今回は介護報酬の算定基準(指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準)に関するポイントです。
保険者である区市町村はこの基準により、介護報酬が適切に算定され請求されているかをチェックします。
また、都道府県も加算について基準の要件が完備されているかをチェックします。
いずれにしても、加算については必ずチェックされますので、書面等で必要条件がクリアしていることがわかるようにしておかなければなりません。
従って、ここでは加算を中心にポイントを解説したいと思います。
なお、医療保険の加算もこれとは別にありますが、基本的な必要書類は同じですので、同様に整備する必要があります。
医療保険の算定方法が不明な場合は、悩まずに地方厚生局の地域事務所に確認したほうが良いと思います。
➡地方厚生局地域事務所連絡先 診療報酬に関する紹介先
ここでは、介護保険加算について説明いたします。
(1)早朝・夜間、深夜の加算
こちらは訪問介護と同じ扱いになります。
チェックポイントを以下のようになります。
① ケアプランと訪問看護計画書に時間が明示されている(利用者に同意済み)。
② サービス開始時刻が加算の対象となる時間帯にある場合にのみ、算定できます。
③ ただし、加算の対象となる時間のサービス提供時間が全体のサー ビス時間に占める割合がごくわずかな場合においては、この加算は算定できません。
よく問題になるのが、下線部のごくわずかな時間とはどの程度の時間かということです。1時間のサービス時間の中で30分が加算対象時間であればOKなのでしょうか?実地指導では自治体によって判断が分かれる部分もあるようです。少なくとも全体の時間の1/2以上が加算の時間になっていれば大丈夫だと思いますが、不安な場合は保険者の自治体に確認する方が良いでしょう。
【 確認 】
早朝=サービス開始時刻が6時~8時
夜間=サービス開始時刻が18時~22時
深夜=サービス開始時刻が22時~6時
(2)緊急時訪問看護加算
この加算を算定するためには都道府県または管轄の自治体にに算定届を提出していなければなりません。
医療保険では24時間連絡体制加算及び24時間対応体制加算と二つあり、名称も異なっていますが必要な要件はほぼ同じです。
チェックポイントを以下のように整理します。
① 同じ月に医療保険の上記の(24時間)加算を算定している場合は、介護保険の緊急時訪問看護加算は算定できない。
② 当加算は24時間いつでも訪問看護師に連絡が取れる体制が要件とされていますから、実地指導では連絡体制をどのように取っているのかチェックされる。具体的には携帯電話などの持ち方や、連絡を受ける方法を確認されます。
◎ 連絡担当が管理者の場合はその携帯電話番号を利用者や家族にどのような文書で知らせているのか書類で確認。
◎ スタッフで緊急連絡用の携帯電話を持ち回りしている場合は、その順番を記載した当番表などをチェック。
◎ 相談担当は原則、看護師か保健師とされていますが、准看護師や理学療法士などが連絡を受けて、看護師・保健師に引き継げる体制ができていれば良い。
◎ 利用者にはこの加算を算定していることを説明し、同意をえなければなりませんから、通常は重要事項説明書に緊急連絡先の電話番号を明記。
③ この加算を算定する訪問看護サービスを提供した場合は、早朝や夜間であっても早朝・夜間・深夜加算は算定できません。
◎ ただし、特別な管理が必要な利用者(特別管理加算を算定している方)の場合、1月に2回以上の緊急訪問を行ったら、2回目以降は早朝・夜間・深夜加算を算定できる。これは、特に手厚いケアの必要な利用者さんの場合、緊急訪問が頻繁に発生する可能性があり、常態化する状況もあるためだと考えます。
④ 複数の訪問看護ステーションからサービスを受けている利用者には他のステーションが当加算を算定していないことを確認すること(一人の利用者に複数の事業所が当加算を算定することはできない)。
(3)特別管理加算
この加算も自治体にに届出を提出していなければなりません。
特別管理加算はⅠとⅡがあります。
≪Ⅰ≫
・在宅悪性腫瘍患者指導管理もしくは在宅気管切開患者指導管理を受けている状態にある利用者
・気管カニューレもしくは留置カテーテルを使用している状態にある利用者
≪Ⅱ≫
・在宅自己腹膜灌流指導管理、在宅血液透析指導管理、在宅酸素療法指導管理、在宅中心静脈栄養 法指導管理、在宅成分栄養経管栄養法指導管理、在宅自己導尿指導管理、在宅持続陽圧呼吸療法 指導管理、在宅自己疼痛管理指導管理又は在宅肺高血圧症患者指導管理を受けている状態
・人工肛門又は人工膀胱を設置している状態
