日本人のチャリティー参加は世界最低基準──日本の「互助」は機能しない

 

 国は地域包括ケアシステムの5つの構成要素として「自助・互助・共助・公助」を掲げ、多様な主体が社会福祉活動に参加することを推進する政策を進めている。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-3.pdf

 

 このうち、いわゆるボランティアなどの互助(自助・公助的なものを含む)について興味深い調査がある。

 

 イギリスにあるチャリティ援助財団(Charities Aid Foundation)が125カ国以上の国々を2009年から10年間調査し、発表した「World Giving Index 10th edition」というものがある。

 これは各国民の人助け(チャリティー)に関する活動状況を調査したもので、国ごとのランキングを公表している。

https://www.cafonline.org/about-us/publications/2019-publications/caf-world-giving-index-10th-edition

 

 つまり慈善活動が活発な国のランキングである。ベスト10は以下の通り。

1位:アメリカ

2位:ミャンマー

3位:ニュージーランド

4位:オーストラリア

5位:アイルランド

6位:カナダ

7位:イギリス

8位:オランダ

9位:スリランカ

10位:インドネシア

 

 日本はというと、なんと126カ国中107位とひどい順位である。ちなみに、中国が126位で最下位、韓国は57位である。

 

 このような国でボランティアなどの互助が機能するのだろうか?。この順位は、日本には慈善活動のようなものがまともに存在していないと言っているようなものである。

 

 しかし、日本人が人助けをしない国民とは思えないし、災害時などでも互いに助け合う姿が印象に残る。

 また、毎年夏になると大規模なチャリティー番組も放送され、日本人の慈善意識は高いようにも感じられる。

 

 ところが、この団体による調査基準では最低ランキングなのである。

 このランキングの基準となるのは、以下の通り。

1 国民の「知らない人を助ける度合い」

2 「寄付金額」

3 「ボランティア参加率」

 

 日本はこれらすべてのランクが低い基準である(平均23%。アメリカは58%)。

 この調査の正確さを議論することもできるが、筆者は、少なくとも欧米的なチャリティー活動は日本ではあまり活発ではないということなのだろうと考える。

 

 

 どうやら秘密は宗教活動にあるようだ

 

 アメリカ映画などを見ていると、時々バザーなどの何らかのチャリティー・イベントを地域住民たちが催しているシーンを見たりする。

 こうしたチャリティー活動は概ね地域の教会に集まる信者が中心になって実施されているようだ。教会が慈善活動の場として機能し、人々の寄付や参加が集まる仕組みが確立されているのだろう。

 

 上記ランキングを見ると、2位のミャンマー、9位スリランカは仏教徒。10位インドネシアはイスラム教徒が多い。

 日本は仏教徒が多く、「慈悲」は仏教の中心的な教えの一つであり、人をいたわり、人のために役立つことは、欧米などより社会的通念として浸透しているはずだ。

 

 では、ミャンマー、スリランカと何が違うのだろうか?

 実は、仏教には大きく二つの系統があり、かなり大雑把に説明すると、出家して修行することを重んじる「部派仏教」と、大衆を救おうとする「大乗仏教」の二つである。前者は初期仏教とも言われている。

 

 ミャンマー、スリランカは「部派仏教」系であり、日本は「大乗仏教」系である。

 実は部派仏教では、「徳」を積むことを重視する考えがあり、困っている人に施しをしたり、直接的な人助けを重んじる傾向がある。

 それは人々の生活に根差した価値意識であり、例えば食堂の店主が、時々貧しい人に無料で食事を提供したりする。それが「徳」を積むことだ。

 

 日本や中国・韓国の大乗仏教には慈悲の心を重んじる傾向はあっても、信徒が具体的な慈善活動をしなければいけない義務的な教えは無い。

 

 一方、インドネシアはイスラム教徒が多いが、イスラム教でも「カザート」という困窮者を助けるための喜捨が生活の中で義務付けられている。具体的にはムスリム社会における互助的な金品の寄付である。

 

 つまりランキング上位の国々は宗教的なチャリティー活動が生活に組み込まれており、ことさら意識しなくとも日常的な慈善活動が行われているのである。

ちなみに韓国はキリスト教徒が多いので日本よりも上位にいると考えられる。

 

 崩壊した日本の互助セイフティーネット

 

 宗教の中の慈善活動を促す教えは古くからあり、互助による社会セイフティーネットとして機能している。困難者を救うことが社会の安定につながるのだ。

 

