介護職員のためのコンプライアンス研修 その2

3 プライバシーの保護

 

(1)介護福祉士は、利用者が自らのプライバシー権を自覚するように働きかけます。

 →プライバシー権とは基本的人権の一つです。普通の人がされて恥ずかしいことや屈辱的なことを平気で受け入れる利用者は、自立から遠ざかっています。

 

(2)介護福祉士は、利用者の個人情報を収集または使用する場合、その都度利用者の同意を得ます。

 →アセスメントは個人情報を収集することです。介護は個人のプライベートに介入する仕事ですから、当然本人(もしくは代理人)の同意が必要です。

 

(3)介護福祉士は、利用者のプライバシーの権利を擁護し、業務上知り得た個人情報について業務中か否かを問わず、秘密を保持します。また、その義務は生涯にわたって継続します。

 →介護福祉士は利用者のプライバシーを保護する立場でなければなりません。一度知った個人情報はその職を離れた後も擁護する義務を負います。

 

(4)介護福祉士は、記録の保管と廃棄について、利用者の秘密が漏れないように慎重に管理・対応します。

 →個人ファイルなどは机上に出しっぱなしにせず、鍵付き書庫に保管します。パソコンはパスワード管理し、ファックスやメールも個人名がわからないようにする工夫が必要です。

 

≪演習≫

 利用者や家族のプライバシー保護は介護職の職業倫理の中でも重要なことです。介護現場でプライバシーの侵害に当たる行為として、どんな行為があるか、些細なことでも良いので、みんなで上げて話し合いましょう。

 

 

4 総合的サービスの提供と積極的な連携、協力

 

(1)介護福祉士は、利用者の生活を支えることに対して最善を尽くすことを共通の価値として、他の介護福祉士及び保健医療福祉関係者と協働します。

 →福祉医療は専門職によるチームで提供されるのが原則です。家族介護と社会的介護の大きな違いはそこにあります。

 

(2)介護福祉士は、利用者や地域社会の福祉向上のため、他の専門職や他機関と協働し、相互の創意、工夫、努力によって、より質の高いサービスを提供するように努めます。

 →チームケアは、多くの人の目で一人のご利用者を見て考えることです。一人では見えなかったことが見えてきます。独りよがりの仕事は利用者にとって不利益になる場合があります。

 

(3)介護福祉士は、他職種との円滑な連携を図るために、情報を共有します。

 →カンファレンスや介護記録は情報共有のための大事な作業です。情報が共有されないケアはチームケアとは言えません。

 

≪演習≫

 末期がんのターミナルケアを例に、必要な専門職をリストアップして、それぞれの役割をみんなで上げてみましょう。特に介護職の役割について重点的に話し合います。また、現場での情報共有の方法としてどのような方法があるかあげてみましょう。

 

 

5 利用者ニーズの代弁

 

(1)介護福祉士は、利用者が望む福祉サービスを適切に受けられるように権利を擁護し、ニーズを代弁していきます。

 →例えば認知症の人は自らの本当のニーズを適切に主張できません。そうした隠れたニーズをしっかり把握しサービス提供することが大切です。

 

(2)介護福祉士は、社会にみられる不正義の改善と利用者の問題解決のために、利用者や他の専門職と連帯し、専門的な視点と効果的な方法により社会に働きかけます。

 →詐欺や虐待行為など、利用者に対する不正義から利用者を守るとともに、利用者の周囲に見守りなどの必要性を訴えていくことも、介護の仕事です。

 

≪演習≫

 社会的弱者である高齢者や障害者が晒されやすい不利益について、考えうることを上げてみましょう。そうした不利益からどうしたら利用者を守れるか、介護職としてできることを上げてみましょう。

 

 

6 地域福祉の推進

 

(1)介護福祉士は、地域の社会資源を把握し、利用者がより多くの選択肢の中から支援内容を選ぶことができるよう努力し、新たな社会資源の開発に努めます。

 →社会資源とは①人的資源(本人・家族・近隣・ボランティア・専門職など)、②サービス(プログラム)、③情報、④空間(居場所・拠点)、⑤財源、⑥制度、⑦ネットワークなどです。

 

