訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その9

人材確保にとって重要な事業所のホームページ

 

 これまで、述べてきた働きやすい職場づくりを実践しても、それをアピールしなければ人材は集まってきません。

 また、求人誌やハローワークに載せる求人情報ではどのような職場かを知ってもらうには限界があります。

 そこで活用したいのが会社や事業所のホームページです。

 

 介護事業所のホームページは主に利用者やケアマネージャー向けにサービス内容の紹介や、事業所の場所などを紹介するために作成されていることが多いでしょう。

 しかし、仕事を探している人にとっては、このホームページが非常に重要な情報源となることを認識しなければなりません。 

 仕事を探している人は、求人誌やハローワークで求人情報を見て興味を持った場合、ほとんどの人がその会社や事業所のホームページを検索して、どんな職場なのかを知ろうとします。 

 そんな時、ホームページが事務的な内容でしかない場合、また、働きたいと思わないような内容であった場合、その人は応募することを控えてしまうでしょう。

 ホームページの内容が充実していて、職場の雰囲気が良く伝わってくるようなものであり、「良い雰囲気だな」と思えば応募してくれる確率も高いと言えます。

 

 

無料でホームページを作ることもできる

 

 ホームページを作るにはお金がかかると思っている方も多いでしょうが、無料で作成する方法もあります。

 多少のパソコンの知識があれば作成は可能です。

 もちろん作業時間が必要になりますが、外注で作るにしても、人手不足の悪循環から脱出するためには、多少の投資は必要であると考えます。

 

 現況で筆者が使ったことがある無料ホームページ(ウェッブサイト)では以下のものが使いやすかったと感じています。

 多少広告が入りますが、写真などのコンテンツがあれば簡単にホームページを作成することができ、専用のソフトを使うよりも簡単です。

  https://jp.jimdo.com/

 

 他にも無料で作れるサイトは多くあります。どこにするか選択するヒントとしては、自分の好みのテンプレートがあるかどうかで良いと思います。デザインの趣味などが自社にあっているものを選びましょう。

 https://bge.jp/free-homepage/

 

 

どんなホームページを作るのか

 

 ではどのようなホームページを作れば良いのでしょう。

 一言でいえば、「職場の雰囲気が伝わるホームページ」だと思います。

 

 デザインのかっこいいイカシタホームページである必要はありません。そこで働いているスタッフやご利用者の雰囲気が伝わってくるホームページが、人材確保には有効なホームページだと思います。

 もちろん、これまでに述べてきた働きやすさのアピールもしっかり行いたいものです。

 筆者が関わっている会社の例を以下に紹介します。

 

 株式会社ケア・プランニング

 http://www.best-kaigo.com/

 株式会社ナック(さんしゃいんヘルパーセンター)

 http://sunshine-helper.com/

 

 ホームページを作る場合のポイントは以下のようになります。

 

1 スタッフの働いている姿が分かる

 写真はできるだけたくさん掲載することをお勧めします。写真が多ければ多いほど雰囲気は伝わりやすいです。

 その際、ご利用者とスタッフの触れ合いの場面など、仕事が楽しく行われている雰囲気が伝わる写真が、多いと良いでしょう。

 なお、ご利用者の写真を掲載する場合は、許諾を得る必要があります。

   「肖像権使用同意書例」

    http://www.caremanagement.jp/?action_download_detail=true&lid=2681

 

2 求人情報のページを必ず設ける

  ここで働きやすさをアピールします。

 

3 事業所の特徴があれば積極的にアピールする

 上に紹介した株式会社ケア・プランニングでは、小規模多機能居宅介護にソフトバンクのペッパーがいてそれが特徴として前面に紹介されています。なんだか楽しそうな職場です

 

4 スマホで見た場合もきちんと伝わるように作成する

 最近はPCを持っていない人もいますので、スマホでも見られるサイトにしなければなりません。

 

 なお、業者に発注する場合、上記のようなコンセプトを明確に伝えないとステレオタイプな、どこにでもあるようなホームページになってしまう場合があります。

 また、更新のたびに料金が発生してしまう場合もありますから、よく相談して発注したほうが良いでしょう。

 自作の場合はそのリスクはありませんので、自作できたらその方が良いかもしれません。

 

 

各種ネット資源を活用する

 

 ホームページは1度作成したら、求人情報以外あまり更新する必要の無いように作成するのが良いと思います。

 そのかわり、FacebookやInstagramなどのSNSを活用し、イベント情報や日々変わる情報をアップしていきます。

 ホームページにリンクしたり埋め込んだりすることで、訪れた人に事業所の動きが伝わるようにしましょう。

 