 しかし、日本では宗教的な決まり事ではなく、家族や地域社会が互助セイフティーネットとなって助け合ってきた歴史がある。

 例えば江戸時代、長屋の年寄りが中風(脳卒中)で倒れた場合、町役人がその長屋の住民や近所の人たちに指示し、面倒見なければならない決まりがあった(奉行所が監視している)。

 

 ところが、現代ではそうした地域社会の互助セイフティーネットは崩壊してしまった。

 代わりに法律が整備され、国が税金や介護保険などを使ってサポートすることとなったが、税金や保険で賄う公助では賄いきれない状況が見えてきている。それが現在の状況である。

 

 特に障害者給付は毎年伸び続け、その他、子供の貧困や様々な社会的弱者に対する支援要求も増え続けている。財務省はもう公助では限界だと考えているだろう。

 宗教的な互助システムのない日本でこの先、人々が助け合う「互助」を期待できるのだろうか?まさか、江戸時代のように強制はできない。

 

 顔の見える互助組織が必要

 

 宗教や共同社会の特色は顔の見える関係の助け合いである。

 顔が見えて、その人がどのような人なのかが分からないと助ける側も助けられる側も不安がある。現状では、ボランティアに参加する側も、受け入れる側も顔の見える関係が作りにくい。災害時のボランティアはそうした関係を超える緊急性があるが、日常的な人助けの場合、なじみの関係の方がスムーズである。

 そうした仕組み作りから始めなければならないだろう。「何らかの動機づけを持って人々が集う場所」が地域の中に必要だ。これは都市の「孤独」の問題解決とも繋がる。人の「善意」は無くならない。それを有効に活用できる仕組み作りから始めなければならない。

 

 

訪問介護事業 起業の手引き 2

 

 

5 効率的に起業しよう

 

 たとえば夫婦二人で訪問介護事業を起業するとしましょう。

 実は訪問介護は夫婦二人で開業するのが最も効率が良い方法です。

 ちなみにカレーハウスのCOCO壱番屋も夫婦での経営を奨励しているようです。

 

 資格としては二人とも介護初任研修以上、一人はサービス提供責任者の資格(介護福祉士など)が必要になります。

立ち上げ当初は、常勤のご夫婦で管理者とサービス提供責任者を務め後はパートさんで営みます。

 

 ご夫婦は役員登録とし、報酬を押さえます。

 実は、役員は最低賃金などの縛りが無く、役員報酬はいくらでも構いません。

 健康保険や年金の支払いを安くするため、せいぜい月8万円ぐらいでOKでしょう。

 

 それでは生活できないではないかと思うかもしれませんが、生活は自己資金の500万円を切り崩します。

 起業時の資本金を100万円程度にし、スタート時に必要な資金は役員から会社に貸し付ける形にします。

 会社に収入が入れば少しずつ返してもらいます。1年目はこの形で生活できるでしょう。

 

 なお、資格は自治体が無料で資格取得を支援していたりします。東京都では以下のプログラムがあります。

 https://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html

 

 

6 障害者居宅サービスも同時に指定を受ける

 

 訪問介護事業所の指定を受けられれば、同時に障害者居宅サービス事業所の指定を受けることができます。

 

 事務所やスタッフは共用出来ます。指定申請は必要ですが、あまり余分なお金はかかりません。

 障害者居宅サービスは今後も大きな需要が見込まれています。

 障害者総合支援法が施行されて以来、障害者施設や病院で生活している人たちが、在宅での生活に切り替えはじめているからです。

 

 特に障害児の需要の伸びは大変大きいものがあり、今後もサービスは増え続けると考えられます。また、精神障害者などまだサービスを使っていない方々も大勢いますので、この分野の仕事は増える一方と考えて良いでしょう。

 

  筆者の支援している事業所でも半分以上の仕事が障害者サービスである場合も多く、社会的にサービスが不足しているため、事業所立ち上げ後すぐに依頼がある場合もあります。

重度の障害者の場合一人の利用者のサービス量が多く、大きな収益になります。一つの事業者だけでは賄いきれないため、いくつかの事業者で協力してサービスを提供している場合もあります。

 

 

7 株式会社・合同会社・NPO

 

 介護事業は法人でなければ開業できないことになっています。

 この法人は法的に登記された組織ということですが、地方自治体や社会福祉法人もこの法人にあたります。

 

 個人で法人を立ち上げる場合、いくつかの形態が考えられます。それらの特徴は以下の通りになります。

 

