通所介護 実地指導で準備しておきたい書類 ガイド その3

◆事業運営上必ず整備しなければならない書類

 

 既に整備されている事業所も多いとは思いますが、ときどき内容を確認し、事業所の実態と整合性が取れているかを見ておくことも大切ではないかと思います。

 

(1)指定申請書の写し

 

指定申請書には以下のものを含みます。以下の内容に変更があった場合は変更届を提出していなければなりません。

 

①履歴事項全部証明書(申請時)

②事業所の平面図

③運営規程(利用料その他の費用、実施地域等の確認)

④従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表(管理者・生活相談員・看護師などの氏名及び兼務関係が明示されている)

⑤上記の従業員に関わる資格証

⑥労働者派遣会社と事業者との派遣に関する契約書の写し(看護師・機能訓練指導員等)

⑦建築物の法令適格確認書類

 

そもそも、指定申請書は申請時に写しを保管しておくことが大切です。そのことの説明が申請時に無い場合もありますので、新規申請時には注意しなければならない事項です。

 

 

(2)変更届の写し

 

上記、指定申請書関係の変更届の写しです。こちらも提出時は必ず写しを保管しておくように注意しなければなりません。

変更届が必要な場合の変更内容は以下の通りです。

 

①会社登記事項の変更(会社名、本社住所・電話・FAX番号、代表者及び役員、代表者及び役員の住所)

②事業所(施設)の名称・住所・レイアウト・改築・電話番号・FAX番号など

③管理者の氏名及び住所

④生活相談員、看護職員、機能訓練指導員

⑤運営規程(営業日、営業時間、サービス提供日、サービス提供時間、単位数、利用定員、従業者数、通常の事業の実施地域、利用料等)

 

営業日等が増加した場合は生活相談員などの人員補充が必要な場合があります。

 

変更届については各担当行政にご確認ください。東京都の場合は以下を参照ください。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kourei/hoken/kaigo_lib/tuutitou/7_tuukai.html

 

 

(3)運営規程

 

運営規定の内容は実態に合っている必要があります。運営規定の変更届を行わずに勝手に営業時間等を変更してはいけません。

 

また、従業員数が変更している場合は変更届を出さなければならない場合があります。

自治体によって対応は異なるようですが、東京都の場合は申請時に以下のような記載をして有れば変更届は必要ないようです。

 

通所介護従事者

 

生活相談員 1名以上

介護職員 1名以上

看護職員 1名以上

 

運営規定に添付される利用料金は、介護保険料が改定になるたびに変更する必要がありますが、自治体により変更届が不要な場合がありますので、確認しましょう。

 

 

(4)契約書

 

契約書の内容については特に国として定めたものはありませんが、介護保険サービスが利用者と事業者の契約により提供されることや、サービス提供に関わる合意内容の明確化や紛争の防止を考慮し、わかりやすい内容であることが望まれます。

自治体によってひな型を提供している場合がありますので、確認したほうが良いでしょう。また、各種モデル契約書も出回っていますので、上述のポイントを押さえたわかりやすい物を利用することをお勧めします。

 

なお、自治体により、利用者及び事業者の利便性を考慮し、同一事業者が、(介護予防も含め)複数の種類のサービスを提供する場合、1つの契約書(共通契約書)により契約可能な場合があります。

 

同じ会社なのにケアマネや訪問介護・通所介護・福祉用具の担当者が次から次へと契約書を取り出して契約している風景を見ますが、利用者にとっては手間なことですから、共通契約書を利用することは良いことだと思います。

 

 

(5)重要事項説書(契約書別紙等)

 

重要事項説明書の内容は運営規定にプラスアルファした内容であることが一般的です。こちらもひな型や自治体からの提供がありますので「わかりやすい物」を利用したいところです。

ただし、基本的な事項は適切に説明できないければなりませんから、以下の事項は押さえておかなければなりません。

 

