訪問看護の実地指導・検査対策 最終回

最終回は、行政の実地指導でよく指摘される事項や実際の実地指導が来た場合の対応方法、その他まとめとして特に留意してほしい事項を説明いたします。

 

ます、行政などが発表している、実地指導報告書より、訪問看護事業所の実地指導で指導された事例を、その原因や対応法について説明したいと思います。これまでの説明と重複する部分もありますが、ここで上げている事項は特に重要ですので、復習の意味で再掲していきます。

 

(1)よく指摘される事項(人員・運営関係)

① 保健師、看護師又は准看護師を2.5以上確保していない

この指摘は、規模の小さな事業所では特に注意したほうがよろしいでしょう。悪質な場合は指定取り消しになります。特に訪問の稼働(訪問)時間が常勤換算で2.5を超えていない場合は、稼働していない間、訪問看護師が何をしているか(基本待機)明確にしておきましょう。

② 医師の指示書が無い

病院や医師が変わった場合はブランクができてしまう場合があります。医師の指示が無い期間は訪問しても報酬を算定できません。

③ 従業員の秘密保持体制が不完全 

一番多いのは、業務上知りえた利用者等の情報を漏らしてはいけないことを、看護師等の採用時に誓約書等で誓約させていないケースです。誓約書には秘密は退職後も保持しなければならない旨の記載が必要です。できれば、プライバシーポリシー(個人情報保護方針)を作成し、従業員や利用者に提示していると良いと思います。

④ 利用者と家族の個人情報を使用同意を得ていない

重要事項説明書の修正が行われていない事業所があるようです。

⑤ 訪問看護計画書が未作成

医師やケアマネとの関係がなれ合いになり、サービス内容が変わっているのに計画書がずっと昔のままということがあるようです。

⑥  訪問看護計画書の作成に当たって、利用者の同意を得ていない

訪問看護計画書に利用者の署名捺印を忘れないようにします。もらっていない計画書がある場合は速やかに同意を得ましょう。

⑦ 訪問看護計画書の作成者、説明者が不明確

計画書は保健師、看護師(准看護師を除く)が作成しなければなりません。計画書を作成した担当者、利用者へ説明した担当者が一目で分かる よう「作成者」欄、「説明者」欄を設けるようにします(※注意:厚労省のこの欄がありません)。

⑧ 訪問看護計画書の内容と居宅サービス計画(ケアプラン)の内容が合っていない

ケアプランに無いサービスは提供できません。

⑨  看護師等の清潔の保持及び健康状態について、必要な管理が行われていない

以下のポイントを押さえておきます。

 ◎感染症予防・食中毒マニュアルなどが完備されている

 ◎手袋など必要な衛生用品が完備されている

 ◎看護師等の健康診断が実施されその内容を把握している(サービス提供強化加算を算定している場合は必ず)

⑩  毎月、勤務表(従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表)が作成されていない

作成する勤務表には、「職務の内容(訪問か事務かなど)」、「勤務時間」、「常勤・非常勤の別」、「兼務関係」が必要です

⑪ 料金表等に准看護師が訪問する場合の単位数が明記されていない

准看護師が訪問した場合は、所定単 位数が 90/100 となる旨の記載をします。

 

(2)よく指摘される事項(算定関係)

①  初回加算

以下の点がよく指摘されています。 

 ◎新規に訪問看護計画書を作成せずに加算を算定してい る。

 ◎初回加算について、過去ニ月間において医療保険の訪問看護を提供した利用者に加算をしている。

 ◎初回加算の算定要件を満たしている場合であっても、算定していない事例があった。(初回加算は利用料負担公平化の観点から、算定要件 を満たす場合は必ず加算)

②  緊急時訪問看護加算

早朝・夜間、深夜の時間帯に緊急訪問した場合に、早朝・夜間、深夜の加算を算定している。

③ ターミナルケア加算に必要な記録が不十分

ターミナルケア加算を算定する場合は記録書に以下の内容を必ず盛り込まなければなりませんので、注意しましょう。

 ◎利用者及びその家族に対して説明を行い、同意を得ていること。

 ◎利用者の身辺状況の変化等の記録

 ア) 終末期の身体状況の変化及びこれに対する看護についての記録

 イ) 療養や死別に関する利用者及び家族の精神的な状態の変化及びこれに対するケアの経過についての記録

 ウ) 看取りを含めたターミナルケアの各プロセスにおいて利用者及び家族の意向 を把握し、それに基づくアセスメント及び対応の経過の記録

④ 医療保険の給付の対象となる場合に、訪問看護費を算定している

末期の悪性腫瘍や厚生労働大臣が定める疾病等の患者については、医療保険が優先されます。

 

