都心の介護人材不足は危機的

23区内の介護職の求人倍率

 

このところ、東京都の有効求人倍率は2倍前後で推移しています。
 しかし、介護サービスに限って言えば、現在は7倍前後まで跳ね上がっています。さらに、23区に限って言えば、これが10倍まで上がってしまう状況です。つまり、事業所等からの10名の求人に対して1名しか応募が無いということです。これは正社員の倍率ですが、パートに至っては16倍に近い数字です。

 この統計は、東京のハローワークの数字です。実は、多くの事業者ではあまりパート求人をハローワークに出していません(出しても無駄と考えている)。
 従ってパートの倍率は氷山の一角であり、実態はもっと多くの求人があります。

令和元年11月 東京都の介護サービスの求人状況
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/kakushu_jouhou/chingin_toukei/tesuto/_121515.html

求人種

有効求人数

有効求職者数 求人倍率
23区 多摩 23区 多摩 23区 多摩 都全体

全国

正社員

10,883 1,896 1,107 740 9.8 2.5倍 6.9倍 4.24倍

パート

10,445 2,484 658 491 15.8 5.0倍 11.25倍

 

 

 23区の介護事業にとって危機的な状況かもしれません。
 介護サービスを受けたくても人手不足によりサービスを受けられない高齢者や障害者が多数発生している状況だと考えます。
 サービス低下の負担は家族や、家族がいない場合は本人が我慢することによって凌ぐしかないと思われます。

 これでは高齢者や障害者は都心に住めずに、郊外に引っ越した方が良いという結果になるでしょう。

 

都心の介護は崩壊する

 

 ちなみに別の統計(厚生労働省「職業安定業務統計」)ですが、2019年の全国の介護分野の求人倍率:4.24倍に対し、東京都:7.27倍、神奈川県:4.47倍、千葉県:4.89倍、埼玉県:5.1倍、です。
 東京都は多摩地区が含まれていますので23区は15倍程度でしょう。
 ここで注目してほしいのは、周辺県が比較的求人倍率が低く、人材が確保しやすいという状況です。

 介護事業所を開業する場合、この状況はよく頭に入れておかなければなりません。つまり郊外に開業すれば、23区内より人材確保が容易であるということです。

 都心では既に、要介護者や障害者が重度になりサービス量が増えると、在宅生活が維持できず、郊外に引っ越さなければならない状況になっています。
 多いパターンとしては郊外の住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などに、引っ越したり、認知症の方は遠くの特養に入所している様子が見受けられます。
 住所地特例があるので地方財政への負担問題は関係ないだろうと言いますが、問題はお金のことだけではありません。

 

自治体は見て見ぬ振りか

 東京都はダイバーシティー「誰もがいきいきと生活できる、活躍できる都市・東京」を唱っていますが、実態が伴っていません。
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/actionplan-for-2020/portal/diversity/

 また、国が推進する地域包括ケアの理念とも、地域共生社会の理念にも反しています。
 国や都、区がこうした問題に真剣に取り組み必要がありますが、自治体の動きを見ているとあまり深刻さを感じません。

 実は、実利的に考えた場合、地方自治体にとっては健康で良く働く若い人が増え、コストがかかる要介護者や障害者が自治体外に出ていくことは歓迎すべきことなのです。都についてもそれは同様のことが言えます。

 

都市への富の集中と地方の疲弊

 実はこの問題は日本だけの問題ではないようです。世界中の都市には働く若年層が集まってきます。その結果、富が都市に集中し、地方は貧困化します。背後では、東京のように高齢者や障害者が追い出されているに違いありません。
 都市側の自治体に改善するモチベーションを求めるのは難しいかもしれませんので、国はこのアンバランスを解消する政策を打つべきだと筆者は考えます。

 

どのような対策があるか

 このような状況に対してどのような対策が考えられるでしょう。いずれにしても都市に富が集積するのであれば、その富を再分配し、高齢者や障害者を支援する仕組みがベースになるはずです。

1 都心部の介護給付地域区分を改善

家賃や人件費などのコストは23区でも都心部が最も大きな負担になっています。
足立・葛飾・江戸川などの周辺区は比較的コストが低く事業が継続しやすいですが、山手線内部はかなり厳しい状況と言えましょう。
介護給付の地域区分が23区一律ではアンバランスが生まれています。地域区分は区別に設定する方が良いと考えます。

2 都心の介護福祉事業者の運営コスト低減

 税金の軽減や固定費削減の方法などがありますが、現状の指定基準などを鑑みると、事業所の賃料コストを減らすために何らかの工夫ができるように思います。
 都心で介護事業所を運営する場合、事業所の賃貸料が過度の負担になります。 
 例えば、都心にオフィスを構える、大企業などが介護事業所にスペースを貸すことを奨励する、助成や税制優遇も考えられます。
 特にデイサービスは固定費が大きく、企業の協力を仰ぎたいとろころです。
 また、筆者が既に提言した独立系訪問介護などの仕組みを特区制度などを利用して導入することも有効かもしれません。

独立訪問介護士の可能性 その1

 

3 生活支援へのボランティア休暇制度などの活用

 訪問介護の家事援助については給付も安いため、多くの介護事業者が対応できない状況になっています。
 一方、近年の大企業を中心に、ボランティアのために休んだ場合は有休扱いになる、ボランティア休暇の導入が進んでいます。
 今のところ、災害復旧やオリンピックなどの運営ボランティアがイメージされているようですが、この制度をうまく活用し介護。福祉支援の枠組みを作ることは有効かもしれません。少しでも支援人材の手が増えることを考えなければなりません。

 

 

介護福祉業の人材確保対策 その2

 

 今回は、前回の就労環境を整えても、どのように求人でアピールすればよいのかを考えたいと思います。

 その前に、前回の説明の補足として以下のテキストもご参照ください。

「訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術」

 上述のような努力を事業所が実践するということが前提の求人の在り方です。

 

4 子育てママにアピールする求人広告の在り方

 求人広告としては前述の求人対策の内容をアピールします。

 若い主婦向けにはやはりネットの求人サイトを利用する方が良いでしょう。

 主婦専用の求人サイトでなくとも、若者が集まりやすい求人サイトに子育てママが働きやすい環境であることを具体的にアピールします。

 また、パート求人広告は地域密着ですから、それぞれの地域の子育て事情を考慮した広告の出し方が必要だと考えます。

 具体的なコピーとしては以下のようなものです。

 ⦿ 保活ママサポート。4月入園に向けた働き方を相談します。

(12月ぐらいに出すと良いでしょう)

