なぜ都会にはタワマンばかりできて福祉施設ができないのか?

 前回、23区内の要介護者や障害者が在宅スタッフの不足で、郊外に引っ越さなければならないという現実を書きました。

 こうした引っ越しを余儀なくされる人たちは多くが重度の人や、一人暮らしが難しい方々ですが、それならば都会にグループホームや特養がもっとあれば問題は無いと考えるでしょう。

 しかし、ご存知のように、都会にはそうした施設はなかなか建設できません。自治体の説明は「土地が無いので」という理由ですが、本当にそうなのでしょうか?

 

 なぜなら、都会では更地があるとだいたいマンションかアパートになっているように思われます。グループホームや小規模特養が建設可能な空き地でも、一般向けの集合住宅ができることが多いようです。

 昨今は都会でも空き家が増え、そうした空き家の土地の再開発に積極的なデベロッパーの動きも目立ちます。

 広い開発用地がある場合は、タワーマンションは乱立しますが、福祉施設は行政が介入しなければほとんど建設できないように思われます。

 

銀行や不動産事業者は福祉施設を作りたがらない

 

 土地を持っている人がその活用を相談するのは、まず、不動産事業者や銀行になるでしょう。実はこの時点で特養などの福祉施設の可能性は無くなります。

 その理由は以下の通りです。

 

  • 銀行は建設補助金が出ると困る

 福祉施設の建設には行政から補助金が出される場合があります。しかし、銀行は建築費の融資利息で稼ぎたいわけですから、行政から補助金を貰って建物を建ててもらっては困るのです。稼ぎが無くなります。

 また、土地を担保に建築費を融資できるお客さんは非常に優良なお客さんであり、取りっぱぐれが無いわけですから、下にも置かないもてなしで、囲い込もうとします。

 

  • 不動産業者は手数料の取れない物件は建てない

 不動産業者の儲けは、建築費や仲介、販売手数料などです。

 入居系の福祉施設の場合、そうした手数料を取ることはできません。有料老人ホームについては儲けがあるので、一部の事業者が参入していますが、都会の場合、高級な住宅型有料老人ホームになりますので、お金持ちしか入居できません。

 これでは高級マンションを建てるのと変わらないでしょう。

 

銀行と不動産会社のマンション包囲網

 

 土地オーナーが銀行や不動産事業者に相談に行けば、土地活用チームが稼働し、瞬く間に包囲網が作られ、自分たちに都合の良い利用方向で話が進んでしまうのが現状です。オーナー自信に社会福祉への貢献という意思が強く無ければどうしようもないことです。

 

 介護福祉業界の人なら、特養などの特定の施設を建設する場合、補助金が出る上に、相続税などの面でメリットがあることは誰でも知っています。

 マンションを建てても補助金は貰えませんし、逆に建設費は借金となり入居費から返済していかなければなりません。税金面でもメリットはありません。にもかかわらずマンションが建つのはこのように強力なビジネス包囲網があるからです。

 

抵当権の問題

 

 介護福祉制度にも問題があります。

 例えば、ある介護福祉関係の企業が、自己資金プラス銀行からお金を借りて土地を手に入れて(土地は担保)、そこに福祉施設を建てようとしても建設補助金はもらえません。

 この場合、土地が担保になってしまい、抵当権が設定されるからです。

 制度上、抵当権の付いた土地に補助金を使った施設は作れないことになっています。

 確かに入居者の住居を保証する意味で、人手に渡ってしまう恐れがある土地に施設建設は問題があります。しかし、この規定があるために、資金力の無い介護福祉事業者にとって大きな事業障壁になっていることは確かです。

 こうした規定は、古い考えを引きずっている部分です。福祉事業が裕福な篤志家によって担われていた時代の名残であり、もっと現実的な制度にするべきでしょう。

 

解決策はありそうだが国や自治体の腰は重い

 

 こうした問題を解決するには例えば以下のような方策がありえます。

  • 行政に土地オーナーの相談窓口を作り、大々的にキャンペーンをする

 東京では都が主導で上記のような政策を積極的に打つべきでしょう。

  • 大規模なマンション等の開発には福祉施設の併設を義務付ける。もしくは補助金を出す

 これは関係業界団体の抵抗に会うでしょう。現政権下では難しそうです。

  • 政策金融公庫などで社会福祉施設向けの土地購入のための融資をしやすくする

 当然抵当権設定は無し。少額なら現状でも行けますが、23区内で建築可能な土地ですと、高額になるため、貸付限度を超えてしまうようです。

 

政治的な動きが無ければ解決できない

 

 介護人材不足の現在、施設を作っても働き手がいない状況であり、人材面、施設面の両方からの対策が必要でしょう。

 しかし、政治的な力学上、要介護者や障害者は弱い立場です。選挙で票になるのは元気な高齢者やこれから老後を迎える人たち。要介護者や障害者の声はなかなか届かないようです。

 思い切って全面オートメーション化した最先端の施設を都心で開発しても良いかもしれません。先端的な研究開発の場として特区などを利用し、企業の参入を呼び込めばタワマン包囲網も崩せる可能性があります。

 

 

 

 

都心の介護人材不足は危機的

23区内の介護職の求人倍率

 

このところ、東京都の有効求人倍率は2倍前後で推移しています。
 しかし、介護サービスに限って言えば、現在は7倍前後まで跳ね上がっています。さらに、23区に限って言えば、これが10倍まで上がってしまう状況です。つまり、事業所等からの10名の求人に対して1名しか応募が無いということです。これは正社員の倍率ですが、パートに至っては16倍に近い数字です。

 この統計は、東京のハローワークの数字です。実は、多くの事業者ではあまりパート求人をハローワークに出していません(出しても無駄と考えている)。
 従ってパートの倍率は氷山の一角であり、実態はもっと多くの求人があります。

令和元年11月 東京都の介護サービスの求人状況
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/kakushu_jouhou/chingin_toukei/tesuto/_121515.html

求人種

有効求人数

有効求職者数 求人倍率
23区 多摩 23区 多摩 23区 多摩 都全体

全国

正社員

10,883 1,896 1,107 740 9.8 2.5倍 6.9倍 4.24倍

パート

10,445 2,484 658 491 15.8 5.0倍 11.25倍

 

 

 23区の介護事業にとって危機的な状況かもしれません。
 介護サービスを受けたくても人手不足によりサービスを受けられない高齢者や障害者が多数発生している状況だと考えます。
 サービス低下の負担は家族や、家族がいない場合は本人が我慢することによって凌ぐしかないと思われます。

 これでは高齢者や障害者は都心に住めずに、郊外に引っ越した方が良いという結果になるでしょう。

 

都心の介護は崩壊する

 

