介護人材不足はいつまで続くのか その1(原因の考察)

「介護人材不足はいつまで続くのか?」

結論を先に言ってしまうと、今後10年程度で人材不足は解消するのではないかと、私は睨んでいます。さらに言えば、将来は労働者が余ってしまう時代がやってくるかもしれません。

まず、現状の人手不足の原因について考察してみたいと思います。

 

◆介護福祉の経営にとって、人手不足は事業成長の大きな阻害要因

 

28年6月の全国正社員有効求人倍率は0.88倍。東京は2.05倍となり、高度経済成長末期の1974年5月(2.23倍)以来の高水準となっています。

 

介護に限らず、運輸や建築業などを中心にあらゆる方面で人手不足が顕在化しています。

友人のトラック運転手は休みが週に1度しかなく、夏休みもない状態で働いているとぼやきます。運送業では荷物があれば誰かが運ばねばならず、遅れればクレームになるのでやらざるをえないそうです。

 

人手不足は労働環境の悪化につながります。より良い処遇を求め、離職によるさらなる人手不足の悪循環が発生します。人手不足による過重労働が原因となり、介護福祉現場では虐待なども発生します。

 

そして、この事業の場合、働き手がいなければイコール事業が成長しないことです。人が集まれば新しい事業を次々に展開することも可能でしょう。最近では人が集まらないために、特別養護老人ホームの公募で採択されたのに、辞退したという話も聞こえてきます。

 

 

◆人手不足の原因は何だろう

 

現状における、日本全体の人材不足は、団塊の世代の大量退職と、バブル崩壊・リーマンショック以来の人件費削減の反動。円安による企業会計の好転。中国をはじめとしたアジア諸国の人件費高騰による、仕事の日本回帰。震災復興需要。ITなどの産業ニーズの変質に人材開発が追い付いていないなど複合的な要因が原因として挙げられるでしょう。

 

政府は労働需要が高いことはアベノミックスの成果と言っていますが、需要が高いのに賃金が改善されなければ、国民の所得は改善されないばかりか、介護・運輸・建築など、もともとの賃金水準が低い業種にしわ寄せが来るのは避けられません。

 

全体の賃金が上がれば企業は人件費を抑えますので人材不足も改善されるかもしれません。現政権は最低賃金の改善を打ち出していますが、現状ではまだまだ効果が出ていません。

 

ちなみに、最低賃金の国際比較では日本は先進国でも最低レベルのようです。

(2015.12.10産経新聞調べ)http://www.sankei.com/west/news/151210/wst1512100006-n1.html

 

オーストラリア 1,517円

フランス 1,265円

英国(21歳以上) 1,256円

ドイツ 1,118円

米国(平均) 892円

日本(平均) 798円 現在は823円

 

最低賃金は物価との関係もありますので、賃金が高いから国民が豊かとは一概には言えません(最低賃金が高い国は比較的物価も高いようです)が、デフレから脱却して賃金と物価を上げたい日本政府としては最低賃金1,000円を目指しているという声も聞こえます。

 

最低賃金の上昇は、かつて経済団体からの反発が強く、なかなか上げられない状況が続いていました。日本はコンビニやファストフード系の企業などパート労働者の活用により成長してきた企業が多く、最低賃金の引き上げは人件費コストにダイレクトに響きます。そのため、反対してきた経緯があります。

 

しかし、現在、都市部を中心に、こうしたパート労働者自体が集まらず、企業自らが時給を上げざるを得ない状況になっています。都市部では、最低賃金ではパートさんをなかなか雇えない状況でしょう。

 

東京郊外にオープンした巨大ショッピングモールで熾烈なパートさん獲得合戦が繰り広げられたというニュースは、もう3年も前のことです。

http://www.nikkei.com/article/DGXNZO63355220Z21C13A1L71000/

今も、この状況はあまり変わっていないようです。

 