 また、YouTubeなどに動画をアップしてホームページ埋め込むのも効果的ですホームページ埋め込むのも効果的です。例えば新人スタッフの紹介など、テキストを入力しなくても簡単にできるので便利だと思います。

 

 訪問介護や訪問看護の場合、仕事の現場を撮影した動画があまりネットにアップされていません。

 仕事の内容を知ってもらうためにも、そのような動画を掲載するのもアイデアだと思います。

 

 

 この回、終了。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その8

今回は求人の工夫について紹介します。

 

求人会社(媒体)選びのポイント

 

 求人売り手市場の現在、企業はあの手この手で人材確保をしようとしています。特にパート人材の確保は難しく、飲食系やコンビニは悪戦苦闘している状況のようです。

 

 そんなとき求人会社(媒体)は何を選べばよいか悩むところでしょう。現状では特にパートスタッフに関してはハローワークに求人を出してもほとんど反応は無いでしょう。

 

 求人会社(媒体)選びは地域によっても違いがありますのでどこが良いとは一概には言えませんし、求人業界が好景気で新規参入者も多く玉石混合の状態です。

 介護求人は四六時中求人出ししていなければ、なかなか人が集まらない状況です。継続的に求人を出し続けるためには、ネット求人の方が有利でしょう。

 ポイントは以下のように整理できると思います。

 

1 ハローワークには一応出しておく(3か月ごとに更新)

 最近、ハローワークの求人検索のデータベースにリンクを張って求人情報を掲載している民間サイトが増えています。

 その意味でもハローワークには一応掲載し、定期的に更新しておく姿勢が必要でしょう。更新しないと優先順位が下がってしまいます。

 

2 掲載無料の成功報酬型の求人会社(媒体)を選ぶ

 掲載課金型は掲載料が掛かるだけですが、掲載期間が終わると再度掲載しなければならないので継続的に求人を出すにはコスト負担が大きいです。

 応募課金型は応募があったら課金される仕組みですが、面接まで行ったら課金というように、サクラの応募を排除しているような場合はOKですが、単なるネット上の問い合わせにも課金されるようであれば避けた方が良いでしょう。

 採用成功した場合のみ課金される掲載無料の求人サイトをお勧めします。

 

3 地域で強い会社(媒体)があればそれを選ぶ

 地方では大手でなくても求人情報力の強い会社があるようです。介護事業所は地域密着型ですので、地域の人たちに情報が届きやすい会社(媒体)を選ぶことが重要です。

 首都圏は概ね大手が強いため、そのような会社(媒体)は無いかもしれません。

 

4 高額の祝い金を出すような会社(媒体)は緊急時以外使わない

 昨今、看護師などで高額のお祝い金を出す会社(媒体)がありますが、当然費用は事業者持ちです。祝い金を貰ってすぐに辞めてしまうような人もいるようですので、緊急に人材を確保しなければならないような時以外はあまりお勧めできません。

 

5 広告などの露出の大きい会社(媒体)を選ぶ

 求人事業というのは漁業に似ています。魚がいそうなところに網を張ったり、撒き餌をして魚を捕るのが漁業です。求人事業も仕事を探す人を沢山引き付けている会社(媒体)が一番儲かるのです。

 そのためには効果的に網を張り撒き餌を撒かなければなりません。それが広告です。

 テレビや各種媒体で仕事を探している人にアピールしている会社に、やはり人は集まってきます。

 最近この求人会社の広告よく見るな、という会社があったらそこを利用してみるのも手でしょう。

 もしそこが、成功報酬型の掲載無料サイトであれば、それがベストです。

 

 

求人情報の掲載方法

 

 これまで述べてきた働きやすさなどのポイントをできればアピールしたいものです。

 

 具体的には以下のような感じです。

 

「子育てママのための短時間正社員制度あり!!」

「急な子供の病気で休んでも正社員がしっかりフォーロー!!」(パート向け)

「長期有給休暇取得制度あり(10日の長期休暇が取れます!!)」

「パートさんの有給取得支援制度あり!!」

「初心者・介護無資格者歓迎、丁寧に指導しますので不安なく働けます!!」

 

 などなど、差別化できるポイントをアピールできると良いでしょう。

 

 筆者は研修などで、介護の仕事を探している人に求人情報を見る際、注意する点として以下のことを教えています。

 求人をする際、参考にしてください。

 

