副業から始める介護福祉事業 ─ 退職後の起業を働きながら目指す

 

1 はじめに

 人生100年時代を迎え、主にシニアの働き方についての提案として、介護福祉起業をおすすめします。

 高齢からの介護福祉の仕事は体力的にちょっとと感じる方でも、起業であれば経験を生かしたマネジメント力で70歳になってもそれなりの収入で働けます。
また、起業は無理でもケアマネージャーや施設の管理者等であれば、70代でも年収400万円以上の社員として働けるのがこの業界です。

 しかも、定年退職してから一から起業するのではなく、現役中に副業・兼業の制度を利用し、退職後にスムーズな起業が可能です。

 

■ 訪問介護事業所を起業した場合の年商及び経営者報酬(ザックリ例)
─── 訪問介護と障害福祉の居宅介護・重度訪問介護を併設した事業所(※1)
 
【売上】
利用者40名(※2) × 月額報酬 50,000円 

= 200万円(×12月) = 2400万円
 
【経費】
 人件費     1500万円(社員2名・パート数名)(※3)
 諸経費      200万円(※4)
 経営者報酬    700万円(※5)

※1 高齢者の訪問介護と障害者の居宅介護は併設することが可能です。
※2 一人のサービス提供責任者は40名の利用者(高齢者)を受け持つことが可能です(障害者は制限なし)。開業後2~3年で可能な数字です(ただし、スタッフの確保ができた場合です)。
※3 人件費は正社員が増えると高くなります、パートが増えると低減します。
※4 諸経費は事務所家賃・光熱水費・通信費等で、事務所を自前で手配すればかなり経費は抑えられます。
※5 経営者は管理者・サービス提供責任者としてサービス・マネジメント中心の業務及び緊急時の現場対応。

 

 

2 介護福祉の業界の現況
─ ニーズは増えるが参入者は増えない

 周知のとおり日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は、2022年10月1日時点で28.9%です。
 これは、OECD加盟国トップです。
 また、障害福祉サービスのニーズも増え続けます。
「これからの障害者福祉サービスの動向」https://carebizsup.com/?p=1501

 一方で、「介護職員 2040年度に57万人不足」と厚労省が推計しており、現状でもサービスが足りていない状況です。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240714/k10014510871000.html

 特に在宅サービスの要である訪問介護が不足しており、対策が急務になっています。
 実際、2024年の介護事業者の倒産が、過去最多の172件(前年比40.9%増)となり過去最高に達しました。うち「訪問介護」が過去最多の81件に及びました。

 主な原因は人手不足ですが、事業が黒字でも倒産してしまいます。小規模な訪問介護事業者の場合、責任者が高齢化などにより辞めてしまうケースが多く、そうすると新たな成り手を探すのが困難なため、事業所を廃止するしかありません。

 現状、日本の労働環境は非常に逼迫しており、人手不足のため給与面などで不利な介護福祉職は、担い手不足が深刻であり、都市部ではその傾向が顕著になっています。

 

 

3 国が「副業・兼業」を促進する理由

 令和4年、厚生労働省は「働き方改革」の一環として「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表しました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

 これには2つのねらいがあると考えられます。

(1)人生100年時代を迎え、退職後も多様な働き方ができるよう、就業中から副業・兼業を企業が認めることで、シニア層の就労環境を拡大し、社会保障費などの負担をできるだけ減らす。

(2)労働力の流動性を高め、大企業などで停滞する生産性の低いシニア層を活用し、人手不足の業種への労働力転化を図る。

 近年、大企業を中心に構造改革が加速し、シニア層の早期退職制度が加速しています。また、再任用などにより給与や勤務日数が減らされる傾向も顕著です。

 シニア層の労働者は自分の人生設計を見つめなおし、老後の生活資金を確保するための自衛努力が必要になっています。しかし、現実には60歳定年後、安い給与で5年間再任用され、その後はアルバイト程度しか仕事が無いような方が多く見受けられます。
 
 現役中に身に付けた知識・スキルや人脈等を活用して、60歳以降も安定した収入を得続けられる人はそう多くはありませんし、現役中にその準備をするのも難しいという声も聴きます。

 

 

4 「副業・兼業」で老後の仕事を確保する

 退職後も安定した仕事を得ていくためには、早めにリスキリングすることが重要であると言われています。

 リスキリングとは時代に適応した新しい技術能力を獲得し、新たな仕事を得ていくことです。例えば資格の取得などがあります。
 ただ、税理士や弁護士などであれば別ですが、資格を取っただけではすぐに収入になるわけではありません。また難易度の高い資格取得にはたくさんの勉強が必要で、働きながらであれば一層困難です。

 しかし、現役中の勉強はそれほど必要ではなく、副業や兼業がそのまま資格取得に繋がるとしたらどうでしょう?
 その秘密は、実務経験を重視する資格です。

 勉強による知識の取得よりも、現場で働いた実務経験が必要な資格が介護福祉の世界には多くあります。

 

 【介護福祉の資格と就労可能な業務及び平均年収】

資格名  実務経験年数 従事日数 代表的な職務  平均年収
介護福祉士 介護の実務経験3年以上 従事日数540日以上(年平均週3日程度、1日1時間でもOK) サービス提供責任者(訪問介護) 400万円以上
ケアマネージャー 介護福祉士を取得して5年以上の実務経験 従事日数900日以上(年平均週3日程度、1日1時間でもOK) ケアマネージャー 400万円以上
サービス管理責任者  障害者支援の実務経験8年 年平均週3日程度、1日1時間でもOK 障害者施設の管理者等 460万円以上

 

 これらの資格は、最終的な取得に試験や研修が必要ですが、難易度は士業などに比べれば低く、実務経験がそのまま勉強になる試験内容ですから、あまり心配はいらないでしょう。

 介護福祉士の場合、最短での実務経験取得のためには週3日以上(1日1時間でも可)の勤務が必要になりますが、実務経験期間を2年延ばせば(介護福祉士の場合5年)、勤務は週2日程度でOKです。

 もし、勤務先の会社に「副業・兼業」制度があればこうした資格を取得するチャンスになります。

 

 

5 定年退職後の起業の傾向と対策

 典型的な起業例としては、現役時代のスキルや人脈、貯めてきた資産など「自己資源」を利用した起業でしょう。

 しかし、スキルも人脈も資産もない人はどうすればよいのでしょう?

https://biz.moneyforward.com/establish/basic/56740/#i-9
「60歳、65歳のシニア起業が増えている?メリットや成功のコツを解説」(マネーフォワード クラウド会社設立サービス)

 対策としては現役時代に働きながら資格(できれば現役時代の仕事に近接した)を取得し、退職後に士業等(起業ではありませんが)で独立して働く方法が考えられます。
 しかし、働きながらの勉強は困難を伴います。たとえ短時間勤務などで時間が確保できたとしても、その分給与が減ってしまいます。

 また、調査ではシニアの退職後の起業の目的として「社会貢献」が高い傾向があります。つまり金儲けだけではなく、SDG的な活動を望んでいる人が多いということでしょう。

 

 

6 介護福祉の起業が最適解

 上記のことから、利用できそうな自己資源が無い方が、退職後、スムーズに起業を目指すのであれば、介護福祉事業が最適解の一つであるといえます。

 この仕事は資格の勉強よりも実務経験が重視される点が重要です。その実務でも給与を貰えますので、収入の低下が抑えられます。

 週2日、1日1時間程度でも、訪問介護の仕事はあります。

 例えばデイサービスのドライバーであれば、朝と夕方だけ働けます。

 しかも、会社の近くや、住居の近くなど、働く場所は自由に選択できます。

 お勤めの会社の副業・兼業制度に合わせた形で、働き方を選ぶことができるのです。

 また、事業者にとって週2日でも継続的に働いてくれる人材は有難いものです。

 さらに、シニアは人生経験も豊富でコミュニケーション能力も高く、ケアワーカーが向いているといわれます。

 

