訪問介護事業 起業の手引き 5

 

15 処遇改善加算の算定

 処遇改善加算は開業当初から取得することができます。
 会社を設立すると同時に、就業規則と賃金規定などのキャリアパス要件を整備すれば、処遇改善加算Ⅰを取得することが可能です。
 申請のためのマニュアル本も出ていますので、参考にすると良いでしょう。
https://www.amazon.co.jp//dp/4539725424/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1518746828&sr=1-1」

 簡単に加算を取得するためのポイントを説明します。

①就業規則を作成する
 就業規則は自分でも作成できますし、社労士に頼めば作ってくれます。
 常勤職員の少ない当初は労基法に則った標準的なもので良いでしょう。
 厚生労働省でもモデル就業規則を提供していますので。これをそのまま使っても良いでしょう。
www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

 ただし、従業員が10名以上になると就業規則を労働基準監督署へ提出しなければなりません。その際は社労士に相談してください。

②キャリアパス要件に則した賃金規定を作成する
 詳しくはマニュアルなどで確認していただきたいのですが、簡単に言うと、勤務年数や資格の取得により、出世し給料が上がる仕組みを作ることです。
 パート職員でも、資格により手当を付けたり、勤務年数により時給が上がる仕組みを作る必要があります。
 そうした、昇格・昇給のルールを整備した賃金規定と昇格の基準=一般的には「職務評価の基準」を整備しなければなりません。

③資質の向上の計画
 簡単に言うと研修計画プラス評価の仕組みです。
 職員一人一人に職務に関する目標を設定し、その目標を達成するための研修計画を立てることが必要になります。
 たとえば、ある職員に「移動移乗の介助が不安なく安全にできるようになる」という目標を立てたとします。
 するとそれを達成するための具体的な研修計画を作成します。研修については社内研修でも構いません。そして、研修終了後に、管理者などが目標を達成できたかを評価します。
 この一連の流れが分かる書類が必要になります。
 具体的には、各職員A4一枚で目標と研修計画、評価が記入できるシートを作ります。

 なお、処遇改善加算の算定要件を整備するための助成金がありますので社労士にご相談ください。

 

16 特定事業所加算の算定

 特定事業所加算は開業後3か月程度で要件が揃えば算定できます。
 上述の処遇改善加算と要件がかぶる部分がありますので、両方取得することをお勧めします。
 特定事業所加算Ⅰは重度のご利用者が多くいなければ取得できないので、なかなか難しいのですが、Ⅱであれば介護福祉士が一定の割合在籍することで要件が満たせます。

 また、毎月、スタッフ会議を開かなければならないのですが、これは処遇改善加算の社内研修と組み合わせることで、効率的に実施できます。

 特定事業所加算を取得し、しっかりとその要件を維持していくことは、スタッフの定着に繋がります。
 スタッフ(特にパートスタッフ)にとっては毎月ミーティングがあり、研修がしっかりしている事業所の方が安心して働けるのです。
 もちろん、会議手当や研修手当を支給する必要がありますが、求人費にお金をかけるよりも、スタッフの定着にお金をかけた方が賢明です。
 スタッフの定着率の高い事業所は地域からも信頼され、差別化が難しい介護事業であっても差別化が可能になり、事業の拡大がしやすいでしょう。

 

17営業について

 指定申請の書類を受理されれば、もう営業を開始して良いと思います。
 指定番号が無いので若干やりにくい部分もあるのですが、手作りで良いので簡単なチラシやパンフレットを作り、新事業所のオープンを地域にアナウンスしましょう。

 営業先としては以下のとおりです。
 ①地域包括支援センター
 ②居宅介護支援事業所
 ③障害者相談支援事業所
 ④病院(メディカルソーシャルワーカーへ案内)
 ⑤その他社会福祉協議会や障害者支援センターなど

 また、区市町村の所管セクションへ出向き挨拶するとともに、地域の介護事業所の集まる会や組織などがあれば事務局を紹介してもらいましょう。
 こうした横のつながりを持つことは重要です。場合によっては人手不足で利用者の対応が困難になっている事業所から、ご利用者を消化してもらえる場合があります。

 障害者の居宅サービスなどではサービス供給が追い付いていない場合がありますので、かならず区市町村などの所管セクションへ出向いて状況を聞く必要があります。

 利用者獲得は上質なサービス提供と、ケアマネ等へのきめ細かい連絡調整しかありませんので、サービス提供責任者の力量が試される部分でもあります。

 そのためにも、サービス提供責任者は開業当初からあまりサービスに出ない体制を作りたいものです。サ責が出ずっぱりで連絡が取れないような状況は好ましくありません。
 収益的にも訪問サービスはパート職員に任せて、サ責はスタッフ指導と各方面への連絡調整に傾注することがよいと言えます。

 

続く

訪問介護事業 起業の手引き 4

 

11 現場経験はあった方が良いか

 

 たとえ、会社経営の経験があったとしても介護福祉現場を知らない方がこの事業に参入する場合、特にスタッフの扱い方で苦労することが多いようです。

 介護福祉で働く職員はがむしゃらに働くようなモーレツ型の人は少なく、職住接近で比較的安定志向の労働者が多いようです。

 簡単に言えば、社会福祉の従事する労働者は準公務員的なイメージが強く、出世よりも安定性やワークライフバランスを重視する傾向にあると思います。

 

 そうした特性を持つ職員に対してイケイケの体育会系の管理をするとすぐに辞めてしまうことになります。その分高額な給与が支払えればまだ良いですが、開業時からそれを行うことは避けた方が良いでしょう。

 

 この業界で開業を目指すならば介護福祉現場で最低でも半年程度働いて、介護福祉業界の人や仕事の雰囲気を把握しておく方がベターだとは思います。

 しかし、それが不可能であるならば、サービス提供責任者に現場経験の長い社員を雇用し、スタッフの指導育成はその人に任せた方が最初のうちはうまく行くとおもいます。

 

 また、経営者に現場経験が無くても、介護職員初任者研修を取得することをお勧めします。

 自治体から補助金が出ている場合、無料で取得できることもあります。

 東京都介護職員初任者研修資格取得支援事業

 https://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html 

 

