日本人のチャリティー参加は世界最低基準──日本の「互助」は機能しない

 

 国は地域包括ケアシステムの5つの構成要素として「自助・互助・共助・公助」を掲げ、多様な主体が社会福祉活動に参加することを推進する政策を進めている。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-3.pdf

 

 このうち、いわゆるボランティアなどの互助(自助・公助的なものを含む)について興味深い調査がある。

 

 イギリスにあるチャリティ援助財団(Charities Aid Foundation)が125カ国以上の国々を2009年から10年間調査し、発表した「World Giving Index 10th edition」というものがある。

 これは各国民の人助け(チャリティー)に関する活動状況を調査したもので、国ごとのランキングを公表している。

https://www.cafonline.org/about-us/publications/2019-publications/caf-world-giving-index-10th-edition

 

 つまり慈善活動が活発な国のランキングである。ベスト10は以下の通り。

1位:アメリカ

2位:ミャンマー

3位:ニュージーランド

4位:オーストラリア

5位:アイルランド

6位:カナダ

7位:イギリス

8位:オランダ

9位:スリランカ

10位:インドネシア

 

 日本はというと、なんと126カ国中107位とひどい順位である。ちなみに、中国が126位で最下位、韓国は57位である。

 

 このような国でボランティアなどの互助が機能するのだろうか?。この順位は、日本には慈善活動のようなものがまともに存在していないと言っているようなものである。

 

 しかし、日本人が人助けをしない国民とは思えないし、災害時などでも互いに助け合う姿が印象に残る。

 また、毎年夏になると大規模なチャリティー番組も放送され、日本人の慈善意識は高いようにも感じられる。

 

 ところが、この団体による調査基準では最低ランキングなのである。

 このランキングの基準となるのは、以下の通り。

1 国民の「知らない人を助ける度合い」

2 「寄付金額」

3 「ボランティア参加率」

 

 日本はこれらすべてのランクが低い基準である(平均23%。アメリカは58%)。

 この調査の正確さを議論することもできるが、筆者は、少なくとも欧米的なチャリティー活動は日本ではあまり活発ではないということなのだろうと考える。

 

 

 どうやら秘密は宗教活動にあるようだ

 

 アメリカ映画などを見ていると、時々バザーなどの何らかのチャリティー・イベントを地域住民たちが催しているシーンを見たりする。

 こうしたチャリティー活動は概ね地域の教会に集まる信者が中心になって実施されているようだ。教会が慈善活動の場として機能し、人々の寄付や参加が集まる仕組みが確立されているのだろう。

 

 上記ランキングを見ると、2位のミャンマー、9位スリランカは仏教徒。10位インドネシアはイスラム教徒が多い。

 日本は仏教徒が多く、「慈悲」は仏教の中心的な教えの一つであり、人をいたわり、人のために役立つことは、欧米などより社会的通念として浸透しているはずだ。

 

 では、ミャンマー、スリランカと何が違うのだろうか?

 実は、仏教には大きく二つの系統があり、かなり大雑把に説明すると、出家して修行することを重んじる「部派仏教」と、大衆を救おうとする「大乗仏教」の二つである。前者は初期仏教とも言われている。

 

 ミャンマー、スリランカは「部派仏教」系であり、日本は「大乗仏教」系である。

 実は部派仏教では、「徳」を積むことを重視する考えがあり、困っている人に施しをしたり、直接的な人助けを重んじる傾向がある。

 それは人々の生活に根差した価値意識であり、例えば食堂の店主が、時々貧しい人に無料で食事を提供したりする。それが「徳」を積むことだ。

 

 日本や中国・韓国の大乗仏教には慈悲の心を重んじる傾向はあっても、信徒が具体的な慈善活動をしなければいけない義務的な教えは無い。

 

 一方、インドネシアはイスラム教徒が多いが、イスラム教でも「カザート」という困窮者を助けるための喜捨が生活の中で義務付けられている。具体的にはムスリム社会における互助的な金品の寄付である。

 

 つまりランキング上位の国々は宗教的なチャリティー活動が生活に組み込まれており、ことさら意識しなくとも日常的な慈善活動が行われているのである。

ちなみに韓国はキリスト教徒が多いので日本よりも上位にいると考えられる。

 

 崩壊した日本の互助セイフティーネット

 

 宗教の中の慈善活動を促す教えは古くからあり、互助による社会セイフティーネットとして機能している。困難者を救うことが社会の安定につながるのだ。

 