現在、首都圏の介護福祉業界のパートさんの時給は1,000円以上になって来ています。しかし、他の業種のパートさんも1,000円を超えて来ていますので、仕事の内容から介護福祉業界は分が悪いと言えます。特に若い人にはおしゃれなショップ店員などの方が魅力的に映るでしょう。

 

◆国は「2020年代初頭に向けた総合的な介護人材確保対策」を発表

 

厚生労働省は3月に、介護人材不足対策を打ち出しました。介護職の社会的な地位を引き上げることや、介護の仕事に戻ってくることを促進するような対策を打ち出しています。

 

介護人材の確保につい」 厚生労働省資料

 

処遇改善や助成金など税金を投入することで人材確保を目指すことは、ある程度の成果を上げるかもしれません。しかし、前述のとおり人材不足は介護業界だけではありません。政府も介護福祉分野だけ優遇することはできないでしょう。建築や運輸の分野で国土交通省や他の省庁も人材確保の対策を打ってきます。

 

高齢者や主婦など未就労層を開拓して労働者を増やすことで、人材は増えるかもしれませんが、限界があると私は考えます。人口が減り続けているわが国では、限られた人材をみんなで奪い合う状況は、今後も変わらないのではないかと考えます。

 

次回は、外国人の受け入れやロボットの導入などを見据えて、介護人材不足がどのように解消するか考えます。

 

 

 

 

介護職員の虐待・犯罪行為を防止する方策について考える 最終回

◆人事異動により不正などの犯罪行為を防止する

1 一人の担当者が長い間、同じ仕事をすることは危険

 公務員は通常、3年程度、長くても7年程度で職場を移動します。入札担当や発注担当は2年で移動になることも多いでしょう。外部との癒着の可能性がある部署や高額の現金を取り扱う部署では、特に就任期間は短い傾向があります。

 これは、不正や犯罪行為が行われやすい傾向のある部署に一人の職員を長い間配属させていると、不正や犯罪行為の発覚が遅れてしまうのと、ちょっとした出来心による横領などの犯罪が起こりやすいからです。

 一人の人が同じ仕事を長く続けることは、その人がその仕事のオーソリティとなってしまい、周囲からその人のしている仕事が見えにくくなります。そのため外部からのチェック機能が働かないことが良くあります。近頃、問題となったマンションの杭打ちデータ不正や免震ゴムの問題も一人の担当者がずっとその仕事をしており、外部からのチェック機能が働かないために起こったといわれています。

 介護現場でいえば、一人のケアマネージャーが長い間同じ利用者を担当しており、勝手にやっていた不正請求(例えばモニタリングをしていなかったなど)のために、多額の返還金を払わなくてはならない事例などは良く発生しています。

 このように、不正や犯罪が起こりやすい職務に長い間、同じ人を勤務させることは、外部からのチェック機能が働きにくいため、トラブルが発生リスクが高いといえるでしょう。

 

2 人事異動による効果

 ある担当者に魔がさして、不正請求などをしようとしても、人事異動によって人が変わり、次の人がその不正を発見してしまう恐れがあれば、人はなかなか悪事に手を染めることができないものです。また、あとで後任が見ると思えば、ずさんな仕事もしない傾向にあります。

 介護保険費の不正請求の時効は5年です。場合によっては最長5年分の返還金が命じられます。不正行為の期間が短かければ短いほど、損害も小さく済みます。 

 

3 訪問系では担当を定期的に変える、もしくは複数で担当することも重要

 訪問介護や看護は一人の職員がサービスを提供しますので、場合によっては同じスタッフがずっと同じ利用者を担当することがあります。ご家族などのチェック機能が働く場合は良いのですが、独居で認知症など、不正行為などを理解できない利用者の場合、できれば定期的に担当者を変えることで、犯罪行為を事前に防止できると考えます。

 また、認知症の困難ケースなど虐待が発生してしまう恐れのある利用者へのサービス提供は、一人の担当者に任せてはいけません。必ず事業所として複数の担当者で当たることが大切です。そうすることで、担当者への負担も軽減できますし、問題を話し合う体制もできると考えます。