 

7 起業までのシミュレーション

① 60歳定年制の会社に勤務(60歳以降再任用はあるが給与が大幅に減らされてしまう)
② 55歳より副業を開始(勤務時間は週4日に減り、給与も減額される)
※副業従事日数は今の仕事の給与額と介護福祉で稼げる給与額との関係で調整すると良いでしょう。
③ 訪問介護で週2日、1日数時間勤務(稼ぎたい場合は重度訪問介護の夜勤などが高収入です)
※(例)週8時間の訪問介護サービス提供で、(額面)月10万円程度の収入になります。

 

(1)介護職員初任者研修資格の取得

 訪問介護員の仕事をするにはこの資格が必要になります。出席すれば取得できる研修の受講です。
 資格の取得には自治体から補助金が出る場合が多いです。東京都の場合は無料です。
 https://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html#sokushin( 東京都福祉人材センター)
 地元の自治体にお問い合わせください。
 
 資格取得は休日利用で最短45日、平均90日程度で取得できます。

 

(2)勤務する訪問介護事業所を探す

 働きたい地域で求人サイトなどを見ればいくらでも見つかりますが、実は小さな事業所の場合、求人にお金をかけるのを諦めてしまい、求人を出していない事業所も多いのです。
 お住いの近所で元気なヘルパーさんが出入りしているような事業所があれば覗いてみましょう。求人の張り紙があるかもしれません。張り紙が無くても、電話をしてみれば殆どの事業所が募集している可能性が高いです。
 電話番号は地域名と事業所名をネット検索すれば出てきます。

 何件か問い合わせてみて、希望条件に合うところを選びましょう。
 東京都では資格取得前に訪問介護で働ける制度もあります。詳しくは上記のサイトをご覧ください。

【シニア男性の方に注意点】

 介護事業所は女性職員が多く、責任者が女性である場合も多いです。

 長く男性社会で働いてきた方の場合、女性の上司、しかも自分より若い女性の下で働くことに違和感がある方もいるかもしれません。

 また、介護関係で働く女性は体育会系の人も多く、上下関係が厳しかったり、芸事の世界と同じく、年齢よりも先にこの業界に入った人の方が先輩であったりする場合がほとんどです。
 あなたが企業でどんなキャリアを積んできたかを尊重してくれることは無いと思ってください。

 入職に際しては、その点で注意が必要です。

 しっかり将来の目標を見据えて、新しい世界で生きていく覚悟が必要でしょう。

 最初の3ヶ月が一つの目標です。3ヶ月経つと、職場の人間関係や仕事の勘所が見えてきます。それまでは、あまり無理をせず、言われたことを無心にこなすことを心がけてください。

 

(3)開業資金を準備する

 何もない状態から訪問介護事業所を開業するには、500万円程度の資金準備が必要です。
 ほとんどが、人件費です。
  
【内訳】 

 会社設立・指定申請等費用     50万円
 事務所契約・家賃(半年分)   100万円
 社員給与(半年分)       300万円
 諸経費(半年分)         50万円

 介護福祉事業の報酬支払はサービス提供2か月後で、タイムラグがあります。
 開業当初は、ご本人と正社員一人ぐらいで稼働し、利用者10名程度確保できれば、黒字化は可能です(ご本人の報酬はあまり高くできませんが)。
 正社員が多と人件費がかさみます。アルバイトを上手に使うことで、黒字幅は大きくなります。

 

(4)開業スタッフを確保する
  
 訪問介護の場合、有資格者がご本人プラス1.5人分必要です。
 ご本人が介護福祉士であれば、残りは初任者研修以上でOKです。
 1. 5人分を正社員+アルバイトにするか、すべてアルバイトにするかなどは、自由です。
 スタッフは開業の指定申請前に確保する必要があります。雇用契約は開業からで構いません。

【開業スタッフの確保の方法】

①  介護実務経験期間中に人脈を広げ、スカウトする。
※アルバイト・スタッフの場合、他の事業所との兼務が可能です。
② 家族や友人など無資格の人を誘い、開業までに資格を取ってもらう。
※前述のように初任者研修は無料で取得できます。
③ 早めに法人を設立し、求人広告を出す。
※一般求人は現状厳しい状況にあります。開業前の求人はさらに厳しい状況です。

 この事業はコアな常勤スタッフが確保できると、事業の成長スピードが速くなります。アルバイトだけですと、ご本人の負担が大きくなり、成長力が鈍化します。

 

(5)開業の裏技 ─ 家族で起業する

 開業に際の経費節減方法として、夫婦や親子など家計を共にする家族で起業する方法があります。
 コンビニエンス・ストアや小規模なフランチャイズ事業などで推奨される形態ですが、介護事業でも同様のメリットがあります。

 訪問介護は就労時間を比較的コントロールしやすいため、管理者兼サービス提供責任者がしっかり常駐(営業時間中いつでも連絡が取れる状態)していれば、他の職員は訪問の無い時間を自由に使えます。
 家事などの仕事をやりながらの就労もやりやすく、家族で休みを交代で取るなど、柔軟な勤務体制が可能になります。

 

(6)利用者の獲得

① 営業活動
 指定申請書が受理され、開業が決まったら、地域包括センター・ケマネ事務所・自治体の障害福祉課・相談支援センターなどにチラシや名刺をくばり、営業をかけます。ケアマネや相談支援員など直接利用者の担当をしている人たちは忙しく、なかなかお話ができないかもしれませんが、まずは開業の情報提供をしましょう。

② HP(ホームページ)の作成
 開業前に事業所のHPの作成をしておきましょう。HPの目的は利用者に向けだけでなく、ケアマネや行政など、新規に事業所の情報を把握したい人たちに向けて作ります。事業所の基本情報と、サ責やスタッフの経歴などの紹介し、顔の見えるHPにすると良いでしょう。
https://carebizsup.com/?p=1710「小規模事業所のための人材確保術─ホームページとSNSの活用」

③ 開業予定地域で実務経験を積む
 起業を予定している場合は、予定地域で実務経験を積んでいると、すでに顔見知りのケアマネや包括スタッフへのアプローチがしやすいでしょう。地理感や地域の利用者像、足りないサービスなどが把握できたりしていますから、スムーズな利用者獲得が可能かもしれません。

 

 

8 老後は介護福祉事業で地域に根を下ろす

 高齢者の孤独は社会問題として世界的に認識されています。イギリスでは孤独問題担当大臣が設置されました。

 高齢者層の孤独は地域社会との断絶が原因の一つだと言われています。地域との繋がりが孤独を解消する手段になります。

 介護福祉事業は地域密着事業です。地域の利用者にサービス提供するのが基本であり、地域に根を下ろした仕事です。
 そのため、この仕事を始めると、地域に繋がりができます。街を歩けばご利用者の家族に会ったり、スタッフもご近所付き合いをする仲だったりします。
   
 また自治体によっては、開業すると町内会への参加が必要になる場合があります。地域のお祭りやイベントに参加し、これが利用者確保にもつながりますので大事です。

 さらに、商工会へ加盟すると、地域の中小企業経営者とのネットワークができます。もしかしたら、前職の知識や人脈がここで生きるかもしれません。

 公的なサービスなので、公私混同することは良くありませんが、節度を守って地域の人たちとの関係を深めることで、地域に根差した老後の暮らしが可能になるでしょう。

 

 

9 企業の皆様へ

 企業様向け資料介護福祉事業の副業・兼業プログラム(企業向け説明資料)

 

 令和和3年4月、改正高年齢者雇用安定法が施行され、「70歳までの就業確保」が努力義務化されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html

 企業にとっては競争力の維持のために、定年制は継続したいところです。
 そのためには、社員の退職後の仕事の確保が急務になってきています。

 これまで述べてきた通り、副業・兼業制度を利用し、5年程度の準備期間で、退職後の職員の第二の仕事を安定的に確保することができます。
   
 退職間際になってから、就労マッチングをするよりも、安定的です。起業以外にも収入を確保できる選択肢があり、個人のワーク・ライフ・バランスに柔軟に適応する転職プログラムであると考えます。

