男女の賃金格差解消と医療福祉職の賃上げ

 

日本の女性の収入は低すぎる

 2020年、日本は、男女の賃金格差の国際比較で、男性を100にした場合、女性は77となっています。OECD平均85に対しだいぶ格差が大きいと言えます。
 簡単に言えば、男性が100万円稼ぐ時、女性は77万円しか稼げないということです。
https://www.gender.go.jp/research/weekly_data/07.html

 また、2020年の女性の就業率はOECD平均59に対し、日本は70.6です。
 これは、日本の多くの女性が、国際的にとても低い賃金で働いているということを表しています。
 この差は日本人一人あたりGDPにも大きな影響を与えており、先進国との労働生産性の格差を生んでいる元凶の一つです。

 日本では特にシングルマザーの賃金が低く、差別的ともいえます。
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20181016-OYT8T50013/2/
 シングルマザーの貧困はそのまま子供の貧困に直結します。昨今、子ども食堂や居場所づくり事業などが盛んになっているのも、こうした子供の貧困が原因でしょう。
https://kidsdoor.net/issue

 また、男女格差は年金にも現れます。専業主婦やパート主婦の場合、夫が亡くなった後、急に年金が減ってしまうケースが多く、老後の不安要因となっています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241029/k10014621311000.html

 

日本は女性差別社会である

 2025年の国際比較で、ジェンダーギャップが、日本は中国や韓国よりも低い118位となっています。
https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html
 日本社会は元々、男性中心社会であり女性差別の習慣から抜けきれないという現実があります。女性の側にも、社会進出に躊躇する傾向や、専業主婦として家庭を守ることを指向する人が居ることも事実です。

 ジェンダーギャップを解消するには、女性自身が強い意志で社会進出することが必要ですが、風習に反してそうした意志を貫くのは大変なことでもあるでしょう。ギャップを解消するには議員の半分は女性にしなければならないなどの(クォータ制)、大胆な法整備が必要でしょう。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%BF%E5%88%B6

 

まずは女性の賃金を上げよう

 ジェンダーギャップが解消できなくても、女性の収入を上げることはできます。
 まずは、最低賃金の引き上げです。
 パート労働者の多くが女性です。
 先進国では、パートと正社員の給与格差が小さいことが知られています。しかし、日本ではパートを安い労働力とみなして、賃金を上げることができません。
 先進国の時給は2,000円前後ですが、日本は未だ1,200円以下です。

 次に、女性が働きやすい社会環境の整備が重要です。
 子育てを国が支援するのではなく、子育ては親だけの責任ではなく、国の責任でもあるという覚悟をしなければ、実現することが難しいでしょう。

 シングルマザーの貧困は世界的にみられる現象です。多くの国々でも差別が蔓延しているのです。そんな中、フランスはシングルマザーへの支援が充実しており、人口増加にも貢献していると言われます。
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2021/55029

 都市化する現代社会では、高齢者にしても女性にしても、家族に頼らずに生きていける環境が必要になっています。
 そのためには医療福祉制度の充実が重要であり、この分野の労働者を増やすことは、都市で安心に暮らすための、重要な方策となります。

 

女性の収入を上げたければ、医療福祉職の給与を上げよ

 医療福祉の仕事における男女比を見た場合、以下のようになっています(有資格者)。

介護福祉士7:3(計約190万人)
看護師9:1(計約120万人)
保育士9:1(計約180万人)

 医療福祉の職場に女性が多いのは、以下のような要因があるからです。

1 職住接近で働ける(家庭に近い)
2 出産などブランクがあってもキャリアへの影響が少ない
3 残業が少なくライフワークバランスがとりやすい

 これらの職種の2025年の平均年収は概ね以下のようになっています。

看護師:519万円
介護福祉士:400万円
保育士:396万円

 今まで、これらの仕事は社会的に重要性が低く、賃金が安くても仕様がないと考えられてきました。そのような価値観そのものが女性差別的でした。

 日本の労働人口は約7,000万人です、内500万人が医療福祉職ですから周辺の職種を合わせれば、この分野の就労者は10%近い人口になるでしょう。

 もし、消費税を5%上げて、医療福祉職の給与に回すと一人当たり240万円の年収アップになります。

 

EUの消費税最低税率は15%

 エッセンシャルワーカーの賃金を上げることは、社会全体の消費の活性化につながり、経済的メリットがあることが知られています。
 医療福祉職の給与を上げることで、社会全体の賃上げに繋げることも可能でしょう。

 現状、医療福祉職の処遇改善のための資金は、国の借金に頼っていると考えられます。
 報酬改定も大幅な増加は見込めません。無駄な社会保障費の削減も限界があるでしょう。

 最終的には消費税をEU標準の15%にすることが必要になります。

 日本人は本質的にケチですから、賃金も税金も上げるのが大変です。
 貯金ばかりするので、それを担保に国が借金をするのです。
 しかしながら、国民所得において先進国最低にまで落ち込んでいる現状を考えれば、医療福祉職の賃上げは、国民の安心と経済的底上げに直結する需要な方策になると考えます。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/gnp_2.html

 

 

 

 

やっぱり日本の社会保障費は限界

日本の税収は先進国最低

 

