高齢者の住宅と介護—「不安」という問題 最終回

◆空き家対策と高齢者住宅

 

http://www.sankei.com/politics/news/160307/plt1603070007-n1.html

今年に入って、国土交通省は増え続ける空き家を利用した低所得者向け住宅の整備に補助金の検討を始めました。

空き家の一軒家をリフォームしてバリアフリー化すれば、低所得の高齢者向け住宅として活用できるのでしょうか?

それは無届介護ハウスとどのような違いがあるのでしょうか?

 

前述の高齢者向け優良住宅は古くなったアパートなどをリフォームして高齢者向けの住宅にしていますが、都内では補助金なしで8万円程度です。8万円では多くの生活保護の人は入居できませんので、この政策により供給される住宅の家賃は生活保護で利用できる5万円程度でなければなりません。

 

すると単純計算で、最低でも一月3万円の補助金が必要になるのですが、古くなったアパートのリフォームとは違い、一軒家に複数の高齢者を入居させるようなリフォームにかかるコストは、はるかに高いのではないかと思えます。

 

だとしたら、一軒家を平地の戻しバリアフリーのアパートを建てた方が耐用年数などからの面で有効でしょう。そこに補助金を出してあげれば、不動産事業として十分に成り立つと思いますが、なかなかそうもいきません。

 

◆都市部の高齢者は介護が必要になると郊外へ転出しなければならない

 

都心部では軽費老人ホームや安価なサービス付き高齢者住宅が足りません。

これは、空き家などの土地の再利用システムが全く働いていないことが大きな原因です。空き家は沢山あるのに虫食い的にあるために、必要な社会資源に転用できないのです。

 

そのため、都市部の高齢者は、介護が必要になり、高齢者向けの住宅に住み替えたくても、地域に手ごろな住宅を見つけることができません。家賃の安い郊外や地方の住宅に引っ越しをせざるを得ない状況です。

これでは住み慣れた地域で介護を受ける、地域包括ケアが機能しないことになります。

 

総務省の調査では高齢者が東京都から家賃の安い郊外へ移転する状況が見て取れます。

http://www.stat.go.jp/data/topics/topi972.htm

ただでさえ団塊の世代がドーナッツ化しているのに、大都市の周りに高齢者のドーナッツ化が進行します。これでは、医療費や介護費の面で地域間に大きな不均衡が生じるでしょう。

 

しかし、都市部には億ションやホテルが立つのになぜ高齢者向けの住宅はできないのでしょう。答えは簡単で、収益率が低いからです。要は儲からないから。

免税や補助金によるバックアップはあっても、そろばん勘定の段階で高齢者住宅のプランは弾かれてしまっているようです。

収支が立つのは土地代の安い郊外のみのようです。このままでは東京は高齢者が住めない場所になりそうです。

 

◆都心部の虫食い的な未利用地の福祉事業への利用には法的措置が必要

 

都心部で一軒の空き家を平地に戻しただけでは、優良な高齢向けの共同住宅はとても狭くて建てられないでしょう。何件かをまとめて平地にする必要があります。現在、その際の地権者との交渉や調整は事業者がやらなくてはなりません。

 

行政のサポートがあれば事業者もやる気を出すかもしれませんが、何もサポートが無く事業者がメリットを感じなければ誰も手を出しません。

 

「空家等対策の推進に関する特別措置法」http://www.mlit.go.jp/common/001080534.pdfなどの運用により、事業者が地権者間の調整が容易にできるような、法的な後ろ盾をすることができないかと思います。

 

◆都心部で静にスラム化する声なき低所得高齢者

 

都心部の生活保護の独居高齢者は、ほとんどが老朽化した賃貸アパートなどで生活をしています。持ち家がある人でも介護が必要な人にとっては、劣悪な住宅環境で生活している人も少なくありません。

 

住み慣れた家で老後を過ごすことが理想とされていますが、転倒リスクが高かったり家事などの生活手段が成り立たない住宅では、介護保険法制度が理想とする自立した生活を営むことは不可能でしょう。

 

「社会保障と税の一体改革」の中で高齢者の生活保護制度が年金に一本化できるのは相当先のようです。

http://www.nikkei.com/article/DGXLZO03051550R00C16A6EA1000/

静かに進むスラムが、我慢強く声を上げない日本の高齢者に甘んじているわが国の恥部にならないようにしたいものです。

 

そして、その人たちに向けたサービスを提供している介護職がもっとも多くそれを目撃しているはずです。

だからこそ、介護に携わる人間が、無届の介護ハウスをやらざるを得なくなるのです。

 

現在、都内で国民年金などの自費でグループホームに入れない低年金高齢者はおそらく6割から7割程度に達するのではないでしょうか。誰かが、こうした低所得高齢者向けに安心して生活できる場所を提供しなければなりません。

我が国の年金制度と高齢者住宅制度の失敗が、無届介護ハウスという形になっていることは明らかです。

 

 

◆一生住み続けられる住宅が欲しい

 

ユニバーサルデザイン住宅という発想があります。高齢者向けとか障害者向け住宅というカテゴライズではなく、どのような人でも必要に応じてカスタマイズして、死ぬまで住み続けられるような住宅デザインのことを言います。

http://sumai.panasonic.jp/sumai_create/setsubi/200502/

 

その際、手すりの設置などのカスタマイズは安価にできなければなりません。高額なリフォーム費用が必要なものはユニバーサルデザインとは言えません。

 

介護の必要になった高齢者は住宅事情などにより地域社会から退場しなければならないのが、都市部での現状です。

しかし、すべての住宅が最初からユニバーサルデザインにより簡単にバリアフリー化できるような設計になっていれば、アパートの一人暮らしでも死ぬまで地域に住み続けることが可能になるでしょう。

 

介護が必要になっても一生住み続けられるマンションやアパートを販売するという発想は今のところあまり見受けられません。一部、三世代住宅など高級注文住宅にはユニバーサルデザインが採用され始めています。しかし、都市部の低所得者向けの住宅ではまったくそんな発想はないでしょう。

 

多様な人々が共住できる都市はユニバーサルデザインでなければならないという学術的な思想は昔からありますが、そのような発想の民間の共同住宅は今のところ商品価値がないのでしょうか?

筆者はそうは思いません。

 

OECDは2050年までに人類の70%が都市部に住むと予想しています。

https://www.oecd.org/env/indicators-modelling-outlooks/49884270.pdf

このままでは東京は、「下流老人のスラム化」が進み、多様性のないストレスフルな都市になってしまいそうです。

 

 

 

 

 

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