(2)介護福祉士は、社会福祉実践に及ぼす社会施策や福祉計画の影響を認識し、地域住民と連携し、地域福祉の推進に積極的に参加します。

 →区市町村や地域包括センターなどの行政組織へ、地域福祉の情報を積極的に発信し、地域の福祉行政の一翼を担うことも介護職の役割です。

 

(3)介護福祉士は、利用者ニーズを満たすために、係わる地域の介護力の増進に努めます。

 →住民向けや介護職向けの研修を実施したり、介護福祉に関する情報を発信する等、地域の介護力が向上するような取り組みをすることが求められます。

 

≪演習≫

 あなたの周りの、高齢者や障害者にとって有用な社会資源はどのようなものがありますか?いろいろ上げてみましょう。さらにどのような社会資源が増えれば地域の介護力向上につながるか話し合いましょう。

 

 

 

7 後継者の育成

 

(1)介護福祉士は、常に専門的知識・技術の向上に励み、次世代を担う後進の人材の良き手本となり公正で誠実な態度で育成に努めます。

 →介護福祉士は現場で働きながら、介護職員初任者研修や実務者研修の講師を務めることが推奨されます。職場研修についても同様です。

 

(2)介護福祉士は、職場のマネジメント能力も担い、より良い職場環境作りに努め、働きがいの向上に努めます。

 →介護職員の処遇を改善し向上させていく努力が求められます。一人一人がより良い職場環境作りに関与していかなければなりません。

 

≪演習≫

 介護福祉にかかわる知識や・技術の向上のために、あなたやあなたの職場ではどのような努力や工夫をしていますか。また、より良い職場環境づくりのためにどのような努力や工夫をしていますか。いろいろ上げてみましょう。

 

 

介護職員のためのコンプライアンス研修 その1  

 

この研修資料は介護職員がコンプライアンスとは何かを理解するとともに、介護職員にとっての職業倫理とは何かを「日本介護福祉士会倫理基準(行動規範)」に基づき、具体的に理解できるようにまとめてあります。職場におけるコンプライアンス・職業倫理研修の材料としてご活用ください。

 

Ⅰ コンプライアンス(法令順守)と職業倫理

 

1 コンプライアンス(法令順守)とは → 「法令=ルール」を守ること

 

≪法令≫とは (介護にかかわるもの)

(1)憲法

(2)法律=国の法令(介護保険法など)

(3)地方自治体の条例・規則 =各種基準(人員・運営・算定基準など)

(4)各種解釈通知など

 

★背いた場合のペナルティー=刑罰を見れば、重大さが明らか

 

(1)憲法 → 逮捕・刑事罰(基本的人権の尊重 = 虐待や人権侵害)

(2)法律(介護保険法など) → 逮捕・刑事罰・指定取り消し

(3)条例・規則 → 指定取り消し・報酬返還・介護給付の過誤調整・是正報告の提出

(4)各種解釈通知 → 介護給付の過誤調整・是正報告の提出

 

 

2 職業倫理とは

 

「倫理」→ 人として守り行うべき道。善悪・正邪の判断において普遍的な規準となるもの。

道徳。モラル。(国語辞典)

 

簡単に言うと → 「やるべきこと」と「やってはいけないこと」

 

「職業倫理」とは → その職業の人が(プロとして)「やるべきこと」と「やってはいけないこと」

 

プロフェッショナルな職業の人はすべて「職業倫理」を持っている(医師・弁護士・看護師・介

護福祉士 などなど)

 

≪演習≫

  介護のプロとして「やるべきこと」と「やってはいけないこと」の例を全員で沢山上げてみよう

 

 

Ⅱ 介護福祉士としての職業倫理

日本介護福祉士会倫理基準より

 

1 利用者本位、自立支援のための仕事をする

(1)介護福祉士は、利用者をいかなる理由においても差別せず、人としての尊厳を大切にし、利用者本位であることを意識しながら、心豊かな暮らしと老後が送れるよう介護福祉サービスを提供します。

 →どのような利用者であれ基本的人権を尊重します。最大限その人の希望を尊重する努力をします。

 

(2)介護福祉士は、利用者が自己決定できるように、利用者の状態に合わせた適切な方法で情報提供を行います。

 →高齢者や障害者は情報を積極的に取得することができません。できるだけたくさんの選択肢を提供できるように努力します。

 