①株式会社

 もっとも一般的な法人の形態です。

 将来、介護事業以外にもいろいろな事業に発展させたい場合はこの形態にします。当然大きく成長すれば、株式上場企業になれるわけですが、株式を上場しなくても、投資家などから事業資金を期待する場合は、株式会社にする方が良いでしょう。

 設立には30万円程度費用が必要です。

 

②合同会社

 個人事業主を法人化したようなイメージです。小さな会社で地域の中で安定的に事業を継続していく場合は、合同会社でも良いでしょう。設立に要する資金が株式会社の半分以下で済みます。

 投資家などからの資金援助は期待できませんので、会社を大きくしにくいデメリットがあります。また、社会的信用という意味では若干不利かもしれません。

 実は西友やアップルジャパンも合同会社です。バックに大企業があり投資家からの資金援助を必要としないため、逆に経営の自由度が高く、この形態が選ばれているようです。

 なお、合同会社は株式会社に切り替えることはできます。

 

NPO

 いわゆる非営利法人で設立費用は安いですが、業種が限定される上、お金儲けもできません。会員を集めなければならず、運営の自由度も低いです。

 地域で志が同じ仲間を集めて、社会事業をやって行こうという場合に有利な法人形態でしょう。

 また、福祉有償車両などの運営は非営利法人でないとできないため、株式会社の中にNPOを設置する場合もあります。

 

④一般社団法人

 こちらも非営利法人です。NPOよりも設立が簡単ですがイメージとしてどのような団体なのか分かりにくく、若干怪しまれる部分があります。

 通常、企業などが限定的な社会事業を行う場合に設立しているようです。NPOにするには会員が足りないが、非営利法人で介護事業を行いたい場合は、この形態でも良いでしょう。

 NPOと同じように、非営利法人以外できない公益事業を運営できる場合があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その5

 

 

 今回説明するのは介護保険法の施設サービスです。

 介護事業を開業する場合、株式会社ではこのサービスに参入することはできません。

 

 介護保険法の施設サービスは社会福祉法人などの公益法人でないと事業を行うことはできないので、中小企業でも土地など豊かな資産をもっており、公益法人を設立できる財力がある企業でなければ、参入は難しいといえます。

 

 しかし、居宅サービスを営む場合でも、これらのサービスがどのようなサービスなのかを知っておく必要はあります。

 施設サービスはある意味、居宅サービスにとってのライバルであるので、相手に負けないサービスを目指す意味でも知っておくことは重要でしょう。

 今回は、そうした観点からの説明です。

 

 

居宅サービスと施設サービスの違い

 

 介護保険法の施設サービスは、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・介護老人保健施設(老健)・介護療養型医療施設の3つだけです。

 その他の介護サービスは基本、居宅サービスに分類されます。

 有料老人ホームは提供するサービスは特養と似ていますが、居宅サービスに分類されます。

 また、地域密着型サービスの中に、地域密着型介護老人福祉施設があります。

 こちらは小規模な特別養護老人ホームですが、居宅サービスに分類されるとともに、中小企業でも公募による参入が可能です。

 

 

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)

 

 多くの方が、公設の老人ホームというイメージを持っているかもしれません。

 一度入所すると、亡くなるまでそこで暮らすイメージでしょう。しかし、規定上は自宅に戻ることを「念頭」に置いたサービス提供が求められており、終の棲家としての施設を前提としていません。

 

 しかし、入居基準が要介護3以上と変わったことで、実態としては、ほぼホスピス(終末期ケア)サービスを提供する施設になっていると言えるでしょう。

 

 利用者は、在宅生活が困難になった、低所得層の高齢者が中心です。さらに、医療的ケアが必要な方は入居できない場合があります。比較的認知症末期の方が多いかもしれません。 

 

 しかし、BPSD(≒問題行動)などが強いと入居ができない場合があります。そういう方は、精神科のある病院に入院される方も多くいらっしゃいます。

 

 認知症でも比較的穏やかな状態で、かつ下肢筋力が低下して歩行が困難になったような方が典型的な利用者でしょう。

 

 特別養護老人ホームは万能の介護施設のイメージがあるかもしれませんが、上述のように入居できる方はかなり制限されている部分があります。

 

 都会では特養待機者が沢山いるという報道がありますが、その待機者の中には在宅生活が可能な方や入居基準を満たしていない方(申し込んではいるが実際には入れない)も多くいらっしゃるようです。

 