 しかし、日本では宗教的な決まり事ではなく、家族や地域社会が互助セイフティーネットとなって助け合ってきた歴史がある。

 例えば江戸時代、長屋の年寄りが中風(脳卒中)で倒れた場合、町役人がその長屋の住民や近所の人たちに指示し、面倒見なければならない決まりがあった(奉行所が監視している)。

 

 ところが、現代ではそうした地域社会の互助セイフティーネットは崩壊してしまった。

 代わりに法律が整備され、国が税金や介護保険などを使ってサポートすることとなったが、税金や保険で賄う公助では賄いきれない状況が見えてきている。それが現在の状況である。

 

 特に障害者給付は毎年伸び続け、その他、子供の貧困や様々な社会的弱者に対する支援要求も増え続けている。財務省はもう公助では限界だと考えているだろう。

 宗教的な互助システムのない日本でこの先、人々が助け合う「互助」を期待できるのだろうか?まさか、江戸時代のように強制はできない。

 

 顔の見える互助組織が必要

 

 宗教や共同社会の特色は顔の見える関係の助け合いである。

 顔が見えて、その人がどのような人なのかが分からないと助ける側も助けられる側も不安がある。現状では、ボランティアに参加する側も、受け入れる側も顔の見える関係が作りにくい。災害時のボランティアはそうした関係を超える緊急性があるが、日常的な人助けの場合、なじみの関係の方がスムーズである。

 そうした仕組み作りから始めなければならないだろう。「何らかの動機づけを持って人々が集う場所」が地域の中に必要だ。これは都市の「孤独」の問題解決とも繋がる。人の「善意」は無くならない。それを有効に活用できる仕組み作りから始めなければならない。

 

 

これからの障害者福祉サービスの動向

 

 

 障害福祉サービスの利用率が伸び続けています。

「障害者サービス利用率の伸び」

障害福祉サービス等報酬改定検討チーム第1回(H30.8.29) 参考資料

 

 今回は、今後の障害者福祉サービスの動向について分析したいと思います。

 

日本の潜在的障害者

 2018年4月厚生労働省は体や心などに障害がある人の数が約936万6千人との推計を公表しました。この数字は2013年時の調査よりも、149万人増えたことになります。人口比のして6.2%から7.2%へ増えたことになります。
 原因として同省は高齢化の進行に加え、障害への理解が進み、障害認定を受ける人が増えたことも増加要因と分析しているようです。
https://www.asahi.com/articles/ASL495Q7BL49UTFK01W.html

 一方、世界へ目を向けるとどうでしょう、国連の広報サイトには2013年で世界の人口の15%が障害を持って暮らしていると報じています。
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/5820/
 日本の約倍です。これにはどのような意味があるのでしょう?

 世界人口の多くは途上国に住んでいて、医療が進歩していないので障害者が多い? 

 いや、障害者数は医療が発展すればするほど増えます。社会で生きにくい人(障害者)は医療の進歩によりその原因が何らかの障害に起因することが診断されやすくなるからです。
 つまり先進国の方が障害者として認定されやすくなるので、障害者人口は増えます。

 世界各国の障害者割合(20~64 歳人口)を見てみると以下のようになります。

 

 福祉先進国が上位に名を連ねていることが分かります。この時点では日本の統計調査はありませんが、概ね4~5%になると推測されています。つまりイタリアより下、韓国より上です。
 これは何を意味しているのでしょうか?

 

日本の障害者認定の範囲は狭い

 上記の各国の障害者率は、そもそもが障害認定の基準が違うため、このような開きが出てしまうのです。
 日本に比べスウェーデンの方が障害者(社会で生きにくい人)が多いわけではありません。日本に比べスウェーデンの方が障害者として認定される人が多いのです。
 つまり、日本では障害者として認定されない人がスウェーデンでは障害者として認定されているということです。また、日本では障害認定の申請をしない人でも、スウェーデンでは申請をしているとも言えます。

 筆者は引きこもりや不登校、ホームレス、各種依存症などの実社会にうまく適応できず、生きにくい思いをしている人たちも、何らかの障害が認定できると考えています。
 おそらく、スウェーデンではそうした日本では障害者として認識していない人たちも、障害者として認定を受け、社会的な支援を受けることができる態勢ができているのではないかと考えています。

 

閉鎖的国民性が障害者を封じ込める

 こうした障害に対する認識の違いはどこからくるのでしょう?
 一つは、文化や風土の違いからくるものではないかと考えます。韓国も率が低いですが、日本と似たような社会風土であるからではないでしょうか。
 それは「異質性の排除」と「同質性の要求」という閉鎖的社会風土であると思います。
 日本人は「みんなと同じ」といった同質性を要求しがちです。「みんなと同じ、周りと同じであれば安心」といった考え方です。
 反対に異質なものを持つ人を排除し、差別しがちです。「出る釘は打たれる」「誉れは毀りの基」などプラス面でも同様の反応を示します。
 北欧はノーマライゼーションの考えが根付いているので、障害があっても大手を振って社会に出ていけます。