(3)東京都の訪問看護実地指導・検査の状況 - 約85%で指摘事項あり、うち80%が報酬算定の誤り

平成26年度、東京都では 訪問看護事業者1,491事業所に対し131の事業所で実地検査が行われました。このうち何らかの文書指摘を受けた事業所は111事業所で約80%以上が指摘を受けている状況です。最も多いのが「介護報酬の算定等に誤りがあるの で、是正すること」(86事業)という指摘です。

この結果、平成26年度東京都では、訪問看護において合計 827,674円(1事業所当たり6,318円)の返還が発生しています。訪問介護は 310,819円ですので、事業所数を考えると訪問看護は返還額が高い傾向にあります。ちなみに通所介護事業 は 8,318,595円です。

介護報酬の算定はできるだけ注意深く行う必要があるでしょう。

 

(4)実地指導の流れと実施方法(通常の場合)

① 指導通知は1月前程度に来る

監査や虐待など不当行為の事実を把握した場合の緊急立ち入りなどを除いて、通常は1月前ぐらいに通知が来ます。かならず事前提出書類があります。この事前提出書類が、検査のガイドラインになっていますから、書類の準備が対策になります。この書類準備をなおざりにすると、当日、指摘を沢山されますのでしっかり準備しましょう。

② 指導には一般指導と合同指導がある

◎一般指導=都道府県が単独で実地指導を行う。

◎合同指導=都が厚生労働省や区市町村等と合同で実地指導を行う。

③ 一般指導は通常2名体制

都道府県の単独指導の場合は2名体制ですが、合同指導の場合は、共に入る役所により、それ以上の人数になります。

④ 実地指導の時間は原則9:00~18:00以内

基本的には営業時間内での検査になります。問題が見つかった場合延長することはありえます。

⑤ 併設する複数の事業所を同時に検査する場合あり

併設する他の事業所も同時に検査する場合があります。その場合、1事業所の検査時間が短くなる場合もあります。

⑥ 医療保険関係に不正の疑いがある場合、保険医療指導の担当者が一緒に来る場合もある

例は少ないようです。

⑦ 検査員にはお茶などの接客行為は不要

場合にもよりますが、役人への便宜供与になりますので、先方から必要ない旨言われることも多いようです。お茶を出さなかったからといって検査員の心証が悪くなるようなことはありません。

⑧ 必ず介護と介護予防の両方をチェックする 

利用者ファイルなどかならず両方見ます。どの利用者ファイルを見るかは事前の提出資料などから判断しているようです。

⑨ 指摘事項が見つかった場合は後日文書で正式な通知が来る

この通知と同時に改善報告書の提出通知が一緒に来ます。おおむね30日以内にどのように改善したかを報告しなければなりません。

⑩ 報酬に誤りがあった場合は保険者に連絡が行き過誤修正が指示されます。

都道府県の検査の場合でも検査内容は区市町村に渡ります。都道府県の検査の後に、すぐに区市町村が実地指導に入ってくるパターンも良くあることのようです。

 

なお、実地指導に入る事業所の選定基準は東京都の場合、以下の通りです。

(ア)過去の指導検査において、指摘事項の改善が図られていない事業所で、継続的に指導を必要とする事業所

(イ)利用者、保険者等から苦情等情報提供が多く寄せられている事業所

(ウ)休止、移転等で指導が必要な事業所

(エ)新規指定後指導未実施の事業所

(オ)集団指導不参加の事業所

(カ)相当の期間にわたって、指導検査を実施していない事業所

※集団指導に参加しないと実地指導の可能性が高くなりますので、都道府県の開催する集団指導には必ず参加するようにしましょう。

 