①事業者(法人)の概要

②利用する事業所の概要

③事業の目的と運営の方針

④提供するサービスの内容

⑤営業日

⑥営業時間及びサービス提供時間

⑦事業所の職員体制(従業者の職種、勤務の形態・人数等)

⑧サービス提供の担当者(生活相談員)及びその管理責任者(管理者)名

⑨利用料金

【通所介護費】

支給限度額を超えてサービスを利用する場合は、超えた額の全額負担

【加算】

延長加算、入浴介助加算、個別機能訓練加算、サービス提供体制強化加算、介護職員

処遇改善加算などの要件および額

【減算】

減算の要件(送迎を行わない場合の減算など)、減算額

【介護予防通所介護費】

【加算】運動器機能向上加算など

【自費料金】昼食、おやつなど

⑩キャンセル料

⑪支払い方法

⑫緊急時における対応方法

利用者の主治医、医療機関の名称、所在地、電話番号、緊急連絡先(家族等)、氏名(利用者との続柄)、電話番号

⑬事故発生時の対応

⑭苦情相談窓口

⑮サービスの利用にあたっての留意事項

⑯非常災害対策

⑰説明者氏名

⑱利用者署名捺印

 

なお、運営規定と重要事項説明書は相談室等にわかりやすく掲示する必要があります。

 

 

(6)個人情報の使用に関する同意書

 

ご利用者とご家族の代表者それぞれから署名捺印を頂き、同意を得る必要があります。

なお、この同意書の内容(利用範囲や保管方法など)は前述の「個人情報保護規定」に基づいて作成される必要があります。

個人情報の同意書と個人情報保護規定を別々に作成している場合は、内容に整合性があるか確認したほうがよろしいでしょう。

 

 

(7)被保険者証の写し

 

ご利用者の被保険者証は原本を確認し、写しを保管しておく必要があります。コピーをとった場合は、そのコピーに「○年○月○日 原本確認 ○○(確認者氏名捺印)」と記載しておくと良いでしょう。

また、期限が過ぎていたりする場合がありますから、必ず最新のものを保管しておくよう注意しましょう。

 

 

(8)事業所の宣伝・説明内容がわかるもの(パンフレット・ポスター・広告等)

 

虚偽や誇大な宣伝・広告が行われていないかチェックされます。作成している場合は隠さない方が良いと思います。

あまり知られていませんが、「病気が治る」や「認知症が良くなった」などの宣伝をすると各種医事法や消費者関係法令に抵触する場合がありますので、注意しましょう。

 

 

次回は、業務運営上必要な書類をさらに詳しくご説明します。

 

 

 

通所介護 実地指導で準備しておきたい書類 ガイド その2

◆会社経営上必ず必要な書類Ⅱ

 

(3)個人情報保護規定

 個人情報規定はその法人における個人情報の取り扱いを規定したもので、個人情報保護法に基づいて作成される必要があります。個人情報を扱う介護事業所としては整備しておいた方が良い文書であり、実地指導で作成するように指導される場合もあるでしょう。

 厚生労働省から「福祉分野における個人情報保護に関するガイドライン」が出ていますので、ご参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/seisaku/kojin/dl/250329fukusi.pdf

 また、具体的な規定のサンプルは以下をご参照ください。

http://www.pref.osaka.lg.jp/fukushisomu/kojinjoho-fukushi/

 

(4)組織規定等

 複数の事業所を経営している場合は、法人組織の全体がわかる規定や組織図などを要求される場合があります。

 これは特に兼務関係などをチェックする場合、組織規定に基づいて調査する必要があるからです。

 会社全体の組織図は、新入社員などへの説明に便利ですので、複数の事業所がある場合は整備しておく方が良いでしょう。

 

(5)従業員名簿 (労働者台帳等)

 従業員の基本情報は入社時に一般的な様式で提出してもらうのが普通でしょう。しかし労働基準法では労働者名簿に記入しなければならない事項として、

●性別●住所●従事する業務の種類●雇入の年月日●退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む●死亡の年月日及びその原因 

