混合介護はなぜ導入されるのか

 

 

 東京都豊島区は、介護保険と保険外サービスを組み合わせる「混合介護」のモデル事業を来年度から始めると発表しました。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDE08H02_Y7A200C1PP8000/

 これは、国家戦略特区の制度を活用し実施するもので、介護保険サービスと保険外サービスを一体的に提供する取り組みです。

 

 現在でも訪問介護や訪問看護では自費サービスと保険サービスを組み合わせて提供することができます。混合介護はこれと何がどのように変わるのでしょうか?

 

 今でも、身体介護を30分利用した後に、本来はできない庭の掃除を15分だけしてもらうとか、家族の食事も準備してもらうなどの自費サービスの組み合わせは可能です。

 筆者の経験したケースでは、介入時、ごみ屋敷状態で、その片づけを自費でしたりする場合もありました。

 

 ただ、多くが一時的なサービス提供で、継続的なものは少ないといえるでしょう。

 確かにお金持ちのご利用者の場合は、継続して自費サービスを利用するケースはあります。しかし多くの方が、保険外サービスは最低限の利用というイメージがあります。

 

 行政等の指導では、自費サービスの契約を別途結んで、料金等を明確に説明し同意を受けてサービスを提供するよう指示されています。確かに別に契約を結ぶなどの手間がありますので、このあたりの事務が一体化されてくれると効率化はされるでしょう。

 

 

なぜ豊島区が取り組むのか

 

 混合介護はもともと公正取引委員会が、介護サービス事業にもっと競争性を持たせるべきだという提言から検討が始まりました。

 医療分野ではすでに混合医療が進んでいます。

 その背景には利用者の利便性の向上や、事業者の収入機会の増加、介護職員の処遇改善につながるという見方があるからです。

 

 また、前述の豊島区のような都心の自治体では介護職不足が、地方に比べ深刻です。そうした人材確保の目論見もあるのではないでしょうか。

 なにしろ都心はアルバイトでも他の地区と比べ賃金が高いため、介護職の賃金レベルではあまり魅力がなく、担い手が集まらないという問題があります。

 

 これは、そもそも介護報酬の算定そのものが都心に不利に働いているからです。同じ23区なのにもかかわらず、例えば足立区や葛飾区といった周辺区と単価が変わりません。

 さらに都心は不動産物件の賃料も高く、収益性を考えた場合、介護事業経営には不利です。

 

 

背景には介護サービスの不足危機があるかもしれない

 

 都心では介護サービス不足が進んでいくと考えられます。

 豊島区でも秩父市と提携して特別養護老人ホームの設置を進めています。用地確保が難しい都心区では区外特養の整備は普通になってくるかもしれません。

 また、地代が高いため有料老人ホームやデイサービスも足りなくなる可能性があります。

 

 人材は集まらない、施設などのサービスも足りなくなるという危機感はあるでしょう。

 都心区の自治体は2025年以降を見据えて、介護人材と介護サービスの確保に早急に取り組まなければいけない現状があると思います。

 その対策の一環として、収益性の高い混合介護モデルを導入しようとしているのでしょうか。

 

 

富裕層向けサービスとしての可能性

 

 都心区の区外特養は低所得者向けの対策ではないでしょうか。

 一方で住民税を沢山払ってくれる富裕層高齢者の都心区への転入を促す方策は十分考えられます。

 

 富裕層と言っても大企業年金を夫婦でもらい、資産収入もそこそこあり、老後資金に余裕があるような高齢者のイメージです。

 団塊の世代の多くが、23区外のいわゆるベットタウンに居住していることが多いかと思います。なにしろこの世代の人たちが多く家を購入した1980年代の場合、都心に住むことは難しかったと思いますから。

 その中で老後のお金に余裕がある人は都心のマンションなどへの移住を考えている人も多いと聞きます。

 

