前回の続きです。
パートスタッフは報酬よりも居心地の良さを優先する
パートスタッフにとっての居心地の良さとは以下のような指標に集約されると考えます。
1 仕事への不安が無い、もしくはすぐに解消される
2 仕事に自信が持てる、適切に評価されていると感じる
3 良好な人間関係
4 自身の生活(子育てや家族)やライフスタイルとうまくマッチングしている
5 肉体的・精神的な負担が少ない
※この指標はあくまでパートスタッフの定着を意識したものです。正社員の場合はまた別の指標になるかと考えます。
各指標について詳しく説明します。
1 仕事への不安が無い、もしくはすぐに解消される
すでに述べたように、仕事に不安があると、スタッフは定着しません。特にその仕事が初めての新人の時期は不安でいっぱいです。パートスタッフの場合、自分がその職業に適しているかどうか不安に感じると、すぐに別の職業に移ってしまいますので、新人の世話はスタッフ定着への第一の要諦となります。
不安解消に仕組みとしては以下のように整理できると考えます。
(1)何でもすぐに相談できる体制(詳しくは前回の記事参照)
(2)月1回のスタッフ会議、研修会の開催で疑問や不安の解消
※訪問介護の場合これにより特定事業所加算も算定できるようになります
(3)充実した利用者情報のファイリング(当然スタッフで共有)
2 仕事に自信が持てる、適切に評価されていると感じる
仕事に自信が持てると継続してその職業に就いていくモチベーションとなります。これにキャリアアップの仕組みが組み合わされれば、一生この業界で仕事をしていく人材となるでしょう。
幸い介護業界はキャリアアップの仕組みを充実させようと取り組んでいる最中です。介護給付的にキャリアが反映できるようになってくれば(例えば医療的ケアには別給付が出るなど)、パートスタッフのモチベーションも高まると考えます。
この指標を実現するためには、上述の不安解消の仕組みとともに、以下のような取り組みが必要になります。
(1)職業能力評価の導入
厚生労働省では介護事業別の職業能力評価シートを作成しています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000093927.html
簡単に説明しますと、年1回スタッフが自分の技術や能力について自己評価し、それに対して管理者などが評価する形式です。
パートスタッフ用には少し細かすぎるので、評価項目を簡略化しても良いかもしれません。
仕事の評価は、スタッフと管理者が個人面談により行うので、仕事に対する不安や疑問などを話し合う場にもなります。その際に、管理者はスタッフに自信を持たせ、目標に向かって仕事に取り組むように動機付けを行います。
訪問看護についてはまだ国は評価シートを示していませんが、東京都が「訪問看護OJTマニュアル」の中で評価シートを示していますのでご利用ください。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kourei/hoken/houkan/ojtmanyual.html
評価制度が導入できない場合でも、年1回、管理者とスタッフが個人面談をして、仕事の振り返りなどを行うことはとても有効です。
(2)仕事に対する興味を引き出し養成する仕組み
新しい知識の獲得やキャリアアップの取り組みを支援する仕組みを作っていくと、自発的な自己研鑽につながります。
具体的には、「資格取得費用の支給」「外部研修の受講」「参考図書やソフト、DVDの購入」などに対する金銭的な支援です。
なお、評価制度の導入や資格取得・研修費用などについては補助金を利用できる場合があります。以下は厚生労働省の補助金です。社労士さんに相談すると申し込めます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
介護実務者研修や介護福祉士の受験費用については、各自治体で補助金を出している場合がありますので問い合わせてみてください。
3 良好な人間関係
職場での人間関係は退職理由の上位に来る指標です。
筆者が東京都で人事の仕事をしている時、新入職員などの研修で以下のようなガイダンスをしていました。
【入職時の心得】(3か月は無理をしない原則)
(1)入職後3か月は無理して仕事をしようとはせず、上司や先輩に言われたことを淡々とこなすこと。
職場では入職したばかりの新人スタッフの仕事にほとんど何も期待していません。使い物になるようになるまでは1年程度必要だと考えています。従って周りの期待に応えようとして無理をして仕事をする必要は無いのです。
無理をすると失敗します。失敗すると自信を失います。自信を失うと仕事が楽しくなくなり、職場に行くのが苦痛になるという悪循環に陥ります。
(2)入職後3か月は無理に人間関係を密にしようとしない
人間関係は自然に形成されるものです。職場になじもうとして無理に周りと仲良くする必要はありません。少々、さみしいかもしれませんが、周りにいる人たちがどのような人なのか分からない時点では、無理に仲良くしようとすると逆に関係をこじらせたり、傷ついたりする場合があります。
入職後3か月は、周りの人間関係をじっくり観察するようにしてください。どの人がどのような性格で、誰と誰が仲が悪いとか、誰が嫌な奴だとか、そうしたことが見えてくると、自然と人間関係は形成されていきます。
この先輩はなんで自分をいじめるのだろうという人がいたとします。そういう場合は悩んだりせず、右から左に流すようにします。3カ月もするとその人は他の人からも嫌われていることが分かったりします。
新入社員の多くが3か月以内に辞めてしまうというデータがあります。
新人はすでに形成されている複雑な人間関係の中に一人で放り込まれるわけですから、その環境に慣れるにはそれなりの時間がかかるのです。
そのことをしっかり認識して、3か月は人間関係のことは考えず、ただ傍観するようにするのが、うまく環境になれるコツです。
(3)入職後3か月は分からないことは何でも聞く勇気を持つ
馬鹿にされたくないとか、恥ずかしいとかいう気持ちは、新人は持ってはいけません。
何でも聞けるのは新人のうちだけです。明るく元気に何でも聞く勇気をもって過ごしてください。
以上、これは新入社員向けのガイダンスですが、パートスタッフにも当てはまることです。採用時に上記のようなガイダンスをしてあげることで、入職の際のストレスはだいぶ軽減されるでしょう。通常3か月勤務できれば、その後も継続的に勤務できると考えます。
【トラブルメーカーへの対応】
正社員などで、パートスタッフをいじめてしまい、辞職に追いやるようなタイプの人がいます。これには対策が必要です。
訪問系のサービスの場合パートスタッフが定着することが収益につながることを、しっかり理解させましょう。
さらに、正社員の仕事はパートスタッフに安心して仕事をしてもらえるように世話をすることだということを理解させなければなりません。
訪問系の事業ではパートスタッフの世話ができない正社員は評価が下がることをきちんと説明することが大切です。
次回はこの続きです。