1 給与は総額よりも公正さが重要

 給与総額が高くても必要に応じ各種手当が公正に出ていなければ結局同じです。介護事業の給与は収入が介護給付ですからそれほど差別化はできないものです。

 高い給与をアピールしてくる会社よりも残業や資格、研修手当や移動手当などが公正に支払われているかが重要です。

 賃金を公正に支給する仕組みがしっかりとしている会社は、人事がしっかりしており、人事がしっかりしている会社は概ね会社自体もしっかりしています。

 

2 年間休日日数の多い会社は働きやすい

 年間休日日数がほかの会社よりも多い会社を選んだ方が、当然休みが多く働きやすい会社と言えます。

 

3 月に1回程度研修がある事業者を選ぶ

 これは問い合わせたり面接で聞くしかありませんが、月1回研修のある事業所は各種加算を算定しているはずですから、収入に余裕があり、他の事業所よりもきちんとしていると考えられます。

 

4 各種支援制度が充実している

 資格取得や産休育休などへの支援制度の充実をアピールしている会社はそれだけ社員を大切にしている会社であると言えます。

 

 

 

 次回は求人におけるホームページの重要性について紹介します。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その7

ワークライフバランスとは

 

 日本では主に政府が主導して男女共同参画の観点から進められている運動です。

http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/20barrier_html/20html/charter.html

 その背景には少子化問題(国力低下の問題)があり、働きながら子育てしやすい社会の構築が目指されている感があります。

 しかし、何も子育てだけがワークライフバランスの「ライフ」に当たるわけではありません。

 

 人によっては当然ワーク=ライフの仕事人間の人もいるわけで、人それぞれのワークライフバランスがあるでしょう。

 

 人材不足の現況、企業としては「多様な働き方を受け入れていく」ことで、人材を確保することが望まれています。

 この「多様な働き方」というのが人それぞれであり、また、人生のそれぞれの場面でも変わってきます。

 

 女性や高齢者、障害者も含め、さらに人生の様々な場面でその人にとって働きやすい働き方というものがあります。それらをできるだけ受け入れて労働力を確保するということが必要になるでしょう。

 

 この記事で述べてきた、スタッフの定着のための様々な方策も、まさにワークライフバランスの充実のための方策と言って良いでしょう。

 

 

介護の職場はワークライフバランスに適した職場

 

 「多様な働き方を受け入れていく」という意味では、介護職場はそれを実現しやすい職場です。その辺のことは既に述べてきました。

 男性の場合、給与が安いという意味で一生の仕事ではないという人もいるかもしれませんが、起業すればそれなりの収入を得ることは可能です。

失敗しない介護・福祉起業

 

 ただ、介護企業側がそのことをしっかり認識し、短時間正社員制など、多様な働き方の設定をしっかりと構築し、さらにそれを周りににアピールしなければあまり意味はありません。

 介護事業が多様な働き方ができる職場であることを、経営者がまず認識しなければ、ワークライフバランスの推進はできないでしょう。

 

 

ワークライフバランスを意識した就労制度とは

 

 では介護事業所としてどのような多様な働き方を設定できるでしょう。以下に例を挙げます。

 

1 短時間正社員

 通常週40時間のところ、週30時間などと短縮しても正社員とする制度です。

 朝晩の保育園の送り迎えなどがあるママさんなどにとってはありがたい制度です。子供に手がかからなくなった時には40時間勤務に切り替えます。

 厚生労働省では「短時間正社員制度導入ナビ」を公開しています。事例紹介では介護事業所の事例も出ていますので参考にしてください。

https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/

 

2 土日祝日休み職員の設定

 訪問介護事業所などは365日営業が多いため、土日祝日が休めないイメージがあります。この点に配慮して、土日祝日が休める正社員制度を設定します。

 ワークライフバランスを意識した場合、このことは大変重要で、子供のいる家庭では土日祝日が休めない場合、家族に対する負担は大きくなります。

 介護職場が人気が無いのはこのことが原因ではないかと筆者は考えています。

 

3 有給休暇の取得奨励制度(パートスタッフも含む)

 有給休暇を計画的に取得させる制度です。

 例えば、年間10日以上の有給休暇取得計画を毎年社員に提出させます。これはパートスタッフにも適用されることが重要です。

 管理者はそれを前提に、年間のシフトなどを設定します。休暇がかぶってしまうような場合はずらしてもらう必要も出るでしょうが、その辺はスタッフ同士で調整しあうような仕組みにすると良いでしょう。