 最近では、地方などで、空きが多く出始めている施設も増えており、入居基準を見直して、幅広い状態の方を受け入れていく必要もあるようです。

 

 

介護老人保健施設

 

 業界では「老健」と呼ばれる施設で、リハビリを中心として医療的ケアを行う施設です。

 

 典型的な利用者のイメージとしては、脳血管性の疾患などにより、身体機能に障害があり、在宅での日常生活が困難な方が、在宅復帰を目指して、医療的管理の下でリハビリを行うという感じでしょう。

 脳梗塞発症後の半身まひの方などが典型的な利用者です。

 

 あくまで在宅復帰を目指した施設ですが、実際には長期にわたり入所している方が沢山いらっしゃいます。

 その意味では特別養護老人ホームとあまり変わらないような状態になっている施設もあります。

 

 一般的には概ね6か月程度で自宅に戻る想定ですが、独居の高齢者などでは、在宅復帰への不安が大きい場合も多く、別の施設に移る方も多いようです。

 

 介護老人保健施設は医師が常勤している必要があるため、病院などに併設されていることがよくあります。

 これはあくまで筆者の主観ですが、介護老人保健施設を併設している病院に入院すると、そちらの施設を利用させられることが多いような気がします。

 在宅復帰の判断はあくまで医師がすることなので、経営上そのあたりのコントロールがされている感じがします。

 

 

介護療養型医療施設

 

 昔は、老人病院などと呼ばれていたこともあります。

 

 介護保険制度前の話ですが、筆者の母親は脳梗塞半身まひで筋力低下のため寝たきりでしたが、心臓弁膜症手術(弁置換)の既往があり、さらに褥瘡があったために(特養を含め)老人ホームに入居できず、死ぬまで病院で暮らしていました。

 

 在宅生活が困難な、医療的ケアの必要度が高い利用者を対象とした施設ですが、単体施設としての介護療養型医療施設は今年度末に廃止される予定です。

 

 今後は、先に説明した老人保健施設や病院の中の療養病床などでケアを行っていくことになるようです。

 

 施設により違いはありますが、やはり介護施設というより、病院のイメージが強く、たとえば食事はベッド上で摂らなければならなかったり、利用者のQOLを考えた場合、問題がある施設もあるようです。

 

 廃止になるのもその辺が理由かもしれません。

 

 

 この項おわり

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その4

 

 

 今回は、地域密着型サービスへの参入についてご説明します。

 

 

地域密着型はその区市町村の住民のための施設

 

 これまでご紹介してきた居宅サービスは、都道府県が事業指定し、利用者がどの区市町村(他の都道府県でも)に住んでいても利用ができる、サービスでした。

 これから紹介するのは、区市町村が事業指定し、原則、その区市町村の住民のみが利用するサービスです。

 

 

日本の介護保険サービスは区市町村の責任で提供する

 

 わが国の介護保険サービスは、基本的に各区市町村が地域住民の介護福祉に対して、行政責任を持つ形で設計されています。

 国民の老後のケアはそれぞれの人が住む、区市町村の責任で行うということです。

 従って、各住民の介護保険の管理も区市町村が行っており、いわゆる保険者という立場で介護事業を実施しています。

 

 

国は各区市町村の介護サービスを競争させている

 

 住民の健康や介護は区市町村の責任で管理していくのが基本原則ですが、国はこうした区市町村の取り組みを評価し、どの区市町村が良くやっているかを評価しています。

 本番の評価システムはこれから構築され予定ですが、評価自体は介護保険がスタートしたころより行っています。

 この、自治体は介護度の悪化が酷い、とか、この自治体は介護予防を頑張っているな、というような評価です。

 

 

地域密着型サービスの中心は介護予防

 

 各区市町村は国がいつでもチェックしているというプレッシャーを受けながら、事業を運営しています。

 そのため、現状、地域密着型サービスの中心は、住民を要介護にしない介護予防になってきます。

 たとえば住民の健康管理や、要介護状態のチェック、運動教室などがそうした事業です。

 しかし、この分野は、行政の責任で行っている場合が多く、一般的な介護事業所ではあまり参入する余地がありません。

 要支援(介護予防)のサービスについても、地域包括支援センターが指揮を取り住民の状態悪化防止に取り組んでいます。

 この、地域包括支援センターの運営も、社会福祉法人など専門組織の仕事になっています。

 

 

一般企業は補助金の出る事業に参入する

 