 訪問系だけでなく、ある、通所介護事業所ではいつも同じ担当者が利用料の現金集金をしており、認知症の利用者から不正な利用料金を徴収・横領し逮捕されたという事件がありました。

 現金を扱ったりする場合や認知症の利用者への対応は、人を変えるとともに、できるだけ複数の人間であたることでチェック機能が働き不正が起こりにくいと考えます。

 

 

◆小さな事業所では内部チェック機能を高める

 人事異動はそれなりの大きさの組織では有効な手段ですが、小さな事業所ではなかなかそうも行きません。事業を拡大させ職員数を増やしていくことも一つの戦略ですが、虐待や不正行為の発生は待ってくれませんので、どんなに小さな事業所でも防止策は取っておく必要があります。

 

1 ケアマネージャーは一人で仕事を抱え込ませない

 ケアマネージャーが本来やるべき仕事をしていないために、減算などにより返還金が発生するケースは非常に多く、場合によっては多額の返戻金や悪質だと判断されると指定取り消しの場合もあります。

 ケアマネージャーは場合によっては仕事を抱え込んでしまい、外部から手を触れさせない傾向があります。一人ケアマネの事業所(訪問介護事業所併設)で何年もケアプランを更新せず、サービスを提供していたケースもありまず。

 ケアマネージャーの仕事は事業所内でできるだけオープンにし、一人で抱え込ませないようにしなければなりません。できれば更新時は必ず複数のスタッフでカンファレンスを行い、年に1回は必要な書類が整備されているかを別の誰かがチェックする仕組みを作りたいものです。

 

2 虐待防止策

 前述のとおり、認知症など自分の意思を明確に表示できない利用者に対するサービスは、チームもしくは複数の担当者で行うことが有効です。特に訪問介護では必ずそのような体制を敷くべきであると考えます。

 また事業所の管理者やサービス提供責任者は、虐待などの行為が犯罪行為であり場合によっては逮捕される可能性があることを、しっかり認識しながら職務に当たらなければなりません。そのためにはコンプライアンス研修を受け、法令の優先順位などをしっかり理解しておく必要があります。

※過去の記事➡コンプライアンス(法令順守)の優先順位

 通常、虐待の発生しやすい事例は困難ケースに当たります。すでに述べたととおり、一人の担当者に仕事を押し付けるようなことは決してしてはいけません。絶えず組織として利用者に対応し、一人の担当者にストレスが溜まることは避けなければならないでしょう。

 

3 その他犯罪行為の防止

 現金の横領や窃盗、事業所の売り上げを上げたいために未実施サービスを請求するなど、職員の個人的な動機により手を染めてしまう犯罪にはどのような防止策があるでしょうか。

 その2の回で述べた通り、処遇を良くし、その会社や組織に就労し続けるメリットを増加させることで、つまらない犯罪を減らすことはできます。しかし、小さな事業所ではそうした対策もなかなか難しいでしょう。

 小さな事業所のメリットは「小さい」ことです。そのことによりスタッフ間のコミュニケーションは密になります。このメリットを活用することで犯罪の防止ができると考えます。

 「小さな事業所ですがみんな仲が良く、とても家庭的な雰囲気の職場です」などという求人のうたい文句がありますが、仲良しグループで仕事がなれ合いになるというデメリットもあります。しかし、なんでも話せる雰囲気や、悩み事を抱え込まないような良好な人間関係が育まれやすいのは、小さな事業所のメリットでしょう。そうした風通しの良い組織では構成員の仕事ぶりが比較的オープンとなり、自然とお互いのチェック機能が高まります。また、ストレスも大きく軽減され、不正行為へのブレーキがかかると思います。

 また、管理者やサービス提供責任者のリスクマネジメントの意識も大切です。ご利用者の家や居室で窃盗などの犯罪が起こる可能性について、管理者やサービス提供責任者はいつでもアンテナを張り、リスクマネジメントしなければなりません。