が挙げられています。

 

厚生労働省のホームページに雇用関係の各種書式見本がありますので参考にしてみてください。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/

 

(6)労働条件通知書(雇用契約書)

 介護関係の通知書の見本が、介護労働安定センターのホームページに掲載されていますので参考にしてください。

 http://www.dosuru.kaigo-center.or.jp/yousiki.html

 

 労働条件通知書には明示しなければならない必須事項がありますのでご確認ください。

  • 労働契約の期間に関する事項 ●就業場所、 従事すべき業務に関する事項●始業・終業の時刻、 休憩時間、 休日、 休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項(シフト)●所定労働時間を超える労働、休日労働の有無●賃金の決定、計算 ・ 支払方法、賃金の締切り・支払の時期、 昇給に関する事項●初任給の金額、諸手当の金額の明示●退職・解雇(事由及び手続等)に関する事項●雇用契約終了事由の全事項

 

 

(7)賃金台帳、給付明細書、給与振り込み明細

 当然ですが、賃金台帳と給与明細は実際に従業員に支給している内容と同じでなければなりません。

 特に処遇改善加算を取得している場合は、その内容が明示されていることが必要になります。

 注意点として管理職でも現場で介護業務に従事している場合は処遇改善手当てを支給しなければなりません。逆に、介護業務に従事していない職員に本手当を支給してはいけません。異動で事務職員になった人などに手当が支給されていないか確認しておく必要があります。

 給与振り込み明細は生活相談員などが架空の職員ではないかと疑われる場合、チェックされます。きちんと雇用され給与が支払われているかを確認します。

 

(8)職員履歴書

 採用時に提出してもらう履歴書です。労働条件通知書や従業員名簿などと一致している必要がありますが、引っ越しや婚姻などにより住所や名前が変わっている場合は住民票など変更が確認できる文書の徴取保管が必要です。

 

(9)資格証明書

 資格証明書は原本で確認することが求められています。控えのコピーに「〇月〇日原本確認」と記入し、確認者の印鑑が押されていると完璧でしょう。

 

(10)職員出勤簿

 タイムカードなど客観的な記録となっているものが望ましいですが、給与計算用に使っているソフトから出力した出勤簿でも、給与の支払い実績(賃金台帳の内容)との整合性が取れていれば大丈夫でしょう。

 注意点としては役員などで出勤記録を取っていない場合、その役員が介護現場に出ている時(従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表に名前が載っている場合)は、役員の出勤記録も適切に残しておく必要があります。

 

 

(11)会計関係書類

 介護保険事業では事業ごとに会計を区分して決算処理をすることが義務付けられています。詳細については以下のサイトをご覧ください。

http://www.wam.go.jp/wamappl/bb05Kaig.nsf/vAdmPBigcategory20/1A5D0E228DA623954925703600278835?OpenDocument

 依頼している会計士がこの規定を知らない場合があります。上記サイトの文書を印刷してお付き合いしている会計士に見せると良いでしょう。

 事業ごとの収支を決算処理していない場合は、実地指導で修正を指導される場合があります。

 

(12)設備備品台帳

 税務署に提出する決算書類で減価償却の計算用の設備備品台帳ではだめな場合があります。事業所ごとに必要な設備や備品を一覧にしたものがあれば良いのですが、実際の実地指導では直接現場で書庫や送迎車(車検証)などを確認する場合が多いので、一覧表を作成しなくても良いかもしれません。

 作成するように指導された場合は作成すれば良いでしょう。

 

 以上が介護事業を経営するうえで必ず必要な書類です。次回は実際の通所介護運営において整備しておかなければならない書類です。

 

 

 

 

通所介護 実地指導で準備しておきたい書類ガイド その1

 

今回は、通所介護事業所の実地指導で準備しなければならない書類ガイドです。

行政の実地指導では「人員基準」「設備基準」「運営基準」に基づき業務チェックがされますが、各基準の文言を見てもどのような書類をチェックされるのか、明確ではありません。