 ちなみに別の統計(厚生労働省「職業安定業務統計」)ですが、2019年の全国の介護分野の求人倍率:4.24倍に対し、東京都:7.27倍、神奈川県:4.47倍、千葉県:4.89倍、埼玉県:5.1倍、です。
 東京都は多摩地区が含まれていますので23区は15倍程度でしょう。
 ここで注目してほしいのは、周辺県が比較的求人倍率が低く、人材が確保しやすいという状況です。

 介護事業所を開業する場合、この状況はよく頭に入れておかなければなりません。つまり郊外に開業すれば、23区内より人材確保が容易であるということです。

 都心では既に、要介護者や障害者が重度になりサービス量が増えると、在宅生活が維持できず、郊外に引っ越さなければならない状況になっています。
 多いパターンとしては郊外の住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などに、引っ越したり、認知症の方は遠くの特養に入所している様子が見受けられます。
 住所地特例があるので地方財政への負担問題は関係ないだろうと言いますが、問題はお金のことだけではありません。

 

自治体は見て見ぬ振りか

 東京都はダイバーシティー「誰もがいきいきと生活できる、活躍できる都市・東京」を唱っていますが、実態が伴っていません。
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/actionplan-for-2020/portal/diversity/

 また、国が推進する地域包括ケアの理念とも、地域共生社会の理念にも反しています。
 国や都、区がこうした問題に真剣に取り組み必要がありますが、自治体の動きを見ているとあまり深刻さを感じません。

 実は、実利的に考えた場合、地方自治体にとっては健康で良く働く若い人が増え、コストがかかる要介護者や障害者が自治体外に出ていくことは歓迎すべきことなのです。都についてもそれは同様のことが言えます。

 

都市への富の集中と地方の疲弊

 実はこの問題は日本だけの問題ではないようです。世界中の都市には働く若年層が集まってきます。その結果、富が都市に集中し、地方は貧困化します。背後では、東京のように高齢者や障害者が追い出されているに違いありません。
 都市側の自治体に改善するモチベーションを求めるのは難しいかもしれませんので、国はこのアンバランスを解消する政策を打つべきだと筆者は考えます。

 

どのような対策があるか

 このような状況に対してどのような対策が考えられるでしょう。いずれにしても都市に富が集積するのであれば、その富を再分配し、高齢者や障害者を支援する仕組みがベースになるはずです。

1 都心部の介護給付地域区分を改善

家賃や人件費などのコストは23区でも都心部が最も大きな負担になっています。
足立・葛飾・江戸川などの周辺区は比較的コストが低く事業が継続しやすいですが、山手線内部はかなり厳しい状況と言えましょう。
介護給付の地域区分が23区一律ではアンバランスが生まれています。地域区分は区別に設定する方が良いと考えます。

2 都心の介護福祉事業者の運営コスト低減

 税金の軽減や固定費削減の方法などがありますが、現状の指定基準などを鑑みると、事業所の賃料コストを減らすために何らかの工夫ができるように思います。
 都心で介護事業所を運営する場合、事業所の賃貸料が過度の負担になります。 
 例えば、都心にオフィスを構える、大企業などが介護事業所にスペースを貸すことを奨励する、助成や税制優遇も考えられます。
 特にデイサービスは固定費が大きく、企業の協力を仰ぎたいとろころです。
 また、筆者が既に提言した独立系訪問介護などの仕組みを特区制度などを利用して導入することも有効かもしれません。

独立訪問介護士の可能性 その1

 

3 生活支援へのボランティア休暇制度などの活用

 訪問介護の家事援助については給付も安いため、多くの介護事業者が対応できない状況になっています。
 一方、近年の大企業を中心に、ボランティアのために休んだ場合は有休扱いになる、ボランティア休暇の導入が進んでいます。
 今のところ、災害復旧やオリンピックなどの運営ボランティアがイメージされているようですが、この制度をうまく活用し介護。福祉支援の枠組みを作ることは有効かもしれません。少しでも支援人材の手が増えることを考えなければなりません。

 

 

これからの障害者福祉サービスの動向

 

 

 障害福祉サービスの利用率が伸び続けています。

「障害者サービス利用率の伸び」

障害福祉サービス等報酬改定検討チーム第1回(H30.8.29) 参考資料

 

 今回は、今後の障害者福祉サービスの動向について分析したいと思います。

 

日本の潜在的障害者

 2018年4月厚生労働省は体や心などに障害がある人の数が約936万6千人との推計を公表しました。この数字は2013年時の調査よりも、149万人増えたことになります。人口比のして6.2%から7.2%へ増えたことになります。
 原因として同省は高齢化の進行に加え、障害への理解が進み、障害認定を受ける人が増えたことも増加要因と分析しているようです。
https://www.asahi.com/articles/ASL495Q7BL49UTFK01W.html

 一方、世界へ目を向けるとどうでしょう、国連の広報サイトには2013年で世界の人口の15%が障害を持って暮らしていると報じています。
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/5820/
 日本の約倍です。これにはどのような意味があるのでしょう?

 世界人口の多くは途上国に住んでいて、医療が進歩していないので障害者が多い? 

 いや、障害者数は医療が発展すればするほど増えます。社会で生きにくい人(障害者)は医療の進歩によりその原因が何らかの障害に起因することが診断されやすくなるからです。
 つまり先進国の方が障害者として認定されやすくなるので、障害者人口は増えます。

 世界各国の障害者割合(20~64 歳人口)を見てみると以下のようになります。

 

 福祉先進国が上位に名を連ねていることが分かります。この時点では日本の統計調査はありませんが、概ね4~5%になると推測されています。つまりイタリアより下、韓国より上です。
 これは何を意味しているのでしょうか?