(3)介護福祉士は、自らの価値観に偏ることなく、利用者の自己決定を尊重します。

 →介護福祉士が勝手に判断してはいけません。本人が何を望んでいるのかをしっかり理解したうえで仕事をします。

 

(4)介護福祉士は、利用者の心身の状況を的確に把握し、根拠に基づいた介護福祉サービスを提供して、利用者の自立を支援します。

 →自立支援は適切なアセスメントを通じて提供しなければなりません。アセスメントの無い介護は根拠のないサービスであり、介護福祉サービスとは言えません。

 

≪演習≫

  要介護5で寝たきり、意識が不鮮明でコミュニケーションができない状況の利用者にとって利用者本位、自立支援のために何ができるかみんなで話し合おう

 

(ヒント:その人は何を望んでいるのか?家族は何を望んでいるのか?想像力を働かせて考える)

 

2 専門的サービスの提供

(1)介護福祉士は、利用者の生活の質の向上を図るため、的確な判断力と深い洞察力を養い、福祉理念に基づいた専門的サービスの提供に努めます。

 →福祉理念とは「ノーマライゼーション」や「インクルージョン」、「憲法25条(健康で文化的な最低限度の生活の保障=生存権)」、「自立支援」などで、これらの理念をしっかり理解している必要があります。

 

(2)介護福祉士は、常に専門職であることを自覚し、質の高い介護を提供するために向上心を持ち、専門的知識・技術の研鑚に励みます。

 →プロフェッショナル(専門職)とは継続的な自己研鑽により、知識・技術レベルを向上させ続ける人です(どんな職業でも)。

 

(3)介護福祉士は、利用者を一人の生活者として受けとめ、豊かな感性を以て全面的に理解し、受容し、専門職として支援します。

 →どのような利用者でも(例えば人格障害などで社会適応ができない人でも)、その存在を尊重し、受容できる許容力が必要です。豊かな感性とは難しいケースの人を支援する仕事でも、楽しめるような感性です。

 

(4)介護福祉士は、より良い介護を提供するために振り返り、質の向上に努めます。

 →振り返りとはモニタリング=評価のことです。アセスメント→介護計画→実施→評価のサイクルをマネジメントサイクルと呼び、介護の質を向上させる仕組みとして重要です。

 

(5)介護福祉士は、自らの提供した介護について専門職として責任を負います。

 →責任を負うとは、悪い結果が出た場合はきちんと評価をし、再度アセスメントを行い、良い結果が出るよう努力をすることです。

 

(6)介護福祉士は、専門的サービスを提供するにあたり、自身の健康管理に努めます。

 →腰痛や精神疾患などにより現場を離れる介護職が沢山います。職業人として健全な心身を保つための日々の努力(運動・栄養管理・睡眠・ストレス解消など)は欠かせません。

 

≪演習≫

  介護のプロとして医療職(医師・看護師・PTなど)にはできないこととして、どんなことがあるか話し合おう

 

(ヒント:利用者のQOL向上を考えた時、医療職の限界は何であり、介護職は何ができるか)

 

 

次回その2に続く

中小企業による介護事業参入ガイド その3-金属加工からの参入で月商300万円以上

◆工業団地の中の介護事業所

 

筆者がお世話させていただいている株式会社ナックは神奈川県綾瀬市で金属加工を営んでいる製造業の企業です。

http://www.kk-nac.co.jp/

 

近隣は流通倉庫や工場が並ぶ工業団地。介護事業所があるようなイメージはありません。

しかし、2014年に開業以来、3年たらずで、月の売り上げが300万円を超える訪問介護事業所に成長しました。

事業所名は「さんしゃいんヘルパーセンター」。訪問介護事業と障害者居宅介護事業を行っています。

http://sunshine-helper.com/

 

さんしゃいんヘルパーセンターとしての従業員は常勤非常勤併せて20名程度ですが、製造部門も合わせると、40名程度。社員の数名は介護部門と製造部門を兼務しています。

 

 

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外観は金属加工会社です

 

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事務所は共用

 

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事務所の隣には加工済みのアルミホイールが並ぶ

 

◆最小限の資源投資で継続的な事業化に成功

 

