訪問介護事業所の障害者福祉サービスへの参入 メリットとノウハウ その1

在宅障害者福祉サービスにビジネスチャンス

 

 近年、障害者福祉に関する法整備が進み、それまで家族や医療・公的機関だのみだった障害者介護で、民間サービスが広く利用できるようになりました。

 これまでは一生病院や施設暮らしであった重度の障害者の方でも、在宅サービスを受けながら、家族と生活できるようになるなど、積極的な利用が広がりつつあります。

 そうしたなか、これをビジネスチャンスとして、事業を拡大している民間企業も多く表れてきており、先にご紹介した製造業から参入して3年足らずで月商300万円を超える売り上げを上げている、サンシャインヘルパーセンターも業務の半分が障害者サービスとなっています。障害者サービスが事業成長をけん引してきたと言っても過言ではないでしょう。

 ここでは、従来の高齢者向け訪問介護事業所が訪問系障害福祉サービスに参入するメリットやノウハウについご紹介したいと思います。

 

 

訪問介護と訪問系障害福祉サービスの兼業

 

 指定訪問介護事業所は同時に訪問系の障害者福祉サービスの事業指定も申請できます。

 居宅介護(障害者訪問介護)・重度訪問介護は特に研修などは必要なく、訪問介護事業所の人的資源をそのまま利用して、事業を行うことが可能であり、高齢者とは別の収益源として期待できます。事業所によっては高齢者よりも障害者サービスのウェートが大きくなっている事業所もあります。

 居宅介護、重度訪問介護の他にも視覚障害者のガイドヘルパーである同行援護や知的障害者(児)の行動援護も開業可能ですが、同行援護は、今後、同行援護従業者養成研修を修了することが要件になります。また、行動援護は知的障害者(児)の実務経験が必要になりますので、高齢者の訪問介護事業指定基準をクリアしただけでは開業はできません。

 また、自治体によっては障害児向けの通学支援などの移動支援サービスを独自に導入している場合があり、このサービスを受託することは概ね可能であると考えます(自治体により要件が異なる場合あり)。

 

 

新規立ち上げの事業所にはメリット大

 

 すでに訪問介護事業を開業されている経営者の中には「人手不足で高齢者の訪問介護だけで手一杯。とても障害者の対応までするのはムリ!」という事業者もいらっしゃるかもしれません。しかし、新規に訪問介護事業所を開業する場合は、障害福祉サービスも同時に開業することは大きなメリットがあります。

 現状、訪問系の障害福祉サービスでは、開業当初の利用者が少ない時期に、比較的容易に仕事の依頼が来る可能性が大きく、場合によっては長時間などボリュームの大きなサービス依頼が来ることもあり、経営上非常に助かる部分があります。

 というのも、訪問系の障害福祉サービスは「毎日」や「1日6時間」など一人の利用者に対してのサービスボリュームが大きいケースがあり、特に重度訪問では複数のサービス事業所が共同でサービス提供しているケースもあり、場合によっては事業者足りない状況もあるからです。ただし、長時間サービスでは多少時間単価は低くなります。また、高齢者と同様、最初は困難ケースが回ってくることも多いでしょう。

 一方で、若年の障害者も多いですから、一度サービスに入ると、固定利用者として長い間サービスが継続することもあります。

 

 

障害福祉サービスは今後も拡大が予想されます

 

 実は、我が国の障害福祉サービスはまだまだ不十分であり、社会保障給付の額でもヨーロッパなどの福祉先進国からはかなり後れを取っている状況です。日本では、長い間、障害者支援の主体は家族や行政が中心であり、民間などの外部サービスを利用した広い支援体制がなかなか整わない状況が続いていました。欧米ではノーマライゼーションの考え方が浸透しており、障害により障害者が不利益を被ることは、社会システムに問題があり、障害者は外部サービスを積極的に活用して、自立した生活をする権利があるとされています。

 日本は2014年に「障害者の権利に関する条約」を批准し、制度面でやっと国際標準に到達したといえる状況です。今後、障害福祉サービスのさらなる充実を図ることが国策となっていると考えます。

 

障害福祉サービスの増加率

 

 国民保健団体連合会のデータから、ここ4年のサービスの伸びを見てみましょう。

 訪問系サービスを含めて少しずつ利用が増えています。特に障害児の利用の伸びは非常に大きくなっています。

 こうしたサービス利用の拡大は、国の法律が変わり、今まで障害者ではなかった新たな障害者が増加したり、病院や施設から在宅生活へのシフト、また、今まで外部サービスを利用してこなかった障害者が積極的にサービスを利用し始めたことが要因だと考えます。

 特に障害児を持つ家庭では、家族が直接支援していた状況から、一気に外部サービスを使い始めたという感があり、大変大きな伸びになっています。もちろん、訪問介護事業所の提供する障害福祉サービスでも障害児へのサービスは可能です。

 また、福祉先進国ではそもそもの障害認定の方法が異なり、日本では障害者とみなされない人も多くが障害者としてサービスを受けられる環境があります。(※1)日本でも前述の北欧並みにノーマライゼーションの考え方が浸透すれば、サービスの利用はさらに増えると考えます。

 

≪参考資料≫

http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18879202.pdf

※1:国際比較からみた日本の障害者政策の位置づけ −−国際比較研究と費用統計比較からの考察−− 勝 又 幸 子(国立社会保障・人口問題研究所)

 

 

次回は具体的に訪問介護事業所が障害者福祉サービスに参入する際のノウハウについてご説明したいと思います。

 

 

 

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