 

我が国の行政業務は「文書主義」という形式をとっており、様々な活動や行為の事実根拠を記録された「文書」により確定させる方式を取っています。

従って、介護事業所の様々な活動も文書により説明しなくてはならず、口頭では根拠になりません。

いくら適切に事業運営を行っていても、記録された文書で説明できなければ認めてもらえません。

 

通常、行政が実地指導に入る時には、事前に準備するべき書類を指示してきますが、必ずしもすべての書類を指示してくるわけではなく、「人事関係書類」などというように、一括りで指示してくる場合も多いようです。

 

ここではそうした書類について網羅的にガイドさせていただきます。

以下は主に株式会社で必要な書類です。

また、今回は通所介護事業所に限定しましたが、他の事業所でも同様の書類が必要ですので参考にしてください。

 

◆会社経営上必ず必要な書類

(1)定款

定款には事業「目的」が記されており、この「目的」が適切かどうかチェックされます。

 

小規模通所介護から地域密着通所介護に移行した場合は修正が必要になります。また、将来、総合事業に移行する際も変更が必要ですので併せて変更登記しておく方が良いでしょう。

以下は介護事業を経営する際の定款の「目的」標記例です。

ただし、介護予防及び地域密着型・生活支援総合事業については各区市町村により指示がありますので、そちらをご確認してください。

サービス名 定款への記載
訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、特定施設入居者生活介護、福祉用具貸与、特定福祉用具販売 介護保険法に基づく居宅サービス事業
夜間対応型訪問介護、認知症対応型通所介護、認知症対応型共同生活介護、小規模多機能型居宅介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、地域密着型通所介護事業 介護保険法に基づく地域密着型サービス事業
居宅介護支援 介護保険法に基づく居宅介護支援事業
介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設 介護保険法に基づく施設サービス事業(公益法人のみ)
介護予防訪問介護、介護予防訪問入浴介護、介護予防訪問看護、介護予防訪問リハビリテーション、介護予防居宅療養管理指導、介護予防通所介護、介護予防通所リハビリテーション、介護予防短期入所生活介護、介護予防短期入所療養介護、介護予防特定施設入居者生活介護、介護予防福祉用具貸与、特定介護予防福祉用具販売 介護保険法に基づく介護予防サービス事業
介護予防認知症対応型通所介護、介護予防小規模多機能型居宅介護、介護予防認知症対応型共同生活介護 介護保険法に基づく地域密着型介護予防サービス事業
介護予防・日常生活支援総合事業(訪問型) 介護保険法に基づく第1号訪問事業
介護予防・日常生活支援総合事業(通所型) 介護保険法に基づく第1号通所事業
介護予防支援 介護保険法に基づく介護予防支援事業

 

(2)就業規則

小さな会社(従業員10人以下)でも就業規則は作成したほうが良いと思います。理由は職員の処遇を規定するものであり、処遇改善などの根拠になるものだからです。作成していない場合は実地指導で作成するように指導されることが多いと思います。

また、正社員だけでなくパート職員の就業規則も別途作成したほうがベターかと思います。

就業規則では以下の規定がチェックされます。

 

①勤務時間

正社員=常勤職員の勤務時間がチェックされます。この勤務時間は、いわゆる常勤換算の基準になるもので、通常週40時間以内で規定されていなければなりません。

 

②健康診断の規定

労働安全衛生法では一人でも(常時雇用するパートを含む)従業員を雇用している場合は会社負担により、従業員に年1回健康診断を実施しなければならないことになっています。

介護保険法とは関連しませんが、介護事業所として職員の感染症予防などの観点から、毎年、全ての従業員実施されていることが望ましく、実地指導で指摘される場合もあります。

法定の健康診断については以下を参照してください。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf

 