 現場未経験でもこれによりある程度介護の知識は身につきます。また、訪問介護員の資格が取れますから人員基準を見たしやすくなります。

 

 

12 融資について

 

 先にも述べましたが、500万円の自己資金があれば、途中でお金が足りなくなっても、融資を受けて経営を続けることが可能です。

 

 融資元としては主に2種類ありどちらも無担保・低利率で借りられます。

 

①政策金融公庫「ソーシャルビジネス支援資金」

https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/socialbusiness.html

 

 先に述べた通り、介護事業の指定が下りれば間違いなく融資が可能です。

 

②地元自治体の起業支援などの融資

www.adachiseiwa.co.jp/houjin/yushi/sougyou/(足立区の例)

 

 区市町村には小規模事業者向けの無担保・低利子融資の制度が必ずあります。信用保証協会を利用した融資ですが、産業振興セクションにチラシなどがあると思います。

 また、地元の信用組合や信用金庫で扱っていますので、お店に行けば情報がもらえるでしょう。

 

 この二つの融資はどっちが得かと言えば、区市町村の制度により変わります。上記足立区のように最長5年利子が無料になる場合は、こちらがお得でしょう。

 

 このあたりの情報も地元の金融機関が相談に乗ってくれるかもしれません。

 

 ただし、自己資金500万円で、これまで述べてきたような節約企業を行い、しっかりとご利用者を確保できれば、無借金経営も十分可能です。

融資は事業拡大のための投資用に残しておいても良いでしょう。

 

 

13 金融機関について

 

 金融機関ですが、ネットバンキングを使う場合は郵便局やメガバンクが使いやすいいと思います。しかし、融資などの相談は地元の信用金庫や組合に限ります。

 

 また、給与の支払いなどは、ネット専門の銀行の方が、手数料が安く済む傾向があります。

 資本金や運営資金を入れ、国保連からの収入と各種支払いをするメイン口座を、通帳のある大手の銀行にしておき、給与の支払いはネット専門銀行。融資の受け入れは地元の信用金庫等にするパターンが考えられます。

 しかし、社員が少ない場合は、ネット専用銀行は後で検討すればよいと思います。

 「ネットバンキング振込手数料の比較」

 www.netbank-navi.com/perfect-comparison.html

 

 

14 税理士・社労士について

 

 介護事業会社を設立した場合、税理士と社労士と契約をしなければなりません。

 先に、社労士を探します。

 なぜなら、処遇改善加算を算定するためにはパートを含め社員を雇わなければならず、社員を雇った場合は、10日以内に「労働保険の保険関係成立届」という書類を、所轄の労働基準監督署へ提出しなければなりません。

www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/hoken/dl/040330-2b.pdf

 この手続きや保険料の計算などは社労士さんに依頼します。

 

 また、税務関係の届け出も必要です。自分で行うこともできますが、税理士に頼んだ方が無難でしょう。どちらにしても毎年の決算作業は税理士に依頼しなければなりませんので、税理士さんとも契約が必要です。

 

 税理士や社労士の探し方ですが、地元に税理士会や社労士会があればそこで紹介してくれるかもしれません。

 事業所の近くで開業している士業の中から、ホームページなどを参考にしながら、直接面談して、信頼できる方かを確かめる必要があります。

 

 会社が小さいうちは、税理士や社労士の能力が問われることはあまりないのですが、会社が大きくなるにつれて、税金対策や労務対策でこれらの士業の能力が問われる場面が出てきます。

 その際、物足りなさを感じたら、変更することも可能です。

 

 起業当初は、毎月の訪問による相談などはあまり必要ではありません。

 書類のやり取りをネットで行うなど、顧問料を安く対応してくれる事務所の方がベターであると考えます。

 多くのスタッフを抱えた大規模な事務所の場合は、格安なサービス設定があったりしますが、担当者によってフットワークにむらがあるようです。

 

続く

 

 

訪問介護事業 起業の手引き 3

 

 

8 収支シミュレーション

 

 高齢者介護ではサービス提供責任者一人で利用者40人程度まで扱えます。

 東京でしたらご利用者一人当たりの介護報酬が月4万円程度見込めるでしょう。

 すると、1か月の売り上げは200万円程度になります。

 開業したら、まずここが目標になります。

 少しでも早く利用者数40名を目指しましょう。

 

 障害居宅を一緒に行う場合は、障害の人数を足し合わせて40名でOKです。

 障害サービスは利用者の状態によって一人当たりの利用料金が大きく変わりますが、概ね4万円程度でシミュレーションして良いと思います。

 なお、サ責の扱える40名は高齢者だけです。障害は合計されてカウントされませんので、現実には40名以上の利用者を扱えますが、対応できなくなる可能性もありますから、40名を超えたらサ責を増やした方が良いでしょう。 

 

 40名の利用者に訪問を行う場合、パートさんをそれなりの人数、雇わなければならないでしょう。

 パートさんの給料は介護報酬の概ね半額として計算します。

 すると、すべての訪問をパートさんで賄えば、売り上げ200万円であれば、100万円の粗利益になります。

 そこから、事務所の家賃や必要経費を引いて、7080万円が経営者夫婦の収入になります。

 

 夫婦二人で70万円であれば、年収は840万円となり、大企業並みの給料と言えます。

 もちろん、訪問をご夫婦でやればその分のパートさんの人件費は浮きますが、サービス提供責任者や管理者はできるだけ事務所に居た方が良いので、訪問はできるだけパートさんに行ってもらう方が良いのです。

 この点は後ほど人材確保のところで説明します。

 

9 創業時の固定費(事業所家賃等)は最小限に 

 

 都心部で訪問介護の手が足りないという声を時々聞きます。

 これは都心部では他業種の給与に比べ介護職の給与が低いということもありますが、そもそも事業所家賃が高いということがあります。

 

 都心部の不動産価格の高騰は目に余るものがあります。にもかかわらず、給付額は周辺区と同じであり逆格差ともいうべき差が発生してしまっています。

 

 これは事業所家賃が介護事業経営の経費として非常に大きなウェートを占めていることを意味しています。特に創業時はその負担は大きくなります。

 たとえば訪問介護を開業する場合、家賃はできれば10万円程度に収めたいものです。さらに同じ事務所で居宅介護支援事業所も兼業するなど、できるだけ事業コストを抑える工夫も必要です。