 子供が別居になって広い家に夫婦で二人暮らしのようなケースの場合、家は築40年近くになりますから、住み替え時期と考えても良いでしょう。

 だとすると、「都心の便利な場所に2LDKぐらいのコンパクトなマンションを購入し暮らす方が良いのではないか」と、考えている人は多いかもしれません。

 また、埼玉や千葉では医師不足・病院不足が深刻な地域も多く、老後のケア体制に不安もあるようです。

 先日、東京都荒川区で埼玉県越谷市の救急車がサイレンを鳴らしって走っているのを見て、少しゾッとしました。

 

 サービス付き高齢者住宅でなくても、ある程度バリアフリー化したマンションであれば、一軒家よりも老後の生活は楽でしょう。

 こうした富裕層高齢者に向けた生活支援サービスとしての混合介護は十分考えられるかもしれません。

 

 

月ぎめ包括料金の混合介護はできないか

 

 実際の豊島区モデルがどのようになるかわかりませんが、もし可能なら月ぎめの包括料金化できると経営サイドとしても非常に有効だと考えます。

 

 一つの例として、小規模多機能居宅介護があります。

 月額料金なので、はっきり言ってしまえば、庭の掃除をしても運営基準上はそれほどガミガミ言われない部分もあります。実際には認知症のご利用者と一緒に掃除するなどのケアにはなると思いますが、包括料金であればあまり細かいことを気にせずにサービスを提供できる実態があります。

 

 ケアプランで週何時間、月何時間という枠組みを決めて、その時間内であれば多様なサービス提供が可能であるような仕組みです。

 もちろん、現在の報酬よりも収益が高くなるような報酬設定をしてもらわなければ意味がありませんが、月額制にした場合、給付管理などは大幅に効率化できます。

 もしかしたら、月ぎめの契約では自己負担分を多めに徴収できる仕組みでも良いかもしれません。

 そうすればより、柔軟で緻密なサービス提供が可能になるでしょう。

 

 

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その4

 

 

 今回は、地域密着型サービスへの参入についてご説明します。

 

 

地域密着型はその区市町村の住民のための施設

 

 これまでご紹介してきた居宅サービスは、都道府県が事業指定し、利用者がどの区市町村(他の都道府県でも)に住んでいても利用ができる、サービスでした。

 これから紹介するのは、区市町村が事業指定し、原則、その区市町村の住民のみが利用するサービスです。

 

 

日本の介護保険サービスは区市町村の責任で提供する

 

 わが国の介護保険サービスは、基本的に各区市町村が地域住民の介護福祉に対して、行政責任を持つ形で設計されています。

 国民の老後のケアはそれぞれの人が住む、区市町村の責任で行うということです。

 従って、各住民の介護保険の管理も区市町村が行っており、いわゆる保険者という立場で介護事業を実施しています。

 

 

国は各区市町村の介護サービスを競争させている

 

 住民の健康や介護は区市町村の責任で管理していくのが基本原則ですが、国はこうした区市町村の取り組みを評価し、どの区市町村が良くやっているかを評価しています。

 本番の評価システムはこれから構築され予定ですが、評価自体は介護保険がスタートしたころより行っています。

 この、自治体は介護度の悪化が酷い、とか、この自治体は介護予防を頑張っているな、というような評価です。

 

 

地域密着型サービスの中心は介護予防

 

 各区市町村は国がいつでもチェックしているというプレッシャーを受けながら、事業を運営しています。

 そのため、現状、地域密着型サービスの中心は、住民を要介護にしない介護予防になってきます。

 たとえば住民の健康管理や、要介護状態のチェック、運動教室などがそうした事業です。

 しかし、この分野は、行政の責任で行っている場合が多く、一般的な介護事業所ではあまり参入する余地がありません。

 要支援(介護予防)のサービスについても、地域包括支援センターが指揮を取り住民の状態悪化防止に取り組んでいます。

 この、地域包括支援センターの運営も、社会福祉法人など専門組織の仕事になっています。

 

 

一般企業は補助金の出る事業に参入する

 

