介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その4

 

 

 今回は、地域密着型サービスへの参入についてご説明します。

 

 

地域密着型はその区市町村の住民のための施設

 

 これまでご紹介してきた居宅サービスは、都道府県が事業指定し、利用者がどの区市町村(他の都道府県でも)に住んでいても利用ができる、サービスでした。

 これから紹介するのは、区市町村が事業指定し、原則、その区市町村の住民のみが利用するサービスです。

 

 

日本の介護保険サービスは区市町村の責任で提供する

 

 わが国の介護保険サービスは、基本的に各区市町村が地域住民の介護福祉に対して、行政責任を持つ形で設計されています。

 国民の老後のケアはそれぞれの人が住む、区市町村の責任で行うということです。

 従って、各住民の介護保険の管理も区市町村が行っており、いわゆる保険者という立場で介護事業を実施しています。

 

 

国は各区市町村の介護サービスを競争させている

 

 住民の健康や介護は区市町村の責任で管理していくのが基本原則ですが、国はこうした区市町村の取り組みを評価し、どの区市町村が良くやっているかを評価しています。

 本番の評価システムはこれから構築され予定ですが、評価自体は介護保険がスタートしたころより行っています。

 この、自治体は介護度の悪化が酷い、とか、この自治体は介護予防を頑張っているな、というような評価です。

 

 

地域密着型サービスの中心は介護予防

 

 各区市町村は国がいつでもチェックしているというプレッシャーを受けながら、事業を運営しています。

 そのため、現状、地域密着型サービスの中心は、住民を要介護にしない介護予防になってきます。

 たとえば住民の健康管理や、要介護状態のチェック、運動教室などがそうした事業です。

 しかし、この分野は、行政の責任で行っている場合が多く、一般的な介護事業所ではあまり参入する余地がありません。

 要支援(介護予防)のサービスについても、地域包括支援センターが指揮を取り住民の状態悪化防止に取り組んでいます。

 この、地域包括支援センターの運営も、社会福祉法人など専門組織の仕事になっています。

 

 

一般企業は補助金の出る事業に参入する

 

 これまでの居宅サービスとは異なり、地域密着型サービスの一部では施設建築費などの補助金交付出る事業があります。

 特に、グループホームや小規模多機能居宅介護事業所は、介護事業の経験が少ない企業でも比較的参入しやすい事業でしょう。

 土地を確保すれば、建物建築費の8~9割は補助金で賄えるようになっています。

 地域で小さく開業した介護サービス業でも、この補助金を活用することで、事業拡大を目指すことができるでしょう。

 

 

地域密着型サービスは公募制

 

 ただし、こうした事業を行うためには、区市町村の公募に参加し、コンペで採択されなければならないというハードルがあります。

 コンペで競合が居なければ良いのですが、多くの場合は複数の事業者がコンペに参加してきます。

 一部、都心などで土地が確保しにくい地域では、公募参加者がいないケースもあるようですが、土地が確保しやすい地域では必ず競争になると思います。

 

 

どのような企業が採択されるのか

 

 地域密着型がスタートした頃(10年ほど前)は、大手の介護事業者が採択されるケースが多かったと思います。

 これは、各区市町村にとっても初めて地域密着型サービスを設置するわけですから、できるだけ実績のある、大企業にお願いしたほうが安心であるという考えが働いていたからでしょう。

 

 しかし、一度大手がその地域に参入すると、その大手企業は二つ目の参入は難しいようです、時が経つにつれ、中小企業も公募で採択されるようになっています。

 

 ただし、それでも、介護事業の経営経験がある程度あったほうが有利ではあります。

 医療法人などであれば、その経験でも参入できるかもしれませんが、全くの別種事業者の場合は、なかなか難しいかもしれません。

 

 

公募で採択されるには

 

 地域密着型サービスに参入するには、他の介護サービス事業を数年経験し、安定した経営ができるようになってからの方が良いでしょう。

 行政は地元で地道に優良な事業を運営している企業を評価しやすいと考えます。

 さらに、母体となる企業(別種事業でも)がその地域で長く経営している場合は、そうした地元への貢献度も評価の対象となります。

 グループホームや小規模多機能居宅介護などのサービスは、一つの企業が各地にチェーン展開している場合も多く、行政としても同種事業を広く展開している経験を買う場合もあります。

 しかし、すでにそのような種類の企業が同地域に開業している場合は、経験は浅くても地元密着型の企業の方を評価することも十分あり得ます。

 

 

地域密着型サービスは介護事業参入の第2ステップ

 

 これまで述べてきたように、訪問介護などで介護事業に参入したのであれば、地域密着型サービスへの参入は事業拡大の第2ステップと考えるべきでしょう。

 地域密着型サービスに参入することで、すでに実施している介護事業にも相乗効果があると考えます。

 

 なお、地域密着型通所介護事業には補助金は出ません。この事業に参入する場合は地域ニーズをしっかり見据え、慎重に取り組むべきであると考えます。

 

 

 次回は、施設サービスについて説明したいと思います。

 

 

地域密着型サービス(GH・小多機能)への参入

 