 また、社会課題に対応した労働力転化が実現でき、企業の社会的責任を果たす上でもメリットが大きいでしょう。

 介護福祉業界は社会貢献意識の高いシニア人材の進出を歓迎します。

 退職後の介護福祉事業への転職・起業などに関するご相談・説明会などを受け賜ります。

 本ホームページよりお問い合わせください。

 

 【コンサルタント・プロフィール】
杉浦 太亮(スギウラ タイスケ) 東京都足立区出身 立教大学 社会学部社会学科卒

<業務内容>
介護・福祉事業コンサルタント・開業支援・実地指導支援・コンプライアンス支援・経営支援 他
<経歴>
東京都庁17年勤務(税務・広報・人事・教育行政に従事)
ケアマネージャー 介護福祉士
在宅介護総合事業会社(居宅介護支援・訪問介護・福祉用具・通所介護・訪問看護・小規模多機能居宅介護・介護初任者実務者研修などを経営)にて経営企画、人材確保、在宅介護事業コンサルタント、研修事業などに従事後独立
介護福祉事業開業相談・サポート件数多数
 

 

 

財務省は小規模な介護サービス事業者を失くしたいのか?

 

 4月11日、財務省の財政制度等審議会分科会は「介護事業所・施設の経営の効率化について」として、以下の提言を行いました。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia300411.html

 

【改⾰の⽅向性】(案)

○ 介護サービス事業者の経営の効率化・安定化と、今後も担い⼿が減少していく中、⼈材の確保・有効活⽤やキャリアパスの形成によるサービスの質の向上などの観点から、介護サービスの経営主体の統合・再編等を促すための施策を講じていくべき。

 

 分科会はこの提言の根拠として、介護サービス事業者の現況について以下のような見解を示しています

 

【論点】

〇 介護サービス事業者の事業所別の規模と経営状況との関係を⾒ると、規模が⼤きいほど経費の効率化余地などが⾼いことから経営状況も良好なことが伺える。

 ⼀部の営利企業においては経営主体の合併等により規模拡⼤は図られている。営利企業とその他の経営主体では同列ではない部分もあるが、介護サービス事業全体で⾒た場合、介護サービスの経営主体は⼩規模な法⼈が多いことが伺える。

 

 さらに、分科会ではこうした論拠の裏付けとして以下のようなデータを示しています。

 

①わが国の介護サービス事業所の7割が100人未満の法人による経営である。

②通所介護と訪問介護では利用者数を多く抱える事業所の方が収益率が良い。

③民間16社(説明はないがおそらく大規模法人と思われる)利益率は5.9%であり、介護事業者全体は3.3%となっている。

 

 

自治体に事業者の経営改善をさせる

 

 分科会は大規模化の参考例やメリットとして以下のような例を挙げています。

 

○介護サービス等の事業を⾏う複数の法⼈が、⼈材育成・採⽤などの本部機能を統合・法⼈化することで、ケアの品質の底上げや研修・ 採⽤活動のコスト減を図るなどの取組も存在。

○介護サービスの経営主体の⼤規模化については、

①こうした介護サービス事業の⼈事や経営管理の統合・連携事業を⾃治体が⽬標を定 めるなどして進めることのほか、

②⼀定の経営規模を有する経営主体の経営状況を介護報酬などの施策の決定にあたって勘案することで経営主体⾃体の合併・再編を促す、といった施策が考えられる。また、

③経営主体について⼀定の経営規模を有することや、⼩規模法⼈については⼈事や経営管理等の統合・連携事業への参加を指定・更新の要件とする、といったことも考えられる。

 

 確かに、介護事業を公営事業と考えれば、昔の国鉄や電電公社、郵便事業が民営化したようように大規模民営も考えられます。

 例えば東日本介護サービスのように地域ごとに大規模法人化し、統括的な経営管理の下に事業を行えば、経営のコントロールもやりやすいし、働く人たちの処遇も改善されることが想定できます。

 JRNTTが一流企業であるように、介護事業で働く人たちは一流企業の社員として安定的な収入を得ることも可能かもしれません。

 

 しかし、現状の介護保険制度では保険者が区市町村である以上、このような統合は不可能であり(できても区市町村内の統合)、行政改革の流れからもバカげたことであるとみなされ、現実的ではありません。

 

 分科会でも都道府県、区市町村内の事業所の統合や業務の連携を想定しており、全国規模の統合という視点はありません。

 ただし、統合や業務連携などによる経営効率化に対するインセンティブ(動機付け)は考えており、地域内法人の経営改善目標を設定するなどして自治体に対するインセンティブを想定しています。

 

 

小規模法人すべてが経営状況が悪いわけでは無い

 

 そもそも、分科会で上げている、「小規模法人は収益率が悪い」という論拠は正当なのでしょうか?

 上にあげたデータだけでは論拠としては弱いような気がします。少なくともすべての小規模事業所に当てはまるわけでは無く、「小規模法人の中には経営状況が悪い法人もある」と言えるだけでしょう。

 

 結局、財務省が目指しているのは、介護事業所の経営状況を良くして、収益率が上がった分の介護報酬を減らしたいだけです。しかし、筆者としては収益率が上がった分は、従業員に対する処遇改善に回すべきであり、財政負担の改善に利用するべきでないと考えます。

 

 筆者としては、今回の提言の本質的なゴールは経営状況の良くない小規模法人の経営改善であると考えます。

 つまり中小企業対策であり、厚労省の課題というよりも、通産省の課題でしょう。

 日本の企業の9割が中小企業であると言われます。特別な技術や商品を持っている企業は買収されますが、収益率の悪い企業でも統合されることはなく、廃業するか細々と経営を続けているだけです。

 

 介護事業だけ国策として事業を統合しようとするのは少し横暴な気がします。そして、統合や業務連携という発想だけでは経営改善にはならないでしょう。

 

 しかし、都道府県などに地域内の小規模介護事業法人の経営改善対策をさせることは必要でしょう。

 製造業などとは別のスキームで介護医療法人向けの特別なプログラムを考えていくことは良いことだと考えます。

 例えば指定更新時、決算書を提出させ、経営状況の悪い法人は中小企業診断士などの経営指導を受けなければ、指定更新ができないなどのプログラムは考えられます。

 

 小規模事業者の中には経営に疎く、ボランティア的に事業を営んでいる方も多いため、財務省としてもこのような提言が必要なのでしょう。

 もちろんCareBizSupもそのような事業者を支援するために、サービスを提供しているわけですが。

 

 

 

 

 

自治体の介護職員確保事業に積極参加でスタッフ確保

 

スタッフ確保が事業の発展を支える

 

 筆者がお世話になっている荒川区にある有限会社ケア・プランニングは、居宅介護支援事業所を始め、訪問介護・福祉用具・通所介護・小規模多機能居宅介護・介護職員初任者研修・実務者研修・障害者就労移行支援事業所など、地域に密着した介護福祉サービスを拠点的に展開しています。

http://www.best-kaigo.com/

 平成15年に開業して以来、着実に事業を拡大し、現在従業員は60名を超える規模に成長しました。荒川区内では利用者数・従業員数併せて、営利企業では最大規模の企業に成長しています。

 こうした成長を支えたのは、確実にスタッフを確保していけたからだと考えます。

 事業を拡大するためには人材の確保が大切であり、介護需要が伸び続ける現況では人員を確実に確保し、地域ニーズに応じた事業を適切に展開できれば、着実に事業は発展します。

 ケア・プランニングでは人材確保の方策として、自治体の事業に積極的に参加していく戦略をとりました。

 具体的には東京都の介護職員確保の事業に参加して、職員確保を行っていきました。

 