 

日本の障害者認定の範囲は狭い

 上記の各国の障害者率は、そもそもが障害認定の基準が違うため、このような開きが出てしまうのです。
 日本に比べスウェーデンの方が障害者(社会で生きにくい人)が多いわけではありません。日本に比べスウェーデンの方が障害者として認定される人が多いのです。
 つまり、日本では障害者として認定されない人がスウェーデンでは障害者として認定されているということです。また、日本では障害認定の申請をしない人でも、スウェーデンでは申請をしているとも言えます。

 筆者は引きこもりや不登校、ホームレス、各種依存症などの実社会にうまく適応できず、生きにくい思いをしている人たちも、何らかの障害が認定できると考えています。
 おそらく、スウェーデンではそうした日本では障害者として認識していない人たちも、障害者として認定を受け、社会的な支援を受けることができる態勢ができているのではないかと考えています。

 

閉鎖的国民性が障害者を封じ込める

 こうした障害に対する認識の違いはどこからくるのでしょう?
 一つは、文化や風土の違いからくるものではないかと考えます。韓国も率が低いですが、日本と似たような社会風土であるからではないでしょうか。
 それは「異質性の排除」と「同質性の要求」という閉鎖的社会風土であると思います。
 日本人は「みんなと同じ」といった同質性を要求しがちです。「みんなと同じ、周りと同じであれば安心」といった考え方です。
 反対に異質なものを持つ人を排除し、差別しがちです。「出る釘は打たれる」「誉れは毀りの基」などプラス面でも同様の反応を示します。
 北欧はノーマライゼーションの考えが根付いているので、障害があっても大手を振って社会に出ていけます。

 日本では、障害の子を持つ親はそのことを外にはあまり表したがりません。また、障害児を生んだ母親は嫁ぎ先の家族から非難されたり、自己嫌悪に陥ったりする傾向があり、辛い思いをすることも少なくありません。
 最悪、無理心中などの事態が生じる場合もあります。
 
 つまり、社会にとって異質と考えられる障害を隠そうとするバイアスが働きやすく、結果、適切な診断を受けて障害認定を受けることを避ける方向に働くわけです。
 国としても自ら申請をしない障害者への支援は考えていません。日本の障害者支援制度は申請をして名乗り出なければ支援を受けられない傾向が強く、隠れ障害者がたくさん存在しています。

 

「8050問題」がその典型例

「長期間の引きこもりをしている50代前後の子どもを、80代前後の高齢の親が養い続けている」問題です。その親の介護サービス開始とともにその子供の問題が発覚したりします。
 おそらくその子はなんらかの障害を抱えている可能性が高いのですが、医療などの支援を受けられないできたのです。
 ケアマネージャーはそうしたケースに良く遭遇するものです。しかし、子供への支援は介護ではできません。自治体に問い合わせても対応するセクションが無く、自ら病院に行くなどしない限り、障害福祉の支援は届かないのです。

 

社会に届きにくい障害者の声

 実は障害者は選挙において票になりにくいと言われています。
 高齢者層は積極的に投票に行きますし、介護や年金問題などで候補者も政策を訴えやすいのですが、障害者は投票率も低く(投票に行けない、選挙情報が届かないなど)、候補者もターゲットを絞った政策提言がしにくい現状があります。
 そのため政治に障害者の声が届きにくいのではないかと考えます。
 結果、先述の社会風土の影響もあり、日本の障害者福祉制度は世界標準には程遠いと言われる現状になってしまっているわけです。
 
 しかし、最近になって障害者自らが政治の場に参加し始める動きが見えてきました。
 こうした動きは今後加速していくはずです。
 さらに、障害を隠す社会風土も改善されつつあり、多くの障害者やその家族が外部サービスを積極的に活用し始めています。
 今後、「社会で生きにくい人」に対する支援サービスはさらに拡充されると考えます。
 サービス提供の主体である私たちはそのサービス幅の拡大に備える必要があるでしょう。

 

独立訪問介護士の可能性 その1

 

 筆者は今般、一般財団法人ニューメディア開発協会から委嘱を受け「在宅医療・訪問介護向けスマート端末検討会」の委員として参加することになりました。
http://www2.nmda.or.jp/archives/2571/

 ここでの議論とは少し異なりますが(というよりずっと未来の話になりますが)、介護福祉サービスのIT化が進んだ場合、独立訪問介護士という新しいサービス形態が可能ではないかと思い当たり、少し考えたいと思います。

 

独立訪問介護士とは

 現在、訪問介護サービスを提供するためには、法人を設立し、事務所を借りて確保し、介護福祉士などのサービス提供責任者を雇用しなければ、都道府県の指定を受けることはできません。

 これは公的なサービスを提供するにあたり、責任のある運営主体を確保するためです。
 登記された法人が事業所を開設してサービスを提供することで、責任の所在を明確にし、利用者の不利益にならないようにする目的があると思います。

 しかし、経験と実績を積んだ優秀な介護福祉士などが個人で訪問介護サービスを提供する事業ができないか。それを可能にするのが、独立訪問介護士です。
 例えば医師免許を持つ医師は個人で医業を営むことができます。ただし今のところ診療所を持たないと開業はできないようです。筆者は、訪問診療医は診療所を持たなくても、開業できるようにするべきだと考えますが、古い制度を引きずったままで変わる気配はありません。

 この先、IT技術が進歩し、各種専門業務の適切な管理が可能になり、法人設立や事業所が無くても、責任を担保した形で仕事ができるようになれば、事業所などが無くてもPCとタブレットだけで仕事が完了できる時代が来ていると考えます。

 つまり、独立訪問介護士は自宅から利用者の家を訪問しサービスを提供しますが、それらサービス情報のすべてがIT環境で処理され、例えばケアマネや自治体、ご家族が正確にそのサービス提供状況を把握でき、介護士の仕事を管理できることで可能になるものです。
 もちろん、介護だけでなく訪問診療医や訪問看護師も同様に事業所を持たない形での営業が可能になると考えます。

 

独立訪問介護士のメリット

1 訪問介護職の収入増加

 例えば東京の訪問介護の場合、9時から18時の勤務時間で、1日5件(各1時間程度)のサービス提供が一般的です。
 サービス給付を見ると、1時間で4,000円から5,000円程度ですから、1日に20,000円から25,000円の給付になります。月20日稼働で40万円から50万円の給付になります。
 独立訪問介護士の場合これらの給付がダイレクトに収入になります。年収にして500万円以上が期待できるでしょう。
 法人に勤務する訪問介護士の場合、事務所の家賃や管理費にコストがかかりますので、頑張っても正社員で30万円程度の給与しか貰えません。しかし独立であれば、かなり安定した収入になります。

2 優秀な訪問介護士の増加

 現在、訪問介護の仕事は少しレベルの高いパート仕事として認識されていると思われます。しかし、安定的な収入が得られるとすれば、それなりの人材が流入してくることが考えられます。
 後で述べますがそもそも、独立訪問介護士になるにはそれなりの知識とスキルが無ければ務まりません。介護職の地位の向上にも貢献するでしょう。

3 地域の在宅介護力のレベルアップ

優秀な人材が増えれば、当然のこと介護の仕事そのもののレベルアップになるのは当然です。

4 社会コストの低減

 現在の介護事業開業のためには法人設立や事業所賃貸費・管理費など無駄なコストが多くかかります。そうしたコストを、介護職の収入にできるようにするのが独立介護士の意義でしょう。
 この制度は国の給付額を上げずに、つまり税金を使わずに介護職の処遇を改善する非常に有効な手段となりえます。また、施設介護から在宅介護への流れを強化することにもなり、在宅医療の拡大にもつながると考えます。