 日ごろ「ヒヤリハット」などにより介護事故に対するセンサーは張っていても、スタッフの魔がさしてご利用者の物品を盗む可能性についてはあまりチェックしていないのではないでしょうか。

認知症の利用者の金銭管理や鍵の管理は必ず組織的に対応することが重要ですし、高額な物品があるような場合は必ずカンファレンスなどで事前に議題にしておくことが大切でしょう。

 職員の出来心による犯罪を防止するには、犯罪発生の可能性を潰していくことがとても大切です。できるだけ出来心が起こらないような事前対策を意識してください。

 

◆経営者自身がコンプライアンスについての意識を高める

 指定取り消しなどのケースでは、不正請求やスタッフ資格の誤魔化しが、組織ぐるみで行われている場合が多く(それゆえに悪質)、経営者自身がそれに関与している事例も少なくありません。

 コンプライアンスは、まず経営者自身が危機意識を高めることから始めなければなりません。自らが経営する事業所から犯罪行為が出れば、事業そのものが立ち行かなくなる可能性が大きいのです。ちょっとした不正行為でも、地域でうわさが広まれば、利用者減に直結します。

 相模原の事件は、社会福祉法人が運営する市の施設で発生しました。通常、施設の管理をする社会福祉法人はこうした事件が発生しても、施設管理者の立場を追われることはありません。それは特別養護老人ホームなどについても同様で、虐待などの犯罪行為が施設内で発生しても、運営者を変えられることは無いのです。

 しかし、一般の事業者の場合は違います。老人ホームや自らの事業所で犯罪が起きれば、経営者に瑕疵が無くても経営に直結する危機です。介護福祉業界はそうしたコンプライアンスにかかわる危機意識が非常に低いように感じます。

 立場の弱い人の支援をすることは、その立場の弱さ故に、犯罪行為が発生しやすいことを肝に銘じておかなければなりません。

 

 

介護職員の虐待・犯罪行為を防止する方策について考える その2

 介護福祉の事業所経営では、職員の虐待行為や利用者への犯罪行為は、経営上の大きなリスクです。ここではそうした事業経営の観点に立って、介護職員による虐待や犯罪行為を防止するための方策について具体的に考察します。

 

◆研修だけでは限界がある

 介護職員の虐待や犯罪行に対して、職員研修の充実により対処しようとしても、限界があると私は考えています。

 どんな人間でも虐待や犯罪行為は悪いことであるという倫理感を持ってると思います。研修で様々な介護職の虐待や犯罪のケースを聞かされ、「このようなことをしないように」と言われても、いざ現場に戻りストレスに晒されると、そのような知識としての倫理観が消えてしまうのです。

 認知症の利用者が言うことを聞かなかったり、暴言や暴力を振るわれると、そのような倫理観をしっかりもって冷静に対応することは、ベテランの介護職でも難しいことがあるでしょう。

 私は暴言や暴力をふるう入居者の介護をする、絶対に怒らず、優しい介護ができる、高性能な介護ロボットが開発されたら良いのにと思うことがよくあります。つまり、それほど冷静に感情を殺して仕事をしなければならない場面が、介護職にはあります。

 そうした鉄の心を研修によって育成することはかなりの時間とコストが必要になります。時に精神科医や心理カウンセラーレベルの、相手の感情に振り回されないトレーニングをしなければなりません。優秀な介護職員は時にそのような対応ができる人もいますが、多くの職員は感情的な攻撃に感情を動かされず、傷つかないで淡々と仕事をすることは難しいでしょう。

 よく言われる介護職のバーンアウト症候群(燃え尽き症候群)はこうしたことが原因の一つでしょう。一生懸命お世話をしているご利用者に憎まれながら仕事をすることは辛いことです。心が傷ついてしまい、離職につながってしまいます。

 認知症の利用者に対しては、上述の鉄の心と、その人にとって優しい人間であるということを理解させる、ある種偽善的なコミュニケーションテクニックが必要になります。

 「相手を理解することはできないが、相手に自分が理解者であると思わせることはできる」という受容の概念に基づいたテクニックを身につける必要があるのですが、はたして介護施設で働く職員のどれだけの人がこの技術を体得しているでしょうか。

