1 人手不足にもがく日本の介護─厚労省の企みは
厚生労働省は通所介護と訪問介護を一体化した介護サービスを創設する方針を示しました。これは介護の人手不足で、特に訪問介護のサービスが提供できない事態が多く起こっていることに対応するものでしょう。
要介護1・2のサービスを区市町村に移管するにあたって、通所介護と訪問介護を柔軟に一体的なサービスとして提供できるようにするためでもあるかもしれません。
国は、区市町村の保険者としての責任と能力の強化を目指しています。
これは区市町村が保険利用者へのサービスを、いかに効率的に提供できるようにするかを前提にしており、そのための創意工夫がやりやすいようにしているのだと考えます。
しかし、通所介護の人員が余っているわけではありませんので、人手不足が解消しない限り、サービスが提供できない状況はあまり大きく改善しないと考えます。
2022年、介護事業所の倒産件数が最高を示したのは、コロナを原因とするだけでなく、人手不足が大きな要因です。
サービス提供責任者などの役付きの職員が退職してしまえば、介護事業は継続できません。今後は、物価と賃金の上昇により、事業所の賃料や人件費が上がり、さらに経営は困難になることが予想されます。
2 障害福祉分野は特に深刻
一方、障害者福祉の分野では、障害者権利条約の批准内容に対して国連から複数の勧告を受け、日本の障害者福祉行政には問題があり、障害福祉の後進国であるということが明らかになりました。
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/474044.html「障害者権利条約 国連勧告で問われる障害者施策」
国家予算の半部が社会保障費である日本では、国連が目指すような障害者福祉は、お金がなくて到底は無理というのが筆者の考えですが、それに関しては以下のブログで書いていますので、参照ください。
https://carebizsup.com/?p=1501「これからの障害者福祉サービスの動向」
介護にしても障害福祉にしても結局は税収・予算が少なく、人件費を上げられないのがすべての原因ですが、国民は税金を上げることには消極的です。
おそらく、EUのように消費税15%にするぐらいの勇気が無ければ、理想的な社会保障サービスは実現しないでしょう。
筆者は自治体などの行政対応の実感から、国が高齢者介護よりも障害者福祉にお金をかけたくないのだなという志向を感じています。
具体的には、障害者事業への参入障壁が、高齢者介護よりも高く、例えば、高齢者の介護事業の指定申請は簡便になってきているのに対し、障害福祉の指定申請の手続きが厳しく、煩雑になってきている実態があります。
さらに政治的には高齢者介護に比べ、障害者福祉は票になりにくいという実態があります。参院選の比例区のような選挙システムを使って、当事者がもっと声を挙げなければ、日本はますます、障害者に冷たい国になってしまいます。
3 人手を増やさずサービス量を増やす必要
さて、とはいえ、適切なサービスが受けられない高齢者や障害者が増えていくことは悲しいことです。
国は「互助」「自助」の強化を謳っていますが、ボランティアなどのインフォーマルなサービスによる互助は、日本ではあまり期待できません。
https://carebizsup.com/?p=1551
「日本人のチャリティー参加は世界最低基準──日本の「互助」は機能しない」
従って、現状の枠組みで、サービス量を増やす工夫を考えてみたいと思います。特に訪問介護(障害居宅介護)の分野で考えてみましょう。
一つの方法として、独立訪問介護士という考え方がありますが、これは以下のブログでまとめています。
https://carebizsup.com/?p=1493「独立訪問介護士の可能性」
しかし、これを実現するためには大幅な法改正が必要なので、現状制度でできることを考えます。
4 「在宅型サービス提供責任者」という就労システム
現状、サービス提供責任者(サ責)は訪問介護と障害居宅に共通の職務であり兼務も可能です。高齢者では担当は40人程度という制限がありますが、障害居宅では特に制限はありません。
資格としては実務者研修修了以上であり、利用者のアセスメント、訪問介護計画書の作成、ケアマネージャーとの調整が主な任務です。1事業所に最低、一人の常勤者が必要です。
在宅型サービス提供責任者は、常勤のサ責が一人以上いることを前提に、主に在宅から現場に直行直帰で勤務するサ責です。
通常のサ責は担当の利用者に対するサービスに関して責任を負います。具体的には実際に訪問するヘルパーの業務管理が主な仕事になります。
人手不足の事業所の場合、ヘルパーの人数が足りず、サ責自らサービス提供に訪問しているケースも多いでしょう。しかし、理想としては、実際に訪問するのはとう登録ヘルパーなどで、サ責は事業所に居て、各ヘルパーの業務を管理するマネージャー的役割が求められていました。
「在宅型サ責」は、従来のサ責業務と違い、サービスそのものもサ責が行う業務方法です。もちろんヘルパーを管理する業務を行っても良いのですが、できればサービスと提供責任を自己完結的に集約するやり方の方がメリットは大きいと考えます。
次回は「在宅型サ責」の具体的な働き方を説明します。