介護福祉サービスのIT活用と課題

 

現場業務は増える一方 効率化とは程遠く

 自民党の「厚生労働行政の効率化に関する国民起点プロジェクトチーム(PT)」は、現在、自治体ごとに異なる申請書類形式の統一化を検討する専門のワーキンググループを、社会保障審議会介護保険部会の下に設置することを明らかにしました。
https://www.fukushishimbun.co.jp/topics/22123

 総合事業など区市町村設置の事業が増えるにつれ、介護事業所は複数の区市町村におなじような書類を何度も出さなくてはならない状況が広がっています。

 例えば、東京都足立区で訪問介護と障害居宅と総合事業の訪問型サービスを開業する場合、都へ介護と障害の2つの申請、足立区に総合事業の申請、さらに葛飾区や荒川区で総合事業を行うのであれば、それぞれに申請をしなければなりません。
 内容的にはほとんど同じ書類なのですが、5か所の役所に書類を提出する必要があるのです。総合事業が始まる前は2か所でOKでした。まったく時代に逆行しており、本当に無駄なことです。

 これは行政制度上、それぞれに指定権限があるためそうなってしまうのです。ちなみに、処遇改善加算の書類も同様で、毎年の計画報告をそれぞれ5か所に提出する必要があります。変更届なども同様です。さらに悪いことにそれぞれの提出書類の書式が異なっているため、いちいち別々の対応を求められます。

 

自治体の業務も増えている

 こうした作業はサービス事業者側の業務量を増大させるとともに、自治体側の業務量も増大させています。介護現場では直接の価値創造(サービスの質の向上)には何らつながらず、労働時間が増えるだけですし、自治体職員の労働量も増え税金が無駄に使われていると言っていいでしょう。

 権限が区市町村に移ることは時代の流れですからどうしようもないのですが、国はそれぞれの自治権限を尊重するあまり、業務を丸投げしてしまっているのでこうなるのでしょう。社会保障審議会でこうした無駄を改善する方向で議論してほしいものです。

 ちなみに訪問看護事業は都道府県に指定申請すると自動的に国の厚生局に情報が行き、医療保険の訪問看護も指定が下りる形になっています。
 やればできるのです。できれば介護だけでなく、障害者や児童福祉の分野もリンクした形での議論が欲しいところです。
 最低でも、都道府県の訪問介護の指定を取ったら、障害居宅の指定も下りるようにするべきでしょう。

 

千葉県柏市の「カシワニネット

 介護福祉分野でもIT化による業務の効率化は少しずつ進んでいるようですが、自治体(区市町村)や地域の医師会が連携してこなければ本質的な効率化は進みません。

 千葉県柏市では、医療・介護連携情報共有システム(カシワニネット)を導入し、先駆的な取り組みを行っています。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/061510/p047140.html

 自治体・医療・介護がそれぞれ情報を共有できるようになっており、特にケアマネ業務における連携・調整作業の効率化に大きな成果を上げているようです。
 たとえば、医師からの情報提供はケアマネにとって面倒な作業の一つですが、ネットワーク内で比較的簡単に行えるようです。
 自治体への各種申請・報告作業も同一ネットワーク内で可能になっており、業務効率化に資していると考えられます。

 たとえばこれを進めていくことで、事業所のサービス提供状況などが共有化されれば実地指導の調査などもネットワーク内で可能になり、自治体にとっても非常に有効でしょう。
 さらに都道府県が連携すればさらに良いシステムになるのですが、残念ながら現状では市内のみの稼働のようです。

 情報共有システム自体は民間企業が開発したものです。自治体のシステム開発は昔からそうなのですが、それぞれの自治体内でのみ稼働するものになりやすく、同じようなシステムをそれぞれの自治体が独自に導入している状況のため無駄が多いと言われています。 
 しかし公共事業としての税金の利用は政治的な利権を伴うので、現在の日本では国全体で同じシステムを導入することは難しいでしょう。

 

IT化には区市町村がキーマン

 介護福祉サービスのステークホルダーである、自治体や国保連、現場とのネットワーク環境のガイドラインを国は作る必要がありますが、やっと腰を上げたところでしょうか。
(医療情報関係のガイドラインはあります)

 おそらくそうしたガイドラインの無いまま、自治体や現場がそれぞれ独自のIT導入を進めていくと、各ステークホルダーの連携はどんどん難しくなっていくかもしれません。

 現状では区市町村が一番のキーマンでしょう。柏市のように区市町村が積極的な自治体では業務の効率化が進み、自治体ごとの差が大きく出るかもしれません。
もし私がケアマネージャであれば、情報の共有システムが進んでいる自治体で働きたいものです。これは利用者になった場合でも同じかもしれません。

 

現場のITリテラシーの問題

 一方で、介護福祉現場のITリテラシー(IT活用能力)の向上も課題として挙げられます。
介護現場で進む高齢化の問題がニュースになりましたが(訪問介護員の40%が60歳以上「全労連」調査)、訪問介護員などがタブレット端末などを使いこなせる能力が無ければ、情報共有は進みません。
 なにしろ、介護スタッフが最も利用者に近く、情報を把握する上で最も重要な役割を担っています。

 サービス事業所で独自でIT化を進めようとしても、スタッフが対応できず、研修する手間もかかるため、現場レベルでのIT化はなかなか進まない状況が見えます。
しかし、柏市のようなシステムが導入されれば、現場では使わざるを得ない状況が生まれるでしょう。さらに自治体がITの研修をしてくれれば、非常にありがたいと考える事業者は多いはずです。

 IT化による業務の効率化は、国及び自治体、そして地元の医師会が大きなキーマンになっています。
 今後、現場レベルでは、地元の自治体の動向をよく観察しておく必要があると思います。