 ⦿ 家族の都合で急な休みでも大丈夫

 (管理者やサービス提供責任者が柔軟に対応します)

 ⦿ 未経験無資格の方歓迎。面倒見の良い担当者が一から不安なく働けるように指導します。

 無資格の方に資格を無料で取得してもらえるようにするのは必須です。

 自治体によって補助金や資格取得支援事業がありますので必ず活用しましょう。

 

5 自事業所ホームページの充実

 子育てママ向けの求人だけでなく、すべての求人活動で必要なのが、自事業所のホームページの充実です。

 介護福祉事業所のホームページは中々充実させる暇やお金が無いという方も多いかもしれません。

 自事業所のホームページはご利用者やそのご家族、ケアマネージャーさん向けに作っているかもしれませんが、そうではなく、仕事を探している人向けに作ることが重要です。

 ケアマネや利用者向けに作っても費用対効果から言ってあまり意味はありません。それよりも求人者向けに充実させる方が、人材確保の大きな助けになります。

 ホームページのコンテンツは、サービス内容や事業所の一次情報(住所や電話など)を乗せただけの、一般的で凡庸なホームページでは求人者にはアピールしません。

 求人情報があっても、給与や処遇など一般的な情報しか掲載していなければ、ほとんど引っ掛かってこないでしょう。

 ポイントは「ここで働きたい!」と思わせるホームページ作りです。

 

 筆者は魚釣りが好きです。

 多少語弊があることを覚悟して言いますが、中小企業の人材募集は魚釣りに似ていると思います。

 特に疑似餌を使うルアーフィッシングは、いかに魚(応募者)に餌(職場)をアピールするかが重要であり、凡庸なルアーには見向きもしませんし、同じルアーを使い続けると、見切られてしまい、ほとんど食いつかなくなります。

 つまり、魚にいかにルアーを魅力的に見せるかが釣果に繋がるのです。

 求人も同じで、処遇や職場の雰囲気など応募者にいかにアピールするかが成果に繋がります。

 そもそもあまり事業所ごとに職場の差別化が測りにくいのが、介護福祉事業の宿命です。

 職種にしても給与にしても、あまり変わり映えの無い餌が大量に世の中に漂っており、求人者としてはどれに食いつけばよいのか判断ができない状態なのです。

 ちなみに、人材紹介会社などは、大きな巻き網漁船のようなもので、巨大な網を使って大量に人材を確保しようとします。そのために、広告費に膨大な経費を使い、少しでも多くに人の目に留まるようにします。

 アルバイトなどの求人情報会社が頻繁にテレビCMを流しているのはそのためです。顧客である人材募集企業に少しでも多くの求人応募者を集めるためには、相当の広告が必要になります。

 しかし、中小企業ではそんなに広告費を使うことはできません。

 しかも、募集の対象者は事業所の周辺地域に住む人達だけです。大きな網は必要ありません。少ないターゲットに的確に届く求人が必要ですが、狭い地域といえどもターゲットはどこにいるか分かりませんので、ネット上手に活用して、アクセスしてくれるのを待つしかないのです。

 

6 どのように自社サイトに誘導するのか

 介護業界で長く働いている人であれば、給与や休日など処遇関係の情報を見て、実体験から職場の良し悪しをある程度判断できるかもしれません。特に正社員で働きたい人は、ハローワークなどの詳細な求人情報を見て検討するでしょう。

 しかし、介護業務の経験の無い、ましてや無資格の人にとってどのような事業所が自分に合っているかなど分かる由もありません。

 特にパートの若いママさんなどの場合、フィーリングやライフスタイルに合っているかが重要になりますので、文字による情報よりもビジュアルや動画などの情報が重要になります。

 最近、膨大なCM展開をしているindeedという求人検索サイトがあります。

 こちらは今までの求人サイトと違い、例えば「足立区 介護 パート」などと検索すると、足立区周辺の介護のパート求人を検索して出してくれます。

 Googleに検索ワードを入力すれば、該当する求人情報をIndeedが表示してくれるわけです。仕事を探している人はその検索画面から、各求人サイトに行き、求人内容をチェックします。

 ネット上のパート求人情報を地域限定で探している人は、多くの人がこの方法で、情報を探しているかもしれません。わざわざマイナビバイトなどのサイトから地域を限定して探している人は、どんどん少なくなっているでしょう。

 仕事を探している人はそこから、気になった求人情報のサイトにアクセスするわけですが、問題はここからです。

 応募者は求人情報サイトの情報だけで応募することはありません。

 多くの人たちがそのサイトにリンクが貼ってある(もしくは会社名などを検索して)事業所のホームページアクセスするはずです。どんな事業所か知りたいからです。

 この時、開いた事業所のサイトが凡庸なもので、どのような事業所か伝わってこなければ、もう応募することは無いでしょう。

 ここで「この職場で働いてみたい」と思わせることが大変重要なのです。

 お金を沢山出せば、有料求人情報サイトに写真や動画を沢山掲載し、雰囲気を伝えることができますが、いかんせんお金がかかります。

 できるだけ、自社サイトに誘導して雰囲気を伝えるようにすることが重要になります。

 そこで「この職場で働いてみたい」と思われれば応募に繋がります。

 

7 どのようなホームページが採用につながるのか

 では「ここで働きたい」と思わせるホームページとはどのようなものでしょうか?

