続きです。
Ⅲ 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)
こちらでは、「現状・基本的な視点」として以下のような状況を踏まえています。
- 都市部の介護ニーズ増大、地方部は高齢化のピークを越え、高齢者人口が減少に転じる地域もある。
- 高齢者向け住まい(有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅)が都市部を中心に多様な介護ニーズの受け皿となっている。
地域包括ケアシステムについては以下の点に留意して推進することが検討されています。
◎居住系サービス、訪問介護等の在宅サービス連携を強化
◎「介護離職ゼロ」の実現に向けて、介護施設の整備を進めるとともに、在宅サービスの限界点を高めていく
◎住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の質を確保、事業者に係る情報公表の取組を充実「外部の目」を入れる取組
◎看取り期にある者に対応する在宅の限界点を高めていく
◎介護老人保健施設について、在宅復帰・在宅療養支援の機能を更に推進
◎在宅医療・介護連携推進事業について、医師会等関係機関や医師等専門職と緊密に連携、ICT やデータ利活用
これまで通り、施設介護ではなく在宅介護を中心に、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を積極的に活用するイメージでしょう。
Ⅳ 認知症施策の総合的な推進
65 歳以上高齢者の約5人に1人が認知症になると見込まれていることを前提に、これまで通り、重点的な施策として推進する予定です。
基本的なポイントはこれまでの施策の拡充となります。
◎認知症施策推進大綱に沿って、認知症バリアフリー・予防・早期発見対応・介護者(家族)支援
◎認知症の人が、尊厳と希望を持って認知症とともに生きるまた、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる「共生」の実現
◎認知症になった方が働き続けられる環境整備
◎住み慣れた地域で普通に暮らし続ける
◎「通いの場」をはじめ、高齢者の身近な場における認知症予防、「通いの場」でスクリーニング
◎かかりつけ医、地域包括支援センター、認知症初期集中支援チーム、認知症疾患医療センター等の体制の質の向上、 連携強化
◎介護者(家族)への支援、認知症カフェ、家族教室や家族同士のピア活動、職場における相談機能の充実
◎認知症高齢者グループホームのユニット数や運営規模の弾力化
Ⅴ 持続可能な制度の構築・介護現場の革新
2025年度末までに、年間6万人程度の介護人材確保が必要なことを前提に、人材確保と業務効率化による持続可能な事業としての体制整備が中心ですが、人員確保は改善が難しい状況が見えるようです。
一方、今改正の目玉の一つとして、「非営利連携法人制度」の創設があります。
これは、社会福祉法人を中核として、地域の介護事業者が連携し、ロボット・ICT 等の共同購入、人材確保・育成、事務処理の共同化・プラットフォーム化を進めるものです。
国としては介護の経営を大規模化させ、人材や資源を有効に活用し、効率化と介護職の処遇改善を進めたい意向があるのでしょう。
しかし、この動きは、民間事業者など多様な参加者という介護保険制度の理念とは逆行します。確かに、介護福祉も電力や交通などと同じように大規模な公共事業体として組織化ができれば、職員の身分は安定し、いろいろな問題が解決するかもしれません。しかし、一方で大組織病のような非効率な部分が沢山出てきてしまうでしょう。少し虫がよい話かもしれません。
その他の施策は次のようになります。
◎人手不足の中でも介護サービスの質の維持・向上を実現するマネジメントモデルの構築、業界のイメージ改善
◎業務の洗い出し・切り分けを行った上で、ロボット・センサー・ICTの活用と元気高齢者の活躍を促し
◎中学生、高校生等が進路を考えるにあたって、介護職の魅力を認識し、仕事として選択をしてもらえるよう、学校や進路指導の教員などへの働きかけ
◎「富士山型」の賃金構造を目指し、制度の整備を進める
◎潜在介護福祉士現場に戻ってもらうための取組
◎離職防止・定着促進の相談支援、小規模事業者への取組支援
◎介護現場を地域全体で応援する仕掛けづくり
◎外国人 介護人材の受入れを着実に推進
(アジア各国の急速な高齢化のため、外国からの介護人材の受け入れ拡大が安定的な人材確保策とならないとの意見あり)
◎介護分野の文書の削減・標準化等を進め、現場の事務作業量を削減
(個々の申請様式・添付 書類や手続きに関する簡素化、自治体のローカルルール解消、ICT 活用)
以上、これまでにも散々取り組んできた内容ですが、一向に効果が見えない感じがあります。日本全体がコロナ以前の人材不足状況に戻るとすれば、いよいよ担い手不足は深刻になるでしょう。
今回議論されたが見送られた施策
ケアマネジメントに関する給付の見直し=有料化・利用者負担
社会保険料の負担増により中小企業や現役世代の負担は限界に達しており、制度の持続可能性を確保するため、能力のある人には負担していただくことを検討していましたが、以下のような意見もあり、今回は見送られています。
◎有料だとサービス利用をやめてしまう人が出てしまう
◎ケアマネジャーは保険者の代理人、市町村の代わりを担う立場であり利用者負担を求めることになじまない
◎有料化によりセルフケアプランが増加すると自立につながらないケアプランが増える
◎障害者総合支援法における計画相談支援との整合性
軽度者に対する給付の見直し(要介護1・2サービスの地域支援事業への移行)
要支援1~要介護2の利用者への生活支援の在り方を考えた場合、強度の違いはあれ、予防の視点は欠かせないため、一体的なサービス提供を図りたい旨の意向が保険者などから上がっており、移行が検討されてきました。
社会保障審議会 介護保険部会(第90回)令和2年2月21日<介護保険制度の見直しに関する参考資料>より
上記調査から、総合事業では制度改正前の介護予防サービスと同じ基準で提供されるサービスの割合が大きく、市町村の実施状況を見ても、住民主体のサービスなどの多様なサービスが実施されている市町村数は6~7割にとどまっています。
総合事業から撤退する訪問介護事業所も多い中、そもそも、住民主体のサービスなどを介護事業に組み込むことは無理があるのかもしれません。サービスの母体となる介護事業所が回避しているためサービスが伸びないと考えます。
国の意向としては、要介護2までの生活援助は身体介護から切り離し、安価で柔軟な住民主体のサービス(ボランティアや民間の家事援助サービスなど)にしたいという意向が見えます。
最近は多様で比較的安価な民間家事サービスも増えています。例えば、区市町村がこうしたサービスを利用できるクーポン券などを発行し、家事援助を提供することも考えられます。
しかし、ここで重要なのは「生活援助=家事援助」と定義していないことです。
介護は広い意味で生活援助であり、その中には身体介護も家事援助も含まれています。生活援助から家事援助を切り離す方法が確立していない以上、要介護2までの総合事業への移行は難しいかもしれません。
もし強引に導入しても、上述のような家事援助サービスを適切に提供できる体制ができていない場合は、現場がかなり混乱すると思います。
この点について、審議会では以下のような意見が出されています。
◎見直しは、将来的には検討が必要であるが、総合事業の住民主体のサービスが十分ではなく、地域ごとにばらつきもある。まずは現行の総合事業における多様なサービスの提供体制の構築等を最優先に検討すべき
◎総合事業の課題である実施主体の担い手不足が解消される見込みもない中では市町村も対応できず、現段階での判断は現実的でない
◎要介護1・2の方は認知症の方も多く、それに対する体制が不十分
◎訪問介護における生活援助サービスは身体介護と一体的。切り離した場合の状態悪化が懸念
◎利用者の負担増となることを懸念。要介護1・2の方は重度化防止のために専門職の介護が必要