科学的介護とAIケアプラン

 

 

 厚生労働省の「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」が昨年12月に中間まとめの案を発表しました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189631.html

 

 介護の仕事に関与している方、特にケアマネージャーの皆さんには重要なことなのですが、この検討会の資料を見ても何をどうしようとしているのか分かりにくい部分があります。

 

 

「科学的裏付けに基づく介護」とは何か

 

 厚生労働省が考えている「科学的裏付けに基づく介護」とは具体的にどのようなことでしょうか?

 これを説明するには医薬品の開発と比べてみるとわかりやすいと思います。

 

 医薬品の開発では必ず事前に長い時間をかけ、動物実験や臨床実験が行われ、実際にその薬がどのように効果があり、副作用などの影響があるのかの検証を行います。

 そのような手順を踏み科学的裏付け(=エビデンス)を確実に把握しなければ、薬は製品化することはできません。

 

 介護においても、あるご利用者にある方法の介護をするとどのような効果があるのかを検証しエビデンスを得ようというのが、この「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」の目的でしょう。

 

 「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」を言い換えれば「エビデンスに基づく介護に係る検討会」ということです。

 

 

介護は実験室で行えない

 

 しかし、介護は実験室で行われるわけではありませんから、薬のテストのように、Aを投与すればBの結果が得られるというような検証をすることはできません。

 

 ましてや、ご利用者は個別に様々な心身の状況を抱えているため、検証目的に合った状況のご利用者をどこかから連れてくることも無理のある話です。

 

 それではどのようにエビデンスを得ようというのでしょうか。

 

 

介護は実践でしか検証はできない

 

 介護は現場の実践でしかエビデンスを得ることができません。これはよく言われることでしょう。

 科学的な検証を行うためには絶えず現場からの実証データを吸い上げて、検証するしか方法が無いのです。

 

 その上、介護は「心」を扱わなければならない仕事です。高齢者の「やる気や」「生きがい」を扱うためには、人間の「心」にアプローチする必要があります。

 さらに言えばその「心」は社会の状況や時代によっても変わってきます。外科医が身体を扱うように生物学的なアプローチだけでは結果が出ないのが介護の世界です。

 

 もちろん、精神医学界では、昔から各種療法の積み重ねにり、「心」の治療方法が科学的エビデンスとして蓄積されています。しかし、介護の場合はそのような積み重ねの歴史は浅く実証もありません。

 そもそも、これまでは、老化による心身機能の低下を病気とは考えてこなかったため、治療改善というアプローチは取られてきませんでした。

 今まで高齢者介護は「お世話」程度にしか見られてきませんでしたから、科学的検証など必要なかったともいえます 。

 

 しかし、老化による心身機能の低下は予防することができますし、実践方法により状態の悪化に差が出てくることも周知の事実です。

 

 国としては社会保障費の低減のために、できるだけ、効率の良い介護方法を見出し、介護全体の質の向上を目指したいということでしょう。

 

 

多様な介護実践のデータベースを作りたい

 

 全国各地で行われている多様な介護の実践と、その結果をデータベース化し、ベストな実践(ベストプラクティス)を抽出していく。

 

(※ベストプラクティス=ある結果を得るのに最も効率のよい技法、手法、プロセス、活動などのこと。 )

 

 これが、この検討会が目指しているものだと思います。

 ではどのように実践を蓄積していくのか?

 

 役割はケアマネージャーにゆだねられると考えられます。

 「ケアプランのデータベース化」これが一つの方向として見えてきます。ケアプランにはアセスメントとモニタリングも含まれます。

 

 どのような心身状況の利用者にどのような介護実践を行い、どのような結果を得たか。この情報を大量に集め、データベース化し、その大量のデータの中よりベストプラクティスをピックアップしていくプロジェクトになるのでしょう。

 

 ベストプラクティスをピックアップする作業にはAI(人工知能)技術が活用されると思われます。

 

 

AIによるケアプランの作成が可能に

 

 このようなデータベースが開発されることにより、今度はAIによるケアプランの作成が可能になってきます。

 

 心身状況(アセスメント)を入力すると、AIがデータベースの中から対応するベストな介護方法をピックアップしてくれます。

 