 日本では、障害の子を持つ親はそのことを外にはあまり表したがりません。また、障害児を生んだ母親は嫁ぎ先の家族から非難されたり、自己嫌悪に陥ったりする傾向があり、辛い思いをすることも少なくありません。
 最悪、無理心中などの事態が生じる場合もあります。
 
 つまり、社会にとって異質と考えられる障害を隠そうとするバイアスが働きやすく、結果、適切な診断を受けて障害認定を受けることを避ける方向に働くわけです。
 国としても自ら申請をしない障害者への支援は考えていません。日本の障害者支援制度は申請をして名乗り出なければ支援を受けられない傾向が強く、隠れ障害者がたくさん存在しています。

 

「8050問題」がその典型例

「長期間の引きこもりをしている50代前後の子どもを、80代前後の高齢の親が養い続けている」問題です。その親の介護サービス開始とともにその子供の問題が発覚したりします。
 おそらくその子はなんらかの障害を抱えている可能性が高いのですが、医療などの支援を受けられないできたのです。
 ケアマネージャーはそうしたケースに良く遭遇するものです。しかし、子供への支援は介護ではできません。自治体に問い合わせても対応するセクションが無く、自ら病院に行くなどしない限り、障害福祉の支援は届かないのです。

 

社会に届きにくい障害者の声

 実は障害者は選挙において票になりにくいと言われています。
 高齢者層は積極的に投票に行きますし、介護や年金問題などで候補者も政策を訴えやすいのですが、障害者は投票率も低く(投票に行けない、選挙情報が届かないなど)、候補者もターゲットを絞った政策提言がしにくい現状があります。
 そのため政治に障害者の声が届きにくいのではないかと考えます。
 結果、先述の社会風土の影響もあり、日本の障害者福祉制度は世界標準には程遠いと言われる現状になってしまっているわけです。
 
 しかし、最近になって障害者自らが政治の場に参加し始める動きが見えてきました。
 こうした動きは今後加速していくはずです。
 さらに、障害を隠す社会風土も改善されつつあり、多くの障害者やその家族が外部サービスを積極的に活用し始めています。
 今後、「社会で生きにくい人」に対する支援サービスはさらに拡充されると考えます。
 サービス提供の主体である私たちはそのサービス幅の拡大に備える必要があるでしょう。

 

訪問介護事業所の障害者福祉サービスへの参入 メリットとノウハウ その2

前回の続きです。

 

高齢者サービスと障害者福祉サービスの違い

 

 さて、介護職として、高齢者介護以外経験がない場合、障害者介護は不安に感じるかもしれません。しかし、介護認定を受けている高齢者も障害者には変わりありません。障害の原因が加齢によるものであるだけです。

 もちろん障害の種類によって状況は様々です。そうした障害の理解は学ばなくてはならないでしょう。しかし、介護福祉士であればそうした障害の種別は一通り学んでいるはずです。介護の研修カリキュラムは高齢者以外の障害種別も基本的に網羅していますで、担当した障害者の状況についてきちんとアセスメントし勉強すれば、知識としては十分に対応できると考えます。

 高齢者との大きな違いは、比較的活動性や自立意識が高いため、介護者との関係が対等な場合があります。また、介護サービスを活用しようという意識が高いこと。身体障害者の場合、多くは障害受容のトレーニングを受けていおり、障害とともに生きていくことの覚悟がしっかりできているため。非常にスムーズなサービス提供が可能な一方、精神障害の方などコミュニケーションに課題を抱えている場合も多いので(頻繁に電話がかかってくるなど)、高齢者よりも受容的な態度が必要になるケースも多いようです。

 いずれにしても一人ひとりの心身の状況をしっかりアセスメントして課題解決のアプローチをすることは高齢者となんら変わりはありません。

 

 

利用者獲得方法 

 

 高齢者介護サービスの場合、地域包括やケアマネ事務所へ個別の営業を積んでいかなければ仕事の依頼は来ませんが、障害者サービスの場合は地元自治体の障害福祉担当に挨拶に行くだけで仕事の依頼が来る場合があります。また、高齢者の居宅支援事業所と同じような相談支援事業所があります。高齢者と違い一人の相談支援員が受け持てる利用者数が多く、一人の相談支援員から次から次と依頼がある場合もあります。地域の事業所数も少ないため営業先も少なくて済みます。中には訪問系障害者サービスの事業指定の公示を見て早々に電話をしてくる担当者もいらっしゃいます。地域によっては高齢者以上に需給バランスがひっ迫している状況もあるようです。