円高などによる製造業不況の中、株式会社ナックの中島社長は、社会に貢献できる事業として、今後の成長が期待できる介護事業の参入を決めました。

 

自分の会社でどんな介護事業ができるのか、筆者にもご相談頂きました。ナックが参入する介護事業として筆者が提案したのは、訪問介護事業・障害者居宅サービス事業でした。理由は以下の通りです。

 

1 最小の投資で事業化できる

事業用地などがあれば、老人ホームなどの経営が可能かもしれませんが、そうした資源はありません。最小の事業投資で実現できる介護事業としては訪問介護事業が最適です。

 

2 事務所などの施設設備を製造業と共用できる

事務所は製造部門と共用できます。椅子や机も同様です。相談室は社長室を活用しました。

 

3 人材を製造業とも共用できる

事務所は同じですので、訪問介護員が金属加工の職員と兼務できます。事務職員も同様です。最小の人材投資で事業を効率的に進めることができます。

 

金属加工の仕事は受注により業務量が大きく変わります。仕事が無いときは工場が休業になってしまう場合もあります。人材の有効活用はこうした製造業にとっては大きな課題でしょう。

 

自動車業界などの製造業では、製造部門の契約職員や派遣職員の問題が近年クローズアップされました。繁忙期には有期契約職員を雇用し、仕事の無い時期には解除することで効率的に人材を活用する方法です。リーマンショック以降の就職氷河期には大きな問題となりました。

 

介護事業は、今のところ正社員を望む職員は基本的に正社員化できる事業です。介護と製造業をミックスすることで安定的な就労環境を実現できます。

 

4 障害者居宅サービス事業も同時に実施できる

介護保険による訪問介護事業は同時に、障害者向けの訪問介護事業を経営できます。障害者向けの居宅サービスは、近年法的な整備がされ利用率が大きく伸びており、収益の期待できる事業でした。

 

5 訪問介護・障害者居宅サービス事業はサービス供給不足である

訪問介護事業者の多くが人材不足などにより、サービス供給が需要に追い付いていないと感じています。特に障害者居宅サービスは利用申し込みを断っている事業者も多く、供給が追い付いていません。従って現在、必ず仕事のある事業になっています。

 

 

◆社長自ら資格を取得

 

介護事業に参入するにあたり、社長をはじめ主要な職員がまず介護職員初任者研修を取得しました。それにより、介護とは何かということの基本を学びました。

 

介護事業に参入するのであれば、やはり経営者は介護とは何かを学ぶ必要があります。また、訪問介護員は介護職員初任者研修修了者でなければなりませんので、この資格は必須です。

 

ちなみに、東京都では会社の社長でも無料で資格のとれる、資格取得支援事業があります。近年、介護人材不足に対応した行政の支援事業が多く実施されていますので、こうした事業を活用することをお勧めします。

http://www.tcsw.tvac.or.jp/jinzai/kaigojinzaikakuho.html

 

ただし、訪問介護事業所に配置しなければならないサービス提供責任者は、介護職員実務者研修の修了者、もしくは介護福祉士でなければなりません。介護職員実務者研修は現状では取得に6か月程度必要です。

 

もし、既存の職員の中に介護現場経験がある職員がいない場合は、新規に現場経験のあるサービス提供責任者を採用する方がベターでしょう。

 

その際、できるだけ優秀なサービス提供責任者を採用するために、周辺の相場より良い待遇で求人を出すことが重要です。

 

ナックでも新規にサービス提供責任者を採用して、訪問介護事業をスタートさせました。

 

 

◆成長の秘密は人材確保

 

訪問介護事業では職員採用がそのまま収益につながる事業です。適切な業務を行っている事業所であれば、人がいる分、必ず仕事が入ってくるのです(それだけサービス供給が不足している)。さんしゃいんヘルパーセンターはこれにより、毎年順調に利用者数を伸ばしていきました。

 

訪問介護事業は夜勤の無い介護事業の中では最も給与水準の高い事業です。国から支給される介護職員処遇改善加算でも、最も加算額が多く、時間当たりの介護報酬も高くなっています。

 

