ケアプランAI(人工知能)の開発がスタートしました。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF14H0Q_U7A410C1EA4000/
このシステムが稼働すればケアマネージャーは要らなくなるのではないかという声もあります。
実際のところはどうでしょう?少し検証したいと思います。
ケアプランAIの仕組みを考える
ではケアプランAIは具体的にどのようにケアプランを作成するのでしょう。
居宅介護において、簡単にイメージ想定すると、以下のような流れになるのではないかと考えます。
①利用者の心身の状況の他あらゆる情報を収集し入力する(スクリーニング)
②利用者情報はクラウド上のデータベースに照会され、その人の状態が評価される(AIによるアセスメント)
③アセスメントによりAIはその人に必要なサービスを選択する
④選択されたサービスによりAIケアプランが作成される
⑤AIケアプランを本人や家族の意向に合わせて修正する
⑥修正されたAIケアプランに合わせてサービス提供事業者を選択し入力
⑦ケアプラン原案(暫定ケアプラン)の完成
⑧サービス担当者会議開催(議事録等の入力)
⑨ケアプラン完成→サービス提供票・週間サービス計画表に反映
⑩AIがモニタリングすべき項目を作成→人による確認修正
⑪モニタリング情報の入力
⑫長期・短期目標についてのAI評価→人による確認
⑬AIが再アセスメントに必要な、収集すべき情報を提示
⑭情報の再収集・追加入力
最初からここまでの作業が整備できるとは思えませんが、実際に使えるAIケアプラン・システムになるにはこの程度の業務能力が必要ではないかと考えます。
医療分野ではAI診断がすでに始まっている
近い将来、身近なクリニックなどでもAI診断が実現すると考えられています。
https://cs.sonylife.co.jp/lpv/pcms/sca/ct/special/topic/index1704.html?lpk=
とは言っても治療判断を行う医者が必要なくなるわけでは無いでしょう。
しかし、1次診断などのスクリーニングでは活用されるのではないでしょうか。
カルテ情報共有と連携して地域医療改革の推進に役立つことが期待されます
医学の歴史は人体と病気の情報化の歴史でもあります。血液やDNAなど人体のあらゆる状況を情報化し、病気を治すことに利用してきた歴史です。
病気に関わる人体の情報が膨大化している現代ではAIを活用することは避けられないことだと思います。
AIシステムには膨大な情報データベースが必要
AIの能力としての真骨頂は、膨大な情報を処理しディープラーニング(深層学習)と言われる仕組みを通して、AIそのものが成長するところにあります。
https://www.nttcom.co.jp/research/keyword/dl/(ディープラーニング説明)
人工知能というものは自ら学習し成長し、能力を向上させていくことが売りであり、そのためには膨大な情報が蓄積されなければなりません。医学ではその情報がすでに膨大に蓄積されています。
一方、介護分野ではこれからです。
介護サービスの多様な情報が日本全国から集まり、クラウド上に蓄積され、ディープラーニングが始まるまでには、相当の時間がかかるでしょう。
それとも開発者側であらかじめ介護に関する情報データベースを作成するのでしょうか?それには相当のコストが必要になります。
普通に考えれば、多くの現場でこのAIシステムが使われ、学習するべき情報が蓄積される方法をとるでしょう。
つまりこのシステムが成功するには、多くの現場で利用されなければならないということになります。
システムが利用されなければケアプランAIは失敗する
結局、上述のAIケアプランの作成の流れにおける下線部分は、ケアマネージャーが行わなければなりません。
ケアマネージャーには情報収集と調整やコミュニケーションなどの仕事は残ります。
このAIシステムが成功するためには、多くのケアマネージャーによって利用されなければなりませんが、利用されるには、何らかのインセンティブが必要です。
たとえば、このシステムを活用することで、ケアマネ業務が軽減され、現在の受け持ち担当者数を超えて仕事をすることが可能になり、国も規制緩和し、収益増加につながるようなインセンティブです。
でなければ多くのケアマネージャーはこのシステムを利用しないでしょう。
全国のケアマネが活用し、それによりディープラーニングが加速しなければこのケアプランAIは成功しないと思います。
AIケアプランはケアマネの資質の向上に寄与するか
ディープラーニングが加速し、ケアプランン自体の精度が向上することは、ケアマネジメントの資の向上につながるとは思います。
しかし、ケアマネージャーの仕事はケアプランを作成することだけではありません。
ケアマネの仕事はケアマネジメントを進めて、利用者の心身状況の維持向上と自立を推進していくことです。
たとえば、
- 下肢筋力の維持向上のための運動をさせたくてもしようとしない利用者
- 訪問介護を受け入れない家族
- 食事管理ができない糖尿病の利用者
- ターミナルにおける家族ぐるみのコミュニケーションのケア
- 認知症家族に対する認知症の理解を促すケア
などなど、ケアプランの内容とは別に、ケアマネージャーが関与しなければ前に進まないことは沢山あります。
そして、ケアマネの資質として必要とされているのは、上述のようなケースでもマネジメントを進めていける能力でしょう。
実は、ケアプラン自体はアセスメントの時点である程度のパターンが見えていることも多いのではないでしょうか。
多くのケアマネージャーが、ある程度パターン化されたケアプランをカスタマイズしてその利用者に適したものにしてゆく作業を行っていると思います。
もしこのAIがそのようなパターン化されたケアプランを作成するだけなら、たぶん利用価値は無いでしょう。そのパターンはすでにケアマネの頭の中に入っていますから。
使えるAIシステムでなければ失敗する
利用価値がないAIシステムでは情報も蓄積できないので。このケアプランAIは失敗すると思います。
ケアプランAIのシステムが成功するには、まず、できるだけ多くのケアマネージャーが利用するシステムにしなければなりません。
先にも述べたように、業務の軽減と収益向上に結び付くシステムでなければ利用はしないでしょう。
ケアマネージャーの資質の向上はその先にあることであり、筋トレの必要な利用者に筋トレをさせられるAIは開発できません。
もしかしたらロボットケアマネージャーが開発され、人間のケアマネージャーは要らなくなるかもしれませんが、おそらくそのレベルのロボットはもう人間と変わりません。