 いくつかサンプルのリンクを貼っておきます。

 「楽しそう」「若い人が多い」「子育て中でもやっていけそう」などと思ってもらえる工夫が必要です。

 そのために、まず職場の雰囲気が伝わる写真や動画をふんだんに盛り込みましょう。

サンプル

①私が昔働いていた会社です。ペッパー君などを使い職場の楽しい雰囲気が伝わるよう工夫しています。これにより、若い人の応募が増えました。

http://www.best-kaigo.com/

②上と同じ会社ですが訪問看護でママさんナースを募集しています。子育て支援をアピールし小さなお子さんを持つナースが増えました。

http://www.best-kaigo.com/job/nurse-info.html

③こちらは筆者がコンサルをさせて頂いている、訪問介護事業所です。若い人中心のイメージと、子育て支援、障害者ヘルパーの具体的な仕事内容を掲載しています。

先日、未経験の子育てママさんパート二人応募があり大きな戦力になっているようです。

http://sunshine-cs.com/recruit/

 最後に、求人情報サイトはできるだけ切れ目なく利用することをお勧めします。

 できるだけ低価格で長い期間掲載できるサイトが良いでしょう。また、自社ホームページにリンクが貼れるサイトが良いのですが、リンクを貼らせてくれないサイトもありますので注意しましょう。

 Indeedはハローワークのインターネット情報も検索しますので、ハローワークについても3カ月おきに情報を更新し、絶えず求人情報が生きている状態にすることが大切です(3か月以上古い情報は後の方に行ってしまい検索がかかりにくい)。

この章終わり。

 

介護福祉業の人材確保対策 その1

 

1 介護福祉業界の人材不足は深刻

 

 いよいよ介護職員不足が深刻化しています。

 特に訪問介護(障害の居宅介護サービス等を含む)での人員が不足しており、地域によってはサービスが供給できない事態も発生しているかもしれません。

 

 現在、各業界企業の採用意欲は非常に高く、若者を中心に社会全体で人手不足が発生しています。

 そうした中、外国人や高齢者・専業主婦の活用などが各方面で進められていますが、介護・福祉事業の希望者は減る一方であり、新たな人材発掘は難しい状況のように見えます。

 外国人技能実習生制度が始まりましたが、語学力のハードルが高く、現場に迎え入れられるのはかなり先のことになりそうです。

 さらに、中国や韓国など高齢化の問題が顕在化してきている国々に行ってしまっているという声も聴きます。これらの国は語学力のハードルが低いようです。

 

 他の産業が人材確保のために給与水準を上げているのに対して、介護職員の給与水準は処遇改善加算が改定されたとしても、見劣りするのはいかし方がありません。

 特に都市圏では大企業の求人に比べ、かなり不利な状況になり、特に正社員の人材は待遇の良い産業に流れてしまっています。

 

 パート分野でも時給の上昇が進んでいますので、比較的有利であった介護事業のパートも魅力的でなくなっています。

 特に訪問介護のパートは時給が高いものの、業務の難易度が高いためか人材が集まりません。訪問介護を中心とした介護事業の人材発掘をしなければ、地域の介護福祉事業が立ち行かなくなるでしょう。

 

 

2 小さな子供を育てているママさんの活用

 

 そんな中、注目されているのが小さなお子さんを育てているママさんの活用です。

 小さなお子さんがいるお母さんは以下の理由により、就業が難しい事実があります。

 

 ① 核家族化が進み、お母さんが働きに出ると子供の面倒を見る人がいない。特に都市圏ではその傾向が強い。

 ② 保育園不足により地域によってはパートタイム勤務だと保育園に入れない(かといってフルタイム勤務は難しい)。

 ③ 子供の急な病気に対応するために、突然仕事を休まなければならない時があり、職場に迷惑をかけてしまう。

 ④ 母子家庭の場合、行政からの手当などの関係で収入制限があり働き方に調整が必要

 

 などでしょうか?

 

 こうした問題をクリアして、子育てママさんの隙間時間をいかに労働に充ててもらえるか、事業者が工夫することがママさんの活用には大切になります。

 

 子育てをしているとはいえ、子供が保育園に行っている人や、親に面倒を見てもらっている人、専業主婦など事情は様々です。そういた事情に柔軟に対応して働いてもらえるようにしなければならないでしょう。

 

 たとえば訪問介護の場合、サービスに入れる時間に働いてもらえばいいので、シフトでそれぞれのママさんに働きやすい時間で働いてもらえるので有利と言えるでしょう。

 他の事業でも工夫次第でそのような対応が取れると考えます。

 

 

3 子育てママさんを支援する求人対策

 

(1) 保活サポート

 保育園に入園する活動が「保活」です。前述の通り保育園に入園するには就労状況など地域により様々な条件があります。そうした条件に対応した働き方ができるように事業所もサポート体制を取らなければなりません。

 保活サポートの対策としては以下のようなポイントがあります。

 ① 事業所周辺地域の保育園環境・保活環境を調べる(就労条件や保育園の空き状況など)

 ② 一般的に4月入園が有利なので、その数か月前から求人を出し、事業所が保活サポートすることを訴える。

 ③ 地域の行政(区市町村)の子育て支援手当などの政策を調べ、それに対応した就労環境を用意する。

 ④ 育児ママさん対応の求人サイトの利用する。

   例:しゅふJOB https://part.shufu-job.jp/tokyo

 

(2)休日手当を充実させる

 旦那さんがいる家庭では、逆に休日・夜間の方が働きやすいという人もいるかもしれません。そうした主婦にアピールするよう休日・夜間手当を充実させる方法があります。

 訪問介護の場合、休日・夜間は社員対応であったり、パートさんが入れないことが多いと思います。休日・夜間手当を充実することで、パートさんが入りやすい環境を作ります。

 

(3)ライフスタイルに合わせた就業形態

 売り手市場の労働スタイルとしては、会社側が就労者のライフスタイルに合わせていくことが必要になります。

 特にパートワーカーは髪を染めたり、服装が自由であったり、ピアスやマニュキアがOKであったりと、ライフスタイルを受け入れてくれる仕事を選ぶ傾向があります。それは主婦でも変わらないと思います。

 障害福祉の事業の場合、利用者自身が若い人もいますので、相手によっては服装などを気にしない人も多いと思います。利用者に応じてサービス提供先のマッチングを考えれば、働く人のスタイルに合わせた仕事があるかもしれません。

 さらに、家族優先のライフスタイルを積極的に受け入れる就労環境を整えることは必然です。いわゆる「ワークライフバランス」の考え方ですが、これは正社員でも同様の処遇でなければならないでしょう。

 

次回に続く。

小規模デイサービスの営業マニュアル その2

 

7 ケアマネ営業のノウハウ

 保険者である区市町村の介護予防のインセンティブ制度(国が区市町村ごとの介護予防の成果を評価する制度)が始まると、おのずと、ケアマネジャーも利用者の目標達成など、仕事の成果が求められるようになって行きます。
 成果にコミットしてくれる事業所は、益々ケアマネからの紹介が多くなっていくでしょう。具体的には、要介護度を悪化させない効果的なサービスを提供してくれる事業所になりますが、そのためにも事業所の専門的な能力が問われるようになります。また、臨機応変な対応が柔軟にできる事業所も信頼を獲得できるでしょう。

