実地指導が来る前に、訪問介護業務の流れを整理する その4

 

 

 

 今回はケアプラン関係についてご説明します

 

7 ケアプラン(必須)

 

 ケアプランが無い場合は原則サービス提供できません。最新のものを必ず備えておくようにしましょう。

 ただ、ケアマネージャーによりケアプラン更新の際に作成が遅れたりする場合がありますから、注意が必要です。

 しっかりしたケアマネージャーであれば心配ないのですが、少しルーズなケアマネさんがいる場合は、マークしておいて認定期限が切れたら催促したほうが無難であると思います。

 

 

サービス担当者会議の要点(4表)について

 

 いわゆるサ担録はケアマネージャーが作成するものですが、サービス事業所に配布してくれない場合も多いようです。

 ケアプラン自体もそうですが4表をサービス事業所に配布する義務がケアマネに無いため、そのようになってしまいます。

 そうすると、事業所としてはサービス担当者会議に出席した証明が必要になります。

 欠席時は「サービス担当者会議の照会」を控えておけば良いのですが、出席した場合は、会議の日時、場所、出席者、話し合った内容やポイントをメモでも良いから保管しておくようにしましょう。

 

 問題は、認定更新があったのにも関わらず、サービス内容に変更がないためサ担が開かれない場合です。

 ケアマネの怠慢ですが、サービス事業所にとっては困った問題です。開くように要請するのも憚れたりします。

 そういう場合は電話でも良いですから「サービス内容に変更が無い」かだけはケアマネに確認します。そしてその日時と内容をメモしておき保管します。そのように防衛してください。

 

 

サービス内容に変更があった場合

 

 この場合も、変更したケアプランを配布してくれない場合があります。

 軽微な変更の場合はそうなります。しかし、場合によってはケアプランに無いサービスを提供しなければならなくなるケースがあり、特に生活援助が新たに加わったりすると、問題が大きくなります。

 ケアプランに無い生活援助は不正性請求になってしまう可能性が高く、実地指導などで返還命令が出たりしますので注意が必要です。算定額が変わる場合は何とかお願いしてケアプランを修正してもらいましょう。

 しかし、サ担を開くのが面倒で変更してくれないようなケースもあるようです。その場合は、またメモの登場です。

 ケアマネに変更を指示されたこと、変更したケアプランを配布されなかったこと。日時、対応者などをメモして控えておいてください。

 

 

8 連絡調整記録(必須)について

 

 介護保険法ではサービス事業者は「居宅介護支援事業者・介護 予防支援事業者に対する情報の提供及び保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との密接な連携」が義務付けられています。

 これを実現しているかどうかを確認するための証拠書類については、ケアマネへの毎月のルーチンの報告書や「連絡調整記録」のようなものが必要になります。

 

 通常の訪問介護事業所は、ケアマネとは電話等で必要に応じて連絡調整をしているでしょう。また、必要に応じて訪問看護や地域の他のサービス主体とも連絡調整しているかもしれません。

 そうしたものを記録しておくのが「連絡調整記録」になります。もちろん上述してきた「メモ」もこの記録に該当します。

 

 タイトルは「連絡調整記録」でも「連絡調整メモ」でも単なる「メモ」でかまいませんが、形式としてはケアマネの「支援経過」に似た様式が良いでしょう。

 日々の電話や直接対面による連絡調整の内容について、メモできるようになっていればOKです。特にパソコンなどで記入する必要は無く、手書きでも大丈夫です。業務負担軽減のためにサッと記録できるように手書きの方がお勧めです。必要な記入事項は以下の通りです。

 

「連絡調整記録」必要事項

 

1 日時

2 相手(連絡調整の相手、ケアマネや家族など)

3 手段(電話や面談など)

4 連絡調整内容

5 対応者(誰が対応したか)

 

 これらをご利用者別にエクセルの表などで作成し、一つにファイリングしておきます。事業所の誰でも記入できるように、わかりやすい場所に置いておくと良いでしょう。

 その後利用者の1枚の表が一杯になったら、それを該当するご利用者ファイルの方に移して置き、新しい表と差し替えます。

 実地指導などで連絡調整の記録を求められたらこれを見せればOKです。上述したメモもこれに書いておけば大丈夫でしょう。

 そのご利用者にかかわる電話等の連絡調整内容はできるだけこれに記入するようにしましょう。そうすることで、サービスの質の実態が浮かび上がってきますので、役所が見に来ても「よくやっているな」と評価してもらえると思います。

 

次回は「サービス提供の記録」や利用者別のファイリングのやり方についてご説明します。

 

 

実地指導が来る前に、訪問介護業務の流れを整理する その3

 

 

 

6 モニタリング(評価)

 

 基準上、モニタリングは介護予防(総合事業)では必須です。

 要介護者の訪問介護の場合は、基準ではモニタリングが必須とはなっていませんが、訪問介護計画書に、短期目標と長期目標を記載している以上、これについて達成度を評価する必要があります。

 ここでは予防と介護で分けて説明いたします。

 

 要介護の目標達成度評価

 

 要介護の場合、モニタリングというよりも、「目標の達成度評価」と言った方が良いでしょう。

 目標の達成度評価表などの様式は特に決まりはないのですが、区市町村によっては訪問介護計画書に評価欄が設けられていて、そこで評価するようになっている場合もあります。

 自治体から様式を提示されていない場合は任意様式で評価をしておくと良いでしょう。

 その場合は以下の情報を記載するようにしてください。

 

目標の達成度評価表に記載する基本的な内容

 ① ご利用者の基本情報

 ② 評価年月日

 ③ 評価者名(基本的にはサ責)

 ④ 短期目標(訪問介護計画書に記載してあるもの)

 ⑤ 短期目標の達成度評価

 ⑥ 長期目標

 ⑦ 長期目標の達成度評価

 ⑧ 計画の見直しの必要性

 ⑨ ご本人の満足度や意向

 ⑩ ご家族の満足度や意向

 ⑪ 事業者情報

 

 もちろんこれらの内容を訪問介護計画書に記載できるようにしておいてもOKです。

 ⑨⑩の満足度はチェック方式で良いでしょう。実はこの満足度の評価は予防では必須項目になっています。

 

 なお、この目標達成度評価は担当ケアマネージャーに報告する必要がありますので、その辺を踏まえて作成したほうが良いかと思います。

 ケアマネージャーによっては「サービス状況報告」を依頼してくる場合があります。短期目標の評価をしたら、この「サービス状況報告」と一緒に送れば良いと思います。

 「サービス状況報告」を依頼してこない担当ケアマネージャーに対しても評価をしたら本評価表を提出するべきです。

 