 もちろんそれをケアプランとして採用するかはケアマネや本人・家族の同意や確認が必要になるとは思われます。

 しかし、逆に考えれば、ケアマネージャーがプランニングしにくい、本人にとっては辛い機能訓練系のプランも冷徹にピックアップしてくれます。それにより効果的なプランを導入しやすくなるかもしれません。

 

 ただしこのシステムを製作するためには、最初にケアプラン作成ソフトのフォーマットの共通化が必要になります。そのためのプラットフォームをどうするかなど、検討課題は多く、データの蓄積が始まるまで何年かかるのか?今の雰囲気だとかなり先のことになりそうな気がします。

 

 

 

 

介護福祉事業開業ガイド(他事業からの参入編)その3

 

 

 前回の続きです、さらに様々なサービス事業についてご紹介します。

 

 

居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)

 

 在宅のケアマネジメント・サービスを提供する事業所です。

 現状の介護給付費ではこの事業所だけで儲けを出すことは難しいのですが、他の事業所と合わせて経営することで、お客様の獲得という営業的な機能を発揮します。

 

 例えば、訪問介護事業所にケアマネ事務所を併設することで、訪問介護サービスの利用者を獲得しやすくなります。

 

 また、実際にケア・サービスを提供していく上で、ケアマネと訪問介護スタッフが同じ事務所に所属していると、情報の共有が容易になり、きめ細かいサービス提供をしやすくなります。

 

 従って、訪問介護事業所ではこのケアマネ事務所を併設しているところが多いでしょう。

 

 専門的な話になりますが、一つのケアマネ事務所が訪問介護の依頼を、併設の訪問介護事業所に集中させる場合、介護給付費が減らされるというルールがあります(集中減算)。

 

 しかし、実際には併設の訪問介護事業所だけでサービスを独占することは難しく、それほど心配することはありません。

 

 なお、集中減算は国の審議会でも問題視されている部分があり、今後、一定の条件下で緩和される可能性も示唆されています。

 

 ケアマネージャーは介護サービスの営業職的な側面があります。また、一方で、地域行政や各種介護関係組織・医療機関と密接に連携して、地域の介護サービスを推進させていく公的な役割も期待されています。

 

 在宅介護のケアマネージャーは、一つの地域にじっくり腰を据えて、良い仕事をしていくことで、地域での存在感が増し、所属する会社自体も地域から信頼を得ることができます。

 

 居宅介護支援事業所はケアマネージャーが一人いれば開設できます。他のサービスと併設する場合は、そのサービスの管理者も兼務できます。

 

 もし、この事業所を開設しようとする場合、最初に雇用する管理者となるケアマネージャーは、上記のような趣旨に照らして、人格のしっかりした、力のある人をじっくり選んで雇用するべきであると考えます。

 

 

福祉用具貸与・販売

 

 在宅介護で利用する福祉用具の貸与・販売をする事業所です。

 訪問介護事業所で介護福祉士が複数いる場合、この事業所の福祉用具専門相談員と兼務ができますので、兼業している事業所も多いですが、最近では訪問介護業務が忙しく、福祉用具まで手が回らないという状態の事業所が多くなっています。

 

 パナソニックなど大企業が参入していることもあり、福祉用具だけで儲けを出していくことはなかなか難しいといえます。

 

 ただ、ある程度の規模で、多様な在宅サービスを提供している会社であれば、この事業を行うことはメリットがあるかもしれません。

 たとえば、通所介護の送迎車は朝と夕方以外稼働していない場合があります。この送迎車を福祉用具用の運搬車に兼用することはメリットがあるでしょう。

 

 福祉用具は大きな倉庫設備を持つ、仲卸の業者から、用具を借りてまた貸しするような仕組みになっています。この仲卸業者から用具を運搬して設置する業務を、自社で行うことで、収益を上乗せできます。

 

 この仲卸業者は概ね商社などの巨大資本をバックに持つ会社が運営しています。配送をやらせてくれるかどうかは、業者により扱いが異なりますので、開業する前に確認が必要です。

 

 なお、福祉用具専門相談員の資格は50時間の比較的安価な研修を受講すると取得できます。

 