 

 ただし、あまりみすぼらしい事業所ですとパートさんが集まりにくいという傾向があるようです。

 なにも駅前などである必要はありませんが、働く人が通いやすく、居心地が良い事業所の方が人材確保の面で有利だと思います。

 

10 人材確保の重要性 

 

 安定的な人材の確保はこの事業を経営していく上で最重要・最優先の課題です。

 現場を知っている方ならすぐに人が辞めてしまう状況は見知っていると思いますが、介護福祉の分野だけでなく中小企業の職場はどこも離職率は高いのです。

 

 しかし、医療福祉分野の特徴として、資格があれば日本全国どこでも仕事ができることや、給与水準がどこでもあまり変わらないなど、ちょっとした理由で職場を変えやすいという傾向がこの業界にはあります。

 

 まずはパートさんの確保と定着から取り組みましょう。

 正社員は固定費が高く、介護報酬に対して人件費が8割前後になります。それに対してパートさんは5割です。正社員は事業を拡大する場合に吟味して雇うようにしましょう。

 

 最初はパートさんの確保が優先です。

 パートさんは家の近所に働きやすい職場を求めています。

 働きやすい職場とはズバリ現場の責任者の「面倒見がいいこと」です。

 介護や福祉の仕事は専門知識がある程度必要ですし、介護技術もマスターしていなければなりません。現場に不安があれば責任者に色々と相談したいのは当たり前です。

 

 そうした相談がすぐできる職場の体制や雰囲気がとても重要です。

 特に訪問系の仕事は一人で現場に入りますから、相談や情報共有体制をしっかり整備することは必須でしょう。

 

 具体的にはサ責や管理者が忙しくてパートさんが相談したくても捕まらないという状況は無いようにしましょう。仕事の不安をすぐに払しょくすることが大切です。

 そのことがパートさんの定着に繋がります。

 

 例えば、子育て中の主婦パートの場合、子供の急な病気などで、仕事を休まなければならない場合があります。

 その時、快くサ責や管理者が穴を埋められるような体制を作っておかなければなりません。

 

 地域に住む主婦のパートさんは居心地が良いと長く勤めてくれます。

 また、子育てが終われば、常勤として働いてくれ、事業の拡大に貢献してくれる場合もあります。

 

 続く

 

 

訪問介護事業 起業の手引き 2

 

 

5 効率的に起業しよう

 

 たとえば夫婦二人で訪問介護事業を起業するとしましょう。

 実は訪問介護は夫婦二人で開業するのが最も効率が良い方法です。

 ちなみにカレーハウスのCOCO壱番屋も夫婦での経営を奨励しているようです。

 

 資格としては二人とも介護初任研修以上、一人はサービス提供責任者の資格(介護福祉士など)が必要になります。

立ち上げ当初は、常勤のご夫婦で管理者とサービス提供責任者を務め後はパートさんで営みます。

 

 ご夫婦は役員登録とし、報酬を押さえます。

 実は、役員は最低賃金などの縛りが無く、役員報酬はいくらでも構いません。

 健康保険や年金の支払いを安くするため、せいぜい月8万円ぐらいでOKでしょう。

 

 それでは生活できないではないかと思うかもしれませんが、生活は自己資金の500万円を切り崩します。

 起業時の資本金を100万円程度にし、スタート時に必要な資金は役員から会社に貸し付ける形にします。

 会社に収入が入れば少しずつ返してもらいます。1年目はこの形で生活できるでしょう。

 

 なお、資格は自治体が無料で資格取得を支援していたりします。東京都では以下のプログラムがあります。

 https://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html

 

 

6 障害者居宅サービスも同時に指定を受ける

 

 訪問介護事業所の指定を受けられれば、同時に障害者居宅サービス事業所の指定を受けることができます。

 

 事務所やスタッフは共用出来ます。指定申請は必要ですが、あまり余分なお金はかかりません。

 障害者居宅サービスは今後も大きな需要が見込まれています。

 障害者総合支援法が施行されて以来、障害者施設や病院で生活している人たちが、在宅での生活に切り替えはじめているからです。

 

 特に障害児の需要の伸びは大変大きいものがあり、今後もサービスは増え続けると考えられます。また、精神障害者などまだサービスを使っていない方々も大勢いますので、この分野の仕事は増える一方と考えて良いでしょう。

 

  筆者の支援している事業所でも半分以上の仕事が障害者サービスである場合も多く、社会的にサービスが不足しているため、事業所立ち上げ後すぐに依頼がある場合もあります。

重度の障害者の場合一人の利用者のサービス量が多く、大きな収益になります。一つの事業者だけでは賄いきれないため、いくつかの事業者で協力してサービスを提供している場合もあります。

 

 

7 株式会社・合同会社・NPO

 

 介護事業は法人でなければ開業できないことになっています。

 この法人は法的に登記された組織ということですが、地方自治体や社会福祉法人もこの法人にあたります。

 

 個人で法人を立ち上げる場合、いくつかの形態が考えられます。それらの特徴は以下の通りになります。

 

①株式会社

 もっとも一般的な法人の形態です。

 将来、介護事業以外にもいろいろな事業に発展させたい場合はこの形態にします。当然大きく成長すれば、株式上場企業になれるわけですが、株式を上場しなくても、投資家などから事業資金を期待する場合は、株式会社にする方が良いでしょう。

 設立には30万円程度費用が必要です。

 

②合同会社

 個人事業主を法人化したようなイメージです。小さな会社で地域の中で安定的に事業を継続していく場合は、合同会社でも良いでしょう。設立に要する資金が株式会社の半分以下で済みます。

 投資家などからの資金援助は期待できませんので、会社を大きくしにくいデメリットがあります。また、社会的信用という意味では若干不利かもしれません。

 実は西友やアップルジャパンも合同会社です。バックに大企業があり投資家からの資金援助を必要としないため、逆に経営の自由度が高く、この形態が選ばれているようです。

 なお、合同会社は株式会社に切り替えることはできます。

 