 

独立訪問介護士を可能にするには

 こうした介護士を可能にするためには、IT技術の進展が必要ですがそれ以外にも制度の整備を必要とします。
 まずはこの特別な資格を得るための個人としての能力要件が必要でしょう。優秀な介護士でなければなることはできないと考えます。

独立訪問介護士の人的要件

1 訪問介護のサービス提供責任者としての実績(例えば5年以上など)
2 ITスキル(実地研修などの裏付けが必要)
3 区市町村による能力評価と登録

 次に、こうした介護士が働けるITを中心とした環境が区市町村に整備や国による制度化が図られなくてはなりません。

環境要件

1 区市町村が医療・介護連携システムなどを導入し、サービス提供の情報管理および従事者の業務管理が適切にできる体制にある。
2 国として資格や任用要件を制度化する。
3 その他ITによる医療・介護・福祉人材の地域ネットワークの構築

次回はこれらの要件をもう少し詳しく説明します。

介護福祉業の人材確保対策 その2

 

 今回は、前回の就労環境を整えても、どのように求人でアピールすればよいのかを考えたいと思います。

 その前に、前回の説明の補足として以下のテキストもご参照ください。

「訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術」

 上述のような努力を事業所が実践するということが前提の求人の在り方です。

 

4 子育てママにアピールする求人広告の在り方

 求人広告としては前述の求人対策の内容をアピールします。

 若い主婦向けにはやはりネットの求人サイトを利用する方が良いでしょう。

 主婦専用の求人サイトでなくとも、若者が集まりやすい求人サイトに子育てママが働きやすい環境であることを具体的にアピールします。

 また、パート求人広告は地域密着ですから、それぞれの地域の子育て事情を考慮した広告の出し方が必要だと考えます。

 具体的なコピーとしては以下のようなものです。

 ⦿ 保活ママサポート。4月入園に向けた働き方を相談します。

(12月ぐらいに出すと良いでしょう)

 ⦿ 家族の都合で急な休みでも大丈夫

 (管理者やサービス提供責任者が柔軟に対応します)

 ⦿ 未経験無資格の方歓迎。面倒見の良い担当者が一から不安なく働けるように指導します。

 無資格の方に資格を無料で取得してもらえるようにするのは必須です。

 自治体によって補助金や資格取得支援事業がありますので必ず活用しましょう。

 

5 自事業所ホームページの充実

 子育てママ向けの求人だけでなく、すべての求人活動で必要なのが、自事業所のホームページの充実です。

 介護福祉事業所のホームページは中々充実させる暇やお金が無いという方も多いかもしれません。

 自事業所のホームページはご利用者やそのご家族、ケアマネージャーさん向けに作っているかもしれませんが、そうではなく、仕事を探している人向けに作ることが重要です。

 ケアマネや利用者向けに作っても費用対効果から言ってあまり意味はありません。それよりも求人者向けに充実させる方が、人材確保の大きな助けになります。

 ホームページのコンテンツは、サービス内容や事業所の一次情報(住所や電話など)を乗せただけの、一般的で凡庸なホームページでは求人者にはアピールしません。

 求人情報があっても、給与や処遇など一般的な情報しか掲載していなければ、ほとんど引っ掛かってこないでしょう。

 ポイントは「ここで働きたい!」と思わせるホームページ作りです。

 

 筆者は魚釣りが好きです。

 多少語弊があることを覚悟して言いますが、中小企業の人材募集は魚釣りに似ていると思います。

 特に疑似餌を使うルアーフィッシングは、いかに魚(応募者)に餌(職場)をアピールするかが重要であり、凡庸なルアーには見向きもしませんし、同じルアーを使い続けると、見切られてしまい、ほとんど食いつかなくなります。

 つまり、魚にいかにルアーを魅力的に見せるかが釣果に繋がるのです。

 求人も同じで、処遇や職場の雰囲気など応募者にいかにアピールするかが成果に繋がります。

 そもそもあまり事業所ごとに職場の差別化が測りにくいのが、介護福祉事業の宿命です。

 職種にしても給与にしても、あまり変わり映えの無い餌が大量に世の中に漂っており、求人者としてはどれに食いつけばよいのか判断ができない状態なのです。

 ちなみに、人材紹介会社などは、大きな巻き網漁船のようなもので、巨大な網を使って大量に人材を確保しようとします。そのために、広告費に膨大な経費を使い、少しでも多くに人の目に留まるようにします。

 アルバイトなどの求人情報会社が頻繁にテレビCMを流しているのはそのためです。顧客である人材募集企業に少しでも多くの求人応募者を集めるためには、相当の広告が必要になります。

 しかし、中小企業ではそんなに広告費を使うことはできません。

 しかも、募集の対象者は事業所の周辺地域に住む人達だけです。大きな網は必要ありません。少ないターゲットに的確に届く求人が必要ですが、狭い地域といえどもターゲットはどこにいるか分かりませんので、ネット上手に活用して、アクセスしてくれるのを待つしかないのです。

 

6 どのように自社サイトに誘導するのか

 介護業界で長く働いている人であれば、給与や休日など処遇関係の情報を見て、実体験から職場の良し悪しをある程度判断できるかもしれません。特に正社員で働きたい人は、ハローワークなどの詳細な求人情報を見て検討するでしょう。

 しかし、介護業務の経験の無い、ましてや無資格の人にとってどのような事業所が自分に合っているかなど分かる由もありません。

 特にパートの若いママさんなどの場合、フィーリングやライフスタイルに合っているかが重要になりますので、文字による情報よりもビジュアルや動画などの情報が重要になります。

 最近、膨大なCM展開をしているindeedという求人検索サイトがあります。

 こちらは今までの求人サイトと違い、例えば「足立区 介護 パート」などと検索すると、足立区周辺の介護のパート求人を検索して出してくれます。

 Googleに検索ワードを入力すれば、該当する求人情報をIndeedが表示してくれるわけです。仕事を探している人はその検索画面から、各求人サイトに行き、求人内容をチェックします。

 ネット上のパート求人情報を地域限定で探している人は、多くの人がこの方法で、情報を探しているかもしれません。わざわざマイナビバイトなどのサイトから地域を限定して探している人は、どんどん少なくなっているでしょう。

 仕事を探している人はそこから、気になった求人情報のサイトにアクセスするわけですが、問題はここからです。

 応募者は求人情報サイトの情報だけで応募することはありません。

 多くの人たちがそのサイトにリンクが貼ってある(もしくは会社名などを検索して)事業所のホームページアクセスするはずです。どんな事業所か知りたいからです。

 この時、開いた事業所のサイトが凡庸なもので、どのような事業所か伝わってこなければ、もう応募することは無いでしょう。

 ここで「この職場で働いてみたい」と思わせることが大変重要なのです。

 お金を沢山出せば、有料求人情報サイトに写真や動画を沢山掲載し、雰囲気を伝えることができますが、いかんせんお金がかかります。

 できるだけ、自社サイトに誘導して雰囲気を伝えるようにすることが重要になります。

 そこで「この職場で働いてみたい」と思われれば応募に繋がります。

 

7 どのようなホームページが採用につながるのか

 では「ここで働きたい」と思わせるホームページとはどのようなものでしょうか?