さんしゃいんヘルパーセンターでは周辺の訪問介護事業所よりも高めの報酬設定と好待遇により職員採用を進め、介護人材難の中、新たに10名以上の職員の採用に成功しています。また、都心部では難しい自動車での訪問が可能であることが地域的なメリットです。さらに職員に余裕があるということは、休みも比較的取りやすいことにつながりました。

 

こうした余裕のある経営ができるのも、製造部門との経営資源の共有化による低コストな事業所運営にあると考えます。

 

 

 

 

◆質の高いサービス提供により収益増

 

訪問介護事業では質に高いサービスを提供すると、さらに介護報酬を加算できるしくみがあります。特定事業所加算という報酬で、さんしゃいんヘルパーセンターでは2番目に高いレベルの特定事業所加算Ⅱを取得して収益の向上を図っています。

 

質の高いサービスの実現は当然ながら、地域からの信頼につながります。地域から信頼される事業所には仕事が集まってきます。

 

ここで重要なのは質の高いサービスを提供するには人的な余裕が必要だということです、人的にひっ迫している事業所ではサービス提供責任者などが多忙で、サービス管理がおろそかになりがちです。

具体的には訪問スタッフの相談にのれなくなったりすることで、スタッフの不満が大きくなり、離職率が高くなります。そのため、さらにサービスの質が低下する、悪循環が発生します。

さんしゃいんヘルパーセンターではこれを好循環にするために以下のようなサイクルを意識して事業運営を行っています。
 

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介護事業成長させる「好循環」のサイクル

 

 
最初の立ち上げ時にできるだけ投資を抑えたことで、良い循環に持ち込めたのかもしれません。

さらに人的に余裕のあるレベルの高いサービスの提供は、スタッフの労働意欲の向上にもつながります。

 

今後の課題は、非常勤のパートさんを活用することで、さらに収益率の高い事業にしていくことです。

 

 

 

 

 

中小企業による介護事業参入ガイド その2 - 介護報酬改定の逆風

 

 

◆これまでの介護保険制度の変遷

 

日本の医療・介護・年金などの社会保障制度は財政的にひっ迫していることは、この業界の方でなくてもご存知のでしょう。

 

各方面で財源を節約する制度改正が毎年のように行われています。介護保険制度も概ね3年に一度大きな改正があり、前回の改正は 2015年(翌年から実施)でした。これまでの改正の主な経緯を見ると以下のようになります。なお、改正の実施はすべて翌年からになります。

 

(1)2005年改正

●「予防重視型システムへの転換」

・要支援者への「予防給付」を創設

・要支援者のケアマネジメントを「地域包括支援センター」で実施

・区市町村による介護予防事業(地域支援事業)を実施

・特養等の食費・居住費、自己負担化

・地域密着型サービスの創設 など

 

(2)2008年改正

●「法令遵守等の業務管理体制の整備」(2007年のコムスン事件を受けて)

・事業者の立入検査制度の強化

・不正事業者の処分逃れ対策防止 など

 

(3)2011年改正

●「地域包括ケアシステムの推進」

・医療と介護の連携の強化(介護職員等による痰の吸引等の実施など)

・サービス付き高齢者向け住宅の供給を促進

・地域密着型サービスの拡大推進 など

 

(4)2014年改正

●「地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化」

・予防給付を区市町村の地域支援事業に移行

・特別養護老人ホームの入居基準、要介護3以上へ

・一定以上の所得のある利用者の自己負担を2割へ引上げ など

 

(5)2018年改正(予想)

●「介護保険費のさらなる節約」

・自己負担枠の拡大(福祉用具など)

・区市町村の役割強化(地域支援事業の拡大)

・区市町村間の競争制導入

 

各年の改正には介護給付費の改正がセットになっており、介護職員の処遇改善対策が毎年強化されています。これまでの改正の流れをまとめると、国の政策の方向性は以下のようになります。

 

●介護保険制度の流れ

①介護保険財源の節約(お金のかからない在宅サービスを優遇)

②介護サービスの質の向上(要介護度を悪化させないサービスを優遇)

③区市町村の役割強化(競争の導入)

 

 

◆流れを見失うと介護事業は失敗する

 

前の回でご紹介した、東京商工リサーチによる2016年1-9月の「老人福祉・介護事業」の調査によると、この時期の介護事業者の倒産理由は以下のようになっています。

 

(1)販売不振51件(前年比2倍増)

