訪問介護職の賃金アップ術2-「在宅型サ責」の働き方

1 現場中心の働き方─事業所への出勤は原則無し

 

① 事業所に出勤するのは、月数日程度

 ◎自宅から訪問先に直行直帰の就業形態が基本です。月に数回、事業所の研修やカンファレンス、事例検討会などのために、事業所に出勤します(特定事業所加算の要件になります)。

 研修はリモートでも可能ですが、できれば月に1回ぐらいはスタッフが顔を合わせて直接フリーな意見交換の場を設けた方が、仕事のガス抜きにもなり健全であると考えます。

 ◎できれば資格は介護福祉士以上、訪問介護実務経験3年以上

 

② 業務管理・情報共有はIT機器を活用

 ◎アセスメント・訪問介護計画書・サービス提供記録等は電子化(保存管理も)。

 ◎自宅に業務用PC(ファックス受信ソフトインストール)とプリンタ(スキャナ機能のあるもの)を支給設置(自宅に事業所機能の一部を整備)

 ◎訪問にはタブレット(通信SIM付)を携行。利用者のサインはタブレット入力でもOK。

 ◎訪問介護の提供記録ソフトにはGPS機能により、訪問実績が記録できるものを利用。

 ◎紙の使用は利用者交付するもの以外、最低限に抑える。

 

③ 営業・利用者獲得は自ら行う

 ◎ケアマネージャーからの業務依頼を直接受けられるようにする。事業所には事後報告(システム入力による)。

 ◎訪問日調整も自己完結で行う。

 ◎研修を徹底する。(就職後6か月間は同行スタートアップ研修。その後毎月1回)

 ◎事業所はサービス品質の評価を行う。利用者への満足度調査をネット経由で行えるように工夫する。認知症など判断が難しい利用者に対しては、3か月に1度、事業所の別の担当者がモニタリング訪問を行う。

 ◎担当サ責が急病や休暇などにより、訪問ができない場合は、事業所がフォローアップする(他の在宅型サ責に仕事を回したり、事業所管理者や他のヘルパーが対応できるようにする)。

 

④ その他移動手段など

 ◎訪問先への移動手段は、車・自転車・徒歩など選択自由。ただし、事業所の加入する損害保険でカバーできるようにする。駐車料金などは各事業所規定で決める。

 ◎折り畳み電動キックボードの活用

 都会や半径5キロ以内程度の比較的近距離の移動に向いている。

 訪問先で折り畳んで玄関などに置かせてもらえれば、駐車・駐輪禁止の場所でも利用が可能。駐輪場がいらない。電車に持ち込み可能。機動力は電動自転車並み

 

2 在宅型サ責の給与概算

 

 ≪東京都の場合≫

 給付:身体介護1時間:5,000円

 稼働時間:1日5時間程度訪問

 稼働日数:月20日稼働

 

  5,000円×5h×20日=500,000円

 

  • 事業所の取り分:20%=100,000円
  • 在宅サ責の収入:400,000円(年収:4,400,000円)

  ※年収440万円は日本人の平均年収。特定処遇改善加算の対象者。

 

 これはあくまで、週休2日で残業が無い労働状況です。

 サ責本人が働きたければ、土日や夜間の訪問を増やすことで、さらなる収入アップが図れます。つまり、稼ぎたい人は自ら仕事を増やすことが可能になります。逆に子育てなどで仕事を少なくしたい人はライフワークバランスを図れます。

 

3 事業所の役割

 事業所はマネージャー(管理者)として在宅サ責の仕事のマネジメントが仕事になります。

たとえば、見境なく利用者を獲得して無理な長時間労働をしているサ責がいればブレーキをかけなければなりません。

 

 また、就職当初は、担当利用者はいないですから、収入を保証する必要があります。

 例えば、就職後、半年程度は固定給にし、事業所付きのサ責として、フォローアップ要員として動いてもらうのも良いでしょう。

 その際に同行スタートアップ研修を徹底し、サービス品質を保証する必要があります。

 

 残業無し、週休2日で年収440万円を保証できれば、一般企業の賃金に十分対抗できます。また、男性で稼ぎたい人にも対応できますので、人材確保がしやすいでしょう。

 

★この就労システムの肝は事業所のマネジメント力です。

 いかにIT技術を駆使して業務管理、サービス保証ができるかがポイントになります。

 

 なお、この事業モデルはケアマネ事業所にも応用できます。

 但し、ケアマネの場合、担当利用者に上限があるのと、障害福祉は担当できないので給付を伸ばせません。訪問介護ほどダイナミックに給与を上げることは難しいかもしれないですが、給与は増やせなくても余裕のある就労環境を提供できますから、人材確保には大変メリットがあると思います。

 

4 2023年以降もさらなる人材不足が

 

 欧米諸国の金利上昇、それに伴う円安、輸入価格の上昇により、日本の物価は今後も高くなる予想です。これに対し、各企業は労働者の賃金を加速させています。

 この労働市場環境は介護・福祉業界にとって非常にキツイ状況です。

 ただでさえ、一般企業との賃金格差が大きく、人手不足が恒常化している状況に、他企業のさらなる賃上げによって、労働者は介護職に集まらなくなっています。

 特に賃金の高い都市部において深刻です。介護が受けられない介護難民がさらに増加することが懸念されます。

 

 現状では大幅な給付の上昇は見込めません。介護・福祉事業者はIT技術の活用と就労環境の改善でこれに対抗するしか術はないでしょう。

 

訪問介護職の賃金アップ術1

1 人手不足にもがく日本の介護─厚労省の企みは

 厚生労働省は通所介護と訪問介護を一体化した介護サービスを創設する方針を示しました。これは介護の人手不足で、特に訪問介護のサービスが提供できない事態が多く起こっていることに対応するものでしょう。

「訪問+通所」の新介護サービスは地域を救うか 最大の課題は訪問の人材確保=結城康博

 要介護1・2のサービスを区市町村に移管するにあたって、通所介護と訪問介護を柔軟に一体的なサービスとして提供できるようにするためでもあるかもしれません。

 

 国は、区市町村の保険者としての責任と能力の強化を目指しています。

 これは区市町村が保険利用者へのサービスを、いかに効率的に提供できるようにするかを前提にしており、そのための創意工夫がやりやすいようにしているのだと考えます。

 しかし、通所介護の人員が余っているわけではありませんので、人手不足が解消しない限り、サービスが提供できない状況はあまり大きく改善しないと考えます。

 