 いくつかサンプルのリンクを貼っておきます。

 「楽しそう」「若い人が多い」「子育て中でもやっていけそう」などと思ってもらえる工夫が必要です。

 そのために、まず職場の雰囲気が伝わる写真や動画をふんだんに盛り込みましょう。

サンプル

①私が昔働いていた会社です。ペッパー君などを使い職場の楽しい雰囲気が伝わるよう工夫しています。これにより、若い人の応募が増えました。

http://www.best-kaigo.com/

②上と同じ会社ですが訪問看護でママさんナースを募集しています。子育て支援をアピールし小さなお子さんを持つナースが増えました。

http://www.best-kaigo.com/job/nurse-info.html

③こちらは筆者がコンサルをさせて頂いている、訪問介護事業所です。若い人中心のイメージと、子育て支援、障害者ヘルパーの具体的な仕事内容を掲載しています。

先日、未経験の子育てママさんパート二人応募があり大きな戦力になっているようです。

http://sunshine-cs.com/recruit/

 最後に、求人情報サイトはできるだけ切れ目なく利用することをお勧めします。

 できるだけ低価格で長い期間掲載できるサイトが良いでしょう。また、自社ホームページにリンクが貼れるサイトが良いのですが、リンクを貼らせてくれないサイトもありますので注意しましょう。

 Indeedはハローワークのインターネット情報も検索しますので、ハローワークについても3カ月おきに情報を更新し、絶えず求人情報が生きている状態にすることが大切です(3か月以上古い情報は後の方に行ってしまい検索がかかりにくい)。

この章終わり。

 

介護福祉業の人材確保対策 その1

 

1 介護福祉業界の人材不足は深刻

 

 いよいよ介護職員不足が深刻化しています。

 特に訪問介護(障害の居宅介護サービス等を含む)での人員が不足しており、地域によってはサービスが供給できない事態も発生しているかもしれません。

 

 現在、各業界企業の採用意欲は非常に高く、若者を中心に社会全体で人手不足が発生しています。

 そうした中、外国人や高齢者・専業主婦の活用などが各方面で進められていますが、介護・福祉事業の希望者は減る一方であり、新たな人材発掘は難しい状況のように見えます。

 外国人技能実習生制度が始まりましたが、語学力のハードルが高く、現場に迎え入れられるのはかなり先のことになりそうです。

 さらに、中国や韓国など高齢化の問題が顕在化してきている国々に行ってしまっているという声も聴きます。これらの国は語学力のハードルが低いようです。

 

 他の産業が人材確保のために給与水準を上げているのに対して、介護職員の給与水準は処遇改善加算が改定されたとしても、見劣りするのはいかし方がありません。

 特に都市圏では大企業の求人に比べ、かなり不利な状況になり、特に正社員の人材は待遇の良い産業に流れてしまっています。

 

 パート分野でも時給の上昇が進んでいますので、比較的有利であった介護事業のパートも魅力的でなくなっています。

 特に訪問介護のパートは時給が高いものの、業務の難易度が高いためか人材が集まりません。訪問介護を中心とした介護事業の人材発掘をしなければ、地域の介護福祉事業が立ち行かなくなるでしょう。

 

 

2 小さな子供を育てているママさんの活用

 

 そんな中、注目されているのが小さなお子さんを育てているママさんの活用です。

 小さなお子さんがいるお母さんは以下の理由により、就業が難しい事実があります。

 

 ① 核家族化が進み、お母さんが働きに出ると子供の面倒を見る人がいない。特に都市圏ではその傾向が強い。

 ② 保育園不足により地域によってはパートタイム勤務だと保育園に入れない(かといってフルタイム勤務は難しい)。

 ③ 子供の急な病気に対応するために、突然仕事を休まなければならない時があり、職場に迷惑をかけてしまう。

 ④ 母子家庭の場合、行政からの手当などの関係で収入制限があり働き方に調整が必要

 

 などでしょうか?

 

 こうした問題をクリアして、子育てママさんの隙間時間をいかに労働に充ててもらえるか、事業者が工夫することがママさんの活用には大切になります。

 

 子育てをしているとはいえ、子供が保育園に行っている人や、親に面倒を見てもらっている人、専業主婦など事情は様々です。そういた事情に柔軟に対応して働いてもらえるようにしなければならないでしょう。

 

 たとえば訪問介護の場合、サービスに入れる時間に働いてもらえばいいので、シフトでそれぞれのママさんに働きやすい時間で働いてもらえるので有利と言えるでしょう。

 他の事業でも工夫次第でそのような対応が取れると考えます。

 

 

3 子育てママさんを支援する求人対策

 

(1) 保活サポート

 保育園に入園する活動が「保活」です。前述の通り保育園に入園するには就労状況など地域により様々な条件があります。そうした条件に対応した働き方ができるように事業所もサポート体制を取らなければなりません。

 保活サポートの対策としては以下のようなポイントがあります。

 ① 事業所周辺地域の保育園環境・保活環境を調べる(就労条件や保育園の空き状況など)

 ② 一般的に4月入園が有利なので、その数か月前から求人を出し、事業所が保活サポートすることを訴える。

 ③ 地域の行政(区市町村)の子育て支援手当などの政策を調べ、それに対応した就労環境を用意する。

 ④ 育児ママさん対応の求人サイトの利用する。

   例:しゅふJOB https://part.shufu-job.jp/tokyo

 

(2)休日手当を充実させる

 旦那さんがいる家庭では、逆に休日・夜間の方が働きやすいという人もいるかもしれません。そうした主婦にアピールするよう休日・夜間手当を充実させる方法があります。

 訪問介護の場合、休日・夜間は社員対応であったり、パートさんが入れないことが多いと思います。休日・夜間手当を充実することで、パートさんが入りやすい環境を作ります。

 

(3)ライフスタイルに合わせた就業形態

 売り手市場の労働スタイルとしては、会社側が就労者のライフスタイルに合わせていくことが必要になります。

 特にパートワーカーは髪を染めたり、服装が自由であったり、ピアスやマニュキアがOKであったりと、ライフスタイルを受け入れてくれる仕事を選ぶ傾向があります。それは主婦でも変わらないと思います。