 

訪問入浴

 

 訪問入浴は車に浴槽とお湯を沸かすボイラーを積んで、在宅入浴を提供するサービスです。

 

 改造車などの設備投資が必要になります。また、大きな折り畳みの浴槽を運搬しますので(公営団地では5階まで)、ある程度体力のあるスタッフが必要になります。

 

 介護スタッフ2名プラス看護師が規定人員になりますが、看護業務としては比較的簡単な業務なので、現場を離れて看護の仕事に自信がない看護師さんでも比較的就業しやすい業務でしょう。

 

 訪問入浴の介護職は夜勤が無い仕事の中でも、最も稼げる仕事になっています。従って収入の欲しい、体力のある男性が応募してきます。

 こうした男性職員は向上心がある方も多く、将来、会社のコアスタッフとして活躍する場合もあるようです。

 

 開業する場合は、資金が必要なうえに、地域によってはサービスが飽和状態である場合もありますので、しっかりマーケティングする必要があります。

 

 

通所リハビリテーション(デイケア)

 

 一般の方には、リハビリデイサービス(リハビリ特化型通所介護)と区別がつかないかもしれません。

 

 リハビリデイサービスはあくまで通所介護事業所で、特徴を表すために、リハビリデイサービスと宣伝表示しているだけです。

 

 通所リハビリテーションは通所介護とは異なり、医師と理学療法士などが在籍する、医学的リハビリサービスを提供する事業所です。

 通常、整形外科などに併設されている場合が多いでしょう。

 

 母体が医師のいる医療関係であれば開設のメリットはありますが、そうでなければ開業は避けた方が良いと思います。

 

 

 

 次回は、地域密着型のサービスについてご紹介します。

 

 

ケアプランAIでケアマネは不要になるか?

 

 ケアプランAI(人工知能)の開発がスタートしました。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF14H0Q_U7A410C1EA4000/

 

 このシステムが稼働すればケアマネージャーは要らなくなるのではないかという声もあります。

 実際のところはどうでしょう?少し検証したいと思います。

 

 

ケアプランAIの仕組みを考える

 

 ではケアプランAIは具体的にどのようにケアプランを作成するのでしょう。

 居宅介護において、簡単にイメージ想定すると、以下のような流れになるのではないかと考えます。

 

①利用者の心身の状況の他あらゆる情報を収集し入力する(スクリーニング)

②利用者情報はクラウド上のデータベースに照会され、その人の状態が評価される(AIによるアセスメント)

③アセスメントによりAIはその人に必要なサービスを選択する

④選択されたサービスによりAIケアプランが作成される

⑤AIケアプランを本人や家族の意向に合わせて修正する

⑥修正されたAIケアプランに合わせてサービス提供事業者を選択し入力

⑦ケアプラン原案(暫定ケアプラン)の完成

⑧サービス担当者会議開催(議事録等の入力)

⑨ケアプラン完成→サービス提供票・週間サービス計画表に反映

⑩AIがモニタリングすべき項目を作成→人による確認修正

⑪モニタリング情報の入力

⑫長期・短期目標についてのAI評価→人による確認

⑬AIが再アセスメントに必要な、収集すべき情報を提示

⑭情報の再収集・追加入力

 

 最初からここまでの作業が整備できるとは思えませんが、実際に使えるAIケアプラン・システムになるにはこの程度の業務能力が必要ではないかと考えます。

 

 

医療分野ではAI診断がすでに始まっている

 

 近い将来、身近なクリニックなどでもAI診断が実現すると考えられています。

https://cs.sonylife.co.jp/lpv/pcms/sca/ct/special/topic/index1704.html?lpk=

 

 とは言っても治療判断を行う医者が必要なくなるわけでは無いでしょう。

 しかし、1次診断などのスクリーニングでは活用されるのではないでしょうか。

 カルテ情報共有と連携して地域医療改革の推進に役立つことが期待されます

 

 医学の歴史は人体と病気の情報化の歴史でもあります。血液やDNAなど人体のあらゆる状況を情報化し、病気を治すことに利用してきた歴史です。

 