NPO

 いわゆる非営利法人で設立費用は安いですが、業種が限定される上、お金儲けもできません。会員を集めなければならず、運営の自由度も低いです。

 地域で志が同じ仲間を集めて、社会事業をやって行こうという場合に有利な法人形態でしょう。

 また、福祉有償車両などの運営は非営利法人でないとできないため、株式会社の中にNPOを設置する場合もあります。

 

④一般社団法人

 こちらも非営利法人です。NPOよりも設立が簡単ですがイメージとしてどのような団体なのか分かりにくく、若干怪しまれる部分があります。

 通常、企業などが限定的な社会事業を行う場合に設立しているようです。NPOにするには会員が足りないが、非営利法人で介護事業を行いたい場合は、この形態でも良いでしょう。

 NPOと同じように、非営利法人以外できない公益事業を運営できる場合があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

訪問介護事業 起業の手引き1

 

 

 今回から起業の手引きを書いていきたいと思います。
 初めて起業する人でも理解できるように分かりやすく書ければと思います。

 

1 介護・福祉の起業は成功率が高い

 起業1年目で会社が倒産してしまう率は約30%。また5年生存率は50%だとか10年後は10%だとか、厳しい話が聞こえてきます。
 しかし、介護・福祉事業の生存率はかなり高く、1年目で潰れてしまうような事業者は10%もいかないのではないかと思います(ほとんどスタッフが辞めてしまって事業が続かなくなるパターンです)。
 事実、医療・福祉系の新規開業率と廃業率を比較すると、全業種でトップの生存率になっています。
 ニュースでは毎年「介護事業者の倒産数が前年を上回る」という報道がなされますが、これはトリックがあって、介護事業者の企業数が毎年増えているため、倒産数も増えているだけであり、実際の倒産率は1%にも満たないと考えます。

 

2 フランチャイズ加盟は意味がない

 各業種で独立開業を考える場合、成功したビジネスモデルを買ってフランチャイズで事業を起こすことがありますが、介護・福祉事業は国や自治体が運営モデルを提示しているロイヤリティーのいらないフランチャイズです。

 通所介護や訪問介護・看護などでフランチャイズ・チェーンを展開している企業があります。しかし、独自のビジネスモデルを構築して介護事業を営むことは、上述の国や自治体の運営モデルから外れてしまう場合があり、設置基準違反となることもありえます。グレーゾーンを突いて独自のサービスを提供することも考えられますが、お泊りデイサービスのように問題になるケースもあります。
 わざわざ高いロイヤリティーを払ってフランチャイジーになるのはお金の無駄です。国が明確な運営モデルを提示していますので、それを順守して経営をしていくことが肝要ですし、それで十分継続経営は可能です。
 もし、新奇なサービスを提供するのであれば、介護保険サービス外で行っていく方が良いでしょう。介護保険サービスはあくまで基準の中で提供すべき内容が決められています。それを逸脱することは経営そのものを危うくしますので、スタンダードなサービスを心がけることが成功の肝です。

 

3 介護事業は儲からない? 

 「介護事業は儲からないからねえ」という声を聴きます。
 しかし、平成24年の総務省の調査、業種別「利益率」を見ると、最も大きいのが「学術研究.専門・技術サービス業」15.2%で、次いで「不動産業」12.5%、「飲食サービス業」11.5%となっています。
そんな中「社会福祉・介護事業」は8.1%と全体で8番目に付けており、「小売業(6.4%)」や「教育・学習支援業(5.7%)」、「農林漁業(5.3%)」よりも高い数字です。
必ずしも儲からないわけではありません。

 「いやいや、人件費が安いからその数字が出ているのじゃないの?」

 確かにその指摘は一部当たっています。しかし、国も処遇改善手当を用意する等、介護職の処遇改善を継続しています。今後は少ずつ改善していくと考えます。また、介護事業よりも給与の安い業界は他にもいくらでもあります。

 介護福祉事業は、ヒット商品や新しいビジネスモデルを生み出して儲けたり、生産性を上げたりコストカットを努力したりして儲けることがしにくい事業です。
つまり、成功を夢見る起業家には魅力的に見えないでしょう。また、既存事業からの参入するにしても、既に営んでいる事業の従業員よりも介護事業の従業員の給与を安くしなければならないなどの問題があります。
 しかし、逆に言えば競争性があまり高くなく、実直な仕事を継続していれば、非常に安定した事業であり、いわゆる「食いっぱぐれの無い」潰れない事業なのです。

 

4 訪問介護は低コストで起業が可能

 開業資金は、1年間収入が無くても耐えられる程度は用意したいものです。
介護報酬の支払いは2か月後ですし、パートさんの給与の未払いなどが発生した場合、噂は地域にすぐに広まり、スタッフが寄り付かなくなってしまいます。

【必要資金例】 
◎訪問介護  自己資金500万円 + 開業後融資500万円 = 1,000万円

 自治体の指定が取れれば、政策金融公庫の融資は容易に受けられます(過去に事業融資で焦げ付き等を出していないこと)。
政策金融公庫「ソーシャルビジネス支援資金」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/socialbusiness.html

 また順調にご利用者が獲得できれば、開業後の融資がなくても軌道に乗ってしまう場合もあります。
 
 訪問介護は初期の設備投資や、人件費が少ないため、起業時のコストとしては非常に安く済みます。ちなみに、訪問看護も同様に低コストです。看護師の免許を持っていれば、訪問看護も同様に起業には向いています。
 なお、通所介護は設備投資を含め2,000万円ほど資金必要になります。それにもかかわらず収益率は訪問介護より悪い状況です。
同じ介護事業でも起業時に扱う事業としては避けた方が良いでしょう。

 次回は具体的な起業の仕方を説明します。

 

 

パブコメから次期介護保険改正の全容(居宅基準)が明らかに その1

 

 

 

 来年4月より施行される改正介護保険法の各種基準に関するパブリックコメント募集が始まりました。

「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(仮称)案等に係るパブリックコメントの開始について」2017/12/4

 

 この内容が介護保険事業(居宅サービス)の各種基準の改正点と言ってよいでしょう。

 報酬関係についてはまだ全貌はわかりませんが、基準面の変更点はこのパブリックコメントが全容になると考えます。

 