 障害福祉の事業の場合、利用者自身が若い人もいますので、相手によっては服装などを気にしない人も多いと思います。利用者に応じてサービス提供先のマッチングを考えれば、働く人のスタイルに合わせた仕事があるかもしれません。

 さらに、家族優先のライフスタイルを積極的に受け入れる就労環境を整えることは必然です。いわゆる「ワークライフバランス」の考え方ですが、これは正社員でも同様の処遇でなければならないでしょう。

 

次回に続く。

小規模デイサービスの営業マニュアル その2

 

7 ケアマネ営業のノウハウ

 保険者である区市町村の介護予防のインセンティブ制度(国が区市町村ごとの介護予防の成果を評価する制度)が始まると、おのずと、ケアマネジャーも利用者の目標達成など、仕事の成果が求められるようになって行きます。
 成果にコミットしてくれる事業所は、益々ケアマネからの紹介が多くなっていくでしょう。具体的には、要介護度を悪化させない効果的なサービスを提供してくれる事業所になりますが、そのためにも事業所の専門的な能力が問われるようになります。また、臨機応変な対応が柔軟にできる事業所も信頼を獲得できるでしょう。

 ケアマネージャーの対応のポイントを上げます。

⦿「人と人」のつながりを大切に

 各ケアマネさんにはそれぞれ特徴や傾向があります。自分の事業所にマッチしたケアマネさんは何人も利用者を送ってくれます。
顔の見える営業で「人と人」のつながりを作れると良いでしょう。

⦿最初の機会を大切にする

 初めてご利用者をお願いされた場合は、全力でサービスを提供できるよう努力します。最初のケースが成功すると二人目の紹介に繋がります。

⦿困難事例が来ても誠実に対応する

 開業当初はスタッフにも余裕があるので対応が可能である場合があります。困難事例に対応すると信頼がグッと増します。

⦿通所介護計画書を必ず渡すこと

 計画書の内容に自信が無い場合はケアマネとよく相談しましょう。

⦿月1回は情報提供を

 ご利用者の情報は月に1度簡潔にまとめて報告します(A4一枚)。その際、ケアマネが必要な情報を適切に報告できるように、ケアマネとのコミュニケ―ションを密にし、しっかりニーズを把握しておく必要があります。
 基本的にはケアプランの目標に対して、利用者様がどうだったかを報告します。その際、サービス提供上どのような工夫や努力を行ったか、どのような変化があったかを必ず書きます。
 ケアマネは毎月のモニタリング業務で利用者の変化を確認する義務がありますから、こうした情報が非常に重要になります。特に認知症のご利用者等、自身で状態を表現できないご利用者の場合は、事業者からの情報は大変重要です。

⦿その他のポイント

① ケアマネが悩んでいることに、自分のデイサービスがどのような解決策を提供できるかを考える。
② 営業ノートを作成し、相談した相手先、相談された内容などをメモしておく。これにより地域のニーズの傾向が見えてくる。
③ 地域のニーズに対応できるデイサービスにカスタマイズしてゆく。

 

8 その他各種営業手法

① 訪問営業

 どうしてもお話がしたいケアマネがいる場合は事前にアポイントを取りましょう。それ以外は飛び込みでチラシや名刺などを配布する方法で良いでしょう。
介護業界は「いい噂」も「悪い噂」も伝播しやすいことを念頭に置き、誠実に営業を行っていきましょう。

② 内覧会・見学会

 新規事業所の場合は開業前に内覧会を実施します。ケアマネが仕事の合間にちょこっと寄れるように平日1週間ぐらいの期間があると良いでしょう。また、地域とのイベントや家族会などでも見学できるようにしましょう。
その他、利用者との同伴見学は何時でも受けられるようにしなければなりません。

③ FAX営業

 同報FAXによる営業は、満員であったが、空きができたときは有効です。小規模な事業所は少しでも空きを埋めなければなりませんので、空きが出たら地域の営業先に同法FAXで「空き情報」を送ります。

④ ブログやSNSを活用した営業

 可能であれば、日々の活動をSNSやブログで配信します。これはケアマネへの営業としてだけでなく、ご利用者様のご家族様への安心感を醸成することにつながります。
毎日でなくても週に1度など、事業所の様子が分かるトピック的な記事でかまいません。

⑤ サービス提供票の配布時に毎月の報告

 毎月の報告は提供票と一緒に送るようにすると効率的です。余裕が無いときはファックスでも良いですが、最初は足を運んで配布する方がベターです。

⑥ カジュアルな勉強会をする

 介護に関する気軽な勉強会を開催して、新たなケアマネとつながります。例えば、外部から専門の講師を招き自デイサービスとかかわりの深い勉強会を実施します。
 例:ユマニチュード・音楽療法・コグニサイズ・要介護者の筋トレなど

 

9 加算の取得

 処遇改善加算や個別機能訓練加算などの各種加算は積極的に取得すべきです。
 利用者の自己負担額が高くなるために、遠慮してしまう事業者も多いようですが、前述通り、今後はケアプランの目標管理が厳しくなってきます。そうした時、ケアマネとしては少しでも成果が上げられる事業を使わざるを得ません。
 「成果が上げられる事業所=質の高いサービスを提供できる事業所」ですから、その意味で加算は一つの指標になります。
 事業所ごとのサービスの特徴に合った加算は必ず取得するように努力しましょう。

 

 

小規模デイサービスの営業マニュアル その1

 

 今回の改正により小規模デイサービスの閉鎖が増えていると言われています。
 筆者のイメージでは、元お泊りデイサービス系の民家型デイサービスや、乱立するリハビリデイサービス(正確にはリハビリでは無く機能訓練です)が苦戦しているイメージがあります。
 特に家賃などの固定費の高い都心部では小規模事業者は非常に経営が厳しいでしょう。
今後生き残っていくためにはどのような経営戦略や営業戦略が必要なのか、今回は特に営業面でのノウハウについて考えてみたいと思います。

 その前に、経営上押さえておかねばならないことを少し整理します。

 

1 家賃などの固定費に見合った経営

 営業の話に入る前に、デイサービスの経営において家賃などの固定費が非常に重要になることを押さえておかなければなりません。現在生き残っている事業所については収支バランス上何とかなっているでしょうが、新規に立ち上げる場合などはできるだけ安い固定費に抑えるよう注意しなければなりません。
 小規模デイサービスの場合は月の家賃が15万円を超えると厳しくなると考えるべきでしょう。

 