 要介護のモニタリングは規定がしっかりないために、業務上混乱しやすい部分です。次に説明する予防のモニタリングと混同しやすく、ケアマネへの報告業務のやり方にも関係してきます。

 評価は毎月する必要はありません。あくまで短期目標の評価期間で適切に評価すれば良いでしょう。予防のモニタリングと混同して毎月評価をしている場合は業務量が増えるだけですから整理しましょう。

 

 

 予防のモニタリング

 

 介護予防・日常生活支援総合事業に変わってから、業務のやり方が変わっている部分もありますが、従来の介護予防訪問介護(要支援者に対する訪問介護)の基準は変わりがありませんので、それを踏まえてご説明します。

 

 予防のモニタリングのチェックポイントは以下の通りです。

 

 ①サービス提供責任者は、介護予防訪問介護計画に記載したサービスの提供を行う期間が終了するまでに、少なくとも1回は、当該介護予防訪問介護計画の実施状況の把握(「モニタリング」)を行う。

 ②サービス提供責任者は、モニタリングの結果を記録し、介護予防支援事業者に報告しなければならない。

 ③モニタリングの結果を踏まえ、必要に応じて介護予防訪問介護計画の変更を行う。

 ④介護予防支援事業者にサービス提供状況等を月に1度報告しなくてはならない。

 

 ①と④は基本的には違うものです。

 ①は「提供期間」中1回行って作成すればよいものですが、④は毎月作成しなければなりません。

 ①の様式については自治体の様式がある場合が多いですが、④については様式が特にありません。ファックス送信表に状況を記載して送るだけでもOKです。

 予防については基本的に地域包括の指示に従えばよいのですが、予防のやり方を踏襲して、要介護の方も同じようにやると、無駄な仕事が増えてしまいますので注意しましょう。

 特に毎月の状況報告は要介護の訪問介護では必須ではありません

 

 要支援では要介護化の予防が最重要課題ですから、きめ細かいモニタリングと状況把握が必要になります。しかし、要介護の場合はご利用者により状態は様々ですので、状況把握の頻度も一定ではありません。

 状態が安定しているご利用者に関しては、毎月状況報告を行う必要が無い方もいらっしゃるでしょう。

 

 

7 手順書(研修資料等として必須)

 

 手順書はサ責が訪問業務を行っているような、小さな事業所では作っていない場合もあるかもしれません。

 指定基準上必ず作成しなければならないものではありませんが、研修資料もしくは業務マニュアルとしての位置づけもありますので、作成すべきであると考えます。

 

 各事業所の運営規定には、職員研修の項目があると思います。基本的に事業者は、どんな形であれ職員研修を実施しなければなりません。

 手順書はスタッフへの研修実績を証明する資料になります

 また、事業所の業務の質を評価する上で、マニュアルの整備状況が評価されますが、手順書がしっかり整備されている場合は、それを業務マニュアルの一部として評価することができるできます。

 

 手順書は先に述べた「老計第 10 号 」訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等についてを参考に作成すると良いと思います。

 

 

 次回はケアプラン関係について説明します。

 

 

 

 

実地指導が来る前に、訪問介護業務の流れを整理する その2

 

 

 前回の続きです。

 

4 被保険者証と負担割合証は原本確認(必須)

 

 介護保険のサービスを受けるには被保険者証と負担割合証をサービス事業者に提示する必要があります。これは原本を見せる必要があり、サービス事業者も原本で保険証と負担割合証を確認する必要があります。

 

 この原本を確認した証拠として、コピーなどの写しを保存しておきますが、その際、その写しに「○月〇日 原本確認 確認者氏名」と記載すると良いでしょう。

 日付はサービス提供日前が好ましいですが、多少ずれていてもしようがないでしょう。

 

 コピーなどをいつとるかですが、大事なものなので勝手に預かってコンビニなどでコピーしてくるのも少し憚れます。一番良いのは、スマホなどで写真を撮り、事業所に戻ってプリントアウトする方法でしょう。

 写真を撮った日付などが入るようにしておけばより良いかもしれません。サービス担当者会議や初回サービス時にしっかりと確認するのがベターであると思います。

 

 また生活保護の方の介護券ですが、これをご利用者ファイルにファイリングすると量が多くなり一杯になってしまいます。介護券は年度ごとに専用ファイルにファイルしておく方が扱いは楽だと思います。

 介護保険の実地指導の場合、生活保護の介護券を詳しくチェックすることはあまりありませんから、別ファイルでも大丈夫です。ただし、保存年限は同様にサービス終了後2年ですので、ご留意ください。

 

 

5 訪問介護計画書(必須)

 

 最近では介護ソフトなどで訪問介護計画書を作成することができます。しかし、フォーマットが気に入らなかったり、自治体から推奨するフォーマットが出ていたりするとなかなか使いにくいものです。

 

 訪問介護計画書に決まった様式はありませんが、必ず記載していなければならない項目があります。それらが揃っていればどんなフォーマットのものを使っても原則構いません。

 必須項目は以下の通りです。

 

① 計画書の作成者の氏名、作成年月日

 作成年月日は必ずもとになるケアプランの作成日より後か同日でなければなりません。

② 利用者情報等(氏名、性別、生年月日、要介護認定日、要介護度等)

③ 生活全般の解決すべき課題(ニーズ)

 ケアプランの2表にあるニーズです。訪問介護を利用する理由に該当するところのニーズを転記します。ただし、ケアマネージャーの力量によってあまり適切でない表現もありますので、その場合は実態に合わせて少し改変しても構わないかもしれません。

④ 援助目標(長期目標、短期目標)

 こちらもケアプランの該当部分を転記しましょう。

⑤ 長期目標、短期目標の期間

⑥ ご本人及びご家族の意向・希望

⑦ 具体的援助内容

 以下の記載内容がコンパクトにまとめてあるフォーマットだと使いやすいかもしれません。

 1) 「サービス1」「サービス2」

 援助内容の違い、曜日・時間等の違いによって、「サービス1」「サービス2」などと区

分して記載します。

 2) サービス区分

 これについては厚生労働省から「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」という通知が出ており、この項目に合わせて記載することが求められています。

 この文書は訪問介護サービスの種類や段取りを整理したもので、排泄や入浴介助などの手順を詳しく列挙していますので、訪問介護サービスのマニュアルとしても機能します。

 後ほど説明する手順書の素になるものですので、訪問介護事業者は必携の文書です。

 

訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について

 

 3) サービス内容

 サービス区分に応じたサービス内容を具体的に記載します。例えば、区分が「排泄介助」である時は、内容として、「トイレ利用」、「ポータブルトイレ利用」、「おむつ交換」などの具体的な内容を記載します。