③個人情報保護

職員が職務上知りえた利用者や家族の個人情報をみだりに外部に漏らさないことを規定していなければなりません。

また、採用の際、その約束を「誓約書」の形で提出させる必要があります。場合によってはこの誓約書をチェックされる場合もあります。

サンプルは以下の通りです。

              個人情報保護に関する誓約書

株式会社  〇〇

代表取締役         殿

 

私、「氏名:               」(以下、「甲」という。)は、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57条)及び株式会社〇〇(以下、「乙」という。)の「個人情報保護規程」の各条項を遵守し、業務遂行することを約束し、本誓約書を提出するものとする。

 

(情報の定義)

第1条 本誓約書における「情報」とは、文書及び口頭並びに物品を問わず、乙並びに乙の利用者、利用者の保護者及び身元引受人等、利用者に関係するすべての個人(以下、「利用者等」という。)より開示された乙の個人情報を含む内部情報及び乙の利用者等に関する一切の情報をいう。ただし、次の各号のいずれかに該当するものについては、この限りではない。

(1) 相手方から開示された時点で、すでに公知となっているもの。

(2) 相手方から開示された後、自らの責めによらず公知となったもの。

(3) 正当な権限を有する第三者から、開示に関する制限なく開示されたもの。

 

(機密保持)

第2条 甲は、前条に規定する情報について、乙の代表者からの指示なくしては、その情報開示の権限を有しない第三者に漏洩又は開示してはならない。

 

(情報の返還)

第3条 甲は、乙に在職していた間に、甲が保有する乙及びその利用者等から開示された情報に係る記録及びそれを基に作成された一切の資料・媒体を、退職日までに速やかに返還しなければならない。

 

(有効期間)

第4条 本誓約の有効期間は、本誓約書の提出日より退職日以降○年とする。

 

(損害賠償)

第5条 本誓約に違反し、乙の利用者等に損害を与えた場合、乙の就業規則第○○条に規定する制裁の有無にかかわらず、損害賠償の責を免れないものとする。

 

以上、本誓約の成立の証として、本誓約書を1通作成し、甲は乙に記名捺印の上、提出するものとする。

 

平成   年   月   日

(誓約者)  住所:                        

氏名:                       印

 

④昇進・昇格などの規定

処遇改善加算Ⅰを取得している場合は、キャリアパス要件の中で必ず規定がなければなりません。

内容は次に述べる賃金規定とリンクしている必要があります。

 

(3)賃金規定

①昇給などの基準

こちらも、処遇改善加算Ⅰを取得している場合は、規定がなければなりません。

 

②処遇改善加算手当の規定

処遇改善加算をどのように支給するかの規定を定めるよう求められる場合があります。

これまで、処遇改善加算の支給方法は「処遇改善加算計画書」の職員への周知によりその支給方法を知らせる形式がとられてきましたが、今後、賃金規定の中で明確に規定することが求められるようになると思いますので、規定していない場合は早めに規定したほうが良いでしょう。

 

次回、順次、必要な書類についてご説明していきます。

 

 

 

高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 最終回

◆空き家対策と高齢者住宅

 

http://www.sankei.com/politics/news/160307/plt1603070007-n1.html

今年に入って、国土交通省は増え続ける空き家を利用した低所得者向け住宅の整備に補助金の検討を始めました。

空き家の一軒家をリフォームしてバリアフリー化すれば、低所得の高齢者向け住宅として活用できるのでしょうか?

それは無届介護ハウスとどのような違いがあるのでしょうか?