 こうした技術を身につけるには、障害や認知症に対するしっかりとした知識と実際の現場での実践を通じた理解と経験を積み重ねる必要があり、いわゆる集合研修(OFF-JT)だけでは身につくものではありません。OFF-JTとON-JTを繰り返し、少しずつ身につけていける技術であると考えます。

 しかし、虐待や犯罪につながる場面はこうしたものだけではありません。上述のコミュニケーションテクニックを身につけていても、利用者のお金に手を付けるような人はいます。さらにそのような技術を持っていても虐待をする人はいます。これは研修ではどうしようもないことです。

 

◆処遇改善で解決するのは一部

 よく、介護職の処遇が悪いから虐待や犯罪が発生するのだという意見を聞きますが、給料が安いということも職員のストレスの一つでしょう。しかし、それだけではないことは高給の大企業でも不正が無くならないことからも明らかです。

 確かにより良い人材を確保するためにも処遇の改善は必要です。もし北欧のように介護職が全員公務員であれば、このような虐待や犯罪は減るでしょう。なぜなら、公務員という安定した身分を捨ててまで、ひどい虐待や、数万円程度の金銭窃盗は行わないと思われるからです。

 東京都に勤めていた頃、犯罪に手を染める役人は数百万から数千万の横領や業者からの賄賂に目がくらんでしまったケースが殆どでした(ただし、教員による児童・生徒に対するわいせつ行為は全く別の犯罪構造です)。介護職の処遇が公務員並みであれば、少なくとも感情的な発露としての虐待行為は格段に減ると感じます。

 しかし、現状ではそのような行為をする介護職が、この仕事を辞めてもそれほどには困らないこと。つまりこの仕事を継続するモチベーションが低く、アルバイト的な感覚で働いていることが根源にあるとは思います。いつでもこの仕事を辞めることは可能であり、まじめに仕事をするのも馬鹿らしいという感覚がどこかにあるのは否めないでしょう。

 そうしたリスクは、ファーストフード等の経営で良く言われることです。無責任なアルバイトの行為が企業イメージを傷つけてしまうリスクが絶えずあります。

 今後、処遇改善加算を、介護の仕事を継続していくモチベーションを支える、研修費用や退職手当積立などに利用したいものです。しかし、現在の処遇改善加算は研修費用や退職積み立てには利用できません。

 

 

◆職場のメンタルヘルス対策が、虐待や犯罪行為を防止する第一の方策

 利用者に対してストレスを感じないように仕事をするテクニックは、介護技術として学ぶことはできます。しかし、介護職場に限らず職場には様々なストレスがあり、基本的に職場はストレスフルであるということを前提に、どうすれば職員がストレスを感じずに働けるかを考える必要があります。

 いわゆるメンタルヘルス対策ですが、具体的には以下のようなものがあります。

 

1 人事制度による対策 ─ 職員の話を聞く仕組み(傾聴の仕組み)

  • 職員が管理職などに一対一で仕事や家庭事情のことをフランクに話せる仕組み

 通常、企業や事業組織では人事考課制度や人事評価制度の中にこの「話しを聞く」仕組みは組み込まれています。しかし、ここでは業績評価にスポットを当てるのではなく、管理職等が職員のストレスを汲み上げる仕組みとして活用しなければなりません。この際、「話しを聞く」相手は正社員だけでなくパートスタッフも含みます。

 

  • 話を聞く上司は直接の上司ではない人が良い

 この「話しを聞く」場は、職員が日頃の不満などを話せるよう、できるだけフランクな場にしなければなりませんが、そうした場を作るには相談を受ける管理職等が日頃身近にいる直属の上司よりも、その上の上司、普通の会社でいえば係長ではなく課長・部長級が受けると効果があります。直属の上司では日頃の利害や直接の不満があるので、あまり本音を引き出せません。職員はストレスを隠す場合があります(だからストレスになる)。それを解放させる雰囲気が必要です。