 ケアマネージャーの対応のポイントを上げます。

⦿「人と人」のつながりを大切に

 各ケアマネさんにはそれぞれ特徴や傾向があります。自分の事業所にマッチしたケアマネさんは何人も利用者を送ってくれます。
顔の見える営業で「人と人」のつながりを作れると良いでしょう。

⦿最初の機会を大切にする

 初めてご利用者をお願いされた場合は、全力でサービスを提供できるよう努力します。最初のケースが成功すると二人目の紹介に繋がります。

⦿困難事例が来ても誠実に対応する

 開業当初はスタッフにも余裕があるので対応が可能である場合があります。困難事例に対応すると信頼がグッと増します。

⦿通所介護計画書を必ず渡すこと

 計画書の内容に自信が無い場合はケアマネとよく相談しましょう。

⦿月1回は情報提供を

 ご利用者の情報は月に1度簡潔にまとめて報告します(A4一枚)。その際、ケアマネが必要な情報を適切に報告できるように、ケアマネとのコミュニケ―ションを密にし、しっかりニーズを把握しておく必要があります。
 基本的にはケアプランの目標に対して、利用者様がどうだったかを報告します。その際、サービス提供上どのような工夫や努力を行ったか、どのような変化があったかを必ず書きます。
 ケアマネは毎月のモニタリング業務で利用者の変化を確認する義務がありますから、こうした情報が非常に重要になります。特に認知症のご利用者等、自身で状態を表現できないご利用者の場合は、事業者からの情報は大変重要です。

⦿その他のポイント

① ケアマネが悩んでいることに、自分のデイサービスがどのような解決策を提供できるかを考える。
② 営業ノートを作成し、相談した相手先、相談された内容などをメモしておく。これにより地域のニーズの傾向が見えてくる。
③ 地域のニーズに対応できるデイサービスにカスタマイズしてゆく。

 

8 その他各種営業手法

① 訪問営業

 どうしてもお話がしたいケアマネがいる場合は事前にアポイントを取りましょう。それ以外は飛び込みでチラシや名刺などを配布する方法で良いでしょう。
介護業界は「いい噂」も「悪い噂」も伝播しやすいことを念頭に置き、誠実に営業を行っていきましょう。

② 内覧会・見学会

 新規事業所の場合は開業前に内覧会を実施します。ケアマネが仕事の合間にちょこっと寄れるように平日1週間ぐらいの期間があると良いでしょう。また、地域とのイベントや家族会などでも見学できるようにしましょう。
その他、利用者との同伴見学は何時でも受けられるようにしなければなりません。

③ FAX営業

 同報FAXによる営業は、満員であったが、空きができたときは有効です。小規模な事業所は少しでも空きを埋めなければなりませんので、空きが出たら地域の営業先に同法FAXで「空き情報」を送ります。

④ ブログやSNSを活用した営業

 可能であれば、日々の活動をSNSやブログで配信します。これはケアマネへの営業としてだけでなく、ご利用者様のご家族様への安心感を醸成することにつながります。
毎日でなくても週に1度など、事業所の様子が分かるトピック的な記事でかまいません。

⑤ サービス提供票の配布時に毎月の報告

 毎月の報告は提供票と一緒に送るようにすると効率的です。余裕が無いときはファックスでも良いですが、最初は足を運んで配布する方がベターです。

⑥ カジュアルな勉強会をする

 介護に関する気軽な勉強会を開催して、新たなケアマネとつながります。例えば、外部から専門の講師を招き自デイサービスとかかわりの深い勉強会を実施します。
 例:ユマニチュード・音楽療法・コグニサイズ・要介護者の筋トレなど

 

9 加算の取得

 処遇改善加算や個別機能訓練加算などの各種加算は積極的に取得すべきです。
 利用者の自己負担額が高くなるために、遠慮してしまう事業者も多いようですが、前述通り、今後はケアプランの目標管理が厳しくなってきます。そうした時、ケアマネとしては少しでも成果が上げられる事業を使わざるを得ません。
 「成果が上げられる事業所=質の高いサービスを提供できる事業所」ですから、その意味で加算は一つの指標になります。
 事業所ごとのサービスの特徴に合った加算は必ず取得するように努力しましょう。

 

 

ケアマネ業務 改正により必要になった記録や書類

 

 今回の改正によりケアマネ業務にいくつかの変更点がありますが、具体的にどのような記録や書類が必要になるか整理してみました。実地指導などでチェックされる可能性がありますので早めに取り組んだ方が良いでしょう。

 特に追加業務が無いものは除外してあります。

 

平時からの医療機関との連携促進

 

【改正①】

 利用者が医療系サービスを希望している場合などは、利用者の同意を得て主治の医師等の意見を求める。また意見を求めた主治医等に対してケアプランを交付しなければならない。

 

【必要な作業】

 ①重要事項説明書の修正

 ②支援経過などに医師に意見を求めた記録、およびケアプランを交付した旨の記録

 

【改正②】

 訪問介護事業所等から利用者の口腔に関する問題や服薬状況、その他の状態について伝達を受け、主治医等に必要な情報伝達を行うこと。

 

【必要な作業】

 ①情報を得た旨の支援経過記録

 ②サービス担当者会議録などに、訪問介護事業所等にどのような情報が必要かを指示したという記録。

 

 

質の高いケアマネジメントの推進

 

【改正③】

 利用者や家族に対し、居宅サービス事業所について、複数の事業所の紹介を求めることが可能であることなどを説明すること。

 

【必要な作業】

 ①重要事項説明書の修正

 (注意!)この義務を怠ると、減算になります。必ず重説は修正しましょう

 

【改正④】

 利用者の意思に反して、集合住宅と同一敷地内等の居宅サービス事業所のみをケアプランに位置付けることは適切ではない。

 

【必要な作業】

 ①同一敷地内等の事業所のサービスを使う場合は、同意を得た旨の支援経過記録

 

 

障害福祉制度の相談支援専門員との密接な連携

 

【改正⑤】

 障害福祉サービスを利用する障害者が介護保険サービスを利用する場合、障害福祉制度の相談支援専門員と密接な連携に努める。

 

【必要な作業】

 ①相談支援専門員の情報把握(名前や所属・連絡先)

  ※相談支援専門員が関わっている場合は必須!