 これまでの居宅サービスとは異なり、地域密着型サービスの一部では施設建築費などの補助金交付出る事業があります。

 特に、グループホームや小規模多機能居宅介護事業所は、介護事業の経験が少ない企業でも比較的参入しやすい事業でしょう。

 土地を確保すれば、建物建築費の8~9割は補助金で賄えるようになっています。

 地域で小さく開業した介護サービス業でも、この補助金を活用することで、事業拡大を目指すことができるでしょう。

 

 

地域密着型サービスは公募制

 

 ただし、こうした事業を行うためには、区市町村の公募に参加し、コンペで採択されなければならないというハードルがあります。

 コンペで競合が居なければ良いのですが、多くの場合は複数の事業者がコンペに参加してきます。

 一部、都心などで土地が確保しにくい地域では、公募参加者がいないケースもあるようですが、土地が確保しやすい地域では必ず競争になると思います。

 

 

どのような企業が採択されるのか

 

 地域密着型がスタートした頃(10年ほど前)は、大手の介護事業者が採択されるケースが多かったと思います。

 これは、各区市町村にとっても初めて地域密着型サービスを設置するわけですから、できるだけ実績のある、大企業にお願いしたほうが安心であるという考えが働いていたからでしょう。

 

 しかし、一度大手がその地域に参入すると、その大手企業は二つ目の参入は難しいようです、時が経つにつれ、中小企業も公募で採択されるようになっています。

 

 ただし、それでも、介護事業の経営経験がある程度あったほうが有利ではあります。

 医療法人などであれば、その経験でも参入できるかもしれませんが、全くの別種事業者の場合は、なかなか難しいかもしれません。

 

 

公募で採択されるには

 

 地域密着型サービスに参入するには、他の介護サービス事業を数年経験し、安定した経営ができるようになってからの方が良いでしょう。

 行政は地元で地道に優良な事業を運営している企業を評価しやすいと考えます。

 さらに、母体となる企業(別種事業でも)がその地域で長く経営している場合は、そうした地元への貢献度も評価の対象となります。

 グループホームや小規模多機能居宅介護などのサービスは、一つの企業が各地にチェーン展開している場合も多く、行政としても同種事業を広く展開している経験を買う場合もあります。

 しかし、すでにそのような種類の企業が同地域に開業している場合は、経験は浅くても地元密着型の企業の方を評価することも十分あり得ます。

 

 

地域密着型サービスは介護事業参入の第2ステップ

 

 これまで述べてきたように、訪問介護などで介護事業に参入したのであれば、地域密着型サービスへの参入は事業拡大の第2ステップと考えるべきでしょう。

 地域密着型サービスに参入することで、すでに実施している介護事業にも相乗効果があると考えます。

 

 なお、地域密着型通所介護事業には補助金は出ません。この事業に参入する場合は地域ニーズをしっかり見据え、慎重に取り組むべきであると考えます。

 

 

 次回は、施設サービスについて説明したいと思います。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その3

 

 

 前回の続きです、さらに様々なサービス事業についてご紹介します。

 

 

居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)

 

 在宅のケアマネジメント・サービスを提供する事業所です。

 現状の介護給付費ではこの事業所だけで儲けを出すことは難しいのですが、他の事業所と合わせて経営することで、お客様の獲得という営業的な機能を発揮します。

 

 例えば、訪問介護事業所にケアマネ事務所を併設することで、訪問介護サービスの利用者を獲得しやすくなります。

 

 また、実際にケア・サービスを提供していく上で、ケアマネと訪問介護スタッフが同じ事務所に所属していると、情報の共有が容易になり、きめ細かいサービス提供をしやすくなります。

 

 従って、訪問介護事業所ではこのケアマネ事務所を併設しているところが多いでしょう。

 

 専門的な話になりますが、一つのケアマネ事務所が訪問介護の依頼を、併設の訪問介護事業所に集中させる場合、介護給付費が減らされるというルールがあります(集中減算)。

 

 しかし、実際には併設の訪問介護事業所だけでサービスを独占することは難しく、それほど心配することはありません。

 

 なお、集中減算は国の審議会でも問題視されている部分があり、今後、一定の条件下で緩和される可能性も示唆されています。

 

 ケアマネージャーは介護サービスの営業職的な側面があります。また、一方で、地域行政や各種介護関係組織・医療機関と密接に連携して、地域の介護サービスを推進させていく公的な役割も期待されています。

 

 在宅介護のケアマネージャーは、一つの地域にじっくり腰を据えて、良い仕事をしていくことで、地域での存在感が増し、所属する会社自体も地域から信頼を得ることができます。