 

前述の高齢者向け優良住宅は古くなったアパートなどをリフォームして高齢者向けの住宅にしていますが、都内では補助金なしで8万円程度です。8万円では多くの生活保護の人は入居できませんので、この政策により供給される住宅の家賃は生活保護で利用できる5万円程度でなければなりません。

 

すると単純計算で、最低でも一月3万円の補助金が必要になるのですが、古くなったアパートのリフォームとは違い、一軒家に複数の高齢者を入居させるようなリフォームにかかるコストは、はるかに高いのではないかと思えます。

 

だとしたら、一軒家を平地の戻しバリアフリーのアパートを建てた方が耐用年数などからの面で有効でしょう。そこに補助金を出してあげれば、不動産事業として十分に成り立つと思いますが、なかなかそうもいきません。

 

◆都市部の高齢者は介護が必要になると郊外へ転出しなければならない

 

都心部では軽費老人ホームや安価なサービス付き高齢者住宅が足りません。

これは、空き家などの土地の再利用システムが全く働いていないことが大きな原因です。空き家は沢山あるのに虫食い的にあるために、必要な社会資源に転用できないのです。

 

そのため、都市部の高齢者は、介護が必要になり、高齢者向けの住宅に住み替えたくても、地域に手ごろな住宅を見つけることができません。家賃の安い郊外や地方の住宅に引っ越しをせざるを得ない状況です。

これでは住み慣れた地域で介護を受ける、地域包括ケアが機能しないことになります。

 

総務省の調査では高齢者が東京都から家賃の安い郊外へ移転する状況が見て取れます。

http://www.stat.go.jp/data/topics/topi972.htm

ただでさえ団塊の世代がドーナッツ化しているのに、大都市の周りに高齢者のドーナッツ化が進行します。これでは、医療費や介護費の面で地域間に大きな不均衡が生じるでしょう。

 

しかし、都市部には億ションやホテルが立つのになぜ高齢者向けの住宅はできないのでしょう。答えは簡単で、収益率が低いからです。要は儲からないから。

免税や補助金によるバックアップはあっても、そろばん勘定の段階で高齢者住宅のプランは弾かれてしまっているようです。

収支が立つのは土地代の安い郊外のみのようです。このままでは東京は高齢者が住めない場所になりそうです。

 

◆都心部の虫食い的な未利用地の福祉事業への利用には法的措置が必要

 

都心部で一軒の空き家を平地に戻しただけでは、優良な高齢向けの共同住宅はとても狭くて建てられないでしょう。何件かをまとめて平地にする必要があります。現在、その際の地権者との交渉や調整は事業者がやらなくてはなりません。

 

行政のサポートがあれば事業者もやる気を出すかもしれませんが、何もサポートが無く事業者がメリットを感じなければ誰も手を出しません。

 

「空家等対策の推進に関する特別措置法」http://www.mlit.go.jp/common/001080534.pdfなどの運用により、事業者が地権者間の調整が容易にできるような、法的な後ろ盾をすることができないかと思います。

 

◆都心部で静にスラム化する声なき低所得高齢者

 

都心部の生活保護の独居高齢者は、ほとんどが老朽化した賃貸アパートなどで生活をしています。持ち家がある人でも介護が必要な人にとっては、劣悪な住宅環境で生活している人も少なくありません。

 

住み慣れた家で老後を過ごすことが理想とされていますが、転倒リスクが高かったり家事などの生活手段が成り立たない住宅では、介護保険法制度が理想とする自立した生活を営むことは不可能でしょう。

 

「社会保障と税の一体改革」の中で高齢者の生活保護制度が年金に一本化できるのは相当先のようです。

http://www.nikkei.com/article/DGXLZO03051550R00C16A6EA1000/

静かに進むスラムが、我慢強く声を上げない日本の高齢者に甘んじているわが国の恥部にならないようにしたいものです。

 

そして、その人たちに向けたサービスを提供している介護職がもっとも多くそれを目撃しているはずです。

だからこそ、介護に携わる人間が、無届の介護ハウスをやらざるを得なくなるのです。

 

現在、都内で国民年金などの自費でグループホームに入れない低年金高齢者はおそらく6割から7割程度に達するのではないでしょうか。誰かが、こうした低所得高齢者向けに安心して生活できる場所を提供しなければなりません。

我が国の年金制度と高齢者住宅制度の失敗が、無届介護ハウスという形になっていることは明らかです。

 

 

