都心の介護人材不足は危機的

23区内の介護職の求人倍率

 

このところ、東京都の有効求人倍率は2倍前後で推移しています。
 しかし、介護サービスに限って言えば、現在は7倍前後まで跳ね上がっています。さらに、23区に限って言えば、これが10倍まで上がってしまう状況です。つまり、事業所等からの10名の求人に対して1名しか応募が無いということです。これは正社員の倍率ですが、パートに至っては16倍に近い数字です。

 この統計は、東京のハローワークの数字です。実は、多くの事業者ではあまりパート求人をハローワークに出していません(出しても無駄と考えている)。
 従ってパートの倍率は氷山の一角であり、実態はもっと多くの求人があります。

令和元年11月 東京都の介護サービスの求人状況
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/kakushu_jouhou/chingin_toukei/tesuto/_121515.html

求人種

有効求人数

有効求職者数 求人倍率
23区 多摩 23区 多摩 23区 多摩 都全体

全国

正社員

10,883 1,896 1,107 740 9.8 2.5倍 6.9倍 4.24倍

パート

10,445 2,484 658 491 15.8 5.0倍 11.25倍

 

 

 23区の介護事業にとって危機的な状況かもしれません。
 介護サービスを受けたくても人手不足によりサービスを受けられない高齢者や障害者が多数発生している状況だと考えます。
 サービス低下の負担は家族や、家族がいない場合は本人が我慢することによって凌ぐしかないと思われます。

 これでは高齢者や障害者は都心に住めずに、郊外に引っ越した方が良いという結果になるでしょう。

 

都心の介護は崩壊する

 

 ちなみに別の統計(厚生労働省「職業安定業務統計」)ですが、2019年の全国の介護分野の求人倍率:4.24倍に対し、東京都:7.27倍、神奈川県:4.47倍、千葉県:4.89倍、埼玉県:5.1倍、です。
 東京都は多摩地区が含まれていますので23区は15倍程度でしょう。
 ここで注目してほしいのは、周辺県が比較的求人倍率が低く、人材が確保しやすいという状況です。

 介護事業所を開業する場合、この状況はよく頭に入れておかなければなりません。つまり郊外に開業すれば、23区内より人材確保が容易であるということです。

 都心では既に、要介護者や障害者が重度になりサービス量が増えると、在宅生活が維持できず、郊外に引っ越さなければならない状況になっています。
 多いパターンとしては郊外の住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などに、引っ越したり、認知症の方は遠くの特養に入所している様子が見受けられます。
 住所地特例があるので地方財政への負担問題は関係ないだろうと言いますが、問題はお金のことだけではありません。

 

自治体は見て見ぬ振りか

 東京都はダイバーシティー「誰もがいきいきと生活できる、活躍できる都市・東京」を唱っていますが、実態が伴っていません。
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/actionplan-for-2020/portal/diversity/

 また、国が推進する地域包括ケアの理念とも、地域共生社会の理念にも反しています。
 国や都、区がこうした問題に真剣に取り組み必要がありますが、自治体の動きを見ているとあまり深刻さを感じません。

 実は、実利的に考えた場合、地方自治体にとっては健康で良く働く若い人が増え、コストがかかる要介護者や障害者が自治体外に出ていくことは歓迎すべきことなのです。都についてもそれは同様のことが言えます。

 

都市への富の集中と地方の疲弊

 実はこの問題は日本だけの問題ではないようです。世界中の都市には働く若年層が集まってきます。その結果、富が都市に集中し、地方は貧困化します。背後では、東京のように高齢者や障害者が追い出されているに違いありません。
 都市側の自治体に改善するモチベーションを求めるのは難しいかもしれませんので、国はこのアンバランスを解消する政策を打つべきだと筆者は考えます。

 

どのような対策があるか

 このような状況に対してどのような対策が考えられるでしょう。いずれにしても都市に富が集積するのであれば、その富を再分配し、高齢者や障害者を支援する仕組みがベースになるはずです。