 

 居宅介護支援事業所はケアマネージャーが一人いれば開設できます。他のサービスと併設する場合は、そのサービスの管理者も兼務できます。

 

 もし、この事業所を開設しようとする場合、最初に雇用する管理者となるケアマネージャーは、上記のような趣旨に照らして、人格のしっかりした、力のある人をじっくり選んで雇用するべきであると考えます。

 

 

福祉用具貸与・販売

 

 在宅介護で利用する福祉用具の貸与・販売をする事業所です。

 訪問介護事業所で介護福祉士が複数いる場合、この事業所の福祉用具専門相談員と兼務ができますので、兼業している事業所も多いですが、最近では訪問介護業務が忙しく、福祉用具まで手が回らないという状態の事業所が多くなっています。

 

 パナソニックなど大企業が参入していることもあり、福祉用具だけで儲けを出していくことはなかなか難しいといえます。

 

 ただ、ある程度の規模で、多様な在宅サービスを提供している会社であれば、この事業を行うことはメリットがあるかもしれません。

 たとえば、通所介護の送迎車は朝と夕方以外稼働していない場合があります。この送迎車を福祉用具用の運搬車に兼用することはメリットがあるでしょう。

 

 福祉用具は大きな倉庫設備を持つ、仲卸の業者から、用具を借りてまた貸しするような仕組みになっています。この仲卸業者から用具を運搬して設置する業務を、自社で行うことで、収益を上乗せできます。

 

 この仲卸業者は概ね商社などの巨大資本をバックに持つ会社が運営しています。配送をやらせてくれるかどうかは、業者により扱いが異なりますので、開業する前に確認が必要です。

 

 なお、福祉用具専門相談員の資格は50時間の比較的安価な研修を受講すると取得できます。

 

 

訪問入浴

 

 訪問入浴は車に浴槽とお湯を沸かすボイラーを積んで、在宅入浴を提供するサービスです。

 

 改造車などの設備投資が必要になります。また、大きな折り畳みの浴槽を運搬しますので(公営団地では5階まで)、ある程度体力のあるスタッフが必要になります。

 

 介護スタッフ2名プラス看護師が規定人員になりますが、看護業務としては比較的簡単な業務なので、現場を離れて看護の仕事に自信がない看護師さんでも比較的就業しやすい業務でしょう。

 

 訪問入浴の介護職は夜勤が無い仕事の中でも、最も稼げる仕事になっています。従って収入の欲しい、体力のある男性が応募してきます。

 こうした男性職員は向上心がある方も多く、将来、会社のコアスタッフとして活躍する場合もあるようです。

 

 開業する場合は、資金が必要なうえに、地域によってはサービスが飽和状態である場合もありますので、しっかりマーケティングする必要があります。

 

 

通所リハビリテーション(デイケア)

 

 一般の方には、リハビリデイサービス(リハビリ特化型通所介護)と区別がつかないかもしれません。

 

 リハビリデイサービスはあくまで通所介護事業所で、特徴を表すために、リハビリデイサービスと宣伝表示しているだけです。

 

 通所リハビリテーションは通所介護とは異なり、医師と理学療法士などが在籍する、医学的リハビリサービスを提供する事業所です。

 通常、整形外科などに併設されている場合が多いでしょう。

 

 母体が医師のいる医療関係であれば開設のメリットはありますが、そうでなければ開業は避けた方が良いと思います。

 

 

 

 次回は、地域密着型のサービスについてご紹介します。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その2

 

 

 他業種から介護福祉事業に参入しようとした場合、どのような事業を手掛けていけば良いのか悩むところだと思います。

 今回は沢山ある介護福祉事業のうち、どのような事業が参入しやすいのか。さらにメリットやデメリット、留意点について代表的なものをご紹介します。

 

 

訪問介護

 

 訪問介護事業は最もイニシャルコストが安く、かつニーズも高い事業です。そのために介護事業を始める際には、最初にお勧めしたい事業です。10坪ほどの事務所があって有資格者が確保できれば開業できます。

 

 資格は既存の従業員でも研修を受ければ取得できます。また、経験者を雇用すれば仕事も問題なくこなせると考えます。

 

 また、指定訪問介護事業はそのまま、指定障害者居宅サービス事業を兼業できます。障碍者向けの訪問介護事業ですが、こちらも将来的に非常にニーズが高い事業ですから、お客様が絶えない状況です。

 