◆一生住み続けられる住宅が欲しい

 

ユニバーサルデザイン住宅という発想があります。高齢者向けとか障害者向け住宅というカテゴライズではなく、どのような人でも必要に応じてカスタマイズして、死ぬまで住み続けられるような住宅デザインのことを言います。

http://sumai.panasonic.jp/sumai_create/setsubi/200502/

 

その際、手すりの設置などのカスタマイズは安価にできなければなりません。高額なリフォーム費用が必要なものはユニバーサルデザインとは言えません。

 

介護の必要になった高齢者は住宅事情などにより地域社会から退場しなければならないのが、都市部での現状です。

しかし、すべての住宅が最初からユニバーサルデザインにより簡単にバリアフリー化できるような設計になっていれば、アパートの一人暮らしでも死ぬまで地域に住み続けることが可能になるでしょう。

 

介護が必要になっても一生住み続けられるマンションやアパートを販売するという発想は今のところあまり見受けられません。一部、三世代住宅など高級注文住宅にはユニバーサルデザインが採用され始めています。しかし、都市部の低所得者向けの住宅ではまったくそんな発想はないでしょう。

 

多様な人々が共住できる都市はユニバーサルデザインでなければならないという学術的な思想は昔からありますが、そのような発想の民間の共同住宅は今のところ商品価値がないのでしょうか?

筆者はそうは思いません。

 

OECDは2050年までに人類の70%が都市部に住むと予想しています。

https://www.oecd.org/env/indicators-modelling-outlooks/49884270.pdf

このままでは東京は、「下流老人のスラム化」が進み、多様性のないストレスフルな都市になってしまいそうです。

 

 

 

 

 

高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 その4

 

なぜ無届の介護施設を利用するのでしょうか?以下のような理由があるのではないかと考えています。

 

◆理由1 在宅生活を勧めてくれる総合的相談窓口ない

 例えば、生活保護の高齢者が脳梗塞で入院し退院する時、本人が自宅に戻って生活ができないと判断した場合、どんな住宅に入居するか相談する人が誰かによりその先が変わってしまいます。

(1)区市町村の保護課のケースワーカーである場合

 担当するケースワーカーが、無届ハウスを紹介してしまう場合がある。

(2)病院の退院支援担当も上記と同じケースが考えられる

(3)ケアマネージャーに相談する場合は、サ高住か無届ハウスしか選択肢がない

 

そもそも、本人が「自宅で生活できないという」判断をし、医師がそれを認めれば、それを覆すことはできません。病院は無届ハウスだろうがサ高住だろうが退院させればそれで良いのです。同様にケースワーカーも保護給付額に見合うことだけが重要で、安ければ安いほど歓迎します。

 

問題は本人が入院中に「自宅で生活できないとい」と判断してしまった場合、その不安をしっかり受け止めて、在宅介護の知識がある相談者が「そんなことは無いですよ、こうこうこうすれば自宅で前と同じように生活できますよ」と説明できる機会が無いことです。自宅に戻らないと本人が判断した瞬間に、在宅ケアの専門家であるケアマネージャーは排除されてしまう現実があります。

 

ケアマネージャーはサ高住や無届ハウスなどに入居が決まった後登場してきます。本人の不安を受け止め、心身の状況や財力を総合的に勘案して、退院後に住む場所を一緒に考える人が必要です。

 

◆理由2 低額なサービス付き高齢者住宅や軽費老人ホームが一杯で入れない

特に地代の高い都心部はほとんど需要に応えられる状況ではありません。少し離れたた郊外の他自治体であれば空きがありますが、住み慣れた地域を離れることへの抵抗があるかもしれません。

 

また、生活保護の人の他地区への引っ越しにはいろいろと制限があり、高齢者にとっては非常に面倒な手続きもこなさなければなりません。さらに、引っ越し費用などの金銭面でのトラブルも起こりやすくなります(地方の無届ハウスの中にはこうした手続きを代行してくれる業者もいるようです)。