1 都心部の介護給付地域区分を改善

家賃や人件費などのコストは23区でも都心部が最も大きな負担になっています。
足立・葛飾・江戸川などの周辺区は比較的コストが低く事業が継続しやすいですが、山手線内部はかなり厳しい状況と言えましょう。
介護給付の地域区分が23区一律ではアンバランスが生まれています。地域区分は区別に設定する方が良いと考えます。

2 都心の介護福祉事業者の運営コスト低減

 税金の軽減や固定費削減の方法などがありますが、現状の指定基準などを鑑みると、事業所の賃料コストを減らすために何らかの工夫ができるように思います。
 都心で介護事業所を運営する場合、事業所の賃貸料が過度の負担になります。 
 例えば、都心にオフィスを構える、大企業などが介護事業所にスペースを貸すことを奨励する、助成や税制優遇も考えられます。
 特にデイサービスは固定費が大きく、企業の協力を仰ぎたいとろころです。
 また、筆者が既に提言した独立系訪問介護などの仕組みを特区制度などを利用して導入することも有効かもしれません。

独立訪問介護士の可能性 その1

 

3 生活支援へのボランティア休暇制度などの活用

 訪問介護の家事援助については給付も安いため、多くの介護事業者が対応できない状況になっています。
 一方、近年の大企業を中心に、ボランティアのために休んだ場合は有休扱いになる、ボランティア休暇の導入が進んでいます。
 今のところ、災害復旧やオリンピックなどの運営ボランティアがイメージされているようですが、この制度をうまく活用し介護。福祉支援の枠組みを作ることは有効かもしれません。少しでも支援人材の手が増えることを考えなければなりません。

 

 

将来、ニーズが高まるばかりの医療的ケア

 

 

 訪問看護事業者はもちろんですが、訪問介護事業者も今後、積極的医療的ケアに取り組んでいくべきだと考えます。

 収益性面でのメリットだけでなく、在宅で生活する医療的ケアの必要な人たちが特にお子さんを中心にニーズは高まるばかりだからです。

 

 もちろん、人材不足のおり、医療的ケアまで手が回らないという、訪問介護・障害者居宅サービス事業所も多いでしょう。

 しかし、医療的ケアに特化した訪問介護事業所では高い収益性をあげている事業所もあり、将来そうしたサービスに取り組む視野を持っておいた方が良いと考えています。

 

 

子供のケアニーズの高まり

 

 在宅での医療的ケアニーズは、特に未就学のお子さんのニーズが高まっています。

 こうした未就学の医療的ケア児の人数や生活実態を、厚生労働省は「不明」としています。

 地域では病児と扱われて障害児施設にも入れず、医療的ケアに対応できないため保育園にも入れない状況が多いといわれます。

 結果、ほとんどの場合、母親などの家族が在宅で世話をしている状況であり、仕事や将来設計に大きな影響を与えている状況です。

 

 世田谷区の調査では医療的ケアの必要なお子さんを持つ、主たる介護・看護者(ご家族等)の1日の平均睡眠時間はおよそ9割が6時間未満、かつ睡眠が断続的であるという結果が出ています。

 在宅でご家族がケアをしている未就学の医療的ケアの必要な子供の潜在ニーズはどのぐらいなのか、国自体も把握していない状況です。

 全国医療的ケア児者支援協議会(http://iryou-care.jp/)によれば、文部科学省の全国調査で医療的ケアが必要な児童数(特別支援学校などの就学児)が平成23年で19,303名でしたが、2年後の平成25年5月では、25,175名とおよそ6,000名も増えています。

 これは、近年の新生児医療の発達により、もたらされたものだそうです。

 また、同協議会の推計では、東京都には未就学の重症心身障害児が約1600人存在しているとのことです。

 

 こうした子供たちの在宅生活を支える社会的資源として介護職の医療的ケアが存在している部分も大きいと言えます。

 ちなみに、保育士も同様に医療的ケアが可能になりましたが、医療的ケアの必要な子供を受け入れてくれる保育園等はほとんど増えていないようです。

国が介護福祉士と保育士の融合を検討しているのもこうした背景があるかもしれません。

 

 

