高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 その4

 

なぜ無届の介護施設を利用するのでしょうか?以下のような理由があるのではないかと考えています。

 

◆理由1 在宅生活を勧めてくれる総合的相談窓口ない

 例えば、生活保護の高齢者が脳梗塞で入院し退院する時、本人が自宅に戻って生活ができないと判断した場合、どんな住宅に入居するか相談する人が誰かによりその先が変わってしまいます。

(1)区市町村の保護課のケースワーカーである場合

 担当するケースワーカーが、無届ハウスを紹介してしまう場合がある。

(2)病院の退院支援担当も上記と同じケースが考えられる

(3)ケアマネージャーに相談する場合は、サ高住か無届ハウスしか選択肢がない

 

そもそも、本人が「自宅で生活できないという」判断をし、医師がそれを認めれば、それを覆すことはできません。病院は無届ハウスだろうがサ高住だろうが退院させればそれで良いのです。同様にケースワーカーも保護給付額に見合うことだけが重要で、安ければ安いほど歓迎します。

 

問題は本人が入院中に「自宅で生活できないとい」と判断してしまった場合、その不安をしっかり受け止めて、在宅介護の知識がある相談者が「そんなことは無いですよ、こうこうこうすれば自宅で前と同じように生活できますよ」と説明できる機会が無いことです。自宅に戻らないと本人が判断した瞬間に、在宅ケアの専門家であるケアマネージャーは排除されてしまう現実があります。

 

ケアマネージャーはサ高住や無届ハウスなどに入居が決まった後登場してきます。本人の不安を受け止め、心身の状況や財力を総合的に勘案して、退院後に住む場所を一緒に考える人が必要です。

 

◆理由2 低額なサービス付き高齢者住宅や軽費老人ホームが一杯で入れない

特に地代の高い都心部はほとんど需要に応えられる状況ではありません。少し離れたた郊外の他自治体であれば空きがありますが、住み慣れた地域を離れることへの抵抗があるかもしれません。

 

また、生活保護の人の他地区への引っ越しにはいろいろと制限があり、高齢者にとっては非常に面倒な手続きもこなさなければなりません。さらに、引っ越し費用などの金銭面でのトラブルも起こりやすくなります(地方の無届ハウスの中にはこうした手続きを代行してくれる業者もいるようです)。

 

地域の低額な高齢者施設に空が無ければ、ケースワーカーはとりあえず住める場所を探すしかありません。結果、無届だろうが受け入れてくれる施設を選択するしかないでしょう。このようなことはMSWでも同じだと思います。

 

 

◆地域包括支援センターが機能していない

 

下流老人http://ironna.jp/theme/388という本が昨年出版され流行語にもなっています。下流老人の定義は以下のようです。

1(高齢期の)収入が著しく少ない

2 十分な貯蓄がない

3 周囲に頼れる人間がいない(社会的孤立)

このうち社会的孤立が無届ハウスなどに繋がる大きな原因です。

 

生活保護の高齢者は多くが周りに助けてくれる親族がいません。お金の切れ目が縁の切れ目ということが、下流老人には現実に起こります。

さらに高齢者や障害者は自力での社会適応能力が低下します。だから支援が必要なのですが、その支援がうまく届いているかというと、はなはだ疑問です。

 

地域包括センターにはソーシャルワーカー(社会福祉士)とケアマネージャーがいて協働しています。本来は地域包括センターが高齢者の地域での生活を支え社会的に孤立しないようにするはずですが、実態は地域包括センター自体が無届ハウスを紹介している状況です。

 

無届ハウスすべてが問題であるとは言えませんが、なぜ在宅介護の要である地域包括センターが安易に無届ハウスを紹介してしまうのでしょう。

 

この課題は少々複雑です。一つのケースを紹介します。

 

認知症の親の介護負担が重く同居家族が悲鳴を上げており、親の年金ではグループホームに入れない。生活保護を受給してグループホームに入居することは家族の収入から無理。要介護2なので特養も無理。低価格のサ高住を探したが、認知症のレベルがひどいので入居不可(高額な物件はあり)、軽費老人ホームや老健も同様で不可。こうしたケースの場合、担当するケアマネージャーは家族に対して在宅介護を継続するよう説得することができるでしょうか。

 

小規模多機能の宿泊サービスなどを利用しながら、在宅介護は可能だと思いますが、それも拒否された場合、あとは病院に入院するか、無届でも受け入れてくれる業者を探すしかないでしょう。

 

ケアマネージャーが地域包括と相談しながら、区市町村の保護課と交渉してなんとか生活保護を認めてもらうようお願いしても、区市町村の下請け組織である地域包括に援護を期待するのは難しいでしょう。

 

こうした場合、地域包括は無届介護ハウスのリストを持っており、ケアマネージャーに紹介してくれます。本当ならば家族が年金では足りないグループホームの費用を出して、正規の介護サービスに繋げるのが筋なのですが、家族にとってグループホームと無届介護ハウスの違いが判らなかったり、少しでも安く済ませたいと訴えられると、ケアマネージャーも地域包括もなかなか強要はできません。

 

 

◆低年金の高齢者の住宅政策は相当の改善が必要

 

前述のケースでは、国は家族に頼らず、自分の年金でグループホームに入れるように生活保護制度を改善するべきでしょう。それが福祉先進国のスタンダードです。

 

国が本当に介護離職(家族の介護負担による退職)を減らしたいならば、一人の高齢者が死ぬまで金銭的に自立して生きてゆけるようにしなければ、家族の介護負担はいつまでたっても軽減しません。

 

低年金の生活保護高齢者に引っ越しの自由が無く、住居選択の自由が奪われることは社会保障制度自体が人権侵害をしていることにもなります。

 

「税金で生きているのだから当たり前だろう」というのは、福祉後進国の人の発想です。この国に生まれ、まじめに働いて税金と国民年金を納めていた人は、死ぬまで金銭的に自立して生活できる社会保障制度にしなければなりません。いまだ、この国にはそれができません。

 

これでは多くの人が老後の不安を抱えて生きなければならないのは当然のことでしょう。

 

次回は、介護福祉の視点から今後の高齢者住宅のビジネスについて考察します。

 

 

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