 

地域の低額な高齢者施設に空が無ければ、ケースワーカーはとりあえず住める場所を探すしかありません。結果、無届だろうが受け入れてくれる施設を選択するしかないでしょう。このようなことはMSWでも同じだと思います。

 

 

◆地域包括支援センターが機能していない

 

下流老人http://ironna.jp/theme/388という本が昨年出版され流行語にもなっています。下流老人の定義は以下のようです。

1(高齢期の)収入が著しく少ない

2 十分な貯蓄がない

3 周囲に頼れる人間がいない(社会的孤立)

このうち社会的孤立が無届ハウスなどに繋がる大きな原因です。

 

生活保護の高齢者は多くが周りに助けてくれる親族がいません。お金の切れ目が縁の切れ目ということが、下流老人には現実に起こります。

さらに高齢者や障害者は自力での社会適応能力が低下します。だから支援が必要なのですが、その支援がうまく届いているかというと、はなはだ疑問です。

 

地域包括センターにはソーシャルワーカー(社会福祉士)とケアマネージャーがいて協働しています。本来は地域包括センターが高齢者の地域での生活を支え社会的に孤立しないようにするはずですが、実態は地域包括センター自体が無届ハウスを紹介している状況です。

 

無届ハウスすべてが問題であるとは言えませんが、なぜ在宅介護の要である地域包括センターが安易に無届ハウスを紹介してしまうのでしょう。

 

この課題は少々複雑です。一つのケースを紹介します。

 

認知症の親の介護負担が重く同居家族が悲鳴を上げており、親の年金ではグループホームに入れない。生活保護を受給してグループホームに入居することは家族の収入から無理。要介護2なので特養も無理。低価格のサ高住を探したが、認知症のレベルがひどいので入居不可(高額な物件はあり)、軽費老人ホームや老健も同様で不可。こうしたケースの場合、担当するケアマネージャーは家族に対して在宅介護を継続するよう説得することができるでしょうか。

 

小規模多機能の宿泊サービスなどを利用しながら、在宅介護は可能だと思いますが、それも拒否された場合、あとは病院に入院するか、無届でも受け入れてくれる業者を探すしかないでしょう。

 

ケアマネージャーが地域包括と相談しながら、区市町村の保護課と交渉してなんとか生活保護を認めてもらうようお願いしても、区市町村の下請け組織である地域包括に援護を期待するのは難しいでしょう。

 

こうした場合、地域包括は無届介護ハウスのリストを持っており、ケアマネージャーに紹介してくれます。本当ならば家族が年金では足りないグループホームの費用を出して、正規の介護サービスに繋げるのが筋なのですが、家族にとってグループホームと無届介護ハウスの違いが判らなかったり、少しでも安く済ませたいと訴えられると、ケアマネージャーも地域包括もなかなか強要はできません。

 

 

◆低年金の高齢者の住宅政策は相当の改善が必要

 

前述のケースでは、国は家族に頼らず、自分の年金でグループホームに入れるように生活保護制度を改善するべきでしょう。それが福祉先進国のスタンダードです。

 

国が本当に介護離職(家族の介護負担による退職)を減らしたいならば、一人の高齢者が死ぬまで金銭的に自立して生きてゆけるようにしなければ、家族の介護負担はいつまでたっても軽減しません。

 

低年金の生活保護高齢者に引っ越しの自由が無く、住居選択の自由が奪われることは社会保障制度自体が人権侵害をしていることにもなります。

 

「税金で生きているのだから当たり前だろう」というのは、福祉後進国の人の発想です。この国に生まれ、まじめに働いて税金と国民年金を納めていた人は、死ぬまで金銭的に自立して生活できる社会保障制度にしなければなりません。いまだ、この国にはそれができません。

 

これでは多くの人が老後の不安を抱えて生きなければならないのは当然のことでしょう。

 

次回は、介護福祉の視点から今後の高齢者住宅のビジネスについて考察します。