに膨大に蓄積されています。

 

 一方、介護分野ではこれからです。

 介護サービスの多様な情報が日本全国から集まり、クラウド上に蓄積され、ディープラーニングが始まるまでには、相当の時間がかかるでしょう。

 それとも開発者側であらかじめ介護に関する情報データベースを作成するのでしょうか?それには相当のコストが必要になります。

  普通に考えれば、多くの現場でこのAIシステムが使われ、学習するべき情報が蓄積される方法をとるでしょう。

 つまりこのシステムが成功するには、多くの現場で利用されなければならないということになります。

 

 

システムが利用されなければケアプランAIは失敗する

 

 結局、上述のAIケアプランの作成の流れにおける下線部分は、ケアマネージャーが行わなければなりません。

 ケアマネージャーには情報収集と調整やコミュニケーションなどの仕事は残ります。

 

 このAIシステムが成功するためには、多くのケアマネージャーによって利用されなければなりませんが、利用されるには、何らかのインセンティブが必要です。

 たとえば、このシステムを活用することで、ケアマネ業務が軽減され、現在の受け持ち担当者数を超えて仕事をすることが可能になり、国も規制緩和し、収益増加につながるようなインセンティブです。

 

 でなければ多くのケアマネージャーはこのシステムを利用しないでしょう。

 全国のケアマネが活用し、それによりディープラーニングが加速しなければこのケアプランAIは成功しないと思います。

 

 

AIケアプランはケアマネの資質の向上に寄与するか

 

 ディープラーニングが加速し、ケアプランン自体の精度が向上することは、ケアマネジメントの資の向上につながるとは思います。

 しかし、ケアマネージャーの仕事はケアプランを作成することだけではありません。

 

 ケアマネの仕事はケアマネジメントを進めて、利用者の心身状況の維持向上と自立を推進していくことです。

 

 たとえば、

  • 下肢筋力の維持向上のための運動をさせたくてもしようとしない利用者
  • 訪問介護を受け入れない家族
  • 食事管理ができない糖尿病の利用者
  • ターミナルにおける家族ぐるみのコミュニケーションのケア
  • 認知症家族に対する認知症の理解を促すケア

 などなど、ケアプランの内容とは別に、ケアマネージャーが関与しなければ前に進まないことは沢山あります。

 

 そして、ケアマネの資質として必要とされているのは、上述のようなケースでもマネジメントを進めていける能力でしょう。

 

 実は、ケアプラン自体はアセスメントの時点である程度のパターンが見えていることも多いのではないでしょうか。

 

 多くのケアマネージャーが、ある程度パターン化されたケアプランをカスタマイズしてその利用者に適したものにしてゆく作業を行っていると思います。

 

 もしこのAIがそのようなパターン化されたケアプランを作成するだけなら、たぶん利用価値は無いでしょう。そのパターンはすでにケアマネの頭の中に入っていますから。

 

 

使えるAIシステムでなければ失敗する

 

 利用価値がないAIシステムでは情報も蓄積できないので。このケアプランAIは失敗すると思います。

 

 ケアプランAIのシステムが成功するには、まず、できるだけ多くのケアマネージャーが利用するシステムにしなければなりません。

 

 先にも述べたように、業務の軽減と収益向上に結び付くシステムでなければ利用はしないでしょう。

 

 ケアマネージャーの資質の向上はその先にあることであり、筋トレの必要な利用者に筋トレをさせられるAIは開発できません。

 

 もしかしたらロボットケアマネージャーが開発され、人間のケアマネージャーは要らなくなるかもしれませんが、おそらくそのレベルのロボットはもう人間と変わりません。