 

東京都の介護職員確保事業

 

 東京都では平成20年ごろより介護職員確保のための事業を展開してきました。

 介護保険制度が始まって以降、ITバブルによる好景気で介護人材の確保が難しくなり、リーマンショックまでは介護人材不足が困難を極めました。

 そして、昨今の人材不足により再び介護人材の確保は難しくなっています。

 東京都は他の自治体に比べ財政に余裕があるため、介護人材確保に対する手厚い助成が可能になっています。

 しかし一方で、地方の自治体に比べ、介護職の職業としての人気が低く、人材確保が難しい状況があります。東京には大企業が沢山あり、収入や処遇面で優位な就職口が多いために、介護職は人気が無く、人材の確保は地方に比べ難しくなっています。

 

 東京都では現在、東京都福祉協議会を通じて以下の介護人材確保事業を実施しています。

 https://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html#shikaku

 特に「介護就業促進事業」は、求職者に最大6か月間、介護職としてトライアル的に働いてもらう事業です。

 その間の給与や求人経費、研修費、指導育成費を事業者に補助する事業です。

 都による大規模な宣伝効果。行政事業としての安心感などもあり、参加する求職者も多くなっています。

 もちろん受託事業者自身も求人広告などの努力が必要ですが経費は助成されますし、紹介料は経費になりませんが人材紹介も利用が可能です。

 

 事業委託費は本年度で一人当たり最大(6か月)1,980,000円(税別)です。その中から給与や必要経費を支出します。この中には指導経費として指導する既存の職員の給与も一部助成されるため、事業収益にも貢献します。

 公募は1事業所あたり3名までです。本事業以外の採用活動で応募してきた求職者でも事業期間中であれば、この事業に参加できます。

 また、今年から短時間勤務のパート職員も対象になりました。

 しかしながら、本事業は正社員の採用に効果を発揮します。ハローワークなどでも介護職を目指す求職者にこの事業を積極的に紹介しているため、正社員希望者が積極的に応募しくる傾向があります。

 

 ケア・プランニングでは毎年この事業に参加しており、昨年は9名の事業参加者を採用し、事業終了後も4名の常勤雇用に繋げています。

 ともかく、人材確保の経費がほとんどかからず、最初の6か月間は人件費がいらないわけですから、経営的に見ても非常に助かる事業であると考えます。

 

他府県でも同様の事業を実施しています

 

 他府県でも経費は少ないながら同様の事業を実施しています。

 先述のとおり行政事業としての安心から求職者が応募しやすくなっています。

 

 こうした事業は概ね年に1回の公募ですから、その時期を逃さないようにしなければなりません。

 前年度の公募スケジュールを参考にしながら対応するようにします。

 公募資格は概ね1年以上事業を継続していれば赤字の事業所でも参加できます。小さな事業所でも応募できますので検討してみる価値はあります。

 

 事業に参加するためには公募書類を作成しなければなりません。

 CareBizSupportではこうした公募書類の作成支援も提供していますので、お気軽にご相談ください。

 

 また、区市町村でも研修経費の助成や人材確保の事業を行っている場合があります。

 ご相談いただければ地元の自治体がどのような事業を実施しているか調べることは可能です。

 

 

訪問介護事業 起業の手引き1

 

 

 今回から起業の手引きを書いていきたいと思います。
 初めて起業する人でも理解できるように分かりやすく書ければと思います。

 

1 介護・福祉の起業は成功率が高い

 起業1年目で会社が倒産してしまう率は約30%。また5年生存率は50%だとか10年後は10%だとか、厳しい話が聞こえてきます。
 しかし、介護・福祉事業の生存率はかなり高く、1年目で潰れてしまうような事業者は10%もいかないのではないかと思います(ほとんどスタッフが辞めてしまって事業が続かなくなるパターンです)。
 事実、医療・福祉系の新規開業率と廃業率を比較すると、全業種でトップの生存率になっています。
 ニュースでは毎年「介護事業者の倒産数が前年を上回る」という報道がなされますが、これはトリックがあって、介護事業者の企業数が毎年増えているため、倒産数も増えているだけであり、実際の倒産率は1%にも満たないと考えます。

 

2 フランチャイズ加盟は意味がない

 各業種で独立開業を考える場合、成功したビジネスモデルを買ってフランチャイズで事業を起こすことがありますが、介護・福祉事業は国や自治体が運営モデルを提示しているロイヤリティーのいらないフランチャイズです。

 通所介護や訪問介護・看護などでフランチャイズ・チェーンを展開している企業があります。しかし、独自のビジネスモデルを構築して介護事業を営むことは、上述の国や自治体の運営モデルから外れてしまう場合があり、設置基準違反となることもありえます。グレーゾーンを突いて独自のサービスを提供することも考えられますが、お泊りデイサービスのように問題になるケースもあります。
 わざわざ高いロイヤリティーを払ってフランチャイジーになるのはお金の無駄です。国が明確な運営モデルを提示していますので、それを順守して経営をしていくことが肝要ですし、それで十分継続経営は可能です。
 もし、新奇なサービスを提供するのであれば、介護保険サービス外で行っていく方が良いでしょう。介護保険サービスはあくまで基準の中で提供すべき内容が決められています。それを逸脱することは経営そのものを危うくしますので、スタンダードなサービスを心がけることが成功の肝です。

 

3 介護事業は儲からない? 

 「介護事業は儲からないからねえ」という声を聴きます。
 しかし、平成24年の総務省の調査、業種別「利益率」を見ると、最も大きいのが「学術研究.専門・技術サービス業」15.2%で、次いで「不動産業」12.5%、「飲食サービス業」11.5%となっています。
そんな中「社会福祉・介護事業」は8.1%と全体で8番目に付けており、「小売業(6.4%)」や「教育・学習支援業(5.7%)」、「農林漁業(5.3%)」よりも高い数字です。
必ずしも儲からないわけではありません。

 「いやいや、人件費が安いからその数字が出ているのじゃないの?」

 確かにその指摘は一部当たっています。しかし、国も処遇改善手当を用意する等、介護職の処遇改善を継続しています。今後は少ずつ改善していくと考えます。また、介護事業よりも給与の安い業界は他にもいくらでもあります。

 介護福祉事業は、ヒット商品や新しいビジネスモデルを生み出して儲けたり、生産性を上げたりコストカットを努力したりして儲けることがしにくい事業です。
つまり、成功を夢見る起業家には魅力的に見えないでしょう。また、既存事業からの参入するにしても、既に営んでいる事業の従業員よりも介護事業の従業員の給与を安くしなければならないなどの問題があります。
 しかし、逆に言えば競争性があまり高くなく、実直な仕事を継続していれば、非常に安定した事業であり、いわゆる「食いっぱぐれの無い」潰れない事業なのです。

 

4 訪問介護は低コストで起業が可能

 開業資金は、1年間収入が無くても耐えられる程度は用意したいものです。
介護報酬の支払いは2か月後ですし、パートさんの給与の未払いなどが発生した場合、噂は地域にすぐに広まり、スタッフが寄り付かなくなってしまいます。

【必要資金例】 
◎訪問介護  自己資金500万円 + 開業後融資500万円 = 1,000万円

 自治体の指定が取れれば、政策金融公庫の融資は容易に受けられます(過去に事業融資で焦げ付き等を出していないこと)。
政策金融公庫「ソーシャルビジネス支援資金」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/socialbusiness.html

 また順調にご利用者が獲得できれば、開業後の融資がなくても軌道に乗ってしまう場合もあります。
 
 訪問介護は初期の設備投資や、人件費が少ないため、起業時のコストとしては非常に安く済みます。ちなみに、訪問看護も同様に低コストです。看護師の免許を持っていれば、訪問看護も同様に起業には向いています。
 なお、通所介護は設備投資を含め2,000万円ほど資金必要になります。それにもかかわらず収益率は訪問介護より悪い状況です。
同じ介護事業でも起業時に扱う事業としては避けた方が良いでしょう。

