1 はじめに
人生100年時代を迎え、主にシニアの働き方についての提案として、介護福祉起業をおすすめします。
高齢からの介護福祉の仕事は体力的にちょっとと感じる方でも、起業であれば経験を生かしたマネジメント力で70歳になってもそれなりの収入で働けます。
また、起業は無理でもケアマネージャーや施設の管理者等であれば、70代でも年収400万円以上の社員として働けるのがこの業界です。
しかも、定年退職してから一から起業するのではなく、現役中に副業・兼業の制度を利用し、退職後にスムーズな起業が可能です。
■ 訪問介護事業所を起業した場合の年商及び経営者報酬(ザックリ例)
─── 訪問介護と障害福祉の居宅介護・重度訪問介護を併設した事業所(※1)
【売上】
利用者40名(※2) × 月額報酬 50,000円
= 200万円(×12月) = 2400万円
【経費】
人件費 1500万円(社員2名・パート数名)(※3)
諸経費 200万円(※4)
経営者報酬 700万円(※5)
※1 高齢者の訪問介護と障害者の居宅介護は併設することが可能です。
※2 一人のサービス提供責任者は40名の利用者(高齢者)を受け持つことが可能です(障害者は制限なし)。開業後2~3年で可能な数字です(ただし、スタッフの確保ができた場合です)。
※3 人件費は正社員が増えると高くなります、パートが増えると低減します。
※4 諸経費は事務所家賃・光熱水費・通信費等で、事務所を自前で手配すればかなり経費は抑えられます。
※5 経営者は管理者・サービス提供責任者としてサービス・マネジメント中心の業務及び緊急時の現場対応。
2 介護福祉の業界の現況
─ ニーズは増えるが参入者は増えない
周知のとおり日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は、2022年10月1日時点で28.9%です。
これは、OECD加盟国トップです。
また、障害福祉サービスのニーズも増え続けます。
「これからの障害者福祉サービスの動向」https://carebizsup.com/?p=1501
一方で、「介護職員 2040年度に57万人不足」と厚労省が推計しており、現状でもサービスが足りていない状況です。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240714/k10014510871000.html
特に在宅サービスの要である訪問介護が不足しており、対策が急務になっています。
実際、2024年の介護事業者の倒産が、過去最多の172件(前年比40.9%増)となり過去最高に達しました。うち「訪問介護」が過去最多の81件に及びました。
主な原因は人手不足ですが、事業が黒字でも倒産してしまいます。小規模な訪問介護事業者の場合、責任者が高齢化などにより辞めてしまうケースが多く、そうすると新たな成り手を探すのが困難なため、事業所を廃止するしかありません。
現状、日本の労働環境は非常に逼迫しており、人手不足のため給与面などで不利な介護福祉職は、担い手不足が深刻であり、都市部ではその傾向が顕著になっています。
3 国が「副業・兼業」を促進する理由
令和4年、厚生労働省は「働き方改革」の一環として「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表しました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
これには2つのねらいがあると考えられます。
(1)人生100年時代を迎え、退職後も多様な働き方ができるよう、就業中から副業・兼業を企業が認めることで、シニア層の就労環境を拡大し、社会保障費などの負担をできるだけ減らす。
(2)労働力の流動性を高め、大企業などで停滞する生産性の低いシニア層を活用し、人手不足の業種への労働力転化を図る。
近年、大企業を中心に構造改革が加速し、シニア層の早期退職制度が加速しています。また、再任用などにより給与や勤務日数が減らされる傾向も顕著です。
シニア層の労働者は自分の人生設計を見つめなおし、老後の生活資金を確保するための自衛努力が必要になっています。しかし、現実には60歳定年後、安い給与で5年間再任用され、その後はアルバイト程度しか仕事が無いような方が多く見受けられます。
現役中に身に付けた知識・スキルや人脈等を活用して、60歳以降も安定した収入を得続けられる人はそう多くはありませんし、現役中にその準備をするのも難しいという声も聴きます。
4 「副業・兼業」で老後の仕事を確保する
退職後も安定した仕事を得ていくためには、早めにリスキリングすることが重要であると言われています。
リスキリングとは時代に適応した新しい技術能力を獲得し、新たな仕事を得ていくことです。例えば資格の取得などがあります。
ただ、税理士や弁護士などであれば別ですが、資格を取っただけではすぐに収入になるわけではありません。また難易度の高い資格取得にはたくさんの勉強が必要で、働きながらであれば一層困難です。
しかし、現役中の勉強はそれほど必要ではなく、副業や兼業がそのまま資格取得に繋がるとしたらどうでしょう?