 これまでの居宅サービスとは異なり、地域密着型サービスの一部では施設建築費などの補助金交付出る事業があります。

 特に、グループホームや小規模多機能居宅介護事業所は、介護事業の経験が少ない企業でも比較的参入しやすい事業でしょう。

 土地を確保すれば、建物建築費の8~9割は補助金で賄えるようになっています。

 地域で小さく開業した介護サービス業でも、この補助金を活用することで、事業拡大を目指すことができるでしょう。

 

 

地域密着型サービスは公募制

 

 ただし、こうした事業を行うためには、区市町村の公募に参加し、コンペで採択されなければならないというハードルがあります。

 コンペで競合が居なければ良いのですが、多くの場合は複数の事業者がコンペに参加してきます。

 一部、都心などで土地が確保しにくい地域では、公募参加者がいないケースもあるようですが、土地が確保しやすい地域では必ず競争になると思います。

 

 

どのような企業が採択されるのか

 

 地域密着型がスタートした頃(10年ほど前)は、大手の介護事業者が採択されるケースが多かったと思います。

 これは、各区市町村にとっても初めて地域密着型サービスを設置するわけですから、できるだけ実績のある、大企業にお願いしたほうが安心であるという考えが働いていたからでしょう。

 

 しかし、一度大手がその地域に参入すると、その大手企業は二つ目の参入は難しいようです、時が経つにつれ、中小企業も公募で採択されるようになっています。

 

 ただし、それでも、介護事業の経営経験がある程度あったほうが有利ではあります。

 医療法人などであれば、その経験でも参入できるかもしれませんが、全くの別種事業者の場合は、なかなか難しいかもしれません。

 

 

公募で採択されるには

 

 地域密着型サービスに参入するには、他の介護サービス事業を数年経験し、安定した経営ができるようになってからの方が良いでしょう。

 行政は地元で地道に優良な事業を運営している企業を評価しやすいと考えます。

 さらに、母体となる企業(別種事業でも)がその地域で長く経営している場合は、そうした地元への貢献度も評価の対象となります。

 グループホームや小規模多機能居宅介護などのサービスは、一つの企業が各地にチェーン展開している場合も多く、行政としても同種事業を広く展開している経験を買う場合もあります。

 しかし、すでにそのような種類の企業が同地域に開業している場合は、経験は浅くても地元密着型の企業の方を評価することも十分あり得ます。

 

 

地域密着型サービスは介護事業参入の第2ステップ

 

 これまで述べてきたように、訪問介護などで介護事業に参入したのであれば、地域密着型サービスへの参入は事業拡大の第2ステップと考えるべきでしょう。

 地域密着型サービスに参入することで、すでに実施している介護事業にも相乗効果があると考えます。

 

 なお、地域密着型通所介護事業には補助金は出ません。この事業に参入する場合は地域ニーズをしっかり見据え、慎重に取り組むべきであると考えます。

 

 

 次回は、施設サービスについて説明したいと思います。

 

 

地域密着型サービス(GH・小多機能)への参入

 

 

第7期介護保険事業(支援)計画に向けて

 

 全国の自治体で地域の第7期介護保険事業(支援)計画の検討が佳境に入っています。

 平成30年春には全国で、向こう3年間の地域の介護事業計画が発表されます。

 各事業者様においては地域自治体が年内にも公表するパブリックコメントなどを通してその内容を確認していただけますようお勧めいたします。

 

 

向こう3年間の地域密着型サービスの計画が発表されます

 

 第7期介護保険事業(支援)計画で注目したいのは地域密着型サービスの整備計画です。

 特に事業を拡大したい事業者様においては特に注目していただきたいポイントです。

 もしも平成30年度の公募に参加したいということであれば、今から準備をされる必要があると思います。

 

 

地域密着サービスの整備が進んでいない

 

 在宅ケアの拠点となる地域密着型サービスのグループホームや小規模多機能居宅介護事業所などは思ったように建設が進でいない地域があるようです。

 このままでは2025年の必要数を満たさないばかりか、在宅ケアそのもに重大な影響をもたらす可能性があります。

 こうした地域密着型の施設が増えない結果として見えるのは「無届ハウス」など不適切な介護施設の増加です。

 特に低所得者層の高齢者は劣悪な環境で介護を受けなければならない状況が懸念されます。

http://www.koujuuzai.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/05/h28_jigyo3.pdf