障害者福祉サービスは不十分

 

 わが国では、お子さんだけでなく、障害者に対するサービスの供給はまだまだ不十分であり、社会保障給付の額でもヨーロッパなどの福祉先進国からはかなり後れを取っている状況です。

また、社会全体としても必ずしも関心が高いとは言えないでしょう。

 日本では、長い間、障害者支援の主体は家族や行政が中心であり、民間などの外部サービスを利用した広い支援体制がなかなか整わない状況が続いていました。

 欧米ではノーマライゼーションの考え方が浸透しており、障害により障害者が不利益を被ることは、社会システムに問題があり、障害者は外部サービスを積極的に活用して、自立した生活をする権利があるとされています。

 日本は2014年に「障害者の権利に関する条約」を批准し、制度面でやっと国際標準に到達したといえる状況です。

 今後、障害福祉サービスのさらなる充実を図ることが国策となっていると考えます。

 

 

障害者サービス利用はどんどん伸びている

 

 国民保健団体連合会のデータから、ここ4年のサービスの伸びを見てみましょう。

 平成24年から平成28年にかけて、障害福祉サービスの利用者数が24%伸びていますが、障害児だけに限定すると、その伸びは136%です。

 

 こうした伸びは障害者総合支援法が施行され、今まで障害者ではなかった新たな障害者が増加したり、病院や施設から在宅生活へのシフト、また、今まで外部サービスを利用してこなかった障害者が積極的にサービスを利用し始めたことが要因だと考えます。

 特に障害児を持つ家庭では、家族が直接支援していた状況から、一気に外部サービスを使い始めたということでしょう。それだけ障害児に対するサービスニーズは高く、その傾向は今後も変わらないといえるでしょう。

 

 なお、福祉先進国ではそもそもの障害認定の方法が異なり、日本では障害児とみなされない病児も多くが障害者としてサービスを受けられる環境があります。

 わが国が福祉先進国を目指すのであれば、日本でも新たなサービスの利用はさらに増えると考えます。

 

 

まず医療サービスの充実が必要

 

 実は医療的エアの必要な子供たちのケアを外部から提供するには、まず、訪問診療などの医療サービスの充実が課題となっています。

 この点で我が国では訪問診療医が不足しており、その原因として医師への負担が大きすぎるということが挙げられています。

 

 こうした児童に対応する訪問診療医は24時間365日、電話での対応ができることが必要であり、とても一人の医師だけでは対応できず、組織的な対応ができるようにしなければなりません。

 電子カルテの共有などにより、複数の医師による訪問診療の地域的な運用が必要ですが、まだまだ道途上となっています。

 

 しかし、こうした医療環境の整備は、今後充実してくると筆者は考えますし期待します。そうなれば今以上に介護職の提供する医療的ケアニーズも高まって行くでしょう。

 

 現在、訪問介護事業所が喀痰吸引や経管栄養を行うためには、介護職員が研修を受けて、都道府県に事業者登録する必要があります。

 介護職がレベルの高いサービスを提供できるようになることは、そのまま処遇の改善に直結します。

 将来を見据えて少しずつでも取り組まれることをお勧めします。

 

 

地域の医療介護連携を加速するIT技術の導入について

 

IT導入補助金によりケア業務のIT化が加速する予感

 

 国はIT技術の導入による生産性の向上を目指した、IT導入補助金を始めました。

 https://www.it-hojo.jp/

 これにはもちろん医療介護事業も含まれており、この補助金を利用することにより情報共有化などの業務効率化を図る介護事業所も増えるのではないでしょうか。

 

 格安スマホやSIMの登場により月々1,000円程度の通信費でスタッフ全員がモバイルツールを持てるようになっています。

 いよいよ、ケア業務のIT化が加速しそうな気配がしてきました。

 

 

重度の方の在宅ケア推進にはIT技術の導入が不可欠

 

 筆者は訪問介護や看護などの在宅ケアの収益性向上のためには、レベルの高い医療的ケアの実施も含め、医療介護連携が不可欠だと考えています。

 

