介護職員のためのコンプライアンス研修 その2

3 プライバシーの保護

 

(1)介護福祉士は、利用者が自らのプライバシー権を自覚するように働きかけます。

 →プライバシー権とは基本的人権の一つです。普通の人がされて恥ずかしいことや屈辱的なことを平気で受け入れる利用者は、自立から遠ざかっています。

 

(2)介護福祉士は、利用者の個人情報を収集または使用する場合、その都度利用者の同意を得ます。

 →アセスメントは個人情報を収集することです。介護は個人のプライベートに介入する仕事ですから、当然本人(もしくは代理人)の同意が必要です。

 

(3)介護福祉士は、利用者のプライバシーの権利を擁護し、業務上知り得た個人情報について業務中か否かを問わず、秘密を保持します。また、その義務は生涯にわたって継続します。

 →介護福祉士は利用者のプライバシーを保護する立場でなければなりません。一度知った個人情報はその職を離れた後も擁護する義務を負います。

 

(4)介護福祉士は、記録の保管と廃棄について、利用者の秘密が漏れないように慎重に管理・対応します。

 →個人ファイルなどは机上に出しっぱなしにせず、鍵付き書庫に保管します。パソコンはパスワード管理し、ファックスやメールも個人名がわからないようにする工夫が必要です。

 

≪演習≫

 利用者や家族のプライバシー保護は介護職の職業倫理の中でも重要なことです。介護現場でプライバシーの侵害に当たる行為として、どんな行為があるか、些細なことでも良いので、みんなで上げて話し合いましょう。

 

 

4 総合的サービスの提供と積極的な連携、協力

 

(1)介護福祉士は、利用者の生活を支えることに対して最善を尽くすことを共通の価値として、他の介護福祉士及び保健医療福祉関係者と協働します。

 →福祉医療は専門職によるチームで提供されるのが原則です。家族介護と社会的介護の大きな違いはそこにあります。

 

(2)介護福祉士は、利用者や地域社会の福祉向上のため、他の専門職や他機関と協働し、相互の創意、工夫、努力によって、より質の高いサービスを提供するように努めます。

 →チームケアは、多くの人の目で一人のご利用者を見て考えることです。一人では見えなかったことが見えてきます。独りよがりの仕事は利用者にとって不利益になる場合があります。

 

(3)介護福祉士は、他職種との円滑な連携を図るために、情報を共有します。

 →カンファレンスや介護記録は情報共有のための大事な作業です。情報が共有されないケアはチームケアとは言えません。

 

≪演習≫

 末期がんのターミナルケアを例に、必要な専門職をリストアップして、それぞれの役割をみんなで上げてみましょう。特に介護職の役割について重点的に話し合います。また、現場での情報共有の方法としてどのような方法があるかあげてみましょう。

 

 

5 利用者ニーズの代弁

 

(1)介護福祉士は、利用者が望む福祉サービスを適切に受けられるように権利を擁護し、ニーズを代弁していきます。

 →例えば認知症の人は自らの本当のニーズを適切に主張できません。そうした隠れたニーズをしっかり把握しサービス提供することが大切です。

 

(2)介護福祉士は、社会にみられる不正義の改善と利用者の問題解決のために、利用者や他の専門職と連帯し、専門的な視点と効果的な方法により社会に働きかけます。

 →詐欺や虐待行為など、利用者に対する不正義から利用者を守るとともに、利用者の周囲に見守りなどの必要性を訴えていくことも、介護の仕事です。

 

≪演習≫

 社会的弱者である高齢者や障害者が晒されやすい不利益について、考えうることを上げてみましょう。そうした不利益からどうしたら利用者を守れるか、介護職としてできることを上げてみましょう。

 

 

6 地域福祉の推進

 

(1)介護福祉士は、地域の社会資源を把握し、利用者がより多くの選択肢の中から支援内容を選ぶことができるよう努力し、新たな社会資源の開発に努めます。

 →社会資源とは①人的資源(本人・家族・近隣・ボランティア・専門職など)、②サービス(プログラム)、③情報、④空間(居場所・拠点)、⑤財源、⑥制度、⑦ネットワークなどです。

 

(2)介護福祉士は、社会福祉実践に及ぼす社会施策や福祉計画の影響を認識し、地域住民と連携し、地域福祉の推進に積極的に参加します。

 →区市町村や地域包括センターなどの行政組織へ、地域福祉の情報を積極的に発信し、地域の福祉行政の一翼を担うことも介護職の役割です。

 

(3)介護福祉士は、利用者ニーズを満たすために、係わる地域の介護力の増進に努めます。

 →住民向けや介護職向けの研修を実施したり、介護福祉に関する情報を発信する等、地域の介護力が向上するような取り組みをすることが求められます。

 

≪演習≫

 あなたの周りの、高齢者や障害者にとって有用な社会資源はどのようなものがありますか?いろいろ上げてみましょう。さらにどのような社会資源が増えれば地域の介護力向上につながるか話し合いましょう。

 

 

 

7 後継者の育成

 

(1)介護福祉士は、常に専門的知識・技術の向上に励み、次世代を担う後進の人材の良き手本となり公正で誠実な態度で育成に努めます。

 →介護福祉士は現場で働きながら、介護職員初任者研修や実務者研修の講師を務めることが推奨されます。職場研修についても同様です。

 

(2)介護福祉士は、職場のマネジメント能力も担い、より良い職場環境作りに努め、働きがいの向上に努めます。

 →介護職員の処遇を改善し向上させていく努力が求められます。一人一人がより良い職場環境作りに関与していかなければなりません。

 

≪演習≫

 介護福祉にかかわる知識や・技術の向上のために、あなたやあなたの職場ではどのような努力や工夫をしていますか。また、より良い職場環境づくりのためにどのような努力や工夫をしていますか。いろいろ上げてみましょう。