 現在、訪問介護事業所では人手不足でお客様の要望に応えられない事業所も多くなっており、開業後すぐに経営が軌道に乗る事業所が多いといえます。

 

 

訪問看護

 

 こちらもイニシャルコストの低い事業ですが、看護師を確保しなければなりません。

 看護師が確保できれば訪問介護と一緒に開業することでシナジー効果があります。

 訪問介護は介護以外に医療保険の業務も可能です。

 

 やはり将来的に非常にニーズの高いサービスであり、ご利用者が途絶えることは無いでしょう。

 医療費の財政負担を減らしていきたい我が国にとって、在宅診療は、今後大きく伸びるサービスです。

 

 また、地域に住んでいる主婦の看護師さんが子育てをしながら働く場所として最適な事業です。そうしたパート看護師をうまく確保できれば、事業は順調に伸びるでしょう。

 

 ただし、訪問看護は病院勤務と異なり、一人で患者さんのご自宅を訪問してサービスを提供しますので、病院でチームでしか働いたことの無い看護師さんにとっては少々ハードルの高い部分がありなす。労務管理の中でそうした不安を払しょくできる工夫が必要になります。

 

 訪問系の事業はスタッフの仕事に対する不安や悩みを解消できるかどうかが人員を定着する上での大きなポイントです。

 

 

通所介護(デイサービス)

 

 介護業界を知らない一般の方にとって通所介護は開業しやすい事業というイメージがあったようです。事実、少し前まで、未経験の事業者が沢山参入してきた経緯があります。

 

 その代表がお泊りデイサービスで、空き家を改造して認知症の方の宿泊を受け入れられる通所介護でした。

 行き場のないお年寄りの受け入れ場所として一時脚光を浴びました。

 事業としても毎日宿泊利用するご利用者がいると、宿泊費をとらなくても、介護給付だけで一人当たり30万円以上の売り上げがあるので、誰でも簡単に開業でき、すぐに経営が軌道に乗るとして、フランチャイズ化もされもてはやされました。

 

 しかし、介護の質や夜間の管理体制などに問題が多く、行政から連泊に制限が出されたり、スプリンクラーなどの設備投資の追加や、地域によっては開業が禁止されたりしたために、いまではほとんど新規開業は見られません。

 

 通所介護は訪問介護などに比べればイニシャルコストが高く、最低でも1500万円程度の設備投資が必要な事業です。

 

 最近の低金利で融資が受けやすいために、リハビリデイサービスなどで、他産業からの参入も多いのですが、地域によっては供給過剰気味であり、小規模多機能などの他のサービスとの競合や介護給付費の減額もあり、最初に手掛ける事業としてはハードルが高い事業と言えます。

 

 自社所有で100平米程度の床面積を低コストで確保できる場合など、条件が合えば検討しても良いでしょう。しかし、その場合でも、訪問介護事業所を併設する等して、通所介護だけを単独で開業しない方が良いと考えます。

 

 ただ、比較的スタッフのが確保しやすい事業ですので、資金や地域ニーズなどとの関係を考慮して検討しても良いでしょう。

 

 

有料老人ホーム

 

 資金が潤沢であり、会社に体力がある場合は新規事業として検討する事業者もあるかもしれません。建設業や不動産業から有料老人ホーム事業に参入した会社も多く、最近ではソニーなど大企業も参入しいます。

 

 筆者としては、有料老人ホーム事業は介護福祉事業というよりも、老後の生活を支えるサービス業としての視点が必要だと考えています。

 

 高級な老人ホームは自費負担も大きいので、お客様が限定的になります。また、逆に住宅型などの場合、低所得者(生活保護者を含む)をターゲットにした事業形態もあります。

 資金力だけでなく、ある程度、高齢者のニーズをマーケッティングする力が必要になります。

 

 また、都心部では介護保険予算の負担が大きいため、包括型の老人ホームの開業を区市町村が制限している場合があります。都心部で在宅生活ができなくなった高齢者が郊外の有料老人ホームに転居するパターンも多く、そうしたニーズを把握しなければなりません。

 

 さらに、サービスの質の管理が重要です。虐待などの問題が発覚すると、退所者やスタッフ離れが起こり事業が立ち行かなくなる場合があります。人手不足の中、スタッフの業務管理・労務管理を疎かにすると経営が困難になりやすいのもデメリットでしょう。

 

 

 次回も様々なサービスについてご紹介します。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その1

 