 パートスタッフの場合、勤務年数によって取得できる有休休暇日数が法律で決まっています。支給される給与は、通常その人が1日に貰う給与や平均給与を適用するようです。 

 訪問系介護事業所では高齢のパートスタッフも多く働いています。こうした方々にとってはこの制度はとても人気があります。

 日本人は休むのが苦手な民族のようです。しかし、人生100年時代、人生を楽しみながら長く働くためには長期休暇がもらえることはとても重要なことだと思います。

 

4 産休・育休・介護休業制度の周知と復帰の奨励

 中小企業の場合、女性に子供ができると仕事を辞めなくてはならないという風潮もあるようです。また、子供を産んだ後も育てながら仕事に復帰することに困難さを感じる場合もあります。

 先に挙げた短時間正社員制度などを導入し、妊娠時や復帰後の勤務軽減など、子育てしながら働きやすい職場を社員にアピールすることが大事です。

 若い人たちは産休・育休制度自体があることを知らなかったりします。求人の段階から子育て支援の整備された会社であることをアピールし、管理者などが説明していくと良いでしょう。

 周りに産休・育休・介護休業を取得して復帰したスタッフがいるとより効果的だと思います。

 

5 長期休業の取得制度

 例えば、勤続5年以上の場合、最長1年間、無給にて休業できるというような制度です。学校に通うような場合は、2年から4年に増やす規定も可能でしょう。

 しかし、現在の日本の労働制度の場合、休業中の社会保険の問題などがあり、若干導入はしにくいようです。今後の制度改善が望まれます。

 

 いくつか例を上げさせていただきましたが、上記の制度類を導入するには、職場に人的な余裕があることが大切です。そのためにもスタッフの定着の好循環を生み出していかなければならないでしょう。

 

 なお、このような制度を導入するためには就労規則などを改正しなければなりません。その費用を助成してくれる制度があります。

 また、介護労働者の負担軽減の助成金や仕事と家庭の両立のための助成金もあります。詳しくは社労士に相談いただければと思います。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/teityaku_kobetsu.html

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html

 

 

次回は、求人のための工夫について紹介します。

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その6

スタッフの運動器系トラブル対策

 

 前回の続きです。

 

6 リフトやスライドボードなどの福祉用具の活用を図る

 

 昨今、老人ホームでは腰痛による退職防止策として、リフトの導入が進んでいます。

 訪問介護ではなかなか、そういうわけにはいきませんが、福祉用具相談員とよく話し合い、それぞれの利用者に適した福祉用具を導入してもらうように検討しましょう。

 体重の重い利用者など福祉用具の活用が有効なご利用者の場合、ケアマネージャーやご本人によく説明をし、適切な機器の利用を進めるべきでしょう。

 そのような我儘は言いにくく、我慢した結果、スタッフが腰を痛めてしまい、サービス提供が継続できなくなった例などが見られます。

 スタッフの腰痛予防のための福祉用具の導入は我儘でなく、サービス提供を継続するための適切な方策であると考えるべきです。

 

7 腰痛対策商品を活用する

 

 最近は腰痛予防の様々な商品が開発されています。

https://innophys.jp/musclesuits(マッスルスーツ)

http://www.morita119.com/rakunie/(腰部サポートウェア)

 コストの問題もありますので、導入するかは検討が必要かもしれませんが、いざというときに事業所に一つあると心強いかもしれません。

 例えば、おんぶして階段を上がらなければならないようなサービスの時は重宝するかもしれません。

 なお、腰痛ベルトなどを日常的に着用することは、筋肉量低下の原因になるため、推奨されません。現場で負荷の高い作業する時だけ着用するのがポイントです。

 

8 人により業務の内容を調整する

 

 老人ホームではスタッフ全員がある程度一律の業務を実施する必要がありますが、訪問系のサービスの場合スタッフの能力により業務を調整することが可能です。

 非力なスタッフには、負荷の軽い業務を回し、負荷の重い業務は体力のあるスタッフに回すことができます。

 スタッフの定着のためには、この辺の調整をシフトで行う気遣いが重要になると考えます。また、先にも述べた通り、スタッフが「自分にはこの業務はきつい」と気軽に言える雰囲気が職場にあることが重要でしょう。

 業務を適材適所で行っていくためには、女性や男性、若者や高齢者など、バラエティーに富んだスタッフが所属していることが理想ですが、そのためにも、スタッフが職場に定着することが大切になります。

 

 

メンタルヘルス ─ 「世話不足の悪循環」の違い

 