 次回は具体的な起業の仕方を説明します。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その5

 

 

 今回説明するのは介護保険法の施設サービスです。

 介護事業を開業する場合、株式会社ではこのサービスに参入することはできません。

 

 介護保険法の施設サービスは社会福祉法人などの公益法人でないと事業を行うことはできないので、中小企業でも土地など豊かな資産をもっており、公益法人を設立できる財力がある企業でなければ、参入は難しいといえます。

 

 しかし、居宅サービスを営む場合でも、これらのサービスがどのようなサービスなのかを知っておく必要はあります。

 施設サービスはある意味、居宅サービスにとってのライバルであるので、相手に負けないサービスを目指す意味でも知っておくことは重要でしょう。

 今回は、そうした観点からの説明です。

 

 

居宅サービスと施設サービスの違い

 

 介護保険法の施設サービスは、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・介護老人保健施設(老健)・介護療養型医療施設の3つだけです。

 その他の介護サービスは基本、居宅サービスに分類されます。

 有料老人ホームは提供するサービスは特養と似ていますが、居宅サービスに分類されます。

 また、地域密着型サービスの中に、地域密着型介護老人福祉施設があります。

 こちらは小規模な特別養護老人ホームですが、居宅サービスに分類されるとともに、中小企業でも公募による参入が可能です。

 

 

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)

 

 多くの方が、公設の老人ホームというイメージを持っているかもしれません。

 一度入所すると、亡くなるまでそこで暮らすイメージでしょう。しかし、規定上は自宅に戻ることを「念頭」に置いたサービス提供が求められており、終の棲家としての施設を前提としていません。

 

 しかし、入居基準が要介護3以上と変わったことで、実態としては、ほぼホスピス(終末期ケア)サービスを提供する施設になっていると言えるでしょう。

 

 利用者は、在宅生活が困難になった、低所得層の高齢者が中心です。さらに、医療的ケアが必要な方は入居できない場合があります。比較的認知症末期の方が多いかもしれません。 

 

 しかし、BPSD(≒問題行動)などが強いと入居ができない場合があります。そういう方は、精神科のある病院に入院される方も多くいらっしゃいます。

 

 認知症でも比較的穏やかな状態で、かつ下肢筋力が低下して歩行が困難になったような方が典型的な利用者でしょう。

 

 特別養護老人ホームは万能の介護施設のイメージがあるかもしれませんが、上述のように入居できる方はかなり制限されている部分があります。

 

 都会では特養待機者が沢山いるという報道がありますが、その待機者の中には在宅生活が可能な方や入居基準を満たしていない方(申し込んではいるが実際には入れない)も多くいらっしゃるようです。

 

 最近では、地方などで、空きが多く出始めている施設も増えており、入居基準を見直して、幅広い状態の方を受け入れていく必要もあるようです。

 

 

介護老人保健施設

 

 業界では「老健」と呼ばれる施設で、リハビリを中心として医療的ケアを行う施設です。

 

 典型的な利用者のイメージとしては、脳血管性の疾患などにより、身体機能に障害があり、在宅での日常生活が困難な方が、在宅復帰を目指して、医療的管理の下でリハビリを行うという感じでしょう。

 脳梗塞発症後の半身まひの方などが典型的な利用者です。

 

 あくまで在宅復帰を目指した施設ですが、実際には長期にわたり入所している方が沢山いらっしゃいます。

 その意味では特別養護老人ホームとあまり変わらないような状態になっている施設もあります。

 

 一般的には概ね6か月程度で自宅に戻る想定ですが、独居の高齢者などでは、在宅復帰への不安が大きい場合も多く、別の施設に移る方も多いようです。

 

 介護老人保健施設は医師が常勤している必要があるため、病院などに併設されていることがよくあります。

 これはあくまで筆者の主観ですが、介護老人保健施設を併設している病院に入院すると、そちらの施設を利用させられることが多いような気がします。

 在宅復帰の判断はあくまで医師がすることなので、経営上そのあたりのコントロールがされている感じがします。

 

 

介護療養型医療施設

 

 昔は、老人病院などと呼ばれていたこともあります。

 

 介護保険制度前の話ですが、筆者の母親は脳梗塞半身まひで筋力低下のため寝たきりでしたが、心臓弁膜症手術(弁置換)の既往があり、さらに褥瘡があったために(特養を含め)老人ホームに入居できず、死ぬまで病院で暮らしていました。

 

 在宅生活が困難な、医療的ケアの必要度が高い利用者を対象とした施設ですが、単体施設としての介護療養型医療施設は今年度末に廃止される予定です。

 

 今後は、先に説明した老人保健施設や病院の中の療養病床などでケアを行っていくことになるようです。

 

 施設により違いはありますが、やはり介護施設というより、病院のイメージが強く、たとえば食事はベッド上で摂らなければならなかったり、利用者のQOLを考えた場合、問題がある施設もあるようです。

 

 廃止になるのもその辺が理由かもしれません。

 

 

 この項おわり

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その4

 

 

 今回は、地域密着型サービスへの参入についてご説明します。

 

 

地域密着型はその区市町村の住民のための施設

 

 これまでご紹介してきた居宅サービスは、都道府県が事業指定し、利用者がどの区市町村(他の都道府県でも)に住んでいても利用ができる、サービスでした。

 これから紹介するのは、区市町村が事業指定し、原則、その区市町村の住民のみが利用するサービスです。

 

 

日本の介護保険サービスは区市町村の責任で提供する

 

 わが国の介護保険サービスは、基本的に各区市町村が地域住民の介護福祉に対して、行政責任を持つ形で設計されています。

 国民の老後のケアはそれぞれの人が住む、区市町村の責任で行うということです。

 従って、各住民の介護保険の管理も区市町村が行っており、いわゆる保険者という立場で介護事業を実施しています。

 

 

国は各区市町村の介護サービスを競争させている

 

 住民の健康や介護は区市町村の責任で管理していくのが基本原則ですが、国はこうした区市町村の取り組みを評価し、どの区市町村が良くやっているかを評価しています。

 本番の評価システムはこれから構築され予定ですが、評価自体は介護保険がスタートしたころより行っています。

 この、自治体は介護度の悪化が酷い、とか、この自治体は介護予防を頑張っているな、というような評価です。

 

 

地域密着型サービスの中心は介護予防

 

 各区市町村は国がいつでもチェックしているというプレッシャーを受けながら、事業を運営しています。

 そのため、現状、地域密着型サービスの中心は、住民を要介護にしない介護予防になってきます。

 たとえば住民の健康管理や、要介護状態のチェック、運動教室などがそうした事業です。

 しかし、この分野は、行政の責任で行っている場合が多く、一般的な介護事業所ではあまり参入する余地がありません。

 要支援(介護予防)のサービスについても、地域包括支援センターが指揮を取り住民の状態悪化防止に取り組んでいます。

 この、地域包括支援センターの運営も、社会福祉法人など専門組織の仕事になっています。

 

 

一般企業は補助金の出る事業に参入する

 

 これまでの居宅サービスとは異なり、地域密着型サービスの一部では施設建築費などの補助金交付出る事業があります。

 特に、グループホームや小規模多機能居宅介護事業所は、介護事業の経験が少ない企業でも比較的参入しやすい事業でしょう。

 土地を確保すれば、建物建築費の8~9割は補助金で賄えるようになっています。

 地域で小さく開業した介護サービス業でも、この補助金を活用することで、事業拡大を目指すことができるでしょう。

 

 

地域密着型サービスは公募制

 

 ただし、こうした事業を行うためには、区市町村の公募に参加し、コンペで採択されなければならないというハードルがあります。

 コンペで競合が居なければ良いのですが、多くの場合は複数の事業者がコンペに参加してきます。

 一部、都心などで土地が確保しにくい地域では、公募参加者がいないケースもあるようですが、土地が確保しやすい地域では必ず競争になると思います。

 