 ②情報共有など、連携して業務を行っていることがわかる支援経過記録

 

 

入院時情報連携加算の見直し

 

【改正⑥】

 入院中の利用者にサービスを開始する場合、利用者等に対して、担当ケアマネジャーの氏名等を入院先医療機関に提供するよう依頼すること。

 

【必要な作業】

 ①入院先医療機関に名刺などを渡して利用者に渡してもらう

 ②上記事実の支援経過記録

 

退院・退所後の在宅生活への移行に向けた医療機関等との連携促進

 

【改正⑦】

 

 ①退院・退所時におけるケアプランの初回作成の手間を明確に評価

 ②医療機関等との連携回数に応じた評価

 ③医療機関等におけるカンファレンスに参加した場合を上乗せで評価

 ④退院時の多職種からの情報収集を高く評価していく。

 

【必要な作業】

 ①上記の具体的な連携事実を支援経過に詳しく記録

  

 

 その他加算関係はそれぞれの要件の記録が必要になります。

 また、以下の事項や業務が追加されますが、それぞれ区市町村からの通知や指示を確認しましょう。

 ①生活援助中心型の訪問介護を多くケアプランに位置づける場合は、区市町村への届け出。施行は10月から。

 ②区市町村は必要に応じ、ケアマネジャーに利用者の自立支援・重度化防止や地域資源の有効活用等の観点から、サービス内容の是正を促す。

 

【参考】新しい「重要事項説明書」の例(東大阪市)

https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000009039.html

 

 

 

働きやすい地域職場としての介護・福祉事業所の在り方

 

地域の潜在的介護人材は子育て主婦や退職後の高齢者

 

 厚労省の受託事業として日本総合研究所は「介護人材の働き方の実態及び働き方の意向等に関する調査研究事業 報告書」公表しました。
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/detail/20180410_1_fukuda.pdf

 報告書では、介護人材確保の方策が様々に調査研究されていますが、興味深い調査として、潜在的介護人材(資格は持っているが介護現場で働いていない人)の属性調査があります。
 以下はその調査のポイントです。

【分析結果の概要】
◎ 潜在人材の現在の職業
「専業主婦(主夫)」が58.7%。次いでパート、アルバイトが多い。60 代以上は無職が多い。
◎潜在人材のうち、全体の 4 割前後は現在就業していない。女性や年齢が高い方が多い。また、今後の就業意向
全体の 4 割超は介護業界で働きたいという意向。
◎再就職の条件として希望していることとしては、
①「賃金水準を相場や業務負荷などからみて納得感のあるものとする」
②「子育ての場合でも安心して働ける環境(保育費補助や事業所内保 育所の設置等)を整備している」が上位。
◎特に30代女性では、
「子育ての場合でも 安心して働ける環境(保育費補助や事業所内保育所の設置等)を整備している」(52.5%)
「時短勤務な ど、職員の勤務時間帯や時間数等の求職者の希望を反映できる制度を導入する」(43.2%)が大きくなっている。
 一方で、法人内での配置転換等についてはあまり効果があるとは考えていない傾向がみられる。

 この調査の結果を見れば、地域に多くの潜在的な介護人材が存在することがわかります。
 その多くが専業主婦や高齢者であり、おそらくは正社員での就業を望んでいる人ではなく、自分の家庭や生活を優先し、余った時間で働ければ良いなと考えている人たちであるということが言えるでしょう。
 こうした潜在的な人材を掘り起こしていくことが、人材確保の上でも非常に重要な戦略になると考えます。

 

潜在的介護人材をパートスタッフに

 介護事業所を経営するには、パートスタッフの活用が非常に重要になります。
 やはり、正社員だけで人員を確保するにはコストがかかりますし、社員のキャリアパスなどを考慮した場合、沢山の正社員を抱えることはあまりメリットがありません。
 特に訪問介護の場合は、パートスタッフを増やせば増やすほど、収益が向上する仕組みになっており、管理者やサ責以外はパートスタッフで運用するのが最も効率的な経営となります。

 上述の調査では、専業主婦の多くが子育てのための離職を余儀なくされている状況が見えます。子育てと仕事を両立できればそれを望んでいることもうかがえます。
 しかし、日本の保育システムでは子供に病気などの異常が出た場合は、家庭がフォローすることが求められ、急に仕事を休まなくてはならない状況に追い込まれやすくなっています。そのため子育てのある主婦の場合、恒常的な仕事に就きにくく、地域の労働力として活用できなくなっているのです。

 

潜在的な介護人材が働きやすい職場づくり

 こうした子育て主婦が働きやすい職場とは、急な休みにも嫌な顔せず対応していくれる職場であると考えます。
 介護事業所はある程度余裕のあるスタッフ体制を敷けば、このような対応が可能です。
 訪問介護でもサ責なりが通常事業所に待機している状態であれば、急に穴が開いても対応は可能です。こうした受け皿をしっかり整備するかしないかで、働きやすさが全然違ってきます。
 パートスタッフを充実させるためにも経営者はそうした体制作りを心掛けるべきでしょう。また、パート求人を出す場合はそうしたフォロー体制の整備と子育て主婦にとって働きやすい職場環境であることを積極的にアピールすることが重要です。

 高齢者の場合は、介護の仕事に対するなじみのなさや、大変なのではないかという先入観が就業の壁になっているかもしれません。
 自分の親の介護経験がある方などは意外とすんなりと介護現場で働いているように感じます。東京都でも職場体験と資格取得をセットにした無料の人材確保事業を行っていますが、そうした職場体験の仕組みがもうすこし身近にあると良いと感じます。
 高齢者のパートスタッフ求人する場合は「高齢者歓迎」や「気軽に職場体験できます」などのメッセージを強調しましょう。

 専業主婦や退職後の高齢者は、自分の生活を優先できる働きやすい職場を地域に求ています。特に子育て主婦は子供の手が離れれば正社員として長く働きたいという希望を持っている方も多いでしょう。介護事業所はそうした地域の人たちの職場として機能する意識で事業所経営をしなければなりません。

関連記事:「訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術」

 

 

財務省は小規模な介護サービス事業者を失くしたいのか?