 今回はこの改正内容のトピックをご取り上げたいと思います。

 

 

居宅介護支援事業所の管理者は2021年から主任CMへ

 

 経過措置を設けて2021年に居宅の管理者は主任ケアマネージャーでなくてはできなくなります。

 

 経過措置の内容はわかりませんが、現在、居宅支援事業所の管理者で、主任CMではない人は、この経過期間中に研修を受け、主任CMにならなくてはいけないという措置になるのではないかと予想されます。

 

 

主任CMの争奪戦も

 

 すべてのCM管理者が研修を受けられるよう、区市町村が配慮してくれることは考えますが、現任CMが研修を受けられない場合、主任CMを新たに雇用しなければなりません。

 そのため、2021年に向けて主任CMの争奪戦が起こるかもしれません。

 

 居宅介護支援事業者は、2021年に向けて、主任CMの確保に努力する必要があります。そのためには、現任管理者の継続的な雇用のための処遇面や任用面での優遇を図る必要があるかもしれません。

 

 CMとしての能力が劣る場合や、CM業務をあまり行っていな管理者は、主任CMの研修が受けられない場合も考えられます。

 今のうちから2021年以降の業務継続に向けて、業務能力のあるCM管理者の確保を進めていくべきでしょう。

 

 

訪問介護に新たな義務規定

 

 以下の基準が加わるようです。

「訪問介護の現場での利用者の口腔に関する問題や服薬状況等に係る気付きをサービス提供責任者から居宅介護支援事業者等のサービス関係者に情報共有することについて、サービス提供責任者の責務として明確化する。」

 

 上記の運営基準が加わると何が変わるでしょうか?

 

 まず、運営規定にこのサービスの提供を明示しなければならないでしょう。また、アセスメントにおいて口腔や服薬に関する項目を必ず入れる必要があります。

 さらに実地指導などで、この情報提供の事実があるかどうかの確認がされると考えなければなりません。

 ケアマネへの情報提供や連絡時に少し意識してこの情報を伝えるようにする必要があります。

 

 

訪問介護員への研修が必要

 

 口腔に関する問題や服薬をしている利用者は大勢いますので、多くに利用者にこの観点での観察が必要になります。

 訪問介護員が服薬状況に関して日々注意しながらサービス提供をしていく姿勢が必要になりますので、研修などで意識付けをしていくことが重要でしょう。

 

 口腔に関してはアセスメント時に特に問題が無くても、気が付けば硬いものが食べられなくなっていたり、嚥下状態が悪化していたりすることは十分に考えられます。

 サービス提供の中での継続的な観察が必要になると思います。

 

 昨今、要介護度を上げるフレイル(虚弱)やサルコペニア(筋肉減少)の原因の一つとして、高齢者の栄養問題が大きく取り上げられています。

 口腔の問題だけでなく、利用者の食生活全体に意識を向けるようにしていくことが、今後さらに重要になると考えます。

 

 

 共生型サービスの新設

 

 今改正の目玉の一つでしょう。

「共生型通所介護については、障害福祉制度における生活介護、自立訓練、児童発達支援又は放課後等デイサービスの指定を受けた事業所であれば、基本的に共生型通所介護の指定を受けられるものとして、基準を設定する。(居宅基準及び地域密着型基準(新設))」

 

 これは介護保険法の改正ですから、障害サービスからの参入基準の緩和が示されていますが、同様の改正が障害者総合支援法の方でもなされた場合、介護事業から障害サービスへの参入基準緩和となります。

 

 逆読みすれば、通所介護と生活介護、自立訓練、児童発達支援又は放課後等デイサービスの共生型通所介護が可能になるということです。

 具体的な指定基準がわかれば指定を受けるか検討してみる価値はあると思います。

 

 共生型通所介護の内、老人デイサービスと放課後等デイサービスは施設設備の有効利用という観点から、事業として有望であると考えます。

 平日日中のサービス提供が中心の老人デイサービスに、夕方から夜、休日が中心の放課後等デイサービスを合体させることができます。

 賃料や車両費など固定費の無駄を省けますので、経営上非常に有望でしょう。

 共生型通所介護の具体的な説明は以下の記事をお読みください。

 https://carebizsup.com/?p=951

 

 なお、この共生型サービスは短期入所生活介護でも実施される予定です。

 

 次回は続きをご説明します。

 

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その5

 

 

 今回説明するのは介護保険法の施設サービスです。

 介護事業を開業する場合、株式会社ではこのサービスに参入することはできません。

 

 介護保険法の施設サービスは社会福祉法人などの公益法人でないと事業を行うことはできないので、中小企業でも土地など豊かな資産をもっており、公益法人を設立できる財力がある企業でなければ、参入は難しいといえます。

 

 しかし、居宅サービスを営む場合でも、これらのサービスがどのようなサービスなのかを知っておく必要はあります。

 施設サービスはある意味、居宅サービスにとってのライバルであるので、相手に負けないサービスを目指す意味でも知っておくことは重要でしょう。

 今回は、そうした観点からの説明です。

 

 

居宅サービスと施設サービスの違い

 

 介護保険法の施設サービスは、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・介護老人保健施設(老健)・介護療養型医療施設の3つだけです。

 その他の介護サービスは基本、居宅サービスに分類されます。

 有料老人ホームは提供するサービスは特養と似ていますが、居宅サービスに分類されます。

 また、地域密着型サービスの中に、地域密着型介護老人福祉施設があります。

 こちらは小規模な特別養護老人ホームですが、居宅サービスに分類されるとともに、中小企業でも公募による参入が可能です。

 

 

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)

 

 多くの方が、公設の老人ホームというイメージを持っているかもしれません。

 一度入所すると、亡くなるまでそこで暮らすイメージでしょう。しかし、規定上は自宅に戻ることを「念頭」に置いたサービス提供が求められており、終の棲家としての施設を前提としていません。

 

 しかし、入居基準が要介護3以上と変わったことで、実態としては、ほぼホスピス(終末期ケア)サービスを提供する施設になっていると言えるでしょう。

 

