介護事業所の人事評価の在り方について その2

 

今回は人事評価の評価基準についてです。

 

客観的な評価基準を設定するのは難しい

 

 一般的なサラリーマンの人事評価では、評価基準は以外に漠然としたものになっているようです。

 例えば、コミュニケーション能力や企画力、リーダーシップなどが売上などの業績評価と合わせて評価され、処遇に反映される仕組みが多いでしょう。

 

 一言でいうと、「組織に対する貢献度」が評価されると言って良いかと思います。

 しかし、貢献度と言われても客観的な基準を作ることはとても難しいのも事実です。ですから、人事評価は深いものなのです。

 

 

売上だけを評価基準にはできない

 

 たとえば学校の試験など、正解が明確であれば評価もしやすいでしょう。しかし、仕事では何が正解かということが、はっきりしない場合があり、売り上げ一つとっても本人の能力や努力とは別に、結果が出てしまう場合があります。

 

 たとえば、ファミリーレストランチェーンの店ごとの売り上げを評価して、売り上げの高いお店の店長のボーナスを沢山出したとしましょう。

 しかし、レストランの場合、立地条件や業務規模などの環境により、集客力は店長の力量とは別に決まってしまう場合があります。

 

 集客の厳しい支店を任されている店長がどんなに頑張っても、前述の売り上げの高い支店には負けてしまうこともあるでしょう。

 

 人事評価において後者の店長を低く評価し、前者の店長を高くしたら、どうなるでしょう。頑張っても売り上げの伸びないお店を任されている店長は、不満を持つに違いありません。

 

 大手出版社では儲からない純文学を漫画の売り上げが支えていると言われています。しかし、社員の給与は漫画も純文学も変わらないそうです。漫画の編集者ばかりが高給だったら、誰も純文学の編集者をやりたがりません。すると、日本の文学が衰退してしまうということにもなりかねないのです。

 

公務員は人事評価によるボーナス査定は無い

 

 一般的な公務員には業績評価によりボーナスに差がつくことはありません。期末手当や勤勉手当などと呼び、一律同じ月数(大体5か月分ぐらい)の金額が支給されます。

 従って人事評価によってボーナスが変わるということは無く、一般の会社員とは性質が少し異なります。

 

 介護事業の場合も、管理職以外は人事評価によりボーナスを変化させることはあまり好ましくないと筆者は考えます。

 人事評価はあくまで毎年の昇給や昇格(職級を上げるかどうか)の判断に用いられるべきであり、ボーナスの額に反映させない方が良いでしょう。

 

 現実には年の売上げ高によってボーナスの額は変わりますので、なかなか人事評価で増やしたり減らしたりすることも難しいと思いますので、大丈夫だとは思いますが、一般職の処遇については、ある程度一定であった方が、不満は出ないと考えます。

 

介護の一般職員の評価基準

 

 評価基準や評価項目に悩むときりがありません。

 できるだけシンプルに人事評価を導入して、組織の能力を向上させるには、基準も外部のものを活用していけばよいと思います。

 

 幸い、厚生労働省が在宅介護職の評価基準を作成しています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000093927.html

「職業能力評価シート(在宅介護業)」

 

 今のところ訪問・通所・訪問入浴しかありませんが、今後、他の業種の評価基準が追加されることを願います。

 

 使い方は「職業能力評価シート(在宅介護業)」に含まれていますので、参考にしてください。

 なお、評価項目によっては、その職員が実際に行っていない項目も含まれています。その場合はその項目の評価はできませんので、無理して評価する必要はありません。評価指標としては○や×を付けず、-などにして評価の合算には加えない方が良いでしょう。

 

 

管理職が普段、部下の仕事ぶりを見てい無い場合は?

 

 管理職が評価する場合、実際にはその職員の仕事ぶりを日常的に見ていない場合があります。その場合は、自己評価のあと、実際に仕事ぶりを知っている直属の上司(リーダーや主任など)に当たる職員に評価をしてもらい、その上司とよく意見交換し評価を決定すると良いでしょう。

 

 人事評価で管理職でない職員が部下を評価する仕組みは形式的にあまり好ましくありません。

 人事評価はその管理職が管理する組織の評価に最終的につながってきますので、管理職が責任をもって行わなければなりません。

 

 また、普段はあまり一緒に仕事をしない管理職が、一般職員と年に1回仕事のことを話し合うことで、普段身近に居る直属の上司には言いにくいことも言える場合があります。

 その上司に対する不満もその一つです。それにより管理職は組織の問題点や弱点を発見することになりますし、職員にとっては不満の解消にもなります。

 

 

人事評価を実施するシンプルな目的

 

 人事評価を実施する目的をまとめてみましょう。

 先に述べたように組織の生産能力を向上させるための人事評価は、考えれば考えるほどきりがなく難しくなります。中小企業が取り組むにはハードルが高すぎます。

 従って、以下のような目的で実施するのだと、できるだけ簡単に考えて、導入することがポイントになります。あまり難しく考えないことです。

 

【中小企業が人事評価を導入するシンプルな目的】

 

① 年に1度管理職と職員が仕事のことについて話し合う場として実施する

② 毎年の昇給が適当かどうかを判断するために実施する

③ 昇格ができるかどうかを判断するために実施する

 

 以上の3つの目的で実施することにしてください。それ以上のことを考えると難しくなります。

 

 

評価者に対する講習は要らないのか

 

 「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」では評価者は講習を受け「アセッサー」という資格を取得しなければ、評価ができません。

 このアセッサーは評価を公正適切に行うために設定されていますが、人事評価を実施するために、評価者がこのアセッサーの講習を受ける必要はありません。

 

 職場の人事評価制度は上のような目的のために実施します。一方、「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」は介護職員の資質の向上を目的に実施されるもので、趣旨が異なります。

 「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」は言わば職場研修(OJT)が主眼です。アセッサーは仕事上、職員に何が足りないかを正確に見抜き、さらにはそれを教えてゆく能力が必要となります。

 

 一方、人事評価の目的は上記の目的ですので、組織や職員が納得して進められればそれで良いのです。

 

 

 この項終わり。

 

 

 

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