死にゆく人に心の安らぎをもたらすサービス
ターミナルケアサービスを提供する場合、死にゆく人の心のどのように安らぎをもたらしていくのか、訪問看護や介護の職員は悩むところです。
欧米ではキリスト教を背景にしたスピリチュアルケアが、普通に医療介護サービスの中に組み込まれており、ターミナルケアのチームの中にはキリスト教関係のスピリチュアルケアの専門家が加わっていることが多いようです。
日本人は無宗教の人も多いため、宗教哲学を背景にしたスピリチュアルケアがどの程度通用するのかわかりませんが、そろそろ現状のターミナルケアの中にスピリチュアルケアが適切に組み込まれるべきではないかと筆者は考えます。
日本のスピリチュアルケア
日本のスピリチュアルケアは宗教哲学を背景にいくつかの団体で既に取り組みが行われており、日本スピリチュアル学会には仏教やキリスト教の団体が加盟し、実践的活動を行っています。
この日本スピリチュアル学会では、スピリチュアルケア師という現場で実際にスピリチュアルケアを提供する専門家を認定しています。
1年程度のカリキュラムを履修し試験などに合格すると認定されるようですが、今のところこ各実践団体が独自のカリキュラムをつくり研修を実施してる状況のようです。
ただ、この資格を持っていて、専門的なサービスを提供しても、現在のターミナルケアサービスの中には報酬はありませんので、多くの団体はボランティア的もしくは自費によるサービス提供になっているようです。
現状のターミナルケアでは未整備のサービス
実際に死にゆく人のケアをした人であれば、どのように心安らかに死を迎えさせてあげればいいのか、何もわからずに取り組んでいることも多いでしょう。
介護の研修でもスピリチュアルなケアの在り方は抽象的なものも多く、具体的な事例演習なども行われません。実際に現場でターミナルケアサービスを提供している介護職員は行き当たりばったりでサービスに取り組んでいるのが現状だと思います。
厚労省はどう考えているのか
厚生労働省は看取りケア自体の重要性は認識していても、安らかに死を迎えていただくというサービスをどの程度重要と考えているのかよくわかりません。
緩和ケアの検討会などでその必要性が委員から発言されていますので、必要性は認識しているかもしれません。
社会コストの面では、施設や在宅でのターミナルケアは医療費低減の効果がありますから、積極的に推進したいのでしょう。しかし、スピリチュアルケア自体には社会コスト軽減効果が無いと感じているのでしょうか。
しかし筆者は、スピリチュアルケアが介護サービスに適切に組み込まれることは、病院死を減らす効果があると考えています。
死に対する不安を和らげるのは医療の役割ではない
死に対する不安が強くなると、精神状態や病状の悪化をもたらします。また、そうした不安定な患者を見て家族が不安に感じ、在宅での看取りをあきらめてしまったりします。
結局、設備の整った病院での対応が必要になり、最後は病院で亡くなることになります。
もちろんこのあたりの効果は今後、実証的な調査が必要になるでしょう。
しかし、訪問診療における在宅ターミナルが医学的に多くの患者さんに可能になっているにもかかわらず、本人や家族の不安を和らげるケアが無いために、施設や在宅でのターミナルケアができなくなっている現状は確実にあると思います。
安らかな死をもたらすサービスは既に求められている
筆者自身、両親を病院で看取っている経験上、病院で死を迎えることは、あまり安らかな死の迎え方ではないなと感じています。自分自身、あまりそのような死に方はしたくないと感じます。
安らかな死をもたらすための精神的なケアの技術は既に訪問看護や訪問介護のスタッフに必要になっていると考えます。
特に在宅ターミナルであれば、毎日のようにケアを提供し、ご本人や家族と会話をする訪問介護員には、現状の介護福祉士のカリキュラムレベル以上の専門的な技術が必要です。
専門的な技術教育の体系化が必要
看取りにおけるやすらかで精神的に安定した状態をもたらすサービスをどのように提供したらよいのか、その専門的な技術教育をどのようにやるのか体系化が無ければなりません。
すでに医学系の大学などで研究は行われていると思いますが、国としての方向性が出なければ現状は変わらないでしょう。
宗教的な背景を持たなくてもそうしたサービスは可能なのか、名称にしてもスピリチュアルケアで良いのかもわかりませんが、早急に日本人にマッチした方法論が確立することが期待されます。
混合介護の可能性も
筆者はそろそろ国としてこの分野の報酬の在り方を考えなければいけないのではないかと考えています。
在宅ターミナルが増えれば増えるほどその必要性を訴える声は大きくなるでしょう。
訪問看護や訪問介護事業所を経営する上でも、ターミナルケアにおけるスピリチュアルなサービスの提供をそろそろまじめに考えても良いと思います。
特に自費のサービスとしての提供は今でも可能ですし、今後、混合介護の中での扱いも検討されるでしょう。