 また、サービスの提供方法もあわせて記載できれば、利用者にとってわかりやすいものになるでしょう。

 4) 所要時間

 サービス内容に記載したサービスを提供する時間です。

 5)留意事項

 各サービス提供に当たり留意することを記載します。

 6)サービス提供曜日

 7)サービス提供時間

 8)算定単位

 「身体1」「生活2」「身体2生活1」など

⑨週間予定表

 「⑦ 具体的援助内容」で週間の予定がわかればこれは必要ありません。

⑩ 説明者・説明日

 計画書の内容を説明した担当者の署名と年月日を手書きで記載します。様式としては空欄にしておけばOKです。

⑫ 利用者又は家族の同意欄

 利用者又は家族が計画内容を確認し同意をした旨の署名欄です。本人の署名捺印が有れば家族のものは必要ありません。

⑬ 事業所情報(事業所名、管理者名、住所、電話など) 

 

 堺市が作成した「訪問介護計画書作成の手引き」がありますので参考にしてください。

訪問介護計画書の作成の手引き

 

 

介護保険で提供できないサービスについて

 

 これは必須ではありませんし、重要事項説明書に記載するものですが、念のために訪問介護計画書の裏などに記載し、利用者や家族に確認してもらうのも良いかもしれません。

 

以下の援助は介護保険の生活援助では提供できませんのでご了承ください

(平成12年11月16日 老振第76号 厚生労働省通知)

 

1.「直接本人の援助」に該当しない行為

  主として家族の利便に供する行為又は家族が行うことが適当であると判断される行為

   ・利用者以外のものに係る洗濯、調理、買い物、布団干し

   ・主として利用者が使用する居室等以外の掃除

   ・来客の応接(お茶、食事の手配等)

   ・自家用車の洗車・清掃 等

 2.「日常生活の援助」に該当しない行為

  [1]訪問介護員が行わなくても日常生活を営むのに支障が生じないと判断される行為

   ・草むしり ・花木の水やり ・犬の散歩等ペットの世話 等

  [2]日常的に行われる家事の範囲を超える行為

   ・家具・電気器具等の移動、修繕、模様替え

   ・大掃除、窓のガラス磨き、床のワックスがけ

   ・室内外家屋の修理、ペンキ塗り

   ・植木の剪定等の園芸 ・正月、節句等のために特別な手間をかけて行う調理 等

 

次回はモニタリングや手順書などについて説明します。

 

 

実地指導が来る前に 訪問介護業務の流れを整理する その1

 

 

 お客様からのお問い合わせが多いのでコンプライアンスを踏まえたうえで、実地指導などで指摘を受けないような、訪問介護事業所の業務の流れを整理したいと思います。

 

 

無駄な業務を減らす

 

 運営基準上、必ずやらなければならないことと、必ずしもやらなくてよいことがあります。またどの程度やるのか、頻度や詳しさなども業務によっては様々であり、わかりにくい部分でもあります。

 

 そんなに一生懸命にやらなくても良い業務に時間を割いてしまって、本来やらなければならない業務が疎かになっているケースも見受けられます。

 

 この仕事はどの程度しっかりやらなければならないのか、その辺のポイントがわかりにくいという声もありますので、そのあたりを整理してできるだけ無駄な業務を減らせるようにしたいと思います。

 

 なお、各種書類のひな型はネットに沢山ありますので、これから述べるポイントを踏まえて使いやすい物を探してください。

 

 

新規ご利用者の受け入れ

 

 新規受け入れの際に必ず行うべきことと、必要な書類を整理して説明します。

 

1 サービス申込書(必須)

 サービスの申し込みは原則、本人が事業所に申し込まなければなりません。利用者にはサービス業者の選択権があります。これは介護保険法の理念の一つであり、非常に重要な要素です。

 申込書は利用者が自らの意思でサービス事業者を選択した証の一つですので、ファックスでも良いですからしっかり貰っておきましょう。

 もし、事業所で使っている申込書の「申込者欄」がケアマネージャー名になっているようでしたら「ご利用者名」に修正してください。申込者はあくまで利用者であり、ケアマネージャーが勝手に申し込んではいけないものです。

 なお、申込書に基本情報をしっかり記入してもらえば、アセスメント情報の収集に役立ちます。

 

 

2 契約書・重要事項説明書(必須)

 

 介護保険制度の重要な二つの理念を具体化している書類ですので、とても重要です。

 

 ① 利用者は契約によりサービスを利用する

 ② サービス事業者は利用者にサービス内容を説明し、同意を得てサービスを提供する

 

 それぞれの内容についてはここでは詳しく説明しませんが、自治体によってローカルルールがある場合があります。また、都道府県が基本フォーマットを提供している場合も多いので、事業地の様式を使うようにしましょう。

 場合によっては、区市町村の担当者に内容を確認してもらっても良いかもしれません。

 

 注意点として、古い様式を使っている場合、法令の改正などによって内容が不適切になっている契約書や重要説明書があります。そのため時々内容を更新しておく必要があります。

 

 基本的には介護保険法が改正する際に内容を更新するようにしましょう。報酬改定や新しいサービスの追加があったりしますので、原則3年ごとに見直す必要があります。

 3年以上同じフォーマットを使っている場合は一度内容をチェックした方が良いでしょう。

 

 なお、個人情報の利用に関する同意は本人と家族の両方から取らなければなりません。時々、本人からしかとっていない場合があります。

 

 

3 アセスメント(必須)

 

 運営基準上サービス事業者は、利用者の「心身の状況」を把握してサービス提供をしなければならないことになっています。

 つまり、ADLなどの状況をアセスメントしろということです。

 

 しかしながら、サービス提供開始時にアセスメントをするのが難しい場合があります。

 介護保険制度では各介護サービスがアセスメントしなければなりませんから、利用者が介護保険サービスを利用しようとした時、各事業者からアセスメント攻めに会ってしまうことがあります。

 

 かといってケアマネージャーが行ったアセスメントを貰う訳にもいきません。なかには参考に自分の行ったアセスメント情報を提供してくれるケアマネージャーもいますが、それでも事業者が独自にアセスメントをすることは必須になります。

 

 

アセスメントはいつやるのか

 

 アセスメントのタイミングとしては、サービス提供担当者会議の際ではなく、サービス調整や初回訪問の時が良いでしょう。

 

 サービス調整の際には、ケアプランに書かれたサービス内容を居宅において具体的に確認していきます。その際にADLやIADLの確認は必ず行いますので、メモなどでそれを把握しておきます。

 サービス開始時は契約や重要事項の説明などやらなくてはならないことが沢山あります。

 また、外部の人たちがたくさん利用者の家に来ますので、本人や家族もストレスを感じて疲れている場合が多いです。ここでアセスメントによる質問攻めは憚られるものでしょう。

 