 利用者は、在宅生活が困難になった、低所得層の高齢者が中心です。さらに、医療的ケアが必要な方は入居できない場合があります。比較的認知症末期の方が多いかもしれません。 

 

 しかし、BPSD(≒問題行動)などが強いと入居ができない場合があります。そういう方は、精神科のある病院に入院される方も多くいらっしゃいます。

 

 認知症でも比較的穏やかな状態で、かつ下肢筋力が低下して歩行が困難になったような方が典型的な利用者でしょう。

 

 特別養護老人ホームは万能の介護施設のイメージがあるかもしれませんが、上述のように入居できる方はかなり制限されている部分があります。

 

 都会では特養待機者が沢山いるという報道がありますが、その待機者の中には在宅生活が可能な方や入居基準を満たしていない方(申し込んではいるが実際には入れない)も多くいらっしゃるようです。

 

 最近では、地方などで、空きが多く出始めている施設も増えており、入居基準を見直して、幅広い状態の方を受け入れていく必要もあるようです。

 

 

介護老人保健施設

 

 業界では「老健」と呼ばれる施設で、リハビリを中心として医療的ケアを行う施設です。

 

 典型的な利用者のイメージとしては、脳血管性の疾患などにより、身体機能に障害があり、在宅での日常生活が困難な方が、在宅復帰を目指して、医療的管理の下でリハビリを行うという感じでしょう。

 脳梗塞発症後の半身まひの方などが典型的な利用者です。

 

 あくまで在宅復帰を目指した施設ですが、実際には長期にわたり入所している方が沢山いらっしゃいます。

 その意味では特別養護老人ホームとあまり変わらないような状態になっている施設もあります。

 

 一般的には概ね6か月程度で自宅に戻る想定ですが、独居の高齢者などでは、在宅復帰への不安が大きい場合も多く、別の施設に移る方も多いようです。

 

 介護老人保健施設は医師が常勤している必要があるため、病院などに併設されていることがよくあります。

 これはあくまで筆者の主観ですが、介護老人保健施設を併設している病院に入院すると、そちらの施設を利用させられることが多いような気がします。

 在宅復帰の判断はあくまで医師がすることなので、経営上そのあたりのコントロールがされている感じがします。

 

 

介護療養型医療施設

 

 昔は、老人病院などと呼ばれていたこともあります。

 

 介護保険制度前の話ですが、筆者の母親は脳梗塞半身まひで筋力低下のため寝たきりでしたが、心臓弁膜症手術(弁置換)の既往があり、さらに褥瘡があったために(特養を含め)老人ホームに入居できず、死ぬまで病院で暮らしていました。

 

 在宅生活が困難な、医療的ケアの必要度が高い利用者を対象とした施設ですが、単体施設としての介護療養型医療施設は今年度末に廃止される予定です。

 

 今後は、先に説明した老人保健施設や病院の中の療養病床などでケアを行っていくことになるようです。

 

 施設により違いはありますが、やはり介護施設というより、病院のイメージが強く、たとえば食事はベッド上で摂らなければならなかったり、利用者のQOLを考えた場合、問題がある施設もあるようです。

 

 廃止になるのもその辺が理由かもしれません。

 

 

 この項おわり

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その4

 

 

 今回は、地域密着型サービスへの参入についてご説明します。

 

 

地域密着型はその区市町村の住民のための施設

 

 これまでご紹介してきた居宅サービスは、都道府県が事業指定し、利用者がどの区市町村(他の都道府県でも)に住んでいても利用ができる、サービスでした。

 これから紹介するのは、区市町村が事業指定し、原則、その区市町村の住民のみが利用するサービスです。

 

 

日本の介護保険サービスは区市町村の責任で提供する

 

 わが国の介護保険サービスは、基本的に各区市町村が地域住民の介護福祉に対して、行政責任を持つ形で設計されています。

 国民の老後のケアはそれぞれの人が住む、区市町村の責任で行うということです。

 従って、各住民の介護保険の管理も区市町村が行っており、いわゆる保険者という立場で介護事業を実施しています。

 

 

国は各区市町村の介護サービスを競争させている

 

 住民の健康や介護は区市町村の責任で管理していくのが基本原則ですが、国はこうした区市町村の取り組みを評価し、どの区市町村が良くやっているかを評価しています。

 本番の評価システムはこれから構築され予定ですが、評価自体は介護保険がスタートしたころより行っています。

 この、自治体は介護度の悪化が酷い、とか、この自治体は介護予防を頑張っているな、というような評価です。

 

 

地域密着型サービスの中心は介護予防

 

 各区市町村は国がいつでもチェックしているというプレッシャーを受けながら、事業を運営しています。

 そのため、現状、地域密着型サービスの中心は、住民を要介護にしない介護予防になってきます。

 たとえば住民の健康管理や、要介護状態のチェック、運動教室などがそうした事業です。

 しかし、この分野は、行政の責任で行っている場合が多く、一般的な介護事業所ではあまり参入する余地がありません。

 要支援(介護予防)のサービスについても、地域包括支援センターが指揮を取り住民の状態悪化防止に取り組んでいます。

 この、地域包括支援センターの運営も、社会福祉法人など専門組織の仕事になっています。

 

 

一般企業は補助金の出る事業に参入する

 

 これまでの居宅サービスとは異なり、地域密着型サービスの一部では施設建築費などの補助金交付出る事業があります。

 特に、グループホームや小規模多機能居宅介護事業所は、介護事業の経験が少ない企業でも比較的参入しやすい事業でしょう。

 土地を確保すれば、建物建築費の8~9割は補助金で賄えるようになっています。

 地域で小さく開業した介護サービス業でも、この補助金を活用することで、事業拡大を目指すことができるでしょう。

 

 

地域密着型サービスは公募制

 

 ただし、こうした事業を行うためには、区市町村の公募に参加し、コンペで採択されなければならないというハードルがあります。

 コンペで競合が居なければ良いのですが、多くの場合は複数の事業者がコンペに参加してきます。

 一部、都心などで土地が確保しにくい地域では、公募参加者がいないケースもあるようですが、土地が確保しやすい地域では必ず競争になると思います。

 

 

どのような企業が採択されるのか

 