2 収支シミュレーションでは利用者の平均介護度は要介護1以下で設定

 また、収支シミュレーションをする場合は、利用者の平均介護度は1程度を目安に収支を計算します。要介護3以上の利用者は特別養護老人ホームの入居資格があり、想定利用者像としては高すぎると思います。
 もちろん、3以上の利用者も対応できるようにサービス設定を行う必要はありますが、収支バランス上は要介護1平均で計算すべきです。
 機能訓練重視でも、看護師が在籍していたり、機械浴施設などがあれば要介護3以上の利用者を対象にできますが、収支計画上は低めに設定すべきでしょう。

 

3 デイサービスの3大機能を確認

 

 営業をする前に、自社デイサービスの特徴を明確化する必要があります。分析については次に説明しますが、サービスの特徴を明確化する前に、以下の3大機能を疎かにしないことが重要です。
デイサービスでは以下の機能を、基本的にどれも疎かにしてはいけません。最低限この3大機能は提供できることが、原則になります。

① 元気になる機能訓練
※運動だけでなく会話やレクリエーション活動を含む、またそのためのバイタルチェックによる健康管理も重要
② レスパイト
※外出による家族の負担軽減だけでなく、自宅での生活も改善させることで家族の負担が軽減する
③ 入浴・食事などの在宅機能の補完
※自宅でできないことを代わりに提供することで在宅での生活が可能になる視点を持つこと

 

4 サービス特徴の確認

 

 次に、自社デイサービスの特徴を明確化します。そのために、SWOT分析が役立ちます。これは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)
を分析して、自社サービスの特徴を明確化する手法です。

① 強み(Strength)の分析
・機能訓練加算など加算を取得している=その部分に強みがある
・在籍スタッフの資格や能力が他に比べ差別的であり、強い
・施設の特徴が差別的である(居心地の良い環境など)
・利用者が来たくなるサービス特性を持っている

② 弱み(Weakness)の分析
・スタッフの入れ替わりが激しい
・お風呂が無い
・スタッフの資格や能力で劣勢にある
・利用者の要介護度が低い、又は収入率が低い

③ 機会(Opportunities)の分析
・地域に足りない(需要が高い)デイサービス機能(例えば機能訓練重視型など)がある
・地元行政が力を入れている分野がある(認知症対応や機能訓練など)
・将来、高齢者は増加(低下)傾向

④ 脅威(Threats)の分析
・報酬改定による収益源
・デイサービスが乱立し過当競争
・人材不足、賃金の上昇圧力

これらの分析を行った上で、自デイサービスの「売り」を明確化しましょう。

 

5 デイサービス営業のポイント

 

 営業をする場合は以下のポイントを押さえてください。

① デイサービスの「強み」を可視化し、ケアマネに強みをどのように伝えるかを考える。強みやターゲットなるご利用者像、サービス内容を1分以内、30秒以内に説明できるように練習が必要です。
② 営業先には何度も通う。最低月に1回
③ 営業のたびに配布ツールを変える
 例:月間行事スケジュール・典型的利用者さんのケース事例・新人スタッフの紹介・新サービス情報・企画イベントの情報 等
④ ケアマネや担当者と話ができなくても我慢強く足を運ぶ。
※ケアマネは忙しく留守がちのことも多いですし、忙しく話を聞いてくれない場合も多いでしょう。それでも毎回パンフなどを配布します。
⑤ 新規開業の場合は、新規事業所であることをアピールする。ケアマネは新事業所の情報は必ずチェックします。

 

6 主な営業先

 

①ケアマネージャー
第一に地域の居宅介護支援事業所が営業の本命です。地域のケアマネージャの信頼に応えることが、利用者確保の第一歩でしょう。

②地域包括支援センター
地域包括支援センターの営業は主に要支援の方をご紹介してくれます。営業方法としてはケアマネと同じですが、介護予防の書類(計画書やアセスメント)は地域によって違いますので、よく話を聞く必要があります。

③医療機関(病院)
主にメディカルソーシャルワーカー(MSW)やリハビリスタッフなどに営業を行います。
特に、回復期リハビリテーション病院など、退院後のケアの在り方を考えることが重要な退院支援型の医療施設はスムーズな在宅復帰に対応できる事業所を探しています。

④介護老人保健施設
 こちらも、退所後の受け入れ態勢が重要になりますので、医療機関と同様の対応が必要になります。

⑤ 地域住民への営業
総合事業としての区市町村の取り組みや老人クラブなどでの予防事業など、様々な取り組みが行われています。そうした情報を行政から入手し、パンフレットを配布しておきます。
特に機能訓練を強みとする事業所は予防からのお付き合いが重要になります。

 

その2に続く

ケアマネ業務 改正により必要になった記録や書類

 

 今回の改正によりケアマネ業務にいくつかの変更点がありますが、具体的にどのような記録や書類が必要になるか整理してみました。実地指導などでチェックされる可能性がありますので早めに取り組んだ方が良いでしょう。

 特に追加業務が無いものは除外してあります。

 

平時からの医療機関との連携促進

 

【改正①】

 利用者が医療系サービスを希望している場合などは、利用者の同意を得て主治の医師等の意見を求める。また意見を求めた主治医等に対してケアプランを交付しなければならない。

 

【必要な作業】

 ①重要事項説明書の修正

 ②支援経過などに医師に意見を求めた記録、およびケアプランを交付した旨の記録

 

【改正②】

 訪問介護事業所等から利用者の口腔に関する問題や服薬状況、その他の状態について伝達を受け、主治医等に必要な情報伝達を行うこと。

 

【必要な作業】

 ①情報を得た旨の支援経過記録

 ②サービス担当者会議録などに、訪問介護事業所等にどのような情報が必要かを指示したという記録。

 

 

質の高いケアマネジメントの推進

 

【改正③】

 利用者や家族に対し、居宅サービス事業所について、複数の事業所の紹介を求めることが可能であることなどを説明すること。

 

【必要な作業】

 ①重要事項説明書の修正

 (注意!)この義務を怠ると、減算になります。必ず重説は修正しましょう

 

【改正④】

 利用者の意思に反して、集合住宅と同一敷地内等の居宅サービス事業所のみをケアプランに位置付けることは適切ではない。

 

【必要な作業】

 ①同一敷地内等の事業所のサービスを使う場合は、同意を得た旨の支援経過記録

 

 

障害福祉制度の相談支援専門員との密接な連携

 

【改正⑤】

 障害福祉サービスを利用する障害者が介護保険サービスを利用する場合、障害福祉制度の相談支援専門員と密接な連携に努める。

 

【必要な作業】

 ①相談支援専門員の情報把握(名前や所属・連絡先)

  ※相談支援専門員が関わっている場合は必須!