 従って、利用者の前でアセスメントシートにチェックするようなことは避け、事務所に戻ってアセスメントシートに記載していくやり方が良いと思います。

 

 

アセスメントシートはすべて埋める必要は無い

 

 アセスメントシートにはアセスメントを行った日を記載しますが、必ずしもその日にすべての情報を把握くしなければならない訳ではありません。

 また、アセスメントシートをすべて埋める必要もありません。利用者によっては必要無い情報もあります。例えば、家族構成図や居宅内の図面なども必要に応じて作成すれば良く、必ず作らなければならに項目ではありません。

 

 最低限アセスメントで必要な情報は以下の情報です。

 

 ①アセスメント実施年月日(最初に状況把握を始めた日)

 ②アセスメント実施者(サ責)

 ③基本情報(氏名・年齢・要介護度など)

 ④ADL

 ⑤IADL

 ⑥疾病関係情報

 ⑦本人や家族の意向

 

 

 アセスメントシートは上記の内容が記載できればどんなものでもOKです。

 以下は日本介護福祉士会のものです。集めなければならない情報が沢山ありますが、これらすべてを揃えなければいけない訳ではありませんのでご留意ください。

 http://www.jaccw.or.jp/katsudo_reports/yoshiki.php

 

 

次回は被保険者証や計画書などをご説明します。

 

 

介護スタッフの有給休暇の取らせ方

 

 

 介護の仕事をしている人の多くが休暇を取りにくいという悩みを抱えています。

 そもそも、4週8休制などの週休二日の場合、他の会社員などであれば休める祭日の休みもありません。

 

 日本人は休みを取るのが下手な民族でもあります。建築業の友人は日曜日しか休みが無く、土曜日は残業扱いだとぼやいていましたが、下請け職人の給与は日当なので、みんな働きたがるため、合わせるしかないということも言っていました。

 

 

人材定着のためには休暇が取りやすいことが重要

 

 介護事業の場合、頑張って加算などを取得しても、賃金を上げることには限界があります。ただでさえ低賃金な職業なのですから、職員を定着されせるためには休暇が取れるということが非常に大切だと感じます。

 

 低賃金でも安定して一生働いていける仕事ですから、それに甘んじて休まないという部分もあるでしょうが、人材不足の折、同じ給与であれば、休みが取りやすい職場を選ぶのは当然です。

 

 筆者は介護福祉業界を目指す学生に、賃金はどこもあまり変わらないので年間の休日が何日あるか、休暇が取得しやすいかを、就職先選びの時チェックするようにアドバイスしています。

 ワークライフバランスの観点からも、働きやすい職場の定義として「休暇の取りやすさ」は最上位にくるのではないかと考えます。

 

 

介護業界は休めないという悪い風潮

 

 しかし人手不足の折、休まれると困るという事情があるのも確かです。

 管理者にしてみれば病気などやむを得ない理由でなければ、できるだけ休んでほしくないというのも本音でしょう。

 

 知り合いの若い事業所管理者は部下の有給休暇申請に、「旅行に行くのに有給使っていいんですか?」と疑問を漏らしていました。

 最初から介護職として働いている人たちは、有休は何か特別な事情が無いと取得できないものであると考えている人も多いようです。

 

 そのような風潮は悪循環となり、いよいよ介護業界から人材を引き離していきます。

 

 

休暇取得促進は国策

 

 労働基準法では有給休暇取得には理由は必要ありません。

 普通に働いている正社員の場合、少なくとも年間10日の有給休暇取得が可能です。パートスタッフも勤務年数に応じて有給休暇を取得する権利を持っています。

 詳しくは社労士さんにお問い合わせください。

 

 筆者が勤めていた東京都(地方公務員)は土日祭日、夏休み年末年始で年間130日程度の休みがありました。さらに加えて有給休暇も積極的に取得するよう上司に言われます。

 有給休暇の取得が進まない部署の管理職は、人事から指導されますから、有休取得目標を設定されたりもしていました。

 「公務員は休むのも仕事」とさえ言う人もいました。

 

 これには国として、国民の休暇日数を増やしたいという国策が背景にあります。我が国は先進国の中では休暇日数が非常に少なく、欧米人から見ると、笑い者になっている部分もあるのです。

 

 「公務員は休みが多くていいな」という人もいますが、公務員が労働者の見本となって積極的に休暇を取得しなくてはいけないのです。

 ただし、忙しい部署では休暇を取得するとその分残業が増えます。その中にはサービス残業(残業手当の予算が足りないため)も多く、有休取得の目標が達成できていない人などは、平日に有休を取得して休日に来てサービス残業する等、バカバカしい事態になっていたりしました。

 

 

有給休暇の計画的な取得

 

 さて、有給休暇を取りやすくするためには、職員一人一人に年間の取得計画を作らせるのが最も簡単な方法です。

 

 正社員であれば年間10日程度の休暇計画を毎年提出させます。日数は勤務年数で増減させても良いでしょう。

 管理者等はその予定を組み込んで、シフトを作成すれば良いのです。

 

 家族持ちの人などは、年末年始や夏休み、ゴールデンウィークなどに休暇を欲しがります。逆に独身の人は、旅行に行くにしても、そうした混雑した時期を避けて休みたいかもしれません。

 

 また、連続した休暇ではなく、月に1日2日コンスタントに休暇を取りたいという人もいるでしょう。そうした職員のニーズをうまく組み合わせて年間の労働シフトが作成できれば、誰もが気兼ねなく休暇が取れるようになります。

 

 もちろん、年末年始など休暇希望が集中してしまう時期もあるでしょう。

 そうした場合は、年末年始手当などを上乗せするとともに、年ごとに交代で休みを取るようにする方法も考えられます。この場合、勤務年数の古い人から休めるようにしてあげると良いと思います。

 

 

休暇取得を処遇改善と考える

 

 簡単な計算をしてみましょう。

 正社員10人の職場であれば、10日の有給休暇により年間100日分、シフトに穴が開きます。それを新規雇い入れ職員で埋めた場合、概ね0.5人分の人件費が必要になります。

 概算で人件費を5%上積みするだけで、10人のスタッフに年間10日の有給休暇が与えられるということです。

 

 この5%の人件費を、処遇改善のための経費としてはどうでしょうか?