その秘密は、実務経験を重視する資格です。
勉強による知識の取得よりも、現場で働いた実務経験が必要な資格が介護福祉の世界には多くあります。
【介護福祉の資格と就労可能な業務及び平均年収】
資格名 | 実務経験年数 | 従事日数 | 代表的な職務 | 平均年収 |
介護福祉士 | 介護の実務経験3年以上 | 従事日数540日以上(年平均週3日程度、1日1時間でもOK) | サービス提供責任者(訪問介護) | 400万円以上 |
ケアマネージャー | 介護福祉士を取得して5年以上の実務経験 | 従事日数900日以上(年平均週3日程度、1日1時間でもOK) | ケアマネージャー | 400万円以上 |
サービス管理責任者 | 障害者支援の実務経験8年 | 年平均週3日程度、1日1時間でもOK | 障害者施設の管理者等 | 460万円以上 |
これらの資格は、最終的な取得に試験や研修が必要ですが、難易度は士業などに比べれば低く、実務経験がそのまま勉強になる試験内容ですから、あまり心配はいらないでしょう。
介護福祉士の場合、最短での実務経験取得のためには週3日以上(1日1時間でも可)の勤務が必要になりますが、実務経験期間を2年延ばせば(介護福祉士の場合5年)、勤務は週2日程度でOKです。
もし、勤務先の会社に「副業・兼業」制度があればこうした資格を取得するチャンスになります。
5 定年退職後の起業の傾向と対策
典型的な起業例としては、現役時代のスキルや人脈、貯めてきた資産など「自己資源」を利用した起業でしょう。
しかし、スキルも人脈も資産もない人はどうすればよいのでしょう?
https://biz.moneyforward.com/establish/basic/56740/#i-9
「60歳、65歳のシニア起業が増えている?メリットや成功のコツを解説」(マネーフォワード クラウド会社設立サービス)
対策としては現役時代に働きながら資格(できれば現役時代の仕事に近接した)を取得し、退職後に士業等(起業ではありませんが)で独立して働く方法が考えられます。
しかし、働きながらの勉強は困難を伴います。たとえ短時間勤務などで時間が確保できたとしても、その分給与が減ってしまいます。
また、調査ではシニアの退職後の起業の目的として「社会貢献」が高い傾向があります。つまり金儲けだけではなく、SDG的な活動を望んでいる人が多いということでしょう。
6 介護福祉の起業が最適解
上記のことから、利用できそうな自己資源が無い方が、退職後、スムーズに起業を目指すのであれば、介護福祉事業が最適解の一つであるといえます。
この仕事は資格の勉強よりも実務経験が重視される点が重要です。その実務でも給与を貰えますので、収入の低下が抑えられます。
週2日、1日1時間程度でも、訪問介護の仕事はあります。
例えばデイサービスのドライバーであれば、朝と夕方だけ働けます。
しかも、会社の近くや、住居の近くなど、働く場所は自由に選択できます。
お勤めの会社の副業・兼業制度に合わせた形で、働き方を選ぶことができるのです。
また、事業者にとって週2日でも継続的に働いてくれる人材は有難いものです。
さらに、シニアは人生経験も豊富でコミュニケーション能力も高く、ケアワーカーが向いているといわれます。
7 起業までのシミュレーション
① 60歳定年制の会社に勤務(60歳以降再任用はあるが給与が大幅に減らされてしまう)
② 55歳より副業を開始(勤務時間は週4日に減り、給与も減額される)
※副業従事日数は今の仕事の給与額と介護福祉で稼げる給与額との関係で調整すると良いでしょう。
③ 訪問介護で週2日、1日数時間勤務(稼ぎたい場合は重度訪問介護の夜勤などが高収入です)
※(例)週8時間の訪問介護サービス提供で、(額面)月10万円程度の収入になります。
(1)介護職員初任者研修資格の取得
訪問介護員の仕事をするにはこの資格が必要になります。出席すれば取得できる研修の受講です。
資格の取得には自治体から補助金が出る場合が多いです。東京都の場合は無料です。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html#sokushin( 東京都福祉人材センター)