(5)最後にコンプライアンス(法令順守)の優先順位

最後に介護事業を運営する上で認識しておかなければならない、法律の基本的な知識として、コンプライアンス=法令順守における優先順位のお話をさせていただきます。

ご存知のように日本国は法治国家です。法律により政府や国民の活動は制約を受けており、政府や個人が好き勝手に活動することはできません。

介護事業は国の厚生事業であり通常よりも多くの法律により活動の仕方に制限を受けます。

介護事業を営む人たちは当然その制限やルールを意識しながら事業を運営する必要があります。この業界で働くほとんどの人がそのことは理解していると思います。

しかし、この法律には重要度において優先順位があり、それを意識して働いている人は少ないのではないでしょうか。

現場からの声で、規定などが沢山ありすぎて、混乱するという話を聞きます。その結果よく見受けられるのが、あまり重要でないルールにこだわって、もっと重要なルールをおろそかにしてしまうというケースです。

仕事の進め方程度のルールと、日本国民として絶対に守らなければいけないルールを同じレベルで認識してしまっているケースさえあるのです(犯罪になります)。

介護事業にかかわる日本の法体系は大雑把に以下のような優先順位で構築されています。

① 憲法

② 国の法令(介護保険法)

③ 地方自治体の条例=各種基準(人員・運営・算定基準など) 

④ 各種解釈通知など

 

それぞれの法律の詳しい説明は省きますが、以下はそのレベルの法律に背くような行為をした場合のペナルティーの例を上げています。

 

① 憲法 → 逮捕・刑事罰(基本的人権の尊重など、実際の刑罰は法令によります)

② 国の法令(介護保険法など) → 逮捕・刑事罰・指定取り消し

③ 地方自治体の条例=各種基準(人員・運営・算定基準など) → 指定取り消し・報酬返還・介護給付の過誤調整・是正報告の提出

④ 各種解釈通知など → 介護給付の過誤調整・是正報告の提出

これはあくまで、一つの例ですが、優先順位の高い法律ほど背いた場合の罰は重くなります。

認知症の利用者をケアマネと訪問介護員が自宅に外から鍵を閉めて監禁してしまったケースでは、このケアマネと訪問介護員が逮捕されました。具体的には刑法の監禁罪にあたるのでしょうが、その基にある法律は憲法の基本的人権の尊重でしょう。

逆に、解釈通知程度のルールを守れないからといって逮捕されることはありません。

介護や医療・福祉事業に従事する方はまずこと法律のプライオリティー(優先順位)を意識することが大変重要です。

医師でさえも、基本的な人権を蹂躙する行為を、運営や処置上必要なこととして手を下してしまう場合があります。

「ならぬことはならぬのです」というレベルをまず知ることが、この業界で仕事をする上では大変重要でしょう。

 

実地指導の通知が来た時も、その対応としてこのレベルは意識されなければなりません。

まず優先順位が高い①~③について適切にできているかを確認するべきです。

憲法や介護保険法に具体的に当たって検証する必要はありませんが、常識として良くないことだと思えること(例えば不正請求や水増し請求など)が行われていないかどうかを、まずは意識すべきでしょう。

うっかりミスの過誤請求は返還で済みますが、やってもいないサービスを故意に請求する行為は、重大な罪になります。

事業所内でそうした不正行為に対して麻痺してしまっているケースが良くあります。「昔からそうしているから」などと重大な不正行為を見過ごしてしまっているケースも多いのです(三菱自動車やフォルクスワーゲンの不正はそれに当たるでしょう)。

このようなルールの優先順位の麻痺は重大な不正につながります。

④解釈通知などは運営の適正化というレベルです。実地指導で指摘されても、それはあくまで適切な事業所運営を目指した指導と受け止めるべきでしょう。

検査員は何も不正を摘発するためだけに来るのではありません。運営の適正化を通して、我が国の介護事業の質の向上をはかるために、毎日、事業所を巡っているのです。

日ごろ利用者さんに向き合いながら一生懸命に仕事に励むあまり、きちんと記録ができていなかったり、請求事務にミスがあったりするのはどうしようもないことだと思います。そうしたプライオリティーの低いルールは実際に指導を受けて適正化すれば良いのです。淡々と検査員の説明を聞いて修正すればそれで何も問題はないと考えましょう。

 

以上で訪問看護における実地指導・検査対策の説明を終わります。

実地指導・検査はプライオリティーの高い法律をしっかり守っていればあまり恐れることはありません。まずは人員基準などの各種基準についてしっかり確認することが重要でしょう。

 

 

 

 

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