 重度の障害者や医療ニーズの高い高齢者などの、在宅療養生活を実現するためには、医療介護連携が重要であることは、介護保険制度が始まった頃より継続して訴えられてきたことです。

 

 施設や病院で生活している方でも、連携体制が整えば、実は在宅生活が可能な方が多くおられます。その意味で潜在的な在宅療養ニーズは非常に高いのです。

 

 しかしこの連携体制の充実は様々な理由によりなかなか進まない状況でした。

 特に施設や病院が充実している都市圏では、連携を進める主体がはっきりせず、行政や医師会などの利害が交錯し、思うような連携体制が構築できていないように感じます。

 

 

在宅療養は医師の負担が大きい

 

 在宅療養を支えるには、まず訪問診療が重要な役割を担います。

 

 しかし、365日24時間のケア体制を整えるには訪問診療医への負担が非常に大きく、これまでは、医師の地域医療に対する使命感だけで支えられてきた部分が多いと言われます。

 

 このことは未だに解消されておらず、休みもなく24時間体制で働いている訪問診療医は多く、そのためになり手も少ないという課題を抱えています。

 

 

IT化による情報共有で在宅療養は進展する

 

 そこでIT技術を導入し、訪問診療医チームによるカルテの共有などにより、医師の当番制対応を可能にし、一人の医師に負担がかからないようにするモデルが少しずつですが進んでいます。

 

 この方法が全国に広がれば、在宅療養は大きく進展するのではと考えます。

 

 今のところ、これらは一部法人の独自の取り組みであり、公的支援(一部自治体を除く)がない状況で行われています。

 

 今回の補助金の導入により訪問診療のIT化が加速することを望みたいと思います。

 

 

IT化により医療介護連携体制が強化

 

 上流の訪問診療がIT化すれば、下流の訪問看護や介護などの居宅サービスもIT化が進んでいくと考えます。

 

 現状でも、スマホなどにより現場で報告書を入力し、業務効率化は可能ですが、こうした情報が医師から介護まで共有できるようになることは、連携体制の構築には不可欠なことです。

 

 つまり、業務のIT化が上流からやってくるイメージです。

 

 

 

IT化に対応できない事業所は在宅療養ケアには参加できないかも

 

 逆に言えば、IT化に対応できない介護事業所は医療介護の連携体制からは除外される可能性があります。

 

 在宅医療のITフォーマットに合わせた業務ができなければそのチームには加われないということです。

 

 医療から介護までの統一されたシステム環境が整備されるまには、まだ数年はかかるとは思いますが、今のうちから業務のIT化には取り組んでおくべきかと考えます。

 

 特に、スタッフが現場でスマホやタブレットを使いこなせるようにしておくことは、早ければ早いほど良いと思います。

 

 

 

課題は個人情報保護のためのセキュリティー体制の確保

 

 情報の共有化には個人情報の保護の問題が付きまといます。

 

 事業所ごとに個別に利用者情報を管理している場合は、管理責任は事業所にありますので、責任の所在ははっきりしているのですが、クラウドなどにより多数の事業所が情報を共有する場合は、その情報の管理責任が誰にあるのかが不明確です。

 

 民間のIT事業者のシステムを多数の事業所で利用し情報を共有する場合、システムの脆弱性による個人情報の漏えいなどは、システム側の問題になるかもしれません。

 

 しかし、多数の事業所が情報を入出力する場合、どのようなトラブルが発生し、それぞれの事業所の責任がどこまでなのかはっきりしない部分があります。

 

 クラウドシステムにおける個人情報の管理の方法について、明確なガイドラインが必要でしょう。

 

 

 

介護ソフト業者も本腰を入れて売り込みを開始

 

 IT導入補助金はIT業界を騒がせています。

 

 介護ソフト業者もあちこちで自社のシステムの売り込みを開始しており、大手のカイポケもIT導入補助金の利用を呼び掛け、18か月無料お試しのキャンペーンを実施しています。

 

 すでに使っている介護ソフトはあるとは思いますが、もしモバイルシステムを試してみる機会があれば、この際ぜひ試用してみることをお勧めします。