高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 その1

◆特別養護老人ホームの待機者が減り始めた

http://mainichi.jp/articles/20160701/k00/00m/040/092000c(毎日新聞)

 

2015年の介護保険制度の見直しにより入居条件が要介護3以上になるとともに、1割負担から2割負担になる人の利用料金が上がることなどが影響し、特別養護老人ホームの待機者が減り始めているようです。

 

政府は国民の介護負担の軽減を目指し、親の介護などが理由による退職者(介護離職)が出ないようにしようとしていますが、現実的には逆方向の結果がでているかもしれません。

そもそも、待機者はその時点で在宅や他の施設で生活しているわけですが、そうした現状での生活に不安があるから特養に申し込んでいるわけです。

 

これは我が国の介護を必要とする多くの高齢者(とその家族)が不安を抱えながら生活をしているということであり、待機者が減ったからと言ってそれが改善されたわけではありません。

 

介護離職をする人も親の介護の不安に押しつぶされるような形で離職をしているケースが多く、我が国の介護保険制度自体が国民のニーズに応えきれていないということを明示しているものだと思います。

 

経済の面で見れば、こうした老後の生活不安が、消費意欲を低下させ、経済成長を阻んでいることは明らかです。それゆえに国は消費増税による社会保障の改革を目指していたのですが、現政府は現状に甘んじているような気がします。

このままなし崩し的に、団塊の世代が後期高齢者へと突入していくのでしょうか?これでは国民の老後生活不安は一向に払しょくできないでしょう。

 

 

◆老後の住宅探しは結構、難題

 

筆者が年を取り体が不自由になり始め、余生を過ごす住宅を探さなければならなくなったら、どのようにするだろうかと想像してみました。すると、意外と悩んでしまうことに気が付きました。

 

現在、古い1軒家に住んでいますが、後10年程度で限界が来るのではないかと思います。するとその後に住む住宅は終の棲家になることを考えて、どのようなものが良いか、条件をシミュレーションしてみました。

ちなみに筆者は現在、独り身の男性で、今の家は整理することにして、後腐れが無いよう死後の資産が残らない前提での住宅探しとなります。

その際のキーワードは「不安の無い余生です」。

 

≪条件シミュレーション≫

1 基本的に住み慣れた地域での生活の方が不安はないだろう

2 例えば脳梗塞の発症などにより要介護になった場合でも、自宅で生活が続けられること

3 あまり広い住居ではなく、できるだけシンプルな生活をしたい

4 できれば老人ホームなどのサービス付きの施設ではなく、介護が必要になったら在宅サービスを利用して余生を過ごしたい

5 住宅内はバリアフリーであり介助を受けながら車いすでの生活も可能、一人で外出もできる

6 元気なうちは地域で趣味やスポーツ、ボランティア的な活動をするなど社会とのつながりを作りたい

7 できるだけ食事は自分で準備したいので体力低下しても買い物代行などが利用でき、台所も使える工夫がほしい(椅子に座って作業できるキッチンや手すり設置、電磁調理器など)http://www.lixil.co.jp/products/kitchen/welllife/index.html

8 その他基本的な住宅設備については通常のワンルームマンションなどと同様

 

とりあえず以上のような条件で、実際にネットなどで賃貸住宅を探してみました。しかし、現状では自分のイメージな合う住宅を探すのは相当困難であるという実感を持ちました。そもそ良い物件が見つかっても高齢者には貸してくれない場合もあります。これでは老後に安心して生活できる住宅探しなんてできるのだろうかと思います。

 

 

◆サービス付き高齢者専用住宅はどうだろう

 

筆者のイメージする老後の住宅として、一番イメージに近いのはサービス付き高齢者専用住宅(サ高住)になるかもしれません。

 

サ高住は今住んでいる地域に沢山ありますし、家賃も手ごろです。住宅内はバリアフリー化されており、外出も自由で、部屋も普通のワンルームマンションと変わりはありません。

 

しかし、実際に元気なうちに入居と考えると、少し考えてしまいます。

現状のサ高住は住宅型老人ホームとほとんど変わりません。介護サービスを外部の在宅サービスを利用するだけで、実際は前述の特別養護老人ホームや有料老人ホームに入居できない方の入居施設となっている感があります。

まだ、元気なうちからそうした住宅を選ぶことには抵抗があります。いわゆるアクティブシニア向けの住宅にはなっていないのが現実ではないでしょうか。

 

また、介護が必要になったときケアマネジャーを自分で選び、ケアプランンを自分なりにアレンジすることがやりにくそうな感じがします。

多くのサ高住では在宅介護サービスが委託契約などにより付随しており、他の事業所を選択することは可能なのですが、付随するサービス事業所を断るには少し抵抗があります。また、元気なうちには必要のないサービスが付随している場合もあり、余計なコストになっている気もします。

 

◆国は老後の住み替えモデルをもっと提示して環境整備を進めるべき

年を取ればいつ要介護になるかはわかりません。要介護になってから別の住宅に引っ越すことは環境変化に弱い高齢者にとっては不安があるところです。

引っ越しによる環境変化を楽しめる程度に体力が残っている時期に入居するのがベストのタイミングなのですが、周りの入居者の多くがすでに要介護者であったりすると、「元気なうちからわねぇ・・・」という抵抗感が沸いてきます。

 

また、要支援の時期はまだまだ自宅で生活できると思っていても、ある日突然それができなくなる時が来たりもします。もちろん要介護5でも自宅で生活することは可能です。しかし、住宅の状況や障害の状況によってはそれができない場合もあります。身体が不自由になってから、どこか知らない場所の施設や高齢者住宅に入り余生を送ることは、悲しいことのような気がします。

 

ところが周りの高齢者の人たちを見ていると、身体が不自由になり今まで住んでいた住宅に住み続けられなくなって初めて、サ高住などに引っ越すという状況になっているようです。つまり、抵抗なく元気なうちから入居ができて、介護の不安もないという住宅があまり見当たらないというのが、今の正直な感想です。

国は「在宅介護、在宅介護」と金科玉条のごとく叫んでいますが、「在宅介護」を継続できる老後の住み替えモデルをもっと提示し、不動産業界と介護業界に働きかけて環境整備を進めるべきでしょう。老後の住宅不安が解消することは、老後の不安の多くの部分を占めると考えます。

 

次回は、元気なうちから抵抗なく入居できて介護「不安」が無い住宅や低所得者向けの住宅について考えます。

 

 

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