 月給30万円の5%アップは31万5千円です。

 休みが取れな分、月給を1万5千円アップさせるよりも、確実に年間10日休める職場の方が、長く働いていける職場だと思います。

 

 

 

デイサービスの収益アップ作戦

 

 

 前回の改正の影響で通所介護の収益性が落ちてきています。

今回は、加算の取得や運営方法の改善ではなく、土日や夜間に利用していない遊休設備の活用によって、収益をアップする方法についてご紹介します。

 通常の事業にプラスの収益が期待できます。

 

 

カルチャー教室や会議室などとして貸出し

 

 デイサービスの食堂フロアは、ちょっとしたカルチャー教室の授業スペースや、地域の人たちが集まる場所や会議室として活用できます。

 キッチンがある場合でしたら、料理教室などにも使えるでしょう。電子ピアノなどがあればコーラスの練習場にも使えます。

 また、ホワイトボードやテレビなどがある場合が多いので、通常の会議室としても十分利用価値があります。

 

 会社などの空いているスペースをシェアする仕組みがネットで進んでいます。

 基本的な情報や利用可能な日時などを公開して、利用者同士が直接スペースをシェアする仕組みです。

 「スペースマーケットhttps://spacemarket.com/

 固定客がついた場合、継続的な収益源になりえますので検討しても面白いと思います。

 

 問題は利用者が来た場合、鍵の受け渡しなどにマンパワーが必要になる部分かもしれません。

 もし、デイサービスに訪問介護事業所など土日に営業している事業所が併設していれば、そこのスタッフに手伝ってもらうことは可能かもしれません。

 また、あらかじめ平日など営業時間中にスペアキーの受け渡しをしておくなど、工夫すれば休日にスタッフが出勤してこなくても貸し出しは可能でしょう。

 

 

カラオケ喫茶や飲食店として貸出

 

 カラオケ機材が充実していれば、休日にカラオケ喫茶として利用することはどうでしょう。また、休日だけの飲食店としても使えるかもしれません。

 自ら行うのではなく、喫茶店マスターなど、店主として休日活用してくれる人を募集して、貸し出すことも可能です。継続的に営業できるようでしたら、安定した収益になるかもしれません。

 

 

一般向けのトレーニングジムとしての営業

 

 こちらは事業者自身が事業として実施します。

 トレーニングマシンなどの機器が充実しているデイサービスでしたら可能かもしれません。

 デイサービスを開業する時点で、そのような営業計画を持っていれば、設備機器の導入も配慮でき、一般向けにも使いやすい施設になるでしょう。

 

 問題はトレーナーなどを雇わなければならないことですが、インストラクター無しでも営業は可能だと思います。

 設備の使い方だけを説明して、利用者が自由にトレーニングできるようにすれば、管理人は学生のアルバイトでも可能でしょう。

 

 専門的なトレーニングをしたい人には物足りないかもしれませんが、介護予防の観点から、元気な高齢者をターゲットにすれば、機能訓練指導員を週何日か配置して、質の高いサービスになるかもしれません。

 さらに、新総合事業における予防サービスとして自治体に認めてもらえる可能性もあります。そうすれば、予防サービスの利用者も対象になるでしょう。

 

 

個人間カーシェアリングで送迎車の貸出

 

 個人間のカーシェアリングもネット上で広がりを見せています。スペースシェアと同じように、個人間で貸し借りする方法です。

 https://anyca.net/

 http://cafore.jp/

 一般のレンタカーには車いすが載せられるものはほとんどないでしょう。

 その意味で、ニッチなニーズがあるかもしれません。休日に車いすの家族と一泊旅行に行くなど、必要性はあると思います。

 車のボディーにデイサービスの名前などが入っているので、その分少し抵抗があるかもしれませんが、マグネットシートでカバーできれば少しは良いかもしれません。

 

 

コンプライアンスについて

 

 事業指定(運営基準等)上、営業時間外にデイサービスの施設を何に利用しようが、ご利用者へのサービスに支障が出なければ、特に問題はありません。

 ただし、夜間については、利用延長を希望されるご利用者がいる場合、対応が必要になりますので、注意が必要でしょう。

 

 また、賃貸物件の場合、会議室などデイサービス以外の目的の貸出しは、家主の許可が必要になるでしょう。さらに、貸出した場合の責任や保険などの契約事項を明確にしておく必要があります。

 特に長期にわたって同じ相手に貸出すような場合は、貸出ではなく自事業化した方がメリットはあるかもしれません。

 なお、宿泊場所としての利用は当然ながら別途民泊などの許可が必要になります

 

 

次期改正の共生型サービスで収益向上の可能性

 

 次期改正で、高齢者向け通所介護と障害児向けの放課後等デイサービスが兼業できるようになりそうです。

 この場合、営業時間を分ける必要がありそうです。高齢者の場合、メインニーズは平日の昼間です。放課後等デイサービスは、放課後等ですから、平日午後や、場合によっては休日が営業時間のメインになると考えます。

 通所介護の設備基準で放課後等デイサービスの施設面はクリアできそうです。送迎車両は兼用可能でしょう。

 

 ただし、障害児の受け入れのための設備の在り方と、高齢者の受け入れの設備の在り方は若干異なるかもしれません。

 たとえば、高齢者はイスとテーブルが必要ですが、障害児はクッション性の良い床材を敷き詰めた動き回れる広めのフロアが必要であるなど、毎日の模様替えなど、運営方法の工夫が必要になると考えます。

 

 問題は人員基準です。人員の一つの、児童発達支援管理責任者は高齢者介護の実務経験だけでは任用できません。また、別途「サービス管理責任者及び児童発達支援管理責任者研修」の受講が必要です。研修は都道府県などが開催しています。

 

 

 

混合介護はなぜ導入されるのか

 

 

 東京都豊島区は、介護保険と保険外サービスを組み合わせる「混合介護」のモデル事業を来年度から始めると発表しました。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDE08H02_Y7A200C1PP8000/

 これは、国家戦略特区の制度を活用し実施するもので、介護保険サービスと保険外サービスを一体的に提供する取り組みです。

 

 現在でも訪問介護や訪問看護では自費サービスと保険サービスを組み合わせて提供することができます。混合介護はこれと何がどのように変わるのでしょうか?