 職員のメンタルヘルスは介護事業に限らず、企業が取り組まなければならないこととして、近年クローズアップされています。

 しかし、前述したスタッフに対する気遣いが不足していることによる「世話不足の悪循環」をメンタルヘルス対策で解決することはできません。

 新人スタッフが仕事のことで悩んでいるのは、厳密に言えばここでいうメンタルヘルスの対象では無いと考えます。

 それはスタッフの指導育成体制の問題であり、社内に「職場の悩み相談担当」を設置しても解決しないでしょう。

 職場のメンタルヘルスを考える場合、まず、新人スタッフがすぐに辞めない指導育成体制ができている前提で考える必要があります。

 

 

精神疾患の職員に対する対応

 

 病気と言えないまでも精神的な負担は退職に直結します。

 気分が落ち込むような仕事や職場では継続しようがありませんが、それが仕事や職場によるものかは人によって様々です。

 スタッフにとって居心地の良い職場であれば、精神的な負担も最低限なものになるでしょう。しかし、精神疾患はそれだけでは防ぐことはできません。家庭や恋愛など職場とは違う場所に原因がある場合も多いのです。

 

 うつ病や他の精神疾患の状態にあるのに、本人がそれに気づかず(もしくは認めず)医者にかからないために、欠勤や遅刻などを繰り返す場合があります。

 このような場合は、適切なメンタルケアが必要になりますが、中小企業の内部だけでは適切な対処はできないでしょう。専門家に任せる必要があります。

 費用を負担してあげれば、業務命令として(仕事として)適切な医師の診断を仰ぐことができますので、医師に任せるのがもっともよい方法方です。

 本人にどのように説明するかなどは社労士さんと相談すると良いでしょう。

 

 東京都では職場のメンタルヘルスを支援するサイトを開設していますのでご活用ください。

 http://www.kenkou-hataraku.metro.tokyo.jp/mental/

 

 

年に1回のメンタルヘルスチェックからの業務環境改善

 

 定期健康診断と同様に、年1回スタッフ全員のメンタルヘルスチェックを実施することをお勧めします。チェック表は以下をご活用ください。

http://www.kenkou-hataraku.metro.tokyo.jp/mental/self_care/check.html

 

 ただ単にチェックするだけでなく、結果を業務環境の改善につなげることが重要です。

 それがスタッフ定着に繋がります。

 また、本人の自覚を促すきっかけにもなります。本当は疲れているのに頑張ってしまっている人や、本人にも気づかない精神の状態をあぶりだしてくれます。

 

 そのため、チェックを人事考課や能力評価と一緒に行うと良いでしょう。

 チェック結果について上司と話し合うような仕組みにすることで、より業務環境の改善に繋げることができると考えます。

 

 次回はワークライフバランスについてご説明します。

 

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その5

 

スタッフの健康管理は事業者の責務

 

 労働安全衛生法では、事業者は常時雇用する職員に会社負担で定期健康診断を受診させる義務があります。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf

 

 常時雇用する職員とは概ね週30時間以上働く、契約期間の定めのない労働者で、パートスタッフも含みます。

 

 訪問系のパートスタッフの場合、週30時間以上の労働実態が無いため(1日の訪問時間が6時間以上ないと週30時間を超えることができない)、事業者によっては健康診断を実施していない場合もあるようです。

 しかし、訪問介護の場合は週30時間以下のパートスタッフも含めて会社負担で健康診断を受診しないと、特定事業所加算を算定できないことはご存知でしょう。

 

 訪問看護でもサービス提供体制強化加算を算定するためには同様に事業者負担で定期健康診断を実施する必要があります。

 

 いずれにしても、介護事業においてはスタッフの健康管理は事業者の負担で、事業者の責任で進めていく必要があると考えます。

 

 ただ、パートスタッフは扶養者の保険で定期健康診断を受診したり、40歳以上の人の場合区市町村の特定検診を受診している場合があります。

 

 この場合は事業者の実施する健康診断を受診せずに、それぞれのスタッフが受診する健康診断の自己負担部分の費用を事業者が負担してあげればOKです。

 

 なお、労働安全衛生法では、健康診断の結果(健康診断票のコピー)を、保存しておかなくてはなりません。

 

 

スタッフの定着には腰痛など運動器系トラブル予防が大切

 

 定期健康診断は主に内蔵系の生活習慣病などの検査が中心になります。

 

 しかし、介護スタッフには腰痛や関節炎、肉離れなどの運動器系トラブルに見舞われることが多く、これは辞職の原因に直結します。

 