 

 

介護職員のためのコンプライアンス研修 その1  

 

この研修資料は介護職員がコンプライアンスとは何かを理解するとともに、介護職員にとっての職業倫理とは何かを「日本介護福祉士会倫理基準(行動規範)」に基づき、具体的に理解できるようにまとめてあります。職場におけるコンプライアンス・職業倫理研修の材料としてご活用ください。

 

Ⅰ コンプライアンス(法令順守)と職業倫理

 

1 コンプライアンス(法令順守)とは → 「法令=ルール」を守ること

 

≪法令≫とは (介護にかかわるもの)

(1)憲法

(2)法律=国の法令(介護保険法など)

(3)地方自治体の条例・規則 =各種基準(人員・運営・算定基準など)

(4)各種解釈通知など

 

★背いた場合のペナルティー=刑罰を見れば、重大さが明らか

 

(1)憲法 → 逮捕・刑事罰(基本的人権の尊重 = 虐待や人権侵害)

(2)法律(介護保険法など) → 逮捕・刑事罰・指定取り消し

(3)条例・規則 → 指定取り消し・報酬返還・介護給付の過誤調整・是正報告の提出

(4)各種解釈通知 → 介護給付の過誤調整・是正報告の提出

 

 

2 職業倫理とは

 

「倫理」→ 人として守り行うべき道。善悪・正邪の判断において普遍的な規準となるもの。

道徳。モラル。(国語辞典)

 

簡単に言うと → 「やるべきこと」と「やってはいけないこと」

 

「職業倫理」とは → その職業の人が(プロとして)「やるべきこと」と「やってはいけないこと」

 

プロフェッショナルな職業の人はすべて「職業倫理」を持っている(医師・弁護士・看護師・介

護福祉士 などなど)

 

≪演習≫

  介護のプロとして「やるべきこと」と「やってはいけないこと」の例を全員で沢山上げてみよう

 

 

Ⅱ 介護福祉士としての職業倫理

日本介護福祉士会倫理基準より

 

1 利用者本位、自立支援のための仕事をする

(1)介護福祉士は、利用者をいかなる理由においても差別せず、人としての尊厳を大切にし、利用者本位であることを意識しながら、心豊かな暮らしと老後が送れるよう介護福祉サービスを提供します。

 →どのような利用者であれ基本的人権を尊重します。最大限その人の希望を尊重する努力をします。

 

(2)介護福祉士は、利用者が自己決定できるように、利用者の状態に合わせた適切な方法で情報提供を行います。

 →高齢者や障害者は情報を積極的に取得することができません。できるだけたくさんの選択肢を提供できるように努力します。

 

(3)介護福祉士は、自らの価値観に偏ることなく、利用者の自己決定を尊重します。

 →介護福祉士が勝手に判断してはいけません。本人が何を望んでいるのかをしっかり理解したうえで仕事をします。

 

(4)介護福祉士は、利用者の心身の状況を的確に把握し、根拠に基づいた介護福祉サービスを提供して、利用者の自立を支援します。

 →自立支援は適切なアセスメントを通じて提供しなければなりません。アセスメントの無い介護は根拠のないサービスであり、介護福祉サービスとは言えません。

 

≪演習≫

  要介護5で寝たきり、意識が不鮮明でコミュニケーションができない状況の利用者にとって利用者本位、自立支援のために何ができるかみんなで話し合おう

 

(ヒント:その人は何を望んでいるのか?家族は何を望んでいるのか?想像力を働かせて考える)

 

2 専門的サービスの提供

(1)介護福祉士は、利用者の生活の質の向上を図るため、的確な判断力と深い洞察力を養い、福祉理念に基づいた専門的サービスの提供に努めます。

 →福祉理念とは「ノーマライゼーション」や「インクルージョン」、「憲法25条(健康で文化的な最低限度の生活の保障=生存権)」、「自立支援」などで、これらの理念をしっかり理解している必要があります。

 

(2)介護福祉士は、常に専門職であることを自覚し、質の高い介護を提供するために向上心を持ち、専門的知識・技術の研鑚に励みます。

 →プロフェッショナル(専門職)とは継続的な自己研鑽により、知識・技術レベルを向上させ続ける人です(どんな職業でも)。

 

(3)介護福祉士は、利用者を一人の生活者として受けとめ、豊かな感性を以て全面的に理解し、受容し、専門職として支援します。

 →どのような利用者でも(例えば人格障害などで社会適応ができない人でも)、その存在を尊重し、受容できる許容力が必要です。豊かな感性とは難しいケースの人を支援する仕事でも、楽しめるような感性です。

 

(4)介護福祉士は、より良い介護を提供するために振り返り、質の向上に努めます。

 →振り返りとはモニタリング=評価のことです。アセスメント→介護計画→実施→評価のサイクルをマネジメントサイクルと呼び、介護の質を向上させる仕組みとして重要です。

 

(5)介護福祉士は、自らの提供した介護について専門職として責任を負います。

 →責任を負うとは、悪い結果が出た場合はきちんと評価をし、再度アセスメントを行い、良い結果が出るよう努力をすることです。

 

(6)介護福祉士は、専門的サービスを提供するにあたり、自身の健康管理に努めます。

 →腰痛や精神疾患などにより現場を離れる介護職が沢山います。職業人として健全な心身を保つための日々の努力(運動・栄養管理・睡眠・ストレス解消など)は欠かせません。

 

≪演習≫

  介護のプロとして医療職(医師・看護師・PTなど)にはできないこととして、どんなことがあるか話し合おう

 

(ヒント:利用者のQOL向上を考えた時、医療職の限界は何であり、介護職は何ができるか)

 

 

次回その2に続く