 選挙戦では富の再分配が叫ばれていますが、介護福祉業界の予算である社会保障費はどうなるのでしょう?
 対GDP(国民総生産)比で日本の社会保障費は世界第10位です(2018)。以下は財務省の資料ですが、社会保障支出ではヨーロッパの国々が並びます。

 一方、租税収入は世界第28位で先進国の中で米国に次いで租税収入が少ないのです。
(注※ 日本と米国では一人当たりGDPが約1.5倍違います(2019)。日本43,279ドル 米国65,143ドル。従って租税収入も米国よりも少なくなり。対一人当たりGDPにすると先進国でダントツ最下位です)
 
 財務省はこんなに少ない税収で社会保障費が大きいので、大変だと嘆いています。

 

高齢化率は断トツ1位

 

 次に、世界の⾼齢化率(⾼齢者⼈⼝⽐率)(2020) 国別ランキングを見てみましょう。

出典・参照︓ 世銀(World Bank) 

 こちらは断トツ日本がトップです。
 高齢者に対するサービス内容を厳密に切り分ける必要がありますが、社会保障サービス供給量は、ヨーロッパの国々より劣りそうです。
 もちろん、日本の高齢者は皆元気で医療費や介護費を使わなくとも大丈夫という見方もできますが、一人当たりのGDPが各国より低いことを鑑みても、あまりにもお金がありません。

 お金が足りない影響は医療や障害者サービスにも出ていることでしょう。
 制度は整っているが、先進国並みの社会保障サービスを日本人は受けられていないということです。

 現場感覚では、給与が安いためサービスの担い手がいなかったり、重度訪問介護の給付を減らされたりなど、シビアな状況として発現しているように思います。
 ちなみに、日本の障害福祉サービスの予算も先進国で最低レベルです。これに関してはこちらの記事を参照ください。
 「これからの障害者福祉サービスの動向」https://carebizsup.com/?p=1501

 

貧乏になってしまった日本

 

 結局、日本は税収が少なすぎるのです。そのため対人口比での国家予算が少ないのです。
 現状では、税収不足分を国債などの借金で賄っています。

 また、高齢者が多いため生産性が低いことも原因です。しかし生産性が低いのは高齢化だけが原因ではないようです(生産性は一人当たりGDP=国民所得と考えてよいです)。
 
 それでは日本の生産性についてみてみましょう。


 日本は社会保障費の額で負けているフランスやドイツなどの国よりも下にあります。
 実は日本は先進国の中でもかなり貧乏な国なのです。バブルのころ(1990年ごろ)に流行った「ジャパン・アズ・ナンバーワン」は今は無き夢の話でOECD加盟国平均よりも貧乏であることが常態となってしまいました。

 確かにこれでは社会保障を充実させることなんてできません。
 高度成長時代に一生懸命働いて国を豊かにしてきた高齢者はそれに見合うサービスを受けられないまま、人生を終えなければなりません。

 人口が多いため国民総生産自体(GDP)は中国に抜かれ第3位ですが、実際はバブル以降の30年で日本はかなり貧乏な国へと変わり果てています。

 

生産性を上げなければ社会保障費も増えない

 

 では、充実した社会保障を得るために、税収を増やす方法はあるのでしょうか?
 消費税や所得税などの税率を上げればよいのですが、実は日本の各税項目の税率自体はすでに先進国並みに高く、税率だけを上げるのはかなりの困難が伴いそうです。

 ちなみにIMF(世界銀行)は消費税を15%にするべきという提言をしていますが、選挙などもあるのでなかなか簡単ではありません。

 それに単に税金を上げても、それが生産性につながらなければ社会保障費も増やせません。消費税は主に社会保障費にあてる名目で導入してきましたが、社会保障費を増やすためだけの増税にも限界がありそうです(増税により貧困層を増加させてしまうという分析もあります)。

 最も健全な方法は、生産性を向上させ、税収を増やして社会保障費を増やすことです。
 米国の経済学者の調査では、国家予算のうち生産性向上支出が、先進国平均では24%程度と言われています。
 日本は10%程度です。悲しいかな税収が少なく、成長戦略に回せるお金が少ないのです。
 これではいつまでたっても成長軌道に乗ることはできません。

 政府の生産性向上支出とは「教育投資」や「イノベーションのためのインフラ投資」です。教育については先進国で大学や高等職業訓練の費用が無償になりつつあります。日本は高校すら有償です。このままでは差が開くばかりでしょう。

 税制に関しては、グローバル企業から法人税を厳しく取り立てたり、富裕層から税金を取る方法を検討したり、世界各国で改革が始まっています。
また、国債発行による国の借金の在り方もMMT(現代貨幣理論)などにより、単なる借金という見方から新しい考え方が出てきています。

 日本はひとまず、5年間程度、何らかの方法で政府の生産性向上支出を25%以上に増やし、生産性向上の正のスパイラルを生み出さなければならないでしょう。

 それまでは社会保障費を持たせるために、国債の発行に並びに、例えば高所得者や金融資産をたくさん持っている富裕層の医療費や介護費の自己負担率を大幅に増やす必要もあるかもしれません。