 

  • 話を聞く人は上司ではなく本部の人事担当者でもOK

 職員と利害関係の少ない上司がいない場合は、本部などの人事の専門家が話を聞いても良いでしょう。できるだけその職員の職務内容を把握している人が聞く方が良いと思います。

 

  • 話を聞く人には研修が必要

 いわゆる「聞く力」「話を引き出すインタビュー術」などの「話を聞く」研修を受けておく方がベターです。介護・福祉の専門家であれば傾聴のテクニックと同じなので、比較的に簡単に身につくと考えます。 聞く人が会社や組織の利害をできるだけ話さないようにすることがベターです。聞く人は職員の理解者であると思ってもらう必要があります。

 

  • 話を聞くのは年二回

 一般的な人事考課制度では毎年の目標設定と達成状況をチェックしますので、年二回、話を聞く場が設けられます。職員の本音が聞ければどのようなストレスを感じているか多くの場合は把握できます。把握されたストレスに基づきできるだけ速やかに現場で対応がとられる必要があります。

 

2 外部のメンタルヘルス・カウンセラーの利用

 産業カウンセラーなど職員のメンタルヘルスをサポートするカウンセリングサービスを利用することも有効でしょう。

ただし、こうした外部のカウンセラーの場合、プライバシーの保護の観点から職員がどのようなストレスを抱えているか、職場にフィードバックがしにくいのが難点です。

カウンセリングサービスの中には、職員の悩みを職場にフィードバックすることを前提に話を聞くサービスもあります(職員は自分の話した内容を職場に知られることを前提に話をする)。その際、話を聞くカウンセラーは仕事の内容や実態を知りませんので、職員が話した内容や抱えているストレスをそのまま契約先に報告します。そのため職員が抱える問題を適切に把握しにくい部分もあります。

 また、東京都社会福祉協議会には福祉の仕事に関する悩みを相談する窓口があり、誰でも相談できますので、この窓口を従業員に周知して相談させることで、ストレスを解消する役に立つかもしれません

http://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/nayamisoudan.html

 

 次回は、人事異動や自己点検により犯罪や不正を防止する仕組みについてご紹介します。

 

 

 

介護職員の虐待・犯罪行為を防止する方策について考える その1

相模原での悲惨な事件を受けて、またこのこれに先立っても、介護施設での認知症の利用者に対する虐待やホームヘルパーによる虐待事件も報じられており、介護福祉事業に従事する(していた)職員による犯罪行為は後を絶たない現実があります。

ある介護事業所を多数運営する代表者は、「一つでもそうした事件が自社の事業所で発生したら、会社ごと危なくなる」という不安を口にしていました。

そこで、経営者や事業管理者として職員が現場でそのような犯罪行為に至らないためにはどのような方策があるか検討してみたいと思います。

 

◆介護職員による虐待や犯罪の発覚は氷山の一角か

介護の多くは密室で行われており、尚且つ、認知症や重度の障害者は虐待の事実を訴えられないため、そうした犯罪行為は発覚しにくいものです。

介護施設やホームヘルパーの虐待ケースでも不審に感じたご家族が隠しカメラで撮影し、その事実が発覚しました。また、虐待した職員自体がその行為を撮影してネットに公開するなどという、あり得ないケースでしか発覚しないのが現状です。

また、老人ホームに入居している認知症の利用者のお金が使い込まれているケースでは、実際の被害額が不明であったり、犯人もわからず結局うやむやになっていることもあると聞きます。

従って、こうした介護福祉の現場での虐待や窃盗事件の発生は実は氷山の一角なのではないかということが想像できます。

介護施設の居室や在宅介護の現場に監視カメラを常時設置することは、プライバシーの問題やコストの問題もありなかなか導入は難しいでしょう。たまたま現場が撮影されて発覚しているだけで、密室での犯罪行為は今後も後を絶たないことが予想されます。

 