 

 

東京都のマッチング事業

 

 要介護度が高くても在宅でケアを実現していくためには、ケアマネージャーなど関係者の能力も重要ですが、必要に応じて柔軟に利用できる施設等社会資源が地域に整備されていなければなりません。

 

 この状況を打開するために、東京都はグループホーム用地のオーナーと事業運営者のマッチング事業を開始しました。

http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/06/13/07.html

 小規模多機能にも欲しいマッチング事業ですが、とりあえずグループホームだけのようです。

 グループホームも小規模多機能も介護事業として補助金等のスキームは同じなので、これがうまくいけば、小規模多機能や他の施設系地域密着型サービスにも波及するかもしれません。

 

 

不動産投資としての地域密着型サービスのメリット

 

 都の事業の仕組みは、土地所有者とグループホームを運営する事業者を引き合わせる仕組みになります。

 

 人口減少や都内でも空き家の増加などが進み、未利用地が増えていく傾向にあります。

 しかし、マンションなど収益性の高い不動産投資にはそれなりの広さの土地が必要になりますから、中途半端な広さの土地の場合はなかなか利用方向が定まらないことが多いようです。

 結果、駐車場やアパートなどの不動産投資に向けられる場合も多く、アパート経営投資のCMが盛んに宣伝されています。

 

 100坪程度の土地がある場合、アパート経営がまず最初に思いつくかもしれません。

 しかし、グループホームや小規模もその程度の土地で十分に建設が可能であり、しかも建設費の多くを公的補助金で賄うことが可能です。

 不動産投資としては断然、こちらの方がお得であることは間違え無いでしょう。

 

 しかし、土地オーナーにとって、アパート経営であれば、不動産業者や建設業者に丸投げできますが、介護施設の建設には誰に頼めばよいのかわかりません。得だとわかっていてもなかなか手を出せないのが本音だとは思います。

 

 また、アパート経営関係の営業は積極的で、オーナー側への売り込みも激しく、そちらに流れてしまう傾向は否めません。

 

 

運営業者も人手不足で積極的になれない

 

 介護事業者にとっても運営を請け負うためにはスタッフを揃えなければなりませんから、現在の人材不足の状況下では、請け負っても人を揃えられない恐れがあるために、やりたくても安易に手を出せない状況があるでしょう。

 

 アパート経営の場合、入居者が入らずに収益が上がらなくても、基本的に建築業者等が不利益を請け負うことはありません。立ててしまえばそれで収益になるわけですから、営業も積極的になるわけです。

 

 その点、グループホームなどは入居者がいなければ不利益は運営事業者が負うことになります。まして必要な人員が揃えられなければ、開業すらできないのです。そうしたデメリットがあるために手を挙げない運営業者も多いのでしょう。

 

 

公募では地域密着の地元の事業者が優先される傾向も

 

 第7期の計画が発表されれば資金力のある大手介護事業者がこぞって公募に参加するでしょう。大手はスケールメリットにより人材不足でもなんとか人を揃えられる力があります。

 ただし、既に大手が開業している地域では、同じ事業者が参入することは無いようです。公募の選定でも地元の事業者が優先される傾向はあるようです。

 

 地域に根差して介護事業を営んできた中小事業者にとっては事業を拡大するチャンスです。100坪ほどの土地が借りられれば事業化できます。初期費用の融資は必要になりますが、公募に選定されれば地元の金融機関は融資してくれるでしょう。開業すれば補助金が出ますので返済はそれで可能です。

 

 実は、人員については、もし開業時に揃えられなければ、開業日が遅れるだけのことです。グループホームの場合、1ユニットだけ開業というケースもあります。

 

 もし興味があれば、今すぐにでも地域自治体の担当課に相談されることをお勧めします。