(2)事業上の失敗10件(おそらくは人材の流失による事業継続困難)

(3)設備投資過大5件(デイサービスなどの施設開設の際の投資過大)

 

それぞれの原因の中で目立つのは、本業不振のため異業種からの参入失敗(6件)や過小資本でのFC加盟(3件)など、事前準備や事業計画が甘い経営が目立っています。

 

筆者が想像するに、事業を閉じた多くの業者は前述の介護保険制度の流れが見えていなかったのではないかと考えています。

 

 

◆消費者ニーズではなく介護ニーズを見極める

 

一般的な商行為と異なり、介護業界では「消費者ニーズ」ではなく「介護ニーズ」を見極めなければなりません。

 

前述のお泊りデイサービスの例を見てみましょう。

 

お泊りデイサービスは民家型のデイサービスに自費で宿泊ができるサービスで、認知症の要介護の高齢者の家族を中心に、消費者ニーズが高いサービスでした。

 

具体的には、認知症の高齢者の家族の介護負担が大きく、自宅同居が難しくなり、特養は一杯で入居できず、有料老人ホームやグループホームは値段が高くて利用できないケースなどがあげられます。

 

定員10人の小規模事業所でも、毎日宿泊する利用者が3人いれば介護報酬も含めて100万円以上の売り上げが上がり黒字化できるために、FC加盟も含め新規に参入する事業者が多かったサービスです。

 

月数万円の自己負担をすれば、長期間の利用が可能で、高齢者を預けたい家族に人気がありました。その意味では消費者ニーズにマッチしたサービスと言えます。

 

しかし、ここにおける介護ニーズは消費者ニーズとは異なります。具体的な介護ニーズを上げると以下のようになります。

①認知症高齢者に必要なのは、認知症を悪化させず、安心安全に生活できる環境である

②認知症高齢者本人と家族の関係に問題がありそれを解消する必要がある

③行政として防火対策も含め介護の質を保証したいニーズがある

 

お泊りデイサービスは上記のような介護ニーズを解消する仕事をするわけではありません。介護保険制度はこのような介護ニーズを解消する役割を、第一にケアマネージャーに課しています。

 

ケアマネージャーは上記の介護ニーズに蓋をして、消費者ニーズを優先し、安易にお泊りデイサービスを利用するべきではないのです。介護ニーズを叶えるために、一時的にお泊りデイサービスを利用することは良いとしても、継続的に利用することは問題があります。それで介護ニーズが解消されたとは言えないということです。

 

私のお付き合いしている在宅介護事業者のケアマネ事務所では約200名の在宅介護のご利用者をお世話していますが、ここ数年、デイサービスのお泊りを利用しているご利用者は居ません。

 

多くのケアマネージャーは現在、安易なお泊りデイサービスの利用で介護ニーズがかなえられるとは考えていません。同様のサービスを提供する小規模多機能居宅介護の広がりもあり、本サービスは次第に利用者を減らしていきました。

 

 

◆機能特化型デイサービスの苦戦

 

2014年の改正で通所介護の基本報酬が大きく引き下げとなりました。特に、予防給付の引き下げが大きくこれにより倒産に追い込まれた事業者も多いようです。

 

筆者はこの改正により、リハビリ(機能訓練)や入浴専門のいわゆる機能特化型のデイサービスが大きな影響を受けたと考えています。

 

一方で認知症高齢者の積極的な受入れを評価する認知症加算や、中重度者の受入れを評価する中重度者ケア体制加算、個別機能訓練加算などが増額されています。

 

国がこのような介護報酬改定を行った理由もやはり介護ニーズとのマッチングにあると思います。

 

介護ニーズに照らしてデイサービスの役割は概ね以下のように定義できます。

①体力・認知機能低下の予防による要介護度悪化防止

②レスパイトケア(家族の介護負担軽減)

③社会的な孤立の解消や健全な精神活動の促進

 

これらの役割をまとめると「在宅生活を維持するためのサービス提供」と定義しても良いでしょう。

デイサービスでは介護ニーズを叶えるために、機能訓練・食事の提供・健康管理・入浴・口腔ケア・利用者同士の会話・レクリエーション・生きがいづくりなどのサービスを提供します。

 

