障害福祉サービスの利用率が伸び続けています。
「障害者サービス利用率の伸び」
障害福祉サービス等報酬改定検討チーム第1回(H30.8.29) 参考資料
今回は、今後の障害者福祉サービスの動向について分析したいと思います。
日本の潜在的障害者
2018年4月厚生労働省は体や心などに障害がある人の数が約936万6千人との推計を公表しました。この数字は2013年時の調査よりも、149万人増えたことになります。人口比のして6.2%から7.2%へ増えたことになります。
原因として同省は高齢化の進行に加え、障害への理解が進み、障害認定を受ける人が増えたことも増加要因と分析しているようです。
https://www.asahi.com/articles/ASL495Q7BL49UTFK01W.html
一方、世界へ目を向けるとどうでしょう、国連の広報サイトには2013年で世界の人口の15%が障害を持って暮らしていると報じています。
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/5820/
日本の約倍です。これにはどのような意味があるのでしょう?
世界人口の多くは途上国に住んでいて、医療が進歩していないので障害者が多い?
いや、障害者数は医療が発展すればするほど増えます。社会で生きにくい人(障害者)は医療の進歩によりその原因が何らかの障害に起因することが診断されやすくなるからです。
つまり先進国の方が障害者として認定されやすくなるので、障害者人口は増えます。
世界各国の障害者割合(20~64 歳人口)を見てみると以下のようになります。
福祉先進国が上位に名を連ねていることが分かります。この時点では日本の統計調査はありませんが、概ね4~5%になると推測されています。つまりイタリアより下、韓国より上です。
これは何を意味しているのでしょうか?
日本の障害者認定の範囲は狭い
上記の各国の障害者率は、そもそもが障害認定の基準が違うため、このような開きが出てしまうのです。
日本に比べスウェーデンの方が障害者(社会で生きにくい人)が多いわけではありません。日本に比べスウェーデンの方が障害者として認定される人が多いのです。
つまり、日本では障害者として認定されない人がスウェーデンでは障害者として認定されているということです。また、日本では障害認定の申請をしない人でも、スウェーデンでは申請をしているとも言えます。
筆者は引きこもりや不登校、ホームレス、各種依存症などの実社会にうまく適応できず、生きにくい思いをしている人たちも、何らかの障害が認定できると考えています。
おそらく、スウェーデンではそうした日本では障害者として認識していない人たちも、障害者として認定を受け、社会的な支援を受けることができる態勢ができているのではないかと考えています。
閉鎖的国民性が障害者を封じ込める
こうした障害に対する認識の違いはどこからくるのでしょう?
一つは、文化や風土の違いからくるものではないかと考えます。韓国も率が低いですが、日本と似たような社会風土であるからではないでしょうか。
それは「異質性の排除」と「同質性の要求」という閉鎖的社会風土であると思います。
日本人は「みんなと同じ」といった同質性を要求しがちです。「みんなと同じ、周りと同じであれば安心」といった考え方です。
反対に異質なものを持つ人を排除し、差別しがちです。「出る釘は打たれる」「誉れは毀りの基」などプラス面でも同様の反応を示します。
北欧はノーマライゼーションの考えが根付いているので、障害があっても大手を振って社会に出ていけます。
日本では、障害の子を持つ親はそのことを外にはあまり表したがりません。また、障害児を生んだ母親は嫁ぎ先の家族から非難されたり、自己嫌悪に陥ったりする傾向があり、辛い思いをすることも少なくありません。
最悪、無理心中などの事態が生じる場合もあります。
つまり、社会にとって異質と考えられる障害を隠そうとするバイアスが働きやすく、結果、適切な診断を受けて障害認定を受けることを避ける方向に働くわけです。
国としても自ら申請をしない障害者への支援は考えていません。日本の障害者支援制度は申請をして名乗り出なければ支援を受けられない傾向が強く、隠れ障害者がたくさん存在しています。
「8050問題」がその典型例
「長期間の引きこもりをしている50代前後の子どもを、80代前後の高齢の親が養い続けている」問題です。その親の介護サービス開始とともにその子供の問題が発覚したりします。
おそらくその子はなんらかの障害を抱えている可能性が高いのですが、医療などの支援を受けられないできたのです。
ケアマネージャーはそうしたケースに良く遭遇するものです。しかし、子供への支援は介護ではできません。自治体に問い合わせても対応するセクションが無く、自ら病院に行くなどしない限り、障害福祉の支援は届かないのです。
社会に届きにくい障害者の声
実は障害者は選挙において票になりにくいと言われています。
高齢者層は積極的に投票に行きますし、介護や年金問題などで候補者も政策を訴えやすいのですが、障害者は投票率も低く(投票に行けない、選挙情報が届かないなど)、候補者もターゲットを絞った政策提言がしにくい現状があります。
そのため政治に障害者の声が届きにくいのではないかと考えます。
結果、先述の社会風土の影響もあり、日本の障害者福祉制度は世界標準には程遠いと言われる現状になってしまっているわけです。
しかし、最近になって障害者自らが政治の場に参加し始める動きが見えてきました。
こうした動きは今後加速していくはずです。
さらに、障害を隠す社会風土も改善されつつあり、多くの障害者やその家族が外部サービスを積極的に活用し始めています。
今後、「社会で生きにくい人」に対する支援サービスはさらに拡充されると考えます。
サービス提供の主体である私たちはそのサービス幅の拡大に備える必要があるでしょう。