高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 その3

◆無届・無登録の高齢者ハウス

 

前回述べた、「社会福祉各法に法的位置付けのない施設」は「無登録の高齢者ハウス」という問題として表面化しています。この問題は平成21年に起きた群馬県の無届老人ホーム「静養ホームたまゆら」の火災で10人の方がなくなった事件により、世間に知られるようになりました。

http://www.wam.go.jp/wamappl/bb11GS20.nsf/0/66c44ff467bec177492575e10007762d/$FILE/20090626_3shiryou4.pdf

 

しかし、最近になり増えてきたのはいわゆる包括介護サービスを提供する老人ホーム型の無届施設ではなく、訪問介護など外部の公的介護サービスを利用するタイプです。その仕組みについて説明しましょう。

 

通常サービス付き高齢者住宅や老人ホームは都道府県への届け出が必要です。こうした届け出をせず要介護や要支援の高齢者を入居させ、訪問介護などの介護サービスを提供するのが無届け介護ハウスもしくは無認可の高齢者ハウスと呼ばれるものです。

呼び方はいろいろのようですが「グループハウス」や「高齢者シェアハウス」昔は「託老所」などと呼ばれてもいました。昨年、NHKクローズアップ現代でその問題が放送されました。

http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3602/1.html

 

こうした無届ハウスの筆者が考える問題点をまとめると以下の通りです。

 

1 住宅としての質が悪い場合がある(雑魚寝の状況など)

2 費用の妥当性(生活保護費を全額徴収され、金額が不当に高い場合がある)

3 食事などの生活サービスが劣悪な場合がある

4 介護保険サービスの契約の自由が担保されない(業者を選べない。こうしたハウスの多くがケアマネや訪問介護が付帯しており、そこを利用しなければならない)

5 訪問介護サービスなどは住所地特例が適用されない(老人ホームやサ高住は他地区から引っ越してきた場合、前の住所地の自治体が介護費を負担する)そのため、家賃の安い地方に無届ハウスが増えると、その自治体の財政がひっ迫する。

6 ハウス内に感染症が蔓延しやすい(通常のマンションなどと違い、同じ介護スタッフが各居室を巡回してサービス提供するため、介護スタッフが感染を媒介したり、共用スペースがある場合、感染者の出入りを誰も管理しないため、入居者間で簡単に感染が広がってしまう)

7 区市町村の生活保護課はこうしたハウスを頼みの綱としており、特養に入れない生活保護の要介護高齢者の住みかとして利用されている(行政の中でねじれ現象)

8 病院の退院支援担当(MSWなど)も同様に頼りにしている

9 地域包括センターさえ頼りにしている場合がある

10 介護保険サービス事業所と同程度のマニュアルを整備する義務が無い(災害時対応・緊急時対応・苦情処理対応など)

11 火災報知機やスプリンクラーなどの防災設備がない場合がある

 

などなどです。

前回紹介した高級な高齢者向けマンションなどは、入居者に不利益が無いよう、ある程度質の高い設備やサービスを提供しています。

問題は低所得者向けの無届ハウスです。

 

介護現場で見る風景としては、介護が必要になった高齢の親のために、お金を払って良い施設に入ってもらおうという子供は相当のお金持ちか、その親が資産を持っている場合のみです(あとで帰ってくる)。

今の世の中、「老後に必要なお金は親自身のお金で賄う」というのが一般的な考え方であると思います。

従って、生活保護の親の世話にお金を出してまで面倒見る子供は少なく、住宅を探す場合でも、親の持っている財力で入居できるところを探すことになります。

 

もともと、古いアパートや住宅に住んでいた親が、介護が必要になり引っ越す先として、豪華な老人ホームでなくても良いのではないかという考えもあるでしょう。特養に入れないならば、家賃の安い高齢者シェアハウスのような施設でも大して変わらないのではないか?子供としては、そのように考えるのも仕方がないことだと思います。

 

もとも日本人は慎み深い国民です。体が不自由になった高齢者が、ともあれ「不安」なく生活できれば、多少環境が悪くても(低所得の高齢者であれば、場合によっては元々住んでいた自宅よりはマシだったりする)多くを望まず耐え忍ぶことができてしまいます。そうした忍耐力の強さに行政や業者も甘んじてきた部分もあるのではないかと思います。

 

 

◆高齢者は何はともあれ、「不安」を解消してくれるサービスに頼る

 

グループハウスのような高齢者が集まって助け合いながら共同で生活するという発想は昔からあり、そもそも江戸時代の長屋などは助け合いと相互監視の発想から形成された住宅方式であり、共同住宅の形式としてなんら非難されることでは無いと考えます。

 

体が不自由になり、もう自宅では生活ができないとなった時、自分の収入で得られるとりあえずの「安心」として無届ハウスは非常に手ごろであり、逆に言えば他に選択肢が無いというのが現実でしょう。

 

しかし、その人が無届施設に支払うお金と同程度のお金を払えば、低額なサービス付き高齢者住宅や軽費老人ホームに入居できる場合があります。

さらに言えば、筆者などは、たとえば病気で入院し退院する際、「もう自宅で生活できない」という人でも、住宅改修や福祉用具、訪問介護や看護を利用すれば、ほとんどの人が元居た自宅で生活できると考えています。多くの在宅介護のケアマネージャーもそう考えるでしょう。

 

なのになぜそのような無届施設を利用するのか?ポイントはその「不安」を解消できる能力が我が国の社会保障制度に備わっていないということです。

次回はその理由を具体的に考察したいと思います。

 

 

このエントリーをはてなブックマークに追加