 腰痛などの運動器系トラブルはその人の身体的な特徴によるものが多く、また、年齢による違いも大きいでしょう。

 

 中年女性や高齢者にパートスタッフとして大いに働いてもらわなければならない介護事業では、スタッフの運動器系トラブルをできるだけ減らすことが、スタッフ定着のための重要な方策になります。

 

 しかし、腰痛などの原因は複雑であり、様々な原因があるため人それぞれ対策が異なる場合があります。

 厚生労働省では社会福祉施設の介護従事者の腰痛予防対策を冊子にしています。内容はかなり専門的で複雑ですが、腰痛予防のストレッチなどは参考になるでしょう。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000092614.pdf

 

 ただ、これはあくまで老人ホームなどの一定の環境での対策です。訪問系の現場ではそのまま導入することは難しいでしょう。

 そこで、スタッフの腰痛などの運動器系トラブルに対する簡単な対策を以下にまとめてみました。これだけで、全てのスタッフの腰痛や運動器系トラブル予防ができるわけではありませんが、少しは辞職の防止につながるとは思います。

 

【スタッフの運動器系トラブル対策】

 

1 負荷の高いサービス提供前にストレッチなどの準備体操を義務付ける

2 ボディメカニクス研修などを定期的に実施する

3 スタッフの運動習慣を支援する仕組みを整える

4 体組成計などにより個人の筋肉量を計測する

5 研修等で個人の栄養管理の啓発を行う(特にタンパク質)

6 リフトやスライドボードなどの福祉用具の活用を図る

7 腰痛対策商品を活用する

8 人により業務の内容を調整する

 

1 始業前に腰痛体操などの準備体操を実施する

 

 訪問先で、移乗などの筋肉に負担がかかるサービスの前には、必ずストレッチなどの準備体操を実施することを、業務の手順の中に加え義務付けます。

 筋肉系のトラブルの場合、筋肉が温まっていない状態での急な負荷が原因になることが多く、負荷の高い介護をする前には、必ず実施するようスタッフに指導します。

 準備体操は、できれば訪問先の家の中に入る前に実施すると良いでしょう。ご利用者の前で行うと、ご利用者がつらい気持ちになってしまうかもしれません。

 

2 ボディメカニクス研修などを定期的に実施する

 

 年に1回は集合研修で行い、同行訪問などの時も現場でしっかりボディメカニクスの原則を確認すると良いでしょう。

 

3 スタッフの運動習慣を支援する仕組みを整える

 

 スタッフの腰痛予防や運動器系トラブルに対する研修の中で、日常的な運動の奨励をする一方、スタッフが気軽に参加できるトレッキング会や街歩き会などを社内で開催したり、スタッフが地域スポーツに参加するための補助金を出すなど、スタッフの運動習慣獲得に対する支援を進めることも良いことでしょう。

 介護予防の観点からも40歳ぐらいからの運動習慣は重要視されています。中年以上のスタッフには特に意識してもらうことが重要でしょう。

 

4 体組成計などにより個人の筋肉量を計測する

 

 ご存知のように高齢になれば筋肉量は減っていきます。筋肉量の減少が運動器系のトラブルに直結することは明らかですから、スタッフが筋肉量を計測し、自分の筋肉量が平均より少ないのか多いのかを知ることは、運動器系トラブルを予防する第1歩になります。

 

5 研修等で個人の栄養管理の啓発を行う(特にタンパク質)

 

 筋トレなどの運動をしなくても、必要なタンパク質量を適切に摂取すれば、筋肉は増えます(その代わり体脂肪が減ります)。ですから、日々の食事でタンパク質をどのくらい摂取すべきかをスタッフ研修などで意識付けさせます。

 なお、運動で身体を動かす習慣がある方は、1日に

自分の体重×1.2~1.3g (例:体重70kg×1.3=1日に必要な目安91g)

 摂取しなければなりません。

 ちなみに、91g摂取するには、赤身の牛ステーキ500g、牛乳なら3リットル程度必要です。

 

 昨今の研究でどうやら、若い人は炭水化物を摂取しても筋肉に変える能力がああるが、年を取ると、タンパク質を直接摂取しないと体脂肪ばかり増えて筋肉量が減っていく傾向があるようです。

(サルコぺニアの原因 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/sarcopenia/about.html

 中年以上のスタッフには特にこの点を意識付けする必要があるでしょう。

 

次回はこの続きとメンタルヘルスについて説明します。