地元の自治体にお問い合わせください。
資格取得は休日利用で最短45日、平均90日程度で取得できます。
(2)勤務する訪問介護事業所を探す
働きたい地域で求人サイトなどを見ればいくらでも見つかりますが、実は小さな事業所の場合、求人にお金をかけるのを諦めてしまい、求人を出していない事業所も多いのです。
お住いの近所で元気なヘルパーさんが出入りしているような事業所があれば覗いてみましょう。求人の張り紙があるかもしれません。張り紙が無くても、電話をしてみれば殆どの事業所が募集している可能性が高いです。
電話番号は地域名と事業所名をネット検索すれば出てきます。
何件か問い合わせてみて、希望条件に合うところを選びましょう。
東京都では資格取得前に訪問介護で働ける制度もあります。詳しくは上記のサイトをご覧ください。
【シニア男性の方に注意点】
介護事業所は女性職員が多く、責任者が女性である場合も多いです。
長く男性社会で働いてきた方の場合、女性の上司、しかも自分より若い女性の下で働くことに違和感がある方もいるかもしれません。
また、介護関係で働く女性は体育会系の人も多く、上下関係が厳しかったり、芸事の世界と同じく、年齢よりも先にこの業界に入った人の方が先輩であったりする場合がほとんどです。
あなたが企業でどんなキャリアを積んできたかを尊重してくれることは無いと思ってください。
入職に際しては、その点で注意が必要です。
しっかり将来の目標を見据えて、新しい世界で生きていく覚悟が必要でしょう。
最初の3ヶ月が一つの目標です。3ヶ月経つと、職場の人間関係や仕事の勘所が見えてきます。それまでは、あまり無理をせず、言われたことを無心にこなすことを心がけてください。
(3)開業資金を準備する
何もない状態から訪問介護事業所を開業するには、500万円程度の資金準備が必要です。
ほとんどが、人件費です。
【内訳】
会社設立・指定申請等費用 50万円
事務所契約・家賃(半年分) 100万円
社員給与(半年分) 300万円
諸経費(半年分) 50万円
介護福祉事業の報酬支払はサービス提供2か月後で、タイムラグがあります。
開業当初は、ご本人と正社員一人ぐらいで稼働し、利用者10名程度確保できれば、黒字化は可能です(ご本人の報酬はあまり高くできませんが)。
正社員が多と人件費がかさみます。アルバイトを上手に使うことで、黒字幅は大きくなります。
(4)開業スタッフを確保する
訪問介護の場合、有資格者がご本人プラス1.5人分必要です。
ご本人が介護福祉士であれば、残りは初任者研修以上でOKです。
1. 5人分を正社員+アルバイトにするか、すべてアルバイトにするかなどは、自由です。
スタッフは開業の指定申請前に確保する必要があります。雇用契約は開業からで構いません。
【開業スタッフの確保の方法】
① 介護実務経験期間中に人脈を広げ、スカウトする。
※アルバイト・スタッフの場合、他の事業所との兼務が可能です。
② 家族や友人など無資格の人を誘い、開業までに資格を取ってもらう。
※前述のように初任者研修は無料で取得できます。
③ 早めに法人を設立し、求人広告を出す。
※一般求人は現状厳しい状況にあります。開業前の求人はさらに厳しい状況です。
この事業はコアな常勤スタッフが確保できると、事業の成長スピードが速くなります。アルバイトだけですと、ご本人の負担が大きくなり、成長力が鈍化します。
(5)開業の裏技 ─ 家族で起業する
開業に際の経費節減方法として、夫婦や親子など家計を共にする家族で起業する方法があります。
コンビニエンス・ストアや小規模なフランチャイズ事業などで推奨される形態ですが、介護事業でも同様のメリットがあります。
訪問介護は就労時間を比較的コントロールしやすいため、管理者兼サービス提供責任者がしっかり常駐(営業時間中いつでも連絡が取れる状態)していれば、他の職員は訪問の無い時間を自由に使えます。
家事などの仕事をやりながらの就労もやりやすく、家族で休みを交代で取るなど、柔軟な勤務体制が可能になります。
(6)利用者の獲得
① 営業活動