・真皮を越える褥瘡の状態(NPUAP(National Pr essure Ulcer of Advisory Panel)分類III度若しくはIV度又は DESIGN分類(日本褥瘡学会によるもの)D3、D4若し くはD5に該当する状態)
・点滴注射を週3日以上行う必要があると認められる状態にある利用者(主治医の指示書が必要。かつ実際に週三日以上点滴注射を実施している状態)
ポイントは以下の通りです。
① 一人の利用者に複数の訪問看護ステーションで本加算を算定できない。算定する場合は事業所同士で合議し算定する。その情報については文書で残しておく。
② 点滴注射の実施の際は、終了後主治医に報告し、実施内容を記録書(Ⅱ)に記録する。
(4)ターミナルケア加算
こちらも届け出が必要です。また、24時間連絡ができる体制が確保されている必要があり、緊急時訪問看護加算の要件を満たしている必要があります。
ポイントは以下の通り。
① 算定は死亡月(死亡月に訪問実績がない場合でも)。
② 頻回に訪問看護が必要であり、医療保険の訪問看護が指示されている場合、死亡前、最後の訪問看護が医療保険によりるものか介護保険によるものかにより、ターミナルケア加算をどちらの保険で算定するかが決まる。
例:利用者がターミナル期になり、特別指示書で頻回に訪問看護に入っていて、14日間の特別指示期間終了後(医療保険による訪問)、介護保険の訪問を1日提供し、翌日死亡。
この場合、ターミナル加算は介護保険で算定し、医療保険では算定できない。
③ 以下の内容を記録書Ⅰ・Ⅱに明記しておくこと。
◎ 終末期の身体症状の変化及びこれに対する看護についての記録
◎ 療養や死別に関する利用者及び家族の精神的な状態の変化及びこれに対するケアの経過についての記録(例:本人、家族の死の受容に対してどのような対応をしたか)
◎ 看取りを含めたターミナルケアの各プロセスにおいて利用者及び家族の意向を把握し、それに基づくアセスメント及び 対応の経過の記録(例:本人、家族がどのように最後の時間を過ごしたいと望んでいるのかを把握し、それを実現するために何が課題であり、それをどのように解決するか、また、実際にどのように対応したか)
④ ターミナルケア中に医療機関に搬送された場合、24時間以内に死亡が確定した場合は、本加算を算定できる。
(5)初回加算
初回加算は間違えが多い加算ですので、特に注意したほうが良いでしょう。
以下のポイントにご留意ください。
① 初回加算を算定する場合は、必ず新規に訪問看護計画書を作成しなくてはならない。
② 過去2月間において訪問看護(医療保険の訪問看護を含む)の提供を受けていた利用者には加算できない。
◎ 過去2月間とは歴月で丸々2月という意味です。たとえば4月1日に訪問し、4月2日に入院した場合、次の訪問で初回加算が算定できるのは、7月1日以降です。6月ではありません。
③ 要支援⇔要介護と区分が変更になった場合は加算可
初回加算を算定している場合、実地指導では①と②が必ずチェックされますので特に注意しましょう。
(6)退院時共同指導加算
病院や老健から退院・退所する際に、原則1回算定できますが。留意すべきポイントは以下の通りです。
① 算定は初回の訪問時の報酬に加算する。
② 初回の訪問が退院時共同指導を実施した翌月でも算定可能(翌々月は不可)。
③ 特別管理加算を算定できる利用者については2回算定できる(当然、共同指導が2回行われている場合のみ)。
④ 上記の場合、2か所の訪問看護ステーションでそれぞれ1回ずつ算定可能。
⑤ 1回しか算定できない場合、他の訪問看護ステーションが退院時共同指導を実施していないか確認すること。
⑥ 1回しか算定できない場合、介護保険で算定すると、医療保険では算定できない(2回できる場合はそれぞれの保険で1回ずつ算定可能)。
⑦ 共同指導の内容は必ず記録書に記録する。
(7)看護・介護職員連携加算
この加算は訪問介護事業所がたんの吸引等の医療的サービスを行う際に、連携する訪問看護ステーションが算定できる加算です。
連携の枠組みは制度化されており、医師、訪問看護師、訪問介護員がサービス提供体制を構築していなければなりません。
通常ですと訪問介護事業所がたんの吸引等の事業者登録する時点から連携し、研修の指導者として関わっていくことが多いと思います。
詳しくはこちらの資料をご覧ください。➡喀痰吸引等指導者講習会資料
ポイントは以下の通り。
① 訪問介護員によるたんの吸引等のサービス体制を構築強化するために、訪問介護員に同行訪問し業務状況を確認した時や、会議に出席した時に算定できる。
② 上記の連携を行った月の初回の訪問看護報酬に加算する。
