「介護人材不足はいつまで続くのか?」
結論を先に言ってしまうと、今後10年程度で人材不足は解消するのではないかと、私は睨んでいます。さらに言えば、将来は労働者が余ってしまう時代がやってくるかもしれません。
まず、現状の人手不足の原因について考察してみたいと思います。
◆介護福祉の経営にとって、人手不足は事業成長の大きな阻害要因
28年6月の全国正社員有効求人倍率は0.88倍。東京は2.05倍となり、高度経済成長末期の1974年5月(2.23倍)以来の高水準となっています。
介護に限らず、運輸や建築業などを中心にあらゆる方面で人手不足が顕在化しています。
友人のトラック運転手は休みが週に1度しかなく、夏休みもない状態で働いているとぼやきます。運送業では荷物があれば誰かが運ばねばならず、遅れればクレームになるのでやらざるをえないそうです。
人手不足は労働環境の悪化につながります。より良い処遇を求め、離職によるさらなる人手不足の悪循環が発生します。人手不足による過重労働が原因となり、介護福祉現場では虐待なども発生します。
そして、この事業の場合、働き手がいなければイコール事業が成長しないことです。人が集まれば新しい事業を次々に展開することも可能でしょう。最近では人が集まらないために、特別養護老人ホームの公募で採択されたのに、辞退したという話も聞こえてきます。
◆人手不足の原因は何だろう
現状における、日本全体の人材不足は、団塊の世代の大量退職と、バブル崩壊・リーマンショック以来の人件費削減の反動。円安による企業会計の好転。中国をはじめとしたアジア諸国の人件費高騰による、仕事の日本回帰。震災復興需要。ITなどの産業ニーズの変質に人材開発が追い付いていないなど複合的な要因が原因として挙げられるでしょう。
政府は労働需要が高いことはアベノミックスの成果と言っていますが、需要が高いのに賃金が改善されなければ、国民の所得は改善されないばかりか、介護・運輸・建築など、もともとの賃金水準が低い業種にしわ寄せが来るのは避けられません。
全体の賃金が上がれば企業は人件費を抑えますので人材不足も改善されるかもしれません。現政権は最低賃金の改善を打ち出していますが、現状ではまだまだ効果が出ていません。
ちなみに、最低賃金の国際比較では日本は先進国でも最低レベルのようです。
(2015.12.10産経新聞調べ)http://www.sankei.com/west/news/151210/wst1512100006-n1.html
オーストラリア 1,517円
フランス 1,265円
英国(21歳以上) 1,256円
ドイツ 1,118円
米国(平均) 892円
日本(平均) 798円 現在は823円
最低賃金は物価との関係もありますので、賃金が高いから国民が豊かとは一概には言えません(最低賃金が高い国は比較的物価も高いようです)が、デフレから脱却して賃金と物価を上げたい日本政府としては最低賃金1,000円を目指しているという声も聞こえます。
最低賃金の上昇は、かつて経済団体からの反発が強く、なかなか上げられない状況が続いていました。日本はコンビニやファストフード系の企業などパート労働者の活用により成長してきた企業が多く、最低賃金の引き上げは人件費コストにダイレクトに響きます。そのため、反対してきた経緯があります。
しかし、現在、都市部を中心に、こうしたパート労働者自体が集まらず、企業自らが時給を上げざるを得ない状況になっています。都市部では、最低賃金ではパートさんをなかなか雇えない状況でしょう。
東京郊外にオープンした巨大ショッピングモールで熾烈なパートさん獲得合戦が繰り広げられたというニュースは、もう3年も前のことです。
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO63355220Z21C13A1L71000/
今も、この状況はあまり変わっていないようです。
現在、首都圏の介護福祉業界のパートさんの時給は1,000円以上になって来ています。しかし、他の業種のパートさんも1,000円を超えて来ていますので、仕事の内容から介護福祉業界は分が悪いと言えます。特に若い人にはおしゃれなショップ店員などの方が魅力的に映るでしょう。
◆国は「2020年代初頭に向けた総合的な介護人材確保対策」を発表
厚生労働省は3月に、介護人材不足対策を打ち出しました。介護職の社会的な地位を引き上げることや、介護の仕事に戻ってくることを促進するような対策を打ち出しています。
「介護人材の確保につい」 厚生労働省資料
処遇改善や助成金など税金を投入することで人材確保を目指すことは、ある程度の成果を上げるかもしれません。しかし、前述のとおり人材不足は介護業界だけではありません。政府も介護福祉分野だけ優遇することはできないでしょう。建築や運輸の分野で国土交通省や他の省庁も人材確保の対策を打ってきます。
高齢者や主婦など未就労層を開拓して労働者を増やすことで、人材は増えるかもしれませんが、限界があると私は考えます。人口が減り続けているわが国では、限られた人材をみんなで奪い合う状況は、今後も変わらないのではないかと考えます。
次回は、外国人の受け入れやロボットの導入などを見据えて、介護人材不足がどのように解消するか考えます。