 ちなみに、平成26年度全国の訪問介護事業所の数は33,991に対し、障害者の居宅介護事業所数は19,872です。しかし、指定は取っていても実際には障害者サービスの依頼を受けていない(人手不足で受けられない)事業所も多いようです。

 

 

医療的ケアの取り組みにより、特定事業所加算Ⅰの取得 

 

 喀痰吸引や胃瘻などの医療的ケアはハードルの高いサービスと考えている訪問事業者も多いかと思います。しかし、実際にはご家族が日常的に行っているケアであり、介護福祉祉士が適切な研修を受けて行えば、決して難しいケアではありません。

 ケアの研修(3号研修)も基本的な研修は2日で終わりますし、直接ご利用者に対する実地研修もそれほど負担ではありません。

 医療的ケアができるということは、すなわち利用者が重度になるということです。すると、重度者を多くケアしている事業所に加算できる特定事業所加算Ⅰ(20%)が取得できる可能性が出てきます。これは収益上、大きなメリットになると考えます。

 実際、国の方針もあり、病院や施設から在宅生活を目指している障害者の方が沢山いらっしゃいます。そうした方への医療的ケアニーズは非常に高く、事業者が足りない状況と言えるでしょう。

 また、重度利用者は毎日ケアが必要であり、業務のボリュームも大きく、スタッフさえ確保すれば、安定した収益を上げられる仕事であると考えます。

 

 

連携する訪問看護ステーションがあるとメリット大 

 

 これまで施設や病院で暮らさざるを得なかった重度障害者の在宅ケアを実現していくには、家族負担の大きかった医療的ケアを訪問介護員により行っていくことがとても重要です。

 医療的ケアの実地研修にはそのご利用者のケアを行っている訪問看護ステーションの協力が無ければ実施できません。訪問看護師に医療的ケア教員講習(1日)を受けてもらう必要もあります。このため、連携する訪問看護ステーションがあるとサービス提供がスムーズに行えるでしょう。

 既に医療的ケア教員受講者の多くいる訪問看護ステーションと連携できればメリットは大きくなります。さらに、訪問看護師との業務の連携が綿密にできれば、利用者にとって利便性の高いサービスが提供できるでしょう。

 そのため、医療的ケアを多く実施している訪問介護事業所では事業を拡大して訪問看護ステーションに参入しようとしている事業をも多いようです。

 

 

障害者福祉サービスの新たなフィールドへの展開

 

 訪問系の障害福祉サービス事業を手掛けることで、障害福祉サービスのフィールドをさらに広げていくことも期待できます。

 相談支援や就労支援事業はまだまだ不十分であり、特に、精神障害者の社会参加のサポートはかなり遅れているのではないかと考えます。

「障害福祉サービスの体系」厚生労働省

 

 訪問系のサービスから将来、新たなサービス事業へ拡大していくことは経営戦略の面で有望であると考えます。

 最近では児童デイサービスのチェーン展開をする会社も現れていますが、障害福祉サービスは地域自治体との関係が重要です。地域にどのようなサービスが不足しているのか自治体に取材してから事業展開を考えることが必要であると思います。

 最後に、障害者介護を専門に働いている介護人材がいます。そうした人材はこの分野への興味も強く、そうしたスタッフとの出会いが新たな事業フィールドへの展開を可能にしてくれる場合もあるでしょう。

 この回終わり。

 

訪問介護事業所の障害者福祉サービスへの参入 メリットとノウハウ その1

在宅障害者福祉サービスにビジネスチャンス

 

 近年、障害者福祉に関する法整備が進み、それまで家族や医療・公的機関だのみだった障害者介護で、民間サービスが広く利用できるようになりました。

 これまでは一生病院や施設暮らしであった重度の障害者の方でも、在宅サービスを受けながら、家族と生活できるようになるなど、積極的な利用が広がりつつあります。

 そうしたなか、これをビジネスチャンスとして、事業を拡大している民間企業も多く表れてきており、先にご紹介した製造業から参入して3年足らずで月商300万円を超える売り上げを上げている、サンシャインヘルパーセンターも業務の半分が障害者サービスとなっています。障害者サービスが事業成長をけん引してきたと言っても過言ではないでしょう。

 ここでは、従来の高齢者向け訪問介護事業所が訪問系障害福祉サービスに参入するメリットやノウハウについご紹介したいと思います。

 