 

 今でも、身体介護を30分利用した後に、本来はできない庭の掃除を15分だけしてもらうとか、家族の食事も準備してもらうなどの自費サービスの組み合わせは可能です。

 筆者の経験したケースでは、介入時、ごみ屋敷状態で、その片づけを自費でしたりする場合もありました。

 

 ただ、多くが一時的なサービス提供で、継続的なものは少ないといえるでしょう。

 確かにお金持ちのご利用者の場合は、継続して自費サービスを利用するケースはあります。しかし多くの方が、保険外サービスは最低限の利用というイメージがあります。

 

 行政等の指導では、自費サービスの契約を別途結んで、料金等を明確に説明し同意を受けてサービスを提供するよう指示されています。確かに別に契約を結ぶなどの手間がありますので、このあたりの事務が一体化されてくれると効率化はされるでしょう。

 

 

なぜ豊島区が取り組むのか

 

 混合介護はもともと公正取引委員会が、介護サービス事業にもっと競争性を持たせるべきだという提言から検討が始まりました。

 医療分野ではすでに混合医療が進んでいます。

 その背景には利用者の利便性の向上や、事業者の収入機会の増加、介護職員の処遇改善につながるという見方があるからです。

 

 また、前述の豊島区のような都心の自治体では介護職不足が、地方に比べ深刻です。そうした人材確保の目論見もあるのではないでしょうか。

 なにしろ都心はアルバイトでも他の地区と比べ賃金が高いため、介護職の賃金レベルではあまり魅力がなく、担い手が集まらないという問題があります。

 

 これは、そもそも介護報酬の算定そのものが都心に不利に働いているからです。同じ23区なのにもかかわらず、例えば足立区や葛飾区といった周辺区と単価が変わりません。

 さらに都心は不動産物件の賃料も高く、収益性を考えた場合、介護事業経営には不利です。

 

 

背景には介護サービスの不足危機があるかもしれない

 

 都心では介護サービス不足が進んでいくと考えられます。

 豊島区でも秩父市と提携して特別養護老人ホームの設置を進めています。用地確保が難しい都心区では区外特養の整備は普通になってくるかもしれません。

 また、地代が高いため有料老人ホームやデイサービスも足りなくなる可能性があります。

 

 人材は集まらない、施設などのサービスも足りなくなるという危機感はあるでしょう。

 都心区の自治体は2025年以降を見据えて、介護人材と介護サービスの確保に早急に取り組まなければいけない現状があると思います。

 その対策の一環として、収益性の高い混合介護モデルを導入しようとしているのでしょうか。

 

 

富裕層向けサービスとしての可能性

 

 都心区の区外特養は低所得者向けの対策ではないでしょうか。

 一方で住民税を沢山払ってくれる富裕層高齢者の都心区への転入を促す方策は十分考えられます。

 

 富裕層と言っても大企業年金を夫婦でもらい、資産収入もそこそこあり、老後資金に余裕があるような高齢者のイメージです。

 団塊の世代の多くが、23区外のいわゆるベットタウンに居住していることが多いかと思います。なにしろこの世代の人たちが多く家を購入した1980年代の場合、都心に住むことは難しかったと思いますから。

 その中で老後のお金に余裕がある人は都心のマンションなどへの移住を考えている人も多いと聞きます。

 

 子供が別居になって広い家に夫婦で二人暮らしのようなケースの場合、家は築40年近くになりますから、住み替え時期と考えても良いでしょう。

 だとすると、「都心の便利な場所に2LDKぐらいのコンパクトなマンションを購入し暮らす方が良いのではないか」と、考えている人は多いかもしれません。

 また、埼玉や千葉では医師不足・病院不足が深刻な地域も多く、老後のケア体制に不安もあるようです。

 先日、東京都荒川区で埼玉県越谷市の救急車がサイレンを鳴らしって走っているのを見て、少しゾッとしました。

 

 サービス付き高齢者住宅でなくても、ある程度バリアフリー化したマンションであれば、一軒家よりも老後の生活は楽でしょう。

 こうした富裕層高齢者に向けた生活支援サービスとしての混合介護は十分考えられるかもしれません。

 

 

月ぎめ包括料金の混合介護はできないか

 

 実際の豊島区モデルがどのようになるかわかりませんが、もし可能なら月ぎめの包括料金化できると経営サイドとしても非常に有効だと考えます。

 

 一つの例として、小規模多機能居宅介護があります。

 月額料金なので、はっきり言ってしまえば、庭の掃除をしても運営基準上はそれほどガミガミ言われない部分もあります。実際には認知症のご利用者と一緒に掃除するなどのケアにはなると思いますが、包括料金であればあまり細かいことを気にせずにサービスを提供できる実態があります。

 

 ケアプランで週何時間、月何時間という枠組みを決めて、その時間内であれば多様なサービス提供が可能であるような仕組みです。

 もちろん、現在の報酬よりも収益が高くなるような報酬設定をしてもらわなければ意味がありませんが、月額制にした場合、給付管理などは大幅に効率化できます。

 もしかしたら、月ぎめの契約では自己負担分を多めに徴収できる仕組みでも良いかもしれません。

 そうすればより、柔軟で緻密なサービス提供が可能になるでしょう。

 

 

 

 

将来、ニーズが高まるばかりの医療的ケア

 

 

 訪問看護事業者はもちろんですが、訪問介護事業者も今後、積極的医療的ケアに取り組んでいくべきだと考えます。

 収益性面でのメリットだけでなく、在宅で生活する医療的ケアの必要な人たちが特にお子さんを中心にニーズは高まるばかりだからです。

 

 もちろん、人材不足のおり、医療的ケアまで手が回らないという、訪問介護・障害者居宅サービス事業所も多いでしょう。

 しかし、医療的ケアに特化した訪問介護事業所では高い収益性をあげている事業所もあり、将来そうしたサービスに取り組む視野を持っておいた方が良いと考えています。

 

 

子供のケアニーズの高まり

 

 在宅での医療的ケアニーズは、特に未就学のお子さんのニーズが高まっています。

 こうした未就学の医療的ケア児の人数や生活実態を、厚生労働省は「不明」としています。

 地域では病児と扱われて障害児施設にも入れず、医療的ケアに対応できないため保育園にも入れない状況が多いといわれます。

 結果、ほとんどの場合、母親などの家族が在宅で世話をしている状況であり、仕事や将来設計に大きな影響を与えている状況です。

 

 世田谷区の調査では医療的ケアの必要なお子さんを持つ、主たる介護・看護者(ご家族等)の1日の平均睡眠時間はおよそ9割が6時間未満、かつ睡眠が断続的であるという結果が出ています。

 在宅でご家族がケアをしている未就学の医療的ケアの必要な子供の潜在ニーズはどのぐらいなのか、国自体も把握していない状況です。

 全国医療的ケア児者支援協議会(http://iryou-care.jp/)によれば、文部科学省の全国調査で医療的ケアが必要な児童数(特別支援学校などの就学児)が平成23年で19,303名でしたが、2年後の平成25年5月では、25,175名とおよそ6,000名も増えています。

 これは、近年の新生児医療の発達により、もたらされたものだそうです。

 また、同協議会の推計では、東京都には未就学の重症心身障害児が約1600人存在しているとのことです。

 

 こうした子供たちの在宅生活を支える社会的資源として介護職の医療的ケアが存在している部分も大きいと言えます。

 ちなみに、保育士も同様に医療的ケアが可能になりましたが、医療的ケアの必要な子供を受け入れてくれる保育園等はほとんど増えていないようです。

国が介護福祉士と保育士の融合を検討しているのもこうした背景があるかもしれません。

 