機能特化型のデイサービスでは、機能訓練や入浴など限定的なサービスのみの提供になるため、デイサービスに期待されている介護ニーズの一部しか解消していないことになります。

 

国としてはデイサービスに上記の介護ニーズをできるだけ多く解消することを望んでいます。逆に言えば多くの高齢者には上記のような介護ニーズがあるにもかかわらず、一部しか解消しないと思われるサービスの報酬を減らしたわけです。

 

また、倒産理由にあるように、リハビリ系デイサービスはトレーニングマシンなどの設備投資が過大になる傾向があります。さらに、お風呂が無い事業所が多いため、入浴ニーズがない軽度の高齢者が多く利用することになりますので、予防給付が減らされたことが大打撃となっています。

 

機能訓練が不要な要介護高齢者など居ませんので、デイサービスを開業するならリハビリ系のデイサービスだという風潮が広がったようで、このサービスは乱立状態にあります。そのため過当競争に陥っている状況も見て取れます。

 

なぜか経営者の中には、オリジナルなビジネスモデルを多地域にチェーン展開することが良いビジネスだという考えがあるようです。しかし、どんなに革新的なサービスでも上述の介護ニーズを解消する役割が無ければ、介護事業としては失敗します。

 

 

次回は人材不足で苦戦する訪問介護に製造業から参入し成功している会社の事例をご紹介します。

 

 

 

中小企業による介護事業参入ガイド その1

◆介護事業への参入にはもうメリットは無い?

 

東京商工リサーチによると2016年1-9月の「老人福祉・介護事業」倒産が累計77件に達し、過去最高となったようです。

http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20161007_01.html

 

同時期の日本の企業全体の倒産件数は4,216件ですので、介護事業者の倒産はうち1.8%にあたります。ただし、4,216件は負債総額1千万円以上の倒産件数ですので、零細事業者を含めると、実際の企業倒産件数は、はるかに多いと考えられます。

http://www.tsr-net.co.jp/news/status/half/2016_1st_02.html

 

こうした統計数から、介護事業が他の業種に比べ倒産しやすいということは言えません。筆者は倒産しにくい業種であると考えています。

 

もちろん、この時期、日本の全体の企業倒産件数が減っているのに、介護事業だけは増えているということだけは言えます。

 

日本の企業全体としては、円安によって製造業を中心に収益が向上し、倒産件数の低減につながったと考えられますが、介護事業には逆風が吹いていたということです。

 

主な逆風は二つあります。

 

1 介護報酬の改定

2 人手不足

 

この二つの逆風が、倒産件数が過去最高になった原因と考えている人が多いようですが、筆者は実際はそうではないと考えています。

 

逆風についての解説はのちほどするとして、こうした、経営環境の悪化により、もう介護事業への参入メリットは無くなったと考える人もいらっしゃるようですが、筆者はそうは思いません。

 

 

◆介護事業者の数が増えたから倒産数も増えただけ

 

ご存知のように現状の日本の経済成長率は1%前後です。

一方、介護給付は、2014年度は10.0兆円であり、2025年度には21兆円に達すると推計されています。

これは年間、10%の伸び率です。つまり、日本の他の産業に比べ10倍の成長率と言えます。

 

先に挙げた介護企業の倒産数も、実は企業数自体が増えたことによる。増加と考えられます。分母が増えれば分子が増えるのは当然です。実は倒産率自体は減っているのです。

 

介護事業の倒産数は前年同期76件から77件に増えましたが、たった1.3%の伸びです。産業自体の成長率に比べ倒産数が極めて少ないということです。

 

介護事業は介護を必要としている人がいれば、国の責任でサービス提供体制を確保しなければならない公益事業です。介護人口の増加に対応してサービス提供主体である介護事業者を増やさなければ、我が国の社会福祉制度が失敗したことになります。

 

結果、国は否が応でも介護事業者の増加を保証する義務があります

 

 

◆大儲けを考えている人は、参入は避けた方が良い?