◆介護する人のストレスは他の仕事よりも大きいことを前提に考えなければならない

 事実、家族による介護では介護する人が介護される人を殺してしまうというケースも多く発生しています。

介護とはそれだけ追い込まれ高いストレスに晒されるものです。そのために介護保険制度ができたと理解しています。

私自身、病院生活をする寝たきりの母親と末期がんの父親の面倒を同時に見ていました。まだ介護保険制度の無い時代で、父と二人暮らしの私は父が亡くなるまでの数カ月の間、家政婦さんを雇い週末には病院に母の様子を見に行くという生活をしていました。その間、私はきっと能面のように表情がなく笑うことすらできない日々を送っていたような気がします。唯一の救いと言えば、父親が最後に担ぎ込まれた病院が母親の入院している病院で、二人で父親の見取りができたことぐらいです。

二人とも認知症ではありませんでしたが、認知症のご家族を持つ方はまた別のご苦労を経験されていると思います。いずれにしても、家族の終末に付き合うことはとても辛いことです。

そして、こうしたストレスを感じるのは家族だけではないでしょう。介護職員もまた同じようなストレスを感じざるを得ない部分があります。介護の現場というのはそもそもにおいて強いストレスに晒される可能性がある場所だということを、まず理解しておかなければなりません。

 

◆ストレスや不満、心の傷が虐待や犯罪を生む

 私は犯罪学の専門家ではありませんが、多くの犯罪者が、何かしらのストレスや不満、心の傷を負っていると考えています。特に幼少期の抑圧は後年の犯罪行為につながる可能性が高いでしょう。幼児期に虐待された経験のある人は、親になってから自分の子供を虐待する可能性が高く、「負の連鎖」があることが知られています。

殺人まで犯す人は大きな抑圧や傷を負っているのではないかと想像します。相模原の犯人も優生思想のような考えに取りつかれていますが、そうした思想を持つに至った心の抑圧が必ずあると考えます。その抑圧からの防衛機制として、あのような歪んだ考えに至っているのでしょう。また、あれだけの無慈悲な殺人ができる人間は、さらに何かしら脳に障害や異常を負っているような気もします。

 第二次大戦やイスラム原理主義、オーム事件などを見れば、人間は比較的簡単に無慈悲な殺人を行えるようになることは明らかです。これらは組織的殺人の怖さを示しているのですが、そうした組織には往々にして何らかのストレスが蔓延しており、そのストレスがあるが故に簡単に殺人を犯すのだと言われています。さらに、心の抑圧は自殺にもつながります。自殺も殺人の一つです。

 こうした抑圧から人間は逃げ出そうとするのですが、逃げ出せない場合、その抑圧は他者への攻撃として発露することは普通にあることです。時に自傷という自分への攻撃にもなります。

 従ってそのような抑圧をうまくコントロールする(コントロールしてあげる)ことが、犯罪を生まない工夫につながるのではないかと考えます。

 

◆組織的な倫理観喪失の怖さ

 さて、組織的な犯罪の怖さは、個人としては通常の倫理観を持っていても異常な環境の組織に所属していると簡単にその倫理観を捨てて、犯罪を犯してしまうことです。

 三菱自動車やフォルクスワーゲンの燃費データ不正は、個人としては悪いと思っていても、組織として昔からそのように仕事をしていると、どうしても不正を糾せなくなることです。大企業ですから辞めることは難しいでしょうし、逃げ出すことも難しいのです。軍隊なども同様で、なかなか逃げ出せない組織ではそうしたことが起きやすいと思います。

 また、若い世代では「仲間」というものを重要視する傾向がありますから、部活動における虐待や、若者グループの犯罪行為は起きやすく、そこから逃げ出すことは「仲間」を裏切る行為につながり、今度は自分が攻撃の対象になってしまう危険性があります。このような風景は漫画やドラマでよく見る風景ではないでしょうか。