 地域密着型がスタートした頃(10年ほど前)は、大手の介護事業者が採択されるケースが多かったと思います。

 これは、各区市町村にとっても初めて地域密着型サービスを設置するわけですから、できるだけ実績のある、大企業にお願いしたほうが安心であるという考えが働いていたからでしょう。

 

 しかし、一度大手がその地域に参入すると、その大手企業は二つ目の参入は難しいようです、時が経つにつれ、中小企業も公募で採択されるようになっています。

 

 ただし、それでも、介護事業の経営経験がある程度あったほうが有利ではあります。

 医療法人などであれば、その経験でも参入できるかもしれませんが、全くの別種事業者の場合は、なかなか難しいかもしれません。

 

 

公募で採択されるには

 

 地域密着型サービスに参入するには、他の介護サービス事業を数年経験し、安定した経営ができるようになってからの方が良いでしょう。

 行政は地元で地道に優良な事業を運営している企業を評価しやすいと考えます。

 さらに、母体となる企業(別種事業でも)がその地域で長く経営している場合は、そうした地元への貢献度も評価の対象となります。

 グループホームや小規模多機能居宅介護などのサービスは、一つの企業が各地にチェーン展開している場合も多く、行政としても同種事業を広く展開している経験を買う場合もあります。

 しかし、すでにそのような種類の企業が同地域に開業している場合は、経験は浅くても地元密着型の企業の方を評価することも十分あり得ます。

 

 

地域密着型サービスは介護事業参入の第2ステップ

 

 これまで述べてきたように、訪問介護などで介護事業に参入したのであれば、地域密着型サービスへの参入は事業拡大の第2ステップと考えるべきでしょう。

 地域密着型サービスに参入することで、すでに実施している介護事業にも相乗効果があると考えます。

 

 なお、地域密着型通所介護事業には補助金は出ません。この事業に参入する場合は地域ニーズをしっかり見据え、慎重に取り組むべきであると考えます。

 

 

 次回は、施設サービスについて説明したいと思います。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その3

 

 

 前回の続きです、さらに様々なサービス事業についてご紹介します。

 

 

居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)

 

 在宅のケアマネジメント・サービスを提供する事業所です。

 現状の介護給付費ではこの事業所だけで儲けを出すことは難しいのですが、他の事業所と合わせて経営することで、お客様の獲得という営業的な機能を発揮します。

 

 例えば、訪問介護事業所にケアマネ事務所を併設することで、訪問介護サービスの利用者を獲得しやすくなります。

 

 また、実際にケア・サービスを提供していく上で、ケアマネと訪問介護スタッフが同じ事務所に所属していると、情報の共有が容易になり、きめ細かいサービス提供をしやすくなります。

 

 従って、訪問介護事業所ではこのケアマネ事務所を併設しているところが多いでしょう。

 

 専門的な話になりますが、一つのケアマネ事務所が訪問介護の依頼を、併設の訪問介護事業所に集中させる場合、介護給付費が減らされるというルールがあります(集中減算)。

 

 しかし、実際には併設の訪問介護事業所だけでサービスを独占することは難しく、それほど心配することはありません。

 

 なお、集中減算は国の審議会でも問題視されている部分があり、今後、一定の条件下で緩和される可能性も示唆されています。

 

 ケアマネージャーは介護サービスの営業職的な側面があります。また、一方で、地域行政や各種介護関係組織・医療機関と密接に連携して、地域の介護サービスを推進させていく公的な役割も期待されています。

 

 在宅介護のケアマネージャーは、一つの地域にじっくり腰を据えて、良い仕事をしていくことで、地域での存在感が増し、所属する会社自体も地域から信頼を得ることができます。

 

 居宅介護支援事業所はケアマネージャーが一人いれば開設できます。他のサービスと併設する場合は、そのサービスの管理者も兼務できます。

 

 もし、この事業所を開設しようとする場合、最初に雇用する管理者となるケアマネージャーは、上記のような趣旨に照らして、人格のしっかりした、力のある人をじっくり選んで雇用するべきであると考えます。

 

 

福祉用具貸与・販売

 

 在宅介護で利用する福祉用具の貸与・販売をする事業所です。

 訪問介護事業所で介護福祉士が複数いる場合、この事業所の福祉用具専門相談員と兼務ができますので、兼業している事業所も多いですが、最近では訪問介護業務が忙しく、福祉用具まで手が回らないという状態の事業所が多くなっています。

 

 パナソニックなど大企業が参入していることもあり、福祉用具だけで儲けを出していくことはなかなか難しいといえます。

 

 ただ、ある程度の規模で、多様な在宅サービスを提供している会社であれば、この事業を行うことはメリットがあるかもしれません。

 たとえば、通所介護の送迎車は朝と夕方以外稼働していない場合があります。この送迎車を福祉用具用の運搬車に兼用することはメリットがあるでしょう。

 

 福祉用具は大きな倉庫設備を持つ、仲卸の業者から、用具を借りてまた貸しするような仕組みになっています。この仲卸業者から用具を運搬して設置する業務を、自社で行うことで、収益を上乗せできます。

 

 この仲卸業者は概ね商社などの巨大資本をバックに持つ会社が運営しています。配送をやらせてくれるかどうかは、業者により扱いが異なりますので、開業する前に確認が必要です。

 

 なお、福祉用具専門相談員の資格は50時間の比較的安価な研修を受講すると取得できます。

 

 

訪問入浴

 

 訪問入浴は車に浴槽とお湯を沸かすボイラーを積んで、在宅入浴を提供するサービスです。

 

 改造車などの設備投資が必要になります。また、大きな折り畳みの浴槽を運搬しますので(公営団地では5階まで)、ある程度体力のあるスタッフが必要になります。

 

 介護スタッフ2名プラス看護師が規定人員になりますが、看護業務としては比較的簡単な業務なので、現場を離れて看護の仕事に自信がない看護師さんでも比較的就業しやすい業務でしょう。

 

 訪問入浴の介護職は夜勤が無い仕事の中でも、最も稼げる仕事になっています。従って収入の欲しい、体力のある男性が応募してきます。

 こうした男性職員は向上心がある方も多く、将来、会社のコアスタッフとして活躍する場合もあるようです。

 