 病気に関わる人体の情報が膨大化している現代ではAIを活用することは避けられないことだと思います。

 

 

AIシステムには膨大な情報データベースが必要

 

 AIの能力としての真骨頂は、膨大な情報を処理しディープラーニング(深層学習)と言われる仕組みを通して、AIそのものが成長するところにあります。

 https://www.nttcom.co.jp/research/keyword/dl/(ディープラーニング説明)

 

 人工知能というものは自ら学習し成長し、能力を向上させていくことが売りであり、そのためには膨大な情報が蓄積されなければなりません。医学ではその情報がすでに膨大に蓄積されています。

 

 一方、介護分野ではこれからです。

 介護サービスの多様な情報が日本全国から集まり、クラウド上に蓄積され、ディープラーニングが始まるまでには、相当の時間がかかるでしょう。

 それとも開発者側であらかじめ介護に関する情報データベースを作成するのでしょうか?それには相当のコストが必要になります。

  普通に考えれば、多くの現場でこのAIシステムが使われ、学習するべき情報が蓄積される方法をとるでしょう。

 つまりこのシステムが成功するには、多くの現場で利用されなければならないということになります。

 

 

システムが利用されなければケアプランAIは失敗する

 

 結局、上述のAIケアプランの作成の流れにおける下線部分は、ケアマネージャーが行わなければなりません。

 ケアマネージャーには情報収集と調整やコミュニケーションなどの仕事は残ります。

 

 このAIシステムが成功するためには、多くのケアマネージャーによって利用されなければなりませんが、利用されるには、何らかのインセンティブが必要です。

 たとえば、このシステムを活用することで、ケアマネ業務が軽減され、現在の受け持ち担当者数を超えて仕事をすることが可能になり、国も規制緩和し、収益増加につながるようなインセンティブです。

 

 でなければ多くのケアマネージャーはこのシステムを利用しないでしょう。

 全国のケアマネが活用し、それによりディープラーニングが加速しなければこのケアプランAIは成功しないと思います。

 

 

AIケアプランはケアマネの資質の向上に寄与するか

 

 ディープラーニングが加速し、ケアプランン自体の精度が向上することは、ケアマネジメントの資の向上につながるとは思います。

 しかし、ケアマネージャーの仕事はケアプランを作成することだけではありません。

 

 ケアマネの仕事はケアマネジメントを進めて、利用者の心身状況の維持向上と自立を推進していくことです。

 

 たとえば、

  • 下肢筋力の維持向上のための運動をさせたくてもしようとしない利用者
  • 訪問介護を受け入れない家族
  • 食事管理ができない糖尿病の利用者
  • ターミナルにおける家族ぐるみのコミュニケーションのケア
  • 認知症家族に対する認知症の理解を促すケア

 などなど、ケアプランの内容とは別に、ケアマネージャーが関与しなければ前に進まないことは沢山あります。

 

 そして、ケアマネの資質として必要とされているのは、上述のようなケースでもマネジメントを進めていける能力でしょう。

 

 実は、ケアプラン自体はアセスメントの時点である程度のパターンが見えていることも多いのではないでしょうか。

 

 多くのケアマネージャーが、ある程度パターン化されたケアプランをカスタマイズしてその利用者に適したものにしてゆく作業を行っていると思います。

 

 もしこのAIがそのようなパターン化されたケアプランを作成するだけなら、たぶん利用価値は無いでしょう。そのパターンはすでにケアマネの頭の中に入っていますから。

 

 

使えるAIシステムでなければ失敗する

 

 利用価値がないAIシステムでは情報も蓄積できないので。このケアプランAIは失敗すると思います。

 

 ケアプランAIのシステムが成功するには、まず、できるだけ多くのケアマネージャーが利用するシステムにしなければなりません。

 

 先にも述べたように、業務の軽減と収益向上に結び付くシステムでなければ利用はしないでしょう。

 

 ケアマネージャーの資質の向上はその先にあることであり、筋トレの必要な利用者に筋トレをさせられるAIは開発できません。

 

 もしかしたらロボットケアマネージャーが開発され、人間のケアマネージャーは要らなくなるかもしれませんが、おそらくそのレベルのロボットはもう人間と変わりません。