 今回から他の業種から介護福祉事業へ参入する方法についてガイドしたいと思います。

 特に、中小企業事業者が参入しやすい事業ですので、その点を留意してご説明できればと思います。

 

介護福祉事業の参入メリットについて

 

①国の社会保障システムに組み込まれた安定事業である

 高齢者や障害者の生活を保障する仕組みは、先進国では当然のシステムであり、国が責任をもって保障しなければならない事業です。

 そして、我が国はこの分野の整備が他の先進国よりも遅れており、今後さらなる充実が要請されています。

 今のところ筆者が開業をお手伝いした会社のほとんどが継続的に事業を経営しています。

 

②地域に貢献できる事業である

 たとえば、親の代より地域に根差して経営をされているような中小企業であれば、地域における存在感がより増す事業であり、将来にわたり地域での存続を可能にします。

 

③女性が活躍できる職場である

 女性が生き生きと仕事ができる職場を地域に創造することができます。これはワークライフバランスという観点で地域にとって、とても意義があることです。

 

④コスト競争、シェア争いの悩みが少ない

 支援の必要な高齢者や障害者は今後おそらく50年程度増え続けます。誠実なサービス提供を続けていれば、コスト削減に頭を悩ませたり、他社とのシェア争いに巻き込まれることはありません。

 国は社会保障費を抑える目的もあり、病院や施設でケアを受けている高齢者や障害者の在宅ケアを強く推進しています。

 そのため、今以上に在宅ケアニーズが高まっていくことが想定されています。

 

⑤開業コストが極めて安い

 もし、事務所などがすでにあるならば、訪問介護や看護であれば、コストはほぼ人件費だけです。

 保育事業などは施設整備に費用が必要ですが、介護は極めて安価に事業が開始できます。訪問介護などで実績を積んだ上で、規模の大きな事業へと着実に展開していくことで、安定した成長が期待できます。

 

⑥自治体の補助金が使える

 地域密着型のグループホームや小規模多機能などであれば、建築費のほとんどが補助金で賄えます。

 土地をお持ちであれば、他の不動産投資などよりも断然有効な活用ができます。

 

 

では、デメリットは?

 

①あまり儲からない

 会社経営で大成功を狙っているのであれば確かに急成長できる業種ではありません。しかし、長く安定的な事業経営を望むのであれば最適です。

 

②人材確保が難しい

 2016年11月現在、介護職の有効求人倍率は3.4倍です。しかし、まったく求職者が来ないわけではありません。介護事業の場合地域での口コミの評判が物を言う場合があります。働きやすい職場づくりができれば、少しずつ人は集まり定着すると考えます。

 人材の確保と定着のノウハウについてはこちらをご覧ください。

「訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術」https://carebizsup.com/?p=827

 この業界ではスタッフの定着に失敗すると経営ができません。経営がうまくいかない事業者の多くが人材が定着しない会社です。

 

③全くの他業種から参入する場合、何も経験が無くて良いのかという不安

 経営者に経験が無くても、スタッフは有資格者の経験者が集まりますので仕事自体は問題ありません。また、経営者も開業前に介護初任者研修などを受講し、3年から5年経営すれば、概ね業界の姿は見えてくるでしょう。

 基本的には閉鎖性のない業界です。未経験でもやる気さえあれば誰でも参入できます。

 

④仕事が大変そう、3K職場である

 確かに(特別養護)老人ホームでの介護では体力が必要な部分もあります。しかし、在宅援助の場合、多くがそれほど体力を必要とする業務ではありません。訪問介護では70代の女性ヘルパーも活躍しています。

 介護現場の3Kイメージの多くは重度の方々のお世話をする施設介護のイメージと言ってよいでしょう。

 むしろ必要なのは対人援助のスキルや医療や障害の知識であり、そうした能力に優れた事業者であれば、キタナイやキケンは仕事として適切に対処できるものです。

 また将来的には、体力の問題も、福祉機器などの進歩で解消されてくると考えます。

 

 

産業構造が大変化しても生き残るために

 

 これからの50年で日本の産業構造は、それまでの50年に比べ劇的に変化すると考えられます。

 例えば、親の代に会社を興し経営を続けてきたが、このまま同じ事業で会社を継続していけるか、不安に感じている中小企業経営者の方には、特にお勧めしたい事業です。

 起業した地域で少なくとも50年は継続的に事業を営むことができます。

 工場や事務所などの経営資源も再利用できますし、従業員も雇用し続けることが可能です。

 

 次回は、具体的などのような事業参入が可能なのかをご説明します。