 

介護保険制度開始時、快進撃を続けたコムスン。少し前ですと、有料老人ホームを次から次へと建設し、高い収益性を確保して儲けた企業。また、お泊りデイサービスのフランチャイズ化で急成長した企業もありました。

 

しかし、この業界の成長神話のような企業は少しずつ姿を消していったようです。原因の多くは国の介入によるものです。

 

先日、公正取引委員会が「介護事業に競争性を」という提言をしました。

http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/sep/160905_1.files/02.pdf

公正取引委員会としては健全な競争を介護業界に促し、産業全体をより成長させ、国民に質の高い介護サービスを提供できるようにしたい、というのが提言の目的でしょう。

 

一方で、厚生労働省としては競争性の導入によるサービスの質の低下を危惧しています。先に述べた急成長した介護企業はその点で、厚生労働省のお眼鏡にかなわなかったのです。そのためこの業界から退場していきました。

 

コムスンは人件費を低減するために必要な人材を配置しませんでした。これはサービスの低下につながります。

 

有料老人ホームは人手不足で仕事ができなくなりました。また、コストのかかる職員研修などを怠って事件事故が多発しました。

 

お泊りデイサービスは劣悪な宿泊環境や防災対策を怠っていました。

これらすべて、サービスの質の低下です。

 

厚生労働省は介護給付にかかわるサービスの質について非常に敏感です。サービスの質の低下につながる競争性は決して認めません。

 

 

 

◆急成長したが退場した企業に学ぶこと

 

一般的に、急成長して大儲けする企業は、他社がやらない革新的なサービスをいち早く開発し、大規模に提供することで競争に勝ってきた企業です。

 

コムスンは借金をし、事業所数を急速に増やし、シェアを確保しようとしました。それにより人員基準に違反した事業所が沢山出てきてしまい、おとり潰しになってしまいました。

 

介護保険制度導入期に一気にシェア拡大を図ったことが裏目に出た感じです。また、介護事業をフランチャイズ事業化して儲けようと思うのは問題があります。

(参照)「失敗しない介護・福祉起業」http://carebizsup.com/?page_id=264

 

最近になって有料老人ホームが苦戦しているのは、行政が包括介護報酬を払いたくないということと、サービス付き高齢者住宅の拡大です。

 

有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)は利用者一人におおよそ月20万円程度の介護保険給付が必要になります。対して自宅でケアした場合、せいぜい10~15万円ぐらいの介護給付で賄えると考えられます。

 

サービス付き高齢者住宅の多くは簡単に言えば高齢者用ワンルームマンションです。バリアフリー化やナースコールの設備はありますが、一般の単身者用ワンルームマンションと大した違いはありません。

 

サ高住に住んで訪問介護などのケアを受けることは、自宅でケアを受けることであり、介護給付費の節約のために、国は補助金を出すなどして包括サービス型の老人ホームよりもこちらを優遇しています。

 

実際、有料老人ホームで成功してきた企業も、サービス付き高齢者住宅事業にシフトしています。

 

また、包括サービス型の老人ホームは常駐スタッフにより介護サービスを提供します。一方、サ高住は訪問介護や看護、通所介護によりサービスを提供します。

 

業務の管理体制から言って、同じ料金ならば後者のサービスの方が、質は高いと国は考えているかもしれません。ここでもサービスの質の保証というモチベーションが国に働いていると思います。

 

お泊りデイサービスは介護保険制度ではカバーできない、介護難民的な高齢者にサービスを提供できる革新的なビジネスモデルとして、一時もてはやされました。

 

一般の住宅を改造すれば手軽にサービスを提供できるので、参入する小規模事業者が沢山いましたが、宿泊場所が劣悪であったり、スタッフの質が問題になったり、防火対策が不十分であることなどにより、問題視する声が広がりました。

また、同じサービスを提供できる小規模多機能居宅介護などが広がり、現在は多くが撤退をしています。

 

どんなに革新的なサービスでもサービスの質の保証ができないと、この業界では撤退を余儀なくされます。国は制度を修正して、必ずそのような介入を行ってきます。

 

逆に言えば、サービスの質の向上につながる革新性や競争力が必要なのですが、固定給付の制度のため、なかなかそれが難しいのがこの業界の現実です。

 

道行は長いですが、一つ一つの事業所がいかに地域に根差して信頼を獲得していくかが、事業を確実に成長させていく近道だと筆者は考えています。優良な介護企業の多くはそれを実践している企業です。

 

 

次回は、前述の逆風についてのお話をしたいと思います。