 

どのような企業が採択されるのか

 

 地域密着型がスタートした頃(10年ほど前)は、大手の介護事業者が採択されるケースが多かったと思います。

 これは、各区市町村にとっても初めて地域密着型サービスを設置するわけですから、できるだけ実績のある、大企業にお願いしたほうが安心であるという考えが働いていたからでしょう。

 

 しかし、一度大手がその地域に参入すると、その大手企業は二つ目の参入は難しいようです、時が経つにつれ、中小企業も公募で採択されるようになっています。

 

 ただし、それでも、介護事業の経営経験がある程度あったほうが有利ではあります。

 医療法人などであれば、その経験でも参入できるかもしれませんが、全くの別種事業者の場合は、なかなか難しいかもしれません。

 

 

公募で採択されるには

 

 地域密着型サービスに参入するには、他の介護サービス事業を数年経験し、安定した経営ができるようになってからの方が良いでしょう。

 行政は地元で地道に優良な事業を運営している企業を評価しやすいと考えます。

 さらに、母体となる企業(別種事業でも)がその地域で長く経営している場合は、そうした地元への貢献度も評価の対象となります。

 グループホームや小規模多機能居宅介護などのサービスは、一つの企業が各地にチェーン展開している場合も多く、行政としても同種事業を広く展開している経験を買う場合もあります。

 しかし、すでにそのような種類の企業が同地域に開業している場合は、経験は浅くても地元密着型の企業の方を評価することも十分あり得ます。

 

 

地域密着型サービスは介護事業参入の第2ステップ

 

 これまで述べてきたように、訪問介護などで介護事業に参入したのであれば、地域密着型サービスへの参入は事業拡大の第2ステップと考えるべきでしょう。

 地域密着型サービスに参入することで、すでに実施している介護事業にも相乗効果があると考えます。

 

 なお、地域密着型通所介護事業には補助金は出ません。この事業に参入する場合は地域ニーズをしっかり見据え、慎重に取り組むべきであると考えます。

 

 

 次回は、施設サービスについて説明したいと思います。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その3

 

 

 前回の続きです、さらに様々なサービス事業についてご紹介します。

 

 

居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)

 

 在宅のケアマネジメント・サービスを提供する事業所です。

 現状の介護給付費ではこの事業所だけで儲けを出すことは難しいのですが、他の事業所と合わせて経営することで、お客様の獲得という営業的な機能を発揮します。

 

 例えば、訪問介護事業所にケアマネ事務所を併設することで、訪問介護サービスの利用者を獲得しやすくなります。

 

 また、実際にケア・サービスを提供していく上で、ケアマネと訪問介護スタッフが同じ事務所に所属していると、情報の共有が容易になり、きめ細かいサービス提供をしやすくなります。

 

 従って、訪問介護事業所ではこのケアマネ事務所を併設しているところが多いでしょう。

 

 専門的な話になりますが、一つのケアマネ事務所が訪問介護の依頼を、併設の訪問介護事業所に集中させる場合、介護給付費が減らされるというルールがあります(集中減算)。

 

 しかし、実際には併設の訪問介護事業所だけでサービスを独占することは難しく、それほど心配することはありません。

 

 なお、集中減算は国の審議会でも問題視されている部分があり、今後、一定の条件下で緩和される可能性も示唆されています。

 

 ケアマネージャーは介護サービスの営業職的な側面があります。また、一方で、地域行政や各種介護関係組織・医療機関と密接に連携して、地域の介護サービスを推進させていく公的な役割も期待されています。

 

 在宅介護のケアマネージャーは、一つの地域にじっくり腰を据えて、良い仕事をしていくことで、地域での存在感が増し、所属する会社自体も地域から信頼を得ることができます。

 

 居宅介護支援事業所はケアマネージャーが一人いれば開設できます。他のサービスと併設する場合は、そのサービスの管理者も兼務できます。

 

 もし、この事業所を開設しようとする場合、最初に雇用する管理者となるケアマネージャーは、上記のような趣旨に照らして、人格のしっかりした、力のある人をじっくり選んで雇用するべきであると考えます。

 

 

福祉用具貸与・販売

 

 在宅介護で利用する福祉用具の貸与・販売をする事業所です。

 訪問介護事業所で介護福祉士が複数いる場合、この事業所の福祉用具専門相談員と兼務ができますので、兼業している事業所も多いですが、最近では訪問介護業務が忙しく、福祉用具まで手が回らないという状態の事業所が多くなっています。

 

 パナソニックなど大企業が参入していることもあり、福祉用具だけで儲けを出していくことはなかなか難しいといえます。

 

 ただ、ある程度の規模で、多様な在宅サービスを提供している会社であれば、この事業を行うことはメリットがあるかもしれません。

 たとえば、通所介護の送迎車は朝と夕方以外稼働していない場合があります。この送迎車を福祉用具用の運搬車に兼用することはメリットがあるでしょう。

 

 福祉用具は大きな倉庫設備を持つ、仲卸の業者から、用具を借りてまた貸しするような仕組みになっています。この仲卸業者から用具を運搬して設置する業務を、自社で行うことで、収益を上乗せできます。

 

 この仲卸業者は概ね商社などの巨大資本をバックに持つ会社が運営しています。配送をやらせてくれるかどうかは、業者により扱いが異なりますので、開業する前に確認が必要です。

 

 なお、福祉用具専門相談員の資格は50時間の比較的安価な研修を受講すると取得できます。

 

 

訪問入浴

 

 訪問入浴は車に浴槽とお湯を沸かすボイラーを積んで、在宅入浴を提供するサービスです。

 

 改造車などの設備投資が必要になります。また、大きな折り畳みの浴槽を運搬しますので(公営団地では5階まで)、ある程度体力のあるスタッフが必要になります。

 

 介護スタッフ2名プラス看護師が規定人員になりますが、看護業務としては比較的簡単な業務なので、現場を離れて看護の仕事に自信がない看護師さんでも比較的就業しやすい業務でしょう。

 

 訪問入浴の介護職は夜勤が無い仕事の中でも、最も稼げる仕事になっています。従って収入の欲しい、体力のある男性が応募してきます。

 こうした男性職員は向上心がある方も多く、将来、会社のコアスタッフとして活躍する場合もあるようです。

 

 開業する場合は、資金が必要なうえに、地域によってはサービスが飽和状態である場合もありますので、しっかりマーケティングする必要があります。

 

 

通所リハビリテーション(デイケア)

 

 一般の方には、リハビリデイサービス(リハビリ特化型通所介護)と区別がつかないかもしれません。

 

 リハビリデイサービスはあくまで通所介護事業所で、特徴を表すために、リハビリデイサービスと宣伝表示しているだけです。

 

 通所リハビリテーションは通所介護とは異なり、医師と理学療法士などが在籍する、医学的リハビリサービスを提供する事業所です。

 通常、整形外科などに併設されている場合が多いでしょう。

 

 母体が医師のいる医療関係であれば開設のメリットはありますが、そうでなければ開業は避けた方が良いと思います。

 

 

 

 次回は、地域密着型のサービスについてご紹介します。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その2

 

 

 他業種から介護福祉事業に参入しようとした場合、どのような事業を手掛けていけば良いのか悩むところだと思います。

 今回は沢山ある介護福祉事業のうち、どのような事業が参入しやすいのか。さらにメリットやデメリット、留意点について代表的なものをご紹介します。

 

 

訪問介護

 

 訪問介護事業は最もイニシャルコストが安く、かつニーズも高い事業です。そのために介護事業を始める際には、最初にお勧めしたい事業です。10坪ほどの事務所があって有資格者が確保できれば開業できます。

 

 資格は既存の従業員でも研修を受ければ取得できます。また、経験者を雇用すれば仕事も問題なくこなせると考えます。

 