 

 4月11日、財務省の財政制度等審議会分科会は「介護事業所・施設の経営の効率化について」として、以下の提言を行いました。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia300411.html

 

【改⾰の⽅向性】(案)

○ 介護サービス事業者の経営の効率化・安定化と、今後も担い⼿が減少していく中、⼈材の確保・有効活⽤やキャリアパスの形成によるサービスの質の向上などの観点から、介護サービスの経営主体の統合・再編等を促すための施策を講じていくべき。

 

 分科会はこの提言の根拠として、介護サービス事業者の現況について以下のような見解を示しています

 

【論点】

〇 介護サービス事業者の事業所別の規模と経営状況との関係を⾒ると、規模が⼤きいほど経費の効率化余地などが⾼いことから経営状況も良好なことが伺える。

 ⼀部の営利企業においては経営主体の合併等により規模拡⼤は図られている。営利企業とその他の経営主体では同列ではない部分もあるが、介護サービス事業全体で⾒た場合、介護サービスの経営主体は⼩規模な法⼈が多いことが伺える。

 

 さらに、分科会ではこうした論拠の裏付けとして以下のようなデータを示しています。

 

①わが国の介護サービス事業所の7割が100人未満の法人による経営である。

②通所介護と訪問介護では利用者数を多く抱える事業所の方が収益率が良い。

③民間16社(説明はないがおそらく大規模法人と思われる)利益率は5.9%であり、介護事業者全体は3.3%となっている。

 

 

自治体に事業者の経営改善をさせる

 

 分科会は大規模化の参考例やメリットとして以下のような例を挙げています。

 

○介護サービス等の事業を⾏う複数の法⼈が、⼈材育成・採⽤などの本部機能を統合・法⼈化することで、ケアの品質の底上げや研修・ 採⽤活動のコスト減を図るなどの取組も存在。

○介護サービスの経営主体の⼤規模化については、

①こうした介護サービス事業の⼈事や経営管理の統合・連携事業を⾃治体が⽬標を定 めるなどして進めることのほか、

②⼀定の経営規模を有する経営主体の経営状況を介護報酬などの施策の決定にあたって勘案することで経営主体⾃体の合併・再編を促す、といった施策が考えられる。また、

③経営主体について⼀定の経営規模を有することや、⼩規模法⼈については⼈事や経営管理等の統合・連携事業への参加を指定・更新の要件とする、といったことも考えられる。

 

 確かに、介護事業を公営事業と考えれば、昔の国鉄や電電公社、郵便事業が民営化したようように大規模民営も考えられます。

 例えば東日本介護サービスのように地域ごとに大規模法人化し、統括的な経営管理の下に事業を行えば、経営のコントロールもやりやすいし、働く人たちの処遇も改善されることが想定できます。

 JRNTTが一流企業であるように、介護事業で働く人たちは一流企業の社員として安定的な収入を得ることも可能かもしれません。

 

 しかし、現状の介護保険制度では保険者が区市町村である以上、このような統合は不可能であり(できても区市町村内の統合)、行政改革の流れからもバカげたことであるとみなされ、現実的ではありません。

 

 分科会でも都道府県、区市町村内の事業所の統合や業務の連携を想定しており、全国規模の統合という視点はありません。

 ただし、統合や業務連携などによる経営効率化に対するインセンティブ(動機付け)は考えており、地域内法人の経営改善目標を設定するなどして自治体に対するインセンティブを想定しています。

 

 

小規模法人すべてが経営状況が悪いわけでは無い

 

 そもそも、分科会で上げている、「小規模法人は収益率が悪い」という論拠は正当なのでしょうか?

 上にあげたデータだけでは論拠としては弱いような気がします。少なくともすべての小規模事業所に当てはまるわけでは無く、「小規模法人の中には経営状況が悪い法人もある」と言えるだけでしょう。

 

 結局、財務省が目指しているのは、介護事業所の経営状況を良くして、収益率が上がった分の介護報酬を減らしたいだけです。しかし、筆者としては収益率が上がった分は、従業員に対する処遇改善に回すべきであり、財政負担の改善に利用するべきでないと考えます。

 

 筆者としては、今回の提言の本質的なゴールは経営状況の良くない小規模法人の経営改善であると考えます。

 つまり中小企業対策であり、厚労省の課題というよりも、通産省の課題でしょう。

 日本の企業の9割が中小企業であると言われます。特別な技術や商品を持っている企業は買収されますが、収益率の悪い企業でも統合されることはなく、廃業するか細々と経営を続けているだけです。

 

 介護事業だけ国策として事業を統合しようとするのは少し横暴な気がします。そして、統合や業務連携という発想だけでは経営改善にはならないでしょう。

 

 しかし、都道府県などに地域内の小規模介護事業法人の経営改善対策をさせることは必要でしょう。

 製造業などとは別のスキームで介護医療法人向けの特別なプログラムを考えていくことは良いことだと考えます。

 例えば指定更新時、決算書を提出させ、経営状況の悪い法人は中小企業診断士などの経営指導を受けなければ、指定更新ができないなどのプログラムは考えられます。

 

 小規模事業者の中には経営に疎く、ボランティア的に事業を営んでいる方も多いため、財務省としてもこのような提言が必要なのでしょう。

 もちろんCareBizSupもそのような事業者を支援するために、サービスを提供しているわけですが。

 

 

 

 

 

自治体の介護職員確保事業に積極参加でスタッフ確保

 

スタッフ確保が事業の発展を支える

 

 筆者がお世話になっている荒川区にある有限会社ケア・プランニングは、居宅介護支援事業所を始め、訪問介護・福祉用具・通所介護・小規模多機能居宅介護・介護職員初任者研修・実務者研修・障害者就労移行支援事業所など、地域に密着した介護福祉サービスを拠点的に展開しています。

http://www.best-kaigo.com/

 平成15年に開業して以来、着実に事業を拡大し、現在従業員は60名を超える規模に成長しました。荒川区内では利用者数・従業員数併せて、営利企業では最大規模の企業に成長しています。

 こうした成長を支えたのは、確実にスタッフを確保していけたからだと考えます。

 事業を拡大するためには人材の確保が大切であり、介護需要が伸び続ける現況では人員を確実に確保し、地域ニーズに応じた事業を適切に展開できれば、着実に事業は発展します。

 ケア・プランニングでは人材確保の方策として、自治体の事業に積極的に参加していく戦略をとりました。

 具体的には東京都の介護職員確保の事業に参加して、職員確保を行っていきました。

 

 

東京都の介護職員確保事業

 