③ 緊急時訪問介護加算の届け出が出ていない場合は算定できない。
④ ケアプラン上計画されている訪問看護実施の際に、訪問介護員が同行し、たんの吸引等のサービス実施状況を確認した時に、計画した訪問看護時間を超過しても、当初の計画の訪問時間以上の報酬は算定できない。
⑤ 本加算は訪問看護員のたんの吸引等の技術不足を補うことを目的とするのではなく、安全なサービス提供体制を構築する上で、医療的な知見からサービスの実施状況を評価し、医師への情報提供やサービス向上の取り組みに対し加算するものであり、介護職員の技術的指導や研修を目的した同行訪問では加算できない。
(8)看護体制強化加算
算定する場合は届け出が必要。
本加算は医療依存度が高い利用者が多い場合に算定できますが、基準を超えなかった月は算定できません。従ってこの加算を算定する場合は毎月基準を超えているかチェックし、記録に残しておく必要があります。実地指導では当然、すべての月の基準状況について文書でチェックされます。
以下3つの基準をすべてクリアしていなければ算定できません
① 算定する月の前3か月で、緊急時訪問看護加算を算定した利用者が50%以上
② 算定する月の前3か月で、特別管理加算を算定した利用者が30%以上
③ 算定する月の前12か月で、ターミナルケア加算を算定した利用者が1名以上
人数の計算方法は以下を参考にしてください。
例)特別管理加算を算定した実利用者の割合の算出方法
※6月に看護体制強化加算を算定
3月 | 4月 | 5月 | |
利用者A | 〇 | 〇 | 〇 |
利用者B | ◎(Ⅰ) | ||
利用者C | 〇 | 入院 | ◎(Ⅱ) |
〇訪問看護のサービス提供が1回以上あった月
◎特別管理加算を算定した月
【人数算出方法】
ア 前3月間の実利用者の総数 = 3人
イ アのうち特別管理加算(Ⅰ)(Ⅱ)を算定した実利用者数 = 2人 → アに占めるイの割合 = 2/3 ≧ 30% …算定要件を満たす
注意!! 基準がクリアできない月が発生した場合は届け出が必要になります。
(9)サービス提供体制強化加算
算定には届け出が必要です。
以下の4つの要件があり、すべてを満たしている必要があります。
① すべての看護師等への研修の実施
② すべての従業者による技術指導を目的とした会議の毎月開催
③ 非常勤職員を含めた健康診断の実施
④ 看護師等の勤続年数について、3年以上の者が3割以上
上記の要件を満たせなくなった場合は速やかに届け出が必要になります。
各要件にかかわるポイントを以下に示します。
① すべての看護師等への研修の実施
◎ 従業者ごとに具体的な研修の目標、内容、研修期間、実施時期等を定めた研修計画を作成し実施しなければなりません。届け出時は予定でかまいません。
個別研修計画の見本をダウンロードしてご確認ください。➡訪問看護師研修計画
この研修はパートも含めて全員が受講しなければなりませんので、欠席者は補講する等対策が必要です。実地指導では研修計画と実施記録、出席簿、研修教材など研修の実態がわかる書類をチェックされます。
② すべての従業者による技術指導を目的とした会議の毎月開催
◎ いわゆるケアカンファレンスであり利用者のケースをみんなで話し合う会議です。
◎ 月に1回以上開催する必要があります。
◎ 上記の研修の際に、カンファレンスを同時に開催すると参加しやすいかもしれません。
◎ 欠席者は別に集めて同様のカンファレンスをする必要があります。
◎ 議事録と参加者名簿を作成し保管しておきます。
③ 非常勤職員を含めた健康診断の実施
◎ パートさんも含めて全員が会社の負担で健康診断を受けなければなりません。
◎ 年間の健康診断の実施状況がわかる書類(受診した従業員の名前がわかる書類)と法人が支払った領収書を保管しておきます。
◎ 扶養の方など区市町村の特定健康診査を受ける方、は診査料を法人が立て替える必要があります。その際は、その方から受領書を貰っておきましょう。
④ 看護師等の勤続年数について、3年以上の者が3割以上
◎ 計算方法は次の計算書を使用します。→勤続年数計算書(東京都の計算書です。加算届の様式にエクセルシートが添付されています)
◎ 計算の対象となった職員が、在職する(した)ことを示す書類(在職期間と職務内容がわかるもの)=労働者台帳等を保管しておく。
◎ 訪問看護ステーションに所属する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士も対象です。
以上、長くなりましたが各種加算のチェックポイントでした。
次回は最終回です。
訪問看護の実地指導でよく指摘される事項やその他の留意事項について解説します。