 ②情報共有など、連携して業務を行っていることがわかる支援経過記録

 

 

入院時情報連携加算の見直し

 

【改正⑥】

 入院中の利用者にサービスを開始する場合、利用者等に対して、担当ケアマネジャーの氏名等を入院先医療機関に提供するよう依頼すること。

 

【必要な作業】

 ①入院先医療機関に名刺などを渡して利用者に渡してもらう

 ②上記事実の支援経過記録

 

退院・退所後の在宅生活への移行に向けた医療機関等との連携促進

 

【改正⑦】

 

 ①退院・退所時におけるケアプランの初回作成の手間を明確に評価

 ②医療機関等との連携回数に応じた評価

 ③医療機関等におけるカンファレンスに参加した場合を上乗せで評価

 ④退院時の多職種からの情報収集を高く評価していく。

 

【必要な作業】

 ①上記の具体的な連携事実を支援経過に詳しく記録

  

 

 その他加算関係はそれぞれの要件の記録が必要になります。

 また、以下の事項や業務が追加されますが、それぞれ区市町村からの通知や指示を確認しましょう。

 ①生活援助中心型の訪問介護を多くケアプランに位置づける場合は、区市町村への届け出。施行は10月から。

 ②区市町村は必要に応じ、ケアマネジャーに利用者の自立支援・重度化防止や地域資源の有効活用等の観点から、サービス内容の是正を促す。

 

【参考】新しい「重要事項説明書」の例(東大阪市)

https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000009039.html

 

 

 

財務省は小規模な介護サービス事業者を失くしたいのか?

 

 4月11日、財務省の財政制度等審議会分科会は「介護事業所・施設の経営の効率化について」として、以下の提言を行いました。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia300411.html

 

【改⾰の⽅向性】(案)

○ 介護サービス事業者の経営の効率化・安定化と、今後も担い⼿が減少していく中、⼈材の確保・有効活⽤やキャリアパスの形成によるサービスの質の向上などの観点から、介護サービスの経営主体の統合・再編等を促すための施策を講じていくべき。

 

 分科会はこの提言の根拠として、介護サービス事業者の現況について以下のような見解を示しています

 

【論点】

〇 介護サービス事業者の事業所別の規模と経営状況との関係を⾒ると、規模が⼤きいほど経費の効率化余地などが⾼いことから経営状況も良好なことが伺える。

 ⼀部の営利企業においては経営主体の合併等により規模拡⼤は図られている。営利企業とその他の経営主体では同列ではない部分もあるが、介護サービス事業全体で⾒た場合、介護サービスの経営主体は⼩規模な法⼈が多いことが伺える。

 

 さらに、分科会ではこうした論拠の裏付けとして以下のようなデータを示しています。

 

①わが国の介護サービス事業所の7割が100人未満の法人による経営である。

②通所介護と訪問介護では利用者数を多く抱える事業所の方が収益率が良い。

③民間16社(説明はないがおそらく大規模法人と思われる)利益率は5.9%であり、介護事業者全体は3.3%となっている。

 

 

自治体に事業者の経営改善をさせる

 

 分科会は大規模化の参考例やメリットとして以下のような例を挙げています。

 

○介護サービス等の事業を⾏う複数の法⼈が、⼈材育成・採⽤などの本部機能を統合・法⼈化することで、ケアの品質の底上げや研修・ 採⽤活動のコスト減を図るなどの取組も存在。

○介護サービスの経営主体の⼤規模化については、

①こうした介護サービス事業の⼈事や経営管理の統合・連携事業を⾃治体が⽬標を定 めるなどして進めることのほか、

②⼀定の経営規模を有する経営主体の経営状況を介護報酬などの施策の決定にあたって勘案することで経営主体⾃体の合併・再編を促す、といった施策が考えられる。また、

③経営主体について⼀定の経営規模を有することや、⼩規模法⼈については⼈事や経営管理等の統合・連携事業への参加を指定・更新の要件とする、といったことも考えられる。

 

 確かに、介護事業を公営事業と考えれば、昔の国鉄や電電公社、郵便事業が民営化したようように大規模民営も考えられます。

 例えば東日本介護サービスのように地域ごとに大規模法人化し、統括的な経営管理の下に事業を行えば、経営のコントロールもやりやすいし、働く人たちの処遇も改善されることが想定できます。

 JRNTTが一流企業であるように、介護事業で働く人たちは一流企業の社員として安定的な収入を得ることも可能かもしれません。

 

 しかし、現状の介護保険制度では保険者が区市町村である以上、このような統合は不可能であり(できても区市町村内の統合)、行政改革の流れからもバカげたことであるとみなされ、現実的ではありません。

 

 分科会でも都道府県、区市町村内の事業所の統合や業務の連携を想定しており、全国規模の統合という視点はありません。

 ただし、統合や業務連携などによる経営効率化に対するインセンティブ(動機付け)は考えており、地域内法人の経営改善目標を設定するなどして自治体に対するインセンティブを想定しています。

 

 

小規模法人すべてが経営状況が悪いわけでは無い

 

 そもそも、分科会で上げている、「小規模法人は収益率が悪い」という論拠は正当なのでしょうか?

 上にあげたデータだけでは論拠としては弱いような気がします。少なくともすべての小規模事業所に当てはまるわけでは無く、「小規模法人の中には経営状況が悪い法人もある」と言えるだけでしょう。

 

 結局、財務省が目指しているのは、介護事業所の経営状況を良くして、収益率が上がった分の介護報酬を減らしたいだけです。しかし、筆者としては収益率が上がった分は、従業員に対する処遇改善に回すべきであり、財政負担の改善に利用するべきでないと考えます。

 

 筆者としては、今回の提言の本質的なゴールは経営状況の良くない小規模法人の経営改善であると考えます。

 つまり中小企業対策であり、厚労省の課題というよりも、通産省の課題でしょう。

 日本の企業の9割が中小企業であると言われます。特別な技術や商品を持っている企業は買収されますが、収益率の悪い企業でも統合されることはなく、廃業するか細々と経営を続けているだけです。

 

 介護事業だけ国策として事業を統合しようとするのは少し横暴な気がします。そして、統合や業務連携という発想だけでは経営改善にはならないでしょう。

 

 しかし、都道府県などに地域内の小規模介護事業法人の経営改善対策をさせることは必要でしょう。

 製造業などとは別のスキームで介護医療法人向けの特別なプログラムを考えていくことは良いことだと考えます。

 例えば指定更新時、決算書を提出させ、経営状況の悪い法人は中小企業診断士などの経営指導を受けなければ、指定更新ができないなどのプログラムは考えられます。

 

 小規模事業者の中には経営に疎く、ボランティア的に事業を営んでいる方も多いため、財務省としてもこのような提言が必要なのでしょう。

 もちろんCareBizSupもそのような事業者を支援するために、サービスを提供しているわけですが。