 こうした組織的犯罪を発生させる仕組みは介護職場にもあります。

 老人ホームなどで問題行動のある利用者に対して、虐待を受容するような組織的な雰囲気は育ちやすいものです。「あの利用者なんとかしてください」「どうしようもないです。もう世話するのはムリです」そうした不満がスタッフから上司に集まり、具体的な対応策がとられずに放っておかれた場合、スタッフ組織がこの利用者に対する虐待行為を肯定しはじめるのは十分にあり得ることです。

 スタッフはストレスを抱えながらこの利用者に対応します。同じフロアーのスタッフが皆同様のストレスに晒されれば、スタッフ間に依存関係が生まれます。誰かが暴力的な介護を始めても、もうこの組織にはそれを糾す力学は生まれないでしょう。そして暴言や暴力的な介護を受けた利用者もまた心に新たな傷を負い、介護者に対して問題行為によって対抗するという悪循環が発生します。

 認知症で問題行動のある利用者に対する対応方法としては最悪のケースです。老人ホームで撮影されたケースはこのようなケースではないでしょうか。

認知症の研修を受けていれば、こうした悪循環について知識としては理解しているはずですが、組織として対応していると、時に倫理を見失ってしまう怖さがあります。

 私の母親が寝たきりで入院していたとき、無意識で点滴のチューブを抜いてしまうためか、両手をベッド柵に縛られていたことがあります。点滴をしていない時も縛られていることに私は疑問を持ちましたが、看護師さん達の雰囲気にはそうしたある種虐待に近い行為が普通のこととして受け止められている感じがありました。家族としてはとても辛いのですが、母親も自分が悪いのだと受け入れており、そうした雰囲気に私は何も訴えられなかったことがあります。

 病院や介護現場には外の世界とは別の雰囲気が流れていることを理解しておく必要があるでしょう。

 

次回はこうした虐待や犯罪行為を防止するための方策について考察したいと思います。

 

訪問看護 実地指導対策セミナー

7月23日(土) ソフィアメディ株式会社様主催の「訪問看護 実地指導対策セミナー」にて講師を務めさせていただきました。

http://www.sophiamedi.co.jp/news/#1469412615-451758

多くの方にご参加いただき誠にありがとうございます。

セミナーの内容の一部はこのブログでも紹介しておりますのでご覧ください。

 

★参加者のお話を伺って感じた事

≪請求事務担当者と現場の認識の違い≫

特に加算の算定時、請求事務担当者と訪問看護の現場でうまく連携がとれていないため、書類の整備が正しくできないのではないということを感じました。

たとえば、初回加算を請求する場合、請求事務の担当者は要件に該当すれば、普通に初回加算を算定するのですが、

現場の方では、算定要件である「訪問看護計画書」を新規で作ることを認識しておらず、実地指導で請求間違いを指摘されやすいようです。

これは、ターミナルケア加算などにも言えることで、ターミナル期の利用者様であれば請求担当は普通に加算を算定するのですが、現場の管理者などが記録書に記入するべき内容をしっかり理解していないため、あとで指摘されてしまうようなケースが多いような感じがしました。

こうした、請求過誤を避けるには、請求事務の担当者が加算を算定する場合の要件を、日ごろから現場の管理者等にアナウンスするとともに、実際に書類の内容を確認するようにしたほうが良いでしょう。

現場で加算の算定要件を完璧に理解し書類を整備できるようにするのは、現状では多少無理があるような気がします。特に請求事務の担当者と現場の管理者の距離が離れているような場合は、なおさらでしょう。

 

≪サテライトの訪問看護計画書≫

また、気になることとしてサテライトでの訪問看護計画書の作成者が看護師や訪問看護師になっていないケースがあるようです。

訪問看護計画書の作成者は看護師や保健師でなければなりません。サテライトといえども、准看護師や理学療法士が作成した訪問看護計画書は認められません。

場合によっては、サービス提供そのものが認められず、サテライトの訪問看護サービス全部が返還対象になる場合もありますので、注意したいところです。

 

今後もこうしたセミナーに及びいただければ幸いです。