 

障害者福祉サービスは不十分

 

 わが国では、お子さんだけでなく、障害者に対するサービスの供給はまだまだ不十分であり、社会保障給付の額でもヨーロッパなどの福祉先進国からはかなり後れを取っている状況です。

また、社会全体としても必ずしも関心が高いとは言えないでしょう。

 日本では、長い間、障害者支援の主体は家族や行政が中心であり、民間などの外部サービスを利用した広い支援体制がなかなか整わない状況が続いていました。

 欧米ではノーマライゼーションの考え方が浸透しており、障害により障害者が不利益を被ることは、社会システムに問題があり、障害者は外部サービスを積極的に活用して、自立した生活をする権利があるとされています。

 日本は2014年に「障害者の権利に関する条約」を批准し、制度面でやっと国際標準に到達したといえる状況です。

 今後、障害福祉サービスのさらなる充実を図ることが国策となっていると考えます。

 

 

障害者サービス利用はどんどん伸びている

 

 国民保健団体連合会のデータから、ここ4年のサービスの伸びを見てみましょう。

 平成24年から平成28年にかけて、障害福祉サービスの利用者数が24%伸びていますが、障害児だけに限定すると、その伸びは136%です。

 

 こうした伸びは障害者総合支援法が施行され、今まで障害者ではなかった新たな障害者が増加したり、病院や施設から在宅生活へのシフト、また、今まで外部サービスを利用してこなかった障害者が積極的にサービスを利用し始めたことが要因だと考えます。

 特に障害児を持つ家庭では、家族が直接支援していた状況から、一気に外部サービスを使い始めたということでしょう。それだけ障害児に対するサービスニーズは高く、その傾向は今後も変わらないといえるでしょう。

 

 なお、福祉先進国ではそもそもの障害認定の方法が異なり、日本では障害児とみなされない病児も多くが障害者としてサービスを受けられる環境があります。

 わが国が福祉先進国を目指すのであれば、日本でも新たなサービスの利用はさらに増えると考えます。

 

 

まず医療サービスの充実が必要

 

 実は医療的エアの必要な子供たちのケアを外部から提供するには、まず、訪問診療などの医療サービスの充実が課題となっています。

 この点で我が国では訪問診療医が不足しており、その原因として医師への負担が大きすぎるということが挙げられています。

 

 こうした児童に対応する訪問診療医は24時間365日、電話での対応ができることが必要であり、とても一人の医師だけでは対応できず、組織的な対応ができるようにしなければなりません。

 電子カルテの共有などにより、複数の医師による訪問診療の地域的な運用が必要ですが、まだまだ道途上となっています。

 

 しかし、こうした医療環境の整備は、今後充実してくると筆者は考えますし期待します。そうなれば今以上に介護職の提供する医療的ケアニーズも高まって行くでしょう。

 

 現在、訪問介護事業所が喀痰吸引や経管栄養を行うためには、介護職員が研修を受けて、都道府県に事業者登録する必要があります。

 介護職がレベルの高いサービスを提供できるようになることは、そのまま処遇の改善に直結します。

 将来を見据えて少しずつでも取り組まれることをお勧めします。

 

 

ご利用者に対する虐待防止の取り組み

 

 

介護・障害者施設などでのご利用者にたいする虐待が後を絶ちません。

 

 

虐待の要因

 

 虐待の発生要因について、27年度の厚生労働省の調査では、

1位 教育・知識・介護技術等に関する問題(65.6%)

2位 職員のストレスや感情コントロールの問題 (26.9%)

3位 職員の性格や資質の問題(10.1%)

という結果でした。

 

 また、全国に6万7千人の会員を抱える介護職の労働組合「日本介護クラフトユニオン(NCCU)」http://www.nccu.gr.jp/official/index.html

の「高齢者虐待防止に関するアンケート」調査では

1位 業務の負担が多い(54.3%)

2位 仕事上でのストレス(48.9%)

3位 人員不足(42.8%)

 

という結果になっています。

 

 

小規模事業者でも対策は必須

 

 ご利用者に対する虐待行為は、発生した場合、その介護事業者自身の事業そのものに大きな影響をもたらします。

 

 小規模事業者であれば、地域の中で存在していくこと自体ができなくなります。

 

 上記のような調査の結果を見れば、虐待が発生する組織には、職場環境や処遇の問題があることがはっきりしています。

 

 そのような職場では働きにくさゆえに職員が定着せず、恒常的に人員不足の状況が見られます。そのせいで現場でのストレスが常に高い状態にあり、コンプライアンス研修もままならず、虐待が起こりやすい状況と言えるでしょう。

 まさに悪循環です。

 

 介護業界を希望する人材が一向に増えない現在の状況では、今後も介護現場での虐待問題が発生し続けるでしょう。

 

 自らの事業所でそのような問題を発生させないためには、時に、ご利用者の数を制限して、スタッフに負担のかからないような自衛策が求められる場合もあるでしょう。

 

 

NCCUの取り組み

 

 そんな中、前述の日本介護クラフトユニオン(NCCU)は労使関係のある40法人との間で「介護業界の労働環境向上を進める労使の会」を発足させ、「ご利用者虐待防止に関する集団協定」を締結しました。

http://www.nccu.gr.jp/topics/detail.php?SELECT_ID=201708080001

 

 大企業などに勤めた経験が無いと労働組合というものがどういうものか、今一つピンとこない方もいらっしゃるでしょう。

 一般的には会社内の労働者が連帯して、使用者(経営側)に対して労働者の雇用の維持や処遇改善などを交渉していくものです。

 労働組合法により権利保護されています。労働者は誰でも関連する労働組合に加入することが可能です。

 

 小規模な事業者が多い介護業界では、会社単位で労働組合を作ることが難しく、日本介護クラフトユニオンのような職業別の労働組合が必要なわけです。

 

 

虐待防止の具体策を提示

 

 今回締結された「ご利用者虐待防止に関する集団協定」は、労働者側及び使用者である会社側両者の危機感から締結されたものでしょう。

 

 先にも述べたように、虐待の発生は会社の経営自体を危うくします。また、労働者側から見れば、職場環境の改善そのものが虐待の防止ですし、業界全体としても介護人材を増やしていくためには、このような悪いイメージを払しょくしなければなりません。

 

 この協定では労使における虐待防止のための具体的取り組みを提示してくれています。

 この内容はNCCUに関係していない事業者にもとても有効なものだと思いますのでご紹介します。

 

 協定の概要(一部)は以下の通りです。労使はこれらを協同して取り組むとしています。

 