 東京都では平成20年ごろより介護職員確保のための事業を展開してきました。

 介護保険制度が始まって以降、ITバブルによる好景気で介護人材の確保が難しくなり、リーマンショックまでは介護人材不足が困難を極めました。

 そして、昨今の人材不足により再び介護人材の確保は難しくなっています。

 東京都は他の自治体に比べ財政に余裕があるため、介護人材確保に対する手厚い助成が可能になっています。

 しかし一方で、地方の自治体に比べ、介護職の職業としての人気が低く、人材確保が難しい状況があります。東京には大企業が沢山あり、収入や処遇面で優位な就職口が多いために、介護職は人気が無く、人材の確保は地方に比べ難しくなっています。

 

 東京都では現在、東京都福祉協議会を通じて以下の介護人材確保事業を実施しています。

 https://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html#shikaku

 特に「介護就業促進事業」は、求職者に最大6か月間、介護職としてトライアル的に働いてもらう事業です。

 その間の給与や求人経費、研修費、指導育成費を事業者に補助する事業です。

 都による大規模な宣伝効果。行政事業としての安心感などもあり、参加する求職者も多くなっています。

 もちろん受託事業者自身も求人広告などの努力が必要ですが経費は助成されますし、紹介料は経費になりませんが人材紹介も利用が可能です。

 

 事業委託費は本年度で一人当たり最大(6か月)1,980,000円(税別)です。その中から給与や必要経費を支出します。この中には指導経費として指導する既存の職員の給与も一部助成されるため、事業収益にも貢献します。

 公募は1事業所あたり3名までです。本事業以外の採用活動で応募してきた求職者でも事業期間中であれば、この事業に参加できます。

 また、今年から短時間勤務のパート職員も対象になりました。

 しかしながら、本事業は正社員の採用に効果を発揮します。ハローワークなどでも介護職を目指す求職者にこの事業を積極的に紹介しているため、正社員希望者が積極的に応募しくる傾向があります。

 

 ケア・プランニングでは毎年この事業に参加しており、昨年は9名の事業参加者を採用し、事業終了後も4名の常勤雇用に繋げています。

 ともかく、人材確保の経費がほとんどかからず、最初の6か月間は人件費がいらないわけですから、経営的に見ても非常に助かる事業であると考えます。

 

他府県でも同様の事業を実施しています

 

 他府県でも経費は少ないながら同様の事業を実施しています。

 先述のとおり行政事業としての安心から求職者が応募しやすくなっています。

 

 こうした事業は概ね年に1回の公募ですから、その時期を逃さないようにしなければなりません。

 前年度の公募スケジュールを参考にしながら対応するようにします。

 公募資格は概ね1年以上事業を継続していれば赤字の事業所でも参加できます。小さな事業所でも応募できますので検討してみる価値はあります。

 

 事業に参加するためには公募書類を作成しなければなりません。

 CareBizSupportではこうした公募書類の作成支援も提供していますので、お気軽にご相談ください。

 

 また、区市町村でも研修経費の助成や人材確保の事業を行っている場合があります。

 ご相談いただければ地元の自治体がどのような事業を実施しているか調べることは可能です。

 

 

訪問介護事業 起業の手引き 6

 

18 介護ソフトについて

 介護ソフトは多種多様なものがあります。
 最低限の機能としては、国保連に請求データを伝送できれば良いのですが、業務の効率性や、書類整備の観点からできるだけIT機能を活用したいものです。
 
 運営基準に則った書類を整備するためにも、IT危機は活用できます。
 以下の書類がソフトで作成できるものが良いかもしれません。
 ①アセスメント
 ②訪問介護計画書
 ③サービス提供の記録書
 ④モニタリング
 ⑤ご利用者請求書
 ⑥同領収書

 などです。

 今はまだ紙ベースでもらっているケアプランも電子データに移行していくと考えられますから、開業当初から介護ソフトを活用したほうが良いと思いますが、ITに強くない人にはなかなかとっつきにくいかもしれません。

 介護ソフト業者側でもそのことは分かっていて、ITに強くない経営者向けに訪問して使い方を教えるサービスや、電話やメールなどでサポートも充実させてきています。

 IT関係の能力はとにかく使わないと身につけることはできません。
 開業当初は利用者も少なく、ソフトの操作に割く時間も取れるでしょうから、できるだけ最初から積極的に導入していくことをお勧めします。
 
 IT機能のポイントしてタブレットやスマホを利用したモバイル機能があります。
 訪問先のお宅で様々な情報をモバイル端末に取り込んで、先に上げた書類が作成できる機能です。

 訪問介護員一人に一端末必要になりますのでコストもかかってきますが、事務所で書類を作成する事務作業を考えると、結果的に時間の節約となり、事務コストの低減につながります。

 厚生労働省でも介護事業所の事務作業の低減を図ることを目指しており、流れは完全にIT化の方向に向かっていますから、これに乗り遅れると将来的に事業の成長に支障をきたす可能性があります。

 経営者がITに弱いとスタッフに教えることもできませんから、常勤職員の一人は介護スフとの使い方をマスターしなければなりません。

 

19 おすすめ介護ソフト

 お勧めの介護ソフトを聞かれることが多いのですが、介護ソフトは日々バージョンアップしておりどれがベストかをお勧めすることが難しい状況です。

 使ってみないとわからないこともありますので、周りの介護関係者に聞いてみるのも一つの手ですが、その人たちも他社と比較しているわけでは無いので、信頼できる情報とは言いにくいでしょう。

 国保連への伝送の他、基本機能として以下のものが使えるソフトが良いと思います。

 ①モバイル端末が使える
 ②上述の書類が作成できる
 ③パートヘルパーの給与管理ができる
 ④障害者居宅サービスに対応している
 ⑤居宅支援や他の介護事業にも広く対応している

 比較サイトがありますので、開業を決めた段階で資料請求して、比較検討することをお勧めします。
 また、サポート体制が地域によって変わります。開業地により訪問サポートがしてもらえない場合もありますから、チェックが必要です。
【介護ソフト比較サイト】
 http://www.kaigosoftnavi.com/

 パッケージ型とクラウド・ASP型がありますが、クラウド・ASP型の方が初期費用を安く抑えられます。
 ただし、利用者が増えると値段が高くなりますので、利用者40名程度の場合の利用料を比較してみましょう。
 最初から利用者が沢山想定される場合(老人ホームや老健など)はパッケージ型の方が安い場合があります。