 また、指定訪問介護事業はそのまま、指定障害者居宅サービス事業を兼業できます。障碍者向けの訪問介護事業ですが、こちらも将来的に非常にニーズが高い事業ですから、お客様が絶えない状況です。

 

 現在、訪問介護事業所では人手不足でお客様の要望に応えられない事業所も多くなっており、開業後すぐに経営が軌道に乗る事業所が多いといえます。

 

 

訪問看護

 

 こちらもイニシャルコストの低い事業ですが、看護師を確保しなければなりません。

 看護師が確保できれば訪問介護と一緒に開業することでシナジー効果があります。

 訪問介護は介護以外に医療保険の業務も可能です。

 

 やはり将来的に非常にニーズの高いサービスであり、ご利用者が途絶えることは無いでしょう。

 医療費の財政負担を減らしていきたい我が国にとって、在宅診療は、今後大きく伸びるサービスです。

 

 また、地域に住んでいる主婦の看護師さんが子育てをしながら働く場所として最適な事業です。そうしたパート看護師をうまく確保できれば、事業は順調に伸びるでしょう。

 

 ただし、訪問看護は病院勤務と異なり、一人で患者さんのご自宅を訪問してサービスを提供しますので、病院でチームでしか働いたことの無い看護師さんにとっては少々ハードルの高い部分がありなす。労務管理の中でそうした不安を払しょくできる工夫が必要になります。

 

 訪問系の事業はスタッフの仕事に対する不安や悩みを解消できるかどうかが人員を定着する上での大きなポイントです。

 

 

通所介護(デイサービス)

 

 介護業界を知らない一般の方にとって通所介護は開業しやすい事業というイメージがあったようです。事実、少し前まで、未経験の事業者が沢山参入してきた経緯があります。

 

 その代表がお泊りデイサービスで、空き家を改造して認知症の方の宿泊を受け入れられる通所介護でした。

 行き場のないお年寄りの受け入れ場所として一時脚光を浴びました。

 事業としても毎日宿泊利用するご利用者がいると、宿泊費をとらなくても、介護給付だけで一人当たり30万円以上の売り上げがあるので、誰でも簡単に開業でき、すぐに経営が軌道に乗るとして、フランチャイズ化もされもてはやされました。

 

 しかし、介護の質や夜間の管理体制などに問題が多く、行政から連泊に制限が出されたり、スプリンクラーなどの設備投資の追加や、地域によっては開業が禁止されたりしたために、いまではほとんど新規開業は見られません。

 

 通所介護は訪問介護などに比べればイニシャルコストが高く、最低でも1500万円程度の設備投資が必要な事業です。

 

 最近の低金利で融資が受けやすいために、リハビリデイサービスなどで、他産業からの参入も多いのですが、地域によっては供給過剰気味であり、小規模多機能などの他のサービスとの競合や介護給付費の減額もあり、最初に手掛ける事業としてはハードルが高い事業と言えます。

 

 自社所有で100平米程度の床面積を低コストで確保できる場合など、条件が合えば検討しても良いでしょう。しかし、その場合でも、訪問介護事業所を併設する等して、通所介護だけを単独で開業しない方が良いと考えます。

 

 ただ、比較的スタッフのが確保しやすい事業ですので、資金や地域ニーズなどとの関係を考慮して検討しても良いでしょう。

 

 

有料老人ホーム

 

 資金が潤沢であり、会社に体力がある場合は新規事業として検討する事業者もあるかもしれません。建設業や不動産業から有料老人ホーム事業に参入した会社も多く、最近ではソニーなど大企業も参入しいます。

 

 筆者としては、有料老人ホーム事業は介護福祉事業というよりも、老後の生活を支えるサービス業としての視点が必要だと考えています。

 

 高級な老人ホームは自費負担も大きいので、お客様が限定的になります。また、逆に住宅型などの場合、低所得者(生活保護者を含む)をターゲットにした事業形態もあります。

 資金力だけでなく、ある程度、高齢者のニーズをマーケッティングする力が必要になります。

 

 また、都心部では介護保険予算の負担が大きいため、包括型の老人ホームの開業を区市町村が制限している場合があります。都心部で在宅生活ができなくなった高齢者が郊外の有料老人ホームに転居するパターンも多く、そうしたニーズを把握しなければなりません。

 

 さらに、サービスの質の管理が重要です。虐待などの問題が発覚すると、退所者やスタッフ離れが起こり事業が立ち行かなくなる場合があります。人手不足の中、スタッフの業務管理・労務管理を疎かにすると経営が困難になりやすいのもデメリットでしょう。

 

 

 次回も様々なサービスについてご紹介します。

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その1

 

 今回から他の業種から介護福祉事業へ参入する方法についてガイドしたいと思います。

 特に、中小企業事業者が参入しやすい事業ですので、その点を留意してご説明できればと思います。

 

介護福祉事業の参入メリットについて

 

①国の社会保障システムに組み込まれた安定事業である

 高齢者や障害者の生活を保障する仕組みは、先進国では当然のシステムであり、国が責任をもって保障しなければならない事業です。

 そして、我が国はこの分野の整備が他の先進国よりも遅れており、今後さらなる充実が要請されています。

 今のところ筆者が開業をお手伝いした会社のほとんどが継続的に事業を経営しています。

 

②地域に貢献できる事業である

 たとえば、親の代より地域に根差して経営をされているような中小企業であれば、地域における存在感がより増す事業であり、将来にわたり地域での存続を可能にします。

 

③女性が活躍できる職場である

 女性が生き生きと仕事ができる職場を地域に創造することができます。これはワークライフバランスという観点で地域にとって、とても意義があることです。

 

④コスト競争、シェア争いの悩みが少ない

 支援の必要な高齢者や障害者は今後おそらく50年程度増え続けます。誠実なサービス提供を続けていれば、コスト削減に頭を悩ませたり、他社とのシェア争いに巻き込まれることはありません。

 国は社会保障費を抑える目的もあり、病院や施設でケアを受けている高齢者や障害者の在宅ケアを強く推進しています。

 そのため、今以上に在宅ケアニーズが高まっていくことが想定されています。

 

⑤開業コストが極めて安い

 もし、事務所などがすでにあるならば、訪問介護や看護であれば、コストはほぼ人件費だけです。

 保育事業などは施設整備に費用が必要ですが、介護は極めて安価に事業が開始できます。訪問介護などで実績を積んだ上で、規模の大きな事業へと着実に展開していくことで、安定した成長が期待できます。

 

⑥自治体の補助金が使える

 地域密着型のグループホームや小規模多機能などであれば、建築費のほとんどが補助金で賄えます。

 土地をお持ちであれば、他の不動産投資などよりも断然有効な活用ができます。

 

 

では、デメリットは?

 

①あまり儲からない

 会社経営で大成功を狙っているのであれば確かに急成長できる業種ではありません。しかし、長く安定的な事業経営を望むのであれば最適です。

 

②人材確保が難しい

 2016年11月現在、介護職の有効求人倍率は3.4倍です。しかし、まったく求職者が来ないわけではありません。介護事業の場合地域での口コミの評判が物を言う場合があります。働きやすい職場づくりができれば、少しずつ人は集まり定着すると考えます。

 人材の確保と定着のノウハウについてはこちらをご覧ください。

「訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術」https://carebizsup.com/?p=827

 この業界ではスタッフの定着に失敗すると経営ができません。経営がうまくいかない事業者の多くが人材が定着しない会社です。

 

③全くの他業種から参入する場合、何も経験が無くて良いのかという不安

 経営者に経験が無くても、スタッフは有資格者の経験者が集まりますので仕事自体は問題ありません。また、経営者も開業前に介護初任者研修などを受講し、3年から5年経営すれば、概ね業界の姿は見えてくるでしょう。

 基本的には閉鎖性のない業界です。未経験でもやる気さえあれば誰でも参入できます。

 

④仕事が大変そう、3K職場である

 確かに(特別養護)老人ホームでの介護では体力が必要な部分もあります。しかし、在宅援助の場合、多くがそれほど体力を必要とする業務ではありません。訪問介護では70代の女性ヘルパーも活躍しています。

 介護現場の3Kイメージの多くは重度の方々のお世話をする施設介護のイメージと言ってよいでしょう。

 むしろ必要なのは対人援助のスキルや医療や障害の知識であり、そうした能力に優れた事業者であれば、キタナイやキケンは仕事として適切に対処できるものです。

 また将来的には、体力の問題も、福祉機器などの進歩で解消されてくると考えます。

 

 

産業構造が大変化しても生き残るために

 

 これからの50年で日本の産業構造は、それまでの50年に比べ劇的に変化すると考えられます。

 例えば、親の代に会社を興し経営を続けてきたが、このまま同じ事業で会社を継続していけるか、不安に感じている中小企業経営者の方には、特にお勧めしたい事業です。

 起業した地域で少なくとも50年は継続的に事業を営むことができます。

 工場や事務所などの経営資源も再利用できますし、従業員も雇用し続けることが可能です。

 

 次回は、具体的などのような事業参入が可能なのかをご説明します。

 

 

 

 

訪問系サービスのスタッフ獲得術・定着術 その3

前回の続きです。

 

パートスタッフは報酬よりも居心地の良さを優先する

 

 パートスタッフにとっての居心地の良さとは以下のような指標に集約されると考えます。

1 仕事への不安が無い、もしくはすぐに解消される

2 仕事に自信が持てる、適切に評価されていると感じる

3 良好な人間関係

4 自身の生活(子育てや家族)やライフスタイルとうまくマッチングしている

5 肉体的・精神的な負担が少ない

 

※この指標はあくまでパートスタッフの定着を意識したものです。正社員の場合はまた別の指標になるかと考えます。

 

 各指標について詳しく説明します。

 

1 仕事への不安が無い、もしくはすぐに解消される

 すでに述べたように、仕事に不安があると、スタッフは定着しません。特にその仕事が初めての新人の時期は不安でいっぱいです。パートスタッフの場合、自分がその職業に適しているかどうか不安に感じると、すぐに別の職業に移ってしまいますので、新人の世話はスタッフ定着への第一の要諦となります。

 

 不安解消に仕組みとしては以下のように整理できると考えます。

(1)何でもすぐに相談できる体制(詳しくは前回の記事参照)

(2)月1回のスタッフ会議、研修会の開催で疑問や不安の解消

※訪問介護の場合これにより特定事業所加算も算定できるようになります

(3)充実した利用者情報のファイリング(当然スタッフで共有)

 

2 仕事に自信が持てる、適切に評価されていると感じる

 仕事に自信が持てると継続してその職業に就いていくモチベーションとなります。これにキャリアアップの仕組みが組み合わされれば、一生この業界で仕事をしていく人材となるでしょう。

 幸い介護業界はキャリアアップの仕組みを充実させようと取り組んでいる最中です。介護給付的にキャリアが反映できるようになってくれば(例えば医療的ケアには別給付が出るなど)、パートスタッフのモチベーションも高まると考えます。

この指標を実現するためには、上述の不安解消の仕組みとともに、以下のような取り組みが必要になります。

(1)職業能力評価の導入

  厚生労働省では介護事業別の職業能力評価シートを作成しています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000093927.html

 簡単に説明しますと、年1回スタッフが自分の技術や能力について自己評価し、それに対して管理者などが評価する形式です。

 パートスタッフ用には少し細かすぎるので、評価項目を簡略化しても良いかもしれません。

 仕事の評価は、スタッフと管理者が個人面談により行うので、仕事に対する不安や疑問などを話し合う場にもなります。その際に、管理者はスタッフに自信を持たせ、目標に向かって仕事に取り組むように動機付けを行います。

 訪問看護についてはまだ国は評価シートを示していませんが、東京都が「訪問看護OJTマニュアル」の中で評価シートを示していますのでご利用ください。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kourei/hoken/houkan/ojtmanyual.html

 

 評価制度が導入できない場合でも、年1回、管理者とスタッフが個人面談をして、仕事の振り返りなどを行うことはとても有効です。

 

(2)仕事に対する興味を引き出し養成する仕組み

 新しい知識の獲得やキャリアアップの取り組みを支援する仕組みを作っていくと、自発的な自己研鑽につながります。

 具体的には、「資格取得費用の支給」「外部研修の受講」「参考図書やソフト、DVDの購入」などに対する金銭的な支援です。

 

 なお、評価制度の導入や資格取得・研修費用などについては補助金を利用できる場合があります。以下は厚生労働省の補助金です。社労士さんに相談すると申し込めます。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html

 介護実務者研修や介護福祉士の受験費用については、各自治体で補助金を出している場合がありますので問い合わせてみてください。

 

3 良好な人間関係

 職場での人間関係は退職理由の上位に来る指標です。

 筆者が東京都で人事の仕事をしている時、新入職員などの研修で以下のようなガイダンスをしていました。

 

 【入職時の心得】(3か月は無理をしない原則)

(1)入職後3か月は無理して仕事をしようとはせず、上司や先輩に言われたことを淡々とこなすこと。

 職場では入職したばかりの新人スタッフの仕事にほとんど何も期待していません。使い物になるようになるまでは1年程度必要だと考えています。従って周りの期待に応えようとして無理をして仕事をする必要は無いのです。

 無理をすると失敗します。失敗すると自信を失います。自信を失うと仕事が楽しくなくなり、職場に行くのが苦痛になるという悪循環に陥ります。

 

(2)入職後3か月は無理に人間関係を密にしようとしない

 人間関係は自然に形成されるものです。職場になじもうとして無理に周りと仲良くする必要はありません。少々、さみしいかもしれませんが、周りにいる人たちがどのような人なのか分からない時点では、無理に仲良くしようとすると逆に関係をこじらせたり、傷ついたりする場合があります。

 入職後3か月は、周りの人間関係をじっくり観察するようにしてください。どの人がどのような性格で、誰と誰が仲が悪いとか、誰が嫌な奴だとか、そうしたことが見えてくると、自然と人間関係は形成されていきます。

 この先輩はなんで自分をいじめるのだろうという人がいたとします。そういう場合は悩んだりせず、右から左に流すようにします。3カ月もするとその人は他の人からも嫌われていることが分かったりします。

 

 新入社員の多くが3か月以内に辞めてしまうというデータがあります。

 新人はすでに形成されている複雑な人間関係の中に一人で放り込まれるわけですから、その環境に慣れるにはそれなりの時間がかかるのです。

 そのことをしっかり認識して、3か月は人間関係のことは考えず、ただ傍観するようにするのが、うまく環境になれるコツです。

 

(3)入職後3か月は分からないことは何でも聞く勇気を持つ

 馬鹿にされたくないとか、恥ずかしいとかいう気持ちは、新人は持ってはいけません。

 何でも聞けるのは新人のうちだけです。明るく元気に何でも聞く勇気をもって過ごしてください。

 

 以上、これは新入社員向けのガイダンスですが、パートスタッフにも当てはまることです。採用時に上記のようなガイダンスをしてあげることで、入職の際のストレスはだいぶ軽減されるでしょう。通常3か月勤務できれば、その後も継続的に勤務できると考えます。

 

 【トラブルメーカーへの対応】

 正社員などで、パートスタッフをいじめてしまい、辞職に追いやるようなタイプの人がいます。これには対策が必要です。

 訪問系のサービスの場合パートスタッフが定着することが収益につながることを、しっかり理解させましょう。

 さらに、正社員の仕事はパートスタッフに安心して仕事をしてもらえるように世話をすることだということを理解させなければなりません。

 訪問系の事業ではパートスタッフの世話ができない正社員は評価が下がることをきちんと説明することが大切です。

 

 

 次回はこの続きです。