 

第7期介護保険事業(支援)計画に向けて

 

 全国の自治体で地域の第7期介護保険事業(支援)計画の検討が佳境に入っています。

 平成30年春には全国で、向こう3年間の地域の介護事業計画が発表されます。

 各事業者様においては地域自治体が年内にも公表するパブリックコメントなどを通してその内容を確認していただけますようお勧めいたします。

 

 

向こう3年間の地域密着型サービスの計画が発表されます

 

 第7期介護保険事業(支援)計画で注目したいのは地域密着型サービスの整備計画です。

 特に事業を拡大したい事業者様においては特に注目していただきたいポイントです。

 もしも平成30年度の公募に参加したいということであれば、今から準備をされる必要があると思います。

 

 

地域密着サービスの整備が進んでいない

 

 在宅ケアの拠点となる地域密着型サービスのグループホームや小規模多機能居宅介護事業所などは思ったように建設が進でいない地域があるようです。

 このままでは2025年の必要数を満たさないばかりか、在宅ケアそのもに重大な影響をもたらす可能性があります。

 こうした地域密着型の施設が増えない結果として見えるのは「無届ハウス」など不適切な介護施設の増加です。

 特に低所得者層の高齢者は劣悪な環境で介護を受けなければならない状況が懸念されます。

http://www.koujuuzai.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/05/h28_jigyo3.pdf

 

 

東京都のマッチング事業

 

 要介護度が高くても在宅でケアを実現していくためには、ケアマネージャーなど関係者の能力も重要ですが、必要に応じて柔軟に利用できる施設等社会資源が地域に整備されていなければなりません。

 

 この状況を打開するために、東京都はグループホーム用地のオーナーと事業運営者のマッチング事業を開始しました。

http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/06/13/07.html

 小規模多機能にも欲しいマッチング事業ですが、とりあえずグループホームだけのようです。

 グループホームも小規模多機能も介護事業として補助金等のスキームは同じなので、これがうまくいけば、小規模多機能や他の施設系地域密着型サービスにも波及するかもしれません。

 

 

不動産投資としての地域密着型サービスのメリット

 

 都の事業の仕組みは、土地所有者とグループホームを運営する事業者を引き合わせる仕組みになります。

 

 人口減少や都内でも空き家の増加などが進み、未利用地が増えていく傾向にあります。

 しかし、マンションなど収益性の高い不動産投資にはそれなりの広さの土地が必要になりますから、中途半端な広さの土地の場合はなかなか利用方向が定まらないことが多いようです。

 結果、駐車場やアパートなどの不動産投資に向けられる場合も多く、アパート経営投資のCMが盛んに宣伝されています。

 

 100坪程度の土地がある場合、アパート経営がまず最初に思いつくかもしれません。

 しかし、グループホームや小規模もその程度の土地で十分に建設が可能であり、しかも建設費の多くを公的補助金で賄うことが可能です。

 不動産投資としては断然、こちらの方がお得であることは間違え無いでしょう。

 

 しかし、土地オーナーにとって、アパート経営であれば、不動産業者や建設業者に丸投げできますが、介護施設の建設には誰に頼めばよいのかわかりません。得だとわかっていてもなかなか手を出せないのが本音だとは思います。

 

 また、アパート経営関係の営業は積極的で、オーナー側への売り込みも激しく、そちらに流れてしまう傾向は否めません。

 

 

運営業者も人手不足で積極的になれない

 

 介護事業者にとっても運営を請け負うためにはスタッフを揃えなければなりませんから、現在の人材不足の状況下では、請け負っても人を揃えられない恐れがあるために、やりたくても安易に手を出せない状況があるでしょう。

 

 アパート経営の場合、入居者が入らずに収益が上がらなくても、基本的に建築業者等が不利益を請け負うことはありません。立ててしまえばそれで収益になるわけですから、営業も積極的になるわけです。

 

 その点、グループホームなどは入居者がいなければ不利益は運営事業者が負うことになります。まして必要な人員が揃えられなければ、開業すらできないのです。そうしたデメリットがあるために手を挙げない運営業者も多いのでしょう。

 

 

公募では地域密着の地元の事業者が優先される傾向も

 

 第7期の計画が発表されれば資金力のある大手介護事業者がこぞって公募に参加するでしょう。大手はスケールメリットにより人材不足でもなんとか人を揃えられる力があります。

 ただし、既に大手が開業している地域では、同じ事業者が参入することは無いようです。公募の選定でも地元の事業者が優先される傾向はあるようです。

 

 地域に根差して介護事業を営んできた中小事業者にとっては事業を拡大するチャンスです。100坪ほどの土地が借りられれば事業化できます。初期費用の融資は必要になりますが、公募に選定されれば地元の金融機関は融資してくれるでしょう。開業すれば補助金が出ますので返済はそれで可能です。

 

 実は、人員については、もし開業時に揃えられなければ、開業日が遅れるだけのことです。グループホームの場合、1ユニットだけ開業というケースもあります。

 

 もし興味があれば、今すぐにでも地域自治体の担当課に相談されることをお勧めします。