 

訪問介護と訪問系障害福祉サービスの兼業

 

 指定訪問介護事業所は同時に訪問系の障害者福祉サービスの事業指定も申請できます。

 居宅介護(障害者訪問介護)・重度訪問介護は特に研修などは必要なく、訪問介護事業所の人的資源をそのまま利用して、事業を行うことが可能であり、高齢者とは別の収益源として期待できます。事業所によっては高齢者よりも障害者サービスのウェートが大きくなっている事業所もあります。

 居宅介護、重度訪問介護の他にも視覚障害者のガイドヘルパーである同行援護や知的障害者(児)の行動援護も開業可能ですが、同行援護は、今後、同行援護従業者養成研修を修了することが要件になります。また、行動援護は知的障害者(児)の実務経験が必要になりますので、高齢者の訪問介護事業指定基準をクリアしただけでは開業はできません。

 また、自治体によっては障害児向けの通学支援などの移動支援サービスを独自に導入している場合があり、このサービスを受託することは概ね可能であると考えます(自治体により要件が異なる場合あり)。

 

 

新規立ち上げの事業所にはメリット大

 

 すでに訪問介護事業を開業されている経営者の中には「人手不足で高齢者の訪問介護だけで手一杯。とても障害者の対応までするのはムリ!」という事業者もいらっしゃるかもしれません。しかし、新規に訪問介護事業所を開業する場合は、障害福祉サービスも同時に開業することは大きなメリットがあります。

 現状、訪問系の障害福祉サービスでは、開業当初の利用者が少ない時期に、比較的容易に仕事の依頼が来る可能性が大きく、場合によっては長時間などボリュームの大きなサービス依頼が来ることもあり、経営上非常に助かる部分があります。

 というのも、訪問系の障害福祉サービスは「毎日」や「1日6時間」など一人の利用者に対してのサービスボリュームが大きいケースがあり、特に重度訪問では複数のサービス事業所が共同でサービス提供しているケースもあり、場合によっては事業者足りない状況もあるからです。ただし、長時間サービスでは多少時間単価は低くなります。また、高齢者と同様、最初は困難ケースが回ってくることも多いでしょう。

 一方で、若年の障害者も多いですから、一度サービスに入ると、固定利用者として長い間サービスが継続することもあります。

 

 

障害福祉サービスは今後も拡大が予想されます

 

 実は、我が国の障害福祉サービスはまだまだ不十分であり、社会保障給付の額でもヨーロッパなどの福祉先進国からはかなり後れを取っている状況です。日本では、長い間、障害者支援の主体は家族や行政が中心であり、民間などの外部サービスを利用した広い支援体制がなかなか整わない状況が続いていました。欧米ではノーマライゼーションの考え方が浸透しており、障害により障害者が不利益を被ることは、社会システムに問題があり、障害者は外部サービスを積極的に活用して、自立した生活をする権利があるとされています。

 日本は2014年に「障害者の権利に関する条約」を批准し、制度面でやっと国際標準に到達したといえる状況です。今後、障害福祉サービスのさらなる充実を図ることが国策となっていると考えます。

 

障害福祉サービスの増加率

 

 国民保健団体連合会のデータから、ここ4年のサービスの伸びを見てみましょう。

 訪問系サービスを含めて少しずつ利用が増えています。特に障害児の利用の伸びは非常に大きくなっています。

 こうしたサービス利用の拡大は、国の法律が変わり、今まで障害者ではなかった新たな障害者が増加したり、病院や施設から在宅生活へのシフト、また、今まで外部サービスを利用してこなかった障害者が積極的にサービスを利用し始めたことが要因だと考えます。

 特に障害児を持つ家庭では、家族が直接支援していた状況から、一気に外部サービスを使い始めたという感があり、大変大きな伸びになっています。もちろん、訪問介護事業所の提供する障害福祉サービスでも障害児へのサービスは可能です。

 また、福祉先進国ではそもそもの障害認定の方法が異なり、日本では障害者とみなされない人も多くが障害者としてサービスを受けられる環境があります。(※1)日本でも前述の北欧並みにノーマライゼーションの考え方が浸透すれば、サービスの利用はさらに増えると考えます。

 

≪参考資料≫

http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18879202.pdf

※1:国際比較からみた日本の障害者政策の位置づけ −−国際比較研究と費用統計比較からの考察−− 勝 又 幸 子(国立社会保障・人口問題研究所)

 

 

次回は具体的に訪問介護事業所が障害者福祉サービスに参入する際のノウハウについてご説明したいと思います。