 介護ソフトを切り替えることは利用者数が少ないときは比較的簡単ですが、利用者数が増えるとデータの移行作業が大変になりますので、開業当初はクラウド・ASP型を利用して利用者数が増えていく段階で、他のものに切り替えても良いでしょう。

 

20 IT導入補助金

 介護ソフトの導入の際、モバイル機器の活用など一定の基準を満たすと、助成金が受けられる制度があります。
https://www.it-hojo.jp/

 介護ソフト業者側でこの助成金を申請してくれる場合があります。
 もし、助成金が活用できるようでしたら利用したほうが良いですが、申請時期が短いのでタイミングが合う必要があります。

 

21 利用料金の徴収

 ご利用者から自己負担分の利用料金を徴収する必要があります。
 開業当初は現金で集金していても良いでしょうが、利用者数が増えると業務負担が増えていきます。

 また、パートスタッフなどに集金を任せると、トラブルが発生する場合がありますのであまり好ましくありません。
(認知症のご利用者から不正に集金して着服している従業員が逮捕されたりしています)

 早い時期に、公共料金の口座振替(自動引き落とし)と同じような、口座振替サービスを利用したほうが良いと考えます。こちらも手数料などを比較してみてください。

 【口座振替サービス比較】
 https://kessaiservice-hikaku.com/

 なお、上記の比較サイトにはありませんが、ゆうちょ銀行専用の自動払込サービスが比較的安く利用できます。ただし、ご利用者がゆうちょ銀行に口座を持っていないとなりません。

 

この項終わり

訪問介護事業 起業の手引き 5

 

15 処遇改善加算の算定

 処遇改善加算は開業当初から取得することができます。
 会社を設立すると同時に、就業規則と賃金規定などのキャリアパス要件を整備すれば、処遇改善加算Ⅰを取得することが可能です。
 申請のためのマニュアル本も出ていますので、参考にすると良いでしょう。
https://www.amazon.co.jp//dp/4539725424/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1518746828&sr=1-1」

 簡単に加算を取得するためのポイントを説明します。

①就業規則を作成する
 就業規則は自分でも作成できますし、社労士に頼めば作ってくれます。
 常勤職員の少ない当初は労基法に則った標準的なもので良いでしょう。
 厚生労働省でもモデル就業規則を提供していますので。これをそのまま使っても良いでしょう。
www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

 ただし、従業員が10名以上になると就業規則を労働基準監督署へ提出しなければなりません。その際は社労士に相談してください。

②キャリアパス要件に則した賃金規定を作成する
 詳しくはマニュアルなどで確認していただきたいのですが、簡単に言うと、勤務年数や資格の取得により、出世し給料が上がる仕組みを作ることです。
 パート職員でも、資格により手当を付けたり、勤務年数により時給が上がる仕組みを作る必要があります。
 そうした、昇格・昇給のルールを整備した賃金規定と昇格の基準=一般的には「職務評価の基準」を整備しなければなりません。

③資質の向上の計画
 簡単に言うと研修計画プラス評価の仕組みです。
 職員一人一人に職務に関する目標を設定し、その目標を達成するための研修計画を立てることが必要になります。
 たとえば、ある職員に「移動移乗の介助が不安なく安全にできるようになる」という目標を立てたとします。
 するとそれを達成するための具体的な研修計画を作成します。研修については社内研修でも構いません。そして、研修終了後に、管理者などが目標を達成できたかを評価します。
 この一連の流れが分かる書類が必要になります。
 具体的には、各職員A4一枚で目標と研修計画、評価が記入できるシートを作ります。

 なお、処遇改善加算の算定要件を整備するための助成金がありますので社労士にご相談ください。

 

16 特定事業所加算の算定

 特定事業所加算は開業後3か月程度で要件が揃えば算定できます。
 上述の処遇改善加算と要件がかぶる部分がありますので、両方取得することをお勧めします。
 特定事業所加算Ⅰは重度のご利用者が多くいなければ取得できないので、なかなか難しいのですが、Ⅱであれば介護福祉士が一定の割合在籍することで要件が満たせます。

 また、毎月、スタッフ会議を開かなければならないのですが、これは処遇改善加算の社内研修と組み合わせることで、効率的に実施できます。

 特定事業所加算を取得し、しっかりとその要件を維持していくことは、スタッフの定着に繋がります。
 スタッフ(特にパートスタッフ)にとっては毎月ミーティングがあり、研修がしっかりしている事業所の方が安心して働けるのです。
 もちろん、会議手当や研修手当を支給する必要がありますが、求人費にお金をかけるよりも、スタッフの定着にお金をかけた方が賢明です。
 スタッフの定着率の高い事業所は地域からも信頼され、差別化が難しい介護事業であっても差別化が可能になり、事業の拡大がしやすいでしょう。

 

17営業について

 指定申請の書類を受理されれば、もう営業を開始して良いと思います。
 指定番号が無いので若干やりにくい部分もあるのですが、手作りで良いので簡単なチラシやパンフレットを作り、新事業所のオープンを地域にアナウンスしましょう。

 営業先としては以下のとおりです。
 ①地域包括支援センター
 ②居宅介護支援事業所
 ③障害者相談支援事業所
 ④病院(メディカルソーシャルワーカーへ案内)
 ⑤その他社会福祉協議会や障害者支援センターなど

 また、区市町村の所管セクションへ出向き挨拶するとともに、地域の介護事業所の集まる会や組織などがあれば事務局を紹介してもらいましょう。
 こうした横のつながりを持つことは重要です。場合によっては人手不足で利用者の対応が困難になっている事業所から、ご利用者を消化してもらえる場合があります。

 障害者の居宅サービスなどではサービス供給が追い付いていない場合がありますので、かならず区市町村などの所管セクションへ出向いて状況を聞く必要があります。

 利用者獲得は上質なサービス提供と、ケアマネ等へのきめ細かい連絡調整しかありませんので、サービス提供責任者の力量が試される部分でもあります。

 そのためにも、サービス提供責任者は開業当初からあまりサービスに出ない体制を作りたいものです。サ責が出ずっぱりで連絡が取れないような状況は好ましくありません。
 収益的にも訪問サービスはパート職員に任せて、サ責はスタッフ指導と各方面への連絡調整に傾注することがよいと言えます。

 

続く