指定申請書が受理され、開業が決まったら、地域包括センター・ケマネ事務所・自治体の障害福祉課・相談支援センターなどにチラシや名刺をくばり、営業をかけます。ケアマネや相談支援員など直接利用者の担当をしている人たちは忙しく、なかなかお話ができないかもしれませんが、まずは開業の情報提供をしましょう。
② HP(ホームページ)の作成
開業前に事業所のHPの作成をしておきましょう。HPの目的は利用者に向けだけでなく、ケアマネや行政など、新規に事業所の情報を把握したい人たちに向けて作ります。事業所の基本情報と、サ責やスタッフの経歴などの紹介し、顔の見えるHPにすると良いでしょう。
https://carebizsup.com/?p=1710「小規模事業所のための人材確保術─ホームページとSNSの活用」
③ 開業予定地域で実務経験を積む
起業を予定している場合は、予定地域で実務経験を積んでいると、すでに顔見知りのケアマネや包括スタッフへのアプローチがしやすいでしょう。地理感や地域の利用者像、足りないサービスなどが把握できたりしていますから、スムーズな利用者獲得が可能かもしれません。
8 老後は介護福祉事業で地域に根を下ろす
高齢者の孤独は社会問題として世界的に認識されています。イギリスでは孤独問題担当大臣が設置されました。
高齢者層の孤独は地域社会との断絶が原因の一つだと言われています。地域との繋がりが孤独を解消する手段になります。
介護福祉事業は地域密着事業です。地域の利用者にサービス提供するのが基本であり、地域に根を下ろした仕事です。
そのため、この仕事を始めると、地域に繋がりができます。街を歩けばご利用者の家族に会ったり、スタッフもご近所付き合いをする仲だったりします。
また自治体によっては、開業すると町内会への参加が必要になる場合があります。地域のお祭りやイベントに参加し、これが利用者確保にもつながりますので大事です。
さらに、商工会へ加盟すると、地域の中小企業経営者とのネットワークができます。もしかしたら、前職の知識や人脈がここで生きるかもしれません。
公的なサービスなので、公私混同することは良くありませんが、節度を守って地域の人たちとの関係を深めることで、地域に根差した老後の暮らしが可能になるでしょう。
9 企業の皆様へ
企業様向け資料介護福祉事業の副業・兼業プログラム(企業向け説明資料)
令和和3年4月、改正高年齢者雇用安定法が施行され、「70歳までの就業確保」が努力義務化されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html
企業にとっては競争力の維持のために、定年制は継続したいところです。
そのためには、社員の退職後の仕事の確保が急務になってきています。
これまで述べてきた通り、副業・兼業制度を利用し、5年程度の準備期間で、退職後の職員の第二の仕事を安定的に確保することができます。
退職間際になってから、就労マッチングをするよりも、安定的です。起業以外にも収入を確保できる選択肢があり、個人のワーク・ライフ・バランスに柔軟に適応する転職プログラムであると考えます。
また、社会課題に対応した労働力転化が実現でき、企業の社会的責任を果たす上でもメリットが大きいでしょう。
介護福祉業界は社会貢献意識の高いシニア人材の進出を歓迎します。
退職後の介護福祉事業への転職・起業などに関するご相談・説明会などを受け賜ります。
本ホームページよりお問い合わせください。
【コンサルタント・プロフィール】
杉浦 太亮(スギウラ タイスケ) 東京都足立区出身 立教大学 社会学部社会学科卒
<業務内容>
介護・福祉事業コンサルタント・開業支援・実地指導支援・コンプライアンス支援・経営支援 他
<経歴>
東京都庁17年勤務(税務・広報・人事・教育行政に従事)
ケアマネージャー 介護福祉士
在宅介護総合事業会社(居宅介護支援・訪問介護・福祉用具・通所介護・訪問看護・小規模多機能居宅介護・介護初任者実務者研修などを経営)にて経営企画、人材確保、在宅介護事業コンサルタント、研修事業などに従事後独立
介護福祉事業開業相談・サポート件数多数