1 ご利用者虐待防止のための教育システムの構築

(1)社会的責任とコンプライアンスを高める研修を行う。

(2)認知症に対する知識と理解のための研修を行う。

(3)介護現場のキーパーソンである管理者のための研修を行う。

 

2 ストレスマネジメントの実践

 ストレスの予防、軽減、解消のためのストレスマネジメントに取り組む

 

3 方針の明確と周知

 法人としてご利用者虐待防止に関する方針を明確化し、従業員に周知する。

 

4 法人内に相談窓口(担当)の設置と周知

 

5 相談担当の教育・研修の実施

 

 虐待防止のために、同様の取り組みを事業所内で行っていくことをお勧めします。

 

 

取り組む場合の留意点

 

 特に重要なのは、3 方針の明確と周知だと筆者は考えます。

 明確な方針を従業員に周知することで法人としての覚悟と責任を明確にします。

 どんなに良いプログラムを構築しても、スタッフが知らなければ役に立ちません。法人が虐待防止に本気で取り組むという姿勢をはっきりと見せる必要があります。

 

 法人本部がそのような表明をすると、現場でそれに逆行するような事態が発生した場合、(例えば人員不足にもかかわらず、管理者が営業成績を伸ばそうとして無理に新規利用者を受け入れ、スタッフの残業や休日出勤が増えているなど)従業員が遠慮なく内部告発できるようになります。

 

 虐待につながるような状態の芽を従業員皆で摘んでいくような雰囲気を作る必要があるでしょう。

 

 また、スタッフに認知症に対する知識が不足している場合、簡単に虐待につながることが多いと思います。

 施設系の事業所などで無資格者のスタッフが働いている場合は、特に注意が必要だと思います。

 暴力など問題行動のある人を理解して、適切なケアができるようになるには、相当の知識とプロ意識が必要だと思います。

 

 はっきり言えば、知識のない人には認知症の介護はできないと考えた方が良いと思います。

 

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その5

 

 

 今回説明するのは介護保険法の施設サービスです。

 介護事業を開業する場合、株式会社ではこのサービスに参入することはできません。

 

 介護保険法の施設サービスは社会福祉法人などの公益法人でないと事業を行うことはできないので、中小企業でも土地など豊かな資産をもっており、公益法人を設立できる財力がある企業でなければ、参入は難しいといえます。

 

 しかし、居宅サービスを営む場合でも、これらのサービスがどのようなサービスなのかを知っておく必要はあります。

 施設サービスはある意味、居宅サービスにとってのライバルであるので、相手に負けないサービスを目指す意味でも知っておくことは重要でしょう。

 今回は、そうした観点からの説明です。

 

 

居宅サービスと施設サービスの違い

 

 介護保険法の施設サービスは、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・介護老人保健施設(老健)・介護療養型医療施設の3つだけです。

 その他の介護サービスは基本、居宅サービスに分類されます。

 有料老人ホームは提供するサービスは特養と似ていますが、居宅サービスに分類されます。

 また、地域密着型サービスの中に、地域密着型介護老人福祉施設があります。

 こちらは小規模な特別養護老人ホームですが、居宅サービスに分類されるとともに、中小企業でも公募による参入が可能です。

 

 

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)

 

 多くの方が、公設の老人ホームというイメージを持っているかもしれません。

 一度入所すると、亡くなるまでそこで暮らすイメージでしょう。しかし、規定上は自宅に戻ることを「念頭」に置いたサービス提供が求められており、終の棲家としての施設を前提としていません。

 

 しかし、入居基準が要介護3以上と変わったことで、実態としては、ほぼホスピス(終末期ケア)サービスを提供する施設になっていると言えるでしょう。

 

 利用者は、在宅生活が困難になった、低所得層の高齢者が中心です。さらに、医療的ケアが必要な方は入居できない場合があります。比較的認知症末期の方が多いかもしれません。 

 

 しかし、BPSD(≒問題行動)などが強いと入居ができない場合があります。そういう方は、精神科のある病院に入院される方も多くいらっしゃいます。

 

 認知症でも比較的穏やかな状態で、かつ下肢筋力が低下して歩行が困難になったような方が典型的な利用者でしょう。

 

 特別養護老人ホームは万能の介護施設のイメージがあるかもしれませんが、上述のように入居できる方はかなり制限されている部分があります。

 

 都会では特養待機者が沢山いるという報道がありますが、その待機者の中には在宅生活が可能な方や入居基準を満たしていない方(申し込んではいるが実際には入れない)も多くいらっしゃるようです。

 

 最近では、地方などで、空きが多く出始めている施設も増えており、入居基準を見直して、幅広い状態の方を受け入れていく必要もあるようです。

 

 

介護老人保健施設

 

 業界では「老健」と呼ばれる施設で、リハビリを中心として医療的ケアを行う施設です。

 

 典型的な利用者のイメージとしては、脳血管性の疾患などにより、身体機能に障害があり、在宅での日常生活が困難な方が、在宅復帰を目指して、医療的管理の下でリハビリを行うという感じでしょう。

 脳梗塞発症後の半身まひの方などが典型的な利用者です。

 

 あくまで在宅復帰を目指した施設ですが、実際には長期にわたり入所している方が沢山いらっしゃいます。

 その意味では特別養護老人ホームとあまり変わらないような状態になっている施設もあります。

 

 一般的には概ね6か月程度で自宅に戻る想定ですが、独居の高齢者などでは、在宅復帰への不安が大きい場合も多く、別の施設に移る方も多いようです。

 

 介護老人保健施設は医師が常勤している必要があるため、病院などに併設されていることがよくあります。

 これはあくまで筆者の主観ですが、介護老人保健施設を併設している病院に入院すると、そちらの施設を利用させられることが多いような気がします。

 在宅復帰の判断はあくまで医師がすることなので、経営上そのあたりのコントロールがされている感じがします。

 

 

介護療養型医療施設

 

 昔は、老人病院などと呼ばれていたこともあります。

 

 介護保険制度前の話ですが、筆者の母親は脳梗塞半身まひで筋力低下のため寝たきりでしたが、心臓弁膜症手術(弁置換)の既往があり、さらに褥瘡があったために(特養を含め)老人ホームに入居できず、死ぬまで病院で暮らしていました。

 

 在宅生活が困難な、医療的ケアの必要度が高い利用者を対象とした施設ですが、単体施設としての介護療養型医療施設は今年度末に廃止される予定です。

 

 今後は、先に説明した老人保健施設や病院の中の療養病床などでケアを行っていくことになるようです。

 

 施設により違いはありますが、やはり介護施設というより、病院のイメージが強く、たとえば食事はベッド上で摂らなければならなかったり、利用者のQOLを考えた場合、問題がある施設もあるようです。

 

 廃止になるのもその辺が理由かもしれません。

 

 

 この項おわり