◆外国人労働者受け入れは人手不足の救いになるか
厚生労働省、は経済連携協定(EPA)による東南アジア3カ国の介護福祉士に、訪問介護を解禁することを決めました。2017年4月からの実施を目指すそうです。
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016080500036&g=eco
移民の受け入れは人手不足と経済成長の奥の手と言われています。
移民による人口増加を経済発展に繋げてきた国と言えばアメリカ合衆国がその代表でしょう。ヨーロッパ諸国(EU)も同じような移民政策を展開してきましたが、今、このやり方は過渡期を迎えています。ご存知のとおり、イギリスのEU離脱です。イギリス国民は移民の受け入れを拒否しEUからの離脱を決めました。
日本は移民についてはかなり厳しく制限してきた経緯があります。歴史的に多民族が交わって社会を作っていく構造にはなっていませんので、アメリカのような移民政策を国民が簡単に許容することは考にくいと思います。
私個人としては、多様な民族が交じり合うことは、地球上に住む人間という種族にとってはごく自然なことであり、風土の保全としっかりした語学教育が可能であれば拒むことではないと考えています。
しかし、現在、在留外国人の就労制限は厳しく、仕事のために在留を認められているのは通訳など一部の職業のみです。当然、EPA以外の介護福祉の仕事で在留許可を得ることはできません。留学生がアルバイト(時間制限あり)で介護福祉の仕事に就くことは可能ですが、語学留学できている外国人ではコミュニケーションのレベルが問題になります。
日本語の習得は外国人労働者にとっては大きな壁でしょう。ヨーロッパでも移民の語学レベルが大きな問題となっており、質の高い労働力に繋がっていないという指摘があります。
日本人と結婚していたり、家族がいる人は就労が可能です。現状でもこうした許可により多くの外国人が介護施設等で働いていますが、この方法でも人手不足の解消につながるほど多くの労働者を確保できるとは思えません。EPAによる介護職の受け入れも2016年までで2,000人程度です。ほとんど意味を成す数字ではないでしょう。
◆人手不足はいつまで続くだろうか 予想してみる
ここまでの考察を踏まえて、今後の動向を整理したいと思います。
1 今後、急激な円高などによる企業会計の悪化は考えにくい
現在、日本とアメリカの経済格差は広がりつつあります。現状、1ドル100円程度が今後、米国の利上げなどにより長い目で見ると円安に進むと考えられています。しかし一方で、日本は人口減少によりデフレが緩やかに進んでいくという考え方もあり、デフレの場合は円高になりますので、ドル円が急激に大きく変動することは考えにくい状況です。
ドル円が安定的であれば、日本企業は緩やかに収益拡大をしてくと予想されます。
2 日本の労働人口の低下により労働者需要はさらに増加
1億総活躍と政府が言わなければならないのは、まさに日本人が減ってしまうことが原因です。労働需給はさらにひっ迫することが予想されます。
3 外国人労働者の受け入れ拡大(移民の受け入れ)は相当の時間がかかる
国内で移民の議論ができるようになるまで相当の時間が必要と考えます。今はどの政党も触れたくないようです。
しかし、労働者不足は待ってくれませんので、将来、介護サービスが受けられない介護難民が大きな社会問題となるようであれば、議論が始まるかもしれません。
現状のEPAの枠組みを超えて、日常会話レベルの日本語能力を持つ外国人介護労働者を大量に受け入れられるようになるのは、かなり先のことでしょう。
4 賃金上昇による効果は限定的
政策的な賃上げによる効果はある程度期待できます。しかし、介護福祉業界だけではなく他の業種も相対的に上がるので、全体として人手不足の解消に繋がるか疑問があります。処遇改善加算をどこまで上げることができるか。消費増税、医療や年金など他の社会保障コストの関係により、介護福祉の方にどれだけお金を回せるかによると考えます。
このままでは介護難民が深刻になることを、介護福祉業界全体でアピールしていくことが重要でしょう。
5 人型ロボットが介護士の代わりをしてくれるのは難しい
ロボットの活用では、いわゆる人型ロボットより、先進的なリフトなどの開発により、移乗や移動を利用者自身がコントロールできるシステムや、排せつを自動化できるベッドなど、介護職員に頼らない福祉用具の開発の方が、人手不足には有効だと思います。
ベッドからお風呂まで利用者や家族がリモコンを操作して、オートーメーションで移動できたり、ベッドがそのままお風呂になってしまう構造であったりと、介護労働を軽減する福祉用具は今後さらに開発が進むでしょう。
6 多様な業界で人を必要としないサービス提供の仕組が開発され発展する。
介護だけでなく、無人運転車(タクシー・宅配便など)の実現。ICタグや自動決済システムの利用拡大により、巨大な自動販売機と化すコンビニやスーパー。店員のいないファミリーレストランやファストフード。人型ロボットのショップ店員。などなど、ろいろなサービスを自動で提供できるシステムが今後、開発され普及するでしょう。
こうした自動化は日本人が非常に得意とする分野です。回転ずしなどはその先駆けと言えます。
こうした自動化により介護以外の業界で人手不足が解消すれば、それが介護福祉業界の人手不足解消の決定打となるかもしれません。
◆今後なくなってしまう仕事
人手不足解消の決定打は、多様な業界でサービスの自動化が進み、人手を使わなくてもサービスが提供できるようになること。それにより、日本全体の人材不足が解消され、介護業界にも人が流れてくることでしょう。
多くの企業で、企業収益を上げるための自動化の取り組みは、今後一層の盛り上がりを見せるでしょう。政府も強力にバックアップするはずです。特にパート労働者を活用してきた分野では進展が激しいのではないかと考えます。
米国で発表された、今後、機械や人工知能が奪う職業ランキングの上位15位を見てみます。
1 小売店販売員
2 会計士
3 一般事務員
4 セールスマン
5 一般秘書
6 飲食カウンター接客係
7 商店レジ打ち係や切符販売員
8 箱詰め積み降ろしなどの作業員
9 帳簿係などの金融取引記録保全員
10 大型トラック・ローリー車の運転手
11 コールセンター案内係
12 乗用車・タクシー・バンの運転手
13 中央官庁職員など上級公務員
14 調理人(料理人の下で働く人)
15 ビル管理人
こうした仕事がなくなる一方、介護などの直接的な対人援助の仕事は残るといわれています。コミュニケーション技術や身体接触も含めた援助技法により、一人ひとり個別に支援するサービスはなかなか自動化できない分野です。前述の福祉用具の進歩による自動化は、コストがかかり、一部の施設やお金持ち以外利用できません。通常の在宅介護や認知症介護では今まで通り、人手が無ければ難しい状況は続くと考えます。
◆仕事の自動化が進めば今度は失業者が増加
自動化により人々が職を奪われる状況が、今後10年程度で明らかになるかもしれません。
有効求人場率は低下し、労働市場は買い手市場に転化するでしょう。失業率が上がり人々が職を求め始める時代が来ると、介護福祉分野の人手不足も解消することが予想されます。
しかし、あと5年程度は今の状況が続きそうです。その間に我が国の介護福祉サービスが人手不足で破綻しないことを祈ります。