 開業する場合は、資金が必要なうえに、地域によってはサービスが飽和状態である場合もありますので、しっかりマーケティングする必要があります。

 

 

通所リハビリテーション(デイケア)

 

 一般の方には、リハビリデイサービス(リハビリ特化型通所介護)と区別がつかないかもしれません。

 

 リハビリデイサービスはあくまで通所介護事業所で、特徴を表すために、リハビリデイサービスと宣伝表示しているだけです。

 

 通所リハビリテーションは通所介護とは異なり、医師と理学療法士などが在籍する、医学的リハビリサービスを提供する事業所です。

 通常、整形外科などに併設されている場合が多いでしょう。

 

 母体が医師のいる医療関係であれば開設のメリットはありますが、そうでなければ開業は避けた方が良いと思います。

 

 

 

 次回は、地域密着型のサービスについてご紹介します。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その2

 

 

 他業種から介護福祉事業に参入しようとした場合、どのような事業を手掛けていけば良いのか悩むところだと思います。

 今回は沢山ある介護福祉事業のうち、どのような事業が参入しやすいのか。さらにメリットやデメリット、留意点について代表的なものをご紹介します。

 

 

訪問介護

 

 訪問介護事業は最もイニシャルコストが安く、かつニーズも高い事業です。そのために介護事業を始める際には、最初にお勧めしたい事業です。10坪ほどの事務所があって有資格者が確保できれば開業できます。

 

 資格は既存の従業員でも研修を受ければ取得できます。また、経験者を雇用すれば仕事も問題なくこなせると考えます。

 

 また、指定訪問介護事業はそのまま、指定障害者居宅サービス事業を兼業できます。障碍者向けの訪問介護事業ですが、こちらも将来的に非常にニーズが高い事業ですから、お客様が絶えない状況です。

 

 現在、訪問介護事業所では人手不足でお客様の要望に応えられない事業所も多くなっており、開業後すぐに経営が軌道に乗る事業所が多いといえます。

 

 

訪問看護

 

 こちらもイニシャルコストの低い事業ですが、看護師を確保しなければなりません。

 看護師が確保できれば訪問介護と一緒に開業することでシナジー効果があります。

 訪問介護は介護以外に医療保険の業務も可能です。

 

 やはり将来的に非常にニーズの高いサービスであり、ご利用者が途絶えることは無いでしょう。

 医療費の財政負担を減らしていきたい我が国にとって、在宅診療は、今後大きく伸びるサービスです。

 

 また、地域に住んでいる主婦の看護師さんが子育てをしながら働く場所として最適な事業です。そうしたパート看護師をうまく確保できれば、事業は順調に伸びるでしょう。

 

 ただし、訪問看護は病院勤務と異なり、一人で患者さんのご自宅を訪問してサービスを提供しますので、病院でチームでしか働いたことの無い看護師さんにとっては少々ハードルの高い部分がありなす。労務管理の中でそうした不安を払しょくできる工夫が必要になります。

 

 訪問系の事業はスタッフの仕事に対する不安や悩みを解消できるかどうかが人員を定着する上での大きなポイントです。

 

 

通所介護(デイサービス)

 

 介護業界を知らない一般の方にとって通所介護は開業しやすい事業というイメージがあったようです。事実、少し前まで、未経験の事業者が沢山参入してきた経緯があります。

 

 その代表がお泊りデイサービスで、空き家を改造して認知症の方の宿泊を受け入れられる通所介護でした。

 行き場のないお年寄りの受け入れ場所として一時脚光を浴びました。

 事業としても毎日宿泊利用するご利用者がいると、宿泊費をとらなくても、介護給付だけで一人当たり30万円以上の売り上げがあるので、誰でも簡単に開業でき、すぐに経営が軌道に乗るとして、フランチャイズ化もされもてはやされました。

 

 しかし、介護の質や夜間の管理体制などに問題が多く、行政から連泊に制限が出されたり、スプリンクラーなどの設備投資の追加や、地域によっては開業が禁止されたりしたために、いまではほとんど新規開業は見られません。

 

 通所介護は訪問介護などに比べればイニシャルコストが高く、最低でも1500万円程度の設備投資が必要な事業です。

 

 最近の低金利で融資が受けやすいために、リハビリデイサービスなどで、他産業からの参入も多いのですが、地域によっては供給過剰気味であり、小規模多機能などの他のサービスとの競合や介護給付費の減額もあり、最初に手掛ける事業としてはハードルが高い事業と言えます。

 

 自社所有で100平米程度の床面積を低コストで確保できる場合など、条件が合えば検討しても良いでしょう。しかし、その場合でも、訪問介護事業所を併設する等して、通所介護だけを単独で開業しない方が良いと考えます。

 

 ただ、比較的スタッフのが確保しやすい事業ですので、資金や地域ニーズなどとの関係を考慮して検討しても良いでしょう。

 

 

有料老人ホーム

 

 資金が潤沢であり、会社に体力がある場合は新規事業として検討する事業者もあるかもしれません。建設業や不動産業から有料老人ホーム事業に参入した会社も多く、最近ではソニーなど大企業も参入しいます。

 

 筆者としては、有料老人ホーム事業は介護福祉事業というよりも、老後の生活を支えるサービス業としての視点が必要だと考えています。

 

 高級な老人ホームは自費負担も大きいので、お客様が限定的になります。また、逆に住宅型などの場合、低所得者(生活保護者を含む)をターゲットにした事業形態もあります。

 資金力だけでなく、ある程度、高齢者のニーズをマーケッティングする力が必要になります。

 

 また、都心部では介護保険予算の負担が大きいため、包括型の老人ホームの開業を区市町村が制限している場合があります。都心部で在宅生活ができなくなった高齢者が郊外の有料老人ホームに転居するパターンも多く、そうしたニーズを把握しなければなりません。

 

 さらに、サービスの質の管理が重要です。虐待などの問題が発覚すると、退所者やスタッフ離れが起こり事業が立ち行かなくなる場合があります。人手不足の中、スタッフの業務管理・労務管理を疎かにすると経営が困難になりやすいのもデメリットでしょう。

 

 

 次回も様々なサービスについてご紹介します。