 2022年、介護事業所の倒産件数が最高を示したのは、コロナを原因とするだけでなく、人手不足が大きな要因です。

 サービス提供責任者などの役付きの職員が退職してしまえば、介護事業は継続できません。今後は、物価と賃金の上昇により、事業所の賃料や人件費が上がり、さらに経営は困難になることが予想されます。

 

2 障害福祉分野は特に深刻

 一方、障害者福祉の分野では、障害者権利条約の批准内容に対して国連から複数の勧告を受け、日本の障害者福祉行政には問題があり、障害福祉の後進国であるということが明らかになりました。

https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/474044.html「障害者権利条約  国連勧告で問われる障害者施策」

 国家予算の半部が社会保障費である日本では、国連が目指すような障害者福祉は、お金がなくて到底は無理というのが筆者の考えですが、それに関しては以下のブログで書いていますので、参照ください。

https://carebizsup.com/?p=1501「これからの障害者福祉サービスの動向」

 

 介護にしても障害福祉にしても結局は税収・予算が少なく、人件費を上げられないのがすべての原因ですが、国民は税金を上げることには消極的です。

 おそらく、EUのように消費税15%にするぐらいの勇気が無ければ、理想的な社会保障サービスは実現しないでしょう。

 

 筆者は自治体などの行政対応の実感から、国が高齢者介護よりも障害者福祉にお金をかけたくないのだなという志向を感じています。

 具体的には、障害者事業への参入障壁が、高齢者介護よりも高く、例えば、高齢者の介護事業の指定申請は簡便になってきているのに対し、障害福祉の指定申請の手続きが厳しく、煩雑になってきている実態があります。

 

 さらに政治的には高齢者介護に比べ、障害者福祉は票になりにくいという実態があります。参院選の比例区のような選挙システムを使って、当事者がもっと声を挙げなければ、日本はますます、障害者に冷たい国になってしまいます。

 

3 人手を増やさずサービス量を増やす必要

 さて、とはいえ、適切なサービスが受けられない高齢者や障害者が増えていくことは悲しいことです。

 国は「互助」「自助」の強化を謳っていますが、ボランティアなどのインフォーマルなサービスによる互助は、日本ではあまり期待できません。

https://carebizsup.com/?p=1551

「日本人のチャリティー参加は世界最低基準──日本の「互助」は機能しない」

 

 従って、現状の枠組みで、サービス量を増やす工夫を考えてみたいと思います。特に訪問介護(障害居宅介護)の分野で考えてみましょう。

 一つの方法として、独立訪問介護士という考え方がありますが、これは以下のブログでまとめています。

https://carebizsup.com/?p=1493「独立訪問介護士の可能性」

 しかし、これを実現するためには大幅な法改正が必要なので、現状制度でできることを考えます。

 

4 「在宅型サービス提供責任者」という就労システム

 現状、サービス提供責任者(サ責)は訪問介護と障害居宅に共通の職務であり兼務も可能です。高齢者では担当は40人程度という制限がありますが、障害居宅では特に制限はありません。

 資格としては実務者研修修了以上であり、利用者のアセスメント、訪問介護計画書の作成、ケアマネージャーとの調整が主な任務です。1事業所に最低、一人の常勤者が必要です。

 

 在宅型サービス提供責任者は、常勤のサ責が一人以上いることを前提に、主に在宅から現場に直行直帰で勤務するサ責です。

 

 通常のサ責は担当の利用者に対するサービスに関して責任を負います。具体的には実際に訪問するヘルパーの業務管理が主な仕事になります。

 人手不足の事業所の場合、ヘルパーの人数が足りず、サ責自らサービス提供に訪問しているケースも多いでしょう。しかし、理想としては、実際に訪問するのはとう登録ヘルパーなどで、サ責は事業所に居て、各ヘルパーの業務を管理するマネージャー的役割が求められていました。

 

 「在宅型サ責」は、従来のサ責業務と違い、サービスそのものもサ責が行う業務方法です。もちろんヘルパーを管理する業務を行っても良いのですが、できればサービスと提供責任を自己完結的に集約するやり方の方がメリットは大きいと考えます。

 

 次回は「在宅型サ責」の具体的な働き方を説明します。

独立訪問介護士の可能性 その2

 

 優秀な訪問介護士が地域の中で医療と連携して訪問介護サービス提供できるようにしていくのが、独立訪問介護士導入の目標です。

 そのためには、地域にこうした訪問系の医療介護の統合システム・プラットフォームがインフラとして整備されなければなりません。

 

具体的な独立訪問介護士の仕事の様子をシミュレーション

 

 独立訪問介護士は訪問介護のサービス提供責任者としての実績が長く、区市町村の審査などに合格した優秀な登録介護士です。基本的な個人情報は区市町村のシステムに登録され、責任の所在が明確になっていなければなりません。イメージは個人タクシーの運転手に近いかもしれません。

 彼(彼女)は個人事業主であり、株式会社などの法人ではありません。従って事業所を持っておらず、自宅から地域の利用者宅へ出向き、サービスを提供します。

 実施した業務の情報は各種ICT技術によって彼(彼女)の持つタブレットにより把握され記録されます。

 例えばGPSによりどのご利用者宅に何時から何時まで訪問していたかが記録されます。これにより訪問の事実は確認できます。

 また、このシステムは指紋認証などによる本人確認ができないと起動しませんので、第3者が変わって訪問しても業務ができない仕組みになっています。

 

 サービス提供の実績はタブレットから入力され、利用者本人や家族の確認を受けて記録されます。これはケアマネージャーや行政側でも確認することができます。

 訪問の度にその都度確認するのは煩雑でしょうから、特別な場合だけになるかもしれません。もちろん毎月の介護給付の請求時はケアマネージャーが内容を確認する必要があります。

 また、何らかの基準を設けシステム上で業務違反や異常をスクリーニングできるようになればもっと良いでしょう。

 

 これらの業務記録は保険者も見ることができますが、それにより必要に応じて検査を実施し指導することが可能です。また、統計的な分析により地域の介護状況の把握にも役立つでしょう。

 

 毎月の請求作業は、システムの記録から自動生成され、ケアマネが確認した後、国保連に送られ、独立訪問介護士の個人口座に振り込まれます。

 この制度を実際に立ち上げることになった場合は、あらかじめ、税金や社会保険料が調整されて振り込まれるようにした方がベターでしょう。移動手段の自動車など各種必要経費については、一定基準で控除するようにすればよいと思います。

 まあ、年末調整などの個別の調整で確定申告は必要ないはなると思いますが。

 

 仕事は今と同じようにケアマネージャーより入ります。サ担などは今と同じでしょう。ITが進歩してもフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションは大切です。

 

 

地域の医療介護サービスネットワークの充実

 

 現在、介護保険法では利用者は自分の好きな事業者を選択し、契約によりサービスを提供してもらうことを制度の根幹としています。

 独立訪問介護士も法人ではありませんが利用者との契約によりサービス提供を開始します。重要事項の説明と同意などは基本的に今の流れと同じです。

 

 しかし、一点だけ特別事項として、契約を結んだ訪問介護士が病気や事故などで、急遽訪問サービスの提供ができなくなった場合、ケアマネージャーの判断により、他の事業所や独立訪問介護士から緊急でサービス提供をできるようにする規定を、新たに盛り込む必要があるでしょう。

 

 複数の訪問ヘルパーがいる事業所であれば、担当のヘルパーが急遽行けなくなったとしても代役を立てることが比較的簡単ですが、独立訪問介護士の場合はそうはいきません。

 地域の介護人材ネットワークの中でそうした事態に対応できるような体制を整える必要があります。そのための法的整備が必要でしょう。

 

 このようにICT活用による地域の医療介護ネットワークが整備され、個人による独立のケアサービスが出現すると、これまでの個別の契約によるサービス提供という形もすこし変わってくるかもしれません。

 ITネットワークにより、地域のケア人材ネットワークも強化され、地域全体で利用者のケアを提供するような体制になっていくでしょうし、その方が利用者にとっても社会資源の効率的な活用(社会コストの低減)の面にとってもメリットがあることだと思います。

 

 また、訪問介護だけでなく訪問診療や訪問看護についても同様の仕組みを、同じネットワークの中で構築することになります。その際、訪問診療医はあらかじめカルテ共有などをして、地域の訪問診療医であれば当番制で、誰でも、夜間の緊急対応などができるようにすべきでしょう。

 こうした柔軟で効率的な地域ケアネットワークが今後求められると考えます。

 

 一つ懸念があるとすれば、複数の区市町村に渡って仕事をする場合、システムが変わってしまう可能性があることです。複数の保険者に登録していると、複数のタブレットを持ち歩かなければならなくなるかもしれません。

 セキュリティー面で端末による個人管理をした方が安全だからですが、技術が進歩すればタブレット一つでアプリケーションを切り替えれば済むようになるかもしれません。

 

この項終わり。

 

 

 

独立訪問介護士の可能性 その1

 

 筆者は今般、一般財団法人ニューメディア開発協会から委嘱を受け「在宅医療・訪問介護向けスマート端末検討会」の委員として参加することになりました。
http://www2.nmda.or.jp/archives/2571/

 ここでの議論とは少し異なりますが(というよりずっと未来の話になりますが)、介護福祉サービスのIT化が進んだ場合、独立訪問介護士という新しいサービス形態が可能ではないかと思い当たり、少し考えたいと思います。

 

独立訪問介護士とは

 現在、訪問介護サービスを提供するためには、法人を設立し、事務所を借りて確保し、介護福祉士などのサービス提供責任者を雇用しなければ、都道府県の指定を受けることはできません。

 これは公的なサービスを提供するにあたり、責任のある運営主体を確保するためです。
 登記された法人が事業所を開設してサービスを提供することで、責任の所在を明確にし、利用者の不利益にならないようにする目的があると思います。

 しかし、経験と実績を積んだ優秀な介護福祉士などが個人で訪問介護サービスを提供する事業ができないか。それを可能にするのが、独立訪問介護士です。
 例えば医師免許を持つ医師は個人で医業を営むことができます。ただし今のところ診療所を持たないと開業はできないようです。筆者は、訪問診療医は診療所を持たなくても、開業できるようにするべきだと考えますが、古い制度を引きずったままで変わる気配はありません。

 この先、IT技術が進歩し、各種専門業務の適切な管理が可能になり、法人設立や事業所が無くても、責任を担保した形で仕事ができるようになれば、事業所などが無くてもPCとタブレットだけで仕事が完了できる時代が来ていると考えます。

 つまり、独立訪問介護士は自宅から利用者の家を訪問しサービスを提供しますが、それらサービス情報のすべてがIT環境で処理され、例えばケアマネや自治体、ご家族が正確にそのサービス提供状況を把握でき、介護士の仕事を管理できることで可能になるものです。
 もちろん、介護だけでなく訪問診療医や訪問看護師も同様に事業所を持たない形での営業が可能になると考えます。

 

独立訪問介護士のメリット

1 訪問介護職の収入増加

 例えば東京の訪問介護の場合、9時から18時の勤務時間で、1日5件(各1時間程度)のサービス提供が一般的です。
 サービス給付を見ると、1時間で4,000円から5,000円程度ですから、1日に20,000円から25,000円の給付になります。月20日稼働で40万円から50万円の給付になります。
 独立訪問介護士の場合これらの給付がダイレクトに収入になります。年収にして500万円以上が期待できるでしょう。
 法人に勤務する訪問介護士の場合、事務所の家賃や管理費にコストがかかりますので、頑張っても正社員で30万円程度の給与しか貰えません。しかし独立であれば、かなり安定した収入になります。

2 優秀な訪問介護士の増加

 現在、訪問介護の仕事は少しレベルの高いパート仕事として認識されていると思われます。しかし、安定的な収入が得られるとすれば、それなりの人材が流入してくることが考えられます。
 後で述べますがそもそも、独立訪問介護士になるにはそれなりの知識とスキルが無ければ務まりません。介護職の地位の向上にも貢献するでしょう。

3 地域の在宅介護力のレベルアップ

優秀な人材が増えれば、当然のこと介護の仕事そのもののレベルアップになるのは当然です。

4 社会コストの低減

 現在の介護事業開業のためには法人設立や事業所賃貸費・管理費など無駄なコストが多くかかります。そうしたコストを、介護職の収入にできるようにするのが独立介護士の意義でしょう。
 この制度は国の給付額を上げずに、つまり税金を使わずに介護職の処遇を改善する非常に有効な手段となりえます。また、施設介護から在宅介護への流れを強化することにもなり、在宅医療の拡大にもつながると考えます。

 

独立訪問介護士を可能にするには

 こうした介護士を可能にするためには、IT技術の進展が必要ですがそれ以外にも制度の整備を必要とします。
 まずはこの特別な資格を得るための個人としての能力要件が必要でしょう。優秀な介護士でなければなることはできないと考えます。

独立訪問介護士の人的要件

1 訪問介護のサービス提供責任者としての実績(例えば5年以上など)
2 ITスキル(実地研修などの裏付けが必要)
3 区市町村による能力評価と登録

 次に、こうした介護士が働けるITを中心とした環境が区市町村に整備や国による制度化が図られなくてはなりません。

環境要件

1 区市町村が医療・介護連携システムなどを導入し、サービス提供の情報管理および従事者の業務管理が適切にできる体制にある。
2 国として資格や任用要件を制度化する。
3 その他ITによる医療・介護・福祉人材の地域ネットワークの構築

次回はこれらの要件をもう少し詳しく説明します。

介護福祉サービスのIT活用と課題

 

現場業務は増える一方 効率化とは程遠く

 自民党の「厚生労働行政の効率化に関する国民起点プロジェクトチーム(PT)」は、現在、自治体ごとに異なる申請書類形式の統一化を検討する専門のワーキンググループを、社会保障審議会介護保険部会の下に設置することを明らかにしました。
https://www.fukushishimbun.co.jp/topics/22123

 総合事業など区市町村設置の事業が増えるにつれ、介護事業所は複数の区市町村におなじような書類を何度も出さなくてはならない状況が広がっています。

 例えば、東京都足立区で訪問介護と障害居宅と総合事業の訪問型サービスを開業する場合、都へ介護と障害の2つの申請、足立区に総合事業の申請、さらに葛飾区や荒川区で総合事業を行うのであれば、それぞれに申請をしなければなりません。
 内容的にはほとんど同じ書類なのですが、5か所の役所に書類を提出する必要があるのです。総合事業が始まる前は2か所でOKでした。まったく時代に逆行しており、本当に無駄なことです。

 これは行政制度上、それぞれに指定権限があるためそうなってしまうのです。ちなみに、処遇改善加算の書類も同様で、毎年の計画報告をそれぞれ5か所に提出する必要があります。変更届なども同様です。さらに悪いことにそれぞれの提出書類の書式が異なっているため、いちいち別々の対応を求められます。

 

自治体の業務も増えている

 こうした作業はサービス事業者側の業務量を増大させるとともに、自治体側の業務量も増大させています。介護現場では直接の価値創造(サービスの質の向上)には何らつながらず、労働時間が増えるだけですし、自治体職員の労働量も増え税金が無駄に使われていると言っていいでしょう。

 権限が区市町村に移ることは時代の流れですからどうしようもないのですが、国はそれぞれの自治権限を尊重するあまり、業務を丸投げしてしまっているのでこうなるのでしょう。社会保障審議会でこうした無駄を改善する方向で議論してほしいものです。

 ちなみに訪問看護事業は都道府県に指定申請すると自動的に国の厚生局に情報が行き、医療保険の訪問看護も指定が下りる形になっています。
 やればできるのです。できれば介護だけでなく、障害者や児童福祉の分野もリンクした形での議論が欲しいところです。
 最低でも、都道府県の訪問介護の指定を取ったら、障害居宅の指定も下りるようにするべきでしょう。

 

千葉県柏市の「カシワニネット

 介護福祉分野でもIT化による業務の効率化は少しずつ進んでいるようですが、自治体(区市町村)や地域の医師会が連携してこなければ本質的な効率化は進みません。

 千葉県柏市では、医療・介護連携情報共有システム(カシワニネット)を導入し、先駆的な取り組みを行っています。
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/061510/p047140.html

 自治体・医療・介護がそれぞれ情報を共有できるようになっており、特にケアマネ業務における連携・調整作業の効率化に大きな成果を上げているようです。
 たとえば、医師からの情報提供はケアマネにとって面倒な作業の一つですが、ネットワーク内で比較的簡単に行えるようです。
 自治体への各種申請・報告作業も同一ネットワーク内で可能になっており、業務効率化に資していると考えられます。

 たとえばこれを進めていくことで、事業所のサービス提供状況などが共有化されれば実地指導の調査などもネットワーク内で可能になり、自治体にとっても非常に有効でしょう。
 さらに都道府県が連携すればさらに良いシステムになるのですが、残念ながら現状では市内のみの稼働のようです。

 情報共有システム自体は民間企業が開発したものです。自治体のシステム開発は昔からそうなのですが、それぞれの自治体内でのみ稼働するものになりやすく、同じようなシステムをそれぞれの自治体が独自に導入している状況のため無駄が多いと言われています。 
 しかし公共事業としての税金の利用は政治的な利権を伴うので、現在の日本では国全体で同じシステムを導入することは難しいでしょう。

 

IT化には区市町村がキーマン

 介護福祉サービスのステークホルダーである、自治体や国保連、現場とのネットワーク環境のガイドラインを国は作る必要がありますが、やっと腰を上げたところでしょうか。
(医療情報関係のガイドラインはあります)

 おそらくそうしたガイドラインの無いまま、自治体や現場がそれぞれ独自のIT導入を進めていくと、各ステークホルダーの連携はどんどん難しくなっていくかもしれません。

 現状では区市町村が一番のキーマンでしょう。柏市のように区市町村が積極的な自治体では業務の効率化が進み、自治体ごとの差が大きく出るかもしれません。
もし私がケアマネージャであれば、情報の共有システムが進んでいる自治体で働きたいものです。これは利用者になった場合でも同じかもしれません。

 

現場のITリテラシーの問題

 一方で、介護福祉現場のITリテラシー(IT活用能力)の向上も課題として挙げられます。
介護現場で進む高齢化の問題がニュースになりましたが(訪問介護員の40%が60歳以上「全労連」調査)、訪問介護員などがタブレット端末などを使いこなせる能力が無ければ、情報共有は進みません。
 なにしろ、介護スタッフが最も利用者に近く、情報を把握する上で最も重要な役割を担っています。

 サービス事業所で独自でIT化を進めようとしても、スタッフが対応できず、研修する手間もかかるため、現場レベルでのIT化はなかなか進まない状況が見えます。
しかし、柏市のようなシステムが導入されれば、現場では使わざるを得ない状況が生まれるでしょう。さらに自治体がITの研修をしてくれれば、非常にありがたいと考える事業者は多いはずです。

 IT化による業務の効率化は、国及び自治体、そして地元の医師会が大きなキーマンになっています。
 今後、現場レベルでは、地元の自治体の動向をよく観察しておく必要があると思います。

訪問介護事業 起業の手引き 6

 

18 介護ソフトについて

 介護ソフトは多種多様なものがあります。
 最低限の機能としては、国保連に請求データを伝送できれば良いのですが、業務の効率性や、書類整備の観点からできるだけIT機能を活用したいものです。
 
 運営基準に則った書類を整備するためにも、IT危機は活用できます。
 以下の書類がソフトで作成できるものが良いかもしれません。
 ①アセスメント
 ②訪問介護計画書
 ③サービス提供の記録書
 ④モニタリング
 ⑤ご利用者請求書
 ⑥同領収書

 などです。

 今はまだ紙ベースでもらっているケアプランも電子データに移行していくと考えられますから、開業当初から介護ソフトを活用したほうが良いと思いますが、ITに強くない人にはなかなかとっつきにくいかもしれません。

 介護ソフト業者側でもそのことは分かっていて、ITに強くない経営者向けに訪問して使い方を教えるサービスや、電話やメールなどでサポートも充実させてきています。

 IT関係の能力はとにかく使わないと身につけることはできません。
 開業当初は利用者も少なく、ソフトの操作に割く時間も取れるでしょうから、できるだけ最初から積極的に導入していくことをお勧めします。
 
 IT機能のポイントしてタブレットやスマホを利用したモバイル機能があります。
 訪問先のお宅で様々な情報をモバイル端末に取り込んで、先に上げた書類が作成できる機能です。

 訪問介護員一人に一端末必要になりますのでコストもかかってきますが、事務所で書類を作成する事務作業を考えると、結果的に時間の節約となり、事務コストの低減につながります。

 厚生労働省でも介護事業所の事務作業の低減を図ることを目指しており、流れは完全にIT化の方向に向かっていますから、これに乗り遅れると将来的に事業の成長に支障をきたす可能性があります。

 経営者がITに弱いとスタッフに教えることもできませんから、常勤職員の一人は介護スフとの使い方をマスターしなければなりません。

 

19 おすすめ介護ソフト

 お勧めの介護ソフトを聞かれることが多いのですが、介護ソフトは日々バージョンアップしておりどれがベストかをお勧めすることが難しい状況です。

 使ってみないとわからないこともありますので、周りの介護関係者に聞いてみるのも一つの手ですが、その人たちも他社と比較しているわけでは無いので、信頼できる情報とは言いにくいでしょう。

 国保連への伝送の他、基本機能として以下のものが使えるソフトが良いと思います。

 ①モバイル端末が使える
 ②上述の書類が作成できる
 ③パートヘルパーの給与管理ができる
 ④障害者居宅サービスに対応している
 ⑤居宅支援や他の介護事業にも広く対応している

 比較サイトがありますので、開業を決めた段階で資料請求して、比較検討することをお勧めします。
 また、サポート体制が地域によって変わります。開業地により訪問サポートがしてもらえない場合もありますから、チェックが必要です。
【介護ソフト比較サイト】
 http://www.kaigosoftnavi.com/

 パッケージ型とクラウド・ASP型がありますが、クラウド・ASP型の方が初期費用を安く抑えられます。
 ただし、利用者が増えると値段が高くなりますので、利用者40名程度の場合の利用料を比較してみましょう。
 最初から利用者が沢山想定される場合(老人ホームや老健など)はパッケージ型の方が安い場合があります。

 介護ソフトを切り替えることは利用者数が少ないときは比較的簡単ですが、利用者数が増えるとデータの移行作業が大変になりますので、開業当初はクラウド・ASP型を利用して利用者数が増えていく段階で、他のものに切り替えても良いでしょう。

 

20 IT導入補助金

 介護ソフトの導入の際、モバイル機器の活用など一定の基準を満たすと、助成金が受けられる制度があります。
https://www.it-hojo.jp/

 介護ソフト業者側でこの助成金を申請してくれる場合があります。
 もし、助成金が活用できるようでしたら利用したほうが良いですが、申請時期が短いのでタイミングが合う必要があります。

 

21 利用料金の徴収

 ご利用者から自己負担分の利用料金を徴収する必要があります。
 開業当初は現金で集金していても良いでしょうが、利用者数が増えると業務負担が増えていきます。

 また、パートスタッフなどに集金を任せると、トラブルが発生する場合がありますのであまり好ましくありません。
(認知症のご利用者から不正に集金して着服している従業員が逮捕されたりしています)

 早い時期に、公共料金の口座振替(自動引き落とし)と同じような、口座振替サービスを利用したほうが良いと考えます。こちらも手数料などを比較してみてください。

 【口座振替サービス比較】
 https://kessaiservice-hikaku.com/

 なお、上記の比較サイトにはありませんが、ゆうちょ銀行専用の自動払込サービスが比較的安く利用できます。ただし、ご利用者がゆうちょ銀行に口座を持っていないとなりません。

 

この項終わり

科学的介護とAIケアプラン

 

 

 厚生労働省の「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」が昨年12月に中間まとめの案を発表しました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189631.html

 

 介護の仕事に関与している方、特にケアマネージャーの皆さんには重要なことなのですが、この検討会の資料を見ても何をどうしようとしているのか分かりにくい部分があります。

 

 

「科学的裏付けに基づく介護」とは何か

 

 厚生労働省が考えている「科学的裏付けに基づく介護」とは具体的にどのようなことでしょうか?

 これを説明するには医薬品の開発と比べてみるとわかりやすいと思います。

 

 医薬品の開発では必ず事前に長い時間をかけ、動物実験や臨床実験が行われ、実際にその薬がどのように効果があり、副作用などの影響があるのかの検証を行います。

 そのような手順を踏み科学的裏付け(=エビデンス)を確実に把握しなければ、薬は製品化することはできません。

 

 介護においても、あるご利用者にある方法の介護をするとどのような効果があるのかを検証しエビデンスを得ようというのが、この「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」の目的でしょう。

 

 「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」を言い換えれば「エビデンスに基づく介護に係る検討会」ということです。

 

 

介護は実験室で行えない

 

 しかし、介護は実験室で行われるわけではありませんから、薬のテストのように、Aを投与すればBの結果が得られるというような検証をすることはできません。

 

 ましてや、ご利用者は個別に様々な心身の状況を抱えているため、検証目的に合った状況のご利用者をどこかから連れてくることも無理のある話です。

 

 それではどのようにエビデンスを得ようというのでしょうか。

 

 

介護は実践でしか検証はできない

 

 介護は現場の実践でしかエビデンスを得ることができません。これはよく言われることでしょう。

 科学的な検証を行うためには絶えず現場からの実証データを吸い上げて、検証するしか方法が無いのです。

 

 その上、介護は「心」を扱わなければならない仕事です。高齢者の「やる気や」「生きがい」を扱うためには、人間の「心」にアプローチする必要があります。

 さらに言えばその「心」は社会の状況や時代によっても変わってきます。外科医が身体を扱うように生物学的なアプローチだけでは結果が出ないのが介護の世界です。

 

 もちろん、精神医学界では、昔から各種療法の積み重ねにり、「心」の治療方法が科学的エビデンスとして蓄積されています。しかし、介護の場合はそのような積み重ねの歴史は浅く実証もありません。

 そもそも、これまでは、老化による心身機能の低下を病気とは考えてこなかったため、治療改善というアプローチは取られてきませんでした。

 今まで高齢者介護は「お世話」程度にしか見られてきませんでしたから、科学的検証など必要なかったともいえます 。

 

 しかし、老化による心身機能の低下は予防することができますし、実践方法により状態の悪化に差が出てくることも周知の事実です。

 

 国としては社会保障費の低減のために、できるだけ、効率の良い介護方法を見出し、介護全体の質の向上を目指したいということでしょう。

 

 

多様な介護実践のデータベースを作りたい

 

 全国各地で行われている多様な介護の実践と、その結果をデータベース化し、ベストな実践(ベストプラクティス)を抽出していく。

 

(※ベストプラクティス=ある結果を得るのに最も効率のよい技法、手法、プロセス、活動などのこと。 )

 

 これが、この検討会が目指しているものだと思います。

 ではどのように実践を蓄積していくのか?

 

 役割はケアマネージャーにゆだねられると考えられます。

 「ケアプランのデータベース化」これが一つの方向として見えてきます。ケアプランにはアセスメントとモニタリングも含まれます。

 

 どのような心身状況の利用者にどのような介護実践を行い、どのような結果を得たか。この情報を大量に集め、データベース化し、その大量のデータの中よりベストプラクティスをピックアップしていくプロジェクトになるのでしょう。

 

 ベストプラクティスをピックアップする作業にはAI(人工知能)技術が活用されると思われます。

 

 

AIによるケアプランの作成が可能に

 

 このようなデータベースが開発されることにより、今度はAIによるケアプランの作成が可能になってきます。

 

 心身状況(アセスメント)を入力すると、AIがデータベースの中から対応するベストな介護方法をピックアップしてくれます。

 

 もちろんそれをケアプランとして採用するかはケアマネや本人・家族の同意や確認が必要になるとは思われます。

 しかし、逆に考えれば、ケアマネージャーがプランニングしにくい、本人にとっては辛い機能訓練系のプランも冷徹にピックアップしてくれます。それにより効果的なプランを導入しやすくなるかもしれません。

 

 ただしこのシステムを製作するためには、最初にケアプラン作成ソフトのフォーマットの共通化が必要になります。そのためのプラットフォームをどうするかなど、検討課題は多く、データの蓄積が始まるまで何年かかるのか?今の雰囲気だとかなり先のことになりそうな気がします。

 

 

 

 

ケアプランAIでケアマネは不要になるか?

 

 ケアプランAI(人工知能)の開発がスタートしました。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF14H0Q_U7A410C1EA4000/

 

 このシステムが稼働すればケアマネージャーは要らなくなるのではないかという声もあります。

 実際のところはどうでしょう?少し検証したいと思います。

 

 

ケアプランAIの仕組みを考える

 

 ではケアプランAIは具体的にどのようにケアプランを作成するのでしょう。

 居宅介護において、簡単にイメージ想定すると、以下のような流れになるのではないかと考えます。

 

①利用者の心身の状況の他あらゆる情報を収集し入力する(スクリーニング)

②利用者情報はクラウド上のデータベースに照会され、その人の状態が評価される(AIによるアセスメント)

③アセスメントによりAIはその人に必要なサービスを選択する

④選択されたサービスによりAIケアプランが作成される

⑤AIケアプランを本人や家族の意向に合わせて修正する

⑥修正されたAIケアプランに合わせてサービス提供事業者を選択し入力

⑦ケアプラン原案(暫定ケアプラン)の完成

⑧サービス担当者会議開催(議事録等の入力)

⑨ケアプラン完成→サービス提供票・週間サービス計画表に反映

⑩AIがモニタリングすべき項目を作成→人による確認修正

⑪モニタリング情報の入力

⑫長期・短期目標についてのAI評価→人による確認

⑬AIが再アセスメントに必要な、収集すべき情報を提示

⑭情報の再収集・追加入力

 

 最初からここまでの作業が整備できるとは思えませんが、実際に使えるAIケアプラン・システムになるにはこの程度の業務能力が必要ではないかと考えます。

 

 

医療分野ではAI診断がすでに始まっている

 

 近い将来、身近なクリニックなどでもAI診断が実現すると考えられています。

https://cs.sonylife.co.jp/lpv/pcms/sca/ct/special/topic/index1704.html?lpk=

 

 とは言っても治療判断を行う医者が必要なくなるわけでは無いでしょう。

 しかし、1次診断などのスクリーニングでは活用されるのではないでしょうか。

 カルテ情報共有と連携して地域医療改革の推進に役立つことが期待されます

 

 医学の歴史は人体と病気の情報化の歴史でもあります。血液やDNAなど人体のあらゆる状況を情報化し、病気を治すことに利用してきた歴史です。

 

 病気に関わる人体の情報が膨大化している現代ではAIを活用することは避けられないことだと思います。

 

 

AIシステムには膨大な情報データベースが必要

 

 AIの能力としての真骨頂は、膨大な情報を処理しディープラーニング(深層学習)と言われる仕組みを通して、AIそのものが成長するところにあります。

 https://www.nttcom.co.jp/research/keyword/dl/(ディープラーニング説明)

 

 人工知能というものは自ら学習し成長し、能力を向上させていくことが売りであり、そのためには膨大な情報が蓄積されなければなりません。医学ではその情報がすでに膨大に蓄積されています。

 

 一方、介護分野ではこれからです。

 介護サービスの多様な情報が日本全国から集まり、クラウド上に蓄積され、ディープラーニングが始まるまでには、相当の時間がかかるでしょう。

 それとも開発者側であらかじめ介護に関する情報データベースを作成するのでしょうか?それには相当のコストが必要になります。

  普通に考えれば、多くの現場でこのAIシステムが使われ、学習するべき情報が蓄積される方法をとるでしょう。

 つまりこのシステムが成功するには、多くの現場で利用されなければならないということになります。

 

 

システムが利用されなければケアプランAIは失敗する

 

 結局、上述のAIケアプランの作成の流れにおける下線部分は、ケアマネージャーが行わなければなりません。

 ケアマネージャーには情報収集と調整やコミュニケーションなどの仕事は残ります。

 

 このAIシステムが成功するためには、多くのケアマネージャーによって利用されなければなりませんが、利用されるには、何らかのインセンティブが必要です。

 たとえば、このシステムを活用することで、ケアマネ業務が軽減され、現在の受け持ち担当者数を超えて仕事をすることが可能になり、国も規制緩和し、収益増加につながるようなインセンティブです。

 

 でなければ多くのケアマネージャーはこのシステムを利用しないでしょう。

 全国のケアマネが活用し、それによりディープラーニングが加速しなければこのケアプランAIは成功しないと思います。

 

 

AIケアプランはケアマネの資質の向上に寄与するか

 

 ディープラーニングが加速し、ケアプランン自体の精度が向上することは、ケアマネジメントの資の向上につながるとは思います。

 しかし、ケアマネージャーの仕事はケアプランを作成することだけではありません。

 

 ケアマネの仕事はケアマネジメントを進めて、利用者の心身状況の維持向上と自立を推進していくことです。

 

 たとえば、

  • 下肢筋力の維持向上のための運動をさせたくてもしようとしない利用者
  • 訪問介護を受け入れない家族
  • 食事管理ができない糖尿病の利用者
  • ターミナルにおける家族ぐるみのコミュニケーションのケア
  • 認知症家族に対する認知症の理解を促すケア

 などなど、ケアプランの内容とは別に、ケアマネージャーが関与しなければ前に進まないことは沢山あります。

 

 そして、ケアマネの資質として必要とされているのは、上述のようなケースでもマネジメントを進めていける能力でしょう。

 

 実は、ケアプラン自体はアセスメントの時点である程度のパターンが見えていることも多いのではないでしょうか。

 

 多くのケアマネージャーが、ある程度パターン化されたケアプランをカスタマイズしてその利用者に適したものにしてゆく作業を行っていると思います。

 

 もしこのAIがそのようなパターン化されたケアプランを作成するだけなら、たぶん利用価値は無いでしょう。そのパターンはすでにケアマネの頭の中に入っていますから。

 

 

使えるAIシステムでなければ失敗する

 

 利用価値がないAIシステムでは情報も蓄積できないので。このケアプランAIは失敗すると思います。

 

 ケアプランAIのシステムが成功するには、まず、できるだけ多くのケアマネージャーが利用するシステムにしなければなりません。

 

 先にも述べたように、業務の軽減と収益向上に結び付くシステムでなければ利用はしないでしょう。

 

 ケアマネージャーの資質の向上はその先にあることであり、筋トレの必要な利用者に筋トレをさせられるAIは開発できません。

 

 もしかしたらロボットケアマネージャーが開発され、人間のケアマネージャーは要らなくなるかもしれませんが、おそらくそのレベルのロボットはもう人間と変わりません。

 

 

 

混合介護で生活援助はどう変わるのだろう(訪問介護)

 

軽度者の生活援助が保険外へ

 

 介護予防・日常生活支援総合事業が始まり、要支援者の生活援助が、介護給付以外のサービスに変わりつつあります。

 

 日常生活支援総合事業の生活援助は単価も安く、既存の訪問介護事業で対応するには見合わないという声もあり、自治体によってはシルバー人材センターなどの対応に切り替わっているところもあります。

 

 流れとして単なる生活援助のみの介護は無くなる方向なのでしょうか?重度の方は別としても軽度の利用者の生活援助をどうしていくのか、訪問介護事業所経営の観点から考えてみたいと思います。

 

 

人手不足で生活援助だけの仕事に対応ができない

 

 現在、訪問介護は人手不足で、身体介護でさえも対応できない場合があるのに、単価の安い生活援助はもう対応できないという声をよく聞きます。

 

 身体介護に付随した生活援助は仕方ないとして、軽度者の生活援助はもう昔のようには提供できなくなっている実態があると考えます。

 

 この流れは国の介護保険から生活援助を切り離す方向とも合致しており、自立支援に繋がらない生活介護は減っていく方向なのでしょう。

 

 

訪問介護は重度者向けのサービスが中心に

 

 もともと訪問介護員は、家政婦からの転職も多く、介護保険制度発足時は生活援助が盛んに提供されてきた経緯もあります。要支援者の部屋の掃除も昔は普通にケアプランに載せられますが、今はなかなか難しい状況でしょう。

 

 訪問介護事業所の経営者の中には生活援助のみの利用者は断って、身体介護中心にサービス提供をしたい意向も強くなっています。

 また、医療的ケアなどレベルの高い訪問介護をサービスの中心に据えることで、生活援助をほとんど行わない事業所もあります。

 

 実は、医療的ケアに積極的に対応すると、障害者サービスを含め、その依頼だけで手が一杯で、通常の訪問介護には対応できない状況になる場合もあるようです。

 それだけ重度者向けサービスは不足しているのかもしれません。

 

 実際その方が収益性も高く、筆者はこれからの訪問介護はレベルの高いサービスを提供することで生活援助は行わない方向で経営したほうが良いと考えています。

 

 

混合介護における生活援助の位置づけは?

 

 国は次期改正に向けて、保険外のサービスと介護保険サービスを組み合わせて提供する混合介護について検討しています。

 訪問介護事業では保険外の生活援助をどのように組み合わせるかが大きなテーマとなっているでしょう。

 

 先に述べた通り、今後の訪問介護事業所はできるだけ重度者向けのサービスを充実させ、身体介護中心の提供体制になる方向であると考えます。

 

 しかし、訪問介護が生活援助を行わない場合、だれがどのようにそのサービスを提供し、介護保険制度や障害者福祉制度の中での位置づけがどうなるのか疑問が多いでしょう。

 また、そのサービスが混合介護として訪問介護事業に組み込まれるのでしょうか?

 しかし、それであれば、現在でも行っている生活援助を自費化したサービスと何が違うのでしょうか?

 さらに、現状では経営的に生活援助のサービスは合わないわけですから、そのような混合介護に意味があると思えません。

 

 

保険外・低コストの家事代行事業との連携

 

 保険外の生活援助サービスを外部の独立したサービス事業者が実施するとすればどうでしょう?(これを混合介護というのか疑問ですが)

 

 確かに、買い物代行や掃除といったサービスは訪問介護員である必要はありません。それは軽度の利用者だけでなく、重度の利用者でも同様でしょう。

 

 そうした簡易なサービスがケアマネジメントの中で社会資源として位置づけられ、適切に提供されれば、提供主体は学生のアルバイトでも構ないわけです。

 

 しかし、自宅に訪問して提供する以上は、訪問介護と同様に手順書的なものが必要にはなるでしょう。その場合、訪問介護事業所とのどのような協働体制を築けば良いのでしょうか?

 

 例えば、低コストで保険外サービスを提供できる家事代行事業者が、訪問介護事業所と連携し、無資格のアルバイトによる生活援助も、訪問介護計画書の中でその自立支援の役割が適切に位置づけられることができ、さらに、訪問介護員の管理の元でサービス提供ができれば、保険外の低コストの生活援助も可能かもしれません。

 

 しかし、それを実現するためには、

 保険外事業者と介護事業の調整を誰がどうやるのか?

 訪問介護事業所にとってどんなメリットがあるのか?(なにがしかインセンティブがなければ誰も連携しません)

 保険外事業者に収益性は見込めるのか?(見込めなければ誰も参入しません)

 など、多様な問題があり、それらをクリアする枠組みを厚生労働省が提示できるのか、いささか疑問です。

 

 今のところ、ダスキンやベアーズといった家事代行ビジネスはプレミア感のある高付加価値なサービスモデルが主流になっています。

 高齢者や障害者に必要な家事代行は、そのようなプレミアムなものではないでしょう。国中が人材不足の中で、簡易で低コストの家事代行ビジネスモデルが成り立つか、IT活用するなど民間の力がなければ不可能な気がします。

 

 

 

 

 

 

 

 

地域の医療介護連携を加速するIT技術の導入について

 

IT導入補助金によりケア業務のIT化が加速する予感

 

 国はIT技術の導入による生産性の向上を目指した、IT導入補助金を始めました。

 https://www.it-hojo.jp/

 これにはもちろん医療介護事業も含まれており、この補助金を利用することにより情報共有化などの業務効率化を図る介護事業所も増えるのではないでしょうか。

 

 格安スマホやSIMの登場により月々1,000円程度の通信費でスタッフ全員がモバイルツールを持てるようになっています。

 いよいよ、ケア業務のIT化が加速しそうな気配がしてきました。

 

 

重度の方の在宅ケア推進にはIT技術の導入が不可欠

 

 筆者は訪問介護や看護などの在宅ケアの収益性向上のためには、レベルの高い医療的ケアの実施も含め、医療介護連携が不可欠だと考えています。

 

 重度の障害者や医療ニーズの高い高齢者などの、在宅療養生活を実現するためには、医療介護連携が重要であることは、介護保険制度が始まった頃より継続して訴えられてきたことです。

 

 施設や病院で生活している方でも、連携体制が整えば、実は在宅生活が可能な方が多くおられます。その意味で潜在的な在宅療養ニーズは非常に高いのです。

 

 しかしこの連携体制の充実は様々な理由によりなかなか進まない状況でした。

 特に施設や病院が充実している都市圏では、連携を進める主体がはっきりせず、行政や医師会などの利害が交錯し、思うような連携体制が構築できていないように感じます。

 

 

在宅療養は医師の負担が大きい

 

 在宅療養を支えるには、まず訪問診療が重要な役割を担います。

 

 しかし、365日24時間のケア体制を整えるには訪問診療医への負担が非常に大きく、これまでは、医師の地域医療に対する使命感だけで支えられてきた部分が多いと言われます。

 

 このことは未だに解消されておらず、休みもなく24時間体制で働いている訪問診療医は多く、そのためになり手も少ないという課題を抱えています。

 

 

IT化による情報共有で在宅療養は進展する

 

 そこでIT技術を導入し、訪問診療医チームによるカルテの共有などにより、医師の当番制対応を可能にし、一人の医師に負担がかからないようにするモデルが少しずつですが進んでいます。

 

 この方法が全国に広がれば、在宅療養は大きく進展するのではと考えます。

 

 今のところ、これらは一部法人の独自の取り組みであり、公的支援(一部自治体を除く)がない状況で行われています。

 

 今回の補助金の導入により訪問診療のIT化が加速することを望みたいと思います。

 

 

IT化により医療介護連携体制が強化

 

 上流の訪問診療がIT化すれば、下流の訪問看護や介護などの居宅サービスもIT化が進んでいくと考えます。

 

 現状でも、スマホなどにより現場で報告書を入力し、業務効率化は可能ですが、こうした情報が医師から介護まで共有できるようになることは、連携体制の構築には不可欠なことです。

 

 つまり、業務のIT化が上流からやってくるイメージです。

 

 

 

IT化に対応できない事業所は在宅療養ケアには参加できないかも

 

 逆に言えば、IT化に対応できない介護事業所は医療介護の連携体制からは除外される可能性があります。

 

 在宅医療のITフォーマットに合わせた業務ができなければそのチームには加われないということです。

 

 医療から介護までの統一されたシステム環境が整備されるまには、まだ数年はかかるとは思いますが、今のうちから業務のIT化には取り組んでおくべきかと考えます。

 

 特に、スタッフが現場でスマホやタブレットを使いこなせるようにしておくことは、早ければ早いほど良いと思います。

 

 

 

課題は個人情報保護のためのセキュリティー体制の確保

 

 情報の共有化には個人情報の保護の問題が付きまといます。

 

 事業所ごとに個別に利用者情報を管理している場合は、管理責任は事業所にありますので、責任の所在ははっきりしているのですが、クラウドなどにより多数の事業所が情報を共有する場合は、その情報の管理責任が誰にあるのかが不明確です。

 

 民間のIT事業者のシステムを多数の事業所で利用し情報を共有する場合、システムの脆弱性による個人情報の漏えいなどは、システム側の問題になるかもしれません。

 

 しかし、多数の事業所が情報を入出力する場合、どのようなトラブルが発生し、それぞれの事業所の責任がどこまでなのかはっきりしない部分があります。

 

 クラウドシステムにおける個人情報の管理の方法について、明確なガイドラインが必要でしょう。

 

 

 

介護ソフト業者も本腰を入れて売り込みを開始

 

 IT導入補助金はIT業界を騒がせています。

 

 介護ソフト業者もあちこちで自社のシステムの売り込みを開始しており、大手のカイポケもIT導入補助金の利用を呼び掛け、18か月無料お試しのキャンペーンを実施しています。

 

 すでに使っている介護ソフトはあるとは思いますが、もしモバイルシステムを